どらごんたらしver.このすば   作:ろくでなしぼっち

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どらごんたいじ 後編

――ゆんゆん視点――

 

 

「なんで…………なんでなんですか……っ」

 

 私は目の前に広がる認められない光景に『なんで』を繰り返す。

 

「なんで私をかばったりしたんですか……っ」

 

 きっと私はエンシェントドラゴンの雷撃を食らっても致命傷にはならなかったはずなのに。

 

「なんで、ダストさんがこんなにダメージを受けてるんですか……っ」

 

 ドラゴンと一緒に戦うダストさんは私なんかよりも魔法防御力が高いはずなのに。

 

「なんで……、なんで何も喋ってくれないんですか……っ!?」

 

 私がこんなに呼びかけてるのに……どうして、いつもの乱暴な言葉を返してくれないんですか。

 

「約束したじゃないですか……私にたくさん友達作ってくれるって」

 

 冒険だってまだまだ全然してないのに。ハーちゃんとも喋れるようにやっとこれからなのに。

 

「…………私とハーちゃんに仇討ちなんてさせるつもりなんですか?」

 

 仇討ちなんてさせるなって言ったのはダストさんなのに。

 

「なんで…………なんですか…………」

 

 

 

 

「お、おいアクア。なんか雰囲気がやばいことになってるけど大丈夫だよな? お前がいるんだからダストが死んでも生き返って『あー、死ぬかと思った』って感じでオチを付けられるんだよな?」

「…………あのね、カズマさん。あのチンピラはクーロンズヒュドラの時に一度死んで生き返ってるの。二度目の蘇生は出来ないわ」

「出来ないって…………お前、俺の時は散々ゴリ押しして生き返らせてるだろう」

「それはカズマさんだから出来ることなのよ。カズマさんが選んだチートが私だったからとか、運以外は並で面白いステータスしてるからとか。……生き返ったほうが面白そうだからカズマさんは生き返れるの」

「じゃあ、ダストは…………」

「あいつが本当にただのチンピラならどうにかなったかもしれないけど……あいつは強すぎる。今はまだ辛うじて生きてるみたいだけど、死んだらそこで終わりよ」

 

 

 そう、ダストさんは一度死んでる。リーンさんに聞いた話だけれど、あのクーロンズヒュドラとの戦いの中、無茶をしてヒュドラに食べられたらしい。()()に助け出された後、アクアさんに蘇生されて事なきを得たってことだけど、この世界において蘇生が許されるのは本来一度きり。特例らしいカズマさんはそれに当てはまらないけれど、ダストさんはその本来の理の内にいる。

 もしもここでダストさんが死ねば……

 

「だったら、今すぐ治療を……!」

「今の状況じゃ無理よ。あいつの治療に向かったらダクネスが死んじゃう。流石のダクネスもまたドラゴンの姿に戻ってるエンシェントドラゴンのブレスを回復無しで受け続ければ耐えられない。……ゆんゆんには悪いけどダクネスとダストだったら私はダクネスを選ぶわ」

 

 

「……どうしようもないのか」

『負けを認めればいい。そうすれば我は戦いをやめ、そなたらを見逃そう。……我に挑みし対価はもらうが』

「…………対価?」

『死にかけているドラゴン使い。その男は我が認めるだけの才能がある。我はもう少しすればこの世界を離れ旅に出るが、その旅にその男を連れて行きたいのだ』

「ま、それもありかもね。死ぬよりかはマシでしょうし。……どうする? カズマさん」

「どうするったって、そんなの負けを認め──」

 

 

「──嫌です!」

 

 

 冷たくなっていくダストさんの身体を抱きしめながら私は叫ぶ。

 

「ダストさんが死ぬのは嫌です! でも……ダストさんと離ればなれになるのも嫌なんです!」

 

 

 死んでしまうよりかは確かにマシかもしれない。

 でも、離れ離れになれば一緒に冒険ができない。

 一緒に夕飯を食べることも出来ない。

 ハーちゃんの教育方針で喧嘩することも出来ない。

 

 

 可能性がある限り、私はダストさんと一緒にいれる未来を諦めたくない。

 

 

「お、おい、ゆんゆん。そんなこと言ってもこのままじゃダストは死んで……」

 

 そう困った顔で言うカズマさん。

 

 

「らいんさまは、わたしがしなせません。わたしもあるじとおなじきもちです」

 

 危険だからと離れた場所で、でも『もしも』の時のために控えていたハーちゃん──私の可能性──がダストさんの治療を始める。

 

 

「小僧! ダストを死なせることは我輩が許さん! だが、トカゲ風情にダストをくれてやるとこも出来ぬ。そのどうしようもないチンピラにはまだやってもらうことがあるのだ」

 

 エンシェントドラゴンとぶつかり合いながらバニルさんはカズマさんに叫ぶ。

 

「ダストは言っておったぞ、汝がいればどうにかなるだろうと。ダストのどうにかなるという言葉はここで負けるなどというつまらぬ結果ではないはずだ」

 

 

 

 

「カズマ。少し無茶なお願いをしてもいいでしょうか?」

「……なんだよめぐみん」

「ダストが死んでしまう前にエンシェントドラゴンを倒したいんです」

「そりゃ、少し無茶なお願いじゃないな。凄い無茶なお願いだ」

「……ダメ、でしょうか?」

「その無茶なお願いの理由次第だな」

「ゆんゆんが、引っ込み思案のあの子が、ここまで自分本位なわがままを言ったのは初めてなんです。私はそのわがままを叶えてあげたい。……あの子は私の親友ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ったく…………しょうがねなああああああああああああああ!! おい、アクア! 戦いが終わればどんな状態でもダストを助けられんだよな!?」

「もちろんよ。死んでさえいなければ死体だって生き返らせてみせるわ。女神の本気舐めんじゃないわよ」

「ありがとうございます、カズマ。…………それでこそ私の好きな人です」

 

 

 そうして、無謀な戦いが私の我儘から始まった。

 

 

 

「ウィズ! 10個しか持ってきてない最高品質のマナタイトだ! それで爆裂魔法撃ってくれ!」

 

 カズマさんはそう言ってマナタイトが入ってる袋を私達の方に投げてくれる。

 

「ゆ、ゆんゆんさん、これ本当に最高品質のマナタイトですよ。…………使ってもいいんでしょうか? 後で請求とかされませんよね?」

「…………今、わりとシリアスな状況なんでつべこべ言わず撃ってください。もしも請求されたら私が一生かかっても返しますから」

 

 貧乏性のウィズさんにとって小さな家を買えちゃうそれを使うハードルが高いのは分かるけど。

 

「……分かりました。ゆんゆんさん、ダストさんを必ず助けましょうね」

 

 そう言ってウィズさんは私達の前に出て爆裂魔法の詠唱を始める。

 

「カズマさん! 私は何をすれば……!」

 

 ダストさんを抱きしめてるだけだと不安でどうにかなってしまいそうで、私はカズマさんに指示を求める。

 

「ゆんゆんはダストが死なないようにしててくれ。心臓マッサージとか人工呼吸とか」

「聞いたことはありますけどやり方はよく分からないです!」

 

 プリーストに頼らない蘇生の方法とは聞いてるけど。

 

「学校で応急手当の訓練しなかったのかよ!?」

「……あのね、カズマさん。ここ異世界だからね? 元いた世界とは違うんだからね? というか心臓マッサージも人工呼吸も転生者が伝えただけで詳しいやり方とか知ってる人ほとんどいないわよ?」

 

 なんかショックを受けてる様子のカズマさんと呆れ顔のアクアさん。…………結局私は何をすればいいのかな?

 

「心臓マッサージは…………やり方知らないなら逆に危ないか。ダストの息が止まってたりしたら鼻つまんで口から息を吹き込んでくれ。後はジハードの手伝いだ」

 

 カズマさんの指示を受けて私はダストさんの息を確認する。

 

「よかった…………息はしてる」

 

 身体は今も冷たくなっていってるけど微かに息はしている。…………ダストさんはまだ生きてるんだ。

 

 

 

 

「あるじ……きずはふさぎました」

 

 ハーちゃんの言った通り、さっきまでダストさんに空いていた穴は綺麗になくなってる。でも……。

 

「傷は塞がってるのにどうして……?」

 

 ダストさんは目覚めない。それどころか息も今にも止まりそうなくらい弱くなっている。

 

「わたしじゃ、きずはふさげても『きのう』のかいふくができないんです」

 

 つまり、このままじゃダストさんはやっぱり死ぬってこと……?

 

「ハーちゃん、戦いが終わるまで……アクアさんが来るまでなんとかダストさんを死なせない方法ってないの?」

「わたしのせいめいりょくをちょくせつながします」

 

 そっか、今も失われているダストさんの生命力をハーちゃんのドレインタッチを使って外から補填すれば……。

 

「けど……わたしのせいめいりょくだけじゃ、さいごまでもちません…………」

「私の生命力を奪っても足りない……?」

 

 ダストさんに生命力を流し始めたハーちゃんに私は聞く。

 

「…………はい」

 

 私とハーちゃんだけじゃ足りないとすると戦ってる誰かから生命力を貰わないといけない。ダストさんを連れて結界の外に行くのは不可能に近いし、もし誰かから貰うとしたらこっちに来てもらわないといけないんだけど……今戦ってる人たちにそんな余裕が有る人はいない。

 戦いを止めずにもらえるのは同じ結界内にいるウィズさんだけど、一応アンデッドであるウィズさんにドレインタッチを使っても生命力は貰えない。

 …………もしかして、詰んでる?

 

「やっぱりわがままなんて言っちゃいけなかったんでしょうか……」

 

 そうしていれば少なくともダストさんは死なずに済む。今からでも戦いをやめ──

 

 

 ──ガブッ

 

 

 …………ガブッ?

 

「って、ミネアさん!? なんで私の頭噛んでるんですか!? 痛いんですけど! すごく痛いんですけど!」

 

 悩んでいる間にいつの間にか飛んできていたミネアさんに頭を噛じられ、私は涙目になって叫ぶ。

 

「……はぁ、……はぁ…………い、いきなりなんなんですか…………というか、ミネアさんは前線で戦ってたはずじゃ……?」

 

 なんとか抜けだして息をついた私は頭をかしげる。

 

「ぼっち娘よ。その中位種のトカゲはバフが切れてるわ、ダストが倒れてからは注意力散漫だわで邪魔なだけだ。そっちで生命力でも何でも絞りとるがいい」

 

 私の疑問に答えるように前線で戦うバニルさんが叫んでくる。

 

「そっちは大丈夫なんですか?」

 

 ミネアさんがこっちに来た理由は分かったけど、前線は大丈夫なんだろうか?

 

「我輩を誰だと思っている。トカゲの相手をするくらいトカゲの力を借りるまでもない」

「バニルさんは別に心配してないですけど。ミタ……ミツルギさんは大丈夫なんですか?」

 

 バニルさんは殺しても死ななそうだしあんまり心配はしていない。でもミt……ミツルギさんは魔剣がどんなにすごくても防御力に関してはあくまで凄腕の冒険者レベルのはず。その魔剣もさっきまで通らず苦戦してたみたいだし。

 

「この剣の本当の力にも慣れてきたから大丈夫だよ。今の僕ならそのドラゴンの代わりまでできる。……それに、その男に借りを作ってしまった。返す前に死なれては困るからね」

 

 そう言いながらミツラギさんは確かにバニルさんと協力してエンシェントドラゴンに攻撃をし、前線を持ちこたえさせている。ブレスはアクアさんの支援魔法や結界によって防げるにしても、爪や尾での攻撃を受ければ掠っただけでも致命傷のはずなのに……。

 もしかして、ミタラシさんって私が思っている以上に凄い人なんだろうか? ダストさんに魔剣の扱いのコツを少し教えてもらっただけでここまで強くなるなんて、近接戦闘のセンスだけで言えばイリスちゃんや槍を使うダストさんにも負けてないかもしれない。

 

 

「私とハーちゃんとミネアさん…………なんとか足りそう?」

「…………ぎりぎり」

「…………ぎりぎりかぁ」

 

 それでも首の皮一枚は繋がった。後は限界まで……足りなければ限界以上に命を注ぐだけだ。

 そうすれば、きっとめぐみんたちが、私の友達がなんとかしてくれるはずだから。

 

 

 

 

 

 

 

「今のでめぐみんとウィズ合わせて28発目……ラスト一発ずつだ! 頼むぜめぐみん、ウィズ。最高の爆裂魔法を見せてくれ」

「言われるまでもありません。……ウィズ! 最後は同時発射で行きましょう! ちょうどいい機会です、私の爆裂魔法が1番だということをカズマに見せてあげます! ……というわけですカズマ。もっと魔力をください」

 

 既に十分すぎる魔力を受け取ってるはずなのに…………めぐみんの負けず嫌いと爆裂魔法への愛はいつでも変わらない。

 

 

「ど、どうしましょう、カズマさんからもらったマナタイトは使いきってしまいましたし、かと言って私の魔力は小競り合いで減ってて爆裂魔法使えるかどうかは微妙な域に……」

 

 めぐみんの同時発射という言葉に焦ったのかオロオロしてるウィズさん。『カースド・クリスタルプリズン』を何度か使っているからか、爆裂魔法使える魔力が残ってるかどうかは微妙らしい。

 

「……魔力が、たり…なけれ、ば……はぁ、はぁ……私から、奪って…ください」

「何を言ってるんですか、ゆんゆんさん! 今のあなたはただでさえ生命力が足りてないのに、ドレインタッチなんか使われたら本当に死にますよ!?」

「でも、このままじゃ…………ダストさんが…………」

 

 私もハーちゃんもミネアさんももう出せる生命力は出し尽くした。今は命を削ったロスタイムだ。この時間はもう長くは続かない。めぐみんとウィズさんが次撃つ爆裂魔法までが物理的な限界になる。…………めぐみんが2発撃つのを待てばダストさんは死んでる。

 

 だったら、たとえここで私が死んででも、ウィズさんに爆裂魔法を撃ってもらって戦いを終えてもらったほうが100倍マシだ。

 私の我儘で続けたこの戦い。ダストさんが死んで終わる結末なんて死んでも認められないんだから。

 

「だからと言って──」

「──ウィズ! 我輩の仮面だ! 受け取れ!」

 

 ウィズさんの言葉にかぶせるように前線で戦っているバニルさんが『自分の』仮面をウィズさん元へ投げてくる。

 

「…………これ、どうしろっていうんでしょうか?」

「……被れ、ってことじゃ、……ないですか」

「いえいえ、この仮面からドレインタッチで魔力を奪えってことかも──」

 

 

「──何をしているのですかウィズ! もう待ちきれませんよ!」

 

 被るのに拒否反応を示してるウィズさんにめぐみんの催促の声。

 

「分かりました! 分かりましたよ! 被ります! …………呪われててつけたら剥がせないってことはないですよね……?」

 

 それ、バニルさんの本体だからバニルさんの気分次第だと思いますよ。

 

 

――――――

 

 

 

「めぐみんさん! 行きますよ!」

 

 地獄で公爵を務める大悪魔の魔力を借りる、アンデッドの王。

 

「やっとですか、待ちくたびれましたよ!」

 

 四大元素の水を司る上位神の魔力を借りる、ただひとつの魔法だけを追い求めた魔法使い。

 

「「『黒より黒く 闇より暗き漆黒に 我が深紅の混淆を望み給う──』」」

 

 相反する力を借りる二人は声を重ね詠唱を始める。

 

 

 

『舐められたものだな…………それとも、そなたは見捨てられたのか?』

「ドラゴンが……あなたがどれだけ凄い存在かはもう十分すぎるくらいに分かってますよ」

 

 古の龍に相対するのは女神に魔剣を与えられし転生者。

 

「それでも僕がここに一人で立ってるのは舐めてるからでも、見捨てられてるからでもありません。それが勝つために必要だからです」

 

 神々が作りし竜殺しの魔剣、ただひとつを武器にしてその瞬間までの時間を稼ぐ。

 

 

 

「「『──覚醒のとき来たれり──』」」

 

 

 

「ダクネス! 今までで1番大きなブレスがくるわよ! 多分、めぐみんたちの魔法が撃たれるより少しだけ早いわ!」

「分かっている。たとえこの身が燃え尽きようとも、お前たちのもとにブレスは届けさせん」

 

 身も心も不器用な、けれどその硬さだけは人類最硬を誇る騎士。

 

「まぁ、私の結界がなければ余波だけでめぐみんは黒焦げなんだけどね」

「い、いろいろと台無しだな……」

「でも、結界で耐えられるのはダクネスのおかげ。……信じてるわよ」

 

 女神が誇る最強の盾と鎧は、女神の加護を受け、古龍のブレスがくるのを前に一歩も引かない。

 

 

 

「「『――無謬(むびゅう)の境界に落ちし理 無形(むぎょう)の歪みとなりて現出せよ!──』」」

 

 

 

(……息をしてない?)

 

 この場ではきっと誰よりも普通な、強さと弱さをかね合わせた少女。

 

(生きてください、ダストさん…………私はまだあなたとやりたいことがいっぱいあるんです)

 

 死の瀬戸際にいる悪友が手の届かない所へ逝ってしまわないように、その口から息を吹き込む。

 

 

 

「「『──エクスプロージョン!!』」」

 

 完成し、二者から同時に放たれるのは、神を殺し悪魔を滅ぼしうる最強の攻撃魔法。

 あらゆるものを破壊するその魔力爆発はエンシェントドラゴンへと二つ同時にぶつかり、今日一番の衝撃を起こす。

 

 

 

『…………あと一歩、足りなかったな。爆裂魔法をあと一発我に撃ち込んでいれば、その男が死ぬ前に負けを認められたものを……』

 

 声に悲しみを含ませエンシェントドラゴンは言う。

 

「そうか。あと一歩か。…………なら、ぎりぎり間に合ったな」

 

 『潜伏』を解き、エンシェントドラゴンの前に姿を現すのは、運以外は普通のステータスをした最弱職の男。

 

『その光…………そうか、そなたが──』

 

 

「──『エクスプロージョン』――――ッッ!」

 

 

 最後のマナタイトを使い、魔王を倒したその魔法を解き放った──

 

 

 

 

 

 

 

 

──ダスト視点──

 

「ほら、いい加減起きなさい」

 

 ぺしぺしと遠慮無く自分の額が叩かれる感触。

 

「っ……アクアのねーちゃん……か。また世話かけちまったみてぇだな」

 

 それに起こされ目を開けてみれば、青い髪をしたチンピラな女神の姿があった。意識を失う前、目を開けたらパッドの女神様がいることを予想していたんだが、どうやら俺の予想は外れたらしい。

 …………実はアクアのねーちゃんが天界に遊びに来てるだけで、近くにエリス様がいるのかとも一瞬思ったが、周りを見渡す限り意識を失う前にいた場所と変わっていない。間違いなく生き延びられたようだ。

 

「別にこれくらい感謝されることでもないわよ。あんたが感謝しないといけないのはそこで寝てる子たちね」

 

 アクアのねーちゃんの言葉に横を見てみればミネアが横たわっている。そのお腹の辺りではゆんゆんとジハードも仲良く眠っていた。

 

「あんたを助けるために限界越えて生命力を消費してたからね。リザレクションかけてあげたから少ししたら目を覚ますだろうけど、それまでは眠らしてあげてちょうだい」

「そうか。……またこいつらに借りを作っちまったな」

 

 ただでさえこいつらには返しきれないくらいのものを貰ってるっていうのに。

 

「限界と言えば、あんたも最近()()超えたでしょ? それの反動は私でも治せないから、元に戻るまでは無茶しないほうがいいわよ」

「あー……そっちが原因だったのか。今のアクアのねーちゃんでも治せないのか?」

 

 レベルドレインとどっちが原因かと思ってたが、俺とドラゴンたちだけでエンシェントドラゴンに認められる時の無茶が俺の不調の原因だったらしい。

 

「蘇生の後の後遺症と一緒だから。魂の方の損傷でこっちの世界じゃどうしても治せないのよ。魂だけでエリスの所に行けば治せるでしょうけど」

「それどう考えても死んでるよな」

 

 ま、元に戻るって話だし、時間経てば治りそうなのが確信できただけでもましか。ヒュドラに食べられてから蘇生して調子悪かった時と感覚が似てたから、そのうち治るだろうとは思ってたが。

 

「しっかし、アクアのねーちゃんがなんか頭良さそうなこと言ってると違和感すげーな」

 

 頭弱いだけで、知識には関係ないのは分かってんだが…………って、しまった。流石にこの言い方は助けてくれたってのに失礼だよな。アクアのねーちゃん怒るんじゃ……。

 

「…………じゃ、私はエンシェントドラゴンにお願い言ってくるから」

「……って、あれ? 怒んねえのか?」

「…………別に。今日は見逃してあげるだけよ。次同じこと言ったら聖なるグーを喰らわしてあげるからね」

 

 そう言い残してアクアのねーちゃんはエンシェントドラゴンの所に向かっていく。

 

「んー? 怒ってるのは確かみたいだが……なんだったんだ?」

 

 いつものアクアのねーちゃんなら言い返すくらいはすると思ったんだが……。

 

「アクア様は優しい方ですから。…………ダストさんのことをすぐに助けてあげられなかったことを気にしてるんですよ」

「ウィズさん。……すぐに助けられなかったって言っても、あの時の状況考えれば当然じゃないですか?」

 

 アクアのねーちゃんが俺を助けようとすればすぐに戦線が崩壊したはずだ。それくらいにはアクアのねーちゃんが戦いの要だったし、俺以外の誰かが死ぬ可能性もあった。知らない仲じゃないとはいえ、知ってる仲程度でしかない俺を助けなかったくらい気にすることでもないだろうに。

 

「それでも気にするから、アクア様は女神様なんですよ」

「…………そんなもんすかねぇ」

 

 なんにせよ、アクアのねーちゃんにはまた借りを作っちまったな。何かで借りを返せればいいんだが。

 

 

 

 

 

 

 

「カズマ! あなたという人は……! 紅魔族を差し置いて1番美味しい見せ場をもっていくとはいい度胸じゃないですか!」

「わ、悪かったよ。俺もあくまで保険で唱えてただけで、めぐみんから見せ場を奪うつもりはなかったんだって」

「……本当ですか? カズマはなんだかんだで美味しい所を持って行きますから信用ならないんですが。今回だってウィズに10個あるマナタイトを9個しか渡さずに1個隠し持っていたみたいですし」

「…………。そんなことよりめぐみん。俺の爆裂魔法の点数はつけるとしたら何点だ?」

「……露骨にごまかしましたね。威力とかそういうのを見れば50点も行かないですよ」

「まぁ……そうだよなぁ」

「でも、演出的には100点です。…………だから本当に悔しいんですが」

「……悪かったよ。夕飯のプリンやるから機嫌直してくれ」

「2個ですよ。…………後、あーんも付けてくれたら許します」

 

 

「フハハハハハ! エンシェントトカゲが我輩に負けを認め、我輩の命令に従うと思えば笑いが止まらぬわ!」

 

『…………別に勝敗に関しては拘らないが、我は貴様の願いなど叶えないぞ。何故悪魔の願いを叶えねばならないのだ』

 

「…………なんだと? それでは我輩は何のためにこんな辺境に来たのだ!? どこぞの盗賊団とポンコツ店主のせいで破産したカジノを再建する足がかりにと来たというのに」

「プークスクス。受けるんですけど! 何でも見通すとか偉そうなこと言ってる木っ端悪魔が無駄骨折るとか超受けるんですけど!」

「駄女神の分際で我輩を笑いおって…………」

「負け惜しみが心地いいわ。というわけでエンシェントドラゴン。うちのドラゴンであるゼル帝をドラゴンの帝王にしてちょうだい」

 

『同じことを二度も言うのはアレだが…………。何故女神の願いを叶えねばならないのだ。我が叶えるのは我に力を認められし人間の願いだけだ』

 

「なんでよー! 叶えてくれないんだったら何で私がこんなに苦労しないといけなかったの!? けっこう大変だったんですけど! 支援魔法かけたり回復したり結界はったりカズマさんにドレインタッチで魔力奪われたり大活躍だったんですけど!」

「フハハハハハハハハハハ! 目論見は少し外れたが駄女神の悲鳴が聞けたことで満足するとしよう」

「上等よ! 性悪悪魔! フルパワー女神様である私に喧嘩売るなんていい度胸じゃない!」

「どんなに力が強かろうとそれを扱うのが頭と運が残念な女神であれば怖くないわ! 見通す悪魔が断言する。貴様は我輩の嫌がらせを受けて鬼畜な保護者に泣きつくであろう」

 

 

 

 

「…………旦那も命がけでアクアのねーちゃんからかうなよ」

 

 後ろに守るものがいないなら旦那が倒されるとは思わないけど。

 

 

「ん…………ダスト……さん?」

 

 声に振り向いてみれば。瞼をこすりながらゆんゆんが身体を起こしていた。

 

「お、ゆんゆん目が覚──」

「──ダストさん!」

 

 目が覚めたかという言葉は、その途中でゆんゆんに体当たりを食らい、その上締め付けを受けることで中断される。

 

「おい馬鹿、いてぇって。締め付けてくんじゃねぇよ」

「馬鹿はどっちですか! ダストさん、あなたもう少しで死ぬところだったんですよ!」

「?……おい、ゆんゆん。お前もしかして泣いてんのか?」

「…………どうして、私をかばったりしたんですか?」

 

 質問に質問で返してんじゃねえよ、このぼっち娘が。

 

「どうして言われてもな…………気づいたら動いてたとしか」

 

 エンシェントドラゴンの魔法がゆんゆんに向けられてるのに気づいたら、いつの間にか俺の身体が動いてて……。その次に気づいたら俺に大きな穴が空いてた。

 …………ほんと死ななかったのが不思議で仕方ない。

 

「……そんなの、ダストさんには似合いませんよ。チンピラのくせに」

「うるせぇよぼっち娘。一応は助けられたんだからお礼の一つや二つしやがれ」

 

 ……なんて、こいつらに命を助けられた俺が言える台詞じゃねぇか。

 

「……お礼なんてしませんよ」

 

 だよな。

 

「ダストさんが死ぬかもしれない……そう思った時私がどれだけ胸が締め付けられる想いをしたと思ってるんですか。怖くて……本当に怖くて。自分が許せなくて、悲しくて。……寂しくて。こんなに苦しい思いをしたの初めてだったんですよ」

「…………悪い」

「そんな言葉じゃ許しません。……ゆる、うぅっ……ゆるさない、……んですからぁ……うぅぅっ……あぁああああああああっ!」

「…………やっぱ泣いてんじゃねぇかよ」

 

 抱えていたものが決壊したのか、嗚咽を抑えられなくなったゆんゆんの頭を撫でて落ち着かせようとする。

 

(……ほんと、こいつには借りを作ってばっかだな)

 

 借りを返そうとしているのにどんどん借りが増えていく。俺はこいつに借りを全部返せる日が来るんだろうか。

 

 

 

「……ねぇ、ダストさん」

「あん? どうしたよ。落ち着いたんだったらそろそろ離れて欲しいんだが……」

 

 俺達を見るロリっ子の不機嫌そうな目とウィズさんの生暖かい目が痛いから。

 

「責任…………取ってくださいね?」

「責任?……責任って何のことだよ」

 

 借りは作っちまったが責任取るようなことは別にしてない気がするんだが……。

 

「や、やっぱりなんでもないです!」

「?……そうか」

 

 ゆんゆんが何を言ってるのか全然分からないが、旦那曰く俺は女心の察しが悪いらしいので考えるだけ無駄だと納得する。

 

 

 

 

 

「ところでダストさん。恋人と悪友だったらやっぱり悪友のほうが大切ですよね?」

「…………ぼっちこじらせてるお前がそう思うのは仕方ねぇが、恋人できたら相手にそんなこと絶対言うなよ」

 

 このぼっち娘の恋人になる奴は苦労するだろうなと思う俺だった。

 

 

 


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