どらごんたらしver.このすば   作:ろくでなしぼっち
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第6話:ろくでなしなダストさん

「はぁぁぁ……全くジハード乗り心地は最高だせ」

「いいなぁ……私だってハーちゃんの背中にまだ乗ったことないのに……」

 

 アクセルの街。死魔と決着をつけ、一撃熊討伐の報酬を受け取った私たちはホームタウンへと戻ってきていた。

 毎日アクセルに戻るリーンさんたちとは違って、クエストを受けた街にそのまま泊まったりすることもある私たちだけど、流石に今のダストさんの状態ではクエストを受けるのは難しい。リーンさんたちへの説明もあるし、ゆっくりと休める住み慣れた街に戻る必要があった。

 

 それで、私が何を羨ましがっているかと言えば、まともに動けないダストさんがハーちゃんの背中に乗って運んでもらっていることだ。

 人を乗せて空を飛ぶのはまだ大変そうだけど、地面を歩くくらいなら平気なくらい大きく成長していて、ダストさんを背負う私が重そうだったのか竜化して代わってくれた。

 

「ま、心配しなくても背に乗せて空を飛ぶ初めてはちゃんとお前に譲ってやるから。それで我慢しろよ」

「むぅ……約束ですよ? それは本当に楽しみにしてるんですから」

「…………、おう。そうだよな、楽しみだよな」

「今ちょっともったいないなとか思いませんでした? ダメですよ? 絶対譲りませんからね」

「ちっ……ま、しょうがねえか。でも、二番目は俺が乗るからな。爆裂娘とかに譲るんじゃねえぞ」

「心配しなくてもそんなに拘ってるのダストさんと私くらいだから大丈夫ですって」

 

 本当、ダストさんはドラゴンバカなんだから…………ハーちゃんのことに限って言えば私も似たようなものだけど。

 

「でも、ダストさんってそんなにドラゴンバk……ドラゴン好きで困ったりしないんですか? 純血のドラゴンはともかく、ヒュドラとかワイバーンみたいな亜竜の討伐クエストは結構見かけますけど」

 

 アクセルじゃめったに見かけないけど、高レベル帯のモンスターが生息する地域の街じゃそういうクエストを結構見かける。ドラゴンバカのダストさんには受けづらいだろうし、受けられるクエストが制限されそうだけど。

 これまではそういうクエストを避けてくることができたけど、場合によってはそんなクエストしか残ってないという場合もあるはずだ。そんな場合にこれからどうするのかとか、騎士時代にどうしてたのかとかは結構気になった。

 

「んー……ぶっちゃけ亜竜はドラゴンって言っても、純血のドラゴンほど思い入れあるわけじゃねえしなあ。まぁ、普通の魔獣に比べたら確かに好きだが」

「え? そうなんですか? ダストさんのドラゴンバカって筋金入りだから、亜竜も大好きなものだとばかり……」

「ドラゴンバカってそんなに褒めんなよ」

 

 …………、ドラゴンバカってダストさんには褒め言葉なんだ。流石に失礼かなってわざわざ言い直してたのに……。

 

 

 

「なぁ、ゆんゆん。純血のドラゴンと亜竜の一番の違いがなにか分かるか?」

「違いですか? うーん…………強さとか?」

 

 クーロンズヒュドラみたいな規格外な亜竜はともかく、普通のヒュドラやワイバーンよりは純血のドラゴンが強いイメージがある。

 

「最終的な強さを比べるなら間違っちゃいないな。純血のドラゴンと亜竜の最大の違いはその可能性だから」

「可能性ですか?」

「かしこさって言ってもいいかもな。純血のドラゴンなら長い年月を経て人語を理解し、上位種になれば人化することも出来る。だが、亜竜がそうなることはない。……亜竜が人と理解し合い対等な関係を結ぶことはねえんだよ」

 

 一般的にハーちゃんみたいな規格外なドラゴンを除けば、純血のドラゴンは100年以上生きる、つまり中位種になれば人語を理解すると言われている。でも、同じように百年以上生きた中位種の亜竜……クーロンズヒュドラは賢くはあっても人の言葉を理解するほどではなかったように思う。

 

「強さだけなら亜竜でも強いドラゴンはいるんだ。大物賞金首だったクーロンズヒュドラや、たまに最上級の悪魔と一緒やってくる魔竜。神獣にも数えられている『青龍』。こいつらは並の上位種よりも強い亜竜だが、人化することはない。魔竜や青龍クラスになれば人語くらいは理解してそうではあるが、それだけだ」

 

 魔竜って……確かバニルさんの仮面の材料になったとか言ってたあの魔竜かな?

 青龍は宝島と言われる玄武と同格の扱いをされる神獣で、冬将軍のような最上位の大精霊とも互角に戦える存在だったはずだ。

 竜って言われてるし何か関係があるのかなとは思ってたけど、そっか、亜竜になるんだ。

 

「亜竜は可能性を選択して、無限の可能性を捨てたドラゴンだ。俺はドラゴンが大好きだが、その一番の理由は可能性があるからだ。年月を経てどこまでも強くなるという可能性。そして人と理解し合い対等な関係を結べる可能性。人語を理解してる存在なら敬意を払うだろうが、そうじゃない亜竜にまで首ったけになる理由はねえな」

「なるほど……ダストさんの言うことも分からないではないですね」

 

 ハーちゃんが生まれた時、ダストさんはハーちゃんのことを私の友達だと言った。純血のドラゴンにはそうなる可能性があるけど、亜竜にはそれがないとダストさんは言いたいんだろう。

 もちろん、亜竜でも人に慣れて飼いならされる例はいくらでもある。でも、それは他の魔獣たちが魔獣使いに従うのと変わらない。『友達』と言えるような対等な関係を結べるのはきっと純血のドラゴンだけなんだ。

 

「ああ、あと俺がドラゴン大好きな理由は空が飛べるってのもあったな。だから亜竜でもヒュドラよりワイバーンのほうが好きだな」

「ああ……それも分かりますね」

 

 空を飛ぶ感覚は本当に最高だから。そう言われれば私も飛べないヒュドラより飛べるワイバーンのほうが好きかもしれない。

 

「あとは、純血のドラゴンの討伐クエストだっけか。それもあんま困ったことねえんだよなぁ」

「困ったことないってどうしてですか?」

 

 亜竜にそこまで思い入れがないのは分かったけど、純血のドラゴンに対しては普通にドラゴンバカのはずだけど。

 

「倒す必要がない事がほとんどだからだよ。中位種以上のドラゴンなら話すれば大体分かってくれるし、下位種のドラゴンも俺が行けば敵意なくいう事聞いてくれるんだよ」

 

 …………、そう言えば最年少ドラゴンナイトの噂には生まれながらにドラゴンに愛されるとかそんなのあったっけ。

 その噂本当だったんだ。

 

「ドラゴンの素材集めて欲しいってのだったら困るが、冒険者ならともかく騎士の俺にそんなクエストは来なかったしな。冒険者になってからはずっとアクセルにいてドラゴン関係のクエストなんて殆ど見たことねえし、旅に出るようになってからはお前らが気を使ってかそういうクエストは受けてねえしな」

「なるほど…………じゃあ、もしかしてダストさんって純血のドラゴンを倒したことってないんですか?」

 

 そんな感じなら運良くドラゴンを倒すことを避けられてるのかもしれない。

 

「……いや、そういうわけでもない。騎士時代に何度かドラゴンを倒したことがある。……本能で人を襲ってるだけなら、まだ話ができたりするが、人を恨んでるドラゴンにはそれも難しい。人と争い、人に傷つけられ続けたドラゴンと和解すんのは俺にも出来たことねえんだ」

 

 それはきっと、人とドラゴン。その関係を間違えてしまった結果。私とハーちゃんが友達になれたり、ダストさんとミネアさんが家族で相棒になれたのとは反対に。けして解けることのない呪いのようなものなんだろう。

 

「でも、そういうドラゴンを倒すのに困ったことはやっぱりねえな。確かに悲しいってか辛い気持ちがねえって言ったら嘘になるが…………そういうドラゴンを倒すのを他人に任せたくもねえから」

「…………、やっぱり、ダストさんは筋金入りのドラゴンバカなんですね」

 

 本当に、この人はドラゴンに対してだけは優しすぎる。…………ほんの少しだけれど、バカにみたいな嫉妬を私がしてしまうくらいには。

 今の話でも今回の死魔との件でも。それを私は痛いくらいに実感していた。

 

 

 

 

「──っと、ギルドだな。俺はルナに報告してくるがゆんゆんはどうする?」

 

 そんな話をしている間に。いつの間にかギルドへとついていたらしい。ギルドの入り口でダストさんはそう聞いてくる。

 

「んと……じゃあギルドへの報告はダストさんに任せますね。リーンさんやテイラーさんの方へは私が報告してきます」

「あん? あいつらに報告する必要あるか?…………まさかお前あいつらに報酬分けろとかそんな事言うつもりじゃねえだろうな? そんなこと言ったら家出すんぞ」

「流石にそんな事は言いませんよ」

 

 今回の戦いで頑張ったのは私達のパーティーじゃダストさんだけだ。パーティーとは言え、それを分けるのは冒険者の道理に合わない。

 

「ふぅ…………なら、いいが」

「はい。それに今回の報酬の使いみちは決まってますしね」

「え?」

「前に言ったじゃないですか。そろそろ私達も拠点が必要だって。8億エリスあれば十分な家が作れると思いません?」

「…………えーっと、それは俺とお前、ジハードとかだけの家か?」

「もちろんリーンさんとかロリーサちゃんとかテイラーさんも一緒ですよ?」

 

 一応キースさんも。可能ならミネアさんとかも。

 

「……それ報酬をパーティーで分けるのと何も変わらなくねーか?」

「家主はダストさんになるからだいぶ変わると思いますよ?」

「そうか…………つまり、ゆんゆんやジハード以外からは家賃を貰ってもいいということか」

「あ、パーティーから家賃貰うとか恥ずかしすぎるんでそれはなしで」

「やっぱり変わらねえじゃねえかよ!」

 

 んー……大分違うと思うんだけどなぁ。ダストさんが稼いだお金で家を買う、もしくは建ててそこに無償で人を住まわせる。それだけで周りのダストさんを見る目は変わるはずだ。

 最年少ドラゴンナイトという実績を知られても、今のダストさんはその日暮らしのチンピラというイメージが抜けられていない。でも、一国一城の主となればそのイメージは一気に払拭される。

 

 その辺りを説明すれば…………してもダストさんは納得しないだろうなぁ。でもこれはダストさんを更生させる第一歩だし譲れない。

 

「というわけで私はその辺りもリーンさんと相談してきますから、ダストさんはギルドに報告したらこれで好きに飲み食いしててください。終わったら迎えに来ますから」

 

 一撃熊の群れの討伐報酬。その内私達の分である100万エリスを全部ダストさんへと預ける。ダストさんのことだから渡したら全部使っちゃうだろうけど…………今日だけは仕方ない。

 

「それじゃ、ハーちゃん。ダストさんのことよろしくね」

 

 戦えないダストさんのことをハーちゃんに任せて。私はリーンさんの泊まる宿へと向かった。

 

 

 

 

 

──ダスト視点──

 

「ったく……あいつ言いたいこと一方的に言っていなくなりやがった」

 

 無駄に重い袋を抱えながら俺はため息をつく。まぁ、あいつなりに俺のためにいろいろ考えてんのは分かるんだが……本気で俺を更生出来るって思ってんのかね。

 

「ま、その辺はどうでもいいか。ジハード、今日は金もあることだし思いっきり贅沢するぞ」

 

 どうせ俺はあいつのやることなら文句を言いながらも何だかんだで受け入れちまうだろうから。その結果俺が変わるかどうかはあいつの腕次第だ。だとしたら今深く考える必要なんてどこにもない。

 

 それよりも今は久しぶりに持った大金をどう使うかだ。

 

 

 

「──てわけだ、ルナ。さっさと賞金よこせ」

「何が──てわけだ、なのか全然わからないんですが……」

 

 さっさと賞金貰って酒場で飲み食いしたいというのに、受付にいるルナは苦笑いで要領を得ない。冒険者を始めて以来の中だってのに、俺への理解力足りてないんじゃねえか。

 

「賞金だよ賞金。大物賞金首の死魔を倒したからその賞金くれって言ってんだ」

「はぁ、死魔を倒したんですか。おめでとうございます………………って、死魔って四大賞金首の一角の死魔ですか!?」

「それ以外のどんな死魔がいんだよ」

 

 珍しく声をあげて驚くルナに俺は呆れた声を返す。四大賞金首って言っても炎龍に始まりデストロイヤーや魔王もこの街の冒険者が倒してんだからそんな驚くことねえだろうに。

 

「い、いえ……死魔は強さや危険性はともかく討伐難易度に関しては四大賞金首の中でも一番だったので信じられなくて……」

「そうかぁ? デストロイヤーのほうが無理ゲーだったと思うが」

 

 カズマパーティー(ダクネス除く)とウィズさんがいなけりゃどうやって倒すんだよって感じだったし。今の俺やドラゴンたちでも真正面から相対すんのは勘弁したい。ジハードの能力を考えればきちんと準備さえすれば倒すのも不可能じゃないだろうが……。

 

「死魔は神出鬼没で倒そうと準備している相手のところにはけして現れませんから。魔王城で勇者を待つ魔王はもちろん、移動して暴れまわっていたデストロイヤーや炎龍の方が討伐が現実的です。それに死魔は悪魔ですから残機は減らせても止めを刺すことは不可能だろうとギルドも諦めてたんですよ」

「あー……なるほど。たしかに俺も一人だったら逃げられてたか」

 

 確かに討伐難易度おかしいな、死魔。なんかウィズさんにけちょんけちょんにやられてて小物っぽいイメージになってたけど、強さだけは一応本物だったし。厄介さで言えば俺が戦ったやつの中でも一番かもしれない。

 

「その……ダストさんの強さは知ってますし疑ってるわけじゃないんですが、一応冒険者カードを見せてもらえますか?」

「ほれ、討伐モンスターのとこに死魔の名前あんだろ?」

「確かに…………本当に倒したんですね」

 

 あくまで地獄に送還しただけで死魔が死んだかと言われれば微妙なとこだが…………冒険者カードに乗ってるし一応討伐したってことでいいだろう。

 

「というわけだ。さっさと賞金よこせ賞金。もしくはその無駄にでかい胸を揉ませろ」

「ゆんゆんさんの言いつけますよ?」

「はっ、俺がそんな脅しに──」

「──リーンさんにも言いつけますよ?」

「…………冗談だよ冗談。今更お前みたいな行き遅れの胸になんて興味ねえよ」

 

 どちらか片方だけなら聞き流せるがあいつらがステレオで怒ってきたらめんどくせえからな……。

 

「……って、どうしたよルナ。いきなり遠い目をして」

「ふふっ…………どうせ私は行き遅れですよ。どうせこのままろくな出会いもなく枯れていく運命なんですよね」

 

 …………行き遅れ言われただけでどんだけダメージ受けてんだよ、引くわ。

 

「まぁ……なんだ。お前がそのまま行き遅れ続けたら旦那が貰ってくれるとか言ってたような気がしないでもないから、元気出せよ」

「ふっ……それはまではどっちにしろ独り身のままですか…………いいですよね恋人持ちは余裕があって」

 

 こいつめんどくせぇ……。いや、つい最近までは俺もルナと同じ立場だったから気持ち分かるんだが。

 

「なんでダストさんみたいなろくでなしに凄い美人な恋人ができて、私には出会いすらないんでしょう……。自分で言うのもなんですが、流石にダストさんよりは優良物件の自信が──」

「だーっ! とにかく賞金よこせ! でもって愚痴は旦那にしろ!」

 

 旦那ならお前の愚痴を喜んで聞くから。というか、恋人できた立場としてルナの愚痴を聞いてるとかなり気まずい。

 

「……最近、バニルさんに愚痴を言ってる間が一番心が休まるんですが、私はもうだめなんでしょうか。私の愚痴の半分はバニルさんが原因だとわかってるのに……」

「わかってるのにそれならお前はもうだめだよ」

 

 ……アクセルの街で比較的常識人だったルナはもういないのかもしれない。童貞もだが処女も拗らせるもんじゃねえな。

 

「はぁ…………、それで死魔の賞金でしたっけ? 申し訳ないんですが、流石に18億エリスとなるとギルドのプールしてる資金では足りないのでまた後日ですね。2、3日したら用意できると思うのでその時にまた来てください」

「おう、めちゃくちゃ申し訳なさそうじゃない上に適当な返答ありがとよ」

 

 もうちょいやる気出せよギルドの看板受付嬢。そんなんだと更に行き遅れるぞ。

 

「…………。こうしてみるとダストさんも性格にさえ目を瞑れば優良物件なんですよね。強さは言うまでもないですし、顔も真面目な顔をしていたら悪くない。実績もカズマさんに次ぐくらいで世界有数。万年金欠だけれど、たまに大きな賞金を稼ぐこともある。…………………………………………あの、ダストさん? やっぱり私の胸揉みますか?」

「おまえ、この間もそんな感じでカズマに迫ってたろ。思いつめてんのは分かるが、そんな事やってるとさらに婚期逃すぞ」

 

 カズマに相談されたんだからな。最近受付の美人なお姉さんの見る目が怖いって。

 

「じゃあ私にどうしろっていうんですか! 妥協に妥協を重ねてダストさんで我慢するって言ってるんですからもう責任とってくださいよ!」

「なあお前実は俺に喧嘩売ってんだろ? そうなんだろ?」

 

 というか、恋人持ちに迫るんじゃねえよ。

 

「…………やっぱり、これが恋人持ちの余裕ってやつですか。前のダストさんならきっと野獣のように襲ってきたでしょうに」

「やっぱお前俺に喧嘩売ってんな」

 

 いや、まぁ多分ルナの言う通りではあるんだろうが。…………こいつが行き遅れるのも分かるなぁ。

 

「とにかく、溜まった愚痴は旦那にしろ。で、お前も行き遅れって言っても見た目は悪くねえんだ。妥協してフリーのやつを普通に狙えばなんとかなるだろ」

「…………それでなんとかなるなら苦労しませんよ」

 

 ルナもそろそろ限界なのかもしれない。今度旦那にどうにかする方法ないか相談してみるか。

 …………ルナがここまで拗らせた原因の半分以上は旦那の気がするし、責任とってもらおう。

 

 うつろな目をするルナを前にして俺はそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

「──というわけでベル子酒だ酒。酒もってこい」

「……なにが、という訳なのか欠片も分からないですが…………とりあえず確認しますけどお金持ってます?」

 

 ルナを適当にあしらって──というか半分逃げてきて──ギルド内の酒場に来た俺は、いつものようにベル子に注文をする。

 

「持ってるぞー。多分百万エリスくらい入ってんじゃねえか」

 

 どんと、金の入った袋を見せつけるようにして机に置く。

 

「…………恋人に財布を管理されてるはずのダストさんが何故こんな大金を…………まさか恋人の目を結んで詐欺か何かを……?」

「なぁ、お前の中の俺の評価はどうなってんだ? あと、やっぱ俺の財布がゆんゆんに握られてんのはもうこの街の常識になってんのか」

「恋人できて多少まともになったみたいだけど、やっぱりどうしようもないろくでなしのチンピラ冒険者ですかね。私の国の元英雄ってのは極力考えないようにしてます。……ダストさんが恋人に思いっきり尻に敷かれてるというのは少なくとも飲食店では常識ですね」

 

 尻に敷かれてるつもりはねえんだけどなぁ…………ちょっと財布やクエストの報酬を管理されてるだけで。

 いや、まぁ、うん。そう言われてみれば確かに尻に敷かれてる気もするけど。

 

「まぁ、いいです。お金があるならお酒出してもいいですかね。クリムゾンビアでいいですか?」

「ま、最初はやっぱそれだよな。キンキンに冷えたの頼む」

「おつまみはいつもみたいにこっちで適当に作っていいですか? あと、一緒にいるドラゴンさんには?」

「つまみはいつもどおりで。で、ジハードには最高級のドラゴンフードを頼む」

「故郷ならともかくこの国で普通の酒場にドラゴンフードなんて置いてませんよ」

「その辺りベルゼルグは不便なんだよなぁ……そんなんだからドラゴン使いがほとんどこの国にはいねえんだよ」

 

 アイリスに今度あったら文句言ってやろう。

 ……そういや、特訓終わってからはアイリスに会ってねえな。レインにも会いたいし今度ベルゼルグの王都に遊びに行くのもいいな。

 

「ドラゴンは雑食ですし、別にドラゴンフードに拘る必要ないと思いますけど…………ドラゴンが好きそうな料理をこっちで適当に作りましょうか?」

「そうだな。ベル子なら大丈夫か。それで頼む」

 

 まぁ、最高級のドラゴンフードなら旦那の方から仕入れてるしいつも食べさせてるしな。たまには普通の料理食わせるのもいいか。

 栄養的にはやっぱドラゴンフードが一番なんだがないものは仕方ない。

 

 そもそも、ないのは当然知ってたし、ベル子を困らせたくて言っただけだしな。

 

 

 

「はい、クリムゾンビアと、カエルの唐揚げ。それとドラゴンさん用に一撃熊の手のスープです」

 

 注文してそれほど待たないうちに。ベル子はお盆に酒と料理を載せて器用に歩いてくる。流れるように置かれる酒は注文通りキンキンに冷えてるし、目の前に置かれる唐揚げもアツアツで美味そうだ。

 ただ一つだけ文句があるとしたら……

 

「……なぁ、ベル子。ジハードの飯がすげぇ美味そうなんだけど…………普通逆じゃね?」

「え? ダストさんってドラゴン狂いですし、ドラゴンのほうが豪華で正しいですよね?」

「おう、そこまで分かってんなら俺にも同じもの出そうって考えはねえの?」

 

 確かに俺的にはジハード優先で正しいんだが。ただ今回は金たくさんあるし俺にも美味しいもん食わせろよ。

 

「……正直、この一撃熊の手のスープはダストさんには勿体無いです」

「ああ、うん。考えた上でそれなのな。…………お前、そろそろそのガーターベルト脱がすぞ」

「恋人さんに言いつけますよ?」

「はっ……俺がその程度の脅しに屈するとでも──」

「──もうひとりの保護者にも言いつけますよ?」

「…………心配しなくても、本気でお前を害する気はねえって前に言っただろうが。冗談だよ冗談」

 

 くそぅ……ルナといい、こいつら俺の対処法学んでやがる。

 

「はぁ……まぁ、お金はあるみたいですし、そのスープも出しましょうか?」

「頼む……と言いたいとこだが、今の所は別にいい。今は酒飲みたい気分だ」

 

 つまみでお腹が膨れすぎんのも勿体ない。そういう意味じゃ唐揚げ単品がちょうどいいしな。

 

「それよか、ベル子。お前話し相手になってくれよ。ジハードは眠そうにしてるし、飯食ったら寝かしてやりたいからよ」

 

 ジハードが寝てる姿を肴に酒を飲む悪くはないが、それしたら俺も今日は寝ちまいそうだからな。せっかく久しぶりに思う存分酒が飲めるってのに、すぐに寝ちまうのは勿体無い。

 

「あの……私今仕事中なんですが? そこまで忙しくないとは言え一人のお客さんにつきっきりになるのは……」

「付き合ってくれたらチップで20万エリスやるぞ」

「店長ー! 私今日もう上がりますー!」

「…………おう、言った俺が言うのもなんだが即決すぎんだろ」

 

 店長らしき人物も人物で普通に認めてるし。

 

「出稼ぎ勤労者を舐めないでください。フィール家は没落気味でお金に困ってますから、仕送りするお金はいくらあっても足りないんです」

 

 普通に自分のお酒を別のウェイトレスに頼んで。向かいに座ったベル子はそんな事を言う。

 

「ふーん……フィールの姉ちゃん……って、これじゃ紛らわしいな。お前の姉ちゃんって今どうしてんだ?」

 

 ベル子の姉は俺が騎士だった時代に割と世話になった人物だ。男より男らしいと言うか、きれいな人だが全然女を感じさせない人物だったのを覚えている。

 ……いやまぁ、あの頃の俺はあんまり女とか意識してなかったのもあるんだろうが、それにしてもさっぱりしすぎてるというか。

 

「あ、今度結婚するって連絡がありました」

「え? あの男女な姉ちゃんが? 一体全体どんな物好きが……」

「男女って……いや、私もそう思いますけど…………。お相手は騎竜隊の隊長さんらしいですよ?」

「ふーん……騎竜隊の隊長ねぇ……ん? 騎竜隊の隊長? ……なぁ、ベル子。俺の記憶が正しければ騎竜隊の隊長って……」

「はい。セレス家の当主様ですね。ダストさん……もといライン様の兄弟子で育ての親の」

 

 セレスのおっちゃんかよ……いや、俺と一回り歳が違うとはいえ、まだまだ若かったしない話じゃないんだろうが。

 

(……ま、セレスのおっちゃんが行き遅れたのは俺みたいなコブがいたからだろうし、いなくなって幸せになれたんならそれでいいか)

 

 世話になった二人が一緒になって幸せになってくれるなら何も文句はない。

 

「それでその……ここからはダストさんに相談になるんですが……、お姉ちゃんの結婚式、ダストさんも参加できませんか?」

「……本気で言ってんのか? 俺はあの国じゃお尋ね者だ。無理に決まってんだろ」

 

 俺としてはあの国を見限って逃げ出したと思ってるが、あの国は姫さんを攫った罪人として俺を追放したことになってる。

 

「それは分かってるんですが、ライン様を見つけたと言ったらお姉ちゃんがどうしてもって。その……仮面とか被ればどうにかなりません?」

「まぁ、離れてから結構時間経ってるし無理じゃねえだろうが……」

 

 あの国を離れてから俺も大分成長している。仮面でも被れば確かに俺だと気づくやつはいないだろう。髪の色を魔法で黒色にでも変えれば仮面なしでも気づかれないかもしれない。

 

「じゃあ……」

「……悪いがパスだ。セレスのおっちゃんとフィールの姉ちゃんにはおめでとうと言っててくれ」

 

 それでも俺はあの国には帰りたくない。ずっと会いたくて、絶対に会いたくない──姫さんがいるあの国には。

 

「そうですか……いえ、私も無理なお願いだとは分かってましたし、仕方ないですね。ダストさんの言葉は私から伝えておきます」

「悪いな」

 

 でも、マジであの二人が結婚かぁ……どっちも結婚って言葉とは縁遠いと思ってただけに感無量ってか──

 

「……うし、二人の結婚祝いだ。思いっきり飲むぞベル子。今日は俺の奢りだからお前もじゃんじゃん飲め」

「え? いいんですか? 実は私飲んでみたかったお酒が──」

 

 ──飲みまくるしかねえな!

 

 

 

 

 

──ゆんゆん視点──

 

「すてぃーる! すてぃーる!」

「きゃーっ! きゃーっ! この、ゴミクズ男! いい加減放してください! ちょっ、本当に脱げちゃいますから!」

 

 ダストさんを迎えにギルドの酒場にやってきた私を待っていた光景。それは恋人がウェイトレスのガーターベルトを脱がそうとしてお盆で叩かれまくってる姿だった。

 

「いや……うん。お金を渡した時点で半分こうなるんじゃないかなって思ってたんだけどね」

 

 多少まともになったと言っても酒癖の悪さは全く変わってないし。飲みすぎたダストさんがこうなるのは想像ついていた。

 半分くらいは疲れて寝落ちしてる可能性も考えてたんだけど……残念ながら悪い方の想像があたってたらしい。

 

(……まぁ、悪い方の可能性を想像しても、今日くらいはダストさんに飲ませてあげたいと思っちゃった私の責任か)

 

 今日のダストさんは本当に頑張っていたから。命をかけて戦ったダストさんをできるだけ労ってあげたかったから仕方ない。

 

「それでも、迷惑かけてるダストさんはどうにかしないといけないんだけどね。……はぁ、ダストさーん? そろそろ帰りますよー?」

 

 私が来たのにも気づかず相変わらずガーターベルトを脱がそうと必死になってるダストさんに私はそう声を掛ける。

 

「んー? なんだよ、ゆんゆん。お前も俺のすてぃーるをくらいたいのかー?」

「ダストさんのそれは盗賊が使う『盗む(スティール)』じゃなくて山賊とかが使う『奪う(ロブ)』じゃないですかね……とにかく帰りますよ」

「いやだ! 俺はベル子のガーターベルトを盗んでセレスのおっちゃんにプレゼントするんだ!」

「ちょ、義兄に何をプレゼントしようとしてるんですか! そんなの見つかったら婚約破棄ものですよ!」

「あー……うん。ダストさんとフィーベルさんが何を言ってるのかは分かりませんけど、ダストさんがとんでもなくろくでもないことを言ってるのは分かりました」

 

 故郷が一緒らしい二人の会話は私にはよく分からないものだったけど。ダストさんが迷惑をかけているのは間違いなくて、その責任を取るのは恋人で悪友な私の役目だ。

 

「というわけで、『スリープ』…………ハーちゃんは起きて? 帰ろう?」

 

 ダストさんを魔法で眠らせ、その体を背負う。

 いつものダストさんなら魔法で簡単に眠らないけど、今日のダストさんは心底疲れてるし、お酒も入ってるからか簡単に眠った。

 騒動の中ぐっすりと眠っていた寝坊助ハーちゃんも連れて私は早々にギルドを出ることにする。

 

「えっと…………私の恋人がお騒がせしました」

 

 ぺこりと最後に頭を下げ。私は恋人と使い魔と一緒にギルドを後にした。

 

 

 

 

 

「うーん……すてぃーるぅ……すてぃ……んぅ……」

「はぁ……夢の中でまでガーターベルト脱がしてるんですか? ダストさん」

 

 後ろに背負うダストさんの寝言に私は大きくため息をつく。この調子じゃ朝まで何やっても起きないだろうなぁ。

 

「もう……帰ったら膝枕してくれるって約束だったのに……」

 

 眠らせたのは私だから自業自得って言ったら自業自得だけど。

 ……いや、あの状況じゃスリープ使うのが一番安全で確実だし、自業自得っていうのもなんか納得行かない。

 

「ん……姫さんいい加減にしてくれ……俺は姫さんの奴隷じゃないんだぞ……ぐぅ……」

「姫? 寝言かな? …………隣国のお姫様かぁ…………どんな人なのかな」

 

 ダストさんが英雄の地位を失うことになった原因の人。噂話ではダストさんの事が好きで、ダストさんもそれに応えて駆け落ちのような逃避行をしたってことだったけど…………ダストさん本人の様子や今の寝言からそんなどこまでもロマンチックな話ではないのは想像している。

 

(でも……ダストさんにとって大切な人なのは間違いないんだよね……)

 

 二人の間に恋心があったかどうかは分からない。でも、寝言で姫さんと呼ぶダストさんの声はとても幸せそうだったから。

 

「……本当に、ダストさんの恋人をするのは大変だなぁ」

 

 その強さに追いつかないといけない。

 そのろくでなしさを更生させないといけない。

 その変態さんぶりに慣れないといけない。

 

 そして、いつか、本当の意味で選んでもらわないといけない。

 リーンさんや姫様……選べなかった結果じゃなく、選んだ結果としていつか私を選んでほしいから。

 

 本当に、本当にダストさんの恋人は大変だ。それでも──

 

「んぅ……ゆんゆんー……あいしてるぞー……んんぅ……」

「くすっ……はい、私もダストさんのこと愛してますよ」

 

 

 ──この人のことが好きだから仕方ない。

 

 

 

 きっと私は今以上に苦労するだろうけど。それでも、その苦労を全部越えてみせる。

 

 ずれ落ちてきたダストさんを背負い直しながら。私はその決意を新たにしていた。



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