どらごんたらしver.このすば   作:ろくでなしぼっち

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冒険者の休日

──リーン視点──

 

 

「ダスト、ゆんゆん入るよー?」

 

 ダストとゆんゆんが泊まってる宿の部屋の前。あたしはダストが死にかけて帰ってきたという話を聞いてお見舞いに来てあげていた。

 一週間くらい急にいなくなってやっと帰ってきたと思ってたらまたすぐにいなくなって……今度は死にかけて帰ってくるとか。本当ダストは……。しかもいつの間にか馬小屋からゆんゆんの部屋に住むとこ変わってるし。

 

「ダストー? ゆんゆんー?」

 

 ドアをノックするが部屋の中から返事はない。……話し声は漏れてきてるから間違いなくふたりともいるんだけど。

 

「ん……鍵かかってないし…………。いっか、開けようっと」

 

 ゆんゆんには鍵が空いてたら自由に入っていいと言われてるし、ジハードちゃんは賢いけど女の子としての恥じらいとかそういう機微はまだ薄い。一応ノックはしたし扉を開けて中の様子を伺うくらいはいいはずだ。

 ダストは……ダストだしどうでもいいか。

 

 

 

「だからいらねぇって言ってんだろ!」

「もう、ダメですよダストさん。病み上がりなんですからちゃんと栄養のあるもの食べないと。ほら口開けてください。あーん」

 

 

 

「…………何してんの? あんたたち」

 

 ドアを開けて飛び込んできた光景に半分絶句しながらあたしは聞く。

 

「お、リーンいいとこに来た! このぼっち娘どうにかしてくれ! いらねぇっていってんのに無理やり食べさせようとしてきやがる!」

「あ、リーンさん。リーンさんもダストさんを説得してください。ダストさんってば大怪我して治ったばっかりなのにせっかく作った栄養食食べないっていうんですよ」

 

 ステレオであたしに助けを求めてくる二人。

 

「あー……うん。だいたい事情は分かった。………………珍しくダストが正しい」

「なんでですか!?」

 

 あたしの言葉に納得がいかないと叫ぶゆんゆん。……いや、流石にあーんはないでしょあーんは。ダストも言葉足らずなところはあるけどさ。

 

 

 

「そっか……ダストさんは食べないって言ってるんじゃなくて私に食べさせてもらわなくていいって言ってたんですね。それならそうと早く言ってくださいよ」

「お前の行動が突飛すぎて俺も慌ててたんだよ。俺は悪く無い」

 

 今回ばかりはダストがホント正しい。

 

「というか、いきなりどうしたのよゆんゆん。ダストなんか適当にパンでも食べさせときゃいいのに」

「……お前も大概失礼だよな」

 

 ダストがジト目で見てくるけどスルー。

 

「ダストさんのことちゃんと看病してあげたいって思ったからですよ。ちゃんと栄養のあるものを作って食べてもらって、汗をかいてたら拭いて着替えさせて、眠たそうにしてたら子守唄を唄ってあげて……そうしたいって思ったんです」

 

 どうしようこの子大まじめに言ってる。

 

「おい、リーンこいつは誰だ。俺をボコボコにするのが趣味のゆんゆんがこんなこと言う訳がねぇ。こいつは偽物だ」

「間違いなく本物のゆんゆんだからとりあえずダストは黙ってて」

 

 気持ちは分かるけど。むしろダストが言わなかったらあたしが偽物だって言ったかもしれないレベルで分かるけど。

 

「あの……私がダストさんの看病をしたいっていうのそんなに変でしょうか?」

「「変」」

 

 ゆんゆんの問いにあたしとダストの答えが重なる。

 

「そ、そう……ですか。そうですよね……私みたいなぼっちが友達の看病したいなんておこがましいですよね……」

 

 いや、面倒見のいいゆんゆんが悪友とはいえ友達の看病したいってのはおかしくないんだけどね? それが友達とか悪友に対する『それ』とは違いすぎるだけで。

 友達至上主義のゆんゆんならもしかしたら普通なのかもしれないけど。どっちにしろ普段のダストに対するゆんゆんの態度を見てたら違和感感じるのは仕方ない。…………というかこの子はまた微妙に勘違いしてるし。

 

「ねぇ、ゆんゆん。一つ聞きたいんだけどさ。ゆんゆんがダストの看病したいのは悪友ってだからだけ?」

 

 悪友というだけでここまでするんだろうか? だとしたらあたしはゆんゆんのぼっち力を舐めていたことになる。

 

「えっと……確かにそれが1番大きな理由ではありますけど……。ただ今回はダストさんが私をかばって死にかけたのも大きいかもしれません」

 

 …………ダストのくせにかっこつけちゃって。

 

「それを言うならお前だって俺を助けるために死にかけただろうが。ジハードが今も眠り続けてるくらい消耗してるのと同じかそれ以上にお前も消耗してるはずだぞ。お前のほうこそ看病が必要なんじゃねぇか?」

 

 言われてみればゆんゆんの顔色もダストと同じくらいには悪い。

 

「私なんかのことはどうでもいいんです。今はとにかくダストさんが良くなってもらわないと……」

「あー……うん。なんとなくゆんゆんの気持ちはわかったよ。看病に関してはゆんゆんもジハードちゃんもあたしが看るからいいとして、とりあえずは──」

 

 あたしはダストの耳に顔を近づけ囁く。

 

「(ゆんゆん、あんたが自分かばって死にかけたのトラウマになりかけてるから、あんたがどうにかしなさいよ)」

 

 それだけではないようだけど、ダストみたいなチンピラに異常なくらい献身的になってるのはそのためだろう。

 

「どうにしかしろってお前──」

「──てわけで、あたしはちょっと出て行くからうまくやりなさいよ」

 

 そう言って部屋を出ようとするあたしにダストがなんか文句言ってるけど聞き流して部屋を出てドアを閉める。

 

 

 

 気づかれないように静かにドアの横の壁に寄りかかって座り、数分そのまま待っていると、部屋の中からゆんゆんが大きな声で泣く声が聞こえてきた。

 

(……ま、ダストにしたらうまくやったかもね)

 

 女心なんて欠片も分かってないわりには、ちゃんとあの子を泣かせてあげられたんだから。……いや、流石にトラウマと全く関係ないことで泣かしてるとかないよね? あったらダストをぶっ飛ばしてやらないといけないけど。

 

(とりあえずダストがうまくやったと仮定すれば、ゆんゆんは元に戻るはず)

 

 多少時間はかかるかもしれないけど、ダストを適当に扱いながらダストに甘えて言いたいことを遠慮無く言うゆんゆんに戻るはずだ。……少なくとも表面上は。

 

(でも……前と全く同じって感じじゃないっぽいよねぇ)

 

 あたしがダストに顔を近づけた時、ゆんゆんは一瞬だけ寂しそうな顔をした。

 

 いつからあるかは多分ゆんゆんにも分からないその感情。それが恋愛感情とか言われるものだと自信はなくとも『かもしれない』程度には自覚してる。自覚した理由がダストが死にかけたからかそれとも他に何かあったからかはあたしには分からないけど。そうでもなきゃ『あーん』なんてことしない。というか出来ない。

 

 

(……あんなチンピラ好きになるとかゆんゆんも趣味悪いなー)

 

 一つため息を付いて立ち上がる。いつの間にかゆんゆんの泣き声は収まってるからそろそろ頃合いだろう。

 

「ダスト、ゆんゆん、入るよー」

 

 いろいろと思うところはあるけど、今はゆんゆんとジハードちゃんの看病をしてあげないといけない。ダストは……まぁ余裕があったら面倒見てあげよう。

 

 あたしはそんなことを考えながら、ダストとゆんゆんのいる部屋へとまた入っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

──ダスト視点──

 

「まだちょっと体は怠いが……ま、寝てるほどでもねえな」

 

 立ち上がり伸びをした俺は、自分の体調を確認する。ついでとばかりにリーンに看病されて3日。戦うのはまだきつそうだが、街を出歩く程度なら無理なくやれそうだ。

 

「つーわけで、リーン、ゆんゆん。俺はちょっくら街ぶらついてくるわ」

「あ……、それなら私も一緒に──」

「ダメに決まってるでしょ? ゆんゆん、まだ顔色悪いし」

 

 ベッドから起き上がろうとするゆんゆんをリーンが手で制してまた寝かしつける。

 

「つーわけだ。お前はまだ寝とけ。……リーン、悪いがそのぼっち娘のことは頼むぞ。ジハードもそろそろ目が覚めておかしくない頃だしよ」

「はいはい。ダストに言われなくてもゆんゆんとジハードちゃんのことはちゃんとお世話するって」

「うぅ…………ダストさん、無茶しちゃダメですよ? 今のダストさんはただのチンピラ以下まで弱ってるんですから、いつもの調子で喧嘩売ったりとか──」

「おい、リーン。このうるさいの黙らせろ」

「ほいほい。ゆんゆん、あーんして?」

「──んぐっ……むぐもぐ………んっ…。なんか二人共私の扱い雑じゃないですか!?」

 

 固形の栄養食を無理やり口に突っ込まれたゆんゆんが食べ終えてからそう叫ぶ。

 

「だって……なあ?」

「うん。だって今のゆんゆんいつもの数倍面倒だし」

 

 ほっといたら小言をいつまでも喋り続けるからな。心配してくれてんのは分かるんだが、毒舌ぼっちのこいつの言い方だと微妙にイラッとしたりするし。

 3日前に比べればそれでも多少はマシになってるんだけどな……。

 

「とにかく、お前はゆっくり養生しとけ」

 

 今のゆんゆんの状態は体が弱ってて精神に影響が出てるのもあるんだろう。元気にさえなればいつものちょっと小言がうるさいくらいのゆんゆんに戻るはずだ。

 ……結局うるさいのは変わんないのか。

 

「……分かりました。でも、ダストさん──」

「リーン」

「はい、ゆんゆん、あーん」

「──まだ何も言ってないじゃないですか!?」

 

 どうせ言うに決まってるからな。

 

 そうして、俺はリーンとゆんゆんがわちゃわちゃしてるのを横目にしながら部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

「……で、街を出歩けるようになって一番に来るとこがここなんですか? ダストさん」

「むしろここ以外のどこに行くんだ」

 

 サキュバスの店。一応喫茶店の体裁を整えているこの店にきた俺は、何故かウェイトレスをしているロリサキュバスに呆れ顔で接客されたいた。

 

「まぁ、ダストさんは筋金入りの変態さんですもんね……」

「そうかあ? 俺の性癖なんてノーマルな方だろ」

 

 多少性欲が強いのは認めないこともないが。変態だと言われるほどじゃないはず。

 

「女湯覗いて捕まったのは何回でしたっけ?」

「そんなもん数えてるわけ無いだろ」

「何でこの人自信満々なんですかね…………いえ、サキュバスとしてはダストさんみたいな人有り難いんですけどね? ただ、よくそんな感じで人間さんの社会を生きていけますよね」

「人間社会に溶け込みまくってるサキュバスに言われると含蓄があるな」

 

 旦那といいサキュバスといい悪魔は俺よりも人間社会に溶け込んでるよな。……きぐるみ悪魔(ゼーレシルト)の兄貴すらこの国で貴族やってたって話だし。

 …………悪魔がどうこうってよりこの街この国が緩いだけな気がしてきた。

 

「つーか、何でお前がここにいるんだよ。お前この店辞めたんじゃなかったのか?」

 

 俺らの冒険に付いていくために店を辞めて野良悪魔になったって話だったと思うんだが。

 

「辞めましたよー。だからやってるのはウェイトレスのバイトだけです。夜のお仕事はやってないというか任せてもらえません」

「なんかそのあたりシビアなんだか緩いんだかよく分からない契約がありそうだな。バイトって報酬はなにもらうんだ?」

「精気が主でお金も少々ってところですね。ダストさんが倒れて精気が貰えなくてお腹ペコペコなんですよ。キースさんやテイラーさんの精気だけでも餓死ってことはないと思うんですが……」

「死なねえならそれで我慢しろよ」

 

 そもそも、こいつがこの店で働いてた時でも一晩に何人も客取ってた様子はなかったし。

 

「……ダストさんが悪いんですよ? 私に美味しい精気をあんなに食べさせて……私、お腹いっぱい精気をもらわないと満足できない体になっちゃったんです」

「知らねえよ。いや、確かにお前には毎日のようにたくさん精気与えちゃいるが」

 

 俺は好きなだけ吸っていいって言ってるだけで自重せず吸ってるのはこいつだし。悪いとか言われても欠片も俺に責任ねえよ。

 あと、そういう台詞はもっとむちむちした姉ちゃんになってから言ってくれ。ロリサキュバスみたいなストンストンに言われても微妙だから。

 

「でも、そんなにお腹いっぱい精気吸いたきゃ適当に男捕まえりゃいいんじゃないか? カズマとかなら店通さなくても夢さえ見せてくれりゃ精気吸わしてくれんだろ」

「無理ですよー。サキュバスは縄張り意識が強いんです。この街は店のサキュバスの縄張りですから、勝手に手を出したら怒られちゃいます」

「悪魔なんだからそこで我慢せず自由にすんのが美徳なんじゃねえのか?」

「…………バニル様並に強ければそういう選択肢もあるんでしょうけど、この街のサキュバス全員敵に回したくはないですし、それに私は自分の縄張りさえ守れれば満足ですからね」

 

 ロリサキュバスの縄張りって―と、俺やキース、テイラーか。……ん? サキュバスは縄張り意識が強くて俺はロリサキュバスの縄張りってことは……。

 

「もしかして、お前的に俺がこの店を利用するのって……」

「当然アウトですよ?」

「だよなー」

「というか、なんでわざわざこの店に来たんですか。私に言ってもらえればお金なんて払わなくても夢を見せるのに」

 

 まあお金的にも義理的にもロリサキュバスに頼むのが正解ってのは分かってんだけどなあ。

 

「でも、たまにはロリ体型じゃなくて色っぽいねーちゃんにエロい夢を見せてもらいたいんだよ」

「これ以上私の体のことロリ体型言うなら泣きますよ?…………はぁ……まぁ、ダストさんがどうしてもって言うならこの街にいる時くらい店を利用するのを見逃さないことはありませんが……」

「お、マジか? 流石ロリサキュバス。話が分か──」

「──はむっ。……んー、でもまだダメですね。精気が凄く薄いです。まだ本調子じゃないみたいですし、止めておいたほうがいいですよ?」

「おいこらロリサキュバス」

「ん? どうしたんですかダストさん」

 

 俺の指から口を離して首をかしげるロリサキュバス。

 

「どうしたも何も…………お前、そういう吸い方は人のいる前じゃするなって言っただろうが」

 

 いつもはそう吸わせてるとは言え、他にも客がいるのに見られたらどうすんだ。俺がカズマみたいなロリコンだって噂流れて綺麗なねえちゃんが寄ってこなくなったらどうしてくれる。

 

「大丈夫ですよ? 周りのお客さんが見てないのは確認済みです」

「だとしてもだな……」

 

 はぁ……まぁ、いいか。周りに見られてないなら嫌がる理由も別にねえし。

 

 

「ダストさん、早く元気になってくださいね? 私、ダストさんの精気たくさん吸いたいの我慢してるんですから」

「わーってるよ。ダチにひもじい思いさせるのもなんだからな。さっさと良くなるように養生するさ」

 

 ま、あと1日2日もすりゃ全快するような気はしてんだがな。ジハードが目を覚ます頃にはこいつに腹いっぱい精気吸わせても大丈夫だろう。

 

「よろしくお願いします。…………ところでダストさん」

「ん? なんだよ?」

「…………なんでさっきから私の頭なでてるんですか?」

「特に理由はない」

 

 人化したジハードと似たような位置に頭があるから撫でちまってるだけだ。

 

「ところでロリサキュバス」

「……なんですか?」

「そろそろ飯食いに行きたいんだが、金が無い。貸してくれねえか?」

「…………多分、サキュバスの頭を撫でながらお金貸してなんて言ったのダストさんが史上初ですよ?」

 

 大きなため息を付きながらも、なんだかんだで金を貸してくれるロリサキュバスだった。

 

 

「というか、この店を利用するつもりだったならご飯食べるくらいのお金はあるはずじゃ……」

「俺がサキュバスサービス代をメシ代で崩すわけ無いだろ?」

「いえ、だから店に頼まなくても私が………………いえ、もういいです。ええ、本当にもういいですよーっだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら? ロリコンのダストさんじゃないですか。お久しぶりですね」

「おう、久しぶりだなルナ…………って、待て。何で俺がロリコンなんてことになってんだよ」

 

 冒険者ギルド。酒場で飯を食いと来た俺は、その前に久しぶりにと受付嬢のルナに顔を出しに来ていた。

 本当に久しぶりだってのに何でいきなりロリコンだなんて……。

 

「だって、バニルさんのカジノで荒稼ぎしたと思ったらそのコインほぼ全てを小さなサキュバスの子を買い取るのに使ったんですよね?」

「…………あいつが仲間になった経緯を客観的に見るとそうなるのか」

「あと、ダストさんが小さな子に自分の指を吸わせてる所や小さな子の頭を撫でて幸せそうにしてるという目撃情報が」

「しっかり見られてんじゃねえかよ!?」

 

 何が見てないのは確認済みです、だ。ガバガバじゃねえかよ。…………多分後半の頭なでて幸せそうにしてるってのはジハードの頭撫でてるときのことだろうが。

 

「……目撃情報は真実、と。ダストさんもカズマさんみたいなロリコンさんだったんですね。少し意外です」

「……俺は自業自得な部分もあるからいいが、カズマをあんまロリコン扱いすんのはやめてやれよ? 爆裂娘も最近は胸以外ならロリ脱却してるし」

 

 あいつわりとロリコン言われるの気にしてんだからよ。俺は根も葉もない噂だから気にしないけど。

 

「…………ダストさんも以前何度かカズマさんのことをロリコン扱いしてませんでしたか?」

「記憶にねえな。あいつは魔王を倒した勇者様だぞ? 過去未来現在そんな失礼なこと言うわけ無いだろ。なんてったって俺はあいつがやる男だとひと目見た時から見抜いてたからな」

「ダストさんとカズマさんの出会いは、カズマさんにダストさんが難癖つけて絡んでたことだと記憶してますが」

「そんなことよりルナ。お前に聞きたいことあるんだよ」

「誤魔化しましたね」

 

 うるせえな。そんな昔のこと蒸し返すことねえだろ。もう何年前の話だよ。

 

「で、聞きたいことなんだが…………結局ドラゴンハーフの受付雇うって話どうなったんだよ」

「ああ、それですか。結局見つかりませんでしたね」

「…………まじかー」

 

 エンシェントドラゴンに会えたことだし次はドラゴンハーフにも会ってみたかったんだけどなあ。やっぱ見つかんねえか。

 

「そもそも、元がダストさん対策で雇おうという話でしたしね。ダストさんたちがこの街でクエスト受けることはほぼなくなりましたし、そこまで必要性にも迫られてないので」

「俺対策ってのが意味不明だが…………そうかー…………」

 

 わりとマジで残念ではあるが……しょうがねえのかもな。はぁ…………会いたかったなぁ…………ドラゴンハーフ…………。

 

「あの……そんなに落ち込まれると何か悪いことしてる気分になるので止めてもらえませんか? ダストさんのそんな態度見てるとこちらの調子も狂うので……」

「そんな事言われても残念なもんは残念だから仕方ねえだろ」

 

 ドラゴンは俺の生きがいなんだぞ。

 

「…………まぁ、ドラゴンハーフは無理そうですが、時々それに近い受付を雇う予定はありますから元気だして下さい」

「? なんだよ、クォーターでも見つかったのか? それに時々ってなんだ?」

「今は秘密です。…………先に言ったら凄いうるさそうなので」

「なんだそりゃ」

 

 まぁ、ドラゴンに関係する受付に会えるならなんでもいいか。

 

「うし……そろそろ俺は飯食ってくるかな。じゃな、ルナ。強く生きろよ」

「…………他人事のように言うダストさんが憎い。ダストさんやゆんゆんさんという遊び相手がいなくなった分、バニルさんのからかいが全部こっちに来てるのに」

 

 …………本当、強く生きろよルナ。

 

 

 

 

 

 

 

「ラ……ごほん。ダストさんじゃないですか。死んだと思ってたんですが生きてたんですね」

 

 酒場で注文しようとウェイトレスに声をかけたらいきなりそんな言葉が返ってきた。

 

「マジで死にかけてきた俺にその台詞はわりと洒落になってないぞベル子。……あと、別に呼びたきゃラインって呼んでもいいぞ」

 

 別にもう隠してるわけでもないし、ダストよりラインとしての俺を先に知ってるならそっちの方が自然だろう。

 それにベル子が言ってた話から察するにこいつフィールの姉ちゃんの妹っぽいしなあ…………あの人には騎士時代に世話になったし、兄弟子で後見人だったセレスのおっちゃんと同じくらい頭のあがらない相手だ。

 

「…………いいです。あなたはライン様じゃなくてゴミクズ男なダストさんだって思い知りましたから」

「そうかよ。ま、俺の呼び方なんてなんでもいいや。飯食いに来たんだ。注文いいか?」

「それはもちろん酒場ですからいいですが…………ちゃんとお金持ってますか?」

「何を心配してんだよ。最近の俺は無銭飲食なんてしてなかっただろうが」

 

 だいたいゆんゆんに奢らせてたし。それに今回はちゃんとロリサキュバスからお金貰ってる……あれ? 貸してもらったんだっけか。

 ……まぁ、いいか。貰ったことにしとこう。

 

「その顔はまたクズいこと考えてますね…………。お金を持ってるのは確かみたいですし深くは関わり合いになりたくないので聞きませんが。それで、注文は何にしますか?」

「うーん……なんか精のつく食べ物はあるか?」

「それでしたらカミツキガメの串焼きとかどうですか? 少し癖がありますけど美味しくてオススメですよ」

 

 串焼きかぁ……。

 

「……なぁベル子。それ持ち帰り用に包んでもらえるか?」

「ベル子じゃないですが……持ち帰りですか? まぁ、出来ますよ。ただ、食べながら歩いたり、食べた後の串を道端に捨てたりはしないでくださいね」

「ガキにするような注意すんな。心配しなくてそんな事しn…………いや、別にガキじゃねえし食べ歩きくらいよくねえか?」

 

 というか冒険者なら食べ歩きくらいして当然だろ。

 

「それではご注文はカミツキガメの串焼きでよろしかったでしょうか?」

「普通にスルーしてんじゃねえよ」

 

 そしてそのゴミを見るような目をやめろ。

 

「……ま、それで頼む。それを二人分だ」

「カミツキガメの串焼きを二人前ですね。…………余計なお世話かもしれませんが、太りますよ?」

「マジで余計なお世話だな! 別に一人で食うつもりねえよ!」

 

 何で俺の周りにいる奴らはどいつもこいつも口が悪いんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

「帰ったぞー……って、あれ? リーンはいねえのか」

 

 宿の部屋に帰ってみれば、そこにいるのは眠り続けているジハードと横になってるゆんゆんだけ。世話をしてたはずのリーンの姿はない。

 

「あ、ダストさんお帰りなさい。リーンさんならさっき帰りましたよ? 私も今日でだいぶ良くなりましたし、もう大丈夫だからって」

「ま、ジハードは寝てるだけだし看病いらねえからな。ゆんゆんが大丈夫ならいいか」

 

 普通の人間が寝たきりならいろいろ大変なんだろうが、そのあたりはドラゴン。人化してても全く手がかからないのは楽だ。……てか、ドラゴンは個体によっては平気で100年単位で寝続けたりするからな。手がかかったら俺みたいなドラゴンバカでもなきゃ面倒見きれない。

 リーンもこの三日間なんだかんだで看病してくれたことだし、少しはゆっくりする時間が必要だろうしな。

 

「そんなことよりゆんゆん。お土産だぞ。カミツキガメの串焼きだってよ。精がつくらしいしお前も食べろ」

 

 良くなったって言葉に嘘はないみたいだが、まだ全快って感じでもない。こいつが元気ねえと困るし、食べて精をつけてもらわねえと。

 

「……えーとですね。ダストさん、実は私本当についさっき晩御飯をリーンさんと食べたんですよ」

「おう。…………で?」

「お腹いっぱいなんですが?」

「知らねえよ。食え」

 

 冷めないほうが美味いだろうって急いで帰ってきたんだぞ。

 

「うぅ……ご飯食べた後にまたご飯とか太っちゃいますよ……」

「どうせお前は食べたぶん全部胸に行くから心配すんなよ」

「セクハラはやめてください!……って、なんですか? なんで串焼きを私に近づけて……」

「そりゃ、嫌がるお前に無理やり食わしてやろうかと。ほれ、口開けろよ、あーんしろ、あーん」

「そ、そんなこと恥ずかしくてできるわけないじゃないですか!」

「…………、それお前が言うのか?」

 

 ついこの間、同じように俺に食わそうとしたのは誰だよ?

 

「う……そ、それはおかしくなっていたと言うか魔が差したと言うか……」

「おかしくなってたって自覚はあるのな」

 

 なら、本当に回復したって思って良さそうだな。

 

「というより、ダストさんも恥ずかしがって嫌がってたじゃないですか! なんでいきなりこんなこと……」

「んなもん仕返しに決まってんだろ」

 

 どんだけ俺が恥ずかしかったと思ってんだ。……ま、それに食べさせてもらうのはあれだったが、食べさせるのは思ったより恥ずかしくないってのもある。

 そもそも守備範囲外のクソガキで妹分みたいなゆんゆんだ。世話を焼く方なら別に抵抗ないしな。

 

「ぅぐぅ……(こ、これはどうしたら……。普通に考えたら恥ずかしすぎるし無理なんだけど、ダストさんに食べさせてもらいたいような気もするし……!)」

 

 …………何言ってるかは聞こえないけど、なんかすげえ混乱してるな。大丈夫なのか?

 

「そんなに嫌だったら無理して食べなくてもいいぞ?」

 

 二人分食うのは結構きついってか、一人分食う食欲も微妙だからリーンにもつまんでもらおうと思ってたくらいだが……ま、どうにかなるだろう。

 

「えっと……嫌じゃないと言うか、嫌だけど嫌じゃないから困ってると言うか…………あの、ダストさんは私に食べてもらいたいんですか?」

「ん? そうだな。食べてもらいたいな」

 

 ……うん。やっぱ改めて考えてもこの量一人で食うのはきついわ。いや、だからってお腹いっぱいだ言ってるゆんゆんに食べさせるのもどうかとは思うんだが…………。

 

「じゃ、じゃあ……あ、あーん」

「…………お前口開けて何してんの?」

「食べさせてくれるんじゃないんですか!?」

「いや……マジであーんするとは思ってなくて…………やっぱお前おかしいんじゃね?」

 

 やっぱり回復してないんじゃ……。

 

「~~っ! 誰のせいでおかしくなったと……!」

「誰のせいって……まぁ、俺が死にかけたせいでお前も死にそうになったのは分かってるが……」

「分かってない! ダストさん分かってないですよ!」

「? 俺が何を分かってねえってんだよ」

 

 なーんか、話が噛み合わねえな。昼みたいな体調崩してておかしくなってる感じとは違うんだが……。

 

「それが言えたら苦労しませんし、そもそも私もよく分かってないんだから言えるわけ無いですよ!」

「なるほど、お前がおかしくなってるのは分かった。とりあえずこれ食って元気出せ。ほれ、あーんしてやるから」

 

 既に面倒なくらい元気な気がするけど。

 

「その態度絶対面倒になって……んぐっ!?」

「どうだ美味いか? 美味いだろ?」

「んっ……うぅ……美味しいです。……美味しいですよ? 美味しいですけど、これ私が想像したあーんじゃ全然ないですよぉ」

「だったら素直に口あけりゃいいのに」

 

 別にゆんゆんが口開けたところで自分が食べるなんて意地悪は2回に1回くらいしかしねえし。つーか、こいつは一体全体どんなあーんを想像したんだろうか。

 

「それが出来たら苦労しませんよ!」

「ふーん……もぐむぐ……ん、よく分かんないけどお前苦労ばっかしてんな」

「普通に食べてないでくださいよ!? というかそれ私の食べかけです!」

「二人分ちゃんとあるから心配すんなよ。てか、そんなに食べたいなら俺の分まで食うか?」

「そこじゃないですよ! あー、もう! ダストさんのバカ! 鈍感! ろくでなし!」

 

 

 荒ぶるゆんゆんに適当に串焼きを食べさせながら。騒がしい休日の夜が更けていった。


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