Fクラスのツワモノ   作:シロクマ

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にじファンからやってきました。
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振り分け試験は波乱万丈

科学とオカルトと偶然によって開発された「試験召喚システム」を試験的に採用し、学力低下が嘆かれる昨今に新風を巻き起こした。

 

 

それがこの文月学園の世間的なイメージである。

 

 

 

 

振り分け試験の成績で厳しくクラス分けされるこの学園にとって、学力とは己の誇るべきものであり、武器にもなる。

 

 

そんな学生の向上心を高めるには絶好なこの環境――――――で、俺はなぜこんなことをせにゃならんのだ…。

 

 

 

 

 

ぶっちゃけ時間の無駄だろ、父さん。

 

 

 

 

 

 

ガリガリガリガリ。

 

かっかっかっかっかっ。

 

ガリガリガリガリバキィっ!!!

 

 

『(な……あいつ片手でシャーペン折るとか女なのにどんな握力だよ!いくらなんでも緊張しすぎだろ。

…おいおい、しかも予備持ってきてないのかお前は。あからさまに青い顔してんじゃねーよ)』

 

 

シャーペンの終焉にしては見事な大音量だった。

 

責務を全うできなかったシャーペンも、あそこまで見事な粉砕ぶりならば本望だろう。

 

 

 

 

そんなアクシデントに普通周りが気が付かないわけはないのだが、教師を含めこの教室にいる人間達は我関せずなスタイルを貫き通すらしい。

 

 

所詮皆ライバルって訳だ。

 

この試験で自分の運命が決まるとあっちゃ、他人を蹴落とすのは当たり前。

 

同情はするものの、明らかに予備を持って来なかったあいつが悪い。

 

 

左手に持ったシャーペンをくるくると弄びながらそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

…けどまぁ、面白かったし?

 

 

 

 

目標、右斜め前3メートル先。

 

 

左手用意……発射!

 

 

肘を固定し、手首のスナップを利かせて勢いよく放つ。ひゅん、と空気を切るように俺のシャーペンはぶれも無く綺麗な放物線を描き…。

 

 

 

サクっ。

 

 

ターゲットの頭にささった。

 

やべぇ。いや、でも片手でシャーペン折るような奴だし…きっと大丈夫だろう。

なんか悶絶しているけれど、気にしない気にしない。

 

 

 

ターゲットは頭を抑えながら涙目で振り返り、控えめにキョロキョロと犯人を探し出そうとしていたが、俺はそれこそ我関せずだ。

 

だって恨まれたくないし。

 

 

どうやら犯人探しは諦めたようで、今度はちょっと活気が戻ったような顔で問題を解き始めた。

 

『(ん、頑張れよー)』

 

 

 

…さて、また暇な時間に逆戻り、っと。

 

 

『(あと何分だよ、マジ試験こんな時間いらねぇだろ。もう暇すぎてダルいんですけど)』

 

周囲が必死で問題を解くのに必死になっている中、途中以降、手を一切動かさない俺に試験官は懐疑的な視線を向ける。

 

しかし何もしていないこと、それ自体は罪にはならない。

 

 

カンニング等の不正防止のためにいる試験官は俺にばかり構ってはいられない。すぐに俺から関心を移して教室内を巡回していった。

 

 

その直後。

 

 

ガタンッ。

 

派手な音のした方向を見ると、後ろの席で女の子が倒れている。

 

 

『(…わぉ)』

 

暇だ、という俺の願いが届いたのかと不安になるくらい、それはタイミングよく起きた。

 

 

 

「姫路さんっ!大丈夫姫路さん、しっかりして!」

 

「途中退席すると、無得点になってしますよ。それでもいいんですね?」

 

「そんな、先生今はそれどころじゃ!!」

 

 

 

…チャンス到来、だな。

 

 

 

途中退席は無得点。その手があったかと言わんばかりに、俺の心が歓喜で震える。

 

なるべく静かに立ち上がって俺は新たなターゲットに向かっていった。

狭い教室内だ、何歩か進んだだけですぐに目的地に辿り着く。

 

顔は真っ赤で息も荒い。そんな表情からして、急に倒れこんだのは突発的に起きたものではなさそうだ。試験前から相当無理をしていて、体のほうが限界を迎えてしまったといったところだろうか。

 

風邪…にしても試験日に体調不良とか試験なめてるというか、運が無いというか…。

 

これも自己の体調管理を怠った報い。

 

要は自己責任なわけだ。

 

 

 

――ゆえに、それを利用する俺は何も悪くない。

 

 

 

『先生。とりあえず俺、この子保健室にでも運んどきますね。先生は試験官だから抜けられないでしょうし』

 

 

「なっ!?途中退室はどんな状況であろうと適用されるんだよ、付き添いの君だって…」

『あーはいはい分かってます。それでもいいですから』

 

 

むしろそれが目的ですし。

 

 

 

床に倒れこんだ女子生徒の肩に触れて体を支えて暫しの間思案する。

 

さすがに病気の女を肩担ぎはダメ…だよな。

 

 

『姫路だっけ?ちょっと我慢してろよ』

 

 

ここはやはり姫抱きか。

 

 

「ちょっ、姫路さんに何を!まさか弱ってる姫路さんに毒牙を…!」

 

 

 

 

さきほどからちょろちょろと視界に入る男子生徒が俺に難癖付けてくる。

 

 

何とかしようとしてこの子に駆け寄ったのには関心した。

 

 

自分の人生の一部が架かっているともなれば仕方ないのかもしれないが、今だって、気にはなるけれどそれでも目線をテスト用紙から離そうとしない他の奴らに比べれば、よほど人間として尊いと思う。

 

 

が、如何せん、行動に移るのが遅い。

本当に心配しているなら先生と口論してる場合じゃないはずだ。

 

 

そんなんじゃ、俺に役を奪われたって文句言えないだろう?

 

 

「やっぱり姫路さんは僕が運ぶよ、心配だし」

『体格考えたら俺の方が早く運べるし、良いから早く席戻れよ。つーかただ保健室に運んでやるだけで大げさなんだよ、お前』

 

 

今のハプニング程度なら先生も大目に見てくれるだろう。さっさと試験を受けなおせ。

そういった軽い親切心からの発言だったんだが…。

 

 

 

「うそだ!運ぶだけだなんて、こんな可愛い姫路さんが弱ってるのを前にして本能を抑える男がいるわけ」

バタン!!!

 

すばやく扉の方へと移動し、聞くに堪えない発言を遮った。

 

 

 

『…はぁ。なんだ、あれ』

 

 

さっきの俺の親切心は無意味になるかもしれないな。

 

 

 

 

だってあいつ絶対バカだろ。

 


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