かなり飛び飛びかもしれませんが、早めに本編に行きたいので飛ばし気味に行きます。
自身を覆う、機械の手から伝わる確かな手応えを感じた瞬間、三日月は即座にその場を離脱した。
一旦距離を置いたことで、改めて敵のISの全貌を視界に捉える。
「…………外した?それとも躱された?」
蜘蛛の尾の部分を貫通した鉄杭。
それが、敵のIS――――アラクネの主要ユニットであり、それを破壊しただけでも大きな戦果である。であるのだが、三日月は眉を顰める。
あの距離であれば、貫かれるのは背部の主要ユニットではなく搭乗者であるオータムの腹部辺りの筈であった。
しかし、ここでISではなくEOSの戦闘に慣れきっている三日月の経験が仇となる。
ISとEOSの大きな違いの一つ。絶対防御の有無が今回の結果を引き起こした。
シールドエネルギーを削り、搭乗者の生命を脅かしそうな攻撃をしかし、ISであるアラクネは絶対防御で瞬間的に減速させ、一流の搭乗者であるオータムが身を捻ることでギリギリ攻撃を受け流したのだ。
だが、その近さと威力から流石に無傷とはいかず、その結果がISの背部ユニットの貫通という結果に終わったのである。
「しぶといな、アンタ」
そういったオータムが健在な理由や理屈など、知ったことではない三日月は短く持っていたメイスを両腕で握りなおす。
「上、等、だよ、クソがああああああ!」
咆哮が空気を叩く。
それをむき出しの肌で感じながらも、三日月の思考は変わらない。
(……どうやったらコイツ死ぬんだ?)
オータムの姿勢が前傾になり、再び戦いの火蓋が切られようとした瞬間、上空から光の線が伸びてきた。
「……増えた?」
広がった視線を少しずらし、光の線の元を辿るとそこにはオータムのアラクネとは違う意匠のISが滞空していた。
「オイコラ、チビスケ!邪魔してんじゃねぇぞ!」
「撤退だ。時間をかけすぎたな」
肉声でそう叫ぶオータムに対し、淡々と用件だけ告げるとさっさと撤退を始める。
その程度の言葉で目の前の女が引くはずがないと思った三日月であったが、上空の奴とは別の相手から通信で誰かに何かを言われたらしい苦い表情のオータムに眉を顰めた。
「っ、了解………………おい、お前の名前は?」
「……教える意味あんの?」
その返事に舌打ちを一つ残し、オータムはそのまま撤退を開始した。
その隙を逃す三日月ではない。だが、それがなされることはない。
「……?……なんか寒いな?」
何度目なのか分からないが、鼻の下を腕で拭う。だが、これまでと同じような拭った感触はなく、腕が滑るヌルりとした感触と身体の芯は冷えているのに、そのヌルりとした感触のある部分だけがやけに温かい感覚であった。
「は?……あれ?」
いつの間にか傾いた視界。そして、動かなくなっていく身体。それをハッキリと自覚する前に、三日月の意識は落ちていく。
(お腹…………すいたな……)
ブレーカーが落ちるように途切れそうな意識の中、三日月はそんなことを思った。
『もう人間に振り回されたくない』
「?」
『自分勝手な思考なんて知りたくもない』
「誰?あんた」
『貴方に力をあげる。だから、私を自由にして』
「…………」
『お願――――』
「知らないよ、そんなの」
『!待っ――――』
「でも、あんたの力はいるかもしれない。だから、使ってやるから、あんたも勝手に俺を利用すればいい」
『――――』
「くれるなら早くしてくんない?こっちは急いでる」
『貴方も私を利用するの?』
「さぁ?自分で勝手に決めれば?」
揺蕩うような感覚から抜け出ると、見慣れない程に綺麗なコンクリートの床が視界に入る。
「…………昔の事って夢で見れるんだ」
自分の体が、EOS擬きのパワードスーツに繋がれたまま、どこかのハンガーの中に入れられている事を自覚した三日月は、寝起きの意識を切り替えるために二度三度と首を軽く振った。
「意識が戻ったのか、ミカ?!」
「……オルガ?」
やけに近いところから、聞きなれた声が届く。
そちらに視線をやると、多少なりとも治療を受けたオルガの姿があった。
「あれ……俺は……ここどこ?」
意識がはっきりしてくると、自分が何をしていたのかを思い出していく。連鎖的に繋がっていく記憶に、今はあまり関係ないかと結論づけると、三日月は今思いついた疑問を口にした。
「ああ、ここは……って、説明の前にそれを外す方が先か、おやっさん!来てくれ!」
どうやら、オルガ以外の仲間もここにいるらしい。
オルガが声を張り上げると、数秒もしないうちに特徴的な足音を鳴らしながら、雪之丞がやって来る。
「おう、三日月。見た感じ大丈夫そうだな」
「おやっさん……俺が寝てる間にこれ外さなかったの?」
三日月の様子を確かめた雪之丞は、EOS擬きに手を加え始める。外された装甲板の内側にある接続部にケーブルを差し込み、そして操作用のタブレットをいじりながら三日月の疑問に答えてやる。
「お前の意識がないときも阿頼耶識には繋がってた状態だったからな。下手に外すと、お前がどうなるかわからねぇ。だからお前の意識が戻るのを待ってたのさ」
「ふーん」
「……って、似たような説明をこの前したの覚えてなかったのか?」
「そうだっけ?」
「まったく……そら、外すぞ。オルガ支えてやれ」
どこか興味がなさそうな三日月の淡白な反応に呆れつつも、雪之丞は作業を進めていく。そして、機体本体や阿頼耶識の電源を正規の手順通りにオフにしていき、機体から三日月が吐き出されるように降りてくる。
「っと…………それで、オルガ。ここどこ?」
失血が原因の貧血で、ふらつく体を支えられながら三日月は再び同じ質問をオルガに投げかけた。
それに対し、オルガは少し眉をひそめながら答えた。
「ここは船の中だ。今俺たちは洋上にいる」
「……ヨウジョウって何?」
生まれてこのかた、海を見たことないどころか、戦闘以外で殆ど基地の外に行くこともなかった三日月にとって、その言葉が場所を指しているのかどうかすら判断がついていなかった。
その事を察したオルガどうやって説明したものかと考え始めるが、その思考は一旦中断させられる。
「お、目が覚めたか。手遅れじゃなくて安心した。こんな僻地にまで出張った甲斐があったってもんだ」
三日月やオルガ、おやっさんとも違う新しい声が天井の高い格納庫の中に響く。
動きづらい身体にイライラしながらも、三日月は首を動かし、声の主に視線を向ける。
その三日月の視線の先には二人の大人と、一人の少女がいた。
「……誰?」
「俺たちを匿ってくれてる組織のトップだ」
「ふーん」
こそりと三日月に耳打ちするオルガ。割と重要なことかもしれないのだが、いかんせん今の三日月にとってはそんなことよりも動かしづらい身体をどうにかする方が重要であるため、特に興味を示すようなことはなかった。
「当事者の残りの一人が目を覚ましたってことで、改めて尋ねようか?お前はこれからどうするつもりだオルガ・イツカ?」
「…………」
「……?何の話?」
自分の知らないところで話が進められている。
そのこと事態は既に今更なため、気にもならないが、オルガが悩む姿を見せるというのは珍しいため、どんな話をしているのか三日月は少しだけ興味を抱いた。
「お前さんたちのこれからのことだよ」
「これから?」
そんな三日月の態度を察したのか、先程からオルガと対面している白いスーツを着た男性が口を開いた。
「お前さんがそこに置いてある、ISでもEOSでもない何かを男の身でありながら動かしたことは、世界中に知られちまった。だから僻地とは言えあそこで放置しておくわけにはいかなかったから、俺たちがお前さんたちを今保護してるってわけだ」
「……アンタたちって何なの?」
男の言葉の前半分はよくわからなかったが、後半部分はわかった三日月は首を傾げる。
これまで大人たちに虐げられることが日常であった三日月にとって、目の前の男が語る言葉は意味を理解できても、その考えが理解できなかったからだ。
「俺たちはタービンズって世界をまたにかけた運送会社を経営しているもんだよ。俺は其処の顔を張らしてもらっている名瀬・タービンだ」
「運ぶのが仕事なら、なんで俺たちを守ってんの?」
「それは私が依頼したからよ」
これまで名瀬の後ろにいた少女が声をあげた。
その少女はここにいる顔ぶれの中で、特に特徴的な髪の色をしていた。それは空の色でもある水色だ。そしてその少女は見慣れない服装に、変った木の棒のようなものを手で弄びながら、どこか観察するような視線を三日月たちに向けてくる。
その視線がどこか不快で、眉を顰めるがそんなこと彼女には関係ないのか、お構いなしに彼女は説明を始めた。
「私は貴方たちの保護の依頼を受けてあの基地に赴く予定だったの。でも、私や私が所属する組織の人間が国境を越えて好き勝手するわけにはいかなかったから、その手伝いをしてもらうためにタービンズに依頼したのよ。貴方たち全員を私一人が運ぶなんて不可能だし。私か弱いから」
「…………わかんないんだけど?」
「あら?何がかしら?貴方たちを狙っている組織のことかしら?それとも私に依頼した人のこと?残念だけど私の口からは言えることと、言えないことが――――」
「言っていることがややこしくて解らない。もっとわかりやすく説明できないの、アンタ?」
その三日月の一言に、うすら笑いを浮かべながら喋っている少女の動きがビシリと硬直した。というよりも、その場の空気が死んだ。
無遠慮な三日月の物言いと、その少女の反応に三日月を知るオルガやおやっさんは苦笑い。逆にいつも他人を揶揄うように喋る少女の事を知っている名瀬ともう一人の女性はその反応に笑いを堪えるのに必死であった。
その少女の横で笑いを堪えつつ、名瀬が口を開く。
「あー……要するにだ。お前たちを保護したいこっちのお嬢ちゃんのところに俺たちがお前さんたちを運んだってことだ」
「へぇ」
やっぱり興味が薄いのか、三日月の反応は淡白であった。
「さて、話を戻そうかオルガ?お前さんたちはこれからどうするんだ?」
「……」
緩んでいた空気が一転した。
名瀬の重い声がその場にいる人間全ての耳朶を打つ。
その短くもハッキリとした問いは、聞かれたオルガ以外の人間が喋ることを許さないといった意味を含んでいると感じさせる。
オルガは幾度か口を開こうとするがそれは途中で止められ、唇が引き結ばれる。それを幾度か繰り返した時に、格納庫に再び声が響いた。
「何を迷ってるのさ、オルガ」
その声はこの緊張した空気とは似つかわしくない程に無邪気な声であった。
「おい、お前さん。今はオルガが――――」
「俺は、俺たちは今までオルガに引っ張ってもらってきた。それがどんなことだろうと、オルガだから従ってきたんだ。だから、今までみたいに言えばいい。次はどうすればいい?何をすればいい?」
これまで温和な声を出していた名瀬の声に険がこもる。
だが、そんなものもお構いなしに、三日月は言う。それは三日月にとっては譲れないモノだから。
「簡単に……簡単に言ってんじゃねえぞ!ミカ!俺の言葉一つで、俺たち全員の未来が良くも悪くもなんだぞ?!」
「じゃあ、ここがオルガの見せてくれる景色?こんなつまらない場所が」
その言葉は三日月とオルガにしか理解できないやりとりであった。
まだ二人が幼く、国の貧民街にいた頃、初めて『力』で事を成した時のことだ。三日月は尋ねた。今と同じように。
「次はどうするの?」
オルガは答える。
「決まってんだろ――――行くんだよ」
「行くって……どこに?」
幼い頃、貧民街が世界の全てであった三日月にとって、そのオルガの言葉は理解ができなかった。
「そりゃあ……こんなとこよりも綺麗で、あったかくて、食うものも沢山あって…………あぁ、とにかくもっといい場所だよ!」
同じように、幼かったオルガは自身が知っている言葉を必死に使って、行く場所を――――向かうべき場所を説明した。
「あるの?そんな場所」
「分かんね!だから、確かめようぜ!」
「…………うん、いいね、それ」
これが二人にとっての原点であった。
当時を思い出していたオルガは目前の三日月に胸ぐらを掴まれ、引き寄せられることに反応ができなかった。
「オルガ。オルガ・イツカ。ここが俺たちが行くべき場所なの?」
先程までふらついていたのが嘘のように、三日月の身体には芯のこもった強さがあった。
「わかったよ……見せればいいんだろ!見せてやるよ!」
そう言い捨てると、オルガは三日月を突き飛ばすようにして自らの足で立つ。そして、名瀬の方に向き直ると、オルガは口を開く。
先ほどのように戸惑うような、迷うな素振りではない。
力強く。それでいて、全てを喰らい尽くすような獰猛さを感じさせる雰囲気をオルガは放っていた。
「名瀬さん、俺たちは――――」
賽は投げられた。
それがどのように転がり落ちていくのか、それとも駆け上がっていくのか、世界はまだその先を知らなかった。
こんな感じでの序盤でした。
次回以降はまだ未定です。
今年もよろしくお願いします。