Fクラスのツワモノ   作:シロクマ

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前話からだいぶ時間が空いてしまいました。
しかも…。


試召戦争 F対A ~前編~

AクラスとFクラス。

両者5名ずつが並び立ち、相対する。

 

 

「…なぜワシがラウンドガールなのじゃ?」

「何言ってるのさ、秀吉以外に誰がラウンドガールをやるっていうんだよぅっ」

「ワシはガールじゃないと言うとるのに…」

 

その間にいる秀吉がなぜラウンドガールとして活躍しているのか、その衣装はどこから持ってきたのか。

特に誰も疑問を抱くことなく、秀吉のすぐ隣にいる高橋先生さえもそれを意に介する事のないまま、戦は始まりを告げた。

 

 

それと同時に、奥の壁に設置された大型スクリーンに映し出される「エリートVSバカ」の題目に、Aクラス側の悪意がありありと感じられた。

 

5対5の勝負ということもあり、多くは暇を持て余しているわけだが、大多数の人間は自分の所属するクラスの応援のため、彼ら戦い手として選ばれた彼らの周りを囲むように集まっている。

 

 

そんな喧騒(けんそう)から遠く離れたソファに深く腰を下ろし頬杖を吐きながら、俺は騒動を遠巻きに眺めていた。

 

 

高橋先生によって展開された召喚フィールドによって、ざわめいていた観衆たちのテンションも高まっていく。

 

「頼んだぞ、島田」

「それじゃ、行ってくるね!」

 

腕を組んだ雄二の激励と共に、クラスメイトに笑いかけながら美波は前に躍り出ていった。

対するAクラスからは、一昨日の放課後にFクラスへ大使としてやってきた木下優子が悠然と進み出てくる。

 

「早いところ済ませましょう?どうせ勝負にならないんですから」

「Fクラスだからって舐めないでよね!」

 

両者の戦いが始まろうとした、そのときだった。

 

 

横からスッと、コーヒーの入ったカップとソーサーが俺自身に差し出される。

不意な出来事に何事かと振り返ると。

 

 

「――少しは応援してあげないと、クラスメイトがかわいそうじゃないかい?京くん」

 

『どうせ俺の声なんて、他の奴らの野太い声でかき消されるだけだろ。――久しぶりだな、利光』

 

 

2年Aクラス、久保 利光。

俺の昔なじみが、随分と懐かしい顔が、傍に立って微笑んでいた。

 

中身をこぼさないよう慎重に、両手が塞がっている利光から飲み物をゆっくりと受け取った。

無事に手渡されたは良いものの、処遇に困ったままコーヒーを手に暫し思い悩む。

 

『…Aクラス設備のドリンクサーバーを、俺が使っちゃって良いわけ?』

「僕が勝手に渡したんだから気にしなくて良いよ。それに本来、君は誰よりこの設備に相応しいんだから。…どういう訳かFクラスにいるけれど。てっきりAクラスに来てくれると思っていたのに」

 

大げさなリップサービス、そしてちょっとの嫌味と不平と共に、利光もまた俺の向かいにあるテーブルにカップを置いてから席に落ち着いた。

 

『いろいろと事情があんだよ、俺にも』

「それに関しては後でじっくり聞かせてもらうとするよ。…それにしても、しばらくぶりの再会にしては随分と寂しい挨拶だね。向こう流にハグの一つくらいはあると思ったのに」

『コーヒー持ってる人間相手にそんなことするかよ…やけどさせたいくらい嫌いな相手なら考えるけど。それに、お前相手に俺、そこまで情熱的になれないし』

 

俺の淡白な反応に肩をすくめられた。しかしその表情には確かな喜びが描かれていて、それに釣られたように俺も笑ってしまう。

 

「ひどいな。これでも君の隣に立っても恥ずかしくないように努力してきたのに」

『あぁ、学年次席だっけ?すげぇなマジで』

「よく知ってるね。でも違うよ、そうじゃない」

 

投げやりな賞賛だったのを感覚的に感じ取ったのか少し苦笑した後、この場にそぐわない程の真剣な顔を作り上げ、言葉を続ける。

 

「勉強の事じゃない。君が海外で励んでいる間に、日本での交友関係の基盤を僅かながら作って置いた。そういう会合なりSNSなり、僕に出来うる全てでね。これで僕を足がかりに国内での人脈も作りやすくなるはずだ」

『――へぇ』

 

俺が思っていた以上に、久保利光という男は成長していたらしい。

言われなくても俺の一番望んでいるものを分かっていて、先回りして行動してくれていた。

 

もしも学年次席程度を誇りに思って満足しているのなら、昔馴染みなりに徹底的に駄目だししまくって矯正してやろうかと考えていたのだが、それは無意味な邪推に終わった。

 

『…人って変わるもんだな』

まさかここまで有能になっているとは思わなかった。

 

 

…しかし、だからこそ。

少しは役に立ったかな。とこちらを見つめて言葉を待つ利光は、とても…。

 

 

椅子に思い切りもたれて、思わずガシガシと乱雑に頭をかいた。

 

『あー…お前さぁ、俺がここにいる理由、誰かから聞いてる?』

「もちろん。京くんのお父さんから直々に連絡を貰ったのは驚いたけどね。僕も、僕に出来ることなら何でも手伝うよ」

 

 

…あぁ、やっぱりこいつなんだ。

 

 

利光は俺の昔なじみで、友人で、親友だ。

 

 

けれどここ文月学園では、父さんがあつらえた学内における……俺の駒。

 

それを素直に喜べないのが、俺のある意味での弱点だ。

あくまで友人として接したい気持ちが大きく存在しているから、だからどうしても複雑な気持ちが先行してしまう。

 

この状況を甘んじて享受しようとする利光を見たら、余計に。

 

 

『…お前まで父さんに踊らされる事ないと思うけどな、俺は』

 

俺が対処しようとしているのは、大衆に表立って褒められるものではない。

それを仮にも親友の位置づけにいる人間に強制させるようなことは、出来れば避けたかった。

 

 

…もし仮に、利光が将来への出世欲とか保身とか、そういう気持ちで俺の傍にいるのなら。

それなら俺はきっと、利害の一致とばかりに割り切って、駒としてこき使えるのに。

 

なまじ、こいつが俺に好感を抱いてくれるから。

(よこしま)な考えなしで純粋に慕って、それでも尚、友人として接してくれるから。

 

だからこそ俺は、俺の私事に利光を巻き込ませるようなことを歓迎することが出来ない。

 

 

けれどもそんな霧がかったような迷いは、利光本人のはっきりとした否定の言葉で瞬く間に晴れていく。

 

「…先に言っておくけれど、京くん。僕は単純な親切心だけで手伝いたいと思っているわけじゃないよ。いずれ君の右腕になりたい、そしてその座を他の誰にも渡したくない、そんなささやかな野心を抱いているからこそだ。そればっかりは、他の誰にも譲れないからね」

『…くそ真面目な顔してそんな恥ずかしいことサラッと言うんじゃねーよ…』

 

少しもずれていない眼鏡を指先で掛けなおして、真剣に俺を見据える利光。それを見て、不安や懸念がまるで存在しなかったかのように、あっという間に吹き飛んだ

 

生半可な気持ちでこんな表情は出来ないだろう。だからこそ、それだけの覚悟なのだという事が十分に伝わってくる。

 

…本当に、ずいぶん見ないうちに成長したものだ。

 

 

『……頼りにしてる』

 

ポツリと紡いだ言葉が相手に伝わったのを空気で感じ取る。

くすぐったい程のこの雰囲気から逃れようと、さも事も無げに目の前にあるコーヒーを口に含み、残ったその深い闇に目を凝らした。

 

高級設備を謳うAクラスに存在する物にしては食器類もコーヒーの味も、どこか安っぽさが際立った品に軽く疑問を抱く。

 

『(どうせやるなら徹底的にやれよ…)』

 

外観はともかくとして、どうやら思ったほど何もかもが一級品で囲まれているわけではないらしい。

良くてファミレスレベルの調度品と言った具合は、少なくともこの賢覧豪華な教室には不釣合いだ。

その妙なアンバランスさが気になって仕方ない。

 

そんな現実逃避にも近い他事で埋めていた思考は、周りの喚声と怒号でふと現実に引き戻された。

 

「勝者、Aクラス、佐藤美穂」

「テストの点数に、利き腕は関係ないでしょうがっ!」

 

淡々とした公平な審判らしい高橋先生のジャッジの後、美波の手厳しい拷問が明久を攻め立てていた。

 

なんていうか、人として野蛮すぎるだろうあれは。

短気な点もそうだが、その怒りを直接的な暴力に変換させてしまうあたりが、美波の残念な所だ。そして明久の無自覚な失言と言動、そして意外な打たれ強さがそれを助長してしまっているのが妙に物悲しい。

 

 

『よそ見してる間に、二戦目まで終わったか。0勝2敗…美波も明久も、あっけないな』

 

Aクラスは早くも巡ってきた勝利へのリーチに沸き立っている。対して気分が降下気味のFクラスだが、こちらも本命が控えているためか未だ闘志を失う事は無いようで、応援の声がやむ事は無かった。

 

「佐藤さんも容赦ないな。吉井くんは観察処分者なのに、ああもまともに一撃を食らって体は大丈夫なんだろうか…?それにしてもあの女子も何であんな酷いことを吉井君に…ただ負けただけであそこまでしなくても…」

 

ただの他人である明久を心配をするにしては、いつになく感情が揺れている利光に思わず首を捻る。

 

明久が観察処分者であることはFクラスでも少数の人間しか知らなかった事実。なのに利光、何でお前そんな詳しいんだ。

 

そして――ふと、彼の過去が頭を過ぎる。思い当たった理由を頭に浮かべてなるほど、と妙に納得した。

 

 

『…あぁ。何だお前、まだその性癖直ってなかったのか。俺の次は明久ねぇ…なんかお前の好みって、いまいちよく分かんねぇな』

「なっ、せ、性癖ってべ、別に恋とかそういうわけでは…!」

 

誰も恋なんて言ってねーし。

 

『いや、俺に害が無いならお前がゲイだろうがなんだろうが気にしねぇけどさ。ただ日本ってそういうの寛容じゃないじゃん?どっかで足元掬われないように気をつけろよ?』

「え、や、だ、だからそうじゃなくて!」

『はいはい。ほら、明久のアド教えてやるから』

「え、本当かい?さすが京くん…はっ!」

 

何こいつ単純すぎて怖い。

そしてそんな事でさすがとか言われても全然嬉しくない。

 

 

さっきまであんな頼もしいことを言ってのけた男とは似ても似つかない。手のひらを返したように一気に不安な気持ちで襲われそうになる。

 

『手伝ってくれんのは助かるけど利光、お前…あんま俺の足引っぱるようなことするなよ?』

 

こればっかりはふざけた掛け合いは出来なかった。割と本気な声で忠告しておく。

 

「それは、僕だって分別をわきまえるくらいはできるさ。――仮に、君の (かせ)になる様な事態になったら、躊躇わずに僕のことは切り捨ててくれて良い」

『…お前ってほんっと』

 

馬鹿だ。

いや違う、この場合はなんというべきか。

思いつく語彙が見当たらず、言葉が宙に浮かんだまま立ち往生した。

 

しかしそんな俺を不思議そうに待っている当事者に気付いて、これこそ馬鹿らしいと言葉探しは早々に諦めることにした。

 

こいつは自分の価値を本当の意味で正しく理解していない。だからこんな見当違いな事を言ってのけるのだ。

そんな利光をなじっても、きっと俺の思ったようには伝わらず、違う受け取り方をして更に迷走するだけだ。

 

だから代わりに、一言だけ遠まわしに告げることにした。

 

『切り捨てられそうに無いから先に忠告してんだ。分かれよそんぐらい』

 

 

俺が実力やステータスを身に付けるたび、周囲に褒めそやして媚びる人間がどんどん近付いて来る。

 

上辺だけの付き合いに微塵のためらいも無くなるほど、分かりやすいくらいの欲で溢れた目をする輩が、俺の周辺にはあまりにも多い。

 

そして自分に都合よくなるよう、俺に甘言をささやくのだ。

父親はともかく、齢を重ねていない俺ならば御し易いだろうという、屈辱的な理由を携えて。

 

そんな煩わしい人間関係を経験すると、痛いほどよく分かる。

 

数え切れないほどの交友関係を持ってしても、心から友人だと胸を張って言える相手は両手で数えられるほどしかいない。

 

そんな俺の現状で、曲がりなりにも利光のように友人として接してくれる人間はとても貴重だ。

 

唯一厄介だと思っていた俺への恋慕も、年月を経て明久(ほか)に移ったとあれば、もうこんな優良物件他には見つからないだろう。

 

そんな奴が将来の右腕になってくれるというのに。

 

 

そう簡単に、手放してなるものか。

 

 




翔子出したかったのに久保君に邪魔されました。
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