どらごんたらしver.このすば   作:ろくでなしぼっち

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このチンピラ冒険者に更生を!

「なぁ、ゆんゆん。今日の朝なんだけど俺に付き合ってくれねぇか?」

 

 結局ほぼ徹夜空けの朝。宿の朝食を食べながら、俺は向かいに座ってジハードにあーんとご飯を食べさせてるゆんゆんにそう話しかける。

 てか、ジハードに食べさせるとか羨ましすぎんだけど。後で俺にもさしてくんねえかな。

 

「え? 嫌ですよ。朝はめぐみんと一緒にエンシェントドラゴンさんのところに行くんです」

 

 俺の提案に少しも考えた様子もなく断るゆんゆん。

 

「…………一応聞くが、お前俺の恋人なんだよな? しかも告白してきたのお前だよな?」

「まぁ、そうですね。ダストさんの恋人ですし、告白したのも私からです」

「お前、少しは俺のこと優先しようって気持ちはねぇのか?」

 

 一応でも恋人が頼んでんだぞ?

 

「ありますけど……私の優先順位は親友であるめぐみんとリーンさんが1番で、次にウィズさんとかバニルさんとかの友達、その次はパーティーメンバーであるキースさんやテイラーさん。悪友兼恋人のダストさんはその次の次くらいですかね?」

「流石にそれ低すぎねぇか…………」

 

 親友>友達>パーティーメンバー>その他>俺。……流石にただの知り合いとかよりは上だと信じたいが。

 

「だって、ダストさんは私が何をしても私の事好きでいてくれるって信じれるから……優先順位低くなるのも仕方ないですよね」

 

 俺に遠慮しないことの延長線上で優先順位も低くなってるってことか。

 

「んだよ。じゃあ、優先順位高い親友二人は信じれてねぇってことかよ」

「別にそういうわけじゃないですよ? 基本的に好きでいるほど優先順位高くなるのは確かです。あと、めぐみんは里の頃の記憶というか習慣で優先しちゃいますし、リーンさんには……」

「? リーンにはなんだよ?」

「いえ……これはダストさんに言うことじゃないなって」

 

 そう言ってゆんゆんは大きく息を吐いて仕切りなおす。

 

「……とにかく、好きなのに優先順位が低くなっちゃうのはダストさんくらいなんですよ。普通は好きになるほど嫌われたくないって気持ちが強くなりますから、信じてるのと同じくらい怖くなって優先するんですよ」

 

 なんだその嬉しいような嬉しくないような特別扱い。

 

「それとも私の考えは間違ってますか?……私が恋人よりも友達を優先したらダストさん、私の事嫌いになっちゃいますか? それなら私はダストさんのことを何よりも優先しますよ。だってあなたは私の大切な悪友で……唯一無二の恋人なんですから」

 

 少しだけ寂しそうな表情でゆんゆん。

 

「ちっ……んな顔してんじゃねぇよ。言っただろうが、俺はお前に友達作ってやるって。だからお前は何も間違っちゃいねぇよ。……それに友達を大切にしないお前なんて見たくねぇからな」

 そしてそんな理由に自分がなるのもごめんだ。俺みたいなチンピラのせいでこいつが大切にしてるものを大切に出来なくなるなんてあっていいはずがない。

 

 

「あ、そうですか。よかったです。というわけでダストさんの優先順位はそのままということで」

 

 寂しそうな表情なんてなかったかのようにゆんゆん。

 

 

 ………………………………………………

 

 

「………………お前、やっぱ性格悪くなってんぞ」

 

 女の涙……ってほどじゃないにしても、そういう表情を武器に使うとか。

 

「間違いなくダストさんのせいですし、こういう悪女っぽいことするのもダストさん相手だけだから安心してください」

 

 何を安心すればいいんだよ。

 

「……ったく、俺だって人間なんだからな? あんまり優先順位低くされたり、邪険にされると本当に好かれてるのか不安になんだぞ」

 

 今はまだ告白されてすぐだから大丈夫だが、こういうことが続くなら自信はない。

 

「友達を優先って言っても、それ以外の時間はほぼ一緒にいるんですから大丈夫だと思いますけどね。ん……でも、大人な女性になった私がダストさんの不安を取り除いてあげます」

「クソガキ……じゃ、もうねぇのか。なんだよ、なんかしてくれんのか?」

 

 クソガキのくせに生意気言ってんじゃねぇよといつものように返せないのめんどくさいな。なんかいい呼び方はないかね。

 ぼっち娘って毎回呼ぶのもあれだし。

 

「ふふっ……あーん、です。こんな風に食べさせる男の人はダストさんだけなんですからね」

 

 そう言いながらゆんゆんは卵焼きを俺に食べさせようと近づけてくる。

 

「はっ……このぼっち娘は自分のあーんにそんな価値あると思ってんのかよ?」

 

 この程度で俺が誤魔化されると思ってるとか……甘く見られたもんだな。

 

「あれ!? なんか反応が想像してたのと違うんですけど! ここはなんだかんだ言ってダストさんが恥ずかしがるところじゃないんですか!?」

「お前は確かに俺みたいなチンピラにはもったいないくらいのいい女だが『あーん』程度で誤魔化されるほど俺も甘い男じゃねぇよ。俺のこと好きだって証明すんならキスの一つや二つしやがれ」

 

 なんなら胸もませてくれるのでもいいぞ。

 

「むむむ……ダストさんのくせに調子乗ってますね……」

「あん? それはこっちの台詞だっての。クソガキ卒業したくらいで優位になった気になってんじゃねぇぞ」

 

 俺のほうが年上だってのは変わらないんだからな。

 

「むむ…………ん? そうだ、ダストさん。あーんってされても満足しないんでしたらあーんって『させて』あげましょうか?」

「はぁ? お前俺を舐めんのも大概にしろよ。何で俺がお前に食べさせてやらねぇといけないんだ」

 

 そりゃこいつがやって欲しいってんなら仕方ないからやってやらねぇこともないが。

 

「なんかダストさんの反応見る限りそれでもいいような気がしましたけど…………あーんってする相手は私じゃなくてハーちゃんですよ?」

「お前の気持ちを疑って悪かった。ゆんゆん、俺もお前のこと愛してるぞ」

 

 俺の喜ぶことちゃんと分かってんじゃねぇか。

 

「…………、もしかしてこの人、私よりチョロいんじゃないかな」

 

 さっそくジハードにご飯を食べさせてる俺を見てゆんゆんはそんなことを呟いていた。

 

 

 

 

 

 

「もう……お世話になった人たちに私達が付き合い始めたことを報告に行きたいなら早くそう言ってくださいよ。無駄に時間を消費したじゃないですか」

 

 ジハードと手を繋ぎながら俺の横を歩くゆんゆんはそんなことを言う。

 

「話聞かないで断ったのはお前だろうが」

 

 俺は何も悪くない。

 

「てか、いいのか? 頭のおかしい爆裂娘との爆裂散歩は」

「別に私はめぐみんの親友兼ライバルであって従者じゃないんですから。心情的には1番に優先しても義理とか常識を考えれば常に最優先ってわけでもないですよ」

 

 ……義理はともかくこいつの常識なんてものがあっただろうか。

 いや、どっかの爆裂娘とかに比べればたしかに常識あるんだろうけど。爆裂娘や仮面の悪魔と付き合い続けてるこいつの常識は既に色々おかしくなってる気がする。

 

「……なんかダストさんが凄い失礼なこと考えてる顔してます」

「別に失礼なことなんて考えてねぇよ。お前に常識なんてあったかなって思ってただけだ」

「常識知らずのダストさんにだけは言われたくありませんよ!」

「お前こそ失礼なやつだな。俺は別に常識知らないわけじゃねえぞ。無視してるだけだ」

「……そういう台詞を全く悪びれず言うあたりダストさんはダストさんですよね」

 

 ま、常識なんてもんに縛られて堅苦しく生きるなんてもうしたくねえからな。

 

「はぁ……まぁいいです。ところで最初は誰の所に行くんですか? この方向だとウィズさんの店かカズマさんの屋敷ですけど」

「最初はウィズさんところだな。で、その後にカズマの屋敷……ってかロリっ子の所だ」

 

 旦那同様ウィズさんは俺らがくっつくこと望んでた節があるし、一応頭のおかしいロリっ子はこいつの親友だ。報告くらいはしといたほうがいいだろう。

 

「ダストさんって相変わらずめぐみんのことロリっ子って呼びますよね。出会った頃と比べるとめぐみんも結構成長してると思うんですけど」

「はぁ? 全然成長してないだろ。相変わらず胸がロリっ子だっての」

 

 背と髪は確かに伸びてるけどな。

 

「めぐみんに爆裂魔法食らわされそうになっても私は助けませんからね」

 

 はぁ、とため息を付いてゆんゆん。

 

「でも、先にウィズさんのところに行くんですか? 今の時間はもうバニルさんが相談屋を始めてていませんし相談屋が終わった頃に行ったほうがいいんじゃ……」

「だからだよ。バニルの旦那が今の時間はいねぇから先に行くんだ」

 

 というかバニルの旦那に挨拶すんなら既に通り過ぎてるギルドに寄ってくっての。

 

「え? バニルさんに挨拶しないんですか? 私達のことでお世話になったってことならバニルさんが1番だと思うんですけど」

「そりゃそうだけどよ…………バニルの旦那だぞ? 俺らが付き合い始めたって挨拶に行ったら絶対からかいまくって悪感情搾り取っていくだろ」

 

 バニルの旦那のことは好きだし感謝もしてるが、わざわざ餌になりにいくこともない。羞恥の悪感情なんていう大好物を旦那が見逃すとも思えないし。

 

「……言われてみればそうですね」

 

 二人で行くんじゃなければまだマシなんだろうけどな。

 

「とりあえずウィズさんの所行ってその後めぐみん……他にはどこに挨拶に行きますか?」

「リーンの所には行くか。あいつも一応俺らの事応援してた気がするし」

 

 前にちょろっとそんな話をした覚えがある。

 …………ま、そういうの抜きにしても流石にあいつにだんまりってわけには行かないだろうしな。

 

「……そうですね」

「キースやテイラーはまぁ……特に俺らのことで世話になった覚えはないしいいか。クエスト受ける時にでも適当に伝えれば」

 

 となると他に話しときたいのは…………

 

 ルナやベル子は同じ場所に旦那がいるからまた別の日。

 ロリサキュバスは会ったらほっぺた引っ張ってやらないといけないが、多分例の店にいるしゆんゆんとは一緒に行きづらいからやっぱり別の日。

 後は…………

 

「……そういやどうでもいいことなんだけどよ。お前最近セシリーに会った覚えあるか?」

「え?…………そう言えば最近会ってないですね」

「いつから会ってないか覚えてるか?」

「んー…………ごめんなさい、良く覚えてないです。ダストさんにとってはつい最近のことでも私は一年以上前の事になりますし流石に……」

 

 そういやそうだったな。一年以上ブランクのあるゆんゆんに細かい時系列まで聞くのは無理があるか。

 

「セシリーさんがどうかしたんですか?」

「いや、いつものあいつならそろそろ呼ばれてもいないのに出てくる頃だよなぁって」

 

 それで嫌という程こっちを引っ掻き回して疲れさせてくれるんだが。

 俺が最後に会ったのはこの街を離れて冒険に出た日だっけか。街を離れてる時間が増えたとは言え、結構な間エンカウントしてないな。

 

「えっと……気になるなら挨拶に行きますか? 一応住んでる所と働いてる所は知ってますし」

「…………、別に会いに行く程じゃねえよ。ちょっと気になっただけだ」

 

 どうせそのうち留置所かどっかで会うだろ。わざわざ旦那以上に疲れそうな奴に会いに行くほど俺はドMじゃない。

 

「とりあえず今はウィズさんへの挨拶だ。さっさと済ましてこようぜ」

 

 

 気持ちを切り替えて、俺らはウィズ魔導具店への道を歩いていった。

 

 

 

 

「あら、ゆんゆんさんにダストさんじゃないですか。おはようございます」

 

 カランカランという小さな鐘の音と一緒に入ってきた俺たちに。ウィズさんは柔らかな笑みで挨拶をしてくれる。

 

「あれ? ダストさんが背負っているのはジハードちゃんですか? 眠ってるみたいですけど」

 

 俺とゆんゆんが同じように挨拶を返した所で、ウィズさんは俺の背中で眠っているジハードに気づき、どうしたのかと聞いてくる。

 

「ハーちゃん昨日はアクアさんの所で夜通しパーティーだったみたいで……帰ってきたのが今朝早くで寝不足なんです」

 

 もともとよく寝る傾向のあるジハードに徹夜はやっぱりきつかったらしい。ここへ向かってきた途中、歩きながらうとうとしてるから危ないとおんぶしてやったらすぐに寝息を立て始めた。

 

「そういうことならジハードちゃんは私の部屋で寝かせてあげましょうか?」

 

 ゆんゆんから事情を聞いたウィズさんが提案してくれる。

 

「あー……ありがたいんですけど、俺らこの後も行く所あるんで……」

 

 宿の部屋で寝かしといても良かったのかもしれないが、一人にするのは流石に心配だから連れてきた。

 リーンあたりに知られたら過保護とか言われそうだけど、ジハードの希少性と可愛さを考えれば当然の対応だろう。

 

「それだったらなおさらですよ。2人の用が終わるまで私が面倒を見ますから、ジハードちゃんはゆっくりと寝かせてあげましょう」

 

 そう微笑んで言ってくれるウィズさんの厚意に俺たちは甘えることにした。

 …………でも、面倒見るって客の対応で忙しくなることはない前提だよな。この店本当に大丈夫なんだろうか。

 

 

 

「──そうですか。お二人がついに恋人同士に……。おめでとうございます」

 

 俺達が付き合い始めた事実とそこまでのちょっとした経緯を話し終えた所で、ウィズさんは祝福の言葉をくれた。

 

「けど、なんだかロマンチックですね。異世界にまで行って文字通り年齢の壁を越えて結ばれるなんて。……私もそこまでしようと思えるくらい情熱的な恋をしてみたいです」

 

 祝福に対する謝辞を返したり、いろいろと話している中でウィズさんはなんだか夢見る様子でそんなことを言う。

 

「? ウィズさんにはバニルの旦那がいるだろ?」

 

 旦那に前聞いた時は何言ってんだこいつ的な反応されたけど。旦那とウィズさんの仲の良さはいまさら言うまでもない。

 

「何を言ってるんですか、ダストさん。バニルさんは悪魔なんですよ?」

 

 ……あれ? 旦那だけじゃなくてウィズさんにまでそんな反応すんのか?

 

「いや……旦那が悪魔なのは知ってるけど……」

「じゃあ、言うまでもないじゃないですか。バニルさんは大柄な男性に見えるけど見えるだけで性別ないんですから」

 

 ……旦那のときもそうだったけど、まじで照れ隠しとかそんな雰囲気ねぇな。

 

「それにですね、バニルさんたまに美女の姿になって接客やって、お客さんが口説いてきたら元の姿になって悪感情搾り取ったりしてるんですよ? そんな様子見てたらこう……流石に男としてみるとか無理ですよ」

 

 旦那、そんなことまでしてんのかよ。いや、俺も前ナンパしてる時にひっかかったことあるけど。数少ないウィズ魔道具店の客にまでそんなことするとか欲望に忠実すぎだろ。

 

(…………まぁ、多分もう旦那はウィズ魔道具店で金稼ぐのは諦めてんだろうな)

 

 以前どっかの盗賊団に潰されたカジノをまた再建しようとしてるしそっちが本命なんだろう。

 

「でも、旦那とウィズさんはお似合いだと思うんだけどなぁ……ゆんゆんもそう思うだろ?」

「うーん……確かにウィズさんとバニルさんは仲いいですしお似合いと言ったらお似合いなんですけど……それと同じくらい恋愛関係になってる所は想像できないというか…………」

 

 ……まぁ、それは俺も分かる。というかウィズさんはともかく旦那が色恋沙汰やってる所が想像つかない。

 

「けどよ、それ言ったら俺達だって一緒だろ? 俺達が恋人同士になるなんて誰が想像したよ」

「めぐみんとかリーンさんは想像してたみたいですけど。……どっちかというと私達の場合は周りより自分たちのほうが全然想像してなかった感じが……」

 

 ……そういやそうだった。旦那やウィズさんもそうだし、ゆんゆんの親父さんとかも。

 

「ま……こういうことは周りがどうこう言うことでもねぇか」

 

 バニルの旦那が俺らがくっつくことを望んだのと違って、俺らは別に旦那とウィズさんがくっついて欲しいと思う理由はない。二人に幸せになって欲しいとは思うが、それとこれとは話が別だろう。

 

「ただ……旦那がウィズさんのこと本当に大切に思ってるってことは知ってて欲しい。悪魔だから人間の感覚とはぜんぜん違うんだろうけどよ」

 

 色恋沙汰には程遠いし、人間と悪魔じゃいろいろと違うんだろうが。それでも昨日の話の中で旦那がどれだけウィズさんのことを大切に思ってるかは分かったつもりだ。

 

「くすっ……はい、知ってますよ。だから私はバニルさんと友達なんです」

 

 嬉しそうに笑ってウィズさんはそう答える。

 

「そうか……ならよかっ──って、なんだよゆんゆん。そのおかしなものを見るような目は」

「いえ、このダストさんの姿をした偽物は誰なのかなぁって。もしかしてバニルさんですか?」

「上等だよこの毒舌ぼっちが! 俺が少しまともなこと言ったらいっつもいっつもそんな反応しやがって! 折檻してやるから表出ろ! ……てことで、ウィズさん、俺らは行きますんでジハードのこと頼みます」

「ドラゴンいないダストさんに私が負けるわけないのにダストさんもこりないなぁ……。ということなんでウィズさん、お邪魔しました。また後でハーちゃんを迎えに来ます」

「あ、あはは…………できればお店の前で喧嘩するのは止めてくださいね。お客さんが来なくなっちゃいますから」

 

 苦笑い気味のウィズさんに見送られて俺らは店を後にした。

 

 

 

 

「ふぁ~~~あぁ…………遅いじゃないですかゆんゆん。もう昼過ぎですよ。あなたが来ると思って無理して起きていたと言うのに」

 

 カズマの屋敷。呼び鈴に応じて出てきた胸が平らな爆裂娘は大きなあくびをしながら俺らを出迎える。

 

「あー……そう言えばめぐみんたちって夜通しパーティーだったね」

「そうです。だから今屋敷で起きてるのは私だけですよ。あなたが来ると思ってなければ私も今頃カズマのベッドの中ですやすやと眠っていましたよ」

 

 このロリっ子の言葉はどこまで本当なんだろうなぁ……俺の見立てじゃまだカズマは童貞なんだけど。

 でも、こいつが嘘ついてる感じでもねぇんだよなぁ。

 

「……で? ゆんゆんが背負ってるその金髪のチンピラはなんですか? エンシェントドラゴンへの供物ですか? 流石に雑食のドラゴンと言えどそんな不味そうな男はいらないと思いますよ」

 

 人を勝手に喰いもん扱いしてんじゃねぇよ。身体が動くならぶっ飛ばしてるとこだぞ。

 

「えーっと…………喧嘩したらちょっとやりすぎちゃってね?」

「……女にそこまでボコボコにされるとは情けない男ですね」

 

 こっちは完全に素手だってのにゆんゆんは魔法で身体強化してから殴りかかってくんだぞ。勝てるわけないだろ。

 ……ま、次は絶対俺が勝つけどな。

 

「はぁ……まぁいいです。それでどうするんですか? エンシェントドラゴンの所にそのチンピラも連れて行くんですか?」

「それなんだけど……今日はちょっとめぐみんの日課に付き合えそうになくて…………ごめんね?」

「別に謝ることはありませんが……そういうことは早く言ってくださいよ。言ってくれてたらゆっくり寝れていたと言うのに」

「本当にごめんね? ダストさんが朝いきなり付き合えって言うから……」

 

 お前が何も聞かずに断ったり無駄に喧嘩売ってこなけりゃもっと早く来れたんだからな? 全部俺のせいにしてんじゃねぇぞ。

 ……いや、7割くらいはたしかに俺が悪いけど。

 

「ふわぁ~……んぅ……要件はそれだけですか? それなら私は一眠りしてきますが」

「あ……うん。ええっと、要件はそれだけじゃなくてね? 実は私とダストさんなんだけど──」

「──みなまで言わなくていいですよ。昨日のあなたと今のあなたの姿を見ればどういう流れになったかは想像がつきます。…………本当にバカですよあなたは」

 

 ゆんゆんの言葉を遮った爆裂娘は呆れたような、不機嫌そうなため息をつく。

 

「……うん。だって私は紅魔族一のバカって呼ばれてるめぐみんの親友兼ライバルだからね」

「そう呼んでるのは主にあなたでしょうに、紅魔族一のぼっち娘。……しかし、くっつくとしたらダストだろうとは思ってましたが、本当にくっついてしまったんですね。あなたは紅魔の族長になると言ってましたから里に帰るまではなんだかんだと独り身を貫くと思ってたんですが」

「? ダストさんと付き合うことと紅魔の族長になることの何が関係あるの?」

 

 訳が分からないと首を傾げるゆんゆん。俺もこのロリっ子が何言ってるか分かんねぇな。

 

「いえ……いまだに信じられませんがダストは一応隣国の貴族の出なのでしょう? いずれ帰るのではないのですか?」

「え? そうなんですか? ダストさん」

 

 まな板の質問に追従するようにぼっち娘も聞いてくる。

 

「いや、んなわけねぇだろ。俺は()貴族だっての。てか頼まれたってあんな国に帰るかよ」

 

 ……本当は帰りたい気持ちがないわけじゃない。親代わりだったセレスのおっちゃんや騎士としていろいろ教えてくれたフィールの姉ちゃん……そして、逃げ出した俺を送り出してくれた姫さん。他にも騎竜隊の奴らとか世話になったやつは結構いて、そいつらに会いたい気持ちがないって言ったら嘘になる。

 それでも大多数の王族貴族に疎まれ、シェイカー家が取り潰しになったあの国にはもう俺の居場所はない。『行く』ことはあっても『帰る』ことはないだろう。

 

「ま……もしも俺の子どもがドラゴン使いになりたいって言うなら、あの国に送るってことはあるかもしれねぇがな」

 

 ドラゴン使いがほとんどいないこの国ではドラゴン使いとして大成することは難しい。比べてあの国はドラゴン使いの育成に力を入れている。シェイカー姓を隠して行かせる分にはそう悪くない選択肢のはずだ。

 

「えー……私の子どもには紅魔の族長になってもらいたいんですけど」

「はっ……子どもの夢を親が勝手に決めてんじゃねぇよ。俺は子どもには自由に生きさせるって決めてんだ」

「むぅ……私だって子どもが望まないなら無理やりさせるつもりはないですよ。でも、自由にさせすぎるのには反対です。子どもがダストさんみたいなろくでなしのチンピラになったらどうするんですか」

「ああ? こっちだってお前に育てられて子どもがぼっちにならないか心配して言ってんだよ」

 

 というかこいつに常識とか教えられてたら絶対ぼっちになる気がする。やっぱある程度自由にさせてやらねぇと。

 

「ちっ…………私はもう寝ます。あなたたちはうるさいのでさっさと屋敷から出ていってください」

 

 不機嫌そうな様子を隠そうともせず……というか舌打ちまでしてロリっ子は俺らを追い出そうとする。

 

「あれ? なんでめぐみんそんなに不機嫌になってるの? なんか私、悪い事しちゃった?」

「……いえ、なんで私も自分がこんなに不機嫌になってるのか分かってないんで気にしないでください」

 

 ……いや、どう見ても親友が自分以外と仲良くしてんのを見て不機嫌になってるようにしか見えないんだが。ゆんゆんもだがこのロリっ子もわりとぼっち属性だから経験少なすぎて分かんねぇのかね。

 

「何をこのチンピラはニヤニヤしてるんですか気持ち悪い」

 

 おっと、考えてることが顔に出てたか。ま、別にバレても全然痛くねえが。

 

 そんな事を考えてる俺の様子に、追求しても無駄だと思ったのか、

 

「…………ダスト。これだけは言っておきます。もしも私の親友を不幸にするようだったら私の魔法であなたを粉々にしますからね。そのことよく覚えておいてください」

 

 杖を俺の鼻先に構えてめぐみんはそう宣言する。

 

「言われるまでもねぇよ。……ま、俺がどうこうしてもこいつは不幸になるような女じゃねぇけどな」

 

 不幸にする気はサラサラないし、不幸に出来る気も全然しない。……こいつ本当に俺には遠慮しねぇからなぁ。

 

「……そうですか。その言葉、忘れないことです」

 

 めぐみんはそう言い残して俺らに背を向け屋敷の中へと歩いていく。

 

「──っと、言い忘れてましたね。……ゆんゆん、おめでとうございます」

 

 くるっと回ってそう言ったかと思えば、めぐみんは今度こそ早足で屋敷の中へと消えていく。

 ……あの様子だと途中で思い出したんじゃなくタイミング図ってたな。素直じゃないやつだ。

 

 

 

「ん? あれ? ゆんゆん、お前もしかして泣いてんのか?」

 

 ぽたりときれいな雫がゆんゆんの首に回している俺の腕に落ちる。

 

「泣く……? 何で私が泣かないといけないんですか?」

「いや……俺に聞かれても分かんねぇよ」

 

 ただ、こいつが泣いてるのは俺の見間違いじゃないのだけは確かだ。

 

「そっか……私今泣いてるんですね」

「……一つだけ聞いとく。お前は今辛いとか悲しいって気持ちか?」

「いえ……そういうわけじゃないです」

「そうか……なら、思う存分泣いとけ」

 

 その涙が何を意味するのか俺には分からねぇし、きっとゆんゆん自身にも分かってねぇんだろうけど。後ろ向きな涙じゃないなら止める必要はない。

 

「くすっ…………ダストさん、カッコつけるのは自由ですけど、私におんぶされてる状態でそんなこと言っても全然かっこよくないですからね」

 

 …………ほんとだよ。

 

 

 結局ゆんゆんが泣き止むまで俺は背負われたままだった。締まらないことこの上ない。

 

 

 

 

 

「あ、ゆんゆんいらっしゃい。……ダストはお帰りはあっち」

 

 部屋を訪ねた俺達を対照的な態度で迎えるリーン。

 

「おいこらリーン、俺だけなんでそんな態度……って、マジで俺だけ追い出そうとしてんじゃねぇよ!」

 

 俺が入る前に閉まろうとする扉。そこに足を入れて無理やりこじ開けようとする。

 

「あ、こらダスト! 乙女の部屋に無理やり押し入ろうとしないでよ! 変態!」

「はっ……お前みたいなまな板に下心なんてない──って、いててててっ! お前、足折れるだろうが! 無理やり閉めようとするんのはやめろ!」

 

 この痛さはマジで冗談になってない。本気で閉めようとしてやがる。

 

「あの……リーンさん? このままじゃ扉が壊れそうですし、仕方ないからダストさんいれてあげませんか?」

 

 ……その提案は嬉しいが理由なんかおかしいんじゃねぇか?

 

「しょうがないわね……。ダスト? 扉に優しいゆんゆんに感謝しなさいよ?」

 

 うん。やっぱその理由おかしいわ。

 

 

 

「ったく……お前の部屋に入るなんざ今更だろうが。昨日といい今日といいなんでそんなに入られたくねぇんだよ」

 

 ゆんゆんにボコボコにされたとこといい、扉に挟まれたことといい、いろいろと体が痛い。帰ったらジハードに回復魔法かけてもらわないといけないかもしれない。

 

「それでゆんゆん? 今日はどうしたの?……って、ダストと一緒に来てるんだから聞くまでもないよね」

「ナチュラルに無視してんじゃねぇよ。まな板ウィザードが」

「はい。ダストさんと恋人同士になってしまったことを報告しに来ました」

「お前もお前で普通に受け答えしてんじゃねぇよぼっち娘。というか言い方にちょっと毒が混じってねぇか?」

「ダストうるさい。これ以上うるさくするなら魔法でふっとばすよ」

「そうですよダストさん。大事な話してるんですから黙っててください」

 

 ……いや、この扱いぜってぇおかしいからな? むしろこの扱いに関する大事な話始めないといけないレベルでおかしいぞ。

 

 まぁでもいいか。黙っとけと言うなら黙っといてやろう。別にリーンになんて説明しようとか悩んでるわけじゃないけど。説明しなくていいなら楽だ。

 

「ま、とにかくおめでとうゆんゆん。……それとご愁傷様。こんなハズレくじ引いちゃって」

 

 こんなとか言って俺のこと指差すんじゃねぇよ。

 

「はい、ありがとうございます。……確かにダストさんはハズレくじかもしれないですけど、だからこそ私が引いてあげないと。私はそのハズレくじには不幸にされない数少ない女性ですから」

 

 俺は怒ればいいのか嬉しがればいいのかどっちだよ。

 ……とりあえず苦虫を噛み潰した顔しとくか。

 

「だってさ、ダスト。……ほんと、ダストにはもったいない子だよね」

「それはまぁ……認めざるをえないな。確かにこいつは俺みたいなチンピラにはもったいねぇくらいいい女だよ」

 

 ぼっちだし俺に対しては生意気もいいとこだし暴力的なとこもあるけど。それでもそんなことがどうでも良くなるくらいには、こいつは優しく強く美しい。

 

「ゆんゆんは私の大切な親友なんだからね。幸せにしてあげないと怒るよ」

「わーってるよ。……いや、どうすりゃこいつが幸せになるかとか全然想像つかねぇけど、そうするつもりはある」

 

 気持ちしかないってのは情けない話だが、昨日まで彼女いない歴=年齢の男だったんだから仕方ない。

 

「甲斐性のない男だよねダストって。……ゆんゆん、本当にこんなやつでいいの?」

 

 呆れ気味にリーン。

 

 

「いいんですよ。だって私は無駄にプライドはあるくせに、情けないことでも事実なら臆面なく言えるダストさんのこと好きですから」

 

 

 ………………………………

 

「ねぇ、ダスト。もしかしたらこの子って思った以上にあんたにベタ惚れなんじゃ……」

「……おう、俺も薄々そんな気はしてる」

 

 今朝のゆんゆんが言ってたことは確かに正しいのかもな。

 どんなに優先順位が低くても。

 どんなに普段の扱いが前と変わらず雑だとしても。

 これだけまっすぐに好意を示してくれるなら、それを疑うことが出来るはずはない。

 

「あれ!? もしかして今私恥ずかしいこと言っちゃいました!? なしです! 今のは聞かなかったことにしてください!」

「んふふー……そんなこと出来るはずないじゃん。このさいだからダスト、ゆんゆんの恥ずかしい話もっと聞かせないさいよ」

「おう、昨日のこいつは恥ずかしい台詞のオンパレードだったからな。一つくらいな教えてやんよ」

 

 それ以外は俺だけのものだから教えてやらねぇけど。

 

「一つでも教えたらダストさんの恥ずかしい台詞もバラしますからね! 絶対言わないでくださいよ!」

 

 からかいモードの俺とリーンに恥ずかしそうに必死で阻止しようとするゆんゆん。

 そんな感じで、いつもと変わらない……むしろいつもより騒がしい時間が夕暮れ時まで続いた。

 

 

 

 

「──さてと……俺はそろそろ帰るぜ? ジハードもそろそろ起きる時間だし。ゆんゆんはどうする? まだリーンと話しとくか?」

 

 いつまでもウィズさんに面倒見ててもらう訳にはいかないし、旦那が相談屋終わる前にはジハードを迎えに行きたい。俺はそろそろ抜けさせてもらおう。

 

「あ、私も帰ります。今日はまたお料理しようかなと思ってるんで」

「料理? んなもんギルドで食べて帰ってもいいし宿で頼んでもいいだろうに。物好きなやつだな」

 

 食材費が掛らないならともかく、頼むより多少安くなるくらいで料理する必要あんのか?

 

「……ダストさんにそういう女の子の機微とか分かるとは思ってないんでいいんですけどね。それに、そろそろ私達のパーティーもめぐみんたちみたいに拠点を持ってもいいと思うんですよ。そのためには節約できる所は節約しないと」

 

 拠点ねぇ……俺は今の何もしなくても飯が出てきたり洗濯も頼んだらしてくれる宿暮らしが気に入ってんだがな。

 

「ま、そのあたりはキースやテイラーも交えてそのうち話そうぜ。……じゃな、リーン。明日は冒険行ってクエストだからな寝坊すんじゃねぇぞ」

「それ、ダストさんにだけは言われたくないと思いますよ。……いえ、私と一緒の部屋になってからは寝坊することなくなったのは確かですけど。……それじゃ、リーンさん、また明日」

 

 軽口を叩きながら俺らはリーンの部屋を出て行く。そんな俺らをリーンも手を振りながら見送り──

 

「──ダスト!」

 

 その途中で大きな声で俺を呼び止めた。

 

「ん? どうしたリーン」

「えっと……その……まだ、あんたには言ってなかったよね。…………おめでとう。幸せになりなさいよ。絶対にさ」

「……………………おう」

 

 

 リーンの言葉にそんな気のない返事だけを返して、俺は先に行くゆんゆんの背中を追いかけた。

 

 

 

 

 

──ゆんゆん視点──

 

 

「ねぇ、ダストさん。知ってますか? 私って自分のことが嫌いだったんですよ?」

 

 夕暮れの街。昼と夜の狭間にあるほんの少しの間だけの景色を歩きながら、私は後ろを歩くダストさんにそう話しかける。

 

「いきなり何の話だよ。…………まぁ、なんとなく気づいてはいたけど」

 

 里の中で一人だけ違う自分が嫌いだった。

 輪に入れない引っ込み思案な自分が嫌いだった。

 人の顔色に怯えてばかりの自分が嫌いだった。

 

「だからきっと私はダストさんのこと嫌いで……どうしようもなく気になってしまったと思うんです。私と面白いくらいに真逆なのに、私と同じように自分が嫌いだったあなたが」

 

 だから私は生涯で初めて、友達になることを拒否した。私が欲しいものをいろいろ持ってるのに、私と同じように自分を嫌ってるダストさんのことが許せなくて。

 あの時の私がそこまで考えてたわけじゃないけど、今にして考えればそう私は感じていたんだと思う。

 

「…………別に俺は自分のこと嫌いじゃねぇよ」

「それは嘘ですよね。私がダストさんに告白してから何回自分のことをチンピラだって卑下しました? 何回自分なんかじゃ私と釣り合わないって思いました?」

 

 告白する前もそういう所はあった。ダストさんはいつだって自信満々だけど……同時に酷く自分を嫌っている。

 そうじゃなきゃダストさんほどの実力者が、ドラゴンについては誰よりも知っているダストさんがクーロンズヒュドラに殺されるはずがない。いくら慢心していたとしても、いくら腕が鈍っていたとしても、自分の命を勘定を入れていれば死ぬはずがない。

 つまりこの人はそれだけ自分のことを嫌っている。自分なんかいつ死んでもいいと。

 

「……だったらなんだってんだよ?」

「私は…………私は今の自分のことが好きです。好きになれました」

 

 今でも自分が嫌になることはある。未だに引っ込み思案なところはあるし、暴力的なところもあるし。自分の嫌な所を上げたらキリがない。

 たぶんそれは増えたり減ったりして一生かかってもなくならないと思う。

 

 それでも、私は自分のことが好きだ。

 

「だって…………こんな私を友達だって言ってくれる人がいるから。私の事を親友だって言ってくれる人がいるから。…………私のことを愛してるって言ってくれる人がいるから」

 

 だから私は自分のことが好きになれた。皆が好きだと言ってくれる自分のことを信じれた。

 

「……だから、私が自分のことを好きになれた理由の半分以上はダストさんのおかげです」

 

 この人が私に友達を作ろうと頑張ってくれたから。私の想いに応えてくれたから。

 

「…………、全然ちげぇよ。俺なんかがしたことなんて何も大したことじゃねぇ。全部お前が頑張ったからだよ」

「…………、まぁいいです。実際私のことはこの際どうでもいいですしね」

 

 ダストさんが自分のやったことを認めようと認めまいと私がやることは何も変わらないから。

 ダストさんがやってくれたことは私自身がちゃんと分かっていればそれでいい。

 

「ダストさん、私はあなたのお陰で自分のことが好きになれました。……だから今度は、私があなたにあなた自身を好きにさせます」

「……俺が俺のこと嫌いだったらお前も俺のこと嫌いになっちまうか?」

「いいえ、そんなことはないです。言いましたよね? 私はダストさんのいい所も悪い所も全部知った上で好きになったって。だから嫌いなままでも嫌いになんかなりません。ただ、好きになったらもっと好きになれると思います」

 

 それに…………

 

「どこかの素直じゃない可愛い人が、素直に好きだって言えるようになるには、それが必要ですから」

「? 何の話だ?」

「いえ、気にしないでください。いつかきっと分かる日が来ますから」

 

 それがどんな結末になるかは今の私には分からないけれど。

 ……たとえその結末で私が不幸になるとしても、今のまま終わらせるわけにはいかないから。

 

 

 本当の意味でこの人に選んでもらうためにも。私は……

 

 

「ということで決意表明はおしまいです。ハーちゃんを迎えに行った後は買い物して帰りますからね。荷物持ち手伝って下さいよ」

 

 いつの日かと同じように、私はダストさんの手を取って歩きだす。

 

「お、おい……あんまり引っ張るんじゃねぇよ。……てか、なんかお前に尻に敷かれてる感じがするんだが」

 

 ダストさんはあの日よりもどこか困惑した様子だけど……それでも笑ってついてきてくれる。

 

「あ、その言葉で思い出しました。ダストさん財布私に預けてくださいよ。私が管理するって話でしたよね?」

「あの話本気だったのかよ!?」

 

 

 

 

 さぁ、ここから始めよう。

 

 

 

 私の好きなこの人が自分自身を好きになれるように。

 

 私の好きなあの人が素直に好きだと言えるように。

 

 

 

 このチンピラ冒険者に更生を!

 

 

 




幕間終了です。次回から第二章が始まります。

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