IS~鉄の華~   作:レスト00

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投稿遅れました。すいません。

コロナウイルスが世間を騒がせていますが、皆さんも体調には十分気を付けてください。
自粛で家にいる方などの暇を潰すことができれば幸いです。


四十三話

 今この瞬間、そのアリーナの光景は学園の敷地内ほぼ全ての人間が目にしていた。

 試合に負けた者たちも、機体の修復や各祖国の人間との会話を早々に切り上げ、その試合は見逃すまいとそれを見ていた。

 アリーナの観客席が満員なのは当たり前、立ち見はもちろん、学園内でその試合を映しているモニターの前はそれぞれに人だかりができている。

 しかし、その人の集まりにはあって当たり前のものが無い。

 それは喧噪。

 誰もが直接的に、モニター越しに、只々食い入るようにその試合を見ているのだ。

 

「――――」

 

「――――」

 

 その試合をしている二人――――三日月とラウラも試合の最初に交わした言葉以降、無言でお互いの得物を振り回している。

 火花がちり、機体の装甲が擦れ合い、時には拳や足が相手を捉えようと振るわれる。

 原始的で、そんな古臭い戦いを最新鋭のパワードスーツを使って行っているのだ。

 普通であれば、冒涜的だ、意味がないと言われ見向きもされないような試合内容だろう。だが、そんなことを考えている観客は一人も居なかった。

 

「………………スゴイ」

 

 誰かが一人呟いた。それが自分の口から洩れた言葉なのか、それとも隣に座る他人が零した言葉なのか、それを耳にした人物は判断が付かないと同時にどうでもいいと切り捨てる。

 そんな些事よりも目の前で繰り広げられる試合を見ることの方が重要なのだから。

 只々原始的な試合ではあるが、その内容は常軌を逸した事象のオンパレードなのだ。

 この学園の中で、幾人の生徒が“ナイフでショートメイスを受け流せる”のか。

 観客の中の何人が、“速さで劣る筈のショートメイスでナイフ以上の取り回し速度”を見たことがあるのか。

 そしてそれを十代半ばの、それも同年代の中でも身体が仕上がっていないと思われるほどに小柄な二人がそれをしているということがどれだけ異質であるのかは言うまでもない。

 そんな中で、一つの変化が状況を変化させる。

 

「…………っ!」

 

 観客の多くが息を飲む。

 ラウラの持つナイフが盛大な音と共に刀身が砕けたのだ。

 その瞬間はやけに鮮明なシーンとして観客に認識された。

 三日月の振るうショートメイスがラウラを捉える。しかし、ラウラはもう一本のナイフで受け流す。

 だが、ショートメイスは二本あるのだ。

 一本を受け流し、もう一本が迫る中、ラウラは格納領域からあるものを取り出す。

 

「ん?」

 

 既に速度が乗り、振るのをやめることができないメイスの先端が、ラウラが取り出し、投げた“それ”に接触する。

 それがあった感触は、固いものを殴打したものではなく、柔らかい物体を潰したようなものであった。

 そして、数瞬の間もなく、メイスの先端が爆炎と煙に巻かれた。

 三日月が潰したのは爆薬であった。それを彼が理解する前にラウラは仕掛ける。

 もちろん、二機の間の狭い空間での起爆であったため、ラウラの機体も多少では済まされないダメージを受けていた。

 だが、それを引き換えにしても掴みたい、その一瞬の隙をラウラは待っていた。

 

「――――ここで」

 

 懐に飛び込む。

 彼女の脳裏に『死中に活を求める』という、依然読んだ本の言葉が過る。

 しかし、そこは彼女にとって未だに死中が続いていた。

 

「――――叩く」

 

 頭上からそんな言葉が降ってきた。

 それと同時に身体全身に衝撃が走り、視界の天地がひっくり返っていた。

 

(どこまでもでたらめな奴っ!)

 

 内心で悪態をつくと同時に姿勢制御をおこなう。それと同時に、視界に広がる機体ステータスの中にあるシールドエネルギー残量が、先ほどの一撃が全体総量の三割を削った事実を証明し、ゾッとさせる。

 三日月がしたことは単純だ。

 ショートメイスが破壊されたことで、無手になった方の手で掬い上げるように掌底を叩き込んだのだ、渾身の力で。

 

「結構固いな、ウサギの人」

 

 最初に投棄したレールカノンの近くの位置に来たラウラは、それを回収――――

 

「それは称賛か?ならもう一踊りしてもらおう!」

 

 ――――しようとはせず、格納領域からアサルトライフルを取り出し、牽制をしながら再び距離を詰めようとする。

 

「…………その銃」

 

 牽制の弾を回避、もしくはうまい具合に当てながら、ラウラの接近に備える三日月はその見覚えのあるアサルトライフルに意識が向いた。

 それは自分たちが使っていたEOSの使用していたものと同じものだったのだ。

 そしてそれは、あの日――――三日月とラウラが初めて会った日にお互いが携行していたものと同じでもあった。

 

「拘るさ!でなければ、この試合をする意味が無い!」

 

 三日月の視線から色々と察したラウラは残ったナイフで、もう一本のショートメイスの解体に掛かる。

 

「アンタ、結構喋る人なんだ」

 

「ああ、自分でも驚いているさ!だが、今の自分はこれまでの自分よりも好きになれそうだ!」

 

 活き活きとした表情のまま、彼女はナイフでショートメイスを地面に受け流し、めり込めさせる。

 そして力任せにショートメイスの先端とグリップの付け根を踏みつけ、その基部をへし折った。

 

「えっと――――」

 

 三日月は思案顔を浮かべながらも、対処は的確に熟す。

 メイスを折られることを察した瞬間手を放し、体勢を崩すのを避け、そのまま迎撃するために拳を握る。

 

「ぐっ」

 

 苦悶の声が洩れた。

 三日月は先ほどと同じく、渾身の力で拳を振るい、黒い装甲を打ち抜く。

 ラウラも咄嗟に鈴音にしたように回避しようとしたが、間に合わず轟音が響いた。

 

「まだ!」

 

 だが、先ほどと違いラウラはその場に踏みとどまる。

 そして再び格納領域から、あるものを取り出す。それは小型の盾。

 その小型の盾は全体的に丸みを帯びており、装備すれば持ったほうの手をすっぽりと覆うような構造であった。

 そしてもう一つの特徴がある。その盾の表面にはフジツボのような凹凸がびっしりと付いていた。

 

「「――――」」

 

 再び、アリーナの空気が揺れた。

 ラウラが取り出したのはEOS用のリアクティブアーマーであり、それで殴打すると同時にそのフジツボ――――指向性爆薬を起爆させたのだ。

 幾度目かの爆発により巻き上げられた土煙と、火薬の煙で三日月とバルバトスの機影は一旦隠れることになる。

 それを確認すると同時に、ラウラは一旦距離を取り、肩で息をしながらライフルの弾倉を交換し始める。

 

「ハァッ、ハァッ」

 

 運動量が多いためか、それとも戦闘に割く集中力が切れてきたのか、もしくはその両方かもしれないが、ラウラの息が整うのに時間が掛かった。

 見てくれも酷いものであった。

 美しい銀髪や白い肌は煤や埃で汚れ、機体の黒い装甲も罅が入り、殴打の際に切れたのか、顔に付いた血は掠れて赤黒い跡を残している。

 だが、その見てくれに反し、彼女の表情は晴々としたものであった。

 そんな表情は今まで誰も見たことが無かった。

 それは別室で観戦しているラウラの教官であった千冬も、祖国にいる彼女の部下たちもだ。

 

「――――あぁ、思い出した」

 

 ハイパーセンサーが拾ったその音声がラウラの耳に届くと同時に、煙の中から尾を引いて三日月が姿を現す。

 その姿はラウラ程ではないが、汚れており多少のダメージを見るものに印象付けた。

 

「ら、ら――――ラウラって言ったっけ、アンタ」

 

「――――」

 

 名前を覚えられ、呼ばれたことがここまで嬉しかったのは彼女の短い人生の中で二度目であった。

 

「昭弘と一緒に倒せなかったの、ラウラだったんだ」

 

 その言葉を聞いた彼女の胸中を満たしたのは、紛れもなく歓喜一色である。

 満身創痍の身体に再び活力が漲る。

 達成感が背中を押し、更に先を目指す様に本能が訴えてくる。

 

「まだ――――」

 

 現時点で、お互いの差はまだある。だが、それがラウラの闘志を更に煽る。

 

「まだ私は強くなるぞ!三日月!」

 

『Valkyrie trace system, standby』

 

 その決意の言葉を発すると同時に、無機質な機械音声が産声のように響いた。

 

 

 

 

 




というわけで、大会自体への横やり的なものが無くなったしわ寄せがここに来ました(笑)
最近は、購入したフラッグシップエディションを見つつ、戦闘パートのクオリティアップに勤しんでいます。
今更ながらに、戦闘回を増やせば増やすほど、ネタを増やしていかなければならないのは大変ですね。

次回は、作者がこの小説を書く上で絶対に書きたかった展開の一つです。
まだ書きあがってはいませんが、なんとか満足のいくようにしたいですね。


あと、感想欄には返信で書きましたが、VTシステムにも下駄履かせます。



没案(?)

 

「ら、ら――――ラウって言ったっけ、アンタ」

 
「知れば誰もが思うだろう!君のようになりたいと!君のようでありたいと!」
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