──ダスト視点──
「なぁ、ルナ。お前地獄にバカンス行きたくねぇか?」
「ちょっと何を言ってるか分からないんですが……」
ギルドの受付。今日もいつものように忙しくしてるから単刀直入で言ってやったというのに、ルナは何故か『またこの人面倒なこと持ってきた……』的な顔をしてやがる。
「何を言ってるも何もそのままの意味だっての。仕事で疲れてるお前に地獄へ息抜きに行かないかってそう誘ってんだよ」
「とりあえずダストさんが言いたいことも、私の聞き間違いじゃないことも分かったんですが…………息抜きはいいとして、地獄って何ですか」
「えらく哲学的な質問しやがるな。地獄は地獄だろ」
あえて言うなら旦那の出身地とか?
「いえ、そういう話じゃなく…………バカンスでなんで地獄なんてところに行くんですか。また頭おかしくなったんですか?」
「またってなんだよ、またって。まるで俺に頭がおかしかった時期があるみてぇじゃねぇか」
どっかの爆裂娘やドМ貴族や宴会芸の女神じゃあるまいし。
「そうですね、またじゃないですね。最近ちょっとまともになってたと思ってたのは私の勘違いだったということですね」
「おう、その無駄に大きい胸揉んで欲しいなら最初からそう言えよ。いくら行き遅れでゆんゆんほど張りがなくなってきてる胸でもそれくらい大きければ十分楽しめるからよ」
「ギルドから賞金を懸けられたいのなら最初からそう言ってくださいよダストさん。ダストさんの前科を考えれば100万エリスくらいなら余裕で懸けられるんですから」
「はっ……俺がそんな脅しに……」
…………なんでこいつマジな目してんの?
「脅しに……なんですか? ダストさん」
「脅しに屈して素直に謝るんで賞金懸けるのは勘弁してください」
「謝るくらいなら最初から言わなければいいのに…………まぁ、謝られても許さないんですけど」
「そこは許せよ! お前だって俺に喧嘩売ってんだからお相子だろうが!」
そもそもルナが行き遅れでゆんゆんより胸の張りがなくなってるのも事実なんだ。事実を言っただけでなんで賞金懸けられないといけないんだ。
「お相子じゃないですよ? 先に喧嘩を売られたのは私ですし」
「はぁ? どっちかというと今回はお前の方から……」
「そうですか。とある相談屋さんから私が乙女と言える年齢じゃないとダストさんが言ってたと聞いてたんですが、嘘だったということですね」
「……お、おう…………どこの相談屋かは知らねぇがつまらねぇ嘘つく人だな」
「いえ、その相談屋さんは人じゃなくて基本的に嘘をつけない悪魔の方ですけどね」
……………………。
「か、仮にその話が本当だとしても、事実を言っただけ──」
「──欠片も反省が見られないようですが、100万エリスじゃ足りませんか?」
「ごめんなさい。本気で謝りますのでどうかお許しください」
まぁ、うん。たとえ事実だろうが行き遅れに悲しい事実を突きつけるのは悪いことだよな。
「なんかイラっとすること考えてそうな憐みの顔向けられてるのは気になりますが、一応反省はしてるみたいですね。仕方がないので罰金10万エリスで許してあげます」
「それ本当に許してんの?……まぁ、どうせ金払うのはゆんゆんだしいいけどよ」
城に引っ越したから宿代が完全に浮いてるしな。なんだかんだでクエストもちゃんとこなしてるし、大物討伐はなくてもそれくらいの余裕はあるだろう。
「それで? 話を戻…………さなくていいか。ということでダストさん、次が並んでいますのでお帰りください」
「心配しなくても後ろには誰も並んでないから話戻していいぞ」
こんなこともあろうかと例の店から貰った、使いきれないくらいの割引券を後ろに並ぼうとした奴に片っ端から渡したからな。
リリスが来てからこっち本当毎日のようにロリーサが店から貰ってきて、どう消費しようか困ってたからちょうどいい。素直に使おうにもロリーサが微妙な顔するから使えないし。
「ちっ……。ごほん……それで、ダストさん? 何の話でしたっけ?」
「おい、今お前舌打ちしただろ」
行き遅れと仕事のストレスがやばいのは想像ついてるが、最近のこいつ荒みすぎだろ。
「気のせいですよ、ダストさん。舌打ちなんて失礼なこと心の中でしかしませんから」
「そうか、気のせいか…………って、うん?」
今さらっとおかしなこと言わなかったか?
「そんなことよりダストさん、早く本題をお願いします」
「お、おう……。まぁ、俺らが明日から10日から2週間地獄で過ごすんだよ。それに一緒にお前も行かねぇかなって」
「そうなんですか。それで、地獄に行くことの何が息抜きになるんですか? 同じ2週間休みを貰うならエルロードに行ってカジノに行った方が余程息抜きになると思うんですが」
こいつのイメージじゃカジノなんて行きそうにないし、実際行ったことねぇだろうに……マジでこいつ疲れすぎだろ。
賞金騒ぎの時に多少は解消できたと思ってたんだが、やっぱそれだけギルドの受付嬢って仕事は激務なんだろう。もしくは最近なんか嫌になることでもあったのか。
「同じ2週間なら確かにそうだな。でも地獄ってのはこの世界より時間の流れが速いからな。こっちで2週間の時間でも向こうでなら1年近くの時間ゆっくり出来るんだよ」
「なるほど……確かにそれならよほど酷い場所じゃない限り疲れを取れそうですね。問題は地獄はそのよほど酷い場所なイメージなんですが」
「その辺りは心配しなくてもいいぞ。景色はともかく文化的にはアクセルとそう変わんねぇからな」
むしろ変なところではこの世界より文明進んでたりする。
あらゆる世界と繋がってるから色んな世界の文明が流入してるが、弱肉強食の世界ゆえに定着をしない。だから地獄の文明はちぐはぐだというのはリリスの談。
「どうせ観光とかする気はないので景色はどうでもいいんですが…………1年近い休暇ですかー…………確かに魅力的ですね」
「だろ? 一つ問題があるとしたら2週間で1つ歳を取るからお前の行き遅れがさらに進むことくらいだ」
「なるほど。この話は聞かなかったことにしますね」
ゆっくりできる休暇と行き遅れの深刻化。やっぱりというかギルドの行き遅れ看板受付嬢は後者の方に重きを置くらしい。
「そうか、残念だな。リリスにお前の行き遅れのこと相談したら経験を食らう悪魔を紹介してくれるって話だったのに」
「人の知らないことで何てことを相談してくれてるんですか。リリスさんというのがどなたかは知りませんが、経験を食らう悪魔ってなんですか?」
「その名の通りらしいぜ? 普通の悪魔は悪感情を食らうが、その悪魔は人の経験を食らうんだと」
バニルの旦那やゼーレシルトの兄貴のように基本的に悪魔は悪感情、特に人の悪感情を食べる。好みの悪感情は千差万別だが多くの悪魔は悪感情を餌にしている。
だが何事にも例外があるように悪魔の食事にも例外がある。例えばサキュバス。下級の悪魔である彼女たちは悪感情を糧に出来ず不純物が混じった精気を糧として存在している。経験を食らう悪魔ってのもその例外らしい。
「それで、その名の通りの経験を食らう悪魔さんと私に何の関係が?」
「経験を今現在から順に食らっていくらしくてな。食らった経験の年数分一緒に歳まで食らっちまうんだと」
「ちょっと奥で詳しく話を聞きましょうか」
「いきなり前のめりになるんじゃねぇよ。食いつきすぎて引くわ」
ルナの胸で前のめりされたら眼福ではあるんだが、表情見ると必死すぎて萎える。
「詳しくって言っても旦那じゃあるまいしこれ以上説明は出来ねぇぞ。俺から言えんのは経験と引き換えに若返りが出来るってそれだけだ」
「むむむ……経験と引き換えですか。流石に今の記憶とかまで食べられてしまうのは困るんですが」
「その辺は俺も確認したがそこらへんは大丈夫らしいぜ?」
経験と言っても食らうのはスキル的なものだけらしい。と言ってもその副作用で歳まで食らってる辺り『経験』以外のものは何を食らわれてるか分かっちゃもんじゃないが。
「ま、リリスも一回くらいならそこまで問題ないし取り返しも効くって言ってたから大丈夫じゃねぇか、多分」
「そこはかとなく大丈夫じゃない言い方なんですが、本当に大丈夫なんですか?」
「悪魔に関係することで絶対大丈夫です言われる方が俺は信頼できないがな」
悪魔は契約主義で嘘はつかないが、それだけだからな。リリスをはじめとして悪魔ってのは油断ならない奴らばかりだ。
「で? 結局くんのか来ないのかどっちだよ」
「不安がないと言ったら嘘になりますが……当然行きますよ。そろそろ相談屋の悪魔さんに魂売ってでも私が幸せになる方法を聞こうかと思ってたくらいですから」
「お、おう……さらっと死ぬほど重いこと言われても反応に困るが、とにかく来るんだな」
本当こいつ追い詰められてるよなぁ……。早くだれかこいつ貰ってやれよ。
「それでダストさん。私のほかに誰か誘ったりはしないんですか?」
「ん? まぁお前以外にも行き遅れでちょっと悩み始めた奴がいるし、そいつは誘ったぞ」
どっかの貴族のくせに金に困って買収されそうになる魔法使いのねえちゃんには一応声をかけている。アイリスの付き人として2週間も離れるのは難しいかもしれないってことではあったが。
「
「フィー……フィーベルさんは誘わないんですか?」
「ベル子? あいつも行き遅れって悩んでるのか?」
ゆんゆんやリーンと同じくらいの歳だし確かにそろそろ焦る時期だろうが。
「いい加減行き遅れの話から離れてください! そういうのじゃなくて、最近のフィーって妙に落ち込んでいるというか、仕事のミスが多いんですよ。リフレッシュさせてあげられないかなって」
「リフレッシュさせるのに地獄に誘うってのも凄い発想だな」
「それをダストさんが言わないでくださいよ」
おっしゃる通り。
「ま、お前が誘った方がいいってんなら誘うか」
こいつの人を見る目は信頼してるからな。ゆっくり過ごすだけなら悪い所じゃないのも確かだし。
「…………あの子の英雄さんには言われなくてもそういう所に気づいてもらいたいんですけどねぇ」
「はっ、そんなことに気づけるほど気の利く人間だったらもっと要領よく生きってるっての」
それができないから俺はチンピラなんかやってるわけで。
「威張って言うことじゃないと思いますが…………まぁ、そうですよね、ダストさんですもんね」
「てか、あいつってルナに結構いろいろ話してんのか」
俺があいつの英雄と曲がりなりにも認めてること知ってるとか。
「一応、あの子とギルドの中で一番仲良くさせてもらってる自負はありますかね」
「ふーん……人と人のつながりってのは分からないもんだな」
「始まりはとあるチンピラさんのセクハラに困り果てたフィーが私にあしらい方を相談してきたことからですけどね」
「あいつも見た目はいいからな。セクハラされるのも仕方ないか」
その辺りは美人税ってとこだろう。
「困り果てるレベルのセクハラするような人はそうそういませんけどねぇ……」
「ま、セクハラにも限度はあるわな」
「…………」
ところでなんでルナは俺のことゴミを見るような目で見てるんだろう。
「はぁ……もういいです。それで結局地獄にはどうやっていけばいいんですか? ダストさん達が迎えに来てくれるんですか?」
「おう。ほれ『召喚札』だ。これがありゃ旦那の領地に一度だけ飛べる。それもっときゃ悪魔にお客様扱いもされる優れものだぞ」
旦那の許可の元リリスが作ったらしいこれがあればわざわざ旦那やリリスに地獄への転移陣を作ってもらう必要がない。俺らは普通に城から地獄へ行くが招待する奴らにはこの札を渡すつもりだった。
「地獄への転移が出来る札ですか? これかなりの貴重品なんじゃ……」
「だろうな。悪魔使いや研究者に売ろうとすれば凄い値段がつくだろうよ」
「そんなものをダストさんがタダでくれるなんて…………じつは変装してるバニルさん?」
「俺が旦那ならもう数えきれないくらいお前の悪感情を頂いてるっての」
俺だって売れるものなら売るが、それやるとさすがに旦那に殺されるレベルだからな……。下手すりゃ悪魔と神々の勢力バランスを変えかねない代物だ。
だから渡すのは俺やゆんゆんが信頼出来る奴に限るってリリスに強く言われている。
「とにかくそれ使ってお前の都合のいい時に地獄に来い。さっきも言ったが俺らは明日から2週間くらいの間地獄にいるから」
「例によって有給休暇が死ぬほど溜まってますし、2週間くらいどこか旅行行って来いと上司にも言われてるので、今日徹夜すれば明日には行けそうですね。出来ればこういう話はもっと早めに持ってきてほしかったんですけど」
「俺らにとっても割と急な話だからな。文句言うなら旦那に行ってくれ」
旦那は旦那でいろいろ考えてくれてるのは分かってるから、俺は文句が言えないが。
今日も相談屋もやらずいろいろ動いてくれてるみたいだしな。
「てことで俺はもう行くぜ? ベル子の奴を誘わないといけないし、その後もあいつらの所に行く予定だからよ」
「そうですか。ちょうど後ろにたくさん人が並んできたみたいなのでちょうどよかったですね」
「は? そんなはずは……」
チケット渡した奴らに他の奴らが並ばないようにも頼んで人払いしたんだからこんなすぐに人が並ぶわけがない。
「「「ダスト、もっとチケットよこせよ」」」
だというのに何故か俺の後ろにはさっきチケット渡した奴らが並んで、チケットをよこせと手をこっちに差し出している。
というかこれむしろさっきよりも人が並んでねぇか……?
「ふぅ……ダストさん? 何を餌にして人払いをしたのかは知りませんが、餌というのはチラつかせるだけで終わるまでは絶対に渡さないのが定石ですよ? じゃないと次の餌をよこせとなるに決まってるんですから」
「流石はカズマを手のひらで転がすのに定評のある受付嬢だな! 次からはそうさせてもらうよ!」
「まぁ、信用のないダストさんがそんなことしても信じてもらえず言うこと聞いてもらえないでしょうけどね」
詰んでんじゃねぇか。
「くそ、お前ら散れ散れ! もう用は終わったから人払いもいらないっての! じゃあなルナ!」
「はい。ではまた地獄で」
チケットよこせと魑魅魍魎と化した冒険者たちの手から逃げるため俺は挨拶そこそこでその場を後にする。
「ああ、マジでうぜぇ!」
何度か蹴りいれてんのに欠片もこいつら怯みはしねぇ。チケット欲しい気持ちは痛いほど分かるがそれにしてもバーサーカー過ぎるだろ。
(こりゃ酒場の方に顔出しは無理だな)
この数の暴徒を引き連れてまともに話が出来るはずもない。ベル子を誘うにしてもほとぼり冷めてからがいいだろう。先にあいつらの方に向かうか。
「ダストさんこっちです!」
と思っていたのに、なぜか俺は小さな手にひかれて酒場の方へと連れていかれる。
「いきなりなんなんだ……って、ロリーサかよ」
「しっ……少しの間だけ喋らないでください。ダストさんの声が聞こえたら
俺を追いかけていたはずの暴徒たち。当然俺が酒場の方に行ってるのも見ているはずだし普通ならこっちにくるはずだが、実際にはすごい勢いでギルドを出て外へと出て行ってしまった。
「ふぅ……いきなりでびっくりしましたけどなんとかなりましたね」
「助かったぜロリーサ。やっぱお前の幻術は頼りになるな」
その理由は説明するまでもなくロリーサの夢を見せる幻術だ。俺が外へと逃げる幻覚を暴徒に見せたんだろう。
「何をしたかは知りませんけど、落ち着いたらちゃんとあの人たちに謝ってくださいね? 店の常連で私の顔見知りの方多かったんですから」
「今回は別に俺は欠片も悪くねぇし、原因の半分はお前なんだがな……」
大元の原因はリリスが来たことだが、こいつが断りもせず割引チケット貰ってくるのにも問題がある。
「? 私がどうかしたんですか?」
「…………、いや、別に何でもねぇけどよ」
ただ、それを言ってマジでチケット貰ってこなくなるのも困るから言えないが。
使いきれないし使う予定はないにしてもあの店の割引チケット貰えるのは普通に嬉しいからな……。
「てか、何でお前ここにいるんだ? その格好この店のウェイトレスの制服じゃねぇか」
「あー……やっぱりそれ聞いちゃいますか……」
遠い目をしているロリーサの格好はベル子が仕事で来ている服と一緒だ。……まぁデザインが一緒なだけで胸とか身長のサイズは全く違うが。
「確かお前あの店でバイトしてて、その指示でリリスの世話をしてたんじゃなかったか?」
「はい……」
「それなのにここにいるってことは…………リリスにこっちくんな言われたか」
「言い方はともかく端的に言うとそうなります」
なるほど。で、店の方にも戻るに戻れずと言ったところだろうか。
「だったら城の部屋でゴロゴロしときゃいいのに」
「クイーン様が掃除や料理をしている城の部屋でそれは無理ですよ!」
「あっち好きでやってんだから気にしなきゃいいだろうに」
「誰しもがダストさんのように無神経じゃないんですよ……」
「おいこら」
人が親切で助言してやってるのにその言い草は何だってんだ。
「ん? でもお前店でバイトして精気を貰ってるんじゃなかったか? ここじゃ金は貰えても精気は無理だろ?」
「一応ここでのバイトはリリス様の世話の一環というか手伝いということになってるので。ほとんど建前のような感じですけど情報収集的なことやってるんですよ」
情報収集ってなると『悪魔の種子』関連か?
「いつからやってんだ?」
「今日からですね」
「…………なぁ、お前明日から俺らと一緒に地獄だよな?」
「そうですね」
「冷やかしか何かか」
バイト初日だけきてその後2週間全く来ないとか。
「私も気にしてるんで言わないでください……。一応昨日の面接の時に説明はしてるんですけど、面接の方のひきつった笑顔が忘れられないんですから……」
「なんてーか…………お前も大変なんだな」
こいつも昔の俺やレインと同じか。偉い奴の傍付きってのは無理難題に振り回されるのが運命なのかね。
「ダストさんが主人として見たら割と理想的な良物件だったことに驚いています……」
褒めてくれてんだろうが同時に貶されてる気がするのは気のせいか?
「ま、なんにせよだ。仕事頑張れよロリーサ」
「頑張りますよー。ウェイトレスの仕事自体は慣れていますし、色んな人と話せるのは結構楽しいですからね」
こいつのこういう所は本当感心するぜ。今はまだまだだが、こいつならそのうち立派なサキュバスになれるだろうな。
「……っと、そうだった。なぁロリーサ。ベル子の奴呼んでもらえるか? あいつも地獄に誘おうと思ってんだが」
「ウェイトレスさんですか?」
「おう、多分そのウェイトレスさんだが……普通に名前で呼べよ。ここにはウェイトレスたくさんいるし、むしろお前自身がウェイトレスだろうが」
悪魔にとって名前呼ぶことが大事な意味あることは分かってるが。こいつも最初の頃は俺のこと『金髪の常連さん』って呼んでたしな。
「じゃあ……『ダストさんの妹さん』とか?」
「なんでだよ!」
「え? でも、ダストさんがお兄ちゃんと呼ばさせてると酒場ではその噂で持ち切りなんですが……」
「それはベル子でいたずらで呼んだだけだっての! 大体お前だってその場にいたから事情は分かってるだろ!」
「? 私には思い当たる所がないですけど」
……そういやこいつあの打ち上げの時は遅れてきてたっけか。
「ということで、今度からウェイトレスさんのことは今度から妹さんと呼びますね」
「本当にやめ…………好きにしろ」
やめろって言ったら命令になるのがめんどくせぇ。なんで俺こんな縛りしてんの?
「ま、あいつが妹みたいなもんなのは本当だし別にいいか。義妹って言った方が近い気がするけど」
「じゃあ『義妹さん』にしますね」
「おーおー好きにしろ好きにしろ」
なんかもう本当どうでも良くなったわ。
「それでその義妹さんですが、確か今日は夕方からのシフトなのでまだ来てませんよ」
「マジか。流石にまた夕方にくんのはめんどくせぇなぁ」
ゆんゆんとリーンに大体のことは任せてるとはいえ明日からの準備もあるからな。流石にそのあたりの事までリリスに任せたくはねぇし。
「じゃあ私の方から義妹さんに話しておきましょうか? ちょうどシフトの入れ替わりですし」
「頼めるか? そうしてもらえりゃ助かるわ」
それに考えてみれば俺には欠片も素直じゃないベル子だ。疲れてたりしてても俺からの誘いじゃ断るかもしれないしな。
「はい。それじゃ『召喚札』を預かりますね」
俺から『召喚札』を預かり大事そうにしまうロリーサ。
「けど、明日からお前が休みなわけだが、これでベル子まで休み取ったらこの店も大変だな」
「わ、私はまだ戦力に数えられてませんし、実質義妹さんだけですから大丈夫ですよ。…………多分」
「てか、お前まだこの店の実情とか知らねぇだろ。適当なこと言うなよ」
実はベル子が人よりも優秀で3人分くらい働いてるかもしれないだろ。
「ま、ギルドの酒場がどうなろうと俺の知ったこっちゃないがな」
「実際ダストさんには関係のない話ですけど、その言い方は凄いろくでなしですよね」
「うるせぇよ。身内でも何でもない奴の心配が出来るほど人間出来てねぇからな」
昔も今も。そんな余裕のある生き方は出来てない。
「…………、(最近のダストさんはそうでもないと思いますけどね)」
「なんか言ったか?」
「いーえ。私のご主人様は相変わらず口
「だけって普通に悪口じゃねぇかよ。お前本当に俺のことご主人様だって思ってんの?」
なんか欠片も敬われてない気がすんだが。
「だって、ダストさんは私のご主人様の前に友達ですもんね? だから、これでいいんです。……いいですよね? ご主人様」
「……それもそうだな。お前との関係はこれくらいの距離感がいいしな」
友達で使い魔で。いつまで続くかは知らないが、終わるまではこの関係が続いてほしいと思うくらいには気に入っているから。
「それじゃ、そろそろ俺は行くぜ? あいつのことだから家にいるとは思うんだが、いなけりゃ探さないといけないからな」
「?……ああ、あの人たちも誘うんですか」
「旦那もいろいろ動いてくれてるが、それに頼りっぱなしってわけにもいかないしな」
せめて旦那が出来ない事くらいはこっちで手を打っておくべきだろう。
「はい、頑張ってくださいご主人様」
「本当、欠片も敬いの心が入ってねぇご主人様呼びだなー」
別にそれでいいんだけどな。
ちなみに。この後ギルドの酒場では俺がロリーサに無理やりご主人様呼びをさせているという噂が広がったらしい。
地獄に誘うというパワーワード。
アンケートへのご協力ありがとうございました。