Fクラスのツワモノ   作:シロクマ

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だいぶ更新に時間かかってしまいました。


試召戦争~F対E~決着

先生の採点も待たずして、俺は補給室を飛び出した。

高橋先生の採点スピードから考えても、俺が教室に辿り着く頃には召喚獣に得点が反映されているだろう。

 

 

長時間椅子に座っていた体が運動を欲している。

そんな自らの肉体の望むとおりに、Fクラスまでの道のりを難なく走り抜けた。

 

階段を上り切りすぐ右折、Eクラスがもぬけの殻であることを確認すると、もう一つ奥のFクラスへと急いで駆ける。

 

廊下にすら人っ子一人見当たらないいう事が意味することは、ただ一つ。

 

 

『もう教室にまで乗り込まれてるとか…バカじゃねーの』

 

本当にバカなだけに救いようが無かった。

 

Fクラスの教室の入り口を無遠慮に開けて、すぐ傍でたむろする人間の波を駆け抜ける。

 

肩や胸に人の感触がぶつかるが全て振り切って騒動の中心地に進み出た。

周囲の揶揄も舌打ちも、今は気にしていられない。

むしろいちいち勝負してられない今、それだけで済むのなら安いものだ。

 

教室の中央に雄二と明久、そして明久の召喚獣が姿が目に映った。クラス代表たる雄二が未だ健在な事に俺はひとまず一息ついて安心する。

 

 

展開されている明久の召喚獣は学ランに木刀とシンプルなデザインだ。

 

小さな見た目に反して大きなちゃぶ台を投げ飛ばす力。

 

『…♪』

 

思わず心が躍る。

 

相変わらず、この技術力はすばらしい。

我が社の技術が存分に発揮されている瞬間を垣間見て誇らしげな気持ちになるが、それも一瞬の事。思考を切り替えて召喚獣の様子を伺った。

 

 

先程の真上に投げたちゃぶ台はそのまま明久の召喚獣の頭上目掛けて落ちていく。

「へぶっ!」

 

それと同時に明久から奇声が上がった。原因は言うまでも無くちゃぶ台のせいだろう。

明久は観察処分者だ。召喚獣の受けたダメージは明久自身に還元されてしまう。敵から攻撃を受けるのはもちろん、少しの召喚獣の操作ミスすらも自分の身を削ることになる。

 

その後も明久の召喚獣はミスを連発。完全に相手になめられる結果となった。

明久自身も召喚獣からダメージを受け継くだめ痛みに悶絶し、使い物にはならなそうだ。

 

あれは俺も人事ではない。反面教師にでもさせてもらおうか。

 

 

だが、明久はあれで良い。

 

誰よりも時間稼ぎという役目を果たせているのだから。

 

 

人を見下すという事は、少なからず隙を生む。

現に今、Eクラスは明久一人の行動に注目し、笑い、呆れ、結果その動きを止められている。

 

格上を油断させるにはうってつけの策だろう。

 

ただ一つ言うとしたら、これを計算でなく素でやってる辺りが恐ろしい。

…愛すべきバカってこういう事を言うんだろうな。

 

しかし、それでもまだ瑞希がFクラスに来る気配は微塵も感じられなかった

 

時間はまだまだ、足りない。

 

 

 

…だがまぁ、それくらいは俺が補ってあげようじゃないか。

 

 

『(俺だってFクラスだし、な)』

 

 

 

 

『見事にボロボロだな明久。大丈夫か?』

 

「ケイ!」

「なんだ、本当に来れたのか。てっきりそこら辺で隠れてるかと思ったぞ」

 

パァッと顔を輝かせる明久に対し、雄二は大して期待してなかったようで、俺を見てもリアクションが薄い。

 

『ギリギリセーフだろ?…つーか残り二人って、もうちょっと粘れよな』

「格上相手じゃこんなもんだろ。…もう一人はどうだ?」

『あー、真面目に解きすぎだな。もうちょっと掛かりそうだ』

 

あえて主語を伏せて瑞希の様子を簡潔に伝える。

雄二は自身の顔に僅かな陰りを見せたあと、何かを言い募ろうとするがそれはEクラス代表に妨げられた。

 

「――相談事なら負けた後にしてくれる?っていうか、これではっきりしたわね。新学期早々試召戦争なんてバカじゃないの?振り分け試験の後なんだから、クラスの差は点数の差よ。あなた達に勝ち目があるとでも思ってたの?」

 

「さぁ。どうだろうな」

 

「…そっか。それが分からないバカだからFクラスなんだ。もう良いわ。恥も知らないFクラスに、引導を渡してあげる」

 

Eクラス代表、中林の暴言に近い揶揄を投げかけられても、雄二は動じない。

 

短絡的でないその性格は評価できるな。

少なくともあのFクラスの中では一番代表に相応しい。

 

 

「引導、ね。おっとそうだ、明久のほかにもう一つだけ作戦を立ててたっけ」

「…ふぅん?またさっきの吉井みたいなくだらない物でも見せてくれるのかしら?」

「それはどうかな?…ほれケイ、ようやくお前の出番だ」

 

そういって首をそらして頭だけを俺に向け、口で言うかわりに顎をしゃくって指図する。

 

「…どこまでもお前は戦わないのな。あっけなく負けるよりはよっぽど良いけどさ」

「だろう?それにお前にとっても召喚獣の操作練習は必要だろうし、良い機会じゃないか。華々しく散って来い」

 

 

指差すことさえせずに人を使う、偉そうな、高慢な態度も。

俺の為などという、あたかも好意を前面に出したわざとらしい言い方も。

今回、少しも自分の手を汚す気が無い事も。

 

 

――なんか、全部ムカつく。

 

 

他人にここまであからさまに見下されるのは久々だった。

 

 

今までずっと、見下される側でなく、見下す側の人間として生きてきたから。

 

 

これは雄二だけの話じゃない。

 

下駄箱や、Fクラスの教室から出るたびに向けられる一時的な視線も。

 

先程の高橋先生だって、そう。

 

 

けれど今の俺はただのFクラスの一生徒でしかない。

今までの立場を隠したここではただの落ちこぼれなのだ、俺は。

 

 

だから誰も敬意を払わない。誰も俺を認めない。

 

 

…正直、あまり気分の良いものじゃない。

 

 

【…ただでさえハーバードの気質にやられてるんだ。お前のそういう所、できれば早い内に治しておきたいんだよ。そのためにもFクラスっていう人材は最適だと思わない?】

 

夏に交わした父との会話を不意に思い出す。

 

こういうとこが、後々俺にとって不都合になるって事か?

 

だから一回プライド折られて来いって?

 

 

 

…無茶言うなよな。

 

 

『…OK,I'm an underling,fine.(わかった、俺はただの壁役か、そうか上等じゃねえか。)』

 

呟いた一言に、後ろに控えていた二人がすかさず反応した。

 

「僕は一人の元気です…?」

「いや明久、それ絶対違うだろ。分かったとこだけ訳しようとしてめちゃくちゃだぞ」

 

 

今までの17年間で培ってきた性格を、そうも簡単に覆せるわけが無いのだ。

 

下を向いていた視線を雄二に、目に力をこめて念を押すように睨み付けた。

 

お前は俺を顎で使うんだ。そのこと忘れんなよ、と。

 

 

伝わったかは定かではないが、俺の迫力に飲まれて驚いたような戸惑ったような、そんな雄二が見れただけで今はよしとしよう。

 

 

『(こういうことも笑って流せるのが大人なんかな…ハァ。だとしたら全然駄目だな、俺)』

 

そんな自己分析が果たされている中、中林は会話のターゲットを俺に切り替える。

 

 

「…あなた、藤本くんだっけ。あんな威勢良く宣戦布告してきた割に、Fクラスはこの様よ?おまけに代表はどこまでも他人任せ。…恥ずかしくないの?」

 

『昨日なったばかりのクラスで一括りにしないで欲しいんだけど。…まあいーや。ところで俺が昨日言った事、ちゃんと覚えてるか?』

 

 

「ええ、私達への暴言ならちゃんと覚えてるわ。…そうね、吉井明久への暴力が行きすぎだった事は認めるわ。あなたも、結果として無傷だったけど殴りかかった事への非礼は詫びる」

 

 

…へぇ。

 

 

『お前、意外と良い女だな。もっとくだらないプライドばっか持ってんのかと思ってた』

「な、余計なお世話よ!…でもそれと勝負は話が別なんだから。言ったでしょう、正々堂々と倒してあげるってね」

 

キッとこちらに向ける目は至って真剣で、俺の闘争心がわずかにに掻き立てられる。

 

 

『良いね、俺そういうの大好き。これが終わったらお前、俺の友達な。―― 試獣召喚(サモン)

 

「…なんていうか、唐突すぎて本当に何考えてるのか全然分かんないわね、あんた。…でもまぁ、良いわ。さっさとこんなくだらない勝負終わらせましょう!』

 

俺の声と共に召喚獣が出現する。

 

――素肌の上に黒のノースリーブのジャケットに同色のハーフパンツ、左耳に付いた赤いピアス、そして極め付けは背中にあるフワフワの黒い翼。

紫がかった髪にその服装は嫌に似合っている。

 

生意気そうに口元に笑みを浮かべる様はまさしく…。

 

『…小悪魔?』

 

可愛いなおい。

 

しかし自分が元になっていると思うと何というか、むず痒い気持ちになる。

服装に気を取られていたが、右手に握られているロングソードが武器となるのだろう。

しかしそれ以上に気になることがある。

 

F 藤本    E 中林

97点 VS 89点

 

 

『(あれ、予想外に点数高いんだけど。何で俺こんな点数取ってんだ)』

 

 

確か70点前半くらいの点数になるように調整したはずなんだが。

 

まぁ誤差の範囲という事にして流しても良いけれど…念のため、後で高橋先生に確かめておこう。

 

 

『ま、なるようになるか…行くぜ、中林』

「Fクラスにしては数学は得意みたいね。でも、ぽっと出の転校生に負けないわよ。こっちには召喚獣の操作のアドバンテージがあるんだから」

『そんなの俺が天才的なら何の問題もねーじゃん?』

「バカにしないでっ…!」

 

プロテクターにバットとミット。俺に比べて完全な重装備を施してある中林の召喚獣が突っ込んでくる。

 

しかし感情までもリンクしているのか俺の召喚獣は微動だにしない。最低限の動きで避け、軽い動作で相手に上から斬りかかる。

 

俺の攻撃が成功した事で相手が動揺するのを横目で流し見ながら、自分の両手を開いたり閉じたりを繰り返して召喚獣とのリンクする感覚を確認する。

 

『(…動作は試験段階と大差ねーな。これなら召喚獣の操作練習する必要は無い、か)』

 

 

前にも述べたが、試験召喚システムの開発者として有名なのがここの学園長、藤堂カオルだ。

だが、観察処分者への待遇として与えられる召喚獣の実体化を成し遂げたのは俺の父の会社。

そのための実験に協力して召喚獣操作の実験を日々いってきた俺にとって、中林の言うアドバンテージなど無いに等しい。

むしろこちらに利があると言える。

 

「くっ、この…なんで当たらないのよ!?」

『悪いな、こいつ俺に似て運動神経抜群みたいだわ』

「ふざけないで!もう、ちょこまかと!」

『…っ、…痛みまでほんとリアルだよな、これ』

 

ふざけが過ぎたのか、ロングソードで捌ききれなかった中林の苛立ちを込めた懇親の一撃が俺の召喚獣に当たる。

 

走る痛みを想定していたものの、久しぶりの感覚に思わず声が出た。

 

しかし、ようやく当たった攻撃に気色を浮かべて油断する敵にすかさず反撃する事を忘れない。

 

F 藤本    E 中林

51点 VS 48点

 

負けず、しかし勝つ事もなく、絶妙な僅差で勝負を進めていく。

自分でもなかなか良い立ち回りだと思う。

ダメージを受けるのは地味にこたえるが、周りは俺達の勝負を固唾を呑んで見守っている。

 

今のうちに雄二に攻撃を仕掛けないのはEクラスにとってはこれ以上無い失策だが、そういった実直さは嫌いじゃない。

 

そっと横目で窺うと雄二は腕を組んで俺達の…いや、俺の戦いを目を細めて静かに窺っていた。

 

 

俺が利用できるかどうかを測ってる、かな?

 

 

あまり頼りにされても困るから、こうして拮抗した勝負を心掛け、なおかつ消極的な戦い方を心掛けているのだが…それでも十分利用価値ありと判断されてしまったかもしれない。

 

それは困る。

頼りにされるほど、俺はFクラスの下克上を手伝ってやる義理は無いのだから。

 

 

確かに、この勝負の行方がFクラスに傾けば良いと思っている。

 

けれどそれは明久の善意や雄二らFクラスの人間の熱意に絆された事だけが理由じゃない。

ただ少しの娯楽と、自分への実益も兼ねている。

 

FクラスがEクラスに勝つ。そんな、人が常識を覆す様を見るのは、楽しいし面白いと思う。そういう点だけで考えれば、雄二の下克上を果たしたい気持ちだって分からなくも無い。

 

 

――だが、 Giant Killing(大番狂わせ)なんて、そう何度も夢見るものじゃない。

 

 

努力や実力に応じた結果が伴わなければ、人はいつか規律も統率も失ってしまう。

だから、俺という一個人だけならともかく、学園の経営に携わる側の人間としては、【悪ふざけ】に本気になるわけにはいかない。

 

 

瑞希という病弱体質を持った子への配慮も、Eクラス設備をモノにすれば十分だろう。

 

だから、それ以上は俺のあずかり知らん事だ。もう勝手にやっててくれって感じ。

 

 

そんな考えの下、これからの方針を考えながら硬着状態を続けていた俺の戦いを遮るように、教室の扉が大きな音を立てて開かれる。

 

「その勝負待ってくださいっ!」

「姫路さんっ!」

「ようやく来たか」

作戦の要の登場に、雄二の口元がニヤリと笑った。

 

「お待たせしてすみません、 試獣召喚(サモン)!」

 

瑞希が唱えるとそこに現れたのは大剣を持った中世の騎士風の召喚獣。

 

 

F 姫路

412点

 

点数の高さに攻撃力の高さが比例するらしく、大剣で薙ぎ払ったときに出来た剣圧一つであっという間にEクラス連中が狩られていく。

 

 

「姫路瑞希ってまさかあの…!?なんであんな子がFクラスに!?」

 

瑞希の成績は意外と他者に知られているらしい。

 

中林はそんな瑞希の登場を予測する事は出来なかったようで、仲間が次々と戦闘不能にされていく中、驚愕の顔を貼り付けたまま呆然と立っている。

 

 

「吉井!この子、やっぱりすごいわ!」

 

瑞希の問題を解く様子を間近で見た島田は興奮状態だ。

 

「さすがAクラス候補だっただけはあるな」

 

腕を組んで感慨深く頷く雄二は分の悪い賭けに勝った事を喜んでいる。

 

 

「くっ…Fクラスにそんな人がいるなんて聞いてないわよ!」

『誰も言わなかったしな。中林、お前もどうせなら清々しく終わりたいだろ?だからさ…瑞希、頼んだ』

 

「はい、行きますっ!」

 

瑞希の召喚獣は瑞希の掛け声と共に、一閃の攻撃の後に相手を再起不能に陥れた。

 

「そ、そんな…」

 

圧倒的な力を見せ付けられた中林は気力を失ったのか、足元から崩れて地面にしゃがみこんだ。

 

 

 

――かくして、この試験召喚戦争はFクラスの勝利で幕を閉じたのである。

 




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