そして、次回くらいから三日月の出番が増えると思います。
“ソレ”は彼の人生に置いて出会ったこともないような大きな障害であった。
「…………くそっ」
オルガ・イツカにとって敵とは、自分たちに害を加えてくる大人たちであり、それは戦争をしていた敵軍も自軍も関係がなかった。
「…………どうして」
だが、今の敵はそういった倒せば死ぬような簡単な存在ではない。彼が対応すればするほど、足掻けば足掻くほど、その質も量も跳ね上げながら戻ってくる。
「…………何で無くならねぇ」
最初は気合を入れて挑んでいた。これで皆が――――血は繋がっていないが、それ以上に根底で通じ合っている家族が楽に生きられるようになると。
だが、そのときの決意が鈍ったわけではないが、確実に彼の心はすり減らされていく。
彼が項垂れそうになったその時、その一室のドアが開けられる。
「ユージン」
そこに立っていたのは、今は自分の補佐のような事をしてくれているユージン・セブンスタークであった。
彼の登場に嬉しそうな表情を浮かべるオルガ。何故なら彼は援軍の為に来てくれたのだと思ったからだ。
だが、その期待は一瞬で裏切られることになる。
「オルガ、報告だ。一先ず日本組とアメリカ組の連中はタービンズがきっちり先方に届けてくれた。そんで、IS学園の方から物資の搬入をもう少し早くできねぇかって催促が来てる。あと、これは三日月からの要望もか。だから、リストのチェックと内容の確認書類を置いとくから目を通しておいてくれ」
「…………ちくしょう」
オルガの作業用デスクの半分を占める障害――――というよりも、書類の山が一山増えた。その光景に弱々しく、オルガは口内で噛み潰すように悪態をついた。
「……物資の中にはタービンズが都合してくれたデータ取り用の試作武装もある。大変なのはわかるが」
「分かってる。これは俺が始めた事なんだ。自分で最後までやりきるさ」
選別と言われ、名瀬から貰った万年筆を一旦デスクに置くと、書類仕事で凝り固まった身体を解していく。その際に万年筆の持ち手が既にすり減り始めていることに気づくと、自分が頑張っているという実感と、そこまでやっても無くならない書類にうんざりしそうな気持ちが同時にこみ上げてきた。
とにかく、目の前の事を片付けようと思い、今のユージンの報告を脳内で反復していく。
「……あん?ミカからの要望?」
思考に引っ掛かりを覚えたオルガは、ユージンが今置いたばかりの書類に手を伸ばす。IS学園に送る物資の搬入リスト。その項目の中に明らかにISやEOSに関係のない名前が刻まれていた。
「……野菜の種に肥料、大型のプランターに如雨露だと?」
「似合わねぇよな、それ」
思わずと言った風に呟いたオルガの言葉にユージンが苦笑いで言葉を添える。その言葉で彼が何か知っていると思ったオルガは、視線だけでどういうことだと問いかけた。
「ビスケットからの話だと、何か食い物……というか、それの材料か、この場合?それが自分でも作ることができると知って興味を持ったらしいぜ」
「あのミカがか?」
「ああ。なんでもアトラたちと勉強している時にそうなったらしい」
この時、この話がユージンなりのジョークだと一瞬思ったオルガは、改めて手元にある搬入用のリストを眺める。
ただの言葉の羅列のはずのそれらが、ISの武装関係の欄と三日月の要望した物品の欄で大きく印象を変えていた。
「変った――――いや、変わろうとしてんのか、ミカ?」
これまでの人生で長い間相方を務めていた三日月の明確な変化に、先程まで萎んでいた活力がオルガの中で再び湧き始めていた。
ところ変わって、IS学園――――その施設の中の第二アリーナでは新型のISが一機、宙を舞っていた。
「…………機体に遊ばれているな」
――――訂正、『舞う』ではなく、『踊る』が近いのかもしれない。
第二アリーナの管制室で、その新型の飛行を見ていた千冬は見たまま、感じたままを口にしていた。
彼女の視線の先には、アリーナ内を映し出すモニターがあり、そこに写っているのは専用機であり、新型のISである白式を纏った一夏の姿である。
彼女が何故彼の飛行をモニタリングしているのかというと、教員としての職務の一環である。
この日、一夏は先日知らされていた専用機を受領し、そのフィッティングの為にアリーナの使用を特別に許可されていた。その事を聞かされた一夏は「それって先約の人に迷惑なんじゃ?」と疑問に思うも、その考えを予想していたのか、千冬は説明を追加する。
「確かに迷惑ではあるが、届いた専用機が格納庫の一角を長期間占拠する方が迷惑だ。これからお前がアリーナの使用を予約したところで、最低でも一週間は期間が空くだろう?」
要するに、肥やしにさせている程のスペースがないため、さっさと本人に渡し、専用機特有の待機形態で所持してもらったほうが、問題が少ないのだ。
それと付け加えるのであれば、一夏の心配はほぼ杞憂といってもいい。
IS学園に置いて専用機を持っている学生は、例年それほど多くはない。寧ろいない年の方が多いくらいだ。だが、逆に毎年必ず存在するのは各国の代表候補生だ。
彼女たちは各国にとっては金の卵だ。そして、入学した時点ではそれが孵るかどうかはまだ予測も予見もできはしないのだ。その為、IS学園での成績や適正如何によって、在学中に専用機を受け取る生徒も出てくる。
その為、今回のような専用機の受領は珍しくはあるがゼロではない。だから、先輩からその事について聞いた生徒や、実際に経験した生徒からはある意味一つのイベントのような扱いを受けているのである。
そして、只でさえ珍しい専用機を生で見ることができる分、他の生徒にはいい刺激となり、活動の為の起爆剤ともなるのだ。
閑話休題。
千冬が管制室で一夏の慣熟飛行を窺っているのは、見届け役と問題が起きないように見張っておく監督役だ。これは二人が姉弟だからではなく、単純に担任教師と生徒だからである。
専用機の受領を学園で行い、最適化を見届けるのは担任教師が行うことが通例であるが故であった。
「ふむ…………そろそろか?」
一夏がアリーナで飛び始めてから記録されている経過時間を確認しつつ、千冬は呟く。
すると、それから間も無くして、一夏の乗る白式から光が発せられ、それが治まるとそこには最適化の終了した白い機体があった。
最適化が完了すると、これまでの危なっかしい飛行と比べ、安定した動きをし始める一夏。
その姿を眺めながら、千冬はもう一人の男性操縦者の動きを思い出す。
脳裏に焼きついていると言っても過言ではないそれと、目の前に映し出される弟の動きを見比べる。
「……教師としては最低だな」
自嘲するように、言葉を零しながら三日月の“より自然な動物的な動き”と一般的な操縦者の“人間が動かす機械的な動き”の差異を、他人にも説明できるように分析を開始した。
「――――」
動きの一つ一つを思い出す。
その頭の中で繰り返される映像は、早送りのように実際よりも早い映像であったり、逆にスローであったりと様々だ。
それをゆっくりと、だが着実に吟味していくと、身体の底に熱が貯まるのを彼女は自覚した。
「…………お前は教員だろうが、織斑千冬。分を弁えろ」
その熱が久しく感じていなかった闘争心だと気付くと、彼女は自身にそう吐き捨てた。
そんな、周りの知り合いで話題となっている当人――――三日月・オーガスだが、彼は放課後になるとよくバルバトスのある格納庫にいたりする。
主に整備の際の動作確認などをしているのだが、それ以外の時は機体のそばで昼寝していたりする。これは主に三日月の深夜のトレーニングや、慣れない勉学に励んでいるからである。
その彼は今――――
「……………………」
「ど、どうしよう?」
水色の髪とメガネが特徴的な女生徒を抱き枕がわりに、寝ていたりする。
……別にエイプリルフールだからと言って、嘘展開ではないですよ?