どらごんたらしver.このすば   作:ろくでなしぼっち
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第18話:旅の打ち上げ

──ダスト視点──

 

「うーん……アクセルも久しぶりですね。4か月ぶりくらいに帰ってきた気分です」

「そんなに時間経ってるわけねえだろ。2週間も経ってねえっての」

 

 アクセルの街。町の入り口について伸びをしているゆんゆんに俺はそうツッコむ。

 まぁ、俺もなんかすげぇ久しぶりな気分だけど。

 

「……で、一応今回のクエストはここで終了だが……この後どうする? レインから報酬は貰ってるしちょっとした打ち上げなら奢るぞ」

 

 紅魔の里でアイリスたちと別れた時にここにいるメンバーはそれぞれ報酬を受け取っている。

 俺は例によって報酬受け取れてないし実質奢るのはゆんゆんなわけだが。

 

「あ、私はお店の方に顔出したいんで。挨拶もしたいですしバイトのシフトとか決めてこないと」

「お前帰ってきてそうそうバイトのシフトいれるとか……いや、一時はクエスト受ける気はしねえし別にいいんだけどよ」

 

 それくらいには今回のクエストの報酬は良かったし、それくらいには今回のクエストは疲れた。

 ロリーサのバイトはサキュバスとしての糧を稼ぐ方法でもあるし、クエストがない間はバイトしていたいというなら止める理由はない。

 

「んー……私はラインがお姉ちゃんにどうしてもついて来てほしいって言うなら行こうかな?」

「誰がお姉ちゃんだ誰が。……ま、どうしてもとは言わねえが打ち上げは人が少ないと締まらねえからな。ミネアも来れるんだったらこいよ」

「私は人じゃなくてドラゴンだけどね?」

「そーだな。……アリスはどうする?」

 

 どうでもいい事に突っ込むミネアにため息を一つ返し、俺はその横にいるアリスに目を向ける。

 

「ん? なに? あんた私にも来てほしいの?」

「いや、来て欲しくはないが、この流れでお前だけくんなとは言えねえだろ」

 

 いや、こいつがいると気が休まらねぇし実際本当に来て欲しくないんだが。

 

「あんたが来て欲しくないって言うなら行くわ」

「…………、前言撤回。是非とも打ち上げに参加してくれアリス」

「そんなに来て欲しいなら仕方ないわね。行ってあげるわ。貸し一つね」

「………………。俺、こいつ、嫌い」

 

 なんなの? 俺に嫌がらせすんのが趣味なの?

 

「私はあんたのこと結構気に入ってるけどね。殺したいほど恨みがあるだけで」

「その台詞に喜べばいいのか怖がればいいのかどっちだ」

「嫌がってくれると私は嬉しいわね」

 

 あ、こいつマジで俺に嫌がらせすんのが趣味だ。

 

「はぁ…………好きにしてくれ」

「そう、じゃあ気が向いたら行くわ。どうせギルドの酒場でしょ? それじゃ、またね」

 

 そう言って適当に手を振ってすぐにいなくなるアリス。

 さっきまでのやり取りは何だったんだよ。あいつマジで好き勝手しすぎだろ。

 

「なぁ、ゆんゆん。あいつなんなの?」

「敵なんじゃないですか? 魔王の娘ですよね」

 

 そういやそうだった……。

 

「まぁいいや。あんな存在自体がアクシズ教徒並みに頭痛い奴のことなんて考えるだけ無駄だ」

「さ、流石にアクシズ教徒並は酷いんじゃ……」

「じゃあ紅魔族並に──」

「──やっぱりアクシズ教徒並でいいです」

 

 このぼっち娘もいい性格してきてんな。一体全体誰の影響なんだか。

 

 

 

「とりあえず、打ち上げの参加者は俺とゆんゆんとミネアだけか。ちっとばかし侘しいな」

 

 ま、ギルドいけば誰か飲んでるだろうしそいつを引っ張り込めばいいか。

 

「あ、すみません。ダストさん、私もめぐみんとリーンさんの所によってから参加でいいですか?」

「あん? んなもん別に明日でもいいだろうに」

 

 ただでさえ人がいないってのにゆんゆんまで抜けられると侘しいどころの話じゃねえぞ。

 

「ちょっと挨拶してくるだけですから。すぐに合流しますよ」

「はぁ……しゃーねえな。お前いなけりゃ金ないんだから絶対来いよ」

「ねえ、ライン? その台詞自分で言ってて悲しくならない?」

「そんな段階はとっくの昔に過ぎた」

 

 金を好きに使えないのは窮屈だが、なんだかんだでゆんゆんはごねれば財布開いてくれるしな。必要なものはもちろんクエスト真面目にやっときゃ娯楽系も許してくれる。

 問題はギャンブルが出来ないのとあの店を利用できないことくらいだ。まぁあの店はロリーサがいれば問題ないっちゃ問題ないし、実質不自由してるのはギャンブルのことくらいかもしれない。

 

「すっかり恋人ちゃんに尻に敷かれてるのね」

「金のことだけな!」

 

 それ以外は俺がちゃんと主導権を握ってる…………はずだ。

 

「お金のことだけねぇ…………そこの所どうなの? 恋人ちゃん」

「えーと…………半々のような……? 私生活は私が強いんですけど、冒険とかデートとか……あれの時とか……はダストさんが引っ張ってくれるんで」

「…………あー、うん。やっぱりラインもシェイカー家の血筋かぁ」

「おいこらミネア。お前今のゆんゆんのセリフで何を察した」

 

 ゆんゆんもゆんゆんで何を言わなくていいことまで言ってんだ。

 

「わ、私はもう行きますね!」

「あ、私も途中まで一緒に行きます! 参考にしたいんで()()()()聞かせてください」

「き、聞かせてって……ロリーサちゃんには恥じらいとかないの!?」

「サキュバスの私にそんなこと言われても…………あ、ダストさん、私も用事が終わって時間があったら合流しますね」

 

 顔を真っ赤にして駆け気味に歩いていくゆんゆんと、それを追いかけるロリーサ。

 恥ずかしがるくらいなら言わなきゃいいのにってか…………あいつは相変わらず一言多いというか不用意な発言が多いんだよな。

 

「…………、んだよ、ミネア。その何か言いたそうな顔は」

「んーん、別に? ただ、今回のことを含めて恋人ちゃんのこと少しはラインのパートナーとして認めていいのかなって」

「まだ認めてなかったのかよ……」

 

 まぁ、ゆんゆんのことを名前で呼んでないし、そんな気はしてたが。

 というか、認める理由の一つがおかしいだろ。

 

「だって、どうしても比べちゃうからね。自暴自棄になってたラインをシェイカー家のろくでなしに戻してくれたあの子と」

「…………だからあの人はそういう対象じゃねえって」

 

 感謝はしてるし恩人なのは間違いないが…………俺なんかが手を出していい相手でもなければ手に負える相手でもない。

 

「そ。……まぁお似合いなのかもね、ラインと恋人ちゃんも」

「一応そう思った理由も聞いとくか」

 

 なんとなくろくでもない理由な気がするが。

 

 

「だって似てるんだもの。ラインと恋人ちゃんの関係…………ラインの両親の関係にそっくりよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おいおい……誰だあの美少女』

『なんであんな美人がダストなんかと一緒にいるんだ?』

『誰かゆんゆんちゃんにチクってこいよ浮気だ浮気』

 

 ギルド。久しぶりに感じた騒がしい空気は、入ってきた俺たちに無遠慮な視線を向けてくる。と言っても俺に対する視線はついでみたいなもんで、集めてるのは間違いなくミネアだ。

 

「ねね、人間から見たら私って美少女? 美人なの?」

「お前が世界一綺麗なのなんて今更だろ。お前より綺麗なドラゴンなんて俺は知らないっての」

 

 それが人化してんだから美少女にくらいなるに決まってる。

 ちなみにジハードは世界一可愛いくてかっこいいドラゴンだ。

 

「…………、やっぱりシェイカー家の血筋ねぇ。普段ろくでなしでダメダメなのにドラゴンのことになるといきなりハイスペックになるんだから」

「褒めるならもっと普通に褒めろよ」

 

 別になんか褒められるようなことした覚えはないし、どうでもいいっちゃどうでもいいが。

 

 

「お、ちょうどいいな。あいつらもメシ食ってるみたいだしあそこ行こうぜ」

 

 そう言って俺はミネアを連れて酒場の方の一席に向かう。途中やっぱり荒くれな冒険者がミネアへの称賛やら俺への呪詛を呟いていたがスルー。

 

「よぉ、テイラー、ついでにキース。久しぶりだな」

「ダストか。その様子だと隣国へのクエストは無事に終わったようだな」

「ついでってなんだついでって。…………いや、そんなことよりこの綺麗な人が誰か早く紹介してほしいんだが」

 

 隣の席に着く俺にいつも通りのテイラーの返し。キースと言えば隣に座ったミネアに目に見えてドギマギしてやがる。

 

「紹介しろと言われても俺には綺麗な()なんて見当たらねぇし紹介しようがねえな」

「もう、ラインったらまた意地悪言って。えーと……キールさん?」

「キースです」

「あら、ごめんなさい。キースさんね覚えたわ。()()()()()()。私はミアって言うの。ラインのお姉ちゃんよ。テイラーさんもよろしくね」

「誰がお姉ちゃんだ誰が。確かに家族ではあるが。……ったく、お前も十分意地悪いっての」

 

 わざわざまた偽名使ってからかう気満々じゃねえか。ドラゴンの時を考えれば欠片もはじめましてじゃないっての。

 

「み、ミアさんって名前なんですか。容姿にぴったりな綺麗な名前ですね」

「ミア……なるほど、そういうことか」

 

 キースの奴分かりやすいくらい猫被ってやがんな。テイラーはこの様子だと気づいたか。

 

「(おい、テイラー。キースに教えてやらないでいいのか?)」

「(あいつの女癖の悪さはある意味お前以上だ。たまには痛い目を見るべきだろう)」

 

 テイラーがそう言うなら一先ずそんままにしとくか。ドラゴンハーフなんて存在がある以上、キースに全く可能性がないってわけでもないしな。

 0.00000000001パーセントくらいは多分可能性ある。

 

「それでダスト。クエストが終わりそのまま夕飯を食べに来たということでいいのか?」

「おう、クエストが終わったし軽く打ち上げがてらな」

「その割には人が少ないようだが…………ゆんゆんやロリーサはどうしたんだ?」

「あいつらは遅れてくるってよ。ゆんゆんは爆裂娘とリーンに挨拶してくるって。ロリーサは店に顔出してくるって話だ」

 

 キースがミネアに無駄なアピールをしてる間に俺はテイラーと打ち上げのことを軽く説明する。

 

「そういうことだったらリーンもこっちに誘っていた方が良かったか。疲れているようだったから先に帰したんだが……」

「別にいいだろ。ガキじゃあるまいしあいつの所には明日にでも顔出すさ」

 

 会おうと思えばいつでも会えるんだ。わざわざ急ぐこともない。

 

「そうか。……そんなこと言って実はリーンに会いたくない理由でもあるのではないか?」

「…………、別にねーよ」

 

 俺の右手の薬指に通される指輪に目をやりながら言うテイラーに俺はそう返す。

 別にこれは戦いに必要だからやっただけで、そういう理由で着けてるわけじゃない。そういう意味が一つもないと言えば嘘になるが、そうだとはっきり言えるものでもないのだから。

 …………左手の薬指に同じ指輪をつけるゆんゆんを見てリーンがどう思うか、それを想像できないわけでもないが、そんなことを気にするのは今更過ぎる話だ。

 

「そうか、なら俺が言うことでもないな。それじゃあ後からゆんゆんとジハード、ロリーサも来るということでいいか」

「あとはもしかしたらアリスも来るかもしれねえな」

「アリス? 聞かない名前だが……」

「あー……まぁ気にすんな。今回のクエストに付き合ってくれただけの赤の他人だ。今回きりだろうし、気のいい姉ちゃんとでも思っときゃ間違いない」

 

 来たとしてもあいつと飯を食うなんてこれが本当に最後だろう。旦那やウィズさんと深く付き合いのある俺やゆんゆんならともかく、テイラーたちがアリスと交わるなんてことは今後ないはずだ。

 そう考えればアリスが魔王の娘だとか説明する必要もない。アクセル防衛戦の時に軽く顔を見ているから説明しなくても気づく可能性もあるが…………常識的に考えれば駆け出し冒険者の街に魔王軍の実質トップがいるなんてあり得ないし、目の色も違うのも併せて他人の空似ってことで押し通せるだろう。

 

 …………。なんでこの街、魔王軍の筆頭幹部と魔王軍の元幹部が二人いるんだ?

 

「ふむ?……まぁ、よく分からないが、お前がそう言うならそう思っておこう。それより、他が後から来るなら注文をしたらどうだ? 俺とキースも追加が必要そうだ」

「それもそうだな」

 

 俺は忙しそうにしているウェイトレスに注文をしようと手を上げる。

 

「おーい、こっちに注文…………って、ベル子? お前もう働いてんのかよ」

 

 ウェイトレス姿でこっちにやってくるのは隣国で別れたベル子だ。テレポートで先に帰したし、俺らより二日近く早く帰ってるとはいえ、それでも早すぎる。ロリーサといい勤勉にも程があるだろ。

 

「はーい……あ、お兄ちゃんお帰りなさい。今日はここで食べていくんですか?」

「おう、今日はクエストの打ち上げ…………って、待て。お前今俺のことなんて呼んだ?」

「? どうかしましたか、お兄ちゃん」

 

 あー……聞き間違いじゃねえみたいだな。いや、確かにそんな呼び方した方がいいかとかそんな話もしたが、その後は普通に呼んでたのになんでこのタイミングで……。

 あと、何その笑顔。いつも俺に対しては冷たい表情してるベル子が満面の笑顔とか普通に怖いんだが……。

 

「おい、ダスト。これはどういうことだ。なんでフィーベルちゃんがお前のこと『お兄ちゃん』だなんて羨ましい呼び方を……」

「そんなもん俺が聞きたいっての」

 

 面倒くさいことにキースが耳ざとくベル子の呼び方を聞きつける。ミネアに熱上げて時間を無駄にしていればいいものを……。

 

「だってお兄ちゃん、私のことを妹みたいなものだ、だから『お兄ちゃん』と呼んでもいいぞって言ってくれましたよね?」

「言ったけど言ってねぇ! 前半は確かに言ったけど後半は欠片も言ってねぇ!」

「お兄ちゃんプレイかよ……うらやましいけどマジでやるとかドン引きだわ……」

「少なくとも妹みたいなものだとは言ったのか。…………最近は多少まともになっていると思ったのだがな。ギルドのウェイトレスにそんなナンパをするのは感心しない」

 

 やめろ! 俺と似たようなろくでなしのキースにはどう思われようがいいが、まともなテイラーに軽蔑の目を向けられるのは微妙にきつい!

 

「あ、分かった! お前ベル子、俺に落とされたの根に持ってんだろ!」

 

 だからこんなめんどくさい奴がいるタイミングでそんな呼び方してきたんだな!

 

「そんな…………、私、本当に嬉しかったんですよ? 私のこと妹みたいに思ってるから、いつだって助けてくれるって言ってくれたこと。それなのに、疑われるなんて……」

 

 そう言ってベル子はしくしく泣き始めるが、絶対に嘘泣きだ。こいつがこんな素直な奴なわけがない。

 

「ゆんゆんと付き合い始めたことも許せないってのにギルドの看板娘まで手を出すとか…………ダストマジで死なねーかなぁ……」

「ダスト。こうなったら責任取るしかないだろう。どこまで本当かは知らないが、少なくとも言ったことには責任を持つべきだ」

「あーもうめんどくせぇ!」

 

 ベル子の言い分全部信じてるキースも、嘘があると分かってながら真面目なこと言ってるテイラーも。ベル子の奴絶対こうなると分かって『お兄ちゃん』だなんて柄にもない呼び方したな。

 完全に嘘ならテイラーは味方してくれたんだろうが、言ってることの大部分は本当のことだから面倒この上ない。

 やっぱ嘘泣きで口元微妙に笑ってやがるし。

 

「分かった。空から落としたことは謝る。謝るからベル子、俺のことお兄ちゃん呼ぶのはやめろ」

「言葉だけなら何とでも言えますよね?」

うぜぇ……こいつ死ぬほどうぜぇ……

「何か言いましたか、お兄ちゃん」

「何も言ってねえよ。……そうだな、お前も一緒に旅したようなもんだしな。奢ってやるから打ち上げ参加していいぞ」

「やる? いいぞ?」

「奢らせていただきますので、打ち上げに参加して頂けますかベル子さん」

「最初からそう言えばいいんですよ、ダストさん」

「………………。俺、こいつ、嫌い」

 

 そんな俺の呟きなんて聞こえてないように、ベル子は普通にミネアの隣に座って他のウェイトレスを呼んでいる。

 

「……というわけだ、テイラー、ついでにキール。ベル子と俺は別になんもねえからな」

「そのようだな。なんとなくだが、どういう関係かは分かった。何もないと言えば語弊があるようだが、少なくとも浮気ではないようだ」

「誰がキールだ。俺はそんなダンジョンになってそうな名前じゃねえぞ。…………何もないって思いっきり仲の良さ見せつけといて何言ってんだよ、死ねよ」

 

 キース、仮にも仲間で悪友の俺に言いたい放題だな。多分俺がキースの立場だったら同じこと言うから別にいいけど。

 

「仲が良い……ねぇ。なぁ、ベル子。俺らって仲良いのか?」

「仲が良いかどうかは別にして、ダストさんのこと嫌いではなくなりましたよ。社会的に抹殺したいくらいに恨みはありますけど」

「それに俺は喜べばいいのか悲しめばいいのかどっちだ」

「ダストさんが私にやったことを考えれば泣いて喜ぶべきだと思いますよ? ガーターベルトを二度も脱がされたこと忘れてませんからね」

 

 …………、そう考えれば確かに喜ぶべきか。…………って、二度?

 

「その顔はやっぱり覚えてませんか……。ダストさんってやっぱりサイテー男ですよね」

 

 そう呆れた声で言うベル子は、けれどどこか楽しそうな笑顔だった。

 

 

 

 

「遅くなりましたー……ってあれ? アリス様はともかくゆんゆんさんもまだ来られてないんですね」

 

 最初に頼んだ品がちょうどきれいに空になったころ。のんびりした声で合流してきたのはロリーサだ。

 

「お前がゆんゆんより先だったか。どうする? お前は何を頼む?」

「じゃあダストさんの精気で」

「…………、お前実は全然こりてないだろ?」

「だって普通のご飯食べてもあんまり意味はないですし……」

 

 悪魔は普通の食事を取れないことはないが、精神生命体である悪魔にとってそれは本当の意味での食事にはなりえない。サキュバスは多少普通の食事からでも精気が取れるみたいだが、旦那みたいな生粋な悪魔は感情が餌だけに全くの無意味だ。

 だからロリーサが精気を貰いたいってのは理にかなってるんだが…………こいつはまたゆんゆんにほっぺた引っ張られたいんだろうか。

 

「大丈夫ですよ、ダストさん。ちゃんと机の下に隠れていただきますから」

「何が大丈夫なのか欠片も分かんねえよ」

 

 むしろ堂々とやるよりエロいっての。

 

「よく分からないけどダストが死ぬほど羨ましいやり取りをしてるのは分かったから死んでくれ」

「…………、そうだな。おいロリーサ、先にキースの精気を死ぬほど吸ってやれ」

「え? いいんですか? ダストさんじゃない相手にやったら本当に死んじゃいますよ?」

「死ぬほど羨ましいらしいからな。むしろ死んだら本望だろ」

「そうですか…………キースさんは私の大事なお客様だから殺したくはないんですが、ダストさんの命令なら仕方ありませんね……」

「あ、何かいやな予感がする……えっと……新人ちゃん? やっぱ全然羨ましくないからもう──」

「すみません、キースさん。真名契約でダストさんには逆らえないので……」

「──マジでもういいから! おい、ダスト! 俺が悪かったら新人ちゃん止めてくれ!」

「はぁ……ロリーサ、脅しはそこまででいいぞ」

 

 ったく、キースの口の悪さは本当どうしようもねえな。

 

「んー……ねぇライン。ロリーサへの精気って私からあげられないの? それなら恋人ちゃんも怒らなそうだけど」

「俺としてはそれで問題ないが……そこんとこどうなんだロリーサ」

 

 俺が無駄に精気が多いのもミネアと契約してその力の影響を受けたせいだ。そう考えれば俺以上にミネアは精気に溢れてるはずだ。

 

「極上の精気なのは間違いないと思うんですが…………多分純度が高すぎて普通のサキュバスには逆に毒ですね。クイーン様なら大丈夫でしょうけど。やっぱりダストさんくらいが理想です」

「いろいろ面倒くさいな。お前さっさとサキュバスクイーンになれよ」

「なれるんですかねー……ダストさんと真名契約してある程度強くなれたから分かるんですけど、あの方は本当に化け物です。()()で戦ったら男()を持ってて勝てる存在いるんですかねぇ……」

 

 そんなかよ。確かに俺が知ってる上位の夢魔も、あっちの本領で戦えば勝てる気全然しなかったが。

 

「とりあえず、精気に関してはゆんゆんさんがいつ来るか分からないんで今はいいです」

「そうか。ま、それが無難だわな」

 

 一つ安堵して俺はネロイドの口に運び、

 

「その代わり、ダストさんとゆんゆんさんの性の営みについて教えてください!」

「ぶーーっ!!」

 

 ロリーサの爆弾発言に思いっきり噴き出す。

 

「ちょっ……ライン、いきなり何するのよ」

「それはこのアホサキュバスに言え!」

 

 ネロイドを顔に吹きかけられたミネアが文句を言ってくるが、どう考えても俺は悪くない。

 

「だって、ゆんゆんさん聞いても教えてくれないんですよ? こうなったらダストさんに聞くしかないじゃないですか」

「ゆんゆんが教えないのは普通だし、他の奴がたくさんいるここで聞くのはおかしすぎるからな?」

 

 ロリーサがサキュバスで人と感覚が違うのは散々理解してたつもりだが甘かった。サキュバスであることを隠さなくなったらこうなるのか。

 

「むー……じゃあ、いつ教えてくれるんですか?」

「いや、なんで教える前提なんだよ……」

 

 流石の俺もそのあたりの事を他人に話したくはねえぞ。

 

 

「ていうか……え? ダスト、お前マジでゆんゆんとヤッってんの? そりゃキスくらいはしてると思ったが……」

「…………ノーコメントだ」

 

 そんなことこんな場所で言えるか。

 

「その反応マジか……。いや、マジでいつやってんだよ。ジハードちゃんが一緒に寝てるからそういうのはまだまだ先の話だと思ってたってのに。まさかジハードちゃんも一緒に……?」

「おいテイラー。いい加減キースを黙らせてくれ」

「そうだな。流石のダストもあんな小さな子に手を出すほど外道ではないだろう。ロリコンじゃないのだけがダストの美徳だ」

「お前もお前で失礼だなテイラー!」

 

 まぁ、キースみたいな変な勘繰りしないだけありがたいけど。

 俺にとっちゃジハードは娘みたいなもんだし手を出すなんてことは絶対にありえない事だからな。

 

「けどライン、その辺実際どうなの? ジハードがいるから寝るときは出来ないわよね?」

「お前も普通に聞いてくんじゃねえよ。……まぁ、そのあたりは旦那に相談してな。地獄の旦那の領土に行ってんだよ。地獄ってこの世界より時間の流れが速いみたいでな」

 

 そこで『リリス』っていう上位の夢魔に出会ったりしてる。

 時間がないなら時間を作ればいいじゃないっていう力技だが、おかげでその辺りの悩みは解消されていた。

 

「ふーん、あんた地獄に行ったことあるんだ。……あ、これ美味しそう、いただき」

「って、アリス!? お前いつの間に……ってか普通にひとの飯食ってんじゃねえよ! 食いたいなら自分で頼め!」

「んー、だって料理来るまでの時間待つの面倒じゃない? ちょっと顔出しに来ただけだし長居する気はないわよ?」

 

 そう言ってアリスは俺の飯だけじゃなくベル子やミネアの料理も適当につまんでいく。

 本当こいつやりたい放題だな。誰かこいつ牢屋に突っ込めよ。人類種最大の敵だし誰も文句言わないだろ。

 

「それより、あんたが地獄に行ったことあるって本当? なら私も行ってみたいんだけど」

「まぁ行ったことあるのは本当だが…………旦那に言えばいいだろ」

 

 俺も旦那に頼んで行けるようになってるだけだし。

 

「あいつが私の頼みを素直に聞くわけないじゃない。ま、別に急いでるってわけじゃないし、一応頭の中に入れときなさいな。あんたは私に『借り』がたくさんあるんだからね」

「旦那みたいなこと言いやがって……」

 

 仕方ない事が多かったとはいえ、こいつに借り作ったのはやっぱ怖えな。何をさせられることか。

 

「ん、美味しかった。じゃね、ラインとその他。()()会いましょ」

 

 言いたいこと言って。食べたいものだけ食べて。アリスは本当に何の後ろめたさもなくいなくなる。

 敵とは言え一応は一緒に旅した仲だってのに、少しは付き合おうって気はねえのかね。

 

 …………いや、あいつに来てほしくはなかったから、さっさといなくなってくれて俺は嬉しいんだが一般論的に。

 

 

「……おい、ダスト。あの美人な紅魔族?とも知り合いか?」

「知り合いというか…………赤の他人だよ」

 

 というか不倶戴天の敵なはずなんだよなぁ……。なんであいつ普通に俺の周りに出没するんだ。

 

「今のがダストの言ってたアリスさんか。…………どこかで見たような気がするな」

「気にすんなってテイラー。どうせもう会うことない奴だ」

「そうか。……まぁ、そうだな。きっと気のせいだろう」

 

 というか、あいつの存在は頭痛の種にしかならないからな。セシリー並みに存在を忘れてるくらいがちょうどいい。

 

 

 

「遅くなってすみません。思ったよりも時間がかかってしまいました」

 

 アリスがいなくなってから頼んだ料理が半分くらいなくなった頃になって。やっとゆんゆんが合流する。

 

「本当遅かったな。なんかあったのか?」

「えと…………いえ、ダストさんに言えることは何もなかったですよ?」

「それ思いっきりなんかあったと言ってるようなもんだが…………まぁ、いいか。とりあえず適当に飯頼めよ。料理が来るまでは俺の飯適当につまんどけ」

 

 こいつが言おうとしないってことは、言わないことに意味があるってことだ。だったら少なくとも今ここで問いただすことじゃない。

 

「はい、ありがとうございます。…………ダストさんのそういう所、好きですよ」

「そーかよ。おだてたって金出すのはお前だからな」

「くすっ……はい、分かってますよ。というよりそんなお金を持ってたらどこから調達したのか問い詰めないといけませんからね」

 

 上品に口に手を当て笑うゆんゆん。その左手にはやっぱり俺と同じ指輪が薬指にあるわけで……。

 

「おい、ダスト。どういうことか説明してもらおうか」

「あーもう! マジで今日のお前めんどくせえな!」

 

 その指輪に気づかないほど鈍い奴はこの場に誰もいなかった。きっと爆裂娘やあいつも……。

 

「うるせえ! 今日のダストはマジで羨ましすぎるんだよ! マジで死ねよ!」

「お前だって俺のこと散々童貞だって馬鹿にしてただろうが! ちょっと逆転したくらいでとやかく言ってんじゃねえよ!」

「これがちょっとだと? おい、テイラー、一緒にダストしめようぜ。こいつ最近調子乗りすぎなんだよ」

「知らん。俺を巻き込むな。やるなら一人でやれ」

「くっ……なぁ! お前らもダストむかつくよな! 一緒にダストボコボコにしようぜ!」

 

 キースの呼びかけに俺に呪詛を吐いてた冒険者たちが『おう』と立ち上がりやってくる。その数は数えるのも面倒なくらいで……見るからに高レベル冒険者ばかりだった。

 

「ダストさん! キースさん! 喧嘩するなら外でやってください! ギルド内での喧嘩は厳禁ですよ!」

 

 騒ぎに気づいたルナがそう注意してくるがちょうどいい。いろいろ有耶無耶にしたいし外で暴れさせてもらおう。

 

「あ、あの!? ダストさん、私も一緒に行きましょうか?」

「心配すんな。今更キースやその他大勢に俺が負けるわけねえだろ。お前はミネアたちと一緒にメシ食ってろ」

「言ってくれるなダスト! その余裕がいつまでも持つと思うなよ!…………って、ミネア? え? もしかしてミアさんって……」

 

 なんか既に首謀者が戦意喪失してるがそれはそれ。

 俺は大人げなくミネアやジハードの力を借り、竜言語魔法まで使って荒くれものの冒険者たちを返り討ちにするのだった。




日常&伏線回。


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