どらごんたらしver.このすば   作:ろくでなしぼっち

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第3話:竜の騎士

「っ……まだ、弾切れじゃないのか?」

「おや? さすがの最年少ドラゴンナイト様ももう限界ですか? 何か奥の手をがあるようでしたが、ただのブラフでしたか」

 

 もう何体のレギオンを倒したんだろう。ダストさんはかつて英雄や勇者と言われた騎士や冒険者たちの成れの果てを1対1を繰り返して倒していた。

 その戦いの中相性のいい魔法使い系の相手なら無傷で倒したこともあったけど、基本的には苦戦して戦う度に傷が増えていった。今では致命傷じゃないかと思えるような傷も遠目から見え、体力的にももう限界が近いはず。

 ……そんな状態でも女性型のレギオン倒したら毎回胸揉んでたダストさんは本当頭大丈夫なんだろうか。あの人真面目に不真面目過ぎませんかね。

 

(でも…………強い。強いのは分かってたけど、ここまで強いなんて)

 

 

 勝てないとは分かってた。差が大きいことも想像していた。でもこれだけの差があるなんて思っていなかった。

 

 どれだけ低く見積もっても私と同じかそれ以上に強いレギオンたち。私では1体倒すのがやっとな彼らをダストさんは一人で何体も倒してる。

 最年少ドラゴンナイト。火の大精霊撃破の経歴を私は甘く見すぎていたらしい。

 

 

「しっかし……あいつ、アクセルで戦ったときも思ったけど基本的には弱くなりすぎよね。初めて戦った時のあいつはもっと強かった覚えがあるんだけど。ステータス的にはそんなに差がないはずなのに底が見えないっていうか」

「それは貴様自体が経験を積んで強くなったというのもあるだろうがな。確かにあのチンピラは全盛期に比べれば腕が訛っているのだろう。今のあれではぼっち娘の使い魔抜きで火の大精霊には勝てまい」

 

 私がダストさんの戦いに圧倒されてるのに対して横で話してる二人は冷静に感想を言っている。流石は魔王より強いかもしれないとか言われてたバニルさん。私と同じ風景を見ていても見え方はぜんぜん違うらしい。

 そしてそんなバニルさんと同じような見え方をしているこの女の人は本当に何者なんだろう。ダストさんと何度か戦ったことがあるみたいだけど。

 

 

「しかし、流石ですね。私のレギオンをここまで削られたのは久しぶりです。人間相手では2度目ですよ。これで本当に切り札や奥の手を用意しているのでしたら恐ろしい。…………これは嫌味ではないですよ?」

 

 満身創痍のダストさんに向けて死魔はカラカラと笑ってそんなことを言う。嫌味じゃないと言いながらもここからダストさんが逆転するなんて露ほども思ってない様子だ。

 私もここからダストさんが勝つには『切り札』を使うしかないと思うんだけど、ダストさんが使おうとする様子は微塵もない。

 

「うるせーよ。こっちは立ってるのもきついんだからさっさと次を出せ。このままじゃ出血多量で死ぬなんて言うつまらない落ちになるぞ」

 

 死にかけてるはずなのになんであのチンピラさんはいつもと同じような軽口が叩けるんだろう。

 私の知らない奥の手か何かがあってそれはこの状況を打破できるようなものなんだろうか。

 

「そうですか、では私も『切り札』を出しましょうか。私のレギオンを半壊させた最強の槍使い。……あなたとどちらが強いか見物ですね」

 

 そう言って今までと同じように影から出てきたレギオン。でもその様子は今までとあまりにも違って……。

 

「……なんだよ、その槍」

 

 レギオンとして出てきた影の男性。初老に差し掛かろうとしている年齢だと伺えること以外は特に変わったところはない。

 

 でもその手に構えている槍は違った。

 ミツルギさんの持つ魔剣にも負けない秘められた膨大な魔力。そしてこの世全てを呪ってもまだ収まらないような深く濃い呪いがその槍には込められていた。

 

「ああ、やはり気になりますか。話すと少し長いのですが……まぁ、要点だけを話しましょう」

「……いいからさっさと話せ」

 

 さっきまでの軽口が嘘のような目の鋭さでダストさんは死魔を促す。

 

「このレギオンの老人なのですが、実はある国の元王様でしてね。若い頃は『神鎗グングニル』という神器を使って名を馳せた冒険者だったのですよ」

 

 ……神鎗グングニルを使っていた冒険者? 元国王? それって、魔王を倒した勇者は姫を娶る権利を得るという話の始まり、ベルゼルグ2代目国王のことなんじゃ……。

 

「それなのにこの老人は私が収集するときには神器を子どもたちに受け継がせ、ただの槍しか持っておらず私としては本当に残念だったのです。……神器と神器の補正なしで私のレギオンを半壊させた強さは嬉しい誤算でしたが」

 

 ……ベルゼルグ王家怖い。初代国王の聖剣の勇者様といい、そんな人たちの血がたくさん混じってるんだ。

 

「そんな最強の槍使いに相応しい武器をと思いましてね。神器に負けない槍を作って与えました。苦労して倒した上位ドラゴンの竜骨で柄を作り、牙と爪で穂を。倒すのよりも加工するのに苦労したものです。地獄の炎で柄は10年、穂は100年掛けて溶かす必要がありましたから」

「……それだけじゃ、そんな呪いはつかないはずだ。ドラゴン()()がそんなことで世界を呪うはずがねぇ」

「ええ、ですから神器に負けない魔力と呪い、そしてドラゴンの持つ固有スキルを槍に込めるためにドラゴンを片っ端から殺したのですよ。よく呪いが込められるように痛めつけて殺したり、ドラゴン同士で争わせて死にかけた所を殺したり。忌々しい下等なドラゴンたちが苦しみながら、そして私を呪いながら死んでいく姿は素晴らしかった。槍にこもったのは魔力と呪いだけで固有スキルがこもらなかったのは残念でしたが、まぁそれは高望みというものでしょう」

 

 酷い……。ドラゴンと悪魔たちの関係は知ってる。それがけして好意的な関係じゃないのはバニルさんの話で百も承知だ。でもだからと言って……。

 

「名付けて『竜呪の槍』。我ながら神々のおもちゃに負けないものが作れたと自負しておりますよ。……さて、お話はここまでにしましょう。あなたの底も見えてきましたし、そろそろ収集させてもらいますよ」

 

 死魔の言葉に槍使いのレギオンは槍を構えて、いつでもダストさんに襲いかかれるように立つ。その立ち姿には一部の隙きも見当たらず、構えた槍に込められた力は言うまでもない。

 

「バニルさん! 私行きます! このままじゃダストさんが……っ!」

 

 死ぬ。その言葉が口から出ることはなかったけど、その言葉による風景は何度追い払っても私の中から消えない。

 

「待つがよい、チンピラに惚れるとかありえないとか言ってたくせに自分からチンピラに告白したぼっち娘よ」

「へぇ……この子のほうがあいつに告白したんだ。少し意外ね」

「なんでこのタイミングでそんなことバラしますかね!?」

 

 わりとシリアスなシーンだったはずですけど!? あと謎の女の人も興味深そうにしないでください!

 

「さっきも言ったと思うが汝に出来ることなど何もない。今となっては我輩にもこのツンデレ娘にも、あそこで呑気に応援している残念リッチーにも何かする必要はない。あの悪魔は、ダストの……いや、『ライン=シェイカー』というドラゴン使いの逆鱗に触れたのだ。最高に痛快な見世物になる。……それを観客が混ぜ返すことなど興ざめというものだ」

「見世物ってそんな……」

 

 ダストさんが本気で怒っているのに、どうしてそんな風に……。

 

「勝負の決まってる戦いなんて見世物以外のなんでもないでしょうに。たとえやってる本人たちがどんなに本気だろうとね」

「…………え?」

 

 勝負が決まっている……? バニルさんとこの女の人の口ぶりだとダストさんが勝つという……?

 

「見ていなさいな。私が……魔王を継ぐ者がライバルとして認めた男の実力を。……あなたが選んだ男の本当の強さをね」

 

 

 

 

──ダスト視点──

 

「……悪いなミネア。少しだけお前を危険に晒しちまう」

 

 でも、お前も許せないよな。もう、我慢するのも限界だよな。

 

「ジハードは大人しくしてろよ? お前を暴れさせる余裕は悪いけどないんだ。…………心配すんな。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それで我慢してくれ。俺とミネアでお前の分までちゃんと暴れるからよ。

 

「何をぶつぶつと言っているのですか? 死を前にしてついに気が狂いましたか」

「お前の嗅覚は俺が狂ってるって感じてるのか? つまらないこと言ってんじゃねーよ」

 

 悪魔なら俺たちが今持ってる感情が何かなん て言うまでもないだろうに。

 

「……分かりませんね。何故にこの状況で怯えるでもなく自分を見失うでもなく、ただ冷静に怒れるのか」

「滅ぼす前にお前の敗因を教えといてやるよ」

 

 死魔の言葉を無視して俺は話を始める。

 

「一つ目はお前が人間をただの収集物だと下に見ていたこと」

 

 だから長い間狩られる側だった人間がその時間の中で死魔の弱点、その特性を推測しているなんて考えもしなかった。

 

「二つ目はドラゴン使いの特性を知ってか知らずか無視したこと。……奥の手の存在を感じながら些末な事だと気に止めなかった」

 

 だから手遅れになるまで手を打たなかった。いつでも俺らを殺せる力を持ちながらそのタイミングを逃した。

 

「そして何よりお前はドラゴンの誇りを汚した。……塵も残さないでこの世界から消え失せろ」

 

 だからこいつは絶対に倒す。この世界に存在するために必要な残機を全て潰してやる。

 

「……大言壮語も聞きあきましたね。そろそろ死んでください」

 

 構えていた槍使いのレギオンは死魔のその言葉を合図に俺に突っ込んでくる。

 

 

 最強の槍使い。死魔が切り札と言ったのに嘘はないのだろう。忌々しくも物悲しい槍を持ったそのレギオンの圧力は死魔に迫るものがある。もしも最初にこのレギオンが出てくれば炎龍を倒した頃の俺ならともかく今の俺じゃ勝負にならなかっただろう。

 それだけに死魔は今勝利を確信しているはずだ。俺の体はボロボロで普通のレギオンが出てきてもまともに戦えるような状態には見えないだろうから。

 ただ一つ、その確信を揺るがせるものがあるとしたら、この状況においても変わらず負けるなんて欠片も思っていない感情くらいか。

 

「ダストさんっっ!!!」

 

 迫るレギオンに俺が何もしてないように見えたんだろうか。ゆんゆんの悲痛な叫びが聞こえる。

 

(……心配すんな。この状況で俺は絶対に負けないからよ)

 

 というよりも負けられない。ゆんゆんはバニルの旦那やウィズさんがいるから安全だが、俺が負けたらミネアやジハードが殺されちまう。たとえ死んでも使いたくない切り札を使ってでも俺は負けられない。

 そして、今はもう切り札なしでも負けない。もう奥の手を披露する準備は全部終わっている。

 

 

 

「『ヒール』」

 

 

 

 詠唱も何もない回復魔法。プリーストの使うそれとは原理が違うその力で俺の傷は一気に治る。

 

「回復魔法……? まさかっ!」

「気付くのがおせーよ。……ミネア、行くぞ。ここから先はお前の舞台だ」

 

 俺の奥の手に気づいた死魔は観戦するのをやめてミネアとジハードを殺そうと動き始める。

 だが、遅い。死魔が気づいた瞬間にはもうそれは終わっている。

 

 

 

 

『グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!』

 

 

 ただでさえ巨大なミネアの体躯。それが膨れ上がるように一回り以上大きくなる。

 

「この魔力……上位ドラゴン並み…! やはり私のレギオンから魔力を奪っていたのですか!?」

 

 ミネアの爪を鎌で受け止めながら死魔は今の状況の原因に当たりをつける。

 

「それがドラゴン使いの能力だからな。契約したドラゴンの力を借りる……それは魔力だけの話じゃない。ブレス能力やその耐性、そして固有スキルだって含まれる」

 

 つまり、俺はやろうと思えば炎のブレスや雷のブレスを吐けるし、炎や雷の属性に耐性を持ってる。そしてジハードの使う二つの固有スキル。治癒能力とドレイン能力だって使おうと思えば使えるのだ。

 そして奪った魔力を、契約の繋がりを通してミネアへと送れば今の状況の出来上がりだ。

 

 

 …………と言うのは簡単だが、気づかれないように魔力を奪うのは骨だった。どうしても身体の接触が必要になるから戦闘中か戦闘が終わった後に槍じゃなく手でレギオンに触れないといけなかったし。そういう意味じゃ死魔の出したレギオンに女性型が多かったのは良かった。あれのお陰で違和感なく魔力を奪うこと出来たし。

 

 

「──なんてことをあのチンピラは考えておるのだが」

「それで倒したレギオンの胸を揉んでたんですね。普通に考えたら違和感ありまくりなんですけど。……いえ、ダストさんならやりそうって意味じゃ確かに違和感ないんですが」

「…………なんであなたはそんな奴と付き合ってんのよ」

 

 外野うるせーぞ。癒やしボイスで応援してくれてるウィズさん見習え。

 

 

「私が集めた情報の中では、あなたがそのドラゴンの固有能力を使ったというものはなかったのですがね。ドラゴン使いでも稀有な固有スキルであれば力を借りても使えないという話はよくありますから」

「一応俺は最年少でドラゴンナイトになったって実績があってな。……それに、普段から使ってたら奥の手なんて言わないだろうが」

 

 実際俺がこの二つの能力を同時に使ったのは魔王の娘がアクセルを襲った時と、俺とドラゴンたちだけでエンシェントドラゴンに挑まないといけなかったときくらいだ。

 ……というより、使わないと勝てない状況がその時くらいで他は使う必要がなかっただけだが。

 

「しかし解せませんね。確かにこの中位種のドラゴンは上位ドラゴン並の強さになった。しかしドラゴン使いの強化なしでは私の敵ではありません。……なぜ今ここで勝負に出たのです? ドラゴンを殺されればそこで全て終わりでしょう」

「それは今なおお前がミネアを殺しきれてない事実だけで説明する必要ない気がするがな」

 

 こいつの言うとおり、死魔の力は大精霊の中でも上位の冬将軍並み。上位ドラゴン並みと言えど、成り立て程度の力しかない今のミネアじゃすぐに殺されちまうだろう。

 

 だがそれは全力が出せればの話だ。

 

「人間はお前の弱点を長い間調べ推測していた。その弱点が正しいと確信が持てたから俺は勝負に出れたんだよ」

「……はて、私の弱点とはなんでしょう? 確信したと言いますが、その弱点が正しいという保証はないのでは?」

「この状況でとぼけても俺がやる事は変わらねーぞ。正しかろうが正しくなかろうが『死魔とレギオンは同時に戦えば全力を出せない』って確信して動いてるからな」

 

 それが長い間狩られる側だった人間が推測して出した答え。死魔とレギオンは同時に戦えば、それぞれ単体で戦った時と比べて能力が落ちる。

 

「……人間たちがそこまで推測しているのは意外でしたね。しかしまだ解せない。所詮は他人の推測。なぜそれで迷いなく動けるのか」

「俺だって他人から聞いた話だけで大切な相棒たちを危険な目に合わせるほど向こう見ずじゃねーよ」

 

 危険にあうのが自分だけなら迷わず動くかもしれないが、ミネアやジハードをそんなギャンブルに付き合わせる気はない。

 

「ならばなぜ?」

「簡単なことだ。お前がその推測を裏付けることを自分で証言してくれたからな」

「……私の発言の中に確信に足る言葉があったと?」

「おうよ。『炎龍を相手ならレギオンを駆使してもギリギリ』。……全力が出せるなら炎龍と同格のお前が魔王軍幹部クラスのレギオンと一緒に戦ってギリギリなんてことあるはずねーんだよ」

 

 特に今目の前にいる死魔の切り札のレギオン。槍と合わせれば死魔に近い圧力を感じた。こんなレギオンがいるなら炎龍を相手に終始優勢で戦えてもおかしくない。

 

「あなたにそう思わせるための罠かもしれませんよ?」

「ないな。お前はさっきまで俺らのことを舐めきってた。格下だと思ってるような相手に罠を仕掛けるような性格ならそもそも最初から力を測るなんて遊びしねーよ」

 

 罠ではなく誘い……希望をもたせた所で一気に絶望に落として悪感情を得ようとする可能性はあったかもしれないが。死魔が望むという悪感情はじわじわと追い詰められ絶望へと落ちていくものだと聞いてるし可能性は低い。

 そういったもの全部含めて罠だったとしたら大人しく負けを認めて切り札を呼んでいただろうな。

 

 

 

「バ、バニルさん。なんだかダストさんが頭良さそうなやり取りしてますよ? あれは本当にダストさんなんですか?」

「あれは普段馬鹿な行動かドラゴンバカな行動しかしておらぬが、頭の回転は悪くない。……と言うより汝はあの男のそういう所を人一倍見てきていると思うのだが」

「それはそうなんですけど。それ以上にダストさんの馬鹿な行動に付き合わされてるんで」

「……だから本当に何であなたはそんな奴と付き合ってるのよ」

 

 あの三人もうどっか行ってくれねーかな。人が真面目にやってるときくらい素直に応援しろよ。

 

 

 

 

「さてと……種明かしも済んだ事だしそろそろ本気で行かせてもらうぞ。『反応速度増加』」

 

 竜言語魔法が発動して俺の感じる世界が遅くなる。

 

(……流石は最強の槍使い。これだけじゃまだ足りねーか)

 

 この後の死魔との戦いを考えれば、今の俺の竜言語魔法がどれほどの効果をもたらすか見せたくはない。

 だがそんなことを考えていればこの槍使いには勝てない。反応速度を増加させて意識的な限界以上の速さで動く俺よりも、この槍使いは速く鋭い。

 

(……出来ればこんな姿になったあんたじゃなくて全盛期のあんたと戦いたかったかもな)

 

 死魔がミネアと戦っているためこの槍使いもまたその本来の力を発揮できていない。それになにより、レギオンたちはそのステータスと技術は生前のままだが、それ以外のもの……技術とはまた別の『凄み』とでも言うべきものが失われている。そうでなければジハードの能力を隠して今の俺がかつて英雄や勇者だと言われていた相手に連勝できるはずがない。

 

 

 同じ槍使いとして最強の槍使いだと伝説になっているこの人と本気で戦ってみたかった。

 

 

「──なんてことをあのチンピラは考えておるようだな」

「うわぁ……凄い似合わない。あいつが言うと決まらないにも程が有るわね」

「そうですか? 私はかっこいいと思いますよ。少しだけダストさんのこと惚れ直しちゃいました」

「……あなたやっぱり趣味悪いわね」

 

 

「もう本当お前らどっかいけよ!」

 

 特にバニルの旦那と何故か一緒にいる魔王の娘。ゆんゆんはまぁ……今ので許してやらないこともない。

 ……確かに俺も似合わないこと考えたとは思うけどよ。

 

 

 

「外野が煩いし一気に行かせてもらうぞ」

 

 気を取り直してこっから先は本気で全力だ。死魔との戦闘を想定して出し惜しみしてたらいつまで経ってもこの槍使いには勝てない。

 ……それに自分を強化するのを見せたくらいじゃ本命は想像できないからな。

 

「『速度増加』『筋力増加』『感覚器増加』」

 

 遅く感じていた世界。その中で自分の動きだけが元の感覚へと近づく。

 それと同時に自分の中で爆発しそうな力の奔流を感じた。

 

(……これなら行けるか)

 

 ここでもし確信に足る強化ができなければ切り札を呼んだだろうが……その必要はなさそうだ。

 

 

「…………え?」

 

 呆けた声を出したのはゆんゆんだろうか。後ろを向けばゆんゆんの面白い顔が見られるだろうにと思いながら、槍使いのレギオンを()()で倒した俺は死魔の元へと全力で駆ける。

ここが勝敗を分ける最後の分岐点。遊んでいる暇は一瞬たりともなかった。

 

「私の切り札を倒しましたか……では今なら」

 

 互角の戦いをしていたミネアと死魔。だが俺が槍使いのレギオンを倒してからはその形勢は大きく傾く。

 当然だろう、レギオンを操っていない死魔は炎龍や冬将軍並の実力を持った存在だ。さっきの俺が槍使いのレギオンを一撃で倒せたように、今の死魔もまたミネアを一撃で殺せるほどの力を持っている。

 だが……

 

「今ならミネアを殺せるってか?……残念だったな、もうお前に勝ち目はねーぞ」

 

 その一撃が決まる前に、俺はミネアの命を刈ろうとした大鎌を槍の穂で受け流し、死魔とミネアの間に立つ。

 

「…………、速すぎますね。あなた本当に人間ですか?」

「竜言語魔法はドラゴンの魔力を借りて使う魔法だ。ドラゴンの魔力が増えれば増えるほどその効果は増す。この程度の速さで驚いてんじゃねーよ」

 

 とかなんとか言ってるが実際はギリのギリ。速さだけを求めてかっこ悪い走り方までしてやっと間に合わせた。

 ……観客がいなけりゃ気にすることもないんだが、少しだけ恥ずかしい。

 

「心配せずとも汝の不格好な走りが見えたのは我輩とツンデレ娘とポンコツリッチーのみだ。ぼっち娘には見えてなかったゆえ安心するがよい」

 

 4人中3人見えてるとか何の慰めなんだよ旦那。いや、確かに1番見られたくない相手はゆんゆんだけどよ。

 

「大丈夫ですよダストさん! ダストさんがお酒飲みたさで私に土下座することに比べたら不格好な走りなんて全然恥ずかしくないですよ!」

 

 一理ある。一理あるけど全然慰めになってない。……まぁ、男の微妙なプライドなんてぼっち娘に分かるわけねーしいいけどよ。

 

 

「ま、いいさ。ここまでくりゃ後は消化試合だ。……ここから先、俺がどうするかは分かるよな? 止めたきゃ止めていいぞ」

 

 止められるものならな。

 

「『筋力増加』」

 

 メキメキと音を立てただでさえ大きくなっているミネアの身体が更に一回り以上大きくなる。

 

「どうした? 止めないのか? 『防御力増加』」

「あなたの言う通り、この状況ではもはや私に勝ち目はありません。でしたらあなたとあなたのドラゴンがどこまで強くなるのか確認しておこうかと」

 

 ……ここで負けても残機が1つ潰れるだけだと思ってやがるのか。実際アクアのねーちゃんじゃあるまいし、死魔の残機を一撃ですべて消し去ることは出来ないから間違っちゃいないんだが。

 

「『速度増加』。ま、それならそれでいいさ」

 

 邪魔されれば多少は面倒くさかったんだがな。まぁ、楽に勝ちがとれるならそれにこしたことはない。

 

「『ブレス威力増加』。……それじゃ行くかミネア。この舐め腐った悪魔にお前の強さを証明するぞ」

 

 ドラゴン使いと一緒に戦うドラゴンは最強。なぜそう言われているのかを教えてやろう。

 

 

 

──ゆんゆん視点──

 

「………………なんなんですか?…………あれ」

 

 自分の目の前で繰り広げられる風景に言葉を失いかけながら、私はどうにかそれだけを言葉にする。

 

「前に少しだけ話したことがあったか。ドラゴン使いと一緒に戦う上位ドラゴンは最強だと。……そう言われる所以があれだ」

 

 それはハーちゃんもまだ生まれてない頃の話だったろうか。確かにそんな話をバニルさんから聞いたことがある。……ドラゴン使いに強化された上位ドラゴンは文字通りの最強で悪魔と神々両方を同時に相手取れるほどに強いと。

 

 

 

 

「ははははは! 素晴らしい! 素晴らしい! どんなに強くてもそのブラックドラゴンのおまけにしかならないと思っていましたがまさか限界を超えて強化が出来るドラゴン使いとは!」

 

 笑いながら大鎌をミネアさんへ振り落とす死魔。その一撃をまともに受ければ恐らくバニルさんやウィズさんですら無事では済まない。それほどの魔力と鋭さを持った攻撃。それをミネアさんは避けようともせず皮膚で受ける。

 

「何を言ってるか分からねーよ。耳障りだからこれ以上喋るな」

 

 鈍い衝撃音の後。死魔の攻撃を受けたミネアさんを見るけど、その身には傷ひとつ見えない。そんなあり得ない状況を前にダストさんは表情一つ変えずに立っていた。

 

 

 

 

 

「っていうか、私も聞きたいんだけど。アクセルで戦ったとき、確かにあいつとあのドラゴンは死魔よりも強かったけど、死魔を圧倒できるほど強くなかったはずよ。なのに何よあれ……もしかしてあいつ私と戦ったときは手を抜いてたってこと?」

 

 謎の女の人……というより十中八九魔王の娘は、先ほどまでの様子と違って、驚愕と苛立ちを交ぜたような表情でそんな事を言っている。

 

「別に貴様とアクセルで戦った時に手を抜いていたわけではない。あの時のドラゴンバカは確かにそれが本気だったはずだ」

「本気? じゃあ、あれから数ヵ月しか経ってないのにあいつはこの世界の限界をあそこまで超えられるようになったってこと?」

「もとよりあれの才能と黒ロリトカゲのスキルを考えればきっかけさえあればいつでも限界を超えられるようになる可能性があった。きっかけ、つまりは大きく限界を超えた存在……忌々しいデカトカゲとの戦いを経験した結果だろう」

 

 

 なるほど限界かぁ……。

 

「あの……すみません、なんか真面目な話をしてるとこ悪いんですけど……世界の限界ってなんですか?」

 

 なんか二人ともそれが当たり前のように話してるけど。

 

「知らないならなんであなたふむふむ頷いてたのよ……。まぁ人間が世界の限界に届いたのなんてドラゴン使いかおじいち……おとぎ話の魔王になった勇者くらいだろうし、今、この世界で生まれたもので気づいてるのは魔王の血族くらいでしょうから知らなくて当然なんだけど」

 

 おとぎ話の魔王になった勇者。ずっと一人で戦い続け、少し戦うだけで強くなる不思議な力を持っていたという。

 

 ……どこか親近感を覚えるその勇者様が何故魔王になったのかは気になるけど、今はその話は関係ない。

 

「そう言っている貴様もおかしいと気づいただけで詳しいことは我輩に聞いたであろう。何を訳知り顔をしておるのだ」

「うるさいわね。上位ドラゴンがいないこの世界じゃドラゴン使いも強化が限界まで届かないし、おかしいと気づけるのが魔王の血族だけってのも間違ってないでしょ」

「まあ、間違ってはおらぬな。唯一限界へと届く可能性を持ったドラゴン使いはああして限界を大きく超えていることであるし。……ツンデレ娘よ、再戦を望んでおった相手にボロ負けして、そこからさらに力の差を大きくつけられる気持ちとはどんなものなのだ?」

「とりあえず今の気持ちはあんたの残機を100くらい減らしたいって気持ちだけど。……どうせ、倒したと思ったら倒せてませんでしたって悪感情絞られるオチになるからしないけど」

 

 ……バニルさんって誰に対してもこんな感じなのかぁ。…………魔王軍も大変だったんだろうなぁ。

 

 

「えっと…………それで結局世界の限界というのは?」

「もともとは我輩や駄女神のような存在が世界を滅ぼさないように作られた枷である。ある一定以上の力を制限する。ちょうど仮の姿で来ている我輩や()()()ポンコツリッチーがその限界点であるな。それ以上の力は強くなるほどに加速度的に制限される」

「なるほど……加速度的に…………って、え? 加速度的に制限されてあれなんですか?」

 

 今もダストさんに強化されたミネアさんが死魔を圧倒してるんだけど。死魔自身もバニルさんやウィズさんより一段階強そうだし、限界を超えた存在のはずだ。

 それを圧倒するって……。

 

「強化能力に対する制限は単純なステータス制限とは少し違うのだがな。それでも制限されているのは間違いない。そのうえであれだからこのツンツン魔物使いは先程から苛ついておるのだ」

「……別にもう苛ついてないわよ。どうせあいつに勝つには限界超えないといけないと思ってたし。そのハードルを一つ上げるだけよ」

「一つでは全然足らぬであろうがな」

「じゃあ三つくらい上げるわよ! あのドラゴン使いは絶対に私が倒すんだから!」

「やはりその台詞を言ったか。貴様には見通す力が使えないというのに言動が読めすぎて困るな。少しは我輩の想像を超えて赤字を作る貧乏店主を見習ったらどうだ?」

「本当に見習って店潰してやろうかしら……」

 

 

 …………倒すって、あのダストさんを? それはつまり、あの域まで追いつくってこと?

 

「あなた、想像もできないって顔してるわね。ま、紅魔族とはいえドラゴン使いでもないあなたがあそこまで強くなるなんて確かに無理でしょうね。可能性があるとしたらウィズみたいにリッチー化することくらいかしら」

「リッチー化……でも、それは…………」

 

 あのダストさんが本気で止めたことだ。私がリッチーで在り続けることは出来ないと。それを裏切ることは出来ない。

 

 

「なんにせよ、あなたさっさとあいつと別れたほうがいいわよ? あいつと一緒にいるにはあなたは()()()()()()()()。その力の差はきっとあなたを苦しめるから」

 

 

「空気読めない魔物娘よ。苦労してくっつけた二人を勝手に別れさせてもらっても困るのだが」

「誰が魔物娘よ。私は魔物使い……って、何? この子とあいつが別れたらあんた困るの? え? だったら全力で別れさせるんだけど」

「そんな事するのなら貴様は今日から家なき子になるが」

「ごめんなさい、魔王城を頭のおかしい爆裂魔に壊されて本当に行くところないのよ。散り散りになった魔王軍立て直すためにも今はお金の無駄遣いも出来ないし……」

 

 

(…………どうすればいいんだろう?)

 

 ダストさんと別れる。振られるならともかく、自分から別れるなんてこと、今の私にはもう考えられない。

 

 でも、きっと魔王の娘さんが言ったことも間違ってはいなくて、ダストさんとの力の差に私はきっとこれから苦しむ。

 それは今私がダストさんと死魔が戦ってるのを見守ることしか出来ないことからも想像できた。

 

 

 あの人のそばに……隣に立つためにはその力の差を埋めないといけない。

 どうやって埋めればいいかも分からないその絶望的な差を……。

 

 

 

 

 

「……なんて、絶望なんてしてる暇ないよね。はぁ……本当、ダストさんと一緒にいるって大変だなぁ」

 

 ろくでなしっぷりを更生させるだけでも大変なのに、その強さにも追いつかないといけないなんて。

 あっちの方でもダストさんが変態さん過ぎて頭痛いし……。

 

 本当、これから私は色んな意味で大変なことになりそうだ。

 

 

 

「…………ふーん、もう開き直ってるんだ。思ったより面白い子なのかしら?」

「そのぼっち娘はまだまだ未熟ではあるが、我輩が認める数少ない人間の一人である。……逆境における心の強さに限って言えば我輩が知る人間の中でも1、2を争うであろう」

「あんたがそんなに素直に他人を褒めてんの始めてみたわ。一番のお気に入りのウィズには愛情溢れすぎて捻くれてるし」

「あれに対する対応は捻くれているのではなく、真っ当な対応だと思うのだが…………むしろ、やられていることを考えれば優しすぎるであろう」

「はいはい、ツンデレツンデレ。…………ま、案外お似合いなのかもね」

 

 

 

 

 

「もう、満足しただろ? そろそろ終わらさせて貰うぞ」

 

 ミネアさんの横に立つダストさんは、四肢を失い横たわる死魔にそう宣言する。

 

「ええ、あなたの強さは十分に堪能させていただきました。実に素晴らしい。そう遠くない内にドラゴン共々必ず収集させていただきますよ」

「そう遠くない内に……ねぇ……。多分それは無理だと思うがな」

「ほぉ、それは何故?」

「お前が今日この世界にいるための残機を全て失うからだ」

「申し訳ないですが、あなたの次の一撃で残機をいくつか失ったとしても、全てを失うことにはならないでしょう。流石の私もこの形勢で同じ場所で復活するほど馬鹿ではありませんよ」

「だろうな」

 

 ? ダストさんは何を言ってるんだろう? 死魔を一撃で仕留められなくて、逃げられることも予想してるみたいなのに、それでも死魔が今日残機を全て失うことを確信してるように見える。

 

「本当はトドメを俺が……いや、ドラゴンたちにやらせたかったんだがな。そこは俺の実力不足だ仕方ねえ」

「? あなたは何を言って……」

「とりあえず残機を3つくらい減らすことで我慢しとくぜ。──ミネア、『ファイアブレス』だ」

 

 指示を受けミネアさんから吐かれるのは地獄の炎(インフェルノ)すら温く感じるような極熱の息。範囲はそこまで広くないけれど、広くないからこそ威力だけならめぐみんの爆裂魔法すら超えてそうだ。

 …………というか、私達がここにいるのダストさん忘れてません? 狙った方向違うし多少離れてるとはいえ凄く熱くてピリピリするんだけど。

 

「んー……手応え的に減らせた残機は二つってとこか。ま、炎龍クラスを相手にこんだけやれれば上出来だな」

 

 そんな炎を間近で放たせて、森を焦土にしたダストさんはそんな呑気なことを言ってる。

 さっきまでしてた死魔の禍々しい気配がなくなってるし、戦いが終わったと思って良さそうだ。

 

 

「ん? あなた、呑気にあいつのこと眺めてていいの? そろそろあいつ倒れると思うんだけど?」

「え? 倒れるってダストさんがですか? 別に怪我してる様子はないですよ?」

 

 『ヒール』を使って傷を直してからダストさんは負傷していない。倒れる要素はないと思うんだけど──

 

「──って、あれ?」

 

 そう思っていたダストさんの体がゆっくりと地面に近づいていく。

 

「ダストさん!」

 

 何があったかはわからないけど、ダストさんが倒れている。それに気づいた私はすぐに駆けつけようとして、

 

「あつっっっっ!」

 

 ……焦土に残った熱に思いっきり焼かれていた。

 

「…………はぁ。『フリーズ・ガスト』…………やっぱりあなたたち、お似合いかもね」

 

 

 この状況かつ呆れ顔で言われても全然嬉しくないんですけど。

 

 

 熱を中和してくれたことに感謝しながらも、この人のこと少し苦手かもしれないと私は思っていた。




次回:氷の魔女
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