どらごんたらしver.このすば   作:ろくでなしぼっち

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第20話:やり直し

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「──はっ!? あ、あれ……? ゆんゆんさんたちはどこに行かれたんですか? さっきまでジハードちゃんが私のそばにいたはずなのに……」

「やっと正気に戻ったか寝坊助店主よ。ぼっち娘たちであれば、小僧用に取り寄せていたレベルリセットポーションを買い占めてとっくの昔に帰ったわ」

 

 ウィズ魔道具店。その店主であり永遠の時を生きるリッチーは、ゆんゆんたちがいなくなってからゆうに30分以上経って最下位事件のショックから回復していた。

 

「そうですか……。あのぅ、ところでバニルさん。物は相談なのですが──」

「──言っておくが同じことを何度も言わせるつもりなら、寝坊助店主から黒焦げ店主へとクラスチェンジさせてやるゆえ覚悟して相談するがよい」

「うぐぅ……」

 

 ドラゴンを自分たちの所で飼えないか。ジハードの可愛さにやられたウィズがもう何度も相談している事だけにバニルの反応は冷たい。

 いつものウィズであればここで引かずにそれでもと粘るのだが、正気に戻ったといってもその爪痕は深い。

 ジハードに振られたからこのタイミングでは、その代替としてドラゴン飼いたいという意味も出てきてしまうのもあって、これ以上無駄な悪あがきは出来そうになかった。

 

「…………って、あれ? バニルさん、まだこっちにいていいんですか? そろそろ相談屋の時間だと思うんですけど」

「それを灰になっていた汝が言うか。汝が起きるまで店番として残っていたというのに」

「んー……それ嘘ですよね? いつものバニルさんなら家に朝一番でお客さんが来るはずないと、気にせず相談屋に行ってるはずです」

 

 実際灰どころか黒焦げの謎物体になったウィズを置いて、お金をきっちり稼げる相談屋に行くのがバニルという悪魔だ。

 そもそも、相談屋をしなければ店の家賃を払えない状態なのだから選択肢などないに等しい。死魔討伐の報酬やダストたちからの依頼でいつになく潤っているウィズ魔道具店の金庫だが、そのお金は空飛ぶ城作りでほぼなくなる…………むしろマイナスだろう。

 余った精霊石で魔道具を作り売りさばければなんとかプラスだが、一時的には城づくりのために借金も必要になってくる状況だ。

 

「ふむ……まぁ、それはそうだな。この店に冷やかし以外の客など滅多に来ぬし、店番などネロイドでも置いておけばよいのは確かだ」

「そこまで言わなくてもいいんじゃないですか!?」

「汝は我輩に何を求めておるのだ……」

 

 自分が言うのは良くても他人が言うのは許せない。それは悪魔にはなくて()にはある理不尽さだ。

 彼女は人でなくなったが、まだその心を失っていなかった。

 

「いえ……なんかバニルさんの様子がおかしい気がして……。ツッコミにもいつものキレがありませんし」

「いつから我輩は漫才師になったのだ。そんなものは宴会芸の駄女神にでもさせておけばよかろう」

「またそんなことを言って……。アクア様が聞いたら怒り…………あれ? 喜びそうな気も……? あ、でもバニルさんが言ってたら絶対怒りますね」

 

 ふふっ、と友達である女神のことを想像し笑うウィズ。

 

「はぁ……。まぁ、汝であれば別に言っておいても良いか」

 

 その様子に毒を抜かれたバニルは、胸にしまっておくかどうか悩んでいたことを口にすることにする。

 見えてしまった未来、それはきっとこの友達想いのリッチーにも無関係ではないから。

 

 

「いつの日か駄女神に伝えた未来とチンピラに伝えた未来。それが見ようとせずともはっきりと見えたのだ」

「えーっと…………そう言われても何の話か全く分からないんですが……」

「それくらい言わずとも察することが出来ぬのか。これだから脳みそが腐り始めてるリッチーは……」

「腐ってませんよ!…………多分。いえ、というか、今の情報でどう察しろというんですか。バニルさんみたいに見通す力ないと無理ですよ」

 

 ウィズはバニルがその二人に伝えた未来について何も聞いていない。今回が初耳だ。察することができるのはそれこそバニルのような力を持ったものくらいだろう。

 

「つまり、察しの悪い残念店主にも分かりやすく言うのなら、『ゆんゆんが魔王になる未来』と『ダストが実質的に死ぬ未来』の二つのことだ」

「なるほど。……………………はい? え? ゆんゆんさんが魔王になる? ダストさんは人間ですからいつかはもちろん死ぬでしょうけど……」

 

 何をどうなったらあの心優しい子が魔王になるのかウィズには想像が出来なかった。

 友達がいないと寂しがっていた頃のゆんゆんであれば、かつての勇者のようになったかもしれない。けれど、今のゆんゆんははたから見ても幸せそうに見えて……

 

「…………、もしかして、その二つの未来って、同じ未来って事ですか?」

 

 けれど、その幸せが失われたとすれば。優しくて強い、けれどだれよりも寂しがりやな彼女は……。

 

「そうなるな。我輩に見える未来であれば、その二つが同義だ」

 

 つまり、いくらか分岐するとしても、バニルに見えるように()()()()()()()未来においてその二つは確定事項になっている。

 

「バニルさんの力で避ける事は出来ないんですか?」

「出来るならとうの昔にしておる。我輩の見通す力をしても、あの娘が大きな選択をして分岐するのは分かっても、どのような選択が正しいかはわからぬのだ」

 

 仮に分かったとしても、この世界全体に影響を与えるレベルの選択だ。見通す力が金儲けには直接は使えないのと同様、反動を考えれば教えただけで避けられるかは微妙だろう。

 

「…………、仮に、ゆんゆんさんが魔王になったらどんな魔王になるんでしょう?」

「どこまでも強くなる最凶のドラゴンを従え、その()()()()()()()()()()()()()()()()、無限の魔力と回復手段を持つ、史上最強にして最悪の……そして()()の魔王になるであろう」

「最寂の魔王…………そんなのあんまりじゃないですか」

 

 ウィズはゆんゆんという娘のことをよく知っている。どれだけ寂しがり屋か。そして、どれだけ彼女自身や周りが頑張って、今は寂しくならなくなったかも。

 そんな彼女がまた寂しさに囚われてしまう。おそらくは最愛の人を自分の選択によって亡くしたために。

 

 大切な人をなくす。これ自体はどこにでもある話だ。

 だが、最愛の人に並ぶために得た力によって魔王になる。それほど悲しい話はそうない。

 

「我輩としても、ぼっち娘に魔王になどなってもらっては困る。あれが魔王になればそれだけ我輩の夢が叶う日が遅くなるからな」

「その、ゆんゆんさんが選択するタイミングって分からないんですか? 場所とかそういうのは……」

「場所は地獄の我輩の領土のようだな」

「バニルさんの領土…………この間、行ってましたね」

「方向は違えどどちらもエロい二人だ。これから頻度は増えるであろうな」

 

 ゆんゆんとダストは、既に地獄のバニルの領土に行った経験がある。それは時間のない二人が恋人同士の営みをする為であるが、それゆえに隣国へのクエストが終わった今、地獄へ行く頻度は増えるだろう。

 

「じゃあ、そのタイミングももうすぐかもしれないんですね……」

 

 ダストが死にゆんゆんが魔王になる。確定した未来ではないとはいえ、その可能性が近いと思うとウィズは胸が痛かった。

 

「まぁ、そう遠い話ではないが、今すぐという程でもないだろう。選択をする時のぼっち娘はお腹が大きくなっていた。だが、まだぼっち娘の中に子どもはおらぬようだ」

「そうですか。じゃあ、まだ………………………………………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ゆんゆん視点──

 

「うぅ……本当に飲むんですか?」

「まだ言うか。俺はもう飲んだんだからお前もさっさと飲めよ」

 

 里近くの森。高レベルのモンスターの生息地の真ん中で、私は手の内にあるポーションを前に固まっていた。

 

「だって、だってこれ飲んだらレベルが1になるんですよ?」

「そりゃレベルリセットポーションだからな。上がっても困る」

「怖いじゃないですか!」

 

 レベル1ということはレベルが1になるということだ。つまり学校に行ってた頃の自分に戻るということでつまりレベルが1になるということだ。

 レベルが1になるとかもうそれ天変地異レベルの出来事じゃなかろうか。

 

「だから、レベル1になってもミネアとジハードがそっちで寝てるし大丈夫だって。双竜の指輪つけとけばステータスはほとんど下がらない」

「でもレベル1なんですよ?」

 

 例え弱くならないとしてもレベルが1になるってことはレベルが1になるということだ。

 

「なんかお前の目がぐるぐる回ってる気がするが……大丈夫か?」

「大丈夫じゃないです。自分がレベル1になると思ったら死にそうです」

「マジでそんなレベルで混乱してそうだな……」

 

 だってレベル1ですよレベル1。

 

「でも、お前が強くなるにはこれが一番の近道だしな……」

「魔法を覚えるならスキルアップポーションをたくさん作りましょうよ! 材料を集めれば私でも作れると思いますし」

 

 うん、それがいい。レベルが1になるくらいならどんなに大変でもそっちの方が100倍いいはずだ。

 

「スキルアップポーション? あれ確かゴールドドラゴン……黄金竜の血液が必要だったろ? 少しくらいなら分けてもらえばいいが、必要なポイント1つや2つじゃねえからな。却下だ却下」

「そんな……彼女と見ず知らずのドラゴンどっちが大切なんですか!?」

「お前の方が大切だけど、だからってドラゴンに負担かけるような我儘は認めねえぞ」

 

 むむむ…………これだからドラゴンバカさんは……。彼女がレベル1になってしまいそうな状況なのに……。

 

「…………、本当にいいんですか? 私これ飲んだらレベル1になっちゃうんですよ?」

「だからさっさとレベル1になれって。そんでさっさとレベル上げなおし始めるぞ」

 

 上目遣いでいやいやオーラを出すも失敗。私の恋人さんは人の心がないのかもしれない。

 

「はぁ…………、このままじゃお前いつまでもポーション飲まなそうだな」

「本能が拒否してますからね」

 

 理性では大丈夫と分かってるんだけど、本能が死ぬほど拒否してる。目の前の人が普通に飲んだのが本当に信じられない。もしかしたら私の恋人さんは人間じゃないのかもしれない。

 

「よし、じゃあ選択しろ。

 1:素直に自分で飲む

 2:力ずくで飲まされる

 3:口移しで飲まされる

 どれでも選んでいいぞ。おすすめは1と3だ」

「じゃあ4の飲まないで」

 

 というか、3はそのままエッチなことされそう。

 

「まぁ、その選択肢でもいいが…………それはつまり俺に追いつくのを諦めるってことだがいいのか?」

「っ……!」

「ま、別にいいけどな。お前は今でも十分優秀なんだし。もしもお前に勝てないような敵が来ても俺がちゃんと守って()()()()いい話だ」

 

 挑発的なダストさんの笑顔。分かってる。これは分かりやすい挑発だ。ダストさんの隣に立つと願って決意した私へのこれ以上ない。

 でも…………

 

「ぅぅぅっ! 分かりましたよ! 飲みます! 飲んですぐにダストさんに追いついて見せますから!」

 

 でも、本当に飲まなければダストさんの言った通りになる。それだけは嫌だ。

 たとえ死んでも認められない未来。正直レベル1に戻るくらいなら死んだ方がマシだけど、ダストさんに守られるだけになることとレベル1に戻ること。どちらに傾くかと言われたら前者に傾く。

 

「見ててくださいよ! 一気に飲んで見せますから!」

 

 怖い。

 

「おう、しっかり見といてやるから」

 

 怖い。怖い。

 

「すぐに、飲んで……」

 

 怖い。怖い。怖い。

 

「ゆんゆん……?」

 

 怖い。怖い。怖い。怖い。

 

「飲ん──」

 

 

 

 怖い怖い怖い怖い怖いこわい怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわい怖いこわいこわいこわ──

 

 

 

 

「──悪い。急がせすぎたな」

「え……? ダストさん……?」

 

 気づいたら。私はダストさんの腕の中にいた。戦士らしい逞しい体で優しく私を包んでくれている。

 

「無理だったらいい。俺はお前にそんな顔させたくて指輪を渡したわけじゃないんだ」

「でも……でも……、これを乗り越えないと私いつまでもダストさんに追いつけない……」

 

 子竜の槍に宿る幼竜との契約。今はリアンという『共有』の力を持つ幼竜と契約してるだけだけど、必要があればダストさんは他の幼竜とも契約すると思う。

 本当にこの人がどこまで強くなるか分からなくて…………私はそれ以上の速さで強くならないといけないのに。

 

「別に強くなる方法は一つじゃねえんだ。なんならアリスみたいにスキルシステムなしで魔法を覚えてもいい。最初は苦労するかもしれないが、お前なら最終的にはアリス以上に魔法使えるようになるさ」

「それは……そうかもしれないですけど…………」

「だから、もう急がなくていい。お前ならいつか絶対俺に追いつけるって信じてるからよ」

 

 …………、それならいいんだろうか。ダストさんとはこれからずっと一緒で…………そのなかでいつの日か追いつきさえすれば。

 

 

「俺はよ……嬉しかったんだよ。お前が俺に追いつきたいって……俺を守りたいって思ってくれたことが。だから…………悪い。俺らしくもなく浮かれちまってた」

 

 …………、本当にこの人は…………。

 

「ダストさんはバカです。大バカです」

「だから悪いって言ってんだろ。もうレベル1に戻れなんて言わねえから他の方法考えるぞ」

「なんでそのことを先に言わないんですか」

 

 その言葉を先に聞けていたら、こんな醜態さらさないですんだのに。

 

「ダストさん、ちょっと離れてください」

「ん? おう。落ち着いたか?」

「あ、ダメです。そんな離れないでください。──そう、そこくらいで」

 

 私から離れようとするダストさんを引き留め、位置を調整する。私が自由に動ける程度には離れてて、けれど動かずともダストさんに抱き着けるくらいには近い位置に。

 

「ゆんゆん?」

 

 不思議そうなダストさんな問いかけ。それに答えず私は大きく息を吸い、一拍を置いて吐く。

 

「…………、ちゃんと、見ててくださいね?」

 

 怖い。────でも、大丈夫。

 

「お、おい……だから無理しなくてもいいって言ってんだろ」

 

 怖い。怖い。────だって、この人がこんなに近くにいるから。

 

「無理じゃありません。ちょっと無茶ではあるかもしれないですけど……」

 

 怖い。怖い。怖い。────私の大好きな人が信じてくれているから。

 

「最強の魔法使いになってあなたの隣に立つための一番の近道がこれだって言うなら、乗り越えて見せます」

 

 怖い。怖い。怖い。怖い。────だから、もう大丈夫。

 

 

「ずっと、あなたの傍で生きていたいから」

 

 

 ────もう、怖くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………頑張ったな」

 

 またダストさんの腕の中で。私は荒くなった息を必死で抑えようとしていた。

 覚悟を決めて飲んだレベルリセットポーション。その効果を確認しようと冒険者カードを取り出すところで私の体は言うことを聞かなくなった。

 体は自分で立っていられず、何もしていないのに息が荒くなってしまう。

 心は恐怖を克服したのに、体がその心についていけてなかった。

 

「大丈夫だ。落ち着くまでゆっくりしてろ」

「っ……、でも…………」

 

 こんな情けない姿をダストさんに見ていてほしくない。

 こんな調子じゃ、ダストさんにやっぱり無理だと…………そう思われるのが怖い。

 

「でもも何もねえよ。落ち着くまでこうしててやるから」

 

 荒い息とともに震える私の体を、ダストさんは強く抱きしめてくれている。

 強くて……でもいつもの乱暴さはなくて。なんだか私の体がダストさんの体に溶けていって一つになるような……そんな安心感をくれていた。

 

「あぅぅ……ずるいですよぉ……」

 

 苦しんでる所でこんなに優しくされたら…………ダストさんがいないと生きていけなくなるじゃないですか。

 

(決着をつけないといけいないのに……失うかもしれないのに……)

 

 このまま流されてしまいたくなる。そうすればきっと私はこの温もりを失わずに済むんだから。

 

「ずるいって……何がずるいんだよ?」

「こんなのもっと好きになるに決まってるじゃないですかぁ…………ただでさえ、好きなのに、これ以上好きにさせてどうするつもりなんですか……」

「どうもしねえよ。…………いや、エロいことはさせてもらうが」

「それはもうやってるじゃないですか」

 

 まだ二回だけだけど。

 

「いや、前よりも凄いのをやるって、そういう話だったろ?」

「…………、それに関してはちゃんと相談しましょう」

 

 前回で割といっぱいいっぱいだったからなぁ……。

 

「ん? 結構落ち着いたか」

「えっと……はい。割と」

 

 本能が別の本能に打ち勝ったというか。レベルが1に戻った恐怖よりも別のスイッチが入ってる。

 

「じゃ、離れるか?」

「…………、もう少しこのままでお願いします」

 

 でも、その入ったスイッチは今の状況をやめさせてくれなくて……結局私はダストさんに抱きしめられたままだ。

 

「はぁ…………本当自分が嫌になります」

 

 今日の私は本能に理性が負けてばかりだ。

 

「そうか? 俺は今日のお前見て惚れ直したんだがな」

「え? それはどちらかと言うと私のセリフだと思うんですけど……」

 

 今日のダストさんは優しくて私が惚れ直すのは仕方ないと思うんだけど、ダストさんが私に惚れ直す要素あったっけ?

 

「……ま、分かんねえならいいさ」

「えー、教えてくださいよ。私もっとダストさんに好きになってもらいたいんですから」

 

 この温もりをなくさないために、私はもっとダストさんに好きになってもらう必要がある。そのためにはどんな行動がダストさん的にポイント高いか知っておきたい。

 

「いいんだよ。お前はお前らしくしてるのが一番ってだけの話だ」

「…………その言い方、ずるいです」

 

 なんでこう、ダストさんは普段はろくでなしでデリカシー欠片もないのに、こういうときだけピンポイントで私の急所をついてくるんだろう。

 

「だから…………ま、いいや。もういいだろ? いい加減レベル上げ始めるぞ」

「あぅ…………はい……」

「いや、少し離れただけでそんな寂しそうな顔されても困るんだが」

「べ、別にそんな顔してませんよ!」

 

 今も十分近い位置にダストさんいるし。抱きしめるのをやめられただけだ。

 それなのに寂しい顔をしてるとか、まるで私がダストさんがいないと生きていけないみたいじゃない。

 

 …………うん。まぁ、多分そうなってるけど。

 

 

「流石に四六時中くっ付いてるわけにもいかねーからなぁ……少しは我慢しろよ?」

「だから大丈夫ですって! もし今私が寂しそうだとしてもちょっと、情緒不安定になってるだけですから」

「自分で情緒不安定言うのはどうなんだ。いや、まぁお前は普段から割と情緒不安定だし、無茶もしたから実際そうなんだろうが」

 

 普段から情緒不安定って、そんなこと思ってたんですか。

 

 …………うん。まぁ、多分それで合ってるけど。

 

「と、とにかく! ちゃんと落ち着いたら大丈夫です。今はちょっと動転してるだけですから」

「そうか? それならいいんだが……」

「ま、まぁ……前よりもダストさんから離れたくないようになった気はしますけど……」

 

 それでも、それが耐えられないようなレベルではないはずだ。…………まだ。

 

「んー……双竜の指輪してれば俺の力も感じられるはずなんだが、それでも寂しいか?」

「ないよりはマシですけどあくまで力だけですしねぇ……。ドラゴン使いの力と一緒で距離が離れるとほとんど感じられなくなりますし」

「…………お前って、本当寂しがり屋だよな」

「否定はしません」

 

 それを認められるくらいには今の私は寂しくないから。

 

「じゃあ、あれだ。ガキ……子どもでも作るか? 腹ん中に俺の子どもがいるって思えば寂しくなくなるだろ」

「子ども…………」

 

 まだ決着をつけていないのにそんなことをしていいんだろうか。

 でも、そのための行為自体は既にしていて、今更と言えば今更だ。

 

(それに……紅魔の里の長になる身としては子どもは欲しい……)

 

 仮に。本当に仮に。私がダストさんに選ばれなかったとして。その時に私は他の男の人を受け入れられるだろうか。

 正直無理だとしか思えない。族長は世襲制じゃないから必須と言うわけではないけれど、子どものいない族長というのも格好がつかない。

 

 例え。本当に例え。私がダストさんと一緒に入れなくなったとしても。ダストさんの子どもがいるなら、まだ堪えられる気がした。

 

 

「なんてな。流石にまだ早い──」

「──作りましょうか」

「………………は?」

 

 私の言葉に呆気にとられているダストさんの顔をまっすぐ見つめて。

 私は大きく息を吸ってから、はっきりと言う。

 

 

 

 いつの日か勘違いから使命感で言ったセリフを。今度は自分の心からの気持ちをもって。

 

 

 

「私、ダストさんの子どもが欲しい」

 


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