今回はあまり話が進まなかった感があります。
機体のパワーアシストが最適な機能を発揮しているため、自身の武装が破壊され軽くなったことによる喪失感は無い。
しかし、同じく優秀なハイパーセンサーがバラバラになった破片一つ一つを明確に視覚情報として、いやでも脳にその事実を伝えこんでくる為、感触はなくても心に空虚感を押し付けてきた。
「足を止めたら、すぐにやられる」
数瞬の間の思考を断ち切ったのは、相対している三日月の肉声であった。
アドバイスと警告の中間のような言葉と共に、一夏の身体を衝撃が打ち抜いた。
「――――」
口を開け、空気を吐き出す。
だが、出していると思われる自身の声は聞こえないという不思議な体験を一夏は人生で初めて経験した。
突然のことに混乱しそうになる中、彼が何とか認識できたのは三日月が持っているショートメイスを振りぬいた姿であった。
(早っ、重っ、対策は……………ていうか、武器がっ)
自身が三日月に殴られ、吹き飛ばされたことを理解すると、ようやく頭が回り始める一夏であったが、唯一の武装を失ったことによる焦りはそうそうと収まるものではなかった。
「…………やりすぎた?やっぱり手加減って面倒だな」
纏まらない思考の中、その言葉が一夏の心を更にかき乱す。
「ふざ――――――」
叫び声をあげようとするが、それは横合いから突っ込んできた鈴音に首根っこを掴まれ、そして強引に離脱することによりできなかった。
「鈴?なにす――――ぐっ!?」
いきなりの事に抗議の声を上げようとする一夏であったが、再び最後まで言うことはできず、無造作に地面に落とされたことにより変な呻き声を漏らす。
「頭が冷えるまで大人しくしてなさい」
通信ではなく、肉声でのその言葉はやけに耳に響いた。
ハッとして顔をあげると、既に鈴音は機体を反転させ、ラウラを機体に搭載された第三世代兵装である衝撃砲で牽制しつつ、三日月と切り結ぶ彼女の姿が視界に広がった。
『いい、一夏?アンタはできることを精一杯やりなさい。妙な色気を出すんじゃないわよ』
試合直前に言われた彼女の言葉を思い出す。
そして、その言葉がどういう意味なのかを今更になって一夏は察した。
(馬鹿か、俺は?相手に比べて、欲を出せるほど俺は強くないだろうがっ)
つまり、彼女は一夏に自分が得意で動きやすい試合運びを維持するように言ったのだ。
(何が調子に乗るだっ、そもそも相手に引けを取らずに戦えると思っている時点で自惚れだろ?!)
冷えた頭がしっかりと考えることをし始めると、今度は顔面に熱がたまり始める。
その自分と相手が同等と思う驕りと羞恥から今すぐその場から消えてしまいたい衝動に駆られる一夏であったが、目の前で苦戦する幼馴染の姿がそれを許しはしなかった。
『鈴!予備の剣か刀ってあるか?』
ずっと握っていた雪片弐型のグリップ部分を手放す。その事に色々と思うことはあったが、今はそんな私事よりも目の前の試合が重要と意識を無理やりにでも切り替えようとする。
そして、まず始めに自分が再び同じに舞台に立つための方法を頼れる相方に相談するところから彼はやり始めた。
そんな対戦相手の男性のことなど露知らず、ラウラは未だに正確には捉えることができない衝撃砲をいなしながら、先ほど相方がやらかしたことに内心で頭を抱えていた。
(オーガス……お前は自分が何を壊したのか分かっているのか?使用者も機体も違うとはいえ、それはかつての世界最強が使用していたオンリーワンの剣だぞ?!)
前回の学年別トーナメントの時と違い、今回のタッグマッチトーナメントは学外からの観客も多く、各国への情報伝達も早い。
そんな中で、三日月は初代世界最強の機体に装備されていたものと同じ武器を、何事もないように粉々にしたのだ。
(その意味が…………分かっていないし、どうでもいいのだろうな、お前は)
どこか諦観にも似た思考をした瞬間、機体に衝撃砲が被弾する。幸い、牽制による狙いの甘さと、ある程度の相対距離により致命的なダメージはなかったが。
「むっ……………私もまだまだだな。こんな様で他人の心配などと」
そう口から零すと、肩に装備されたレールカノンを鈴音の方に向け照準を合わす。
すると、それに合わせたかのように鈴音は機体の拡張領域から武装を展開した。
それは一本の青龍刀。刃渡りは双天牙月よりも長く、細い。しかし、トルクのある甲龍に合わせているのか、肉厚で日本刀とは比べるべくもなく大剣に分類されるものであった。
「?」
双天牙月で今現在三日月と打ち合っている鈴音がなぜそんなものを展開し、“装備もせずに地面に放置した”のかをラウラは瞬間的に理解することができなかった。
「…………あぁ、確かに健気でお前はいい女と言えるな」
そして、その意図を察したラウラは、その青龍刀を手に取り、再び三日月に向かっていく白い機体を見てそんな言葉を零した。
「お褒めに預かりどうも!でもそんなことはわかり切っていることだわ!」
相方である一夏とスイッチするように、鈴音はラウラとの一対一を再開する。それは試合の最初の展開の焼き直しであった。しかし、その時とは明らかに違う部分があった。
「ていうか、三日月のあの機体なんなのよ?!パワータイプの甲龍が普通に力負けしたんですけど?!」
「ふむ、だから関節モーターから異音が聞こえるのか…………焼けたのか?」
「…………ここだけの話、今回の大会に合わせてその辺りのパーツを交換して慣らしたばかりだったのよ?どんなトルクしてるんだか」
「分かる。オーガスたちと戦ったあとは自分の常識が徹底的に粉砕されて何とも言えない気持ちが沸き上がる」
まるで親しい友人の会話のようなやり取りが、お互い攻防を続けながら交わされていた。
そしてもっとも違うのは、最初こそ拮抗していた戦闘が徐々に一方的なものになっていくことである。
「衝撃砲の攻め方がパターン化してきている。焦りからか元からかは知らんが、それは致命的だぞ」
「見えない砲弾をこの距離で躱すアンタが異常なのよ!この非常識チーム!」
ラウラと鈴音の違いは主に分析しながら戦う頭脳派か、咄嗟の時に直感に頼る感覚派であるかだ。
前者であるラウラは主に軍隊における仕事により、状況をその場その場で把握し、その都度多くの部下に指示を飛ばすようになっていたために身についた経験から来るものである。
そして後者の鈴音はたった一年で中国という大国の中で、代表候補生にまで伸し上がった才女である。その一年で様々なものを身に着け、他人を蹴落とすには知識はもちろんであるが、それ以上に操縦の方を慣らしていくしかなかった。そして元々、彼女の感性とイメージが操縦にダイレクトに伝わる方式は相性がよく、それ故に彼女は機体を感覚的に動かし、それが強みとなった。
その二人の持つ強みがこの試合でははっきりと、相性の差を出してしまう。
「砲身の稼働限界は無いらしいが、その砲身の起点は動いていない。どの地点から射出されているのかがわかればある程度の対応はできる」
「っ、だから、それができてる時点でアンタは異常って言ってんでしょうが!」
徐々に差が開いてきているラウラと鈴音の試合に対し、もう一方の三日月と一夏の試合は元々開いている差を一夏が埋めようとするのに必死であった。
「このっ!」
「武器を使うことに集中するんじゃなくて、敵に集中しないと意味ない」
振り下ろした青龍刀が難なく受け流され、咄嗟に三日月の持つショートメイスに意識が向く。
受け流すことに使用され、それで攻撃されるよりも自分が離脱するほうが早いと判断した一夏は後退しようとする。
「だから、敵の武器じゃなくて、敵を見ろって」
「がっ」
どこか苛ついている三日月の言葉が聞こえると同時に、バルバトスの足裏が一夏の胸を蹴り抜く。
吹き飛ばされ、地面に転がされる一夏。
(くそ、早く立たないとっ!立って、それから…………それから?)
反射的に機体を立て直そうとするが、そうしようとする前に思考にノイズのような疑問が差し挟まれた。
そのせいか、少しだけ機体を立て直すのが遅れる。
すぐに追撃が来ると思っていた一夏は無事に立て直せたことが疑問となる。
(どうやったら、この試合に勝てるんだ?)
試合中、そういった次の行動を取るのに邪魔な思考は、大きな隙を作る。しかし、それでも一夏は追撃をされていない。
それは言うまでもなく、三日月が一夏相手に手加減をしているからだ。
そして、そこまで考えて一夏は考えてしまった。
(俺……一体、何ができるんだ?)
三日月との開いた距離が嫌に大きく感じる一夏であった。
試合内容はまぁ、順当感を出そうと思ってこんな感じです。
主人公補正が存在してなければ、一方的かなぁって思いまして。
大丈夫、ワンサマー。君の出番はもう少し先にあるからね…………相手が人間かは知らんけども。
そして、作者的に鈴音とラウラは結構書きやすいです。だって素直な性格ですから。
感想いつもありがとうございます。