どらごんたらしver.このすば   作:ろくでなしぼっち

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第2話:強いダストさん

「さてさて、どうしましょうか。収集する前にあなたの強さを測りたいんですが……ドラゴンと一緒に戦われたら勝ち目がないんですよね。その下位ドラゴンはドレイン能力と回復魔法を使えるという話ですから」

「……勝ち目がないなら何で襲って来たんだよ?」

 

 ダストさんと死魔の会話。戦いが始まろうとする雰囲気を感じながら、私はその様子を離れた場所から見守っていた。

 

「ああ、少し言い方を間違えましたか。力を測るのに適切な戦力がないだけで、あなたたちを殺して収集するだけなら私一人で事は済みます。……あなただってそれくらいは分かっているでしょう?」

「……さぁ、どうだろうな。俺とミネアは炎龍だって倒した。今はジハードだっているし、炎龍と同格のお前くらい簡単にどうにか出来るかもしれないぞ」

 

 確かに『死魔』が大精霊である『炎龍』と同格であるなら、それを倒したダストさんたちなら倒せそうな気がする。問題は『死魔』が収集した『レギオン』だけど……ハーちゃんの能力を考えれば相性は良い方じゃないだろうか。

 

 ……なのに、なんでダストさんはあんなに焦った表情をしているんだろう。

 

「確かにあの大精霊を相手にするなら私一人では分が悪いでしょうし、レギオンを駆使してもギリギリでしょうが……。まぁ、いいです。思ってもないことを言って強がる相手を言い負かすほど私は狭量ではありませんから」

 

 対して死魔はダストさんたちの実績と能力を知っている様子なのに気負った様子が欠片もない。本当に殺すだけならいつでも出来ると言った雰囲気だ。

 

「……よし、ではこうしましょうか」

「っ……!」

 

 刹那。瞬きをした瞬間に私は死魔の姿を見失う。刃物と刃物がぶつかり合う甲高い音が聞こえたと思ったら、いつの間にか死魔がダストさんとドラゴンたちの間に入り込んでいた。

 

「ふふふっ……流石ですね。巷で凄腕と称されている程度の騎士や冒険者では今ので真っ二つでしたよ」

「……嫌味かよ。お前の構想通りに分断されちまったってのに」

「いえいえ、本当に褒めているんですよ。死んでもいいという諦観の念に囚われながら勝ちの目を探す矛盾した意志含め、本当に好ましい。その強さとあなたのあり方は悪魔にとって魅力的過ぎる。バニル様が気にいるわけです」

 

 ぞわり、と怖気が走る。

 死魔の言葉や声色は穏やかで、傍目にはおかしいところはない。

 けれどダストさんに死魔が向けているその目は、私に『死魔』という悪魔が理解不能な存在だと分からせた。

 

「…………、サキュバスみたいな綺麗なねーちゃんならともかく、お前みたいな骸骨野郎に好まれても欠片も嬉しくねーな」

「おや、この姿が嫌ですか? 能力的にあってるからこの姿をしているだけで、私もバニル様同様にこの世界での姿を自由に変えられますよ? もちろん、あなたの望むような綺麗な女性の姿もとれます」

「え、マジで? だったら…………って、おわっ!? おいこら、ゆんゆん! この状況で『カースド・ライトニング』はシャレにならないからやめろ!」

「シャレにならないのはダストさんの方です! 真面目にやってください!」

 

 この状況で冗談言うとかダストさんは本当に……。…………と言うか冗談だよね? 本気だったら尚更悪いんだけど。

 

「……ってわけだ。俺の彼女様がお冠みたいだから姿変えるのはなしだ。ま、殺す相手が綺麗なねーちゃんってのもやりにくいしな」

 

 ……私の彼氏さんはどこまで本気で言ってるんだろう。

 

「ふふふっ……この状況でそこまで余裕を見せられたのは初めてですよ。先程より状況は悪くなっているというのに、先程よりも余裕があるように見える。『切り札』を使う覚悟でもしましたか?」

「逆だよ。死んでも使いたくなかった『切り札』を使わないでも死ななくて済みそうだと思ったから余裕見せてんだ」

 

 ダストさんの言う『切り札』。それが何か私は知っている。確かにそれを使えば万に一つも負けはないと思う。

 でも、どうしてダストさんはそれを使うことをあれほど忌避しているんだろうか。『死んでも使いたくなかった』という言葉は、きっとそのままの意味だ。たとえ自分が死ぬとしてもダストさんは『切り札』を使うことはないだろう。それを使うのはきっとリーンさんやハーちゃんとかダストさんが大切にしている存在を守るためだけだと思う。

 

 ……『切り札』のことはとりあえず置いとくにしても、なんでダストさんは余裕ができたんだろう? 死魔の言う通りダストさんとハーちゃんたちは分断されて一緒に戦えない状況なのに。見方を変えれば死魔を囲んでいるとも言えるけど、あの距離じゃダストさんの『竜言語魔法』による強化がハーちゃんたちにギリギリ掛けられない。強化なしじゃ下位ドラゴンであるハーちゃんと中位ドラゴンであるミネアさんじゃ大精霊の中でも上位な冬将軍・炎龍と同格の死魔を相手にするのは厳しいはずだ。

 

「ふむ……強がりではないようですね。嘘の匂いもしない。気が狂っている訳でもない。実に不思議だ」

「お前の話と、俺らを分断したこと。そして、分断してすぐに各個撃破しようとする訳でもない。この状況なら誰でもお前の思惑分かるからな」

 

 ……すみません。私は死魔の思惑分からないです。

 冷静に考えれば分かる気がするんだけど、見守ってるだけとは言え……見守ることしか出来ないからこそ、私は冷静になれる気がしない。

 

 

「私の思惑が分かってその態度ですか。なるほど、嫌な予感がしますね」

「だったら、今すぐ尻尾巻いて帰るか?」

「いえいえ、そんなことをするくらいなら今すぐドラゴンたちを殺してあなたを収集しますよ。……ふむ、焦りの感情が復活しましたね。顔色を変えないのは流石ですが」

「……ちっ、上位の悪魔はバニルの旦那ほどじゃないにしても考えをある程度読まれるから面倒くさいな」

 

 結局、ダストさんは余裕なんだろうか、それとも追い詰められてるんだろうか。死魔次第って感じだからやっぱり追い詰められてるのかな。

 

「……まぁ、いいです。ここで負けても相手はドラゴンナイト。『レギオン』を失うわけでもなし、せいぜい残機を一つ失うだけ。予定通り、あなたの力を試させてもらいますよ」

 

 その言葉の後に、死魔の影から死魔とは別の形をした『影』が実体化する。

 

 

 死魔の能力『レギオン』。殺した相手の魂を収集し、そのステータスやスキルをそのままに使役する。

 死魔の魔力によって実体化されてる彼らはたとえ倒されようとも、死魔が魔力を与えれば何度でも復活できる。

 その復活作業が戦闘中以外でも出来るため、ストックをフルにした死魔のレギオンの総体は死魔本来の魔力を大きく超えていた。

 

 そしてレギオンの一人ひとりが歴史に名を残すような騎士や冒険者、王族のような強者達で、その中には人間だけでなく魔王軍の幹部であったものすらいるという。

 

(……死魔は『レギオン』を一人ひとりぶつけてダストさんの能力を測るつもりなんだ)

 

 流石にこの状況になれば私にも死魔の思惑が見える。ダストさんたちを分断したのはハーちゃんの能力を使わせないため。ドレイン能力と回復能力の二つを持つハーちゃんは、死魔の『レギオン』の天敵だから。ドラゴンたちは自分で牽制して、ドラゴンの力を借りたダストさんの力を測る。それが死魔の思惑なんだろう。

 

(……でも、その状況のどこにダストさんが余裕になる余地があるんだろう?)

 

 死魔の思惑は読めても、ダストさんが何を考えてるかまでは私には分からなかった。

 

 

 

 

「なぁ、死魔。戦うのはいいんだけどよ、流石に森の中じゃ狭くねーか?」

 

 死魔のレギオン……魔法使いの女性かな? その実体化した影に向けて槍を構えながら、ダストさんは死魔にそう言う。

 

「今は狭いですが、すぐに広くなりますよ。そのために1番手としてそれをだしたんですから」

 

 死魔の言葉。それに応えるようにしてレギオンの女性が持つ影の杖が怪しい光を放つ。膨大な魔力が杖先に集まったかと思えば詠唱もなしにその魔力が魔法として解き放たれた。

 

「『魔法抵抗力増加』」

 

 その魔法……恐らくは『爆発魔法』を、ダストさんは後ろに飛び退りながら自分に『竜言語魔法』を掛け、同時に迫る魔法を槍で切り裂いた。

 

「『上位魔法』……本来は神や悪魔といった上位存在のみが使える魔法を人間が使う……本当にドラゴン使いという存在はイレギュラーですね」

「『竜言語魔法』のことを悪魔たちは『上位魔法』って呼んでんのか。確かに人間の魔力じゃどうやっても発動しない魔法だから人間じゃドラゴン使い専用みたいなもんだけどよ」

 

 『竜言語魔法』は竜の力を借りて使う魔法だ。冒険者でも覚えられるし、回復系以外の『竜言語魔法』ならアークウィザードでも教えられれば覚えられる。けれど覚えられるだけでそれを実際に発動させることが出来るのはドラゴン使いとドラゴンナイトだけだ。竜の魔力がなければ『竜言語魔法』は発動しない。死魔の話を信じるなら神や悪魔の魔力でも発動しそうだけど。

 

「……ってか、本当に広くなったな。自然破壊にも程が有るぞ」

 

 爆発魔法の影響でダストさんの周りに生えていたたくさんの木は粉々になってなくなっていた。

 

「その状況の中心にいてほぼ無傷というあなたは流石ですね」

 

 ……魔法抵抗力増加してるダストさん相手じゃ爆発魔法使ってもほぼ無傷なんだ。やっぱりドラゴンと一緒にいるダストさんは魔法使いにとって天敵だ。

 爆裂魔法ならドラゴンはともかく人間のダストさんなら魔法抵抗力増加してても粉々に出来るだろうけど。

 爆発魔法でもまともに当たれば無事に済まないはずだけど、あの人は槍持ってたら魔法ぶった切るなんてこと平気でするから怖い。おかげであの人と喧嘩する時に使う魔法は『カースド・ライトニング』が基本になってるし。

 …………それにしても切られはしないだけで高確率で避けられるからむかつくんだけど。

 

「ドラゴンと一緒にいる俺を魔法で殺したいなら爆裂魔法使えるやつを連れてくるんだな。その魔法使いも爆発魔法を詠唱なしで撃てるあたり英雄クラスなのは分かるが相性が悪すぎるぜ」

「さて、それを判断するのはまだ早いと思いますよ。『それ』の本気を見せるのは今からですから」

 

 影の魔法使いは先程と同じように詠唱なしで瞬間的に爆発魔法を発動させる。

 

「バカの一つ覚えかよ、それじゃ俺を倒せないって──っ!?」

 

 その()()()をさっきと同じように切り裂いたダストさんは切り裂いた先に迫っていた()()()に驚愕する。

 

「っ……ってぇな。その女魔法使い、爆発魔法の連発とか英雄クラスどころか伝説級じゃねーか」

 

 二撃目の直撃こそさけたものの、魔法を切り裂くことまではできなかったのか、ダストさんの体のあちこちには魔法による傷ができている。

 

「今のも直撃を避けますか。完全に不意を付けたと思ったのですが。……どうやら手加減はいらないようですね」

 

 そうして始まる爆発魔法の連発。止まることのない大破壊の連続は、森を破壊し尽くし、その中で倒れないただ一人に全て向かっていた。

 

「ちっ、『速度増加』『反応速度増加』『魔力容量増加』……ネタが分かってたらいくらでもやりようがあんだよ!」

 

 ダストさんは『竜言語魔法』による強化を自分にかけて一つ一つが一撃必殺の威力があるそれを切り裂き受け流して耐える。

 

 

(……爆発魔法の連発、あのレギオンはもしかして)

 

 まだ紅魔の学校にいた頃。爆発魔法を連発するアークウィザードがいたというのを教師から聞いた覚えがある。そのアークウィザードがどんな最後を迎えたのかは知らないけど、あのレギオンの女性はそのアークウィザードなんじゃないだろうか。

 そうじゃないにしても、伝説的と言われたそのアークウィザードと同等のことをあのレギオンの女性はやっている。

 

(死魔の『レギオン』が、そんな人達の集まりだというのなら)

 

 ダストさんがどんなに強いとしても、そんな集まりを相手に消耗戦をかけられたら勝てるはずがない。どうにかしてハーちゃんだけでもダストさんと一緒に戦えるようにしないと……。

 死魔とダストさんがした契約は私に死魔への攻撃をさせないことだし、それを守ってる限り向こうも私に攻撃はできない。契約のせいで出来ることは限られているけれど、契約があるこそ私にも出来ることがあるはずだ。

 

「どこへ行こうというのだ最近エロいことばかり考えてるぼっち娘よ。あれの戦いに於いて汝に出来ることなど何もないのだから大人しくここで見守っているがいい」

「べ、別にエッチなことばっかりは考えてませんよ!…………って、バニルさん? どうしてこんな所に」

 

 動こうとした所でいきなり掛けられた声にびっくりして振り向いてみれば、いつもと変わらない胡散臭い仮面をした大悪魔、バニルさんの姿があった。

 

「どうしてと言われても、あの同輩を追っていたとしか言い様がないのだが」

「追ってるって……もうバニルさんは魔王軍とは関係ないんですよね? そもそも、魔王軍も壊滅しましたし、なんで死魔を追ってるんですか?」

「魔王軍が壊滅したかどうかは置いておくが、我輩が魔王軍とは全く関係ないのは確かであるな。ゆえに我輩たちがあの悪魔を追っているのは魔王軍とは関係ない。あそこで声を上げて応援してる貧乏店主が願ったからである」

 

 そう言ってバニルさんが指差す方向には綺麗だけど儚げな印象を持つ女性、リッチーのウィズさんの姿があった。

 

 ……いつの間に来たんだろう。バニルさんはともかく、ウィズさんは結構大きな声を上げてダストさんを応援してるのに気づかなかったのが不思議だ。

 

「それだけ今の汝は視野が狭くなっているということだ。そんな状態ではたとえあのチンピラナイトと同じくらい強くても邪魔になるだけであろう」

 

 ……言い返したくても言い返せない。死魔の言葉とダストさんの私に対する態度は、私の中で今なおぐるぐると回り続けている。

 というか、ナチュラルに人の心の中読むのやめてもらえませんかね。

 

「じゃ、じゃあバニルさんとウィズさんが私の代わりにダストさんを助けてくれませんか? このままじゃ、流石のダストさんでも死んでしまいます」

 

 切り札を使えばそうはならないはずだけど、ダストさんはきっとそのつもりはない。死魔を追っていたという話だし、ウィズさんが応援しているということはバニルさんとウィズさんの目的は死魔を倒すということで間違いないはずだ。

 

「別にそうするのは構わぬが……その場合は汝の大切な使い魔とあのチンピラの相棒、ドラゴン2頭が死ぬことになるが良いのか?」

「ぁ…………」

 

 言われて気付く。今の状況はハーちゃんとミネアさんが人質になっているのも同じ状況なのだと。

 死魔がバニルさんとウィズさん相手にドラゴンが人質になると思ってるかどうかは分からないけど、もしもウィズさんやバニルさんが戦闘に参加する素振りを見せたら、真っ先にドラゴンたちを殺してダストさんを無力化させるはずだ。

 

「心配せずとも、あのチンピラは汝に心配されるほど弱くはない。……ほれ、話している間にレギオンを一つ倒したようだ」

 

 見てみれば、ダストさんの足元に爆発魔法使いの影の体が倒れている。

 

「……………………」

 

 ダストさんはその体をまじまじと見てると思ったら、屈んで影の女性の胸元に手をやって──

 

「……うん、悪くねーな。ゆんゆんほどじゃないけど」

 

 ──疑う余地もないくらい影の胸を揉んでいた。

 

 

「…………、バニルさん。あれ見て心配しなくていいってまだ言えます?」

 

 ひとしきり揉んで満足したのか、立ち上がったダストさんはまた油断なく槍を構えてなんだかキリッとした顔をしている。しているけど、さっきまでの行動見てるからアホにしか見えない。

 

「…………、まぁ、あのチンピラはアホで間抜けでバカな行動ばかりだが、強さだけは本物である。あれもあのろくでなしのチンピラなりの考えあっての行動ゆえ許してやるがよい」

 

 ……彼女の見てる前で敵の女性の胸を揉む考えの何を許せばいいんだろう。

 

 

 

「バニルー! ウィズー!…………はぁ、はぁ……。バニル、あんたね……人がせっかく付き合ってあげてるって言うのに置いていくとか何考えてるのよ」

 

 結局何も出来ずに。新しく呼び出されたレギオンとダストさんが戦っているのを見守っている私とバニルさんのもとに、息を切らした女性がやってくる。

 

 バニルさんとウィズさんの知り合いだろうか。二人のことを呼び捨てにしてるってことは結構親しい間柄なのかな。

 …………、というか、どこかで見た人な気もするんだけど、どこでだったかな。遠目だけど、こんな姿の綺麗な人を見た覚えがある。

 

「そんなことを我輩に言われても。文句をいうなら我輩ではなくあの呑気に応援している残念幹部に言うがよい。先に行ったのも残念リッチーなら、そもそもあの死神悪魔を倒そうなどと面倒なことを言い始めたのもあの残念店主だ」

 

 どれだけウィズさんのこと残念扱いするんですか。

 

「……あれがかつて魔王軍に恐れられた『氷の魔女』だってちょっと信じたくないんだけど」

「貴様は『氷の魔女』時代を知らぬからまだマシであろう。あれと死闘を繰り広げた我輩はもっと信じたくないものがあるぞ」

 

 ……まぁ、ダストさんを応援しているウィズさんはなんというか、アンデッドの王とか『氷の魔女』とかいうイメージは全然ないですね。見てて和むというか、ぽわぽわしてる。

 

「って……なによ。死魔の奴、あいつを狙ってんの?」

 

 謎の女性はダストさんのことも知ってるのか、死魔のレギオンと戦っているのがダストさんだと気づいて反応を見せる。

 

「なんだツンデレ娘よ。あのチンピラを倒すのは私とでも言うつもりか?」

「誰がツンデレよ、誰が。…………ボコボコにしてやりたいとは思うけど、今の私じゃ返り討ちにあうに決まってるし。あんたとウィズが協力してくれるなら話は別だけど」

「貴様には借りがあるし、からかえば面白いから匿っているが、あのチンピラに手を出すのであれば話は別である。……まぁ、それを覆すだけのものを提示できれば手を貸すこともあるやもしれぬが」

 

 …………なんだか凄い不穏な話をしてるんだけど。これ私が聞いてていい話なのかな。

 

「ところでバニル。その女は誰なの? あんたの知り合いみたいだけど」

 

 謎の女性はそう言って私のことを指差してくる。……むしろその質問は私がしたいです。

 

「この娘は我輩の友であるぼっちで、あのチンピラの恋人である」

「…………流石紅魔族。趣味が悪いにも程が有ると思うんだけど」

「そっちは失礼にも程が有ると思うんですけど! たとえ本当のことでも言ったらいけないことってあるんですよ!」

「汝も汝で我輩とチンピラに対して失礼なのだが」

 

 だって、バニルさんと友達でダストさんの恋人とか趣味が悪いって言われても言い返せないですし。

 

「でも……あれ? あいつの恋人ってあの普通っぽい魔法使いの子だと思ってたんだけど。この子なの?」

 

 普通っぽい魔法使い…………リーンさんのことかな?

 

「うむ。その娘があのチンピラの恋人であるのは間違いない」

「ふーん…………可愛い子だけど、あいつが選んだにしてはなんだか地味ね。あの魔法使いの子くらい普通なら逆にお似合いかなって思ったけど、この子はなんか中途半端というか……」

 

 謎の女性は私をマジマジと観察するように見てくる。

 

「それでもその娘は魔王討伐パーティーのアークウィザードである。人間の中でも中々の実力者と言えるであろう」

「魔王討伐パーティーのアークウィザードって…………もしかしてあの爆裂魔!?」

「…………。それは私じゃなくて私の親友です」

「…………。やっぱりあなた趣味悪いでしょ?」

 

 ……だから、初対面でそんなことズケズケ言わないでくださいよ。言い返せないじゃないですか。

 

 

 

「ま、あの爆裂魔じゃなければ実力者って言っても幹部クラスはないでしょ? 魔王城の生き残りの話にこういう子がいたって話は聞かなかったし」

 

 もしかしてこの人は魔王軍の関係者なんだろうか? バニルさんウィズさんとも繋がりがあるみたいだし。でも、魔王軍関係者で幹部だったバニルさんウィズさんを呼び捨てに出来るって……。

 

「ここで見守ってるだけってことはあいつに死魔との戦いじゃ邪魔になるって思われてるってことだろうし、幹部クラスに強いなら慎重派の死魔が一緒にいる所を襲うとも思えない」

「っ……」

 

 分かってはいることだけど、改めて口にされるときつい。

 

(…………言われなくても分かってますよ。私がダストさんの隣に立つには役者不足だって)

 

 最年少ドラゴンナイト。

 隣国の英雄。

 凄腕の槍使い。

 大物賞金首炎龍を倒し、魔王軍筆頭幹部、通称魔王の娘を退けた実力者。

 

 どんなに馬鹿でアホでスケベであろうと、あの人がバニルさんさえ認める実力者であることは痛いほど分かってる。

 

「ツンデレ娘よ、あの死神悪魔が慎重派というのは素直に頷けないのだが。あれは確かに臆病者であるが、同時に相手を下と見れば遊びすぎるタイプだ」

「確かにあいつに消耗戦仕掛けてる時点で慎重派って言うにはあれすぎるけど。……普通に考えれば、ドラゴン使いからドラゴン分断してドラゴンをいつでも殺せる実力あるなら余裕見せても問題ないからね」

 

 普通に考えればって……ダストさん相手だと問題があるってこと?

 

「あの……今ってダストさんがピンチなんですよね? 今の状況じゃ、どんなにダストさんが強くてもどこかで負けちゃうと思うんですけど」

 

 死魔のレギオンを相手にダストさんは善戦している様に見える。実際最初の魔法使いの後に出てきたレギオンも何体か既に倒していた。

 でも、倒す度にダストさんの傷は目に見えて増えていっているし、回復の出来ない状況じゃどこかで限界が来ることは目に見えている。

 

「……あなた、あいつの彼女だって言うのにあいつの強さを全然分かってないのね」

「分かってますよ。ダストさんが強いってのは痛いほど。でも、それとこれとは話が別じゃないですか」

「それが一緒の話なのよ。……ま、分からないならそのまま見守ってないさいな。今の状況が続くのはあいつにとって悪くない。むしろ、負ける寸前まで今の状況を続けることが出来たなら、あいつの勝ちは確実なんだから」

 

 今の状況?

 今の状況って、ダストさんが倒したレギオンの女性の胸をまた揉んでるような状況なんですけど。

 …………これを負けそうになる寸前まで見守らないといけないといけないのかぁ。

 

 

 むしろ今の状況が続けば私の心が色んな意味で負けそうだった。




ちなみに魔王のm……もとい謎の女性は黒髪ロングの碧眼をイメージしてます。

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