Fクラスのツワモノ   作:シロクマ

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決戦当日~不完全な回復試験~

決戦当日~不完全な回復試験~

 

 

昨夜の事が頭から離れない。

 

晴れ晴れとした天気にも関わらず、俺の心は天気とは正反対の感情で埋め尽くされていた。

そんな憂鬱な気持ちのまま、学校の玄関で靴と上履きを履き替え階段を上がる、その直前。

 

今更になって大事な事に気づいた。

 

階段を上ってすぐにはAクラスの教室が、ある。

可能性でいえば無いはず…だが、もしばったり出会ってしまったら?

 

 

『(…本気で会いたくねぇ)』

 

このままで良いはずが無いことくらい、理解している。

 

この学園に何ヶ月、何年滞在するのかは分からない。もしかしたら卒業するまでかかるかもしれない。

その期間まで同じ学年同士の人間が、顔を合わせず存在すら知られないなんて事が…果たしてありうるだろうか。

 

たとえAクラスとFクラスというクラス的に最も距離の開いた教室同士だったとしても…そんなのは無理だ。

学園の行事への参加や、周囲との交友関係を俺が築くたび、俺とあいつの距離は近づいて行く。

 

 

 

それでも…今は、まだ。

 

 

自分が取る行動を予測出来ない。

 

そんな状態で、翔子に会うわけにはいかない。

 

 

自分の精神的な弱さを自覚しながら目の前の階段に背を向け、別の道から教室へ向けて歩き出した。

 

 

 

教室が視界に入るほどに近づいた頃、向こうからやってくる明久に声を掛けられた。

 

「あ、おはようケイ。昨日はありがとね。…あれ、今そっちの階段から来たの?下駄箱は正反対じゃないか」

 

俺の事情を知らなければ、この疑問ももっともな物だろう。

本当の事を言う気は全く無い俺は、それらしい理由で言い繕う。

 

『おはよう明久。…まぁ、気分の問題だな。距離的にはFクラスの俺たちはどっちの階段使ったって大差ないし。それに、雄二にEクラスをこれ以上刺激するなとも言われてるから。あんまし出会わない方が良いと思ってな』

 

「そっか、確かにEクラスの前を通るときはじろじろ見られたよ。僕達のクラスも向こうを睨みつけてたから、お互い様だけどね」

『どんな世界でも、勝負前なんてそんなもんだろ。あまり気にするなよ』

「うん、今日勝てば、このボロい教室ともおさらばだし、気にしてなんかいられないよ!」

 

既に勝利後のことに思いを馳せる明久。

気が早い奴だ、と呆れるが、明久の試召戦争をしたい理由が瑞希のためであると聞いたせいか、なんだかその様子が瞳に微笑ましく映る。

 

そのまま雑談を続けながら一緒に教室に入って行った。

 

 

 

授業中。

 

今日はEクラスととの試召戦争が始まる、ということもあってか、教室内の誰もがそわそわと落ち着き無く、集中力も欠けている。休み時間毎に口にする話題もまたそのことばかりだ。

 

皆が皆、逸る気持ちを抑えきれないらしい。

二年生になったばかりのこのクラスメイト達にとって、試召戦争は初の試みであるため、気持ちが高ぶるのも仕方が無いことなのかもしれない。

 

先生達もそのことをよく理解しているからか、注意散漫なクラス全体の雰囲気に苦笑こそするものの、それを指摘する者はいなかった。

 

例外として西村先生だけはそんなFクラスに一喝し、気を引き締めていたが。

 

西村先生はともかくとして教師陣の態度から察するに、それほどまでに試召戦争は学園の一大イベントとして優遇されているという事を物語っているわけだが。

それが原因で普段の授業が疎かになるのなら何かしらの改善案を考えなければならないだろう。

 

…5限目にしたのがそもそもの間違いだったか?

朝っぱらからやらかした方が良かったかもしれない。

 

しかし俺のような考え方はごく少数のようで、数式の暗記や練習問題に取り組む人間の多さに何とも言えない気持ちになる。

 

悪あがきという言葉の良く似合う光景だった。

 

その時間を指定したのも雄二の目論見の内に入っているのかと思うと…つくづく才能の無駄遣いだと思う。

 

その悪知恵をもっと他の事に使えれば、問題児だなんて不名誉な肩書きなど付かなかっただろうに、と。

 

 

 

「戦闘の立会いには、長谷川先生を使う。ちょうど、5時限目でEクラスに向かうところを確保する」

 

黒板に描かれた校舎の模式図に、雄二は次々と作戦を書き込んでいく。

 

「長谷川先生というと、科目は数学?」

「数学ならウチは得意よ」

 

いまさらになって科目の確認をする明久に、島田が自慢げに得意科目を語る。

 

「その島田の得意な数学を主力にして戦う」

 

「姫路さん、数学は?」

「苦手ではないですけど…」

「じゃ、姫路さんも一緒に戦えるね!」

 

島田の問いに、はにかんで笑う姫路の様子からは、先程の島田のように自らを誇ったりするような態度が見られない。

 

随分とまぁ、慎ましやかな奴だ。

 

 

「――いいや、ダメだ」

 

そんな女子二人の微笑ましい雰囲気を雄二の一言で崩れ去る。

 

「え、どうして!?」

「一番最後に受けたテストの得点が、召喚獣の戦闘能力になる。俺達が最後に受けたテストは…」

「振り分け試験…あ」

「私は途中退席したから0点なんです…」

 

節目がちに告げる瑞希の視線の先にいるのは…俺だ。

 

気にするなと言っても聞かない瑞希に苦笑が漏れる。

 

今何を言って説得しても納得しないんだろうなと判断した俺は会話に参加するのを辞退し、話の流れが変わるのを待つことにした。

 

 

「でも、試召戦争が開始したら回復試験を受ける事が出来る。それが出来れば、姫路も途中から参戦できるさ。あと、ケイもな」

『ついでみたいに言うなバーカ』

 

そういって雄二相手に少しばかりむきになる姿を周りに印象付けさせた。

旗から見れば、戦力扱いされていないことを若干拗ねているFクラスの一員に見えるはずだ。

 

 

俺達をよそに難しい顔で思案する瑞希に、雄二は激励の言葉を送る。

 

「回復試験に専念してくれればそれで良い。頑張ってくれ、姫路」

 

「…!…はい!」

 

気のせいだろうか。

何気ない激励、というには笑顔が作り物のように見えてしまった。

 

実際、戦力の要たる瑞希が頑張ってくれなければ勝てない戦力比ゆえ、この激励も雄二にとっては本気なのだろうけれど。

 

 

『(…やっぱ、こいつだけは普通じゃないな)』

 

 

瑞希の朗らかな微笑みはとても微笑ましいのに対して、親近感すら覚える雄二の笑顔に表情に、密かに警戒を強めることを決意した。

 

 

 

さて、ここで今は完全に戦力外通告を受けている俺だが、油断は出来ない。

 

 

回復試験…さて、何点取れば俺は落ちこぼれに染まれるのかな。

 

 

 

 

補給室、この場にいるのは回復試験を行う俺と瑞希と監督官である学年主任兼Aクラス担任である高橋先生のみとなっている。

 

 

「では、準備がよければ始めて下さい」

 

掛け声と共に紙を捲る音とシャープペンシルがすばやく動く音が交差する。

 

『(単純な数式問題や文章問題、図形問題か。まぁテストとしては一般的だけど、文章題の比率がちょっと多くね?これだと先生の採点に時間がかかる…瑞希がどれだけ解く気かは知らねーけど、あまり真面目にやってたらゲームオーバーになるぞ)』

 

 

問題用紙を片手で数ページ捲って流し読みしながら内容を吟味していく。

 

「藤本君、ぼうっとしているだけでは問題は解けませんよ」

俺のそんな様子が不真面目に見えたようで、高橋先生は厳しい目つきで俺に注意を呼びかけた。

 

きっとFクラス、という色眼鏡の効果もあっての、この注意なんだろう。

だからか、その態度が妙に気に障った。

 

 

『先生、テスト中におしゃべりとか俺ちょっと困るんだけど、それ妨害行為?そんなにFクラスがEクラスに勝つのは気に食わないのかな』

 

目線は用紙に向けたまま、鼻で笑ってからかい混じりに言い返す。

 

「教師という立場においてそういった感情は持ちません。…それにしても、随分と自信があるようですね。それならば早々に問題に取り掛かるべきでは?」

『はいはい』

 

ふぅ、とわざとらしくため息を吐いて机に置いた筆記用具を手に取り、作業に取り掛かる。

生真面目な瑞希が傍にいる分、俺の不真面目さは際立った事だろう。

 

高橋先生は学年主任であり、Aクラスの担任を受け持つ人だ。

そしてあのAクラス担任とあっては、おいそれと尻尾を掴まれたくない。

 

せいぜい俺を不真面目で素行の悪い生徒だと思っていてくれ。

 

 

『(基礎問題は全て解いても問題ないな。文章題はパーフェクトだと怪しまれるから所々ミスを入れて…違う公式を当てはめればいいか。図形はなるべく手間の掛からないやつを選んで解けば良し、っと)』

 

先生の裁量によって文章題は点数も違ってくるが、俺の印象は悪いだろうし甘い採点をされる事は無いはずだ。

 

『(これでだいたい70点弱ってとこか?…あとは)』

 

「回復試験、受けますっ!」

 

いきなりドアが勢い良く放たれたと思ったら、島田が息を切らしながら教室に入ってくる。

島田がここにいるという事、つまり。

 

 

第一関門が突破されたという事だ。

 

 

どうやら、思った以上に時間が無いらしい。

 

俺は手元にある答案をじっと見つめた。この答案は決して完璧ではない…だが。

 

【っけほ、こほっ!】

【…姫路さん、やっぱりまだ体調良くないんだね】

【はい、少しだけ…】

 

【明久が言ってたんだよ。姫路のためにクラスの設備を良くしたいって】

 

【それに俺も、世の中学力だけが全てじゃないって証明したいと思ってたからな】

 

【姫路さん、数学は?】

【苦手ではないですけど…】

【じゃ、姫路さんも一緒に戦えるね!】

 

 

…しょーがねぇなぁ、もう。

 

 

 

初めは、手なんか貸さないつもりだった。

 

 

Fクラスにいる大半の人間が置かれている環境は、彼らの怠慢のツケが現実として表れた結果であって、試召戦争を起こす事こと事態、それに納得しないガキの我がまま程度にしか思っていなかったから。

 

 

そしてFというクラスに集まる人間に共感する事だってきっとない。

そんな思いで、どこか遠くに感じていた。

 

 

――けれど。

 

 

自分以外の何かのために必死になる。

そんな人間のあり方は、クラスだの勉強だの頭の良さだの、そういったものを通り越して俺の視界に鮮明に、好ましく映り込む。

 

それはおよそ、俺には久しく無かった、忘れていたものだったから。

 

 

『先生、採点お願いしまーす』

 

 

だから、その願いが叶う光景を、ふと見たくなった。

 

 

 





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