どらごんたらしver.このすば   作:ろくでなしぼっち

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第13話:ろくでなしでドラゴンバカな友達

「よくやった! ゆんゆん! 流石は私の娘だ!」

 

 紅魔の里。中央に位置する大きな家で、俺とゆんゆんは紅魔族の族長……つまりはゆんゆんの父親と相対していた。

 

「まさか2匹もドラゴンを使い魔にして帰ってくるとは…………もう世代交代しないといけないかもしれないな」

「い、いや、あのね、お父さん。使い魔なのはハーちゃん……ここにいるブラックドラゴンだけで外にいるドラゴンさんは違うから」

 

 興奮気味というか感動している親父さんにゆんゆんは宥めるようにして説明する。

 

 ゆんゆんの説明通り、ミネアは庭で俺達の話が終わるのを待っている。夜だというのに子どもやら大人が、狭そうにして庭に収まるミネアの姿を遠巻きに見て興奮していた。

 ……ガキどもが近づいてきてミネアの綺麗な体に触れないだろうな。今のところ大人たちが危ないと止めているが、その大人たちもどこか触れたそうな雰囲気出してるから不安だ。

 

 …………別に触れてもミネアが嫌じゃないなら問題ないんだけどな。俺でさえまだ満足にミネアと触れ合ってないのに羨ましいって気持ちさえ無視できれば。

 

「なんだ、そうなのか。だが、魔法使いが使い魔を持つ事が廃れた今、ドラゴンを使い魔にするとなれば偉業と言ってもいい。この里のアンケートでも使い魔にしたい生き物ランキング不動の1位はドラゴンだからな」

 

 通りで外にいる奴らが興味津々なわけだ。紅魔の里……頭のおかしい集団だと聞いていたが、なかなかどうして話がわかる奴らだな。少しだけならミネアに触っても良いかもしれない。

 

「それに、まさかこの方を伴侶として連れてくるとは思ってもいなかったが…………」

「ダストさんが伴侶とかありえないから!…………って、あれ? お父さん、ダストさんのこと知ってるの?」

「ダスト? 何を言っているんだ、この方は――」

「――おおっと、俺としたことが名乗りが遅れたぜ! 俺の名はダスト! アクセルの街を牛耳ってる冒険者だ。巷じゃチンピラのダストだのろくでなしのダストだの言われてるがよろしく頼むぜ」

 

 話がまずい所へと向かっていることに気づいた俺は慌てて名乗りを上げて親子の会話に割り入る。

 …………ミネアのこと考えてたら反応が遅れちまった。この親父さんと会ったらこういう展開になることは分かっていたはずなのに。 

 

「きゃっ……もう、ダストさんいきなり叫ばないでくださいよ。夜ですし近所迷惑ですよ」

「…………ふむ、ダストさんか。どうやら私の勘違いのようだ」

 

 いきなりの声にゆんゆんはいつもの迷惑そうな顔を俺に向け、族長は少しだけ意外そうな顔をして頷いた。

 なんとか誤魔化せたというか、族長には俺の意図が伝わったか。……別にゆんゆんにならバレても問題ないっちゃ問題ないんだが隠せるのなら隠しておきたい。もしバレたらゆんゆんが落ち込むのは目に見えてるし、落ち込んでるゆんゆんの面倒臭さは半端ないし。

 

「そうだよ、ダストさんはただのチンピラなんだから『方』なんて呼ばれる人じゃないよ」

「おい、こらぼっち娘。人をただのチンピラ呼ばわりしやがるんじゃねーよ。自分で言うのはいいがお前みたいな凶暴ぼっちに言われるとムカつくぞ」

 

 こっちが珍しく気遣ってやっているのにそれとか。

 

「あ、すみません。ダストさんはすごいチンピラでしたね。流石自覚のあるチンピラは格が違いますね」

「最近はちょっとおとなしいと思ってたがやっぱり毒舌クソガキじゃねーか! 表出ろ!」

「それはこっちの台詞です! 最近はちょっとだけまともなんじゃないかなって勘違いしてましたけどやっぱりダストさんはろくでなしのチンピラです!」

 

 二人して立ち上がり決着をつけようとミネアの待つ庭へと向かう。

 

「……きみたち仲いいね。お父さん置いてけぼりで寂しいんだけど」

「「仲良くなんてない! 勘違いしないで(くれ)!」」

 

 掛けられた言葉に俺達は揃って否定の声を上げ、

 

「…………やっぱり仲いいじゃないか」

 

 そんな俺達を見て族長は寂しそうにため息を付いた。

 

 

 

 

 

 

「族長、ゆんゆんは眠ったのか?」

 

 喧嘩して決着を付けた(今回は惜しくも俺が負けた)後。ゆんゆんは疲れが出たのか眠そうにうとうとしていた。それを見た族長は容赦なく『スリープ』をかけてゆんゆんを部屋へと連れて行った。…………ジハードも一緒について行っちまったのが少しだけ寂しい。

 

「ええ、よく眠っていますよ」

「そうか…………悪いな。親子でもっと話したかっただろうに」

「いえいえ、あの子が元気そうにしてる様子がみれただけで十分ですよ。それに今は妻があの子についています。あれもあの子と触れ合う時間が必要でしょう」

「ゆんゆんのお袋さん……いたのか。全然出てこないから父子家庭なのかと思ってた」

 

 もしかして俺が気に入らないから出てきてないとかそういうことだろうか。

 

「妻は極度の男性恐怖症でして……知らない男の人がくるといつもこんな感じなのです。それ以外は普通の紅魔族なのですが」

 

 男性恐怖症で普通の紅魔族。なんてーかゆんゆんを数倍面倒くさくした人っぽいな。

 

「というか、族長はよくそんな人と結婚できたな」

 

 攻略難易度やばいだろ。

 

「苦労はしましたが……惚れた弱みというものですよ」

 

 はっはっはと笑う族長は本当に幸せそうだ。

 …………羨ましいな。紅魔族同士なら価値観が違って大変なんてこともねーだろうし。ゆんゆんの母親だ、それはもう美人さんなんだろう。

 

「けど、ゆんゆんのやつ、あれくらいの喧嘩で疲れるとは思えないんだが、なんか他に疲れることしてたかね」

 

 ミネア探しに行く時に警戒して歩いてはいたけど、冒険者じゃそれくらい慣れっこのはずだし。むしろぼっち冒険になれてるあいつにしたら軽いもんだろう。

 

「テレポートは魔力と質量と魔法抵抗力でその負担が決まります。魔力の塊であるドラゴンを2匹も……そのうちの一匹は中位種のドラゴンをテレポートさせたんです。さすがのあの子も限界に近かったというか…………よく成功させたものです。私が思っている以上にあの子は成長しているようだ」

「あー……テレポートってそういうもんなのか。定員が4人で魔力消費が結構大きいってことくらいしか知らなかったわ」

 

 考えてみれば分かることではあるが。何でもかんでも飛ばせるならテレポート最強すぎるし、魔法抵抗力を高めればテレポートで飛ばされるのに対抗できるってのはそのあたりで決まるんだろう。

 

「まぁ、あいつが成長してるって話は確かにそうだな。俺が初めてあいつとあった時と比べても大分強くなってるぞ」

 

 初めてあった時も孤高(笑)のアークウィザードとしてアクセルじゃ有名な実力者ではあったが、今はその頃よりも数段強い。……というよりあいつの親友を始めとして数少ない友人連中がどいつもこいつも強い奴らばっかりで、強くならざるをえないってのが本当のとこだが。

 

「それは分かりますよ。テレポートのこともそうですし、得意の得物ではないとは言えあなたを喧嘩で圧倒できるほど強いのですから」

「べ、別に圧倒なんてされてねーぞ。今日の喧嘩も紙一重の敗北だったっての」

「…………いえ、それ流石にないかと」

 

 正直な反応ありがとよ!

 

「しかし、強さもそうですが、あなたと喧嘩をしているあの子を見て少しだけ安心しました。引っ込み思案だったあの子が遠慮なしに言い合える相手はめぐみんくらいしかいませんでしたから心配してたんです」

「そうか。あれで俺以外にも言いたいことはズケズケ言うやつだから安心していいぞ。なんだかんだでアクセルの街でも友達はそれなりにいるし」

 

 その友達はどいつもこいつも問題ある気がするが。

 

「……そうですか。里でこそ認められましたがこの里以外であの子がうまくやっていけるか心配だったので、それは本当にうれしいです」

 

 穏やかな笑顔で族長。

 紅魔族ってのはおかしな感性してるって言うが、こういう所は普通の奴らと変わらないんだな。親の心ってのはどこであっても変わらないのかもしれない。

 

「これで、あなたがゆんゆんを貰ってくれれば何も心配はなくなるのですが」

「…………貰うってどういう意味だ?」

「もちろん結婚していただけないかと、そういう意味ですが」

 

 …………直球だなぁ。からかわれるくらいなら覚悟してたが、ここまで真剣に言われるとちょっとだけ驚く。族長とは初対面ではないとは言え、前に一度会っただけだ。ゆんゆんがはっきりと否定してるのにそう言われるとは思っていなかった。

 

「悪いが年が離れてて守備範囲外だ。……それにいいのかよ? 族長の娘にこんな得体のしれないチンピラを薦めて」

 

 ゆんゆんは一応族長の娘で本人も族長になることを望んでる。その夫になる男となればいくら変人の里と言っても得体のしれない男はまずいだろう。ゆんゆん自身がそれを望んでいるのなら話は少し変わってくるが。

 

「むしろあなたの才能と実績を考えれば紅魔の族長という地位は釣り合わないと思いますよ。自慢の娘ですが、族長の地位と合わせたとしても今はまだあなたに釣り合うほどではないでしょう」

「言ったろ? 今の俺はアクセルの街のただのチンピラだっての。…………ゆんゆんは俺なんかじゃ釣り合わないいい女だ。年が離れてなきゃとっくの昔に手を出してる」

 

 そして間違いなく撃退されてる。あいつ嫌なことははっきり嫌だって言うタイプだし。

 

「そうですか…………あの子はあなたにそれほど評価されるほどの女性になりましたか。では、あの子が大きくなれば貰ってくれる可能性があるということですね?」

「ねーな。4歳下とか一生守備範囲外。なので諦めろ。…………つーか、この話マジでやめよーぜ? 俺もゆんゆんもそんなつもりは全然ねーからよ」

 

 あくまであいつは俺に取っちゃセクハラ対象だし、恋愛対象とかそういう風に見るつもりは全然ない。ゆんゆんに至ってはジハードのことがなければ今すぐ縁を切りたいくらいだろう。未だに俺のこと知り合いだって言い張ってるし。

 

「ふーむ…………そうなると、何の話をしましょうか。あの子の最近の様子を聞いても良いのですが、それはあの子本人から聞きたいことですし」

「俺としちゃ族長と奥さんの夫婦の営みの話とかドラゴンの話とかしたいんだが」

「前者は流石にお断りします。後者はあなたにいろいろドラゴンのことを教えてもらえるならありですが…………今回は、私とあなたが初めて会った時の話をしませんか?」

 

 …………ま、そんな流れになる気はしてたけどよ。

 

「もう何年前になるんだっけか。あの国で俺が死にかけてたのを族長が率いる紅魔族が俺を助けてくれたんだったな。…………あの時は世話になった。感謝する」

「ピンチに現れるのは紅魔族の特権ですから礼なんていりませんよ。それにあなたが時間を稼いでくれたから私達も間に合ったのです。だからお互い様というものでしょう」

「…………まぁ、あんな国でも魔王軍に落とされればこの国も厳しくなるからな。そういう意味じゃ礼はいらないんだろうが…………やっぱり礼くらいはさせてくれ。ミネアを始めとして、あの国で俺が守りたいものを守れたのはあんたらのおかげだ」

 

 ミネアや俺に良くしてくれた町の人達、ついでにあいつ。糞ったれな貴族共はどうでもいいというかむしろ死んでくれだが、たとえ自分が死んでも守りたいものが守れたのは紅魔族のおかげだった。

 

「そうですか、では素直に感謝を受け取りましょう。…………ところで、気になるのですが、どうしてあなたは今『ダスト』さんをやっているんですか?」

「……何でって聞かれると面倒だな。一から話すと長いんだが…………聞きたいか?」

「ええ、是非とも」

 

 ……別に面白い話じゃないんだがな。

 

「ま、ミネアのこと頼むわけだし事情知ってた方がいいか。あれは俺が族長たちと初めてであってから一月くらいしてからのことだったか――」

 

 

 

 

「――なるほど。そういうことがあったのですか。苦労されたようだ」

 

 一通りの話が済んで。族長は労るように俺にそう言ってくれる。

 

「ま、あの頃は何度死のうかと……何度復讐してやろうかと思ったもんだが今はわりと楽しくやってるよ」

 

 この楽しい今が終わってしまうのが怖くなってしまうくらいには……な。

 

 

 

 

 

「……っと、そうだ。族長。ブラシとタオルかしてくれねぇか?」

 

 話も一段落したことだし、俺はやりたいことをやらせてもらおう。

 

「いいですが……寝ないのですか? もう良い時間だと思うのですが」

「眠いけどその前にミネアの体を綺麗にしてやんねーと。あいつのせっかく綺麗な鱗がくすんじまってるから」

 

 磨いてやらないと気になって眠れやしねー。

 

「…………やはりあなたはいい男だ。娘は何が不満なのか」

「俺が言うのも何だが……多分ドラゴン関係以外はただのチンピラなところじゃねぇかな」

 

 本当自分で言うのもなんだけど。

 

「…………真顔で言われると心配になるんですが……冗談ですよね? 娘任せて大丈夫ですよね?」

「冗談じゃねーが大丈夫だ。ゆんゆんは俺の親友だからしっかりと利y……もとい面倒見てやるから」

「頼みますよ!? 『利y』とか聞こえなかったことにしますからホント頼みますよ!?」

 

 放任主義だか過保護だかよく分からないゆんゆんの親父さんだった。

 

 

 

 

――ゆんゆん視点――

 

 

「お父さんおはよう」

 

 台所でお母さんが料理してる懐かしい雰囲気を感じながら。私は居間で読書をしているお父さんに挨拶をする。

 …………読んでる本のタイトルに『紅魔族英雄伝 第二章』とか書かれてる気がするのは私の見間違いだろうか。…………見間違いにしとこう。

 

「おはよう、ゆんゆん。よく眠れたか?」

「うん。……私、いつの間に寝たんだっけ?」

 

 疲れてたのかな? ダストさんといつもどおり喧嘩したのまでは覚えてるけどその後の記憶はあやふやだ。

 

「うとうとしていたから仕方ないだろう。ちゃんと私が(スリープで)寝かせつかせたから安心しなさい」

「うん。なんだか聞き逃せないこと言った気がするけどありがとう」

 

 まぁ、別に無理やり眠らされるくらいはいいんだけどね。……夜中に目が覚めたらお母さんが隣で寝てたのにはびっくりしたけど。

 

「そういえばダストさんはどこで寝たの?」

「…………結局、夜通しだったみたいだね。明け方近くまで音が聞こえてたから」

「? 何の話?」

「庭に出れば分かるだろう。…………ただ、静かにね」

 

 庭って何の話だろうと思いながら玄関を出る。そうしたらお父さんの言ってた意味はすぐに分かった。

 

「……ダストさん、ずっとミネアさんの体を綺麗にしてたんだ」

 

 ミネアさんのくすんでいたはずの鱗が朝陽に照らされ白く輝いている。そしてダストさんはと言えばミネアさんに体を預けて幸せそうに寝ていた。

 

「くすっ……ダストさんでも寝顔は可愛いんですね……えいえい」

 

 思わずぷにぷにとほっぺたを突っついてしまう。

 

「おいこら、ゆんゆん……」

「っ! だ、ダストさん起きて――」

 

 いきなりの声に突っついてた指を後ろに隠す。

 

「――ダチは選んだほうがいいぞ……むにゃむにゃ」

「って、寝言ですか。驚かせないでくださいよもう……」

 

 驚かされた腹いせに少しだけ強くほっぺたを突っつく。なんだか寝苦しそうにしてるけど気にしない。

 

「というか、どんな夢見てるんですか?」

 

 ダストさんの夢の中で私はどんな風なんだろう。さっきの寝言にどう応えただろう。ここにいる私なら……

 

「……ダストさんがその台詞を言わないでくださいって……そう言うだろうなぁ」

 

 そこまで口にして気づく。

 

「そっか……私、ダストさんのことちゃんと友達だって認めちゃってるんだ」

 

 どうしようもないろくでなしだけどドラゴンの事になると真剣になるこのチンピラ冒険者のことを私は嫌いじゃないらしい。

 

 

 

 

「ダストさん、すぐにアクセルに帰るのも味気ないんで紅魔の里を案内しましょうか?」

 

 朝食を食べ終えた後、眠そうな顔をしているダストさんに私は提案する。

 ミネアさんを預けるという話自体はもう済んでるから、今すぐアクセルに帰っても問題はないんだけど。ハーちゃんの卵を貰ってからだと里帰りするのは初めてだし。久しぶりに里の雰囲気を味わってからアクセルに戻りたい気がする。

 友達に里を案内するというのは私の夢の一つだったし、一応友達だと認めてしまったことだしダストさんを案内するのも悪くない気がする。リーンさんを里に呼んで案内する時の予行演習にもなるし。

 

「あん? 俺はこの後見た目だけは綺麗なのが多い紅魔族をナンパしまくる予定なんだが……」

「……紅魔の里でナンパとかただの自殺行為ですよ?」

 

 流石に命までは取られないと思うけど…………。

 

「……ま、親友がせっかく故郷を案内してくれるっていうんだ。好意に甘えるとするか」

「日和りましたね。……一応言っときますけど、ダストさんは親友じゃありませんよ、ただの友達です」

「はいはい、いつもの返しありがとよ。いい加減認めてもいい…………って、ん?…………友達?」

 

 骨が喉に詰まったような顔してるダストさんを横目にしながら、私はお父さんに話しかける。

 

「というわけでお父さん。これからちょっとダストさんと里を歩いて回ってきます」

「デートするのはいいがあまり遅くなり過ぎないようにな。子作りは結婚してからだぞ」

「デートじゃ…………って、いきなり何を言ってるの!?」

 

 デートってくらいはからかわれるの予想してたけど、子作りとか直球過ぎてドン引きなんだけど。

 

「族長、年上としてクソガキとデートするくらいはいいが流石にエロいことするとなると俺にも選ぶ権利があるぞ」

「ダストさんも大概失礼ですね! というかダストさんに選ぶ権利とかないですから!」

 

 アクセルの街でナンパ振られ記録更新中のダストさんに選ぶ権利とか本気でないと思う。

 

「そうか……じゃあ、デートだけなら夜までには帰ってくるな。夕飯は準備しておこう」

「おう、明日には帰る予定だから夕飯は豪華に頼むぜ」

「……厚かましいにもほどがありますからねダストさん」

 

 はぁと私は大きなため息を付いた。

 

 

 

 

 

「おや、ゆんゆんじゃないか。ドラゴンの子と年上の男を引き連れて歩くとは出世したものだね」

 

 ダストさんとハーちゃんに紅魔の里を案内していたら懐かしい声がかけられる。

 

「あるえ! 久しぶり」

 

 めぐみんと同じ眼帯をした元クラスメイト。私の中の紅魔族のイメージそのままの少女、あるえ。

 私の数少ない友達と言える少女の声に私は喜びながら応えた。

 

「ああ、久し振りだね。……それにしてもゆんゆんがドラゴンを使い魔にして男と一緒に帰ってきたと聞いた時は半信半疑だったけど、本当だったとはね」

「なんか勘違いしてる気もするけど…………説明するのもめんどくさいからもういいかな」

 

 ドラゴンを使い魔にして一応男であるダストさんと一緒に帰ってきたのは本当だし。こうなることは昨日の時点で分かってたことでもあるし。

 あるえ以外にもこんな感じで何人に話しかけられたことか。…………まぁ、内容はともかくたくさんの里の人に話しかけてもらったのは割りと嬉しいんだけど。

 

「おい、ゆんゆん。この痛い眼帯してる胸の大きい子を紹介してくれ」

「……私の同級生ですよ?」

「なんだ守備範囲外のガキか。…………でも、この胸の大きさは…………うーむ」

 

 なんか悩んでるダストさんはとりあえず無視することにする。

 

「あるえは最近どうしてるの?」

「別に以前と変わらないよ。ああ、でもこの間書き上げた『紅魔族英雄伝 第六章』は最高傑作だった」

 

 ……うん。あるえはほんとに相変わらずらしい。

 

「そういえば、ふにふらさんとどどんこさんどこにいるか知らない? 結構歩いて回ってるけど会えてないんだ」

 

 この街で数少ないあるえ以外の友達の二人。前に里帰りした時はすぐに会えたんだけど、今回は探しても探しても見当たらない。

 

「ああ……ふにふらとどどんこか…………」

 

 何故か沈痛な面持ちをするあるえ。と言っても紅魔族のお約束みたいなものなので心配は特にしない。

 

「どどんこなら自分探しの旅に出たよ」

「……そ、そうなんだ」

 

 …………アイデンティティがないの気にしてたからなぁ。

 

「そしてふにふらは弟と駆け落ちしていなくなった」

「……………………」

 

 わりと本当に重かった!?

 

 

 

 

 

「――と、一応これで里は一回り出来ましたかね」

 

 あるえと別れた後も里の案内を続け、今はもう夕暮れだ。

 

「どうですかダストさん? 紅魔の里の感想は」

「ま、ほんと変な里だな」

「否定はしません」

 

 私も変だと思ってますし。

 

「……でも、良い里だ。人は多くねーが活気に溢れてる。きっとここで暮らせば楽しいだろうな」

「……はい。私もそう思います」

 

 昔の私ならともかく、今の私ならそう自信持って言える。この里は良い里だ。この里の長になりたいという思いは以前よりも強い。

 

「そうだ、この里を案内してもらったお礼だ。俺も一つゆんゆんを案内してやるよ」

「はい? 案内ってどこにですか? 今から遠くには行けませんよ?」

 

 夕飯の時間も近い。今から行けるところとなるとオークの集落くらいなんだけど…………流石のダストさんといえどそんな自殺志願者みたいなことはしないよね。

 

「そんなに時間はかからねーよ。むしろ一瞬で行ける所だ」

「一瞬? ダストさんは戦士ですからテレポートとか使えないはずですし一瞬で行ける所って……?」

 

 何かのなぞなぞだろうか。

 

「ばーか、何を考え込んでんだよ。俺らがここに来た理由思い出せばすぐに分かるだろ」

「むぅ……分からないから考えてるんじゃないですか。ダストさん意地悪です」

 

 今更なことだけど、この人は本当に性格がねじ曲がっている。

 

「これくらいのことでむくれてんじゃねーよ。せっかくとっておきの場所案内してやろうってんだからよ」

「…………結局その場所ってどこなんですか?」

 

 ジト目で睨む私の何が面白いのか、一通り大笑いしたダストさんは、人差し指を上に向ける。

 

「…………上?」

「そうだ…………空の上にお前を案内してやるよ」

 

 

 

 

 

「ふわぁ……空を飛ぶってこんなに気持ちよくて…………こんなに綺麗な景色が見れるんですね!」

 

 ミネアさんの大きな頭に乗って私はダストさんと夕日の浮かぶ空を飛んでいた。ハーちゃんはそんな私たちの横を一生懸命な様子で飛んでいる。

 

「最高だろ! 空の上は!」

「はい! こんなに気持ちいいのは、こんなに開放感があるのは生まれてから一番かもしれません!」

 

 そう思えるくらいに空は広くて……そこを飛ぶという開放感は今まで感じたことがないほど素晴らしい。

 この景色と空をつかむ感触を前にしたらちっぽけな悩みなんてすぐになくなりそうだ。

 

「おし! じゃあ、少しだけ速く飛ぶからな! しっかり捕まっとけよ!」

 

 ダストさんがミネアさんの角を掴んでいるため、私は飛ばされないようにダストさんの体にしがみつく。

 

(……他に掴まるところないんだから仕方ないよね)

 

 ダストさんの意外と鍛えられた体と体温の暖かさを感じながら私はそう思う。

 

「……よかった、ダストさんを友達だって認めて」

 

 認めてなければきっと私は下りた後に微妙な気持ちになってたと思うから。

 …………友達だって認めたから私は今素直にこの光景を楽しめる。

 

「なにか言ったか!?」

 

 風の音で聞こえなかったのかダストさんはそう叫ぶ。

 

「なんでもありません! それよりもっと速く飛べないですか!?」

「おう! 度胸あるじゃねーか! ミネア! 全速力だ! 派手に飛ばせ!」

 

『グォオオオオオ!』

 

 加速する速度に吹き飛ばされないよう私は友達の背に強く抱きついた。

 

 

 

 

 

――ダスト視点――

 

「族長。わりぃがミネアのことよろしく頼むぜ。まぁこの里とドラゴンを相手にちょっかい出してくる馬鹿はいねーと思うが」

 

 翌日。アクセルへと帰る時間。ミネアの頭を撫でながら俺はゆんゆんの親父さんにそう頼む。

 

「分かっていますよ。魔王軍だろうがどこかの国の正規軍だろうがミネアさんは守ります。なんてったってドラゴンはロマンですからね」

 

 やはりこの里の人間は分かってやがる。

 

「それじゃ、お父さん。私もアクセルの街に行きますね。……ほら、ハーちゃんも挨拶して」

 

 ゆんゆんの挨拶の後にジハードもぴぎゃあと鳴く。

 

「ゆんゆん、いつでも帰って来なさい。お前が望むならいつでも私は族長の座を渡そう。今のお前なら里の皆も認める」

「ううん、お父さん。私はまだまだだって思う。何か、誇れることを成し遂げたら……その時こそ私は胸を張って帰ってくるよ。…………里帰りはテレポートも覚えたしちょくちょくすると思うけど」

「そうか……なら私はその時を楽しみに待っていよう」

 

 族長はゆんゆんの言葉には嬉しそうに笑い、そして俺の方を向く。

 

「ダストさん、ミネアさんの力が必要になった時はすぐに言ってください。…………娘を頼みます」

 

 俺は頷き――

 

「『テレポート』!」

 

 ――ゆんゆんの魔法で紅魔の里をあとにした。

 

 

 

 

「ふぅ……帰ってきたな」

 

 アクセルの街。平和そうな町並みを前に俺はそう口にする。

 一日二日空けただけだってのに随分と久しぶりな気がするのはなんでなんだろうな。

 

「うーん……何ででしょう。私も帰ってきたって気がします。紅魔の里でも帰ってこっちにきても帰って……なんだか不思議な気分です」

 

 ゆんゆんも俺と同じような気持ちなんだろうか。安堵の表情の中に疑問の色を乗せて待ち行く人を見ていた。

 

「お前は紅魔の里の人間でもあって同時にアクセルの街の住人でもあるってだけだろ。1年以上この街に住んでたら染まって当然だ」

 

 俺と知り合ってからだけでもう1年以上。その前からこいつはこの街に住んでいたことだし下手すれば2年近くこの街にいるはずだ。

 ぼっちで引っ込み思案なこいつが友達だといえるやつがそれなりに出来る位の時間は過ぎた。…………2年近く経ってるのにこの街で出来た友達が下手すれば一桁しかいないってのは置いといて。

 

「そうですね…………確かにここはもう私の第二の故郷です」

「おう。俺にとってもここは第二の故郷だ」

 

 第一の故郷に戻れないのを考えればある意味ここが唯一無二の故郷だって言っていい。

 …………駆け出しの街が自分のホームになるとか、昔の俺に言っても信じねーだろうなぁ。

 

「……って、あれ? ダストさんってアクセル出身じゃないんですか? それじゃあもとはどこに――」

「――あ、いたいた。ラ……じゃなくて、ダストだったよね。探したよ。一体どこに行ってたのさ」

 

 ゆんゆんが何かを聞こうとするのに被せられるようにして、なんかまな板っぽい声がかけられる。

 

「あん? なんだよパンツ剥かれ盗賊じゃねーか。俺になんか用か?」

「その呼び方はやめてって言わなかったかな!? えっと……この街じゃダストくらいにしか頼めないことがあってね。……てわけでゆんゆん、悪いけどダストを借りてくよ」

 

 そう言ってパンツ剥かれ盗賊こと、別名まな板のクリスは俺の服を引っ張って歩いて行く。

 

「おい、こらちゃんと歩くから引っ張るな! わりぃ、ゆんゆんまたな!」

「…………あ、はい。ダストさん、また明日」

 

 クリスに連れて行かれる中、何故か寂しそうなゆんゆんの別れ際の顔が気になった。

 

 

 

 

「……で? なんだよクリス。俺に用ってのは」

 

 喫茶店にて、水を飲みながら俺はクリスにそう聞く。

 

「なんでそんなに不機嫌なのさ。……もしかしてゆんゆんとの逢引邪魔されたから怒ってんの?」

「あいつとはそんなんじゃねぇよ…………ただ、ちょっと別れ際の顔が気になってるだけだ」

 

 本当にそれだけだ。クソガキと話してるのをいきなり邪魔されて不機嫌になってるなんてことは断じてない。ないったらない。

 

「……素直じゃないなぁこのチンピラ君は」

「ない胸をさらに凹まされたくなければさっさと要件言え。カズマの女といえど容赦はしねぇぞ」

「ちゃんと胸あるから! あと助手君とはそんな関係じゃないから!」

 

 俺の見立てじゃこいつの胸ってパッドしてるんだが。本当に女性らしい膨らみあるんだろうか。後、助手君ってなんだ。カズマのことか。

 

「……こほん、それでお願いなんだけどね」

 

 叫んで周りの客に注目されたのが恥ずかしかったのか。小さく咳払いをしてクリスは続ける。

 

「これはダストというか……君の正体の方にお願いなんだけどね」

「……悪いがそういう話なら帰るぞ」

「待って! もしダストに断られたらゆんゆんに頼むことになる…………話だけでも聞いてくれないかな?」

 

 帰ろうとする俺の服を慌ててつかみ。クリスは困った表情でそうお願いしてくる。

 

「…………ちっ、まな板は性格悪い奴しかいねぇのか」

「胸の大きさは関係ないよ!? 確かにゆんゆんのことをだしにするのはちょっと卑怯かもしれないけどそれだけ切羽詰まってるんだよ!」

 

 どっちかというと切羽詰まってるのは胸がまな板な方な気がするのは気のせいだろうか。…………言ったら殺されそうなんで流石に言わないけど。

 

「へいへい、……で? 話だけは聞いてやるから話を進めろよ」

「いや、うん。こっちが頼んでる方だから仕方ないんだけど、ここまで上から目線で色々言われるのはアクアせn……アクアさん以来だなぁ」

 

 俺の態度が珍しいのか。どう反応すればいいか困ったように頬の傷跡をかいているクリス。

 …………ふーむ、やっぱり()()なのかねぇ。()()だとしたら俺はどんなに面倒でも頼みを聞かないといけないんだが。

 

「まぁ、それはいいか。えっとね、まずあたしと助手君がやってることなんだけど――」

 

 クリスは自分とカズマが世間を騒がしてる銀髪盗賊団(断じて仮面盗賊団ではない)であること。神器と呼ばれるものを集めていて、それを持っているのは大体悪徳貴族のために義賊のようなことをやっていることを説明した。

 ついでにめぐみんがその正体に気づいてよくついてくるようになったことや、めぐみんが作った銀髪盗賊団の支援組織にゆんゆんやらセシリーにイリスとかいうロリっ子が入っていることも。

 

「……それで、その銀髪だか仮面だか知らんがたった2人の盗賊団+おまけが俺に何のようなんだよ。2人でイチャイチャしながら盗賊でも義賊でもやってりゃいいじゃねーか」

 

 爆裂娘がついてくるようになったならイチャイチャすんのは難しいかもしれないが。どっちにしろ俺には何も関係ない。

 

「実はこの前、王都にいる悪徳貴族の所に神器を盗みにはいろうとしたんだけど…………なんだか銀髪盗賊団が有名になりすぎたみたいでね? あたしと助手君でも侵入できないくらい警備が厳しくって……」

「王城で大暴れしたっていう銀髪盗賊団が入れないってなると相当だな」

 

 かm……銀髪盗賊団と言えば割りと大物な賞金首だ。恐らくは捕まえて罰則を加えるというより、捕まえて国の戦力として雇用したいがための賞金なんだろうが。

 その仮m……もう仮面でいいか。仮面盗賊団が入れないとなると王城よりも厳しい警備体制ということになる。

 

「というわけでダストには警備の陽動をお願いしたいんだ」

「何がというわけだこのまな板盗賊が。そんなもん二人いるんだからどっちか片方がやればいいだろうが。もしくは爆裂娘に爆裂魔法撃ってもらえ」

 

 陽動には最適だろあの魔法。…………一人でやったら確実に捕まるけど。

 

「めぐみんの爆裂魔法は論外というか最後の手段だから置いとくとして。あたしも助手君も一人で戦うのには向いてないよ? 助手君はなんか満月の夜になると絶好調になるけど、それでもあの数相手するのは無理だと思う」

「カズマなら何とかすると思うけどなぁ…………でも、あいつは自分からそんな危険な目にあおうとする奴でもねぇか」

 

 カズマはやるときはやる男だが同時にやる気を滅多に出さない男でもある。本気を出せば歴史に名を残すようなどでかいことするんじゃねーかと思ってるんだが。

 

「…………で? そんな危険な役目を善良な一般市民である俺に頼みたいと」

「善良な一般市民がどこにいるか分からないけどとりあえずはそういうことだよ」

 

 ふーむ…………まぁ、言いたいことは分かったんだが少しだけ腑に落ちないな。

 

「…………何で俺なんだ? 囮なら下部組織に入ってるっていうゆんゆんとかイリスとかいうロリっ子に頼めばいいじゃねーか。喜んでやると思うぞ」

 

 セシリーはまぁ、あれだから頼めないってのは分かるけど。

 

「貴族の屋敷には警備の傭兵の他にドラゴンがいてね、ゆんゆんじゃちょっと相性が悪いから」

 

 魔力の塊って言われるドラゴンは魔法抵抗力が恐ろしく高い。下位ドラゴンならゆんゆんでも倒せないことはないだろうが、それはタイマンの時の話だ。周りに凄腕の傭兵が入るって言うなら確かに危険だろう。

 

「じゃあイリスってロリっ子だな。あいつならドラゴンだろうが傭兵だろうが敵じゃないだろ」

 

 持ってる剣も魔剣の兄ちゃんの魔剣に劣らない魔力持ってるし、立ち居振る舞いから相当高度な戦闘技術を叩き込まれてることが分かる。…………同時に凄腕の騎士や冒険者が持つ凄みみたいなのは感じないから実戦経験はそんなにないだろうとも思ってるが。

 

「あの子を囮として使うとか絶対にありえないから!」

「お、おう…………分かったからそんな悲壮な顔すんな」

 

 なんなんだよ。あのロリっ子に何があるってんだ。金髪碧眼だから貴族の出だってのは分かるがララティーナお嬢様に比べたら可愛いもんだろうに。

 

「とにかく、条件を考えたらダストが適任だったの。助手君もダストならまぁいいかって言ってたし」

「カズマが? あいつって俺のことそんなに信頼してたっけか」

 

 俺としては悪友だって思ってるし気の置けない仲であることも確かなんだが。……あいつもゆんゆんと同じで俺のことダチとは認めないしな。

 

「あー……うん。ある意味じゃ信頼してたよ」

「その反応はろくでもない意味の信頼っぽいな…………まぁいいけど」

 

 どうせ俺の扱いなんてどこでもそんなもんだ。

 

「……その悪徳貴族は王都にいるって言ったよな?」

「うん、そうだよ」

 

 ここまでのクリスの話をまとめて、自分にメリットがないかを考える。

 そして少し考えれば自分がどうすればいいか答えは出た。

 

「…………よし、分かった。やってやるよその陽動の役。どうせやるなら盛大にな」

 

 場所が王都であると言うなら大局的に見ればそう悪い話でもない。

 

「いいの?」

「ああ。ただ、その代わりといっちゃなんだがよ……この仕事が終わったら――」

「――駄目だよ! そういうのは『フラグ』なんだよ!」

「お、おう…………じゃあ、その話はまた終わった後にでも」

 

 フラグってなんだよと思ったがクリスの剣幕がすごいのでとりあえずそうしとく。

 

「まぁ、なんだ。クリス様には死んだ時に世話になったからな。一度くらいは手助けしてやるよ」

「え? ダスト、今なんて……」

 

 

 別れてすぐだがさっそくミネアの力を借りることになりそうだった。




ここまで友達だと認めてなかったという衝撃の事実。
まぁ、ダストだから仕方ないですね。

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