どらごんたらしver.このすば   作:ろくでなしぼっち

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第5話:クエストの帰りに

「なぁ、ゆんゆん。少し相談があるんだがいいか?」

 

 クエストを終えた帰り道。今日も今日とてゆんゆんと一緒に高難易度のクエストを楽にクリアした俺は隣を歩くゆんゆんにそう話しかける。

 

「はい? グリフォンとの一騎打ちで疲れてるんで明日にでもして欲しいんですが…………ダストさんは後ろで応援してただけだから元気有り余ってるでしょうけど」

「そう言うなよ。俺は下級職の戦士だぜ? グリフォンやマンティコア相手にして戦ったら下手したら死んじまう」

 

 ヒュドラにぱくっと殺られた記憶もまだ新しい。

 

「だったらもう少し難易度低いクエスト選びましょうよ……」

「大丈夫だ。お前はこの街でも1、2を争う冒険者だ。グリフォンくらい一人でも余裕だろう」

「なぜでしょう……褒められてるはずなのにダストさんに言われるとイラッとくるんですが」

 

 もう少し人の言葉を素直に受け取れないのかこのぼっち娘は。人がせっかくおだてて利y……やる気出してもらおうとしてるってのに。

 

「一応言っとくが、お前がこの街で1、2を争う冒険者だって意見には何も嘘はねーぞ」

 

 冒険者に限らなきゃバニルの旦那やらウィズさんがいるし、俺の見立てじゃ最近よく見かけるイリスとか言ったロリっ子もこいつより強い気がする。

 それでも、冒険者という枠組みの中で見ればこいつは一番って言ってもいい実力者だ。……カズマパーティーはいろいろ判定しづらいから除外してるけど。

 

「そ、そうですか? そこまで言ってもらえるならダストさんに言われても少しだけ嬉しいですね」

 

 少しだけ恥ずかしそうにはにかむゆんゆん。……一言多いのは目をつむってやろう。

 その代わり明日もマンティコア討伐で頑張ってもらうが。

 

 

 

「それで相談なんだがな」

「あ、はい。相談ってなんですか? まさかこの間貸したお金もう使い切ったんですか? 一応言っておきますけど前のお金返してくれるまでは貸しませんよ?」

 

 …………どっかのまな板と同じようなこと言いやがって。

 

「流石にまだ全部は使い切ってねーよ。……今日リーンに金返す予定だからそれでなくなるけど」

「あの……? それってつまり、私から借りたお金でリーンさんにお金を返すつもりなんですか?」

「? だとしたらなんだよ」

「……いえ、ダストさんはダストさんなんだなぁと」

 

 なんでこいつは呆れたような顔してんだろう。俺が珍しく人に金を返そうとしてるってのに。

 

「ま、とにかく金の相談はまた今度だな。クエストの報酬も入るし一時は大丈夫だ」

 

 ゆんゆんがクエストを手伝ってくれてる間なら返す金以外で困ることはなさそうだし。

 

「じゃあ、なんですか? ダストさんが私に相談することなんてお金のことと女性のことしか思い浮かばないんですが」

 

 ……本当にこいつは俺のことなんだと思ってるんだろう。

 

「よく分かったな。俺がしたいのは確かに恋愛相談だ」

 

 まぁ、それで当たりなわけだが。……実際俺もこいつに相談することなんて金と女の事くらいしか思い浮かばないんだよな。

 

「はぁ…………つまりナンパもといマッチポンプするから手伝えって話ですか? 嫌ですよもう」

「恋愛相談って言っただけでなんでそんな話になんだ。…………あとその生ごみを見るような目はやめろ」

「この間、クエストだって言って騙してナンパの手伝いやらされたからじゃないですかね。…………相手の女性に警察呼ばれてお説教されたのはショックでした」

「……その件は正直悪かった。次はちゃんとうまくやるから安心しろ」

 

 ぼっちのこいつに絡み役をやらせたのが間違いだったんだよな。今度手伝わせる時はサクラとかやらせよう。

 

「反省! 謝罪はいりませんから反省してください! しかもなんで私が付き合う前提なんですか!?」

「そりゃ、親友だからだろ」

「ダストさんは親友なんかじゃありません! 友達の知り合いです!」

 

 ……あれ? 前より好感度下がってね?

 

「ふぅ…………それで? ナンパじゃなければなんですか? 女の子紹介しろって言われても紹介できるのはアクシズ教徒のプリーストくらいですよ」

「アクシズ教徒のプリーストねぇ……アクアの姉ちゃんといい留置所でよく会う女といい恋愛対象として見れる気は全くしねーからいらないな」

 

 どっちも見た目は文句なしなんだが…………まぁアクシズ教徒なんてどいつもこいつもそんな感じだから、ゆんゆんの紹介できるってプリーストも同じ感じだろう。

 

「失礼ですよダストさん。だいたいダストさんはちょっと年齢が離れてるだけで守備範囲外とか言ったり贅沢言い過ぎなんですよ。少しは身の程をわきまえないと本気で一生彼女出来ませんよ?」

「大きなお世話だよ毒舌ぼっち。…………というか最近お前の毒舌本気で酷くねーか?」

「ダストさんの口の悪さに比べたら可愛いものだと思いますけど」

 

 一理ある。

 

「それに、前にもいいましたけどここまで遠慮なく言えるのはダストさんくらいですから。他の人にはちゃんとしてますよ」

 

 まぁ、本当にそうなら別に問題ないんだけどな。こいつは無意識で毒はくことがあるから安心できない。

 

「なんですか? もしかして私の事心配してるんですか?」

「だとしたらなんだよ?」

 

 また大きなお世話ですとでも言うつもりじゃないだろうな。

 

「いえ、ちょっと意外だなって……。本当に心配してもらわなくて大丈夫ですよ。心配してくれてありがとうございます」

 

 …………急に素直になってんじゃねーよクソガキが。調子狂うだろうが。

 

 

「まぁ、別に心配とかはしてねーよ。これ以上毒舌酷くなったらダチが増えるどころか逃げ出すんじゃないかって思っただけで」

「私の感謝の気持ちを返してください」

 

 早とちりしたのはお前だからな。俺は謝らないぞ。

 

 

 

「って……待て。一体全体何の話してんだよ。恋愛相談だよ恋愛相談! お前の毒舌っぷりなんてどうでもいいっての」

「本当に私の感謝の気持ちを返してください。…………恋愛相談と言われても、ダストさんに紹介できる女の人はいないってことで結論出たじゃないですか」

「だからそれがそもそも違うんだよ。今日の俺は別に女の子紹介してくれって相談したわけじゃねーんだ」

 

 こいつがナンパだの女の子紹介だの早とちりしただけで。

 

「…………え? ナンパ手伝えとか女の子紹介しろとかいう話以外でダストさんが私に恋愛相談…………?」

 

 おう、気持ちは分からないでもないがその信じられないものを見る目はやめろ。

 

「俺もこんなことをお前に相談するのはどうかと思うんだがよ。他に相談できそうなやつがいねーんだよ」

 

 キースは論外。テイラーも恋愛事じゃ頼りにならない。リーンは……まぁ、置いとくとして。

 

「うーん…………一応真面目な話みたいですね。いいですよ、友達の知り合いとは言え知らない間柄じゃありません。相談を受けましょう」

 

 そこは普通にダチだと認めていい場面だと思うんだが。…………こいつ友達が欲しい欲しい言ってんのに本当俺のことはダチだと認めないな。爆裂娘やバニルの旦那は良くて俺はダメとか割りと謎なんだが。流石の俺もあの二人と比べたらまともな自信があるぞ。……いや、本当にあの二人よりかはまともだよな……?

 

「上から目線なのが気になるが、受けてくれてありがとよ。実はだな、最近夢を見るんだよ」

「夢……ですか?」

「ああ、同じ相手の夢ばかり見ててな…………もしかして俺はそいつのことが好きなんじゃないかと思ったんだ」

「同じ人の夢を見る…………なんだかダストさんらしくないロマンチックさですが……確かにそれは恋かもしれません」

 

 まぁサキュバスサービスでお願いしてんだから見るのは当たり前なんだがな。

 

「それで夢に出てくるという人はどんな人なんですか?」

「そうだな…………とりあえず胸とかは結構大きいな。ルナとかウィズさんよりは小さいけど」

 

 アクアのねーちゃんよりは大きいし、ララティーナお嬢様とだいたい同じくらいか。

 

「いきなり答えるのが胸の大きさとかさすがダストさんですね……」

「後は歳が17歳位で黒髪で赤い目をしてる」

「黒髪で赤い目ってことは紅魔族ですね。見た目はわかりましたけど性格はどんな感じなんですか?」

「生真面目で凶暴」

「……それって一緒に成り立つんですか? まぁ紅魔族は売られた喧嘩は買う主義の人多いですしそういう意味じゃ凶暴なのかもしれませんが」

 

 主義とか関係なく俺の知ってる紅魔族は全員凶暴だけどな。

 

「それでどうだ? 恋だと思うか?」

「これだけの情報で何を判断しろというのかわかりませんが…………とりあえず恋じゃないと思います」

 

 やけに自信満々に言い切るな。

 

「その心は?」

「よくよく考えたらダストさんの話なんですから単なる性欲でしょう」

 

 ………………なるほど。

 

「…………あれ? ここ俺怒らないといけない場面のはずなんだけど何で俺は納得しちまってるんだ?」

 

 何故か怒りの感情は起きず、むしろもやもやしたものが晴れた気分だ。

 

 

 

「……正直ダストさんのそういうチンピラらしい底の浅いところ嫌いじゃありません」

「おう、俺もゆんゆんのそういうぼっちになるのも納得な毒舌嫌いじゃないぜ?」

 

「…………………………」

「…………………………」

 

「『カースド・ライトニング』!」

「いっつもいっつも人をボコボコにしやがって! 今日こそ土の味わわせてやる!」

 

 晴れた気分を吹き飛ばし、しっかりと怒らせてくれたぼっち娘と、俺はいつものようにつかみ合いの喧嘩を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「――で? 約束してた時間からこんなに遅れちゃったと」

 

 リーンの泊まっている宿の部屋。金を返しに来た俺は、遅れた理由をちゃんと話したのに何故かジト目で見られていた。

 

「そうだよ。あの凶暴ぼっち、クエストの集合には遅れてくるわ、喧嘩売ってくるわで時間を無駄に消費させられたんだ。俺は悪くない」

 

 悪いのは全部ゆんゆんだ。

 

「まぁ、あんたが金返しに来るってだけでも天変地異なんだし、大幅に遅れてきたくらいはいっか。あんたが悪くないかどうかは置いといて」

 

 置いとくなよ。実際今回はそんなに俺は悪くないはずだぞ。

 

「とにかくだ。約束の時間には少しばかり遅れちまったが、借りてた金少しだが返すぜ」

 

 まぁ、俺が悪くないって言ってもこいつが素直に認めるとも思えないし。一応は金を借りてる身だからと言いたいことは飲み込む。

 

「ほいほい……ん、確かに10万エリス返してもらったよ」

 

 金を確認して受取るリーン。

 

「って言っても10万エリスじゃ全体の20分の1しか返せてないからね? ちゃんと残りも返してよ?」

「ケチケチしやがって。元はといえばお前が勝手に俺のヒュドラの討伐報酬をカズマたちにあげたから金を借りるはめになってんじゃねぇか」

 

 2000万という高額の報酬が入っていれば俺は今頃毎日昼夜問わずサキュバスサービスにかよい起きたらナンパを繰り返す日々を送っていただろう。

 

「そのままダストに入っててもすぐ使い込んでなくなってた気がするけどね」

 

 否定はしない。

 

「ま、残りもゆんゆんと高難易度クエストこなしてさっさと返してやるから待っとけよ」

 

 高難易度クエストをこなしていってる内にゆんゆんの俺に対する好感度が上がって友達以上親友未満くらいになれば200万エリスくらいならポンと貸してくれるはずだ。

 

「へー……あんたがまじめにクエストこなしてお金を返してくれるなんて思ってなかったよ。これもあの子のいい影響かな」

「おい、リーン。ゆんゆんはお前が思ってるようなやつじゃないぞ?」

 

 都合のいい勘違いはそのままにしといて都合の悪い勘違いは解いておくことにする。

 

「って言うと?」

「ゆんゆんはまず凶暴だ。こっちが少し下手に出ればすぐに殴りかかってくる」

「……あんたが下手に出ることなんて想像できないんだけど」

 

 金を借りてる相手には少しは優しくしてんだろ。お前含めて。ゆんゆんもクエスト手伝ってくれてるしかなり優しく接してやってるぞ。

 

「次にお前らはゆんゆんを孤高のアークウィザードだとでも思ってるのかもい知れないが、あいつはただのぼっちで友達いないだけだ」

「それは知ってる。……というか仮面の人やあんたがぼっちぼっち言ってるから知ってるんだけど」

 

 ……俺はともかく、旦那は流石に酷いよなぁ……公衆の面前で友達がほしいのかとか大声で言っちまうんだから。

 

「最後にあいつは夢のなかじゃエロい」

 

 17歳のゆんゆんは最高でした。

 

「夢ってなんの話よ。……最後はよく分かんないけど、殴られるのはあんたが悪いだろうし、人付き合いが苦手なのは可哀想だけど別にあの子が悪いってわけじゃないじゃん」

「んだよ、リーンもゆんゆんのこと少しは分かってるじゃないか」

「あの子があんたや仮面の人と付き合い始めてから良くも悪くも今までと違った噂が流れてくるようになったからねぇ…………ま、確かに孤高のアークウィザードって感じじゃないけど悪い子じゃないのは変わらないよ」

「人をいきなり殴ってくるのにか?」

「だからそれはあんたが悪いって」

 

 いや確かに俺が悪い場面もあったかもしれないが……ゆんゆんが短気だった場面も多い気がするんだが……。

 

「前にも言ったが……そんだけ分かってんならリーンがゆんゆんの友達になってやれよ。年も近いんだし」

「確かにあの子とはあんたの被害者同盟ってことで仲良くなれそうな気はするけど……」

「おい、どっちかというと俺はお前らの暴力の被害者なんだが」

 

 街中でぽんぽん魔法ぶつけてきやがって。俺やララティーナお嬢様じゃなけりゃ大惨事だってことこいつらは分かってんだろうか。

 

「寝言は寝て言って。……一回断ってるから今更友達っていうのも言いづらいのよね」

「ああ、あれか…………さすがの俺もドン引きだったしな」

「あれもあんたが悪いんだからね?」

 

 いや、あれだけは絶対俺は悪くない。なんでもかんでも俺のせいにしてんじゃねーぞ。

 

「……でも、ダストのくせになんであの子にはそんなに優しいわけ?…………もしかして好きとか?」

 

 何でもかんでも遠慮なしに言ってくるリーンにしては珍しく、少しだけ聞きづらそうに聞いてくる。

 ……こいつは一体全体何を考えてるんだろうか。()()()のことなんて欠片も好きじゃないくせに。

そもそも、ゆんゆんを好きだとか見当違いにも程が有る。俺があいつに絡んでやってる理由だってこいつはちゃんと知ってんだろうに。

 

「別に打算無しで優しくしてるわけでもないし17歳のゆんゆんならともかく14歳のクソガキを好きになるとかありえないんだがな……」

「17歳のゆんゆんって何よ」

「……ま、そんな打算とか抜きで俺が優しくしてるように見えるんならあいつが一時的とはいえ俺のパーティーメンバーだからだな」

 

 恩がある相手とパーティーメンバーにだけは優しくしようってのが俺のモットー(酷い目にあわせないとは言ってない)だ。

 ちなみにカズマとかバニルの旦那とか、俺が認めた相手には優しくするのはもちろん酷い目にもあわせない。

 ……認めた相手でもパーティーメンバーなら酷い目に合わせてもいいかなぁと思ったり、そのあたりは結構適当ではあるが。

 

「ふーん……ま、確かにあんたってパーティーメンバーを見捨てることだけはしないよね。カズマたちとのパーティー交換で初心者殺しに襲われても一人も見捨てなかったみたいだし。……そうでもなきゃあたしもテイラーもとっくの昔にパーティーから追放してるけど」

 

 …………あのことを思い出させんなよ。どんだけ苦労したと思ってんだ。

 

「後はまぁ……ゆんゆんには今回金を貸してもらったことだしその礼も兼ねて優しくしてんだよ」

「女に借りた金を女に借りて返すとか……クズにもほどがあると思うんだけど」

 

 生ごみを見るような目を俺に向けるリーン。

 ……あ、ゆんゆんが俺が金返すって聞いた時にした微妙な顔はこれが理由か。

 一つ女心を学んだ俺だった。

 

 

 

 

 

 

――ゆんゆん視点――

 

 

「バニルさんバニルさん。ちょっと見通してほしいことあるんですがいいですか?」

 

 ギルドの片隅。相談屋はもうすぐ店じまいなのか、ゆっくりと後片付けをしていると、友達に私は話しかける。

 

「心の中でまで友達言うのをどもるぼっち娘が我輩に相談とは珍しいな。まぁ友達であるからして特別料金の10万エリスで占ってやろう」

「ぼったくりにもほどがありますよ!?……払いますけど」

 

 友達で特別とまで言われたら仕方ない。

 

「(……このぼっち娘は爆裂娘や金髪のチンピラ以外には相変わらずチョロいのだな。……いやあの二人にもなんだかんだで利用されてるあたりチョロいのだが)」

「なにか言いましたか? バニルさん」

「いや、なんでもない。それで我輩に相談というのはそのトカゲの卵のことでよいか?」

「あ、はい。流石バニルさん話が早いです。このドラゴンの卵、このまま育ててたら何ドラゴンになるかなぁと気になりまして」

 

 私の手元にはダストさんから貰った卵。クエストの帰りに盗賊団のアジトに寄ってめぐみんから返してもらってそのままここに来た。

 私がアジトに行った時、卵はイリスちゃんが温めていて、起きてきたセシリーさんが私にも温めさせてと暴れているのをめぐみんが抑えていた。

 ……別に温めさせるだけなら問題ないのだけれど、セシリーさんに温めさせたらそのまま持ち逃げしてどこかに売ってきてしまいそうで怖い。多分めぐみんもそう思ってセシリーさんを抑えてたんだろう。

 クエストの帰りに冗談でセシリーさんをダストさんに紹介するとか言ったけど、実際問題あの二人はお似合いなんじゃないだろうか。自由すぎるというか……根っからの悪人ではないけれど悪人すら呆れさせるような頭の痛い行動ばかりしてるところとかそっくりだ。

 

「ふむ……卵を産んだのはブラックドラゴン、そしてその後魔力与えてるのはアークウィザードの汝か。このまま育てればブラックドラゴンが生まれるであろうな。どこぞの駄女神にでも魔力を与えさせればホワイトドラゴンになる可能性もあるが、アークウィザードである汝は無属性の魔力を与えるゆえ最初のブラックドラゴンの影響で種族は決まるであろう」

「えっと……めぐみんとかイリスちゃん、セシリーさんに長く温めてもらったらどうなるんでしょうか? あ、イリスちゃんとセシリーさんのことバニルさん知ってましたっけ?」

 

 イリスちゃんの名前を出した所でなんだか難しい顔をするバニルさん。

 

「別に見通す力を使えばその程度分かるから良いのだが。……汝は不幸の星の下にでも生まれておるのか?」

「一体全体何を見通しちゃったんですか!?」

「いや……まぁ、気づいてないのならそのままでいい。気づかなければきっと幸せでいれるであろう」

 

 その言い方だと私が何に気づいてないのか凄く気になっちゃうんですけど……。

 

「それで、爆裂娘と自称チリメンドンヤの娘と暴走プリーストが卵を温めた場合であったか。爆裂娘の場合は汝と変わらぬが、後の二人に温めさせればホワイトドラゴンが産まれる可能性が高いであろう」

「そうなんですか。んー……だったらイリスちゃんに温めてもらったほうがいいのかなぁ」

 

 イリスちゃんに温めてもらえばホワイトドラゴンになるって話なら、そうした方がいいのかもしれない。

 

「なんだ、汝はブラックドラゴンが生まれてくるのが嫌なのか?」

「はい。だってブラックドラゴンってなんだか凄く凶暴だって話じゃないですか」

 

 少しだけドラゴンについて調べたけど、ブラックドラゴンはその戦闘力とかは随一だけどその凶暴性凶悪性も随一だとか。

 

「凶暴さなどどこぞの自称駄女神に比べたら可愛いものである。まぁ、汝がホワイトドラゴンにしたいという気持ちも分からぬでもないが…………少なくとも盗賊団のアジトで温めさせるのはやめた方が良いであろう」

「え? 何でですか?」

 

 これからもダストさんとクエスト行かないといけない時はアジトでめぐみんかイリスちゃんに預けようと思ってたんだけど。

 

「我輩の見通す目によると、このままアジトで温めさせているとなんちゃってプリーストがやらかすと出た」

「さ、流石にセシリーさんも仲間のものを売り払ったりはしないですよね……?」

 

 いろいろとやらかす人ではあるけど、悪人ではないことを私は知っている。

 

「悪意はないのだがな…………とにかくやらかしてしまう可能性が恐ろしく高い。…………どんなやらかしをするか聞きたいか?」

「いえ……いいです」

 

 聞いても疲れるだけですし。実際に起きてないことでセシリーさんの評価を下げたくもない。…………というか、なんとなく想像つくし。

 

「まぁ、仮にブラックドラゴンが生まれてくるとしても、あのろくでなしのチンピラに任せればなんとでもなるであろう」

 

 ダストさんに任せたら売り払われそうで怖いんですけど。……というか、なんでダストさん? あの人なんかドラゴンに詳しいんだろうか。全然そんなイメージないんですけど。

 

「ふむ……ブレスに関しては汝の影響を受けているようだな。雷属性のブレスを吐くようだ。これはもう変わるまい」

「雷属性って…………私が関係してるんですか?」

「何を言っている『雷鳴轟く者』よ」

「なんでそれをバニルさんが知って…………って、そういう人でした!」

「悪魔だがな」

 

 にやりと笑うバニルさん。剥ぎ取っていいですかね、その仮面。

 

 

「それとバニルさん、お願いと聞きたいことがあるんですけどいいですか?」

 

 最初は聞きたいことだけだったけど、アジトで温められないとなるとお願いしないといけないこともある。

 

「言っておくが、卵を温めて欲しいというお願いはお断りである。我輩……というより悪魔は神の次にそのトカゲが嫌いゆえ」

「嫌いって……どうしてですか?」

 

 かっこいいのに。

 

「神々との幾度にも渡る戦争…………その決着がつかぬのはそのトカゲの上位種たちが幾度も邪魔してくるからである。神々と我々悪魔両方を相手取ってな」

「神々と悪魔両方を相手にって……上位種のドラゴンってそんなに強いんですか!?」

「キラキラした目で見るななんだかんだで紅魔族の血が流れている娘よ。上位種のトカゲ自体は今の我輩と同格かそれより落ちる程度であるし、地獄であれば我輩の方が断然強い。数も多いわけでないゆえ我々悪魔だけでも本来であれば十分対応できる。……我輩よりも長く生きているという龍帝ともなれば創造神や悪魔王をつれてこないと無理だろうが……そもそも今まで創造神や悪魔王が戦争に出た記録はないし龍帝もそういう存在がいるという噂だけだ。そうなるのは『聖戦』……神と悪魔の最終戦争が起きる時だけだろう」

 

 『聖戦』かぁ……私には想像もつかない戦いだけど、この子は大きくなったらそれに関われるくらい強くなるのかな?

 

「なんだか凄い壮大ですね。……でも、上位ドラゴンよりバニルさんたちのほうが強くて、ドラゴンの数も多くないのにどうして両方の勢力を相手取れるんですか?」

「それはだな、トカゲ共は卑怯にも人間を連れて我々の戦争を邪魔しに来るのだ」

「人間って…………流石にそんな人知を超えた戦争に人を連れて行っても役に立たないんじゃ……」

 

 勇者とか言われる人でもバニルさんに勝てる所は思い浮かばない。目の前にいるバニルさんでさえそうなのに、地獄にいるバニルさん本体に戦える人間なんて想像もつかない。

 

「そうか。汝はまだ知らぬか。ならば覚えておくがよい。『ドラゴン使い』そしてその上級職である『ドラゴンナイト』はトカゲ共の力を何倍にも高める。ドラゴン使いとともに戦う上位種のトカゲは文字通り最強だ」

「『ドラゴンナイト』? ドラゴンナイトってあのドラゴンナイトですか?」

 

 めぐみんたちがエルロードに行く前に探した、元貴族で凄腕の槍使いさんの職業で、イリスちゃん曰く超レア職業のドラゴンナイトなんだろうか。

 

「少なくとも他のドラゴンナイトを我輩は知らぬ。人の身でありながらトカゲを最強の存在へと昇華させ、自らもトカゲの力を宿しトカゲとともに戦う……上位種のトカゲと契約できるのであれば間違いなく最強の職業、それが『ドラゴンナイト』である」

 

 どういう職業かはイリスちゃんの話だけではよく分からなかったけど、バニルさんの話を聞く限り神魔の戦争を左右するくらい凄い職業らしい。

 そんな超レア職業に最年少でなって、その上隣国でも1番の槍の使い手って…………私達が探していた人は本当に凄い人だったみたいだ。もし見つけても流石に仲間になってもらうのは無理だったろうなぁ……。

 

「ところでバニルさん。なんだか凄そうな話なのに、バニルさんがトカゲトカゲ言ってるんで凄さがいまいち実感できないんですけど」

 

 やっぱりドラゴンって言って欲しい。

 

「そんなこと我輩に言われても……嫌いなものは嫌いなのだから仕方あるまい。あの自称駄女神とでさえドラゴン嫌いについては喧嘩しながら一晩語り合っても良いくらいだ」

 

 どんだけ嫌いなんですか。……というかアクアさんは自称女神ですけど、別に自分で駄女神とは自称してませんからね?

 

「……って、あれ? もしかしてアクアさんもドラゴン嫌いなんですか?」

 

 語り合ってもいいって。

 

「嫌い……というよりは、怖がっておると言ったほうが正しいやも知れぬがな。大戦を経験しておる悪魔や神々であればドラゴン使いとともにいる上位ドラゴンの強さはトラウマとして植え付けられておるゆえ」

「そうなんですか……」

 

 …………ん? あれ? なんだかバニルさんの話だとアクアさんが本当に女神だと言ってるような…………。

 いや…………流石にそれはないよね。何かの言い間違いか私の勘違いに決まってる。

 

 

「とにかくそのトカゲの卵は貧乏店主にでも温めさせるがいい。どうせ客の来ない店で暇してるか余計なことして借金増やしてるかのどっちかだ」

「まぁ、そういう理由なら仕方ないですね。ウィズさんに頼みます。それと聞きたいことなんですが……」

 

 私が盗賊団やダストさんとクエストに行くときはウィズさんにお願いすることにして、私はもう一つの話題へと移す。

 

「ふむ、何故あのろくでもない人でなしの穀潰しでどうしようもないチンピラゴミクズ冒険者がトカゲの卵などという高価で貴重なものを自分にくれたのか聞きたいのか」

「いえ……そこまで酷くは…………ありますけど。確かに聞きたいことはそれです」

 

 お金がないないと人にお酒をせびってくるダストさんがなぜ一つ数千万以上するドラゴンの卵をタダでくれたりしたのか。……クエストを手伝わされているが、どう考えてもその価値に見合った労力とは思えない。

 

「実はあのチンピラに相談を受けてな。『ゆんゆんが引きこもってるからどうにかして元気させたい』と。それで我輩はトカゲの卵をプレゼントしてやるといいと言ってやったのだ。そしたらあの男は世界最大のダンジョンに乗り込み見事トカゲの卵を手に入れてきた。……その後は汝の知っての通りである」

「そんな……この卵がそんなに苦労して手に入れたものだったなんて…………私なら普通の犬とか猫とか植物でよかったのに…………」

 

 こんなに高価なものを私のために苦労して手に入れてくれるなんて…………私はもしかしたらダストさんのことを勘違いしてたかもしれない。ダストさんの『親友』という言葉には嘘はなく本当に私のことを大切に思って――

 

「まぁ、実際プレゼントするのは何でも良かったのだが、あの男はトカゲの卵以外は全て汝にプレゼントする前に売っぱらってしまうのでな。理由があって売れないトカゲの卵しかプレゼントできるものがなかったのだ」

 

 ――るはずはないらしい。やっぱりダストさんはどうしようもないろくでなしのチンピラだ。

 

「極上の悪感情大変美味である。汝ら二人と一緒にいれば何もしなくても悪感情が味わえてありがたい」

 

 …………友達はやっぱり選んだほうがいいかもしれない

 


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