どらごんたらしver.このすば   作:ろくでなしぼっち

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ダストとゆんゆん 後編

「なぁ、ジハードなにか食いたいものあるか? 昨日のクエストの報酬残ってるから好きなもの頼んでいいぞ」

 

 ロリサキュバスに良い夢を朝から見させてもらって。スッキリとした気分の俺は食欲を満たそうと街へと出てきていた。

 昼も良い夢見る予定だし宿で食っても良かったんだが、今日はジハードと一緒だし多少はいいものを食いたい。

 

「でも……なんだ? なんか街の連中に見られてる気がするな」

 

 ジハードと一緒に手を繋いで歩いてるだけでここまで注目されるなんて、

 

「ジハードが世界一可愛いのは確かだがここまで注目されるとジハードが照れちまうっての」

 

 やはりジハードの可愛さは世界の真理らしい。

 

 

「……相変わらずのドラゴンバカっぷりであるな、ろくでなし冒険者よ」

「おう、バニルの旦那じゃねぇか。奇遇だな」

 

 道行く人波から出てくるのは見知った仮面の男(?)。言わずとしれたバニルの旦那だ。

 苦笑の表情をのぞかせながらも、ジハードとは反対側の俺の隣に並び歩き始める。

 

「奇遇ではあるまい。今日の我輩は汝に会いに来たゆえ」

「? 旦那が俺に用だって? そりゃ珍しいな」

 

 俺から旦那に相談行ったり儲け話に付き合ってもらうことは結構あるが、その逆はあまりない。

 

「うむ。というわけだ。ダストよ少し付き合え。昼飯を奢ってやろう」

「だ、旦那が飯を奢ってくれるだと……?……さ、流石に昼飯くらいじゃ俺の魂はやれないぞ」

「……地獄の公爵である我輩がそんなせこい契約などするものか。少しばかり込み入った話をするから飯を食いながらどうかというだけだ」

「なんだよ……それならそうと最初から言ってくれよ」

 

 ……でも、旦那の話だしなぁ。生粋の悪魔が単純に飯を奢ってくれるってことはありえない。何か対価を…………俺にしてほしいことがあるんだろう。

 

「汝はこう……その察しの良さをなぜ女性関係で発揮できないのか。出来ておれば我輩も苦労することがないと言うに……」

「旦那ー? 見通す力使って人の心の中読まないでくれるか? それに俺の女性関係で旦那が何を苦労したんだよ」

 

 旦那にナンパを手伝ってもらったことはない。……手伝ってもらおうとお願いしたことはあるけど。

 

「十分苦労しておるぞ……。未来を見通しづらい汝らの関係をここまで進めるのにどれほど計画的に動かねばならなかったことか」

「汝ら? 俺の未来が見通しづらいってのは何度か聞いてるけど……それに関係?」

 

 もしかして、その見通しづらいもう一人が俺の彼女になるとか?

 …………ん? そういや、前に旦那が実力以上に未来が見通しづらいって俺と並んで誰かの名前をあげてたような……。

 

「──と言う訳だ。我輩に付き合えば汝が気になっているその辺りの話もしよう。…………くるか?」

 

 そう言われたら断れるはずもない。俺の恋人になるって相手も気になるが、単純に実力関係なく未来が見通しづらい理由も気になっているから。

 

「ジハード、身体を拭いて綺麗にすんの飯食ってからでも大丈夫か?」

 

 飯を食う前にジハードを綺麗にしてやろうと思っていたが、旦那を待たせるわけにも行かない。そっちは後に回したほうが良さそうだ。

 

「だいじょうぶです」

 

 そう言って可愛く頷いてくれるジハード。ジハードは本当いい子だなぁ……後に回す分隅々まで綺麗にしてやろう。

 

「……幼女の体を拭いて綺麗にするとは…………汝もやはり貴族の血を引いてるのだな」

「人を変質者みたいに言わないでくれ! 普通に竜化させてから拭くっての!」

 

 少なくとも俺はロリコンじゃねぇから!

 

 

 

 

「ありがとよ旦那。まさかジハードの飯まで奢ってくれるとは思ってなかったぜ。ほら、ジハードもバニルおじちゃんにありがとうって言ってやれ」

「ばにるおじちゃん、ありがとう」

 

 ギルドの酒場。俺がいつも酒を飲んでる席。俺とジハードはバニルの旦那に奢ってもらった飯を前にして感謝の言葉を言う。

 

「汝は本当にドラゴンの事になるとまともになるというか……まるで人の親のようだな」

「まぁ実際俺にとっちゃジハードは娘みたいなもんだしなぁ」

 

 ミネアが相棒で対等な関係だとするのなら。ジハードは保護者と被保護者の関係だろう。

 ……たまにジハードの教育方針でゆんゆんと喧嘩したりしてるし。

 

「……で? 旦那は一体全体俺に何をして欲しいんだ?」

 

 ジハードがカエルの唐揚げを美味しそうに食べているのを横目に見ながら、俺はバニルの旦那に単刀直入に聞く。

 

 

 

「うむ。ダスト、汝にはあのぼっち娘と子どもを作ってもらいたい」

 

 

 

「あ、こらジハード。ほっぺに衣がついてんぞ。ほら、拭いてやるからこっち向け」

「……人に殺意を覚えたのは数百年ぶりだ」

「バ、バニルの旦那? 冗談だからその殺気は抑えてくれ。ギルドの冒険者や職員が怖がってるから。明日から相談屋に客来なくなるぞ」

 

 ちょっとからかっただけじゃねぇか。

 

「そ、それで? 結局俺に何をお願いしたいんだ? ジハードのほっぺた拭くのに集中してて聞き間違ったみたいだからもう一度言ってくれ」

「聞き間違ってなどいないだろう。我輩は汝にあのさびしんぼっちと子どもを作れと言った」

 

 えー……聞き間違いじゃねえのかよ。

 

「…………えっと、旦那悪い、それ無理だわ」

 

 ゆんゆんと子ども作るって…………うん、欠片も想像できないわ。

 夢の中のゆんゆんならいくらでも想像できるが……だからこそ、現実のあいつとそういうことするのは想像できない。

 

「ふむ……汝は我輩に借りがたくさんあったはずだが……その借りを子どもを作れば全てなしにしよう。そう言っても無理か?」

 

 悪魔であるバニルの旦那が借りをなしにしようと言っている。それはつまりそれだけ本気の願いってことだ。

 

「旦那に借りは返してぇし、借りなんかなくてもバニルの旦那の願いなら聞いてやりたい。……でも、それは俺には叶えられないわ」

「ほう……汝に拒否権などないが無理だという理由を聞かせてもらおうか」

 

 拒否権がない? 流石の旦那も力づくで俺とゆんゆんに子作りさせるなんて鬼畜なことはしないと思うんだが……。

 

「理由って言われてもな……とりあえず、俺がゆんゆんを襲うとするだろ?」

「うむ」

「そしたら俺流石に殺されると思うんだよ」

 

 近くにミネアがいれば力づくでいけないこともない気がするが……その場合は多分テレポートで逃げられる。

 

「汝は本当に女性関係になるとアホだな。ナンパ連敗記録がそろそろ1000に届こうとしているのは伊達ではないということか」

 

 ……なんで俺罵られてんの? 俺が言ってること別におかしくないよな?

 

「まぁ、汝がそういうことになると途端に阿呆になるのは血筋のようだからしかたあるまい。では、襲っても拒否されないとしたらどうだ? それでも無理か?」

 

 襲っても拒否されないって……そんな仮定に意味あんのか? まぁ、拒否されないとして……

 

「……それも無理じゃねえかなあ。俺あいつに反応しないと思うんだが」

 

 可愛いしエロい体してんだけどなぁ……。守備範囲外だから仕方ない。

 

「汝たちは本当にめんどくさいな」

 

 バニルの旦那ははぁ、と大きな溜息をつく。

 

「てか、なんでそんなに俺とゆんゆんくっつけようとしてんだ?」

 

 別にバニルの旦那にとっちゃ人間の恋模様なんて餌の種でしかねぇだろうに。俺とゆんゆんが付き合えば美味しい悪感情でもできるのかね。

 

「まぁ、ここに至れば先に話してもよいか。話してやるからちゃんと聴くのだぞ」

「おう、他ならないバニルの旦那の話だ。ちゃんと聴くぜ。……ところで俺も飯食っていいかな? ジハードが美味しそうに食べてるし我慢の限界なんだが……」

 

 食べ飽きたはずのカエルの唐揚げだが、今日のは特別に美味しそうだ。美味しいジャイアントトードの肉が手に入ったのかジハードの可愛さ補正かは分からないが。

 

「……食べていいから話は聴くのだぞ」

 

 また大きなため息を付いて、旦那は話し始める。

 

 

「汝は我輩の夢を覚えておるか?」

「ああ、もちろんだぜ。あれだろ? ウィズさんにダンジョン作ってもらうことだろ?」

 

 だから旦那はウィズさんの所でバイトしてて金に汚いんだよな。

 

「その答えは間違ってはいないが30点である。我輩の夢はこの世でもっとも深き巨大ダンジョンを作りその最下層で冒険者を迎え撃つこと。そして死闘の末に我輩を打ち倒した冒険者に空っぽの宝箱を空けさせ、最高の悪感情を味わいながら滅ぶことだ」

「ほんとろくでもない願いだな。流石バニルの旦那だぜ」

 

 自分がその冒険者の立場になると考えると恐ろしい。

 

「……でも、それと俺とゆんゆんが子作りすることに何の関係があるんだ?」

 

 全然関係ないように思えるんだが。

 

「我輩は地獄の公爵にして全てを見通す大悪魔であるが、この我輩をしても見通せぬことがある。我輩と拮抗した実力以上のもののことと我輩自身が深く関わることだ。それ以外であれば見通しづらいことはあっても見通せぬことはない」

「ふむふむ……それにしてもうめぇなこのカエルの唐揚げ。いつもと味付け変えたか料理人が代わったのかね」

「…………いつもの料理人がぎっくり腰で休んでおる。今日は料理人の孫娘が代わりに調理場に立っているのだ」

 

 見通す力便利だなぁ。

 

「……話を続けるぞ?」

「おう、ちゃんと聴いてるから旦那も思う存分話してくれ」

 

 けど、こんだけ美味いんだったら料理人にはもう引退して孫娘に代わってもらったほうがいいな。

 

「…………、まぁよい。それで我輩に見通せぬことだが、見通せぬことの中でも特に見通すことが出来ぬのが我輩の『滅び』に関することだ。これに関係することであれば直接的でなくとも見通しずらくなる」

「あー……なんとなく話は見えてきたぜ。つまり俺とゆんゆんが見通しづらいのは俺とゆんゆんの子どもかその子孫が旦那を滅ぼすからってことか」

 

 旦那を倒し空の宝箱を開けさせられる犠牲者が俺とゆんゆんの系譜ってことか。その繋がりで間接的に俺らの未来も見通しづらくなってると。

 そう考えれば俺やゆんゆんの未来が見通しづらいってのにも説明がつくな。俺にしてもゆんゆんにしても人の中じゃ最強クラスではあるが、旦那やウィズさんほどの実力があるわけじゃない。

 ……まぁ、俺の場合ドラゴンナイトとしてドラゴンの力を借りてる状態ならそれに近い実力はあると思ってるが、ドラゴンの力を借りてない普段から見通しづらいってのはどう考えてもおかしいからな。

 

「汝は本当に馬鹿な行動ばかりするが頭の回転は悪くないな。我輩もそう睨んでおる。汝たちが仲良くなるに連れて次第に見通しづらくなっていったからな」

 

 なるほどなぁ……確かに旦那の話を信じるなら、旦那が俺とゆんゆんに子どもを作れっていう理由もわかる。旦那を倒す冒険者の存在はウィズさんと同じくらい旦那の夢を叶えるために必要な存在だ。

 

「でもよ……ぶっちゃけ俺とゆんゆんの子孫じゃなくても旦那を倒す冒険者はいつかでるだろ?」

 

 確かに俺とゆんゆんの子孫は旦那を倒すかもしれない。けど、たとえ俺とゆんゆんが子どもを作らなくても長い年月の中で旦那を倒す冒険者は生まれるはずだ。別に俺らに拘る必要はない。あくまで旦那の話は未来の可能性に過ぎないのだから、また別の可能性が旦那の夢を叶えてくれるだろう。

 

「そうだな……そう遠くない未来、この世界は変革を迎え、平和となって人々が腑抜けていく。それでも我輩を倒し得る人間は長い年月の中で生まれるだろう。それが冒険者などという奇特な職についてダンジョンに潜るなどという可能性がどれだけ低いとしても、ゼロではない」

「だったら──」

 

 

「──なぁ、ダストよ。自らを滅ぼすものが友と縁のあるものであって欲しい……そう願うのは感傷的過ぎるだろうか」

 

 

「……感傷的とは思わねぇが旦那らしくねぇぜ」

「……やもしれぬな。我輩としたことが不死者となりながらも人で在り続ける店主に毒されたか。永久に近い我輩の営みにおいて、ウィズとともにいた時間など刹那に満たないというに」

 

 それだけ旦那がウィズさんと一緒にいる時間を大切にしてたってことなんだろう。あれだけ自分の稼ぎをガラクタに変えられ続けても、旦那がウィズさんを見捨てないのはそういうことなんだと思う。

 

 

「……旦那の気持ちはわかったぜ。でも悪い。それでも俺は旦那の願いは聞けない」

 

 旦那には旦那の気持ちがあるように俺にだって俺の気持ちがある。……守備範囲外守備範囲外言ってきたあいつをどんな顔して抱けってんだよ。

 そして、俺と同じようにあいつにもあいつの気持ちがあって…………それを無視するにはあいつは俺の身内になりすぎてる。

 

「まぁ、汝がどう言おうと汝に拒否権などないがな」

「拒否権がないってどういうことだよ? いくら旦那とはいえ力づくで言うこと聞かせようってんなら俺にだって考えがあるぞ」

 

 例え旦那が相手とは言え、こっちの気持ち無視して従わせようというのなら、はいと素直にうなずく訳にはいかない。

 

 エンシェントドラゴン風に言うなら5通りの逃走手段をちゃんと用意してある。

 

「魔王軍幹部を辞めた今、何故我輩が自己防衛以外で人を傷つけねばならぬのだ。汝を思い通りに動かすことは面倒でも、汝とあのぼっち娘で子作りさせることくらい簡単である」

「……具体的にどうするつもりなんだよ旦那」

 

 なんかすげぇ嫌な予感がしてきたんだが……。

 

 

「なに、簡単なことだ。汝とぼっち娘が子作りをするまで、汝にはサキュバスの店の利用禁止である」

 

 

 ………………………………

 

 

「…………マジで?」

「マジである」

「当然、ロリサキュバスも……」

「あれも『バニル様の言うことでしたら喜んで協力します!』と言っておったな。今日の昼からの予定もキャンセルするということだったぞ」

 

 おいこらロリサキュバス。逆らえないのはともかく喜んでってどういうことだ。お前俺への義理はどうした。

 

「……さて、サキュバスの店を使えない汝が何日で性の獣になるか楽しみであるな」

「旦那は鬼か!」

「汝も知っての通り、我輩は鬼ではなく悪魔であるな。……うむ、我輩好みの悪感情大変美味である。いい昼食となったな」

 

 ニヤリとした笑みを浮かべてるバニルの旦那を見て俺は思う。

 やっぱり旦那はどこまで行っても悪魔なんだな、と。

 

 

 

 

 

 

「結局ゆんゆんのやつ帰ってこなかったな……」

 

 夜。宿のベッドで横になりながら俺は呟く。

 

 朝に頭のおかしい爆裂ロリっ子と出かけてから、ゆんゆんは宿の部屋に帰ってきていなかった。

 ジハードが寂しがってるからと、爆裂ロリっ子にゆんゆんどこ行ったか聞いたら、知りませんよと不機嫌に言われるし。リーンに聞きに行ったら今だけは会いたくない言われて部屋の前で門前払い食らうし。いろいろと訳が分からない。

 

 そのうち帰ってくるかと思ったら結局夜になっても帰ってこない。その上ジハードもアクアのねーちゃんにゼル帝の誕生日だって言われて連れてかれた。今日は夜通しパーティーだそうだ。

 あのねーちゃんは未だにジハードをゼル帝の子分扱いしてるしそろそろ決着を付けないといけないかもしれない。……問題はあのねーちゃんが一応は俺の命の恩人で、ジハードもジハードで子分扱いされてるのをそんなに嫌がってないことだが。

 

「ま、やることもねぇしさっさと寝るか」

 

 本当はバニルの旦那の話についてゆんゆんに意見を聞いときたかったんだがな。

 流石に子供作れなんて話は荒唐無稽すぎるが、俺にとってもゆんゆんにとっても旦那は特別な存在だ。その夢のために他に何か出来ることがないかくらいは考えたかった。

 

(でも不思議なのは、何でこのタイミングであんな話をしたのかってことなんだよなぁ……)

 

 俺にしてもゆんゆんにしても、ああ言う話をすれば意識せざるを得ない。旦那の望む未来に大きく影響を与えると思うんだが、言っても大丈夫だったんだろうか。

 確実に旦那の望む方向に進むという確信があったのか、それとも──

 

「──てか、あれ? もしかして旦那が言ってた俺に出来る恋人ってゆんゆんのことだったのか?」

 

 見通せない未来で出来るって言ってたしそういうことになるのか?

 でも、旦那は守備範囲内の美人って言ってたし…………ダメだ。訳分かんねえ。

 

 考えても仕方なさそうだしやっぱりさっさと寝るか。

 

「でも……寝てもいい夢はもう見れねぇんだよな……」

 

 色んな意味で、バニルの旦那とも決着をつけないといけないかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

「『アンロ……って、あれ? 鍵かかってないし……。もう、ダストさんってば不用心なんだから……」

 

 寝てから何時間か経った頃だろうか。霞がかった意識の中、俺は扉を開いて誰かが入ってくる気配を感じる。

 

「んー……お前がいつ帰ってくるか分からなかったからだろうが……うぅん……」

「ダストさん起き……って、これ完全に寝ぼけてるというか半分以上意識は夢の中ですか」

「……お前もさっさと寝ろ……すぅ……」

「嫌ですよ。まだ確かめたいこととやりたいことが残ってるんです」

 

 そう言いながらもゆんゆんはベッドの中に入ってくる。そして──

 

 

「うん。凄く落ち着くけど…………ちゃんとドキドキする」

 

 

 ──仰向けに寝る俺の胸に自分の顔をつけるようにして抱きついてきた。

 

 

「……ゆんゆん? お前何してんだよ?」

 

 ゆんゆんの謎の行動に、霞がかっていた意識は一瞬で覚醒する。

 

「何って……ダストさんに抱きついてるんですよ」

 

 その理由を聞いてんだよ。

 

「ダストさん、ハーちゃんはどうしたんですか?」

「……この状況でそれを聞くかよ。ジハードならアクアのねーちゃんのところだよ。明日の朝には帰ってくるはずだ」

「そうですか…………なら、調度良かったのかな」

 

 うんうんと頷くゆんゆん。抱きつきながらそんな事するから細かな振動が胸に来てくすぐったい。

 

「てか、いつまでお前は抱きついてんだ。年頃の娘がベッドで男に抱きつくとか襲ってくださいって言ってるようなもんだぞ」

 

 守備範囲外じゃなければとっくに襲ってる。

 

 

「襲ってくれないんですか?」

 

 

「……おまえ、何を言ってんだ…………?」

「あ、ダストさんの鼓動が少し早くなった。何って言われても……流石に私もその覚悟がなければ、夜にベッドの中で男の人に抱きついたりしませんよ?」

 

 ゆんゆんの言葉が理解できない。ただ分かるのはゆんゆんの言葉は俺を意識の外から大きく揺さぶっている。

 それくらいこの状況はいきなりで、不可解で……刺激が強すぎた。

 

「また鼓動が早くなった。……良かった。ダストさんもちゃんと私にドキドキしてくれるんですね」

「お前おかしいぞ……ゆんゆんはこんな大胆なことできるやつじゃないだろ」

 

 無意識の行動であればいくらでも出来るかもしれない。

 追い詰められれば覚悟を決めて大胆な行動ができるやつでもある。

 ……でも、自分から意識してこんな行動ができるゆんゆんを俺は知らない。

 

「別におかしくないですよ。だって一年間ずっとこの時を想像して過ごしてきたんですから。……覚悟も決まりますよ」

「お前本当に何を言ってんだよ…………」

 

 一年前にそんな様子全然無かったろ。俺に対する態度が変わったのはエンシェントドラゴンと戦ってからで……それにしてもここまで意識的にやってたとは思えない。

 

 

 

 それから先、ゆんゆんは何も喋らず、俺もかける言葉が見つからず静かな時間が流れる。

 ……静かと言っても俺は自分の鼓動がうるさかったし、俺の胸に顔をつけてるゆんゆんもそれは同じだっただろうけど。

 

 そんな時間がどれくらい過ぎただろうか。このまま朝まで続くんじゃないだろうか。俺がそう思い始めてた所でゆんゆんが口を開く。

 

 

「ダストさん。私ダストさんのことが好きです。付き合ってください」

 

 

 その言葉が来るというのは流石の俺でも分かってた。けれど来ると分かっていてもその言葉はあまりに衝撃で、息や心臓が止まったんじゃないかと錯覚するくらいに頭が真っ白になる。

 

「…………、俺が好きとか正気かよ」

 

 だから俺の口から出たのはそんな子どもみたいな憎まれ口で、

 

「そこはせめて本気かって聞いて欲しいですよ。……もちろん正気ですし本気です」

 

 覚悟を決めてきたらしいゆんゆんには簡単に返される。

 

 

「……趣味が悪いやつだな」

「それは否定できませんけど……好きになっちゃったんだから仕方ないじゃないですか」

 

 好きって言葉をそうさらっと言わないでくれ。その度に心臓止まるかと思うんだから。

 

「なんで俺なんかを好きになっちまったんだよ……」

 

 こんなチンピラじゃなくてもっとマシな奴いるだろ。

 

「そんなことも分からないからダストさんはいつまで経っても童貞だったんですよ。あなたが私にしてきてくれたことを思えば好きになってもおかしくないです」

「……分かんねぇよ。俺がお前にしてやれたことなんて友達作ってやったことくらいだろ」

 

 それにしてもこいつ自身の人柄があったこそ出来た友達ばかりだ。俺がやったことなんて、こいつが俺にくれたものに比べれば本当に大したことがない。

 

「それだけでも十分だと思いますよ。人が人を好きになる理由なんて。……でも、ダストさんが納得してないみたいですから、もう少しだけ──」

 

 そうして、ゆんゆんは嬉しそうに語り出す。

 

 

「私に遠慮せず、私に遠慮させない、対等に喧嘩してくれるあなたが好きです。

 私が泣いていたら、私を泣かせた人に本気で怒ってくれるあなたが好きです。

 私と一緒にいてくれて、私に寂しい思いを感じさせないあなたが好きです。

 ……大好きです」

 

 

「…………お前、チョロすぎんだろ」

 

 たったそれだけのことで俺みたいなやつのこと好きになってんじゃねえよ。

 

「そうですか? 少なくとも私の回りにいる男の人でそんな人はダストさんだけですよ」

 

 だったらそれは運が悪かっただけだ。俺みたいなやつじゃなくてもっといいやつがゆんゆんにはいていいはずだ。

 

「それよりダストさん。早く返事をください。…………さっきから私心臓がバクバクしてて死にそうなんですから」

「……奇遇だな。俺も心臓破裂しそうだよ」

 

 その理由はきっと微妙に違ってて、本質的にはきっと同じものなんだろうけど。

 

 

「多分…………いや、多分いらねぇか。…………俺も、お前が好きだよ」

 

 ここまでされなきゃ自分の気持ちにすら気づかない自分の鈍感さには呆れ果てるしかないが、それでもこの気持ちは……ゆんゆんを愛おしいと思う気持ちはいつからかずっと俺の中にあったものだ。

 

「じゃあ……!」

「だけどよ……やっぱり、俺はお前のことをまだ女性としては見れねぇ」

 

 ずっと守備範囲外と言ってきたことは、ゆんゆんのことを好きだと自覚しても、簡単に俺の意識を変えてはくれない。

 …………こいつに手を出さないように、そうずっと自分に言い聞かせてきたんだから、簡単に変われるはずもない。

 

「だから1年……いや、半年でいい。待っててくれねぇか。ちゃんとお前のこと女性として見れるようにするからよ」

 

 今のまま付き合い始めれば、俺は無神経な言葉でこいつをきっと傷つけちまうから。

 

「嫌ですよ。1年も待ったのに更に半年も待てるわけないじゃないですか」

「そう……か。そうだよな。半年も普通は待てねぇよな」

 

 だとしたら、ゆんゆんはどうするのか。女性としては見れない俺と無理やり付き合うのか。それとも……。

 

「ダストさん。私の顔、ちゃんと見てくれますか?」

「……恥ずかしいから無理」

 

 我ながら情けないが……こんな状況は初めてだから仕方ないだろと開き直る。

 

「いいから見てください!」

 

 そう言ってゆんゆんは俺の顔を無理やり自分の方へと向ける。

 月明かりに照らされたゆんゆんのその顔は──

 

「……お前、ゆんゆん…………だよな?」

 

 ──今朝見送った時とは少し違う……俺がいつも夢の中で見るゆんゆんそのものだった。

 

「ダストさん……私18歳になりましたよ。それでも守備範囲外……女性としては見れませんか?」

 

 俺の馬鹿みたいな質問には答えず、ゆんゆんは訳の分からないことを言う。

 

「お前何言ってんだよ……1日で1歳も歳を取れるわけ無いだろ」

 

 そんなわけはない。けれど、目の前にいるゆんゆんは確かに18歳の姿をしていて…………夢の中にしかいないはずの、俺が女性として意識し続けてきたゆんゆんだった。

 

「普通の手段じゃ無理ですね。だから普通じゃない手段を使いました」

「…………なんで、そんなことに『お願い』を使っちまうんだよ」

 

 エンシェントドラゴン……人知を超えたあの竜であれば、1日で1つ歳を取らせることくらい可能だろう。そしてゆんゆんはエンシェントドラゴンに願う権利を使わずに取っていた。

 

「どんなお願いでもいいって言われましたから。この世界よりもずっと時間の流れが速い世界に連れて行ってもらって、そこで1年を過ごしてきました」

「馬鹿にも程が有るだろ……なんで寂しがり屋のお前がそんなことしてんだよ」

 

 俺やリーン、めぐみんに会えない。そんな中で1年もこいつは過ごしてきたという。

 ぼっちのこいつにとってそれがどれだけ辛いかは考えるまでもない。

 

「ダストさんに守備範囲外のクソガキって言われ続けて、見返したかったって気持ちも結構ありますけど……一番の理由はそれを理由に少しでも保留とかされるのが嫌だったから。あなたに私の気持ちを受け入れてもらいたかったからです」

 

 そう言って微笑むゆんゆんは本当に可愛く綺麗で……月光に照らされるその姿は幻想的ですらあった。

 

 

「ダストさん。もう一度言いますね。…………私はダストさんのことが好きです。付き合ってください」

 

 俺の顔を見てはっきりと言ってくるゆんゆんに、

 

「……本当に俺でいいんだな? 後からやっぱなしって言っても認めねぇぞ」

 

 俺は最後の確認をする。

 

「ダストさん()いいんです。あなたとずっと一緒に──っ」

 

 ゆんゆんの言葉を途中で遮るように、俺はその身体を抱きしめて唇を奪う。

 

「……お前は今から俺の女だからな。嫌だって言っても離してやんねぇぞ」

「はいっ。私を離さないでください」

 

 ……ほんとに、なんでこいつはこんなどうしようもないチンピラに、俺の女言われて嬉しそうにしてんのかね。 

 

 

 

 

「えーと……とりあえず今日は寝るか?」

 

 多分興奮して眠れないような気はするが。でも、今の状態で気の利いた話なんて出来る気しないし……一晩眠って落ち着いてからいろいろ話したほうが良い気がする。

 まぁ、話はしないにしても恋人になったゆんゆんを抱きしめて寝るくらいはしてみたい。

 ………………それくらいは許されるよな?

 

「ねぇダストさん。私達恋人同士なんですよね?」

 

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか。ゆんゆんはそんなことを聞いてくる。

 

「ああ。まぁ…………恋人だな」

 

 改めて口にすると恥ずかしすぎるけど。

 

「二人っきりで同じベッドに入ってますよね?」

「そう…………だな?」

 

 だから、俺も抱きしめて眠りたいと思ってるわけで。

 

 

 

 

「…………襲ってくれないんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──てわけでよ。バニルの旦那は是が非でも俺らにくっついてもらいたかったみたいだぜ」

 

 ちゅんちゅんと小鳥たちが鳴く早朝。俺はベッドの感触と気怠さに包まれながら、隣で俺と同じように横になってるゆんゆんと取り留めのない話をしていた。

 

「そう言われてみれば確かに、バニルさんって私達がくっつくように動いてた気がしますね」

 

 何度も干渉してきたわけじゃないが、俺達が大きく近づく時にバニルの旦那の存在があったように思う。

 

「でも……今のダストさんの話のおかげで安心しました。あの時のバニルさんの占い、結構心配してましたから」

「? 占いっていつのことだよ?」

「最初の最初。私とダストさんが出会って、バニルさんとも出会ったあの時ですよ」

「ああ……旦那が相談屋始めた時か。確かバニルの旦那に『我輩ですら目を背けたくなる未来を持つ娘』って言われてたな」

 

 ……旦那が目を背けたくなるって相当だよなぁ。

 

「でも……そっか。俺達がくっつく未来が旦那には見えないってことは、俺達が一緒にいる限りは、旦那が見た『目を背けたくなる未来』はこねぇってことか」

「はい。……裏を返せばダストさんとくっつかなかった私には『目を背けたくなる未来』しかなかったってことですけど」

 

 旦那は、ゆんゆんにそんな未来が来ないよう、俺達をくっつけようとしたってのは流石に考えすぎだろうか。

 バニルの旦那は確かに生粋の悪魔だが…………同時にゆんゆんの友達なのだから。

 

「ま……俺とくっついたほうが更に酷い未来が来るかもしれねぇけどな」

 

 未来が見えないのだから当然その可能性もある。……それだとゆんゆんの人生詰んでることになるが。

 

「大丈夫ですよ。今の私は今までで1番幸せです。……それに、ダストさんの悪い所なんて全部知ってて、その上で好きになっちゃいましたからね。今更ダストさんに不幸になんかさせられませんよ」

 

 ……言うじゃねぇか。なら少し試してやるか。

 

 

「おい、ゆんゆん。恋人同士になったんだからもう借金はチャラってことでいいよな?」

「あ、はい。もとからそのつもりですよ。どうせ返って来ないのは分かりきってますし。ただ、ダストさんの財布とかクエストの報酬とかは私が管理しますからね。何か欲しいものとかあったら私に言ってください。必要だったら買ってあげますから」

「……………………冗談だよな?」

「今すぐ借金が返せるなら冗談にしてあげてもいいですよ?」

 

 ………………まじかー。

 

 

「ま、まぁ金のことは置いといてだ…………ゆんゆん、今度俺のナンパに付き合えよ」

「いいですよ。とりあえずナンパ失敗して手酷く振られたダストさんを慰める役でいいですか?」

「………………何で振られる前提なんだよ」

「え? 男の趣味が悪い紅魔の里ならともかくアクセルの街でダストさんのナンパに引っかかる人なんて私含めてもいませんよ」

 

 何で俺恋人に可哀想なものを見る目されてんだよ。

 

「というか、わざわざナンパする必要あるんですか? 前までは童貞捨てたくて必死だったのは分かりますけど」

「そりゃ……あれだろ。同じ相手ばっかりだと飽きるかもしれないじゃん」

「飽きさせませんよ」

「そうは言ってもだな……」

「絶対に飽きさせませんから。安心してください」

「お、おう……」

 

 その自信はどこから来るんだよと思ったが、実際ゆんゆんの身体は麻薬みたいなもんで、飽きる気がしないのも確かだ。その上やる気まであるんなら飽きるほうが難しいかもしれない。

 

 

「どうです? ダストさん。私を不幸に出来そうですか?」

「…………無理な気がしてきた。というかお前俺のこと好きだ好きだ言ってる割には、俺のことを立てようとしないのな」

 

 俺への好意が前面に出てるだけで、基本的には俺に対する扱いが前と変わってない気がする。

 

「だってダストさんは私の彼氏ですけど、同時に悪友ですからね。悪友に遠慮なんてしませんよ。だからダストさんに貢いだり、酷いことされても好きだからって泣き寝入りすることはないです」

 

 言いたいことを言い合える関係なら確かに大丈夫か。

 

「それに今のダストさんって女性関係とお金関係を除けば前より大分まともになってますし、その2つをしっかりと管理して、ドラゴンと触れ合わせとけばわりといい人になると思うんですよ」

「好き放題言うのもいい加減にしろよぼっち娘。少しは遠慮しやがれ」

「嫌です。だって、私、ダストさんとこうして言い合ってる時間が大好きですから」

「………………」

 

 こいつ本当はっきりと物言うようになったな……。これが俺に対してだけか全体的に成長したのかはまだ判断しかねるが。

 

 

 

「でも、まさかダストさんとこんな関係になるって…………出会った時は思ってもいなかったなぁ」

「そりゃ俺の台詞だっての。お前俺のこと友達すら拒否しやがるし…………体の発育が良いだけのクソガキだったしな」

 

 それでも命の恩人だからと、寂しそうにしてるこいつをほっとくにほっとけなくて……ジハードが生まれた頃くらいから目を離せなくなった。

 ……それがいつ甘ったるいものになったかはやっぱり全然分からねぇが。

 

「それが今は恋人で悪友だなんて……あの頃の私に言っても絶対信じませんね」

「……今の俺が信じらんねぇからな」

 

 なんでこんなにいい女が俺みたいなチンピラに惚れちまったんだか。本当に紅魔族の女は男の趣味が悪いとしか思えない。

 

「そのうち信じられますよ。私がどれだけダストさんが好きなのか……ずっと一緒にいれば嫌でも分かりますから」

「……もしかしてそれってプロポーズか?」

 

 ずっと一緒にって……。

 

「違いますよ。気持ち的には間違ってないですけど。そ、その……プロポーズは相手からしてもらいたいなぁ……って」

「はっ……乙女みたいなこと言いやがって」

 

 あんだけ積極的だったくせに。

 

「鼻で笑わなくてもいいじゃないですか! 私だってロマンチックなプロポーズ受けてみたいんですよ! 告白は私からだったんですし、プロポーズはそっちからしてもらっていいと思うんですけど!」

 

 プロポーズねぇ……。まぁ、ずっと一緒にいるってんならいつかはしないといけないんだろうが……。

 

 

 

「プロポーズはともかく、お前、俺と結婚したら『ゆんゆん=シェイカー』になるんだがいいのか?」

 

 

 

「………………え?」

「結婚したらお前の名前は『ゆんゆん=シェイカー』な。…………なぁ、ちょっと爆笑していいか?」

 

 ゆんゆん=シェイカー呼ばれてるこいつを想像すると…………うん、やばい。多分笑いだしたら止まらないわ。

 

「……ダストさん、短い付き合いでしたが別れましょう。大丈夫です今ならまだ悪友に戻れます」

「ばーか。後で嫌だって言っても離さねぇって言っただろうが。諦めろゆんゆん=シェイカー……ぷっ…うははははっ」

「笑わないで! うぅ……笑わないでくださいよ! ダストさんのバカ! バカバカ!」

 

 こらえ切れなくなって笑いが止まらなくなる俺の胸を、ゆんゆんは涙目になりながらポカポカと叩いてくる。

 

「やめろ痛いだろゆんゆん=シェイカー……くくくっ……ダメだ…ぷっ…腹痛い」

「笑わないでって!……うぅ、なんで私こんな性格悪いチンピラ好きになっちゃったんだろう」

 

 

 笑いながらも俺は思う。きっと俺たちはずっとこうして過ごしていくんだろう。

 呆れられて、泣かして、喧嘩して、尻に敷かれて。

 恋人になった実感はない俺だが、それだけは信じられた。




ゆんゆん=シェイカーの字面の破壊力は異常。

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