Fクラスのツワモノ   作:シロクマ

12 / 14
測りかねる真意

Eクラスとのバスケで大いに遊びに興じた後、和気藹々とした空気のまま俺達は解散した。

 

 

置きっぱなしにしてあった教科書の詰め込まれてるカバンを取りに行くため、渡り廊下を歩いて教室へと向かう。

 

放課後という時間帯のせいか、教室棟に人気はなく普段とは一風変わった雰囲気が醸し出されていた。

 

この様子なら皆とっくに下校してるかな、という俺の予想は、クラス内にいる一人の人物によって外れることになる。

 

 

『…雄二?一人で教室残って何してんの、お前』

 

学生が学校に一人残ってする行為といえば限られてくるが、雄二は勉強しているわけでも、読書しているわけでも、ましてや眠りに耽って帰りそびれたわけでもなさそうだ。

 

 

「ようやく来たか。カバンがあったからいずれ戻ってくるだろうと思ってな、待ってたんだ」

 

名前を呼ばれた当の本人はといえば、手をスラックスの両ポケットに突っ込んで教卓に持たれかかっていた。

 

 

始業式初日に先生のもたらした微々たる衝撃で破壊された教卓は、その日のうちに交換されて新たな物が支給された。

にも関わらず、新品とは思いがたい年季の入ったそれに、体重をかけて持たれかかるのもどうだろう。

 

また壊れるんじゃね?

そう忠告しようかとも思ったが、わざわざ心配するような相手でもないかと教卓の事は無視して雄二と真っ直ぐ対峙する。

 

 

『わざわざ俺を?何の用だよ』

 

恐らく今日実行したAクラスの偵察に関したことだろうけど。

 

「ああ。明日のAクラス戦だが、各クラスそれぞれ5対5での勝負になった。ちなみに教科の選択権はこちらに与えられている」

 

内容を見る限り、Aクラスに結構なハンデをもらったようだ。

 

『へぇ。ま、妥当なんじゃね?』

「俺としてはクラス代表同士の決戦に持ち込みたかったが、そうだな。だがこれで俺達の勝利は決まったも同然だ」

 

どうやら今回の試召戦争は雄二も進んで手を出すつもりのようだ。

 

『雄二に秘策があるのはなんとなく理解したとして、早く本題に入って欲しいんだけど』

 

「5対5の勝負では、3勝したクラスの勝利となる。…そこでだ。お前にその一勝を担ってもらいたい」

 

…なるほどね。

 

「ケイ、お前のEクラス戦での召喚獣の操作は、初めてかと疑うくらいの出来栄えだった。数学の点数もまぁ、それなりだ。それに授業を見る限り、お前英語は人並み以上に出来るだろう。発音やら何やら完璧だったしな」

 

召喚獣の操作はともかく、Eクラス戦での数学の点数はAクラスに匹敵するほどのものではない。

英語だって、授業中に様子を見る程度で実力を把握したとは言えないだろう。

そんな不確定要素満載の俺を勝ちの頭数に入れているとは思えない。

 

前に貰った成績のデータから推測するに、恐らく雄二がFクラスの勝因として期待しているのは瑞稀と康太の二人だ。

瑞稀の学力は正直、学年トップと比べても遜色ない。

その実力は既にEクラス戦で発揮されており、誰も疑う余地は無い。

 

対して康太は保健体育の1教科のみ、誰よりも成績が抜きん出ているという訳の分からない奴だが、教科の選択権が与えられているならその保険体育という強みを発揮出来る。

その点では勝利は確実ともいえるだろう。

 

 

残るは雄二自身の実力だが…どうなんだろう。

 

だが、もしこいつが意図的に実力を隠しているなら…あるいは。

 

まぁ、変な推測をしても仕方が無い。

雄二の実力とやらはこの目で見させてもらうとしよう。

 

 

『…俺は参加しねーよ。悪りぃけど頼むなら他のやつ当たってくれ』

 

 

――観客という第三者として、な。

 

「断られる事も考えてはいたが…お前、本当にやる気無いな。少しはやる気になってくれたと思ってたんだが」

 

白けたように半目になって俺を見る。

 

『別に良いだろ?俺のことなんて保険程度にしか見てないし、お前』

 

 

俺は先ほど述べた瑞希や土屋という本命のスペアといったところだろう。

 

勝つに越したことは無いけど、負けても別に困りはしない。

きっとそんな存在程度にしか思われていないはずだ。

 

「いや?これでも期待はしてるぞ。この間の試召戦争でも俺の予想以上の働きをしてくれたしな」

『そうだよ。あの一回で十分貢献しただろ?だからこれ以上俺を働かせんな』

 

そっけなく返す俺の言葉にため息をつく雄二。ため息を吐きたいのは俺の方だ。

 

「ケイ、お前だってAクラス設備のほうが良いだろ?高級ホテルのロビーみたいな外観、フリードリンクにお菓子の食べ放題。巨大な液晶テレビに個人所有のパソコン。どれをとっても、喉から手が出るほどに羨ましい環境だ」

 

『別に?俺、ホテルのロビーで勉強したいなんて思ったことねーし』

 

お菓子や飲み物なんて自分で好きなものを買ってくればいい。

テレビもパソコンだって既に自宅に十分なものを所有している。

 

高級ホテルの如き外観だって、俺は学業の場にそんなもの求めたりしない。

ああいった空間に浸りたくなったとしても、実際にホテルに赴けば良いだけの話だ。

 

望めば全て手に入るものに対して、羨むはずもなかった。

 

『俺さ、初めて会ったときに言わなかったっけ?FクラスはFクラスで楽しいって。そんな説得方法、俺には聞かねぇよ』

「こんなボロい教室に好意抱くのなんてお前だけだぞ。それに、Eクラス戦には参加して何でAクラス戦はそこまで頑なに拒むんだ」

 

分からない、とでも言いたげな顔をしている。

 

『そんなに難しい話じゃねーよ。まず第一に、俺にとってのメリットがほぼ無いのに無駄な時間を使いたくない』

 

「…まるでEクラス戦には十分なメリットがあったみたいな言い方だな」

 

『ああ、おかげで手っ取り早くEクラス連中と仲良くなれた。さっきだって皆でバスケしてたんだぜ?』

 

俺の口にした意外なメリットに、雄二の説得が一時止まる。

 

「お前、そんな理由で…」

『まぁ、そこは価値観の違いだな。俺は人生においてスポーツは大事な位置を占めてると思うよ。ストレスを間単に発散してくれるし、単純に人としての魅力も上がるし…なにより、交友関係が円滑に進む』

 

 

それがEクラス戦で俺が望んだ【粗品】。

 

明久へ殴りかかるなどの態度を見て一時は期待外れかとも思ったが、あれは一時的に気持ちが高ぶって暴走していただけのことだ。

 

あの後俺や明久にに謝りに来たり、案外気の良い奴らばかりだったのが良い証拠。

Fクラスはゲームやる奴はいてもスポーツやるやつは少なかった事を省みると、その点Eクラスの存在はありがたかった。

 

「…第一にってことは、第二の理由もあるのか?」

『そうだな。例えAクラスに勝てたとしても、その後のAクラスに居続ける為に必要になる労力が割に合わないってのもある』

「そんな先のことを考えて目の前の可能性を諦めちまうのか、お前は」

『だから、その可能性自体が今回俺にとってはどうだって良いものなんだってさっきから言ってんだろ』

 

分からない奴だな。

 

『まぁ、あとはあれだ…FクラスがAクラス設備を使うのは分不相応だと思うから、かな』

「不相応?」

『Aクラス設備は、言ってみれば学力優秀者に与えられる相応の対価だ。それがあるから一定の人間に対して勉強の意欲を高めるさせることが出来るし、他のクラスの連中もその環境を目標にして学力を向上させようとする。そういう効果がある』

 

この学園はそういった手法も用いて生徒の学力向上を成功させている。

それはあまりに即物的すぎて、学校という公共の場がこれで良いのかと時折外部から囁かれるときもある。

 

もっと平等に、もっと健全に、と。

 

それでもそれらを跳ね除けるほどの結果を出している以上、正面からバッシング出来る輩はそうはいないし、

言ったとしても、それが聞き入れられることなんか無い。

 

当事者である雄二であっても、それは変わらない。

 

 

『そういうサイクルをまっとうな方法ならともかく、小賢しい知恵で壊すのは忍びないってのが俺の感想』

「単純な学力で勝てない相手だからこうして地道に作戦を練ってるんだろうが」

『そりゃそうだろうけどさぁ…良いや。大半の生徒はお前に賛成してやる気になってるみたいだし、俺がとやかくいっても仕方ないもんな。今は俺が巻き込まれないだけで良い』

 

「…いいだろう。今回はそれで構わないが…今後もずっとそんな態度が許されると思うなよ。どんな理由があろうと、お前はFクラスの一員なんだ。Fクラスの戦争に対して、いつまでもお前だけ関係ないって態度じゃいられないぞ」

 

『最低限のやることはやっただろ?それに試召戦争以外の行事なら、大抵協力的に関わってやるつもりだし。そんな難しい顔するなよ』

「ならいいんだがな」

 

もう話すことはない、と言外に告げるように雄二から視線を外して歩いて行き、教室の扉に手を掛けた。

 

『明日、せいぜい頑張れよ。負けたら慰めてやるからさ』

「…やっぱりお前はムカつくな。一度その余裕ぶった顔をぶん殴ってみたくなる」

『はは、拳での語り合いとかいつの時代だよ。そんなの西村先生とでもしてれば良いだろ』

 

授業中の居眠りで頭に拳骨を食らっていたことを言葉の端に含んで雄二を茶化す。

 

「ケイ、やっぱりちょっと一回殴らせろ」

『嫌に決まってんじゃん、バカじゃねーの?じゃ、また明日な』

 

苛立った雄二の眉間にしわが寄って険しくなるのを満足げに眺めた後、最後とばかりに軽口を言葉に乗せる。

そして相手が何かアクションを起こす前に、本当に殴りかかられては困ると、手に掛けていた扉を横にスライドさせて閉じて教室を出て行った。

 

静まった廊下を一人、歩いて帰路へと向かう。

 

『ま、意趣返しになったかな』

 

少しばかり心が満たされたのか、そう呟きながらすがすがしい気持ちで学園を後にした。

 

 

…それにしても、クラス代表同士の決戦か。

 

【俺としてはクラス代表同士の決戦に持ち込みたかったが、そうだな。だがこれで俺達の勝利は決まったも同然だ】

 

そう豪語した雄二の言葉が、どうしても引っかかる。

 

雄二が一騎打ちで勝負するつもりだったと聞いて、その意外な考えに驚いた。

もしそうなっていたとして、勝てると本気で思っていたんだろうか。

 

 

――雄二が、学年主席(翔子)に?

 

 

俺は未だ、坂本雄二という人間を測りかねている。

 

本来ならばFクラスの雄二が勝つ、だなんてよほどの事が無い限り不可能だろう。

 

しかし俺同様、雄二が実力を表に出さず、隠しているとしたら。

元神童という噂が本当の事で、今もその才を密かに保有しているのだとしたら。

俺同様、意図的にFクラスに入ったのだとしたら。

 

 

気にはなる。

だが以上の事が本当だったとしても、こんな過程の話を考えても今は仕方が無い。

 

クラス全員に向かって、Aクラスに勝つと公言した男だ。

その言葉が本気なのであれば、実力もまた、明日になれば明るみに出ることだろう。

 

そう遠くない未来の話だ。考えなくたって、その目で見て確かめればいい。

 




雄二は便利なキャラだなーと書いてて思いました。

次はAクラス戦です。
12話まで書いてもまだアニメの2話の前半までしか進んでいないという事実。
もっと飛ばした方が良かったのかな。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。