IS~鉄の華~   作:レスト00

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……今回の話は色々とあれな感じかと思いますが、作者の頭ではこれが精一杯でした。
致命的な設定ミスなどがあれば、どしどし感想の方で指摘してください。


二十七話

 

 パタンと、自身の入ってきた部屋の扉を閉める。それは獲物を逃がさない捕食者のようで、そして虎穴に入った弱者の気分を同時に味わう感覚であった。

 その応接室はそこそこ広く、社長室と同じく一面がガラス張りとなっていた。普段であれば、昼間である今の時間帯は外からの光で室内灯もいらないくらいに明るいのだが、生憎と雨空が広がっているため、その部屋はどこか薄暗い。

 

「それで、先ほどの電話は君か?」

 

 部屋の中央に置かれた机と、それを挟むようにして配置された二つのソファ。その片方に、アルベールが入室した時から既に座っているスーツ姿の青年の姿があった。そして、その連れ添いなのか、ソファの後ろにはもう一人の青年が立っている。

 自然と彼と向かい合うように、対面のソファに腰掛けながらアルベールは問いかけの言葉を投げる。

 それはある意味で、言葉による戦いの火蓋が切って落とされる合図を意味していた。

 

「下手な芝居はいらねぇ。アンタは俺の顔を知っているだろう?」

 

 言葉を投げかけられた青年――――オルガは、さもくだらないと言った表情でそう吐き捨てる。

 図星であった。しかし、ここで今の言葉に下手に反応してしまえば、相手に会話の主導権を渡してしまうことを理解している彼は一々反応したりしない。

 オルガの言い回しが、お前のことは全てお見通しだと言われているようで、アルベールにとっては酷く不愉快ではあったが。

 

「常識を知らない子供だ。名乗りもしないのに、一定の礼儀を示せと言う気か?」

 

 挑発で返ってきたのは同じく挑発。

 その一触即発のピリピリとした空気がすぐさま出来上がってしまった事に、オルガの後ろに立っているビスケットは居心地の悪さから眉を顰めそうになった。

 

「無駄な話をしに来たわけじゃねぇんだ。丁度二週間前の今日、俺たち鉄華団のメンバーを誘拐しようとした奴らがいた。そいつらに武器を卸したのがアンタ等っていう情報を俺たちは持っている。その落とし前をどう付けるのかを聞きに来た」

 

「…………ふむ。確かにISに少なからず関わるウチにも、その知らせは受けている。だが、その件は意図して我らが起こしたわけではないが?」

 

 受け取り方によってどうとでも取れる言い回し。それはストレートに物事を要求してきたオルガに対する気勢を削ぐ事と、相手のボロを誘うものであった。

 この時点で、アルベールはオルガたちが情報だけで、物的証拠を持っていないと判断していた。何故なら“その程度の証拠を残すようなヘマはしていない”と確信があるのだから。

 

「……アンタたちは武器を卸しはしたが、誘拐については無関係だとでも言いたいのか?」

 

「ふむ。君がそう思うのであればそうなのではないのか?」

 

 嫌な大人をしている。その自覚はアルベールにも少なからずある。

 しかし、子供だからと言って下手な情を抱くことをするほど、彼はすれていない訳ではなかった。

 

「…………アンタの言い分はよくわかった。その上で言うが――――」

 

 そこまで言うと、オルガは後ろにいるビスケットに手を向ける。オルガの意図を察していたビスケットは、手荷物であるアクリルケースの中からクリップで留められた紙束を取り出し、その手に渡した。

 

「――――俺らを舐めてんのか?」

 

 その一言と共に手渡された紙束が、眼前の机の上に広げられる。元々しっかりと留めていなかったのか、クリップは外れ机の上にその紙がぶちまけられた。

 

「?…………――――」

 

 その紙の資料の意味が分からず、アルベールは一度眉を寄せる。そして、その紙に何が書かれているのかを理解した瞬間に、呼吸をすることを忘れた。

 紙面に書かれていたのは、情報だ。

 誘拐事件の際に三日月が手を下した誘拐犯の人物たちのリスト。そして、彼らが使用していた武器の入手ルート。更には彼らの所持していた通信端末の通信履歴等など。

 そこまでであれば、アルベールも動揺しないのだが、その資料の中には『彼らがデュノア社と接触した詳細情報』まで存在し、添付されている写真の中にはデュノア社の支社へ入る姿と出る姿が映し出されている。

 

「最後にこれだ」

 

 それだけでも冷静さを欠くには十分だというのに、まだ何かがあるという。その紙はたった一枚だけで、摘むようにしてオルガが手にしていた。

 

「『阿頼耶識被験者の詳細な解析データを優先的にデュノア社へと譲渡する』」

 

 その紙に書かれている内容の一文をオルガは音読する。たった一文だが、それ以上は必要がなかった。

 

「アンタのサインと今回の誘拐事件を企画したそもそもの政治家のサイン。これだけでも契約書としては十分だな」

 

「何故……それが……」

 

 引き攣りそうな喉を必死に震わせ絞り出した声。その反応が、今回の事件に彼が加担した何よりの証拠でもあった。

 

「単純にこの政治家を潰してから、こっちに来ただけだ。あと、アンタは俺に脅迫しに来たかって尋ねたが、それは違うな。俺は単純にアンタの会社が終わるのを報告に来ただけだ」

 

「馬鹿な……ならば何故、その情報が……」

 

 引き攣る喉がまともに発声をしてくれない事に息苦しさを感じる中で、アルベールの頭の中ではある最悪な予想ができてしまう。

 一言で言えば切り捨てられたのだ。

 オルガは政治家を潰したといったが、それは今回の誘拐騒動の原因の一端がフランス政府にあるということである。

 その情報を掴んでいたタービンズと鉄華団はフランス政府に対し、内密な交渉を持ちかけていた。その内容は、他国への情報のリークをしない代わりに、報復活動に対する不干渉を約束するというものであった。

 そして、一部の政治家の暴走に対する謝罪として、フランス政府はその要求を呑んだのだ。

 その結果、確保した政治家はフランス政府に引き渡され、政府はその政治家の処遇を決めることとなった。例え、それが表沙汰にはされない類のものであったとしても。

 

「状況は理解したみたいだな。これで、アンタは終わりだ」

 

「………………いや、最後の足掻きくらいはさせてもらおう」

 

 最後通告の代わりに、口頭での幕引きを告げるオルガ。しかし、その言葉に対して、焦燥した様子のアルベールは、静かに反抗の意を述べた。

 

「オルガ!」

 

 まずそれに気付いたのは、オルガの背後にいたビスケットであった。その声に反射的に首を振り、ビスケットの方を視界に入れようとしたオルガは、それよりも先に部屋のガラス張りの窓の向こうに、橙色をした装甲を纏うISの姿があることに気付く。

 

「鉄華団の保有する機体数を完全に把握はしていないが、ISは一機だけだということはこちらも把握している。先程からスナイパーの確保に向かったこちらのISから帰還報告は受けてはいない。ならば、そちらの方にISを割いているということだ。今の君たちに、ISに対抗する手段はない」

 

「……俺らをここで殺したとして、アンタの立場が悪くなるだけだぞ?」

 

 外のISが手にしたアサルトライフルの銃口が、こちらを向いているにも関わらず、オルガは焦らずに相手の粗を指摘する。だが、それはアルベールにとっては虚勢に映る。

 

「まだ世の中を把握しきれていないようだが、ある程度の金と時間さえあれば逃亡は容易だ。幸いにも、証拠となる書類は君がここに持ってきてくれたのだしな」

 

「…………もう一度言うが、俺らを舐めてんじゃねぇぞ?」

 

 オルガそう告げると、轟音が部屋の窓ガラスを叩いた。

 懐からインカムを取り出し、そのマイク部分にオルガは告げる。

 

「やっちまえ、ミカ」

 

 窓の外では、トリコロールカラーの機影が橙色の機体と共に会社の敷地内にある工場区画の一角に突っ込む姿が、その部屋から確認できた。

 数日前に鉄華団が保有するISが一機増えていることを知らなかったアルベールは、自社に所属するショコラデ・ショコラータが撃墜され、そのままここに乗り込んでこられたと誤解する。

 しかし、最後に自身が用意したカードが切り札ではなく、一か八かのギャンブルに成り下がってしまった事は変わりようのない事実であるため、アルベールはため息を吐くと首元のネクタイを緩めた。

 

「……逃げないのか?」

 

「今更善人を気取るつもりはないが、無様な姿を晒すほどに落ちぶれたつもりはない」

 

 言い切ったあとにひどく喉が渇いていることを自覚するアルベール。啖呵を切ったばかりではあるが、無性にアルコール類を飲みたくなっていた。

 しかし、それも結果が出てからだと、自身に言い聞かせる。

 

(最後に結末を決めるのが、自分が捨てた娘次第とは…………皮肉にも程がある)

 

 そこまで考え、先ほどの啖呵に自分で笑いそうになる。

 

(落ちぶれた、か……子ではなく会社を取り、孤児を食いものにしようとし、これ以上にどう落ちぶれようがある?)

 

 その自問の答えは既に出ている。

 落ちるところまで落ちたと、自覚がある時点で自身は人でなしだと嫌な確信を抱く。しかし、それで自身を蔑むには十二分であった。

 

(……本当に今更だ。そんなことを考える資格も自分にはないというのに)

 

「終わったか」

 

 自身の思考に沈み、それなりの時間が経ったのか、それともそこまで時間は経過していないのかは定かではないが、先程まで聞こえていた外からの戦闘音が止んでいる。

 そして、近くにいたオルガの声により引き戻された意識が、二機のISの消えた工場区画の方に向けられる。

 そして、数秒後に視認できたのは、橙色の機体ではなくトリコロールカラーの機体であった。

 

 

 

 

 





というわけで、三日月の戦闘は丸々カットです。
どうあがいても絶望な戦闘しか思い浮かばなくて、無理に描写しなくてもいいかなって思ったので。
因みに感想欄に書かれましたが、シャルロットが乗っていた機体はコスモスではなく、普通にラファール・リヴァイブカスタムⅡです。一応、量産機であり、生産元なのでこの時点は同じ機体があっても問題ないという作者の思い込み設定です。
次回で、細かい事後処理を書いて、そのあとは皆さんお待ちかねのタッグトーナメント編に入ります。ちなみ今回も三日月たちの相手に下駄履かせます。何故ならそうでもしないと、ただの無双で終わってしまうので。

では、次回も更新頑張ります。
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