どらごんたらしver.このすば   作:ろくでなしぼっち

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ゆんゆんとジハード

「あ、ダストさんおはようございます。そろそろ朝ごはん出来ますからハーちゃんと一緒に座っててくださいね」

「お、おう……?」

 

 宿の食堂。ジハードと一緒に馬小屋から出てきた(入ってきた)俺は、何故か厨房で料理をしているゆんゆんにそう声をかけられた。

 この宿は食事のサービスこそないが、併設の食堂で金を払えばいつでも飯を食える。いつもはゆんゆんも俺と一緒に飯を注文して食べる立場なんだが、なんであいつは今料理なんてしてるんだろうか。

 

 

「お待たせしました。……? どうしたんですか、ダストさん。バニルさんに化かされた時みたいな顔してますけど」

 

 食堂のテーブルに座って待つ俺に出来た料理を持ってきたゆんゆんはそんなことを言いながら俺の正面に座る。

 なんかトラブルがあって厨房手伝ってんのかと思ったんだが、このまま飯食うみたいだし違うのか。

 

「いや、なんでお前自分で料理作ってんだ?」

「? ……ああ、そのことですか。なんでも食堂のコックさんが里帰りらしくて、今日から一週間は食堂がお休みみたいなんです」

 

 俺ら以外に人の姿が見えないのはそういう訳か。

 

「なるほど。だけど、じゃあなんでお前は料理なんてしてんだよ」

「休みの前に使いきれなかった食材があるみたいで、保存の効く食材以外は自由に使っていいみたいなんです。自分ひとりだけならともかくダストさんも一緒なら作った方がいいかなって」

「つまり、俺に手料理を作って食べさせたかったと、そういうことか」

 

 守備範囲外とはいえ、見た目は完ぺきな女にそう言ってもらえるなら多少は嬉しいな。

 

「いえ、いつもダストさんにご飯奢らされてますし、二人分の食事代を払うよりかは自分で作った方がいいって思っただけですよ」

 

 知ってた。

 

 

 

「あ、ハーちゃんにはもうご飯食べさせてくれてるんですね。ありがとうございます」

 

 美味しそうにドラゴンフードを食べているジハードを撫でながらゆんゆん。

 

「礼なんていらねえよ。俺がジハードに食べさせたかったから食べさせただけだからな」

「ですよね。知ってました。私も自分で食べさせてあげたいですし」

 

 ドラゴンが美味しそうに飯を食ってるのを見るのは至福の時間だしな。ドラゴンの世話をしたことがあるやつなら誰でもそう思うに違いない。

 

「ん……んだよ、結構美味えじゃねえか」

 

 派手さのない普通の朝食だが押さえる所は押さえてる。何ていうか、食べてて安心する味だ。

 

「そうですか?…………うん、確かに美味しいですね。朝食を作ったのは久しぶりだから少し心配だったんですけど」

「お前も基本的には店で食ってるもんな。てか、こんだけ上手いってことは里にいた頃は結構料理してたのか?」

「えっと……まぁ、欠食児童に勝負を挑むために毎日料理してた気はします。…………流石にお母さんが作った料理を賭けの対象には出来ませんし」

「? よく分かんねえがお前のことだからどうせ爆裂娘関連でなんかあったのか」

「そんなところです」

 

 まぁ、理由なんてどうでもいいか。重要なのはこいつが美味い料理作れるってことだ。

 …………見た目完璧なこいつが作った美味しい料理ならなんか金稼ぎにも使えそうだな。こいつのバニー姿エロかったしなんかコスプレでもさせて料理させときゃ多少ボッタクリの値段でも売れまくるんじゃねえか?

 

「またろくでもないこと考えてませんか?」

「いや、そんなことはねえぞ。カジノもなくなったし清く正しく金を稼ぐ方法を考えてただけだ」

「本当ですか……? ダストさんがそんなこと言ってもちっとも信用出来ないんですけど」

「あん? 最近の俺は悪いことなんもしてねえだろうが」

 

 むしろ魔王の娘を追い払ってこの街を守ったんだし、もっと褒められてもいいはずだぞ。………………てか、あれ? マジでおかしいな。誰にもこの街を守ったことを褒められた覚えがねえぞ。

 

「そういえばそうですね。口が悪いのと私に事あるごとにご飯を奢らせてくる所以外は悪いとこありませんね」

「そうだろ? だからお前ももうちょっと俺を信用しろよ」

「私に奢らせることは欠片も悪いと思ってなさそうなあたりダストさんですよね」

 

 別にいいだろ飯を奢ってもらうくらい。悪友なんだからよ。金に余裕がある時は俺もたまに奢ってやってるし。

 いや、金があってもすぐに使い潰す俺にそんな余裕がある時がほとんどないというのは置いといて。

 

 

「お金といえば……ダストさんがカジノで買い取ったあのサキュバスの子はどうしてるんですか? てっきりダストさんの部屋にでも連れ込んでるかと思ったんですけど」

「ロリサキュバスか。あいつならリーンが面倒見てるみたいだな。こんな小さい子を馬小屋で寝かせるなんて信じられないって言って」

 

 悪魔が風邪引くとは思えないし、ゆんゆんの言う通り俺の泊まってる馬小屋かその隣にでも泊まってもらおうかと思ってたんだがな。俺もあいつも金持ってないし、夢を見せてもらうのにもちょうどいいから。

 

「あー……なるほど。リーンさんの立場ならそう言いますよねぇ。……それより、意外だったのはダストさんがあの子のことサキュバスだってバラしたことです。なんで私達に教えたんですか?」

「ん? そりゃ、あいつも俺らの仲間になるみたいだし、仲間内で隠し事するわけにはいかねえだろ」

 

 それにロリサキュバスがあの店辞めたって言うなら、店のことを女たちにはバラさないっていう男同士の約束にも反しねえし。

 

「仲間……そっか、あの子も仲間になるんだ。仲間……なかま…………リーンさん以外の女の子の仲間…………ふふ……」

「おーい……ゆんゆん? 何考えてるか想像はつくが危ない顔してんぞ帰ってこい」

「はっ!? べ、別に仲間だったらアイスクリームの食べさせあいっこしても大丈夫だよねとか思ってませんよ!?」

「はいはい、それくらいはしていいから妄想はそのくらいにしとけよ」

 

 あいつ微妙にゆんゆんのこと怖がってた気がするけど、まぁそれくらいなら大丈夫だろう。どうせリーンも一緒だろうし。

 

「え? いいんですか? じゃ、じゃあお風呂で流しあいっことかそういうのも……?」

「…………まぁ、いいんじゃねえの」

 

 そこまで行くと仲間というかダチじゃなきゃダメな気がするが。まぁ、ロリサキュバスがそれを受け入れるならそれはもうダチと言っていい間柄だ。

 ゆんゆんが受け入れてもらえるかどうかは知らん。

 

 

 

「ところでダストさん。あの子のことはなんて呼べばいいんですか? ダストさんはロリサキュバス、キースさんとかは新人ちゃんって呼んでますけど」

「あいつの呼び方なぁ…………まぁ、お前らは『ロリーサ』でいいんじゃねえの? あいつに名乗れるちゃんとした名前はねえみたいだし」

 

 悪魔の真名は他人に教えられないし、下級悪魔であるロリサキュバスにはバニルの旦那やゼーレシルトの兄貴のような仮の名前もない。仮に俺がロリサキュバスと真名契約をしてたらちゃんとした名前を名付けないといけないみたいだが、ただのダチで仲間になっただけだし適当でいいだろう。

 

「ロリサキュバスだからロリーサって…………適当すぎませんか?」

「実際適当だけど可愛いからいいだろ」

 

 少なくともゆんゆんとかめぐみんとかよりはおかしくない。

 

 

 

「ふぅー……ごちそうさん。割と美味かったぞゆんゆん」

 

 というかアクセルに来てから食べた朝食の中じゃ一番かもしれない。

 

「お粗末さまでした。やっぱり例えダストさんが相手でも褒められたら嬉しいですね」

「お前は相変わらず一言多いな……」

 

 褒められて嬉しいなら素直にそれだけ言っときゃいいのに。

 

「そういや、今日はお前何をするんだ? クエストは休みだが、また爆裂娘と散歩か?」

「えっと……それは今日はないと言うか……目標見つかるまで私の出番はないと言うか……」

「? お前いつも爆裂娘とテレポートでどっか行ってたよな? なんかあったのか?」

 

 いつもなら朝飯食べたらすぐに爆裂娘が来て一緒にテレポートでいなくなるんだが。

 

「何かあったと言うか……何かがなくなったと言うか…………えっと、とりあえず詮索はなしにして下さい」

「まーたあのトラブル娘は何かやらかしたのか。流石頭のおかしい爆裂娘の称号は伊達じゃねえな」

 

 まぁ、カズマパーティーの女たちは何もやらかしてないときのほうが異常だし今更なんだが。

 

「と、とにかく! 今日は特に用事はありませんね」

「そうか。お前がどっかに行くんならジハード連れてミネアと遊ぼうかと思ってたんだが」

 

 一緒にいれるようになったミネアだが、基本的には相変わらず紅魔の里で過ごさせてもらっている。冒険にはそこから飛んできてもらって一緒に戦ってるわけだが、休日とかはテレポートで跳ばしてもらって俺の方から里へ向かうことが多かった。

 

「残念ながら今日は私がハーちゃんのブラッシングをさせてもらいますからね。……というか、最近ダストさんばっかりハーちゃんと遊んでてずるいです」

「お前が爆裂娘とどっか行くことが多いのが悪い。基本的にジハードは放って置いても寝てるだけだし手のかからない方ではあるが……」

 

 それでもいつもそんな扱いしてたら寂しがるし、代わりに俺が面倒見てやってると言うのに。

 

「まぁ、ダストさんがいるからハーちゃんを置いていけるというのは確かにあるんですけどね……。特にめぐみんとの爆裂散歩はハーちゃんが爆裂魔法に怖がるから連れていけませんし」

「…………。ま、そのあたりを今更俺が何か言う気はねえけどよ」

 

 使い魔の契約でジハードの感情は察することの出来るゆんゆんがそう言うんだ。ジハードが怖がってることに間違いはないだろうし、その考えが主として絶対に間違ってるとも言えない。

 ゆんゆんとジハードは主従だ。その道を歩みだした2人に周りがその関係をとやかく言うわけにもいかない。道を踏み外してない限り、その関係を決めるのは主従2人であるべきだ。

 

 

「そうですか? …………ん、そう言えばハーちゃんで思い出したんですけど、私、リッチーになろうと思うんですよ」

「…………は? お前、いきなり何を言い出してんだよ」

 

 なんでジハードの話をしてていきなりリッチーになるだなんて話に………。

 

「だって、ダストさん前に言ったじゃないですか。ハーちゃんが上位種になって人化できるようになる頃には自分は死んでるって。私はどうしてもハーちゃんとお話してみたいですし、そうなればもう寿命がなくなるリッチーになるしかないですよね」

「そういう事か。……いや、言いたいことは分かるがお前馬鹿だろ」

 

 使い魔と話したいからリッチーになりますとかリッチーの大安売りにも程が有るぞ。ヴァンパイアに並ぶアンデッドの王だぞ。どっかの魔導具店の店主さん見てたらそんな存在とは全然思えないけど。

 

「そんなに友達と話したいって願いはおかしいですか? ダストさんが言ったんですよ。ハーちゃんは……私や私の子孫といつまでも一緒にいてくれる『友達』だって」

「お前のその願いは間違ってねぇよ。間違ってねぇが…………お前がリッチーになるのは無理だよ」

「どうしてですか? 一応これでも私は魔王討伐に参加したアークウィザードですよ? それに実際にリッチーになったウィズさんもいますし、不可能じゃないと思うんですけど」

「そうだな。お前の言ってることは何も間違ってねぇ。間違ってねぇが…………やっぱ、お前は馬鹿だよ」

 

 実力的な意味や方法的な意味じゃ確かにゆんゆんがリッチーになるのは不可能じゃない。きっちり準備してからやれば確かにリッチーになれる可能性はかなり高いだろう。だが、ゆんゆんの想像にはその後がない。

 誰よりも寂しがり屋なこいつがリッチーとして在り続けるなんて無理に決まってんだろ。

 

「……とにかく、ジハードとどうにかして話せるようには俺がするから、リッチー化は諦めろ」

 

 簡単には諦めないかもしれないが、どうにかして説得しないといけない。……こいつが寂しそうな顔して泣く姿なんて俺は二度と見たくねえんだ。

 

 

 

 

「あ、本当ですか。じゃあ、リッチー化は諦めますから、ハーちゃんと話せるようにする件よろしくお願いしますね」

 

 

 ……………………………………。

 

 

「……おい、お前リッチーになる気なんて最初からなかっただろ?」

 

 簡単にどころか、悩む素振りすら見せないゆんゆんに俺はジト目を向けてそう聞く。

 

「え? そんなことないですよ? あー、ハーちゃんと話したいなぁ……ダストさんがどうにかしてくれないならリッチーになるしかないなぁ」

 

 わざとらしい棒読みでそんなことを言うゆんゆん。

 

「…………お前、性格悪くなってねぇか?」

「そうだとしたら間違いなくダストさんのせいだから自業自得ですよ。……それに、こんなふうに自分本位でお願いできる相手なんてダストさんくらいです」

「……お願いがあるなら普通にしろよ」

「そんなこと言って私が普通にハーちゃんとお話したいって言ってもめんどくさがって聞いてくれないですよね。ダストさんがクズデレなのを私はよく知ってますから」

「クズデレってなんだよ…………」

 

 言いたいことはなんとなく分かるのが悔しい。

 

 

「それでダストさん。…………私のお願い、聞いてもらえますか?」

 

 さきほどまでの小悪魔のような自信のある態度とは変わって、おどおどとして少し心配した様子でゆんゆんは聞いてくる。

 

(…………ったく、このぼっち娘はほんとどうしようもねぇな)

 

 俺には遠慮しないって言ってたが、それでもここまで自分のためのお願いをしていいのかは不安だったんだろう。

 その上でこうしてお願いしてきたのはそれだけジハードと……『友達』と話したいという気持ちが大きかったってことだ。

 

「わーったよ。男に二言はねぇ。ジハードと話せるように俺がなんとかしてやる」

 

 ジハードは下位ドラゴンだがこっちの言ってることが分かるくらいには賢い。バニルの旦那あたりに相談すれば可能性はあるかもしれない。

 

「だからよ…………こんなことぐらいでおどおどしてんじゃねぇよ、悪友」

 

 これくらいのお願いじゃ、お前からもらった恩は全然返せないんだからよ。

 

 

 

──ゆんゆん視点──

 

 

 ダストさんは私が何でおどおどしてるのか分かってないんだろうな。

 

 私がどうして人にお願いするときにおどおどしちゃうのか。それはお願いした相手に嫌われたくないから。

 だから簡単なお願いや相手にも得があるお願いならそこまで悩まずできるけど、自分勝手なお願いになればなるほど私はおどおどしてしまう。

 

 

 ダストさんが私にとって嫌われたくない相手になったことを。

 嫌われることが怖くても、ダストさんなら嫌わないでいてくれるって信じられたことを。

 

 そんな私の葛藤をダストさんはきっと分かってない。

 

 

 でも、それでいいと思う。

 

 そんな察しのいい人だったら私はきっとダストさんと友達にはなれても悪友になんてなれなかっただろうから。

 どんなに察しが悪くても、私を泣かせる人がいたら怒ってくれる人だって私は知ってるから。

 

(めぐみんもダストさんも自分は私の事泣かしてばっかりなのにね)

 

 でも、私が泣かされてたら怒ってくれるって信じられる。

 

 

 だから──

 

 

「はい。信じてますよ、ダストさん。あなたがどうしようもないチンピラだって事実と同じくらいには」

 

 

 ──私はこうしてこの人に甘えてしまうんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

──ダスト視点──

 

「──てわけなんだよ、バニルの旦那。嘘だとはわかってるけどゆんゆんをリッチーなんかにするわけにはいかねぇからよ。なんかいい方法ねぇか?」

「相変わらず金は持ってない上に相談屋をやってない時間に相談に来られても困るのだが…………」

 

 ウィズ魔導具店。まだ開店前のその店内で。ぱたぱたと掃除を行っていたバニルの旦那は俺の話にそう言ってため息をつく。

 

「……まぁ、よいか。()()が来るとしてもまだ先の話であろうし、あのぼっち娘をリッチーなぞにするわけにもいかぬ。少しくらいなら相談に乗ってやろう。相談の報酬は汝への貸しである」

 

 

「あのー……一応、私リッチーなんですけど…………『なんか』とか『なぞ』とか言われると地味に傷ついちゃうんですが……」

 

 

「旦那に結構借り作っちまってるなぁ。溜めると怖いんだが。……言っとくけど俺に金はねぇから期待しないでくれよ?」

「誰も万年金欠のチンピラに金の期待なぞしてないから安心するが良い。……それで相談というのは確かあのぼっち娘をリッチーにしたらポンコツ店主と同じ残念リッチー街道まっしぐらだからどうにかしたいという話でよいのか、ダスト」

 

 

「バニルさん? 喧嘩売ってますか? …………って、あれ!? なんかバニルさんが普通にダストさんの名前呼んでるんですけど!」

 

 

「ええい、そこのポンコツリッチーさっきからうるさいぞ! 今日の晩ごはんは奮発して水飴を食べさせるゆえ黙っておれ」

 

 カウンターから俺達の話にいちいち反応をしめすウィズさんに旦那はそう言う。

 

「水飴は嬉しいですけど誤魔化されませんよ! 長い付き合いの私だって片手で数えるくらいしか名前で呼ばれたことないのに!」

 

 水飴が嬉しいってどんな生活送ってんだよウィズさん…………。

 

「我輩が名前を呼ぶのは我輩が認めたもののみである。人間時代の武闘派店主は我輩が初めて認めた人間であるため名前で呼ぶのも吝かではないが、今の汝は我輩が稼いだ金をすべてガラクタに変える穀潰しではないか。強いのは認めているが名前を呼ぶのは気が向いた時だけになるのは仕方あるまい」

「う……それを言われると言い返せないです」

 

 全部ガラクタに変える穀潰しって言われて言い返せないって…………バニルの旦那も苦労してんなぁ。

 

「でも、それじゃあどうしてダストさんのことは名前で呼ぶんですか?」

「このチンピラは性格こそあれだがトカゲと一緒に戦えば我輩を倒し得る実力者である。間抜けではあるがこれで頭の回転は悪くない。本人は万年金欠ではあるが我輩に儲け話を持ってきてくれることもある。ぼっち娘と一緒にいれば我輩好みの悪感情を勝手に作ってくれる。…………まだ他にもあるが、説明が必要か?」

「…………もういいです」

 

 どうせ私なんかといじけてるウィズさん。……どちらかというと俺がいじけたいんだけど。

 

「あー……ウィズさん? バニルの旦那がウィズさんより俺を認めてるってことはないから安心してくれよ。旦那は俺のことを本当の名前で呼んだことはないからよ。それにわざわざ俺をダストって呼んだのだってきっとウィズさんをからかいたかったからだぜ?」

 

 バニルの旦那がこの街で1番認めてるのはウィズさんだ。そんなこと見通す力なんかなくても分かる。

 

「悪友に察しが悪いと評価されてるチンピラごときが我輩を見通したような風に言いおって…………呪いで汝を女に変えても良いのだぞ」

「土下座して謝るからそれだけはやめてくれ!」

 

 一瞬の躊躇いもなく俺は土下座する。…………バニルの旦那を怒らすのはやめよう。

 

「そっかぁ……バニルさん私にかまって欲しかったんですね」

 

 ふふっ、と嬉しそうに笑うウィズさん。

 

「そこのポンコツ店主は水飴没収である。ついでに飲まず食わず寝ずで1週間働くがよい」

「死にますよ! ……いえ、リッチーだから死なないですけど。謝って黙りますから許してください!」

 

 バニルの旦那つえぇなぁ……。一応バニルの旦那はアルバイトでウィズさんが店主だった気がするんだけど。この力関係おかしくね?

 

 

 

「あむあむ」

 

「さて、いきおくれ店主は水飴食べさせて黙らした。本題に入ろう。…………なぜ本題に入るまでにこんなに時間がかかるのだ」

「バニルの旦那が素直じゃないからじゃねぇかな」

 

 美味しそうに水飴を食べるウィズさんを横目に見ながら俺とバニルの旦那は本題に入る。…………ウィズさん可愛いなおい。

 

「それで本題はあの最近ぼっちじゃなくなってきたぼっち娘が使い魔の下位トカゲと話したいということだったか」

「それ以上ドラゴンをトカゲと呼んだらバニルの旦那相手でも戦争だぜ。……まぁ話はそれであってる。なんかいい方法ねぇかな。使い魔と話せるくらいに意思疎通出来るスキルとか上位種になってないドラゴンを人化させるスキルとか」

 

 バニルの旦那はリッチー化の秘術も知ってたらしいし、いい方法を知ってる可能性は高いはずだ。

 

「ふむ……前者に関しては今ぼっち娘が使っているであろう使い魔の契約以上のスキルはあるまい。あれは必要最低限の意思疎通はできるし普通はそれで満足するのだが……」

「あのボッチーは満足しないわがまま娘なんだよなぁ」

 

 ほんとに手のかかるやつだ。

 

「あのさみしがりやな娘が我儘を言ってる相手は汝くらいの気がするが…………。後は竜を人化させるスキルであるが、あれなら竜に関するスキルであればなんでも覚えられるドラゴンナイトであれば覚えることは可能であろう。汝が覚えてあの下位種に代わりにかけてやればよい」

「…………わりと簡単に解決策が出てきたな」

 

 簡単すぎてなんか落とし穴がありそうなんだが。

 

「ふむ……女心の察しが悪いくせにこういう所で察しが良い童貞男よ。汝の懸念する通り問題点が二つある」

 

 だよなー。

 

「一つはスキルポイントの問題。人間である汝が覚えようとすれば人化のスキルはどんなに才能あるものでも50ポイントは使うであろう」

「今の俺のレベルって55なんだが…………こっから50ポイント稼ぐの無理じゃね?」

 

 大精霊を倒したり魔王軍幹部クラスを複数一度に相手したり、修羅場をくぐってくぐってやっと上がったレベルだ。魔王が倒されてわりと平和になったこの世界でこれ以上レベルあげるのは相当苦しい。

 

「あむあむ…………あ、ダストさん、それなら私がレベルドレインしましょうか? 私の『不死王の手』のスキルならレベル下げられますよ。運が悪いと麻痺ったり猛毒にかかったりしますけど…………ダストさんなら即死しなそうですし大丈夫ですよね?」

 

 水飴を美味しそうに食べながらそんなこと言ってくるウィズさん。

 

「ということである。スキルポイントのことに関してはそれでよかろう。レベルを上げなおせばスキルポイントはその分溜まっていく。3回ほどレベルをあげなおせば50ポイント位はすぐ溜まるだろう。ドラゴンナイトである汝ならドラゴンさえいればレベルによるステータスなど誤差であるし弱くなる危険もない」

 

 そのレベルドレインする時が危険みたいなんだが……。

 

「心配せずともこの店は解毒のポーションなどもしっかりと扱っておる。安心するが良い」

「その台詞のどこで安心すればいいんだよ旦那……」

 

 流石はバニルの旦那。きっちり商売しやがる。

 

 

 

「それでもう一つの問題点ってなんなんだ?」

 

 スキルポイントのことはまぁ不安はあるけどなんとかなりそうだ。もう一つの問題点というのが気になる。

 

「ドラゴンナイトであれば竜に関するスキルを全て覚えられるといったが、人化のスキルなどは爆裂魔法同様使えるものに教えてもらわねば覚えられぬ」

「ドラゴンの人化が使えるって言ったら…………上位ドラゴンしかいないよな?」

「そうなるな。竜は上位種になれば自然と人化のスキルを覚える。というより人化のスキルを覚えるのが上位種になった証と言ってもよい」

「……でも、今はまだこの世界に上位ドラゴンは生まれていないはずだ」

 

 ある日を境に上位ドラゴンと中位ドラゴンがまとめていなくなったこの世界で。上位ドラゴンが生まれるのはまだ100年は先の話だ。

 つまり、この世界には人化のスキルを使えるドラゴンはいない。

 

「それなのだがな、実はつい最近魔王が倒されたという事実を受けて一匹の上位種がこの世界に帰ってきたらしい。…………ちっ」

「まじかよ。運がいいな。…………ドラゴン嫌いだってのはゆんゆんから聞いてたけど、そんな舌打ちまでしなくてもいいじゃねぇかよ旦那」

「こればっかりは仕方あるまい。ただの上位種ならともかく、帰ってきたのが神魔大戦の時に散々我輩の邪魔をした奴ゆえ」

「へぇ……地獄にいる旦那の本体を相手に戦えるとかドラゴン使いの強化を受けてるにしてもすげぇな」

 

 地上にいる旦那は仮の姿で、本来は更に強い。七大悪魔の第一席、地獄の公爵って称号は伊達じゃないのだ。

 

「いや? あの忌々しい竜はドラゴン使いと共に戦ってなどおらぬぞ」

「…………は? いやいや、流石に上位ドラゴンでもドラゴン使いのアシスト無しで旦那と戦うとか無理だろ。ドラゴンは最強の生物だけど最強の存在じゃないんだからよ」

 

 ドラゴン使いと一緒に戦うドラゴンは最強だって俺は証明してみせるけど。

 

「ふむ…………あれはただの上位種ではない。上位種の中でも上位の存在…………巷じゃ『エンシェントドラゴン』とか偉そうな称号を受けていたか」

 

 

 …………………………。

 

 

「エンシェントドラゴンって言ったらあれか? 体の大きさが城と同じくらいでかいという?」

「うむ」

 

「ただのブレス攻撃が爆発魔法と同じくらいの威力があってそれを連発するとかいう?」

「うむ」

 

「本気のブレス攻撃なら爆裂魔法と同じくらいの威力があってそれを何発撃っても魔力切れ起こさないとかいう?」

「うむ……まぁ、その噂話で大体あっておるな。この世界で振るえる力を考えればそんなものであろう」

 

 つまり制限を受けてその強さなのか…………。

 

「俺はそんな相手から人化のスキルを教えてもらわないといけないのか……」

 

 機嫌損ねたら消し炭になりそうだなぁ。

 

「うむ、戦って強さを認めてもらえば教えてくれるだろう」

 

「え?」

「ん? どうしたチンピラ冒険者よ。ジャイアントトードが駄女神のゴッドブローを食らったような顔しおって」

 

 なんなの? その表現流行ってるの?

 

「……じゃなくて! 戦うって誰とだ……?」

「そんなものあの無駄に大きな身体の忌々しいエンシェントなんちゃらである」

「無理に決まってんだろ! 一瞬で死ぬわ!」

 

 そこまで人間やめた覚えはない。というか魔王軍幹部クラスや炎龍が可愛く思えるような相手と戦うなんて考えたくもない。

 

「心配せずともあれも手加減くらいはするであろう。なにより竜が自らの知識や力を与える相手と戦うのは、魔王が勇者に倒されるというのと同じくらい大きな役目である。戦わずして力を授けられることはあるまい」

 

 ……そんなもんなのか。いいじゃん別に戦わなくても力くれて。魔王も別に勇者じゃなくて神様とか幹部の裏切りで倒されてもいいじゃん。

 

 

 

 

「──まぁ、納得は行かないけど俺がどうすりゃいいかは分かったよ旦那。借りはいつかちゃんと返すぜ」

 

 エンシェントドラゴンがいる場所等を教えてもらい相談を終えた俺はそうバニルの旦那に言う。

 

「言われずともちゃんと返して貰う予定は立てているから安心するがよい。汝たちには我輩の夢を叶えるためやってもらいたいことがあるゆえ」

 

 汝『たち』……?

 

「ま、こまけぇことはいいか。んじゃ、バニルの旦那、ちょっとエンシェントドラゴンと戯れてくるぜ。…………あと、ウィズさんにもう少しまともなもん食わしてやろうぜ」

 

 じゃないと栄養失調で死ぬぞ。……リッチーだから死なねぇけど。

 

「たまには串焼きの屋台の店主に腐りかけの肉をもらって食べさせておるから安心するがよい」

 

 ……リッチーといえどドラゴンやドラゴンハーフじゃねぇんだから腹壊すだろ。

 

「……ま、こまけぇことはいいか」

「細かくありませんよ!? ダストさんもバニルさんの私に対する扱いが酷いことなんとか言ってください!」

 

 水飴食べ終わったらしいウィズさんがそう叫ぶ。

 

「言ってもバニルの旦那が聞くとは思えねぇし…………ウィズさん、強く生きてくれ」

 

 ある意味もう死んでるけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ゆんゆん視点──

 

 

「うーん……ダストさんがハーちゃんと一緒にいなくなってもう一週間ですか。流石に少し寂しいですね」

 

 ダストさんに相談したあの日。バニルさんから何か聞いてきたらしいダストさんはハーちゃんを連れてどこかへ行ってしまった。すぐに帰ってくると思っていたけど、予想に反してもう一週間も経った。

 ダストさんとハーちゃんとミネアさんがいないだけで冒険はリーンさんたちと普通に続けてるし、夜寝る時もめぐみんやリーンさん、ロリーサちゃんと一緒に寝させてもらってるからそこまで寂しくなかったけど、一週間ともなると流石に寂しい。

 

「……早く帰ってこないかな、ハーちゃん」

 

 大切な使い魔のドラゴンが早く帰ってくるのを祈って私はベッドに横になり布団をかぶる。今日はめぐみんはカズマさんに夜這い仕掛けるから無理と一緒に寝るの断られたし、リーンさんも今日は実家の方に帰るらしいので一人で寝ないといけない。……流石にロリーサちゃんを呼ぶ勇気はまだなかった。

 

 

 

「起きてるかーゆんゆん」

 

 そんな煩悶とした思考の中に漂っていると、バンというドアが蹴飛ばされて開く音と一緒に、聞き慣れてしまったチンピラの声が届く。

 

「……ダストさん、朝はまだ許せますけど夜にそれは警察に突き出されても文句言えないですよ」

 

 大きなため息を付きながら私は起き上がって魔道具の明かりをつける。壊れた扉の所には少しだけ懐かしさを感じる金髪のチンピラさんと黒い髪に赤い目をした幼い女の子の姿があった。

 

 

 

 …………幼い女の子?

 

 

 

「ダストさん!? あなたはロリコンじゃないところだけが美点だったのにどうして幼女を誘拐してきちゃったんですか!? しかも紅魔族とか…………親に見つかったら殺されますよ!」

「誰も誘拐なんかしてねぇよ! それに……紅魔族? 今の俺はただの人間なんか怖くねぇぜ」

 

 そう言ってなんか虚ろな笑いをするダストさん。…………よっぽど怖い存在とでも会って来たんだろうか。

 

「誘拐じゃないって……ならどこからそんな可愛い子を連れてきたんですか?」

「んだよ……まだ分かんねぇのかよ。……ほら、察しの悪いご主人様のとこに行ってやれ」

 

 そう言ってダストさんは女の子の背中を優しく押す。

 背中を押された女の子はそのままトトトと少しおぼつかない足取りでベッドに座る私の所に走ってきて──

 

「あるじ、ただいま」

 

 ──そんな言葉とともに私の胸に飛び込んできた。

 

 ……あるじ?

 

「もしかして…………ハーちゃん?」

 

 艶やかな黒い髪は確かにハーちゃんの鱗の色に似てる。その赤い瞳も紅魔族の紅い瞳よりも深みのある赤だ。

 

「はい、じはーど…です」

「本当にハーちゃんだなんて!」

 

 きゃーと私は喜びハーちゃんを抱きしめる。肌も白いしぱっと見れば紅魔族の女の子にしか見えないから気づかなかった。

 

「あるじ……くるしい……」

「あ、ごめんなさい。……大丈夫?」

 

 抱きしめる力を緩めてそう聞くとハーちゃんはこくんと頷いた。…………可愛い。

 

「気をつけろよー。今のジハードは魔力こそ変わらねぇが硬い鱗も無ければ爪や牙もない。身体能力は見た目よりちょっと上なくらいだ。上位種の人化ならそんなことねぇんだろうけど、下位種を俺が人化させてるからな。高レベル上級職のお前が本気で抱きしめたら潰れるぞ」

 

 ダストさんはそばによってきてそう言う。

 

「流石にそんな馬鹿力じゃないですよ!…………でも、一応気をつけます」

 

 魔法職だから大丈夫だとは思うけど…………確かに普通の一般人より力が強いのは確かだ。

 

「そうしてくれ。……それでジハード。ご主人様に言いたいことがあるんじゃなかったか?」

 

 そうなの? と私は胸の中にいるハーちゃんに首を傾げる。

 

 

「あるじはわたしがまもる。たとえあるじがしんでもそのしそんまで……わたしがしぬまでずっといっしょにいる。…………あるじ、だいすき」

 

 

「ハーちゃん……」

 

 純粋で真っ直ぐな好意。私の回りには素直な人が少ないせいかその好意は私に大きな衝撃を与える。

 

「なんだよゆんゆん。泣いてんのか」

「泣いてなんか…………いえ、こんなの泣くに決まってるじゃないですか。大好きな使い魔にこんなに愛されてるって知れば」

 

 誤魔化せないくらい涙が流れてることに気づいた私は開き直る。

 

「ほんと……お前は泣き虫だな」

 

 そう言ってダストさんはぽんぽんと私の頭を撫でる。

 

「ありがとうございます、ダストさん。…………苦労しましたよね?」

 

 ダストさんの格好を見ればその苦労は分かる。鎧はボロボロでもはや原型を留めてないし冒険者服もあちこち千切れてる。ドラゴンと一緒に戦うダストさんの強さは認めてるだけに、そんなダストさんがここまでボロボロになる苦労となると想像を絶する。

 

「ま、少しだけトラウマ出来ちまったのは否定しねぇが…………手に入れたもんに比べりゃ安い苦労だよ」

 

 そうため息混じりに笑ってダストさんは私が泣き止むまで頭をなでてくれた。

 

 

 

「さてと……俺はそろそろ下の馬小屋借りて寝るか。店主のやろう起きてるかね」

 

 一つ伸びをしてダストさんはそう言う。

 

「大丈夫じゃないですか? さっき煩くしてたから多分イライラして起きてますよ」

「それもそうだな。…………じゃ、ジハード、今日からはゆんゆんと一緒に寝ることになる。ちゃんとこいつを守ってやってくれ」

 

 そう言ってハーちゃんの頭をなでてダストさんは部屋を出ていこうとする。

 

「?……おい、ジハード。服を放してくれ」

 

 ダストさんの服をハーちゃんは掴み、放してと言われても放さない。

 

「…………らいんさまは、いっしょじゃないの? いつもはさんにんいっしょ」

「な……!?」

 

 ハーちゃんの言葉に私は慌てる。ダストさんとハーちゃんが寝てる所に私がお邪魔してるのは内緒なのに……!

 

「あー……ジハード? それは寂しがりやのお前のご主人様が一人寝に耐えられなくて潜り込んできただけでお前が一緒に寝てやったら俺は必要ねぇんだよ」

「って、あれ!? ダストさん私が潜りこんでるの気づいてたんですか!?」

 

 そんな様子全然見せてなかったのに!

 

「…………一番最初で気づいてるっての。お前が気づかれてないと思ってるみたいだから調子合わせてただけで」

 

 普段察しが悪いくせにこんな恥ずかしいことは気付くなんて…………!

 

「てわけだ。ジハード、服を放してくれ。…………ジハード?」

 

 ダストさんの言葉を受けてもハーちゃんは服を放そうとしない。

 

「らいんさまもいっしょがいい。らいんさまもわたしがまもりたい。…………だめ?」

 

 うるうると涙目で言うハーちゃん。

 

 ……………………

 

 

「ダストさん、仕方ありません、一緒に寝ましょう!」

「簡単に懐柔されてんじゃねぇよ! このダメご主人様が! 使い魔のしつけもご主人様の仕事だろうが!」

「それを言ったらダストさんだってドラゴンナイトとしてハーちゃんと契約してるんだから一緒ですよ! それに私にはこんなに可愛いハーちゃんのお願いを無下にすることなんて出来ません!」

 

 ただでさえ大切な使い魔なのに幼い女の子の姿でお願いされるとか反則です。

 

「気持ちは分かるけどよぉ……。……ま、いつものことと言っちゃいつものことか。床で寝るからなんかかけるもん寄越せ」

「? 別に床で寝なくてもいいんじゃないですか。私のベッド大きいからちっちゃなハーちゃんを含めた三人なら余裕ありますよ」

 

 一緒に寝てたのを気づかれてたことと比べれば恥ずかしがることでもない。私が恥ずかしかったのは黙って潜り込んでたことだし。

 

「…………お前、俺のこと全然男だって思ってねぇだろ?」

「え? 何を今更なことを。というかダストさんだって私の事女の子だって思ってないですよね?」

 

 ダストさんは男とかそう言うの以前に『ダストさん』ってグループに入っちゃってる感がある。

 

「まぁどんなに可愛くてもクソガキじゃ守備範囲外だからなぁ…………ま、お前がいいならいいか。ジハード、一緒に寝ようぜ」

 

 ダストさんの言葉にハーちゃんはコクリと頷く。…………しぐさがいちいち可愛い。抱きしめて眠りたい。

 

 

 

 

 

「うぅ……ハーちゃんがダストさんの方に寄って行ってしまいました」

 

 私、ハーちゃん、ダストさんの順番でベッドに並んで寝ているけど、ハーちゃんは明らかにダストさんの方に寄って眠っている。

 

「お前があんだけ言ったのに強く抱きしめるからだろうが。自業自得だっての」

「うう…………ダストさんに正論言われた…………死にたい」

「ジハードが寝てなきゃ表に出させてるとこだぞ毒舌ぼっち」

 

 顔は見えないけど、ダストさんがどんな顔して言ってるか分かってしまい私は笑う。

 

「……そういえば、今私とダストさんが喧嘩したらどっちが勝つんですかね?」

 

 戦士で長剣を使って戦ってたダストさん相手なら負ける気がしないけど、ドラゴンナイトとして槍を持って戦うダストさんに勝つビジョン思い浮かばない。

 

「どっちでもいいだろそんなもん。……どっちが勝っても俺とお前の関係は変わんねぇよ」

「……それもそうですね」

 

 ダストさんは私の悪友だ。ただの知り合いが友達を経て変わってきた大切な。強いのがどっちかだなんてことで変わるような関係でもない。

 

(…………でも、ここから変わらないのかな?)

 

 私とダストさんの関係。それはきっと簡単には壊れないものだと思う。でも、不変のものかと言われたら首をかしげる。

 だって、私は知り合いだった時も友達だった時も、ダストさんとそれ以上の関係になるなんて夢にも思っていなかったのだから。

 

 

 壊れないし、壊れてほしくはない。けど、変わらないし、変わってほしくはないのかと聞かれたら分からない。

 ただ、分かるのは……

 

(……今はこのままでいいかな)

 

 未来がどうかは分からないけれど。少なくとも今はこの距離感が心地いい。死ぬまでずっとこの関係を続けてもいいと思えるくらいには。

 

 

 

 

「ところでダストさん。一つ質問いいですか?」

「んあ? なんだよ、俺はもう寝たいんだが」

 

 少し寝ぼけた声のダストさん。でもこれだけは聞いとかないといけない。

 

 

 

「ハーちゃんって、元のドラゴンの姿に戻れるんですか?」

 

 

 

「………………………………あれ? そういやドラゴンハーフは竜化を覚えないとドラゴンの姿になれないんだっけ?………………もしかしてそれもスキルなのか?」

「ダストさん、とりあえず結論をどうぞ」

「多分、このままじゃ戻れない」

「どうにかする方法は?」

「人化のスキルを覚える方法と同じ手順踏めば大丈夫……のはずだ」

「よかった…………大丈夫なんですね」

 

 ハーちゃんのかっこいい姿も好きなだけに私は安堵する。

 

「全然大丈夫じゃねぇよ! それってつまりもう一度あれと戦うってことだろ! しかも今度はジハード抜きで! 無理! 絶対無理!」

「…………一体全体なにと戦ってきたんですかダストさんは」

 

 ドラゴンと一緒に戦うダストさんに勝てる相手なんて私はバニルさんくらいしか知らない。ダストさんが本人が言うにはカズマさんにも多分負けるって言ってたけど。そんなダストさんがここまで半狂乱になる相手って……。

 

「『エンシェントドラゴン』…………地獄にいるバニルの旦那の本体と同格の相手だよ。…………なぁ、ゆんゆん。ジハードが今はまともに戦えないから背に腹は代えられねぇ。お前も一緒に……」

 

『エンシェントドラゴン』……? エンシェントドラゴンってあの……?

 

「無理ですよ! 私もあれからいろいろ調べましたけどエンシェントドラゴンに人間の魔法なんて効くわけないじゃないですか! 効くとしたら爆裂魔法ぐらいでそれも一発食らっただけじゃ全然ダメージのうちに入らないないっていう!」

 

 上位種以上のドラゴンと魔法使いの相性は最悪だというのにその中でもさらに歳を重ねて強くなったエンシェントドラゴンとか…………うん、無理。

 

「大丈夫だ! 相手はすげぇ手加減してくれるし! ゆんゆんが囮になってくれたらなんとかなる! 大丈夫だ。ちょっと爆発魔法クラスのブレス攻撃を連発するだけだから魔王討伐メンバーのゆんゆんなら避けられる!」

「それを聞いて大丈夫じゃないのを確信しました!」

 

 手加減してそれとか…………もう普通の人間が戦う相手じゃないですよ。それこそ伝説に残るくらいの人じゃないと。

 

 

「んぅ……あるじ、らいんさま、うるさい。……はやくねよ?」

 

 私達が騒いでたせいか先に寝ていたハーちゃんが起きたらしい。

 

「……とりあえず、ダストさん。この件は明日の朝起きてからしましょう」

「おう……多分こうなること気づいてたバニルの旦那にも文句言いてぇしな」

 

 多分あの仮面の悪魔さんは『極上の悪感情大変美味である』とか言ってさらに私達から悪感情絞りとると思いますけどね。

 

「それじゃ……ハーちゃん、ダストさん。おやすみなさい」

「おやすみ、あるじ、らいんさま」

「おう、おやすみ」

 

 

 ハーちゃんとダストさんのおやすみという言葉を聞き届けて私は目を瞑る。ただ……大切な使い魔と言葉をかわすことが出来たという興奮は私を簡単には寝かせつけてくれなそうだった。

 

 

 

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