Fクラスのツワモノ   作:シロクマ

14 / 14
ずいぶん投稿間隔が開いてしまいましたお久しぶりです。


試召戦争 F対A ~中編~

「ちょっと、久保くん!と、…誰?確かあの時Fクラスにいた――」

 

利光との談笑が、無遠慮に横から遮られた。

俺も利光もソファに座っている状態のため、自然と見上げる形で第三者に視線を向ける。

 

声の主の正体は、腕を組んで立っている木下優子だった。

 

見慣れない俺を不審な表情で窺う木下に、利光が説明を買って出る。

 

「木下さん、彼は藤本京くんといって、僕の…友人なんだ。この間転入して来たばかりだから、木下さんが知らないのも無理は無いよ」

 

友人と紹介するのはまったく構わないが、なんか気味悪いから照れながら言うの止めろ。

 

そんな思いで利光を横目に一歩引いた目で見るが、このまま現れた木下に対応しないわけにもいかない。辛辣な言葉をグッと飲み込んでさっさと話を進めることにした。

 

『どーも。で、利光になんか用?なんかすげぇ剣幕だったけど』

 

自分が必要以上に大声を出した自覚があるのか頬を少しばかり赤く染めながらも、木下は誤魔化すように俺から目を逸らして利光に非難を向ける。

 

「べ、別に用があるって訳じゃないけど…仮にも試召戦争中なんだから、選手に選ばれた以上は終わるまでふらついたりしないで欲しいってだけよ。もちろんこのまま私達Aクラスが3連勝して終わるだろうし、久保くんの出番なんか無いだろうけれど…だからって不真面目に取り組んで良い理由にはならないでしょう?」

 

「そうだね。京くんには久々に会えたから、嬉しくてつい。勝手に場を離れてしまってごめん、木下さん」

 

『………』

 

木下の言っている事はとても真面目で殊勝だ。いわゆる優等生の鏡ってやつ。

 

 

けれど少し、思い込みが激しいんじゃないか?

 

Fクラスは、そう素直に負けてはくれないだろうよ。

 

 

ワァァァァァァ!!!!!!!!

 

召喚獣で戦っているフィールドを中心に、一際強い歓声が巻き起こる。

 

 

「あぁ、終わったわね。授業を潰してまでこんなくだらない事に付き合うはめになるなんて、本当災難だったわ。まぁ、これに懲りてFクラスが少しは大人しくなれば良いんだけど」

 

ため息を吐いてこの場を離れようとする木下がおかしくて、笑いを含んだ口元を手の甲で軽く押さえながら問いかける。

 

『なぁ、終わったって、何のこと言ってんの?』

「はぁ?試召戦争のことに決まってるでしょ?…何?まさかここまで徹底的にやられて、まだ負けを認めないつもり?見苦しいを通り越して呆れるわ」

『木下ってさぁ…けっこう鈍感?いや、鈍感っつーか、視野が狭い?』

 

 

だって彼女はいまだ気付いていない。

 

歓声を挙げたのは誰だ?悲鳴を挙げたのは誰だ?

気色の笑みを浮かべる人間、それとは対照的に信じられないと頭を抱える人間。

それぞれがどのクラスの人間か、見ればすぐ答えに行き着くのに。

 

Aクラスが全勝して幕を閉じるビジョンしか描いてなかったのだろう。

だから現在の状況を、周囲の反応から把握する事が出来ない。

 

俺に好きに言われて苛立ったようで、木下は語気を強めて言い返そうとする。

 

「何が言いたいのか知らないけど、あなたいい加減に――」

「あーいたいた、見つけたよ久保くん!もう、傷心のボクをこき使わせないでよね。…あれ?優子も一緒にいたんだ。何してるの?」

 

木下の勢いはこの場に新たに出現した女子の登場により、出鼻をくじかれる事となった。

 

 

「…別に、ちょっと言いがかり付けられただけよ。それよりお疲れ様、愛子。さっさと終わらせてくれてありがとうね」

 

一旦冷静になったことで自分がくだらない事をしているとでも考えたのか、俺との諍いを早々に切り上げて勝者を労うかのように女子を称える木下。

その口ぶりからして、どうやらこの短髪でライトグリーンの髪色をしたこの女生徒が三戦目の選手だったらしい。

 

「あ、あはは…手厳しいなぁ、優子は…あの、もしかしてすごい怒ってる…?」

「え、どうして?」

 

苦笑いを通り越して顔を引きつらせる相手に対して、ただ疑問符を浮かべる木下は…端から見れば、ものすごく残酷だ。

 

「えっと、その、負けちゃってごめん優子!優子がそんなに怒るんて…」

 

「え?ちょっと、愛子?」

 

「ボクが勝ってFクラスにとどめを刺すはずだったんだけどムッツリーニ君がボクより強くて…強くて……ハハッ、保健体育は自信あったのになぁ…」

 

引きつって強張った顔が次第に涙目に、そして最後にはうつろで光を失ってどこか斜め遠くを映す。

それによって自分の勘違いをようやく理解した木下は慌てて女子に駆け寄る。

 

「――あ、だから傷心って言って…ち、違うの!別に愛子を責めたわけじゃなくて!その、私てっきり愛子が勝ったんだと勘違いしてて、それで」

「ボク、瞬殺だったなぁ…ムッツリーニ君ボクより点数高かったし、ボクって駄目だなぁ」

 

しまいには床に両膝を抱えてしゃがみ込んでしまう。すぐ近くでソファに腰を下ろしている俺と利光がいる分、更にその姿はシュールな光景として周囲に映りこんだ。

 

「駄目じゃない、全然駄目じゃないからっ!?ごめんなさい、謝るから愛子戻ってきて!?」

 

必死になだめる木下とどん底まで落ち込み肩を震わせる相手を見下ろしながら見つめるが、この流れが終わる気配は一向に見られない。

 

 

『…いい加減、この茶番終わらせてくんねぇ?これ以上長引かせてもグダグダになるだけだろ』

 

だから、痺れを切らした俺は主役に提案することにした。

 

「ちょっと、愛子がこんなに落ち込んでるのに茶番って何言ってるのよ!」

『まぁ、落ち込ませたのは主にお前だけどな?』

「そっ、それは、そうだけど…」

『それに心配しなくても、本気でへこんでる訳じゃねぇって。そいつめちゃくちゃ笑ってんぞ』

 

「…え?」

「…………ぷっ」

 

限界を迎えたのだろう。

小刻みに震えていた肩がしまいには大きく揺れ、床を見つめていた顔を上に仰がせて、堪えていた笑いを天井に吐き出した。

 

「あー、おかしかった~。優子のあんなに焦った所が見られるなんて思わなかったよ」

「ちょっ…まさか今のって演技!?」

 

動転した木下が気付かないのも無理は無い。俺が気付いたのだって地の利があってこそだ。

木下や利光の位置からは見えなくとも、彼女を斜め正面から見下ろせる俺の場からはその口端が緩むの所がはっきりと見えたのだった。

 

「ごめんごめん。うーん、でもショック受けたのは本当だよ?だって【早く終わらせてくれてありがとう】だなんて、本気で優子が笑顔でボクに毒吐いたかと思ったもん」

「うっ…それは本当にごめんなさい。でも、まさかFクラスが勝つだなんて…」

 

保健体育がどうのと言っていた様子からして、Fクラス側の選手は康太が出たのだろう。Aクラスに貰ったハンデが、ここでようやくFクラスに良い結果をもたらした。

 

「まぁしょうがないよ。ボクが油断していたのも敗因だけど、元々100以上の点数差をつけられてたら、ね。…あ、そうそう。それで4回戦のために久保くんを呼びに来たんだ。次は姫路さんが来るみたいだから、次席の久保くんに頑張ってもらわないとね!」

 

そういえば木下も利光が選手だと言っていたな。ここでようやく利光が参戦するわけか。

 

「あぁ、わざわざ呼びに来てくれたのかい?ありがとう、工藤さん」

「いいよいいよ。それにしても、優子をからかうので目的を忘れるところだったよ。そこの彼が止めてくれなかったらもっと……あれ?」

 

この時ようやく俺の存在をまともに認識したようで、まじまじと見つめたと思ったら好奇心旺盛に瞳を輝かせてこう言った。

 

「どうして【王子様】が久保くんや優子と一緒にいるの?」

 

『……はぁ?』

 

工藤と呼ばれた彼女から急に寒気がするワードが俺に向けて放たれて、思わず眉間に皺を思い切り寄せて反応する。

初対面の人間にかける言葉としては最低の部類だが、正直今回のこれは許されるレベルだろう。

 

「えー?だって密かに有名だよ?振り分けテストで倒れた姫路さんを、保健室にお姫様抱っこで連れて行った王子様って。テスト中だったからみんな顔は見れなかったけど、紫色の髪で背の高い男の子って聞いたし、それってキミのことでしょ?本当にすごいな~」

 

普通は出来ないもんね、とニコッと笑って告げる工藤に悪意は読み取れないが、そのさも面白そうに含み笑いをする姿に、からかいのターゲットが完全に木下から俺に移行したのを悟った。

 

そして、その噂が本当に広まりつつある事も。

 

 

――あの場では誰も見向きもしなかったくせに、どうやら口だけは達者な奴がいるらしい。

 

くだらない呼び名に辟易する。やっかいな噂を立てられてしまったものだ。

 

『その呼び方止めて欲しいんだけど。俺、王子様とかいうのガラじゃねーし、正直その呼ばれ方すげぇ鳥肌立つわ。それに藤本京っていうちゃんとした名前があるんだよ、俺は』

「へぇ、藤本くんっていうんだ。ボクは工藤愛子って言うんだ。ヨロシクね」

 

工藤は、俺の心なし威圧を込めた言葉程度ではビクともしない。

初対面でも分かる彼女の奔放さと快活さを見せ付けられるだけに終わった。

 

「…それにしてもキミ、カッコ良いし、王子様っていうのもけっこう似合ってると思うけどなぁ。そんなに嫌?」

 

常識的に考えて、王子呼ばわりされて喜ぶ高校生がいたら、どんなに顔が良くても気持ち悪くてドン引きだろう。

 

定着しないように気をつけなければと心に誓った俺を他所に、これまでしばらく沈黙を守っていた利光がここにきてようやく口を開いた。

 

「…京くん、今の話は本当かい?姫路さんを、お姫様抱っこで、保健室に連れていったというのは」

 

 

何でそこに反応するんだ。

お前もう俺のこと好きじゃなくなったんじゃねーのかよ。

 

【お姫様抱っこ】の部分がより強い口調だった点には特に他意は無いのだと信じたい。

 

利光には俺のその行為の本来の目的を伝えたいのだが、如何せん、周囲に人がいる状況ではとてもじゃないが告げられやしない。

 

こんなとこで言えるわけ無いだろう。

元々親にFクラスに行けと言われていて、そこにたまたま瑞希が倒れたからラッキーと思いながら保健室に運ぶ名目で退室した、だなんて。

 

『…間違っては無いな。俺的には不本意だけど』

 

この状況で俺に出来る事は、苦々しくも肯定する事だけだった

 

「……そうか」

 

静かに俺の答えに頷く利光に不審な目を向けるが、利光は長らく座っていたソファから立ち上がってこうとだけ告げた。

 

「相手を待たせても悪いしね。そろそろ行くよ。それにしても、そうか…だから京くんはFクラスにいるんだね。…それなら、僕は彼女を潰すのに何の躊躇いもいらない」

 

そんな物騒な言葉を残して、利光は真っ直ぐに試召戦争の中心地へと歩みを進めていった。

 

俺が何か言葉を告げる暇も無く遠ざかっていく利光を見て、なんとなくではあるが、確信した。

 

 

…あいつ、何かものすごい勘違いをしてるんじゃないか、と。

 

 




うん、なんか…いろいろ詰め込みすぎた。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。