どらごんたらしver.このすば   作:ろくでなしぼっち

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第14話:この悪徳貴族に天罰を!

「よ、カズマにクリス。待たせちまったみてーだな」

 

 クリスに頼まれた日から二日後。王都の待ち合わせ場所にはコソコソとしてる悪友冒険者とまな板盗賊の姿があった。

 ベルゼルグの王都は昔ちょっと来ただけだったから少しばかり迷っちまったが、待ち合わせ時間にはギリギリ間に合った…………はずだ。

 

「遅いぞダスト。土壇場になって逃げたんじゃないかとちょうど話してた所だ」

「そうは言うがなカズマ。それだったらもう少し分かりやすい所を待ち合わせ場所にしよーぜ。お前らと違って俺は王都にそんな来てないんだからよ」

 

 路地裏の路地裏とか、王都に住んでる人間でも迷いかねない所を待ち合わせ場所にした方にも問題があるだろ。そりゃ、お尋ね者の気持ちは分かるからしょうがないのも分かってるが。

 

「だったら俺とお頭と一緒に来ればよかっただろ?」

「んなこと言われてもな…………いろいろこっちにだって準備があるんだよ」

 

 アルカンレティア経由で王都に来た二人と違い、俺はゆんゆんに送ってもらって紅魔の里経由で王都に来た。カズマの言う通り二人と一緒に来れば迷うことはなかっただろうが、その場合は自分の目的どころか、囮としての役割すら果たせないから本末転倒だ。

 

「準備? そういえばなんか金髪がいつもよりキラキラしてるような…………準備ってまさかそれのことか?」

「それも含めてではあるんだが……まぁ、気にすんな。どうせこの仕事終わったらまた脱色するしよ」

 

 というかこの金髪も紅魔の里でちょちょいと魔法でしてもらっただけだし天然ものの輝きはない。ただ、夜の暗さの中であれば本物と見分けはつかないはずだ。 

 

「貴族の屋敷に忍び込むってのにそんな目立つ髪でいいのか?…………って、ダストは陽動だからそれで良いのか」

「ま、そういうこった。カズマとクリスが目的達成するくらいまではちゃんと警備を引きつけといてやるから安心しろよ」

「本当に大丈夫か? 警備はなんか凄腕の傭兵がやってるみたいだし、貴族が飼ってるドラゴンまでいるんだぞ? 確かにダストがそれなりに腕が立つのは認めるけど、あくまでそれなりだろ?」

 

 実際いつもの俺じゃ無理だろうな。だからこそ準備が必要だったわけだし。

 

「あー、まぁ助手君。本人が大丈夫だって言ってるんだから信じてあげなよ」

「このチンピラを信じて良いのかは疑問なんだが……お頭がそう言うなら信じるか。…………ダストなら捕まってもそのうち何事もなかったように帰ってくるだろうし」

 

 おい、悪友。流石にそれは冷たすぎねーか?

 

「あはは…………ま、ダスト。こんなこと言ってるけど助手君なりに心配しての言葉だから許してやってね?」

「おう、カズマはツンデレだからな」

「仮に俺がツンデレだとしてもただの知り合いにデレる理由はないんだが」

 

 はいはいツンデレツンデレ。…………カズマの顔が完全に何言ってんだこいつ状態の真顔なのは気にしない。

 

 

「んで? 揃ったことだしそろそろ行くのか?」

 

 既に街は寝静まっている時間だ。警備しているのが凄腕の傭兵であるというなら、これ以上タイミングを遅くしても難易度は変わらないだろう。

 

「あー……俺たちもダストが来たらそのまま行くつもりだったんだがな。まぁ、そろそろ帰ってくるだろうからもう少し待っててくれ」

「あん? 帰ってくるって誰がだよ。カズマにクリスがいるし、俺が来たんだから全員揃ったんじゃねーのか?」

 

 俺以外にも誰か助っ人頼んでんのか?

 

 

 

「ふふっ……助っ人の分際で私を置いていこうとはいい度胸ではないですか」

 

 そんな俺の疑問に答えるようにして頭上から掛けられる声。そういえばそんなことをクリスが言っていたなと思いながら、俺は声の持ち主に当たりをつけながら上を向く。

 

「――真打ち、登場」

 

 向いた先。屋根の上にはなんだか盗賊っぽい露出の多い服を着た爆裂娘がかっこつけたポーズを決めていた。

 

「おい、めぐみん。気が済んだらさっさと降りてこいよ。トイレ行ってから長いと思ったら、トイレから普通に返ってくるのが恥ずかしくて、出るタイミング伺ってたんだな。…………正直、その登場のほうがトイレより恥ずかしいと思うんだが」

「ちょっ、カズマ! 何をいきなりバラし…………じゃなくて、紅魔族はトイレなんて行きません!…………ちょっとお花を摘みに行っていただけです。なのでトイレトイレと連呼しないでください」

「そのネタまだ引っ張るのか? 幽霊騒ぎの時に一緒にトイレに行った仲だってのに」

 

「一緒にトイレって…………」

「めぐみんってそこまで大胆だったんだね……」

 

「そこのチンピラと盗賊! 違いますからね! 別に一緒にトイレに入ったとかそういうことはないですよ! というかそこまでいったら私がただの痴女みたいじゃないですか!」

 

 今のお前の格好は十分痴女みたいだろと思ったが、流石にそれはかわいそうだから口に出さない。

 

「いや、今のめぐみんの格好も十分痴女っぽくないか?」

 

 カズマ、お前……。

 

「これは私とアイ…………イリスで考えた盗賊っぽい服です! そんなふうに見ないでくださいよ!」

 

 ふーん……あのロリっ子とねぇ。…………あれ? ゆんゆんは一緒に考えてないのか?

 

「大体、私の今の服が痴女っぽいならクリスのいつもの格好なんて完全に痴女じゃないですか!」

「あたしに飛び火はしないでもらえると嬉しいかな!?」

「お頭は男に間違われたりするからセーフ」

「何がセーフなのか全然わからないんだけど!?」

 

 …………こいつら仲いいなぁ。

 

 

「ところでよ、路地裏とは言え屋根の上に登ってるやつと一緒になってこんだけ騒いでたら流石に衛兵に見つかって怪しまれると思うんだがどうよ?」

『?……おい、お前たち! そこで何をやっているんだ?』

 

 俺の懸念とほぼ同時に、路地裏の入り口の方から衛兵が俺らの姿を見つけて声をかけてくる。

 当然ながら今の状況で衛兵に取り調べなんかされたらまずいわけで……

 

「「「そういうことは早く言えよ(言ってくれないかな)(言ってください)!」」」

 

 騒いでた三人に何故か俺が怒られながら。俺達はその場から逃げ出したのだった。

 

 

 

「全く……めぐみんとダストのせいで酷い目にあったな」

「まだ言いますかこの男は。どちらかと言えば乙女の照れ隠しにあんなセクハラまがいのデリカシーのない返しをしたカズマの方が原因だと思いますよ。なので悪いのは私じゃありません、カズマとダストです」

 

 なんかもう帰りたくなってきたんだが。なんで俺が悪いのは前提みたいになってんだよ。

 …………まぁ、いつものリーンやゆんゆんの俺に対する扱いに比べたらまだマシだからいいけど。

 

「けど……聞いてはいたけど本当に爆裂娘を連れて行くのか? 言っちゃ何だが、王城より厳しい警備のとこに連れて行くならあのロリっ子は役立たずだろ」

 

 衛兵から逃げる時の体捌きとかを見る限り隠密に向いているようには見えない。

 

「それはそうなんだけどね。でも……たとえ何かできなくても付いていきたいってめぐみんの気持ちも分からないでもないから」

「甘いもんだな。クリスもカズマも」

 

 まぁ、俺はただの助っ人だし、本職二人の決定に異を挟むつもりはない。正直なことを言えば俺は俺の目的を果たせればいいから、2人に爆裂娘がついていって盗賊団としての目的が果たせなくても問題はないし。

 

「そうでもないよ。流石に今回はめぐみんをあたしたちと一緒に連れてけないってのは助手君もめぐみんも分かってる」

「はぁ? じゃあ、あのロリっ子はただの見送りかよ」

 

 王都まできてただの見送りってのもすげーな。

 

「見送りじゃないよ? ただ、あたしたちと一緒に潜入するのは無理だからダストと一緒に陽動をしてもらおうかなって」

「……………………は?」

 

 あの爆裂魔法しか出来ないロリっ子と一緒に陽動する…………?

 

「ダストもめぐみんの爆裂魔法は陽動に最適だって言ってたし何も問題はないよね」

「問題ありまくりだろ。爆裂魔法を撃つにしても撃たないにしても結局俺は爆裂娘を守りながら陽動を成功させないといけないってことじゃねーか」

 

 もともと俺は誰かを守りながら戦うなんてことが1番苦手だ。というのも一緒に戦う相棒が自分よりもずっと強かったから、俺はそれに追いつこうとして必死で…………誰かを守ろうと思ったら危険から遠ざけることしか出来ない。

 

(…………だから俺にあいつの護衛役なんて最初から無理だったんだよ)

 

「? どうしたのダスト。なんか難しい顔して。そんなに嫌だった?」

「…………いや、別になんでもねーよ。嫌は嫌だけど、陽動の方なら無理なハンデでもないしな」

 

 今さら過ぎ去った後悔に言い訳なんてしても仕方ない。俺はあいつらと一緒にいることを決めて、そのために今ここにいるんだから。

 

「そう? まぁ、キミが本気出すならそれくらい余裕だよね」

 

 …………正直、本気の本気って意味じゃ久しぶりすぎてまともに戦えるかは自信ないんだけどな。

 

「はい、というわけでダストの分の仮面。ドラゴンっぽいので良かったんだよね」

「おう、流石はクリス様。分かってんじゃねーか。仮面盗賊団の名は伊達じゃねぇな」

 

 俺が今回の仕事を受けることにしてクリスに出した条件の一つ。ドラゴンの仮面を受け取ってつける。

 ……うん、目の部分が広く開いてるタイプだから視界もそこまで狭まらないな。これなら戦うのに問題なさそうだ。

 

「仮面盗賊団じゃないから! 銀髪盗賊団だから!」

 

 なんかまな板が喚いてるのは無視。そろそろ忍び込むにはいい時間だし、また騒ぎすぎて衛兵に目をつけられたらやってられない。

 

「よし、じゃあお頭に兄貴、俺とおまけが陽動するからその間に目当てのものをさっさと盗み出してくれ。危なくなったらとっとと逃げるから急いでな」

「おい、誰が誰のおまけなのか詳しく聞こうじゃないか。私は正式な仮面盗賊団の一員ですよ? むしろ単なる助っ人のあなたの方がおまけですよ」

 

 なんかまな板が喚いてるのは無視。…………というかまな板しかいないなこの盗賊団。もうまな板盗賊団に改名しろよ。

 

「仮にも年上のダストに兄貴とか言われても嬉しくないんだが…………めぐみんのことは頼んだぞ、子分」

「助手君といい助っ人君といい、お頭言われてもちっとも尊敬されてない気がするのは気のせいかな…………ま、助っ人君とめぐみんもしっかり頑張ってね」

 

 そうして銀髪盗賊団+助っ人(+おまけ)の作戦が始まる。

 

 

 

 

「おーい、誰か開けてくれー」

 

 カズマたちと別れた俺は堂々と悪徳貴族の館の門をたたく。

 

「陽動とは言え、こんなに真正面から行ってもいいんですか? 逆に相手にされない気がするんですが」

「だろうな。ま、誰か一人でも来てくれたらそれでいいんだよ」

 

 俺の後ろにいるめぐみんはバニルの旦那の仮面のようなものをつけて杖を構えている。

 …………もしかしてこの頭おかしい爆裂娘は最初っから爆裂魔法を撃つつもりだったんだろうか。いや、捕まるの前提なら確かに悪くない手なんだが、それだと俺の目的が全然果たせないからされても困る。

 

「というか、あなた得物はどうしたんですか? 実は素手での戦闘のほうが得意とかどこかのドMなお嬢様みたいなことはないですよね?」

「そんな名前が無駄に可愛いお嬢様みたいな事実はないから安心しろ。…………ま、お前にはどうせ、俺の正体バレてるしな。別にいいか。……ミネア!」

 

 紅魔の里から俺を王都まで送り届け、そしてその後は俺の上空をずっと飛んでいるミネアに声をかける。

 

「ただ、俺の正体をバラすのはやめろよ。俺はまだあの街から出たくはね―んだ」

 

 ミネアから落とされた槍を手に構え、俺はめぐみんにそう頼む。

 

「別に言うつもりは最初からないんですが…………ゆんゆんにも黙っているのは何故ですか? あの子は基本的にぼっちですし誰かにバラすことなんて出来ないでしょうに」

「わざわざバラす理由もないからな」

 

 バレた時はバレた時だが…………それまでは今のままでいい。

 

「――っと、来たか。傭兵さまのお出ましだぜ」

 

 他愛のない話をしていたら門の向こうから冒険者のような武装をした男…………恐らくはこの屋敷の警備を任されているという凄腕の傭兵たちの一人がやってきているのが見えた。

 

「……こんな時間に何ようだ」

 

 門を開けずに俺らを警戒しながら問いかける傭兵。

 

「おう、警備の傭兵さんか。世間を騒がす銀髪盗賊団がやってきましたよ」

「金髪にドラゴンの仮面をした男に、黒髪に変な仮面をしたおt……女?…………とにかく、手配の2人とは違うようだな」

 

 おい、ロリっ子。男に間違われそうになったからって前に出ようとすんな。

 

「……陽動か。屋敷の警備を厳重にしろ!」

 

 流石は凄腕の傭兵さん。それなりに修羅場はくぐり抜けてるのかこっちが陽動だとさっさと見ぬいた。…………まぁ正面からやってくる盗賊なんていねぇし気づいて当然なんだが。

 

「…………どうするんですか? むしろ警戒させただけで、あっちの邪魔をしたんじゃ。今からでも爆裂魔法を撃ちましょうか?」

「いや、こっから先は本気出して陽動するからロリっ子はとりあえず後ろで見てな」

 

 陽動だと気づかれて無視されるなら、陽動だと気づかれても無視できないくらい暴れればいい。

 それが出来るだけの力が今の俺にはある。

 

 

 

「そうですか…………では、『最年少ドラゴンナイト』の実力をゆっくり見学させてもらいましょうか」

「おう、その実績が伊達じゃねーってとこ見せてやるよ」

 

 数年ぶりに俺は『ドラゴンナイト』として戦いを始めようとしていた。

 

 

 

 

「さてと……傭兵さんは門を開けてくれねーみたいだし、勝手に開けさせてもらうか」

 

 一閃。俺は槍を振りぬいて門を真っ二つにしてこじ開ける。

 

「なっ…………!?」

 

 俺達の動きを警戒していた傭兵も、まさか鉄の門を真っ二つにされるとは思っていなかったのか。分かりやすいくらいに驚いている。

 一方、俺の後ろにいるめぐみんはと言えば特に驚いた様子もなく、むしろなんで傭兵が驚いているのか不思議そうな顔をしていた。

 

 ……まぁ、紅魔族ならライト・オブ・セイバーで余裕だし、ララティーナお嬢様も素手で鉄の門くらいならこじ開けかねない。この頭のおかしい爆裂娘の周りじゃ、これくらいのことなら出来るやつが多いんだろうな。

 

「驚いてるとこ悪いけどよ…………こっちに増援送ってもらわなくて良いのか? 今の俺なら今この場にいる警備くらいすぐに終わらせちまうぞ」

 

 ドラゴン使いやドラゴンナイトの持つ固有の能力。それは契約したドラゴンの力を強化し、そしてその契約したドラゴンの力を借り受けること。ドラゴンナイトとして上空にいるミネアの力を借りてる今の俺ならこの程度の数の警備なら何の障害にもならない。

 …………あぁ、この万能感は本当に久しぶりだ。

 

「増援だ! 全力でこの侵入者を排除するぞ!」

 

 流石は凄腕の傭兵と言ってやるべきか。驚きを見せていたのは数秒ですぐに俺たちへの警戒度を跳ね上げ増援を呼ぶ。

 

「ミネアは……必要ねーな。あいつじゃ殺しちまうだろうし」

 

 増援を呼ばれたことで陽動としての役目は果たした。盗賊としての仕事は2人がうまくやるだろう。となれば後は後ろのロリっ子を守りながらこっちの目的を果たすだけだ。

 

「殺しちゃいけねーのは面倒だが……ま、なんとかなるか」

 

 悪徳貴族に雇われてるとは言え、この傭兵たちが何か悪いことをしたわけでもない。流石に殺しはまずいだろう。殺さないで無力化するってなるとかなり面倒だが…………そのあたりはこの陽動を受ける時点で分かってたことだ。仕方のないことだと割り切る。

 

(槍の腕は全盛期の頃と比べれば訛っちまってるが……まぁ、良いハンデか)

 

 ドラゴンナイトとしてドラゴンの力を借りることに関してはあの頃と変わらない。そうであるなら槍の腕が訛っているくらいならどうとでも出来る。

 

「……でも、これが終わったら槍の訓練も隠れてやらねーとなぁ」

 

 正直、ここまで槍の腕が落ちてるのはショックだ。あの国で王国一と言われた俺の槍の腕前がこの程度だというのは捨てたはずのプライドが疼く。

 …………ミネアも帰ってきたことだし、その隣にいつでも戻れるよう、腕を磨かないといけない。

 

「(……ま、今はこの槍の腕でなんとかしますか)『速度増加』『反応速度増加』」

 

 『竜言語魔法』。ドラゴン使いとドラゴンナイトにのみ許された竜の魔力を借りて使う魔法。攻撃魔法や回復魔法などいろいろ種類があるが、ドラゴン使いは強化魔法を好んで使い、契約したドラゴンの真の力を引き出す。

 そしてその上級職、ドラゴンナイトであればその強化を自分にも使いドラゴンと並んで戦う事ができる。

 ドラゴン使いは自分の身体に強化をかければ身体の方が耐えられないが、ドラゴンナイトなら耐えられる。それが同じドラゴンの力を借りる二つの職を分ける大きな違いだった。

 

 そして俺が使った二つの竜言語魔法『速度増加』と『反応速度増加』は俺がよく好んで使う魔法だ。効果は自分の動きが速くなることと、相手の動きが遅く感じるようになること。その二つを同時に使えばどうなるかと言えば――

 

 

 

「――馬鹿な……100人いる我が傭兵団がたった一人に全滅だと……」

 

 まぁ、そうなる。もともとレベルだけは傭兵たちの2倍位はあったし、その上でこっちは中位ドラゴンであるミネアの力を借りて、訛っているとは言え得意の得物で戦っている。もともと力の差があったところでこっちが2倍の速さで動いて、向こうは実質2分の1くらいの速さでしか動いてないとなればどんだけ数が集まっても負けるほうが難しい。

 …………あくまで、この程度の相手たちであればの話だが。

 

「あんたが団長さんか? 心配しなくても手加減したから死人は出してねぇよ」

 

 基本的には武器を破壊して、それでも向かってくるような命知らずなら四肢の腱を切って。

 …………思った以上に槍の腕が鈍ってたから、ちょっと手加減間違えてほっといたら致命傷なやつもいるかもしれないが、…………ま、まぁすぐにプリーストに見てもらえば大丈夫だろう。

 

「これほどの力を持って金髪……? まさかジャティス王子…………? いや、あの方は今前線にいるはずだし、何よりその瞳の色が違う」

 

 俺の正体が何者なのか考えているのか、傭兵団の団長は考えに耽っている。…………この様子じゃ、俺の正体は知らないみたいだな。まぁ、この国じゃ噂になった程度だろうし、それももう数年前の話だ。今も噂があるアクセルならともかく王都じゃ知らないやつのほうが多いだろう。

 

「思ってたよりも強かったですね。もしかしたらアイ……イリスと同じくらい強いんじゃないですか? まぁ、私の爆裂魔法には遠く及びませんが」

「お前の爆裂魔法は色々頭おかしいから比べるんじゃねーよ」

 

 無詠唱で爆裂魔法撃てるとか自爆覚悟でやられたらこいつに勝てる人間なんていないっての。

 

「てーか、あの金髪のロリっ子は今の俺と同じくらい強いのか。だとすると相当いい家系の貴族なんだな」

 

 中位ドラゴンの力を借りてその上強化魔法まで受けてる俺と同じくらい強いとか。流石勇者の国ベルゼルグ。槍の腕が衰えてるとは言えあの国じゃ最強だって言われてた俺と同じくらい強いロリっ子がいるとか。

 

「…………そうですね、イリスはすごく良い家系の子ですよ」

「おい、なんでお前は目を逸らして言ってんだ?」

 

 クリスの反応といいあのロリっ子に一体全体何があるってんだ。

 

 

 

 

 

 

「何をしている! 貴様らには高い金を払っているのだ! たった一人の侵入者くらいさっさと殺してしまえ!」

 

 耳障りな怒鳴り声。見れば身なりは良い小太りの男が屋敷の方から歩いてきていた。……なるほど、あれが悪徳貴族か。

 

「…………なんだか、ダクネスを狙っていたあの男を思い出しますね」

「奇遇だな爆裂娘。俺もちょうど思ってた所だ」

 

 見た目といい話し方といい。アルダープの野郎にそっくりだ。

 

「し、しかし……この男の実力は並みではありません……おそらくは魔王軍幹部クラス……我々では何人集まっても勝負にならないかと」

 

 

「…………なんてことを言われてますが、数多の魔王軍幹部を屠ってきた私に言わせてもらえば、そんなにあなたが強いとは思えないのですが」

「そうだな。槍の腕が鈍ってる俺が魔王軍幹部クラスはねーよ。竜言語魔法の強化込ならステータスだけなら近いものがあるかもしれないが」

 

 あいつらが本当に怖いのはステータスの高さじゃないし。

 まぁ、何人集まっても勝負にならないって評価は俺も正しいと思うけどな。そんな俺でも勝ち目がないのが魔王軍幹部クラスってだけで。

 

「ええい、役に立たん傭兵どもめ! もういい! ドラゴムよ、この侵入者を八つ裂きにしてしまえ!」

 

 傭兵の煮え切らない言葉にしびれを切らしたのか。悪徳貴族は庭で眠っていたドラゴンを起こす。起きたその体はこの前倒したグリフォンよりも数段大きく、見るものを圧倒する巨体だ。…………と言ってもミネアと比べれば一回り以上小さい。下位種のドラゴンだな。

 

「どうしますか? そろそろ私の爆裂魔法の出番ですか? 撃ってもいいですか?」

「お前の爆裂魔法じゃドラゴン殺しちまうだろーが。下位ドラゴンくらいなら俺一人でもなんとかなるから後ろで見てろ」

 

 うずうずしてるめぐみんを抑えて俺はドラゴンの方へ出る。

 

 

『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオ!』

 

 

「こんな貴族でも飼い主だもんな。守ってやろうと必死なのか」

 

 ドラゴンのブレス攻撃をよけながら俺は思う。

 下位ドラゴンってのは基本的に知能は犬並だ。普通の生き物よりは賢い程度。ジハードのように人と意思疎通できる知能をもった個体なんてほとんどいない。だからどんな悪人であろうと飼い主には従う。

 

「悪いな…………ホントは傷つけたくねぇけど、流石に無傷じゃドラゴンは止められねぇ。『筋力増加』」

 

 竜言語魔法で更なる強化を自分にしてドラゴンへと突撃する。

 

(狙うのは四肢にそれぞれある魔力の中枢点……そこを穿てば終わる)

 

 魔力の塊と言われるドラゴンは仮に人間のように腱を切られようがその程度なら魔力を使って問題なく動くことが出来る。だが、魔力の中枢点と呼ばれる所を突けば話は別だ。魔力の流れが乱れ、その動きも阻害される。

 

 なんて言えば簡単にできそうだが、竜の皮膚の固さを穿てるだけの力と、その中枢点の場所を知らなければ出来ないから、普通できるのはドラゴン使いかドラゴンナイトくらいだ。新たなドラゴンと契約するために殺さないでドラゴンを倒さないといけないから磨かれた技術であって、それ以外の人間なら普通に戦ったほうが断然勝率が高い。

 

「少しの間動けねーだろうが、我慢しといてくれよ……っと」

 

 四肢にある魔力の中枢点。それを魔力を込めた槍で順番に穿つ。すると狙い通りにドラゴンはその身体を支えることが出来ずに地面へと倒れた。

 

「さてと…………もう隠し玉はいねーよな?」

 

 槍を肩に抱えながら俺は腰を抜かして倒れてる悪徳貴族に近づく。

 

「く、くるな! か、金ならいくらでも払うから、来ないでくれ!」

「お、そうか。なら欲しいもんがあるんだがいいか?」

「なんでもやる! やるから命だけは助けてくれ!」

 

 ほんと貴族ってのは調子がいい。さっきまで殺してしまえと言っていた相手に命乞いかよ。

 

「じゃあ、そこのドラゴン、俺にくれるか?」

「ば、馬鹿な……そのドラゴンにいくらの金をかけたと思っている! 私の全財産の半分以上をつぎ込んだんだぞ!」

 

 …………なんでこういう奴らってのは何でもかんでも金で価値を測ろうとすんのかね。金なんてものそれこそギャンブルに使えば一夜で全部なくなるもんだってのに。

 

「なぁ、糞貴族。俺はお前みたいな貴族がこの世で一番嫌いなんだよ。それこそ、何回殺しても飽きたらないくらいにはな。……もう一度聞くぜ? そこのドラゴン俺にくれよ」

 

 コクコクと頷く悪徳貴族。

 ……脅しすぎたかね。可哀想だとは欠片も思わないが。

 

「わりぃな……傷つけちまって。まぁ、ドラゴンの生命力なら大丈夫だと思うが」

 

 応急手当をしながら俺はドラゴンに語りかける。

 

「もしも、ここにいたいって言うならここにいてもいいぞ。……でも、こんな小さな庭じゃなくてドラゴンには大空を駆けていて欲しいんだよ、俺は」

 

 こんな小さな庭で番犬のような扱いを受けているなんてドラゴンには似合わない。

 

 

 

 

 

「そこまでだ!」

 

 静止の声に振り向いてみればどっかで見た白スーツの女の姿。そしてその後ろへと続くのは――

 

「流石にやりすぎたんじゃないですか? 数えるのも面倒なくらい騎士やら冒険者がうじゃうじゃいるんですが」

「そっちどうとでもなるからいいんだが…………魔剣の兄ちゃんまでいんのはちょっとやばいな」

 

 めぐみんの言うとおり白スーツの後ろには王国の騎士やら冒険者やらがずっしり。そして白スーツのすぐ後ろには魔剣の勇者様……たしかみたらしとかそんな名前のやつの姿があった。

 …………こうなるようにと派手にやったんだが、魔剣の兄ちゃんまでくるのはちょっと予想してなかったな。存在を忘れてたから仕方ないっちゃ仕方ないが。

 

「? みたらしさんがどうかしたのですか? あの人は確かに強いという話ですが私やうちの鬼畜男に負けていますし、イリスと同じくらい強そうなあなたならどうにかなるでしょう」

「無茶言うなっての。今の俺じゃあいつに勝てる気がしない」

 

 ステータスって意味なら総合的には俺のほうが上だろう。だがずっと怠けてきた俺と最前線で戦い続けるみたらしじゃ戦闘技術に差がありすぎる。勝負にはなるだろうがタイマンでも負ける確率のが高い。

 

「そうなのですか? 意外と強かったのですね魔剣の人」

「カズマたちが魔王軍幹部を倒し始めるまで、人類側はずっと綱渡りを続けていたんだ。その泥沼の中で頭角を現し名前が売れた魔剣の勇者様が弱いわけねーだろ」

 

 まぁアクセルで喧嘩した時まで俺は知らなかったし、ついさっきまで存在忘れてたけど。

 

「じゃあ、どうするのですか?」

「ま、カズマに頼まれたしな。俺がなんとかしてやるからお前は爆裂魔法をいつでも撃てるように準備しとけ」

 

 無詠唱で爆裂魔法を撃てるこいつに準備が必要なのかは謎だけど。

 

「どうにかするって…………まさか、爆裂魔法で騎士や冒険者を皆ごr――」

「ただ逃げるだけだからそんな物騒な考えはゴミ箱に捨てとけよ」

 

 ここまで騎士や冒険者が来たなら俺の目的は多分果たせる。となれば、ここに留まっている理由なんて一つもない。

 …………盗賊してる二人には悪いが、危なくなったら逃げるって言ってるしな。

 

 

「ここに倒れている傭兵たち、そしてドラゴンまで……これを全て貴様たちがやったのか?」

 

 白スーツの女が前に出てそう疑問を投げかけてくる。魔剣の兄ちゃんはその少し後ろで既に魔剣を抜いて構えている。

 ……こっちはやりあう気なんて欠片もないんだからその殺気向けるのやめてくれねーかな。

 

「俺がやったとも言えるし俺だけの力じゃないとも言える……ま、ミネアの力を借りて俺がやったっていうのが正しいか。あ、このちみっこいのはただのおまけでなにもしてねーぞ」

 

 合図をして上空にいるミネアを俺の横へと降ろす。その突然現れた巨体と威容に騎士や冒険者たち恐れおののいている様子が見えるが俺は構わずその頭を撫でて可愛がる。

 こんなに可愛いってのに何を怖がってんのかね。…………あと、爆裂娘、ちみっこいって言われたことかおまけと言われたことがどっちが気に障ったか知らねーが背中をドスドス殴るのはやめろ。お前だけ置いていってもいいんだからな。

 

 

「貴様、ドラゴン使いか。……まて、ドラゴン使いだと?」

 

 白スーツは俺とミネア、両方に目をやり、そして何かに気づいたかのように息を呑んだ。

 …………都合がいいな。この場で一番偉いやつが俺のこと知ってるなら俺の目的は確実に果たせる。

 

「さてと……俺らはそろそろ御暇させてもらうぜ? お頭たちは流石にもう目的を達しただろうし銀髪盗賊団の助っ人としての役目は果たしただろう」

 

 本格的に逃げるタイミングだと俺は空気読まないでドスドスしてる爆裂娘に合図をして準備をさせる。合図の意味はわかったのかめぐみんはドスドスしていた右手で杖を構え、そして左手でドスドス殴るのを再開した。

 …………こいつ本当おいてってやろうか。

 

「シルバードラゴンを連れた金髪の槍使い……? まさか、貴様は……いや、貴殿は『ライン=シェイカー』か!?」

「さーてな。一時はこの王都にいるから捕まえられたら教えてやるよ」

 

 ま、本当に一時も一時、夜が明けるまでくらいの話だけどな。ただその意味をどう捉えるかはこの場にいるモノ次第で、そしてどう捉えようとも、俺がこの王都にいるという噂は生まれる。

 

「その仮面の奥の鳶色の瞳を見れば間違いない! ミツルギ殿、すみませんあの者を捕まえてください! 貴様らもミツルギ殿の援護を頼む! あの者をこの国に引き込めれば魔王軍との戦いに終止符を打てるかもしれない!」

 

 流石は魔剣の勇者様。白スーツの言葉を最後まで待たずに捕縛しようとこっちへと突っ込んでくる判断の速さは流石だ。後ろの騎士や冒険者がもたもたしてる間にこっちとの距離を半分にまで縮めてる。

 もしもこの兄ちゃんの得物が剣じゃなくて弓とかなら捕まっちまってたかもな。

 

「ロリっ子!」

「誰がロリっ子ですか! あなたまで巻き込んで撃ってもいいんですよ!」

 

 軽口を叩きながら放たれる最強の攻撃魔法。人が持てる最高にして最大の攻撃手段は夜空に月よりも強い光となって爆風を巻き起こす。

 

「おっしゃ、ナイスだロリっ子。逃げるぞ」

「ちっ……外しましたか」

 

 なんか物騒なことを言ってる動けない爆裂娘を片手で回収、俺はミネアの頭に乗ってすぐに飛ばせる。ミネアは俺が指示を出さなくても下位ドラゴンの身体をしっかりと持っていてくれた。

 

「そんなこといってちゃんと俺は巻き込まないようにして、その上で魔剣の兄ちゃんたちの方へは爆風だけ行くように調整したんだろ? さすがは頭のおかしい爆裂娘だな」

 

 慌てている騎士たちや静かにこっちを睨んでいる魔剣の兄ちゃんを眼下において飛び去りながら。爆裂魔法をそこまで調整しているこのロリっ子に純粋な敬意を示す。

 

「誰が頭のおかしい爆裂娘ですか!…………まぁ、私にかかればそのくらいチョチョイのチョイです。もっと素直に褒めてもいいのですよ?」

「お前を褒めすぎたら調子乗って大変になるからこれ以上は無理だ。カズマにでも褒めてもらえよ」

 

 パーティー交換した時の悪夢を俺はまだ忘れてねえからな。

 

「ところでダスト。そろそろ普通にドラゴンの背に乗せてくれませんかね? 腕引っ張られるのが凄い痛いんですが」

「ドラゴンの背っての特等席なんだよ。簡単に乗せることはできねーな」

「……そんなこと言って力が入らない私を背に乗せるのが面倒だって思ってるだけじゃないでしょうね?」

「それもある」

 

 むしろ、それが一番の理由だ。…………ま、ドラゴンの背が特等席で俺が認めたやつしか乗せたくないってのも本当だけどな。

 

 

 

 

 

――クレア視点――

 

「すみません、クレアさん。逃してしまいました」

「いえ……私が指示をだすのが遅れましたし……弓を持った騎士たちがもっと早く反応していれば止められたかもしれません。ミツルギ殿が気に病むことではないですよ」

 

 レインを連れてきていればまだ可能性はあったかもしれないが……終わったことを言っても仕方がない。ミツルギ殿は自分のやることをきちんと果たしたが我々が不甲斐なくて逃してしまった。その事実は変わらない。

 

「ところであの男は何者なんですか?……その、一緒にいた黒い髪の娘には心当たりがあるんですが」

「奇遇ですね、私もあの爆裂魔法使いには心当たりがあります」

 

 まさか、あのアイリス様の気晴らしの場所であるあの集まりにあの男まで所属したのだろうか。なんにせよ、めぐみん殿には今度あった時に探りを入れなければ。

 

「それとあの金髪の男ですが……ミツルギ殿はアクセルで仲間探しをしたりすることがありますよね。でしたら聞いたことがあるのではないですか。『最年少ドラゴンナイト』で『凄腕の槍使い』の噂を」

「…………仲間から聞いたことがありますね。そうですか、あの男が」

「『ライン=シェイカー』。最年少でドラゴンナイトになり、その上王国一と言われるほどの槍の腕前を持った隣国の英雄。数年前に歴史の表舞台から消え、今なおその実力を求める国や恐れる魔王軍から探し続けられてる……それがあの男です」

 

 そして貴族や王族の令嬢からは悲恋でありながらロマンチックな物語の登場人物として噂されている。

 

「…………それほどの人物が何故盗賊の真似事を?」

「分かりません。ただ…………あの盗賊団ならまぁ、ありえないこともないのでは、と」

 

 …………一国の王女が盗賊団に所属して下っ端と言われている状況を考えれば普通にありえるのではないだろうか。もともとあの街には最年少ドラゴンナイトがいるという噂があったことであるし。

 

「どちらせよ、あの男の話では一時は王都にいるという話。ひとまず王都にて賞金をかけて捜索することにします」

 

 この『一時』という言葉が厄介だが。……まぁ、どういう意味で捉えたとしても結局捜索しなければなるまい。そうすれば王都に『最年少ドラゴンナイト』がいるという噂が流れるだろうが…………それが向こうの狙いだとしてもこっちにはどうしようもない。

 

(最年少ドラゴンナイト『ライン=シェイカー』か。あの男といいアイリス様といい、何故あの盗賊団にはこれほど実力者が集まるのだろうか)

 

 まるで神のイタズラのようだと私は思った。

 

 

 

 

 

 

 

――ダスト視点――

 

「悪い悪い。遅れちまったな」

 

 貴族の屋敷から逃げ出した俺とミネアとおまけは一旦王都を出た。そして貴族が飼っていたドラゴンを山で野生に返してから集合場所に戻ってきた。

 あのドラゴンが今後どんな道を歩むかはしらないが、その道が誇りと幸せに満ちたものであることを願っとく。…………できればどっかのドラゴン使いと契約でもしてくれりゃいいんだが。まぁ、それは高望みってものだろう。たとえ冒険者に狩られる運命だとしてもあんな貴族のもとで飼い殺しにされるよりかはずっといいのだから。

 

「お、おい、めぐみん大丈夫か? なんだか凄い青い顔してるけど」

「…………大丈夫ですよ。このチンピラには今度爆裂魔法食らわすって決めましたから」

 

 おう、普通に死ぬからやめろ。俺はカズマと違って次死んだら終了なんだよ。

 てーか、ちょっと腕掴んで空を飛び回ったくらいで大げさだろ。

 

「まぁ、カズマあれだ。とっととこのロリっ子背負うの変わってくれ。こいつ背負って帰るのはお前の役目だろ」

 

 俺はしょうがなく背負っていた爆裂娘をカズマへ移す。しょうがねぇなぁと言いながらカズマは素直に爆裂娘を背負っていた。

 

「けど、ダストもよく無事だったな? めぐみんが爆裂魔法撃たないといけないくらい追いつめられたのによく逃げられたもんだよ」

「無事じゃねぇよ。傭兵100人いるわドラゴンまでいるわ…………イケメンなドラゴンナイトの人が助けてくれなきゃ逃げるどころか死んでたぜ」

 

「「ぷっ……」」

 

 おい、何笑ってんだよまな板ども。

 

「白スーツとカツラギが探してた『ライン=シェイカー』って人か。……何で助けてくれたんだ?」

 

 落ちそうになるめぐみんを背負い直しながらカズマ。…………しっかしまぁ、爆裂娘の幸せそうな顔なこと。

 

「さあな……どっかのパッド神の日頃の行いが良かったんじゃねぇの?」

「助手君どいて! そいつ殺せない!」

「お頭! 誰もお頭の話はしてないから落ち着け!」

 

 俺に襲いかかろうとするクリスをめぐみん背負いながらもなんとか押しとどめるカズマ。…………片手で背負って片手で押しとどめてって器用なことするな。

 

「あ、ドサクサに紛れとどこ触ってるんだよ! セクハラ禁止って言ったじゃないか!」

「い、今のはわざとじゃないって!」

「カズマ? 『今のは』ということはわざとしたこともあるということですか? まったく……私やダクネスに対してのセクハラだけでは飽き足らないというのですかこの男は」

「今のはただの言葉の綾だからお前も本気で怒るな! いてててっ……ちょっ、まじで肩が外れるからそれ以上力入れるのはやめろ!」

 

 イチャイチャしだした鬼畜な悪友とまな板たちに俺は溜息をつく。………………ああ、彼女欲しいなぁ。まな板に囲まれてる今のカズマが羨ましいとは全然思わないけど。

 

 

 

「……っと、そうだ。おいクリス。この話受ける代わりにお願いがあるって言ったの覚えてるよな?」

 

 カズマたちのイチャイチャが終わった所で。俺はそろそろいいかと今回手伝ったもう一つの理由を切り出す。

 

「あ、うん。あたしができることならなんでもするよ。……えっちぃ事以外なら」

「俺は別にどっかの鬼畜冒険者と違ってダチの女に手を出すほど鬼畜じゃねぇから安心しろ」

「おい待て、その鬼畜冒険者って俺のことじゃないよな? 俺だってそこまで鬼畜じゃないぞ」

 

 何を言ってるんだ仮面の悪魔に鬼畜のカズマさんとお墨付きもらっといて。

 

「…………確かにそういうタイプの鬼畜ではないのは確かなんですが、この男はむしろそれより鬼畜なことを平気でするんですよね」

「前にも聞いたかもしれないけどなんでめぐみんはそんな人のこと好きになっちゃったかな。ダクネスは仕方ないけど。…………あ、それとダスト。あたしと助手君は別にそんな仲じゃないからね」

「頼むからそういう話は俺のいない所でやってくれ!」

 

 …………また、イチャイチャ始めやがった。終いには泣くぞこら。

 

「それで? 結局ダストがお願いしたいことってなんなの?」

「はぁ…………まぁ、別に大したことじゃねーんだがな――」

 

 ため息を付いた後。俺はクリスにちょっとしたお願いをした。

 




知ってる方がほとんどだと思いますがシェイカーというのは『どらごんたらし』の主人公の名字だったりします。知らなくて気になった方は原作者HPに掲載中の『どらごんたらし』を読みましょう(布教)。

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