──ダスト視点──
──『竜失事件』。それは俺が生まれるよりも前に起こった出来事だ。
当時世界に存在していた上位種や中位種のドラゴンがすべてこの世界からいなくなった事件。
それは有利だった魔王軍との戦いを絶望的なまでの不利に陥れ、元よりドラゴンやドラゴン使いに頼らず他国と互角の戦力を有していた勇者の国にすべてを任せることとなった。
原因は、腐った国の上層部に頭のいい上位ドラゴンたちが呆れ見限ったというのが通説だが、実際の所は分かっていない。
ベルゼルグ以外の王族や貴族が腐っていようが、人類すべてが腐ってるなんてことはないし、それだけでドラゴンが人を見捨てるとは俺には思えないんだよな。ベルゼルグの二代目国王の生存時期を考えれば、死魔が子竜の槍……『竜呪の槍』なんてものを作り始めた時期にも一致するし。国の腐敗が理由の一つかもしれないが、他にも何か理由があるんじゃないかと思っている。
なにはともあれ竜失事件を経て世界には上位種のドラゴンは長い間いなかった。中位種のドラゴンすら珍しいくらいだったんだが……
「なーに? ライン。難しい顔してお姉ちゃんのこと見て」
「いなかったんだがなぁ……」
目の前にいる俺の相棒は自力で人化したらしい。それはドラゴンが上位種へと至った証だ。
「やっぱり私が上位ドラゴンになったって信じられない?」
「そりゃそーだろ。普通ドラゴンが上位種になるのは400年以上時を重ねた場合だ。どんなに早くても300年…………ミネアは170歳くらいだったろ」
俺が人化のスキルを覚えてる関係上、普通に当てはまらない状況なのは分かっているが、それにしても長い間世界中で失われていた上位ドラゴンという存在だ。簡単に信じられるものじゃない。
「もう……ライン? 乙女の年齢を勝手にばらすのはダメだと思うんだけど?」
「きっちりとした年齢は俺も知らねぇし、人に比べればドラゴンは永遠の乙女みたいなもんだろ」
強すぎる魔力の影響か成長はするが老化はしないのがドラゴンだ。流石に寿命がないって訳はないんだろうが、寿命を迎える前にドラゴンはどこか行ってしまうため、人がドラゴンの寿命に立ち会ったという記録はない。
「永遠の乙女…………ダストさん、人間がドラゴンになる方法ってないんですか?」
「ねぇよ。どっかの貧乏店主さんみたいなこと考えてんじゃねぇよルナ」
十分すぎるほど若返ってんだからそれで我慢しろというか、そんなこと考えてる暇あったら今度こそ行き遅れになる前に男見つけろ。
リッチーで歳を取らないから行き遅れじゃありませんとかあの人見たいなこと言いだしたら色んな意味で手遅れだから。
「まぁいいや。で? 人化出来るようになった以外でなんか変わったことあんのか?」
「んー……私一人で戦う時は前よりもかなり強くなってると思う。以前よりも自分の力を上手く使えるようになってるから」
「なるほどな」
上位種というのはドラゴンの完成形だ。下位種や中位種だった頃よりも自分の力を上手く利用できるようになってるのは当然かもしれない。
「でも、ラインと一緒に戦うならそんなに変わらないかな?」
「それはそうだろうな。お前の引き出せる力は全部引き出してたわけだし」
結局ドラゴンの潜在的な力というのは過ごした年月に比例するんだろう。その潜在的な力をどこまで扱えるかがドラゴンの強さであり、上位種になればその扱い方が劇的に上がるらしい。
そしてドラゴンが扱えない部分の力を引き出し、さらに強化するのがドラゴン使いだ。別にミネアの潜在的な力が増えているのでないなら、今までとそう変わらない。
「でも、ラインの負担は大分軽くなるはずよ。今までラインに制御してもらってたとこでも自分で制御できる範囲が増えてるから。特にジハードの力を使う場合にはね」
「それが一番大きそうだな。今までは暴走しそうになるお前らをこっちでほとんど制御してた。ミネアの負担だけでも軽くなれば大分違う」
ジハードが扱えるのが下位種並の力でミネアが扱えるのが中位種並までの力。それ以上の力を引き出すにはドラゴン使いである俺が制御する必要があった。ジハードの力でどこまでも強くなるといってもそれを制御するのは生身である俺だ。暴走前提ならともかく限界は当然ある。
ミネアの方が安定するならジハードの制御の方に注力も出来るし、大分俺の負担は減りそうだな。
「──って、なんだよ、ルナ。なんか信じられないものを見るような顔しやがって」
「いえ……すっかり忘れてましたけど、ダストさんって最年少ドラゴンナイトだったんだなぁって」
「何を今更なこと言ってんだよ」
別にその称号と実績に拘りなんてねぇが、俺の正体をずっと隠してきたルナに言われても何言ってんだこいつとしか思えない。
「『実績』はよく知ってますが、それを実感する出来事は少ないというか…………普段のチンピラさんを知っていると『実績』とのギャップが凄すぎて現実感がないというか」
「あー……分かる分かる。私も普段のラインと一緒に戦う時のラインが同一人物とは思えないし。普段はただのろくでなしなドラゴンバカだからね」
「おいこらミネア。お前ぜってぇそれ褒めてねぇだろ?」
ルナも困惑が強いだけで馬鹿にしてる気がする。
「褒めてるわよ? だって私は戦ってるラインの事も好きだけど、それ以上にバカやってるラインのことが好きだから」
「まぁ、私も普段のダストさんの方が見てて安心はしますね」
「……なんだよお前ら。煽てたって何も出ねぇぞ?」
全く俺がその程度のことで乗せられると思ってのかね?
「それで、最高級ドラゴンフードとバニルの旦那とのデートのセッティングでいいか?」
「私の弟チョロ過ぎない?」
「ろくでなしで捻くれてる割には素直というか単純というか……意外と根はまともなんですかね?」
「まぁ、ラインは母親の血の影響強いし、口が悪いだけで小さい頃は結構可愛かったのよ? それはそれとしてやっぱりシェイカー家の血筋は感じてたけど」
「つまり?」
「根はまともだけど、ろくでなしの才能もきっちりあったってこと」
ろくでなしの才能ねぇ……。まぁ、姫さんの影響で堅苦しい生き方を捨てられたのは確かだが、それがなくても、両親が生きてたなら父さんの影響でそこそこのろくでなしにはなってた気がするな。母さんがまともだったしチンピラにまではなってないだろうが。
逆に両親が死んだあと…………ミネアと一緒になるために真面目な騎士になって、その後姫さんと会わなければ案外ずっと真面目な騎士様をやってたのかもしれない。
(…………、そんなのつまんねぇけどな)
それに、姫さんに会えたから吹っ切れただけで、あの国の在り方にはずっと疑問を持っていた。騎士としての生き様がそれに蓋をしていただけで…………もしもあのままなら俺は不幸になってただろう。
「結局なるべくしてなったということですか?」
「出会い次第でろくでなしにも真面目君にもどっちにもなったかもしれないって事。……ま、私はラインがろくでなしになってくれて嬉しいけどね?」
片目をつぶり面白そうな顔して俺を見るミネア。
「…………物好きなドラゴンだよ、ほんとお前は」
「だって、私はシェイカー家のドラゴン、ミネア=シェイカーだもの。笑えるくらいろくでなしでドラゴンバカなシェイカー家が大好きなシルバードラゴン。それが私なんだから」
本当に物好きで…………俺にはもったいない相棒で家族だよ。
「さてと…………一旦帰るか。ゆんゆんにギルドのこと報告しねぇと」
義父さんたちのギルドマスターとの会談はまだ終わらないみてぇだし。問い詰めるのは家に帰ってきてからでも問題ないだろう。
「帰るんですか? どうせならバニルさんに挨拶してから帰ればいいのに」
「ああ、まだ旦那はアクセルに帰ってねぇのか」
ギルドが出来て三日も経ってねぇんだ。そりゃ黒幕の旦那もまだ残ってて当然か。
「? いえ、帰るも何もバニルさん達も紅魔の里へ引っ越して来たじゃないですか」
「……………………」
「え? なんですか、その顔。まさかその話も聞いてなかったとか?」
「…………、おい、ルナ。旦那はどこにいる?」
「スタッフルームの方で相談屋の準備をして──」
ルナの言葉を最後まで待たずに俺はギルドの奥の部屋へと駆け込む。
「ふむ? 帰ったかろくでなしのドラゴン使いよ」
そこにはスーツ姿でトンカチを握る仮面の悪魔が当たり前のようにあった。
「…………、準備って自分で相談屋の受付作ってんのかよ」
「うむ。どこぞの貧乏店主がガス切れになってな。ギルドを不眠不休の三日で作らせたのはいいが、我輩の店を作る前に体が薄くなってしまったのだ」
「…………、旦那のウィズさんの扱いは本当いつも通りだなぁ」
相変わらず愛情あふれまくってんな──
「──って、そんな話をしたいんじゃなくてだな!」
あまりにいつも通りな旦那の態度とスーツにトンカチなんて言う頓珍漢な姿に要件一瞬忘れちまった。
「まぁ、落ち着くがよい。心配せずとも汝の疑問にはきっちりと答えよう。何と言っても汝はこの里の長の夫。ご近所づきあいを大事にすると評判である我輩である。仮にこの場に汝が来ずとも今日中に汝らの家に挨拶する予定であった」
「本当かよ。いや悪魔の旦那が嘘をつくとは思ってねぇが……」
理屈では分かっていても胡散臭さが天井突破してるのがバニルの旦那だ。感情的な所で信じられないというか。
「本当であるぞ。お腹に汝の子を宿したという設定の王女のお付きのまともな方に化けて挨拶に行く予定だった」
「新婚夫婦の家にそれは悪魔すぎねぇかなぁ!」
義理の両親もいる家にそれは全く洒落になってねぇ!
「悪魔の我輩にそんなこと言われても。心配せずとも汝の妻はもちろんその両親や野菜好きの娘などもそんな設定信じないであろう」
「…………その心は?」
やっぱり俺の誠実さを知っているからかね?
「汝にそんな器用さがあるわけないし、そもそもそんなにモテるとも思われておらぬからな」
「そんなこったろうと思ったよ!」
ゆんゆん娶ったのすら未だに信じない奴いるくらいだからな……。
「…………、まぁ、それがあり得ぬ未来ではないと知っている二人は汝のことを信じている。これくらいのことでは酷すぎることにならないのだから、むしろこれくらいで許す我輩を感謝して欲しいものだ」
「何を感謝すればいいのかは分からないが…………手加減してくれた理由は何だ?」
「我輩なりの新婚祝いである」
「うわー……マジでうれしすぎて泣きそう」
本当、ギルドに来てよかったぜ。
「さて、そろそろ本題に入るか。我輩たち……『ウィズ魔道具店』が紅魔の里に移転してきた理由であるか。一言で言うなら『限界』になったからである」
「『限界』? 店の赤字が洒落にならなくなったとかか?」
「むしろ我輩が来てからでも洒落で済むような日はなかったのだが……」
旦那が来てからでそれって、本当旦那が来る前はどうしてたんだよウィズさん……。
「じゃあ、どういう意味で『限界』なんだ?」
「一つはゼーレシルトである。どこぞの駄女神に戯れに襲われ残機を減らされるわ、謎の盗賊に奇襲を受け残機を減らされるわ、幸運を司る死神に何故か襲われて残機を減らされるわと、我輩が残機を分けてやるにしてもいい加減限界が来ていてな。一日に7つ残機が回復するとはいえ、あの街にいれば1年ほどで我輩の残機がなくなりかねない」
「うん、いろいろとツッコミ所はあるが言いたいことは分かった」
本当ゼーレシルトの兄貴は苦労してんなぁ……。素直に地獄に帰ればいいのに、いまだに地上に残ってるのは尊敬するわ。どこぞのパッド女神はあんなに見た目は可愛い着ぐるみを執拗に追い詰めなくてもいいだろうに。
「それで? ゼーレシルトの兄貴は今どうしてんだ?」
「我輩の代わりに里の住民へあいさつ回りをしておる」
「…………、あいさつ回りをする着ぐるみかぁ……」
シュールすぎる。
「ちなみにバニルさん人形とバニル仮面を手土産として回っている」
「一応俺の嫁さんが長をしている里で変なもん配らねぇでくれねぇかなぁ!?」
「失敬であるな。里の住民はみな大喜びしているとゼーレシルトから報告を受けているというのに」
そういや、この里自体変人の集まりだったわ。
「で? 旦那が同朋に優しいのは知ってるが、それだけでウィズさんも一緒に来るはずはねぇよな?」
それだけが理由なら、旦那は命令してでもゼーレシルトの兄貴を地獄に帰してただろう。確かに旦那は同朋である悪魔に優しいが、その事情にウィズさんを巻き込むことはない。
むしろ優しいだけで、基本的には自分の都合で配下の悪魔を振り回すのが旦那だ。
「もう一つの理由はあの街でウィズが魔道具店を続けること自体の『限界』である」
「…………、ああ、そうか。ウィズさんは『凄腕の元冒険者』だもんな」
それがアクセルの街におけるウィズさんの評価だ。かつて『氷の魔女』と呼ばれた元冒険者にして貧乏店主。
「うむ。けして『
「なんだかんだで俺が冒険者始めたころからある店だからな。そろそろ怪しまれるタイミングか」
まだ誤魔化せないほどではないんだろうが、逆に言えば誤魔化しが必要になってくる頃だろう。
ただの人間がいつまでも歳を取らないなんてことはありえないのだから。
…………、ありえねぇんだよなぁ。
「元よりあの街で店を出していたのは、第一にウィズが冒険者の仲間の帰る場所を作りたかったからである。既にその目的は果たせたと言ってもいい」
「ああ、もうウィズさんの昔の仲間は冒険者やめたり死んでたりするんだっけ? 一度でも再会できてんだったら確かにこだわる必要はないか」
あんまり詳しい話は知らないが、ちょこっとそんな話を聞いた覚えがある。
「うむ。あの街で店を出していた第一の理由が果たされ、第二の理由がここにいるのだ。あの街で店を続けるのに無理が出る以上、この里に移転するのは当然とも言えよう」
「第二の理由? ああ、ルナか。そりゃ旦那の美味しいご飯がこっちに来るってんだから一緒に来るわな」
本当、ルナは旦那に愛されてんな。仮に俺がルナの立場でも欠片も嬉しくない愛だが。
「…………、うむ。あの若返った行き遅れ受付嬢がこちらに来たのも理由の一つであるのは間違いないな」
「若返ってんだから行き遅れ言うのはやめてやれよ、旦那……」
ガキっぽいし今のところは行き遅れオーラ出してないから。…………5年後はまた行き遅れオーラ出してると思うけど。
「あの娘を揶揄うのは我輩の使命である。それをやめろというのであれば、代わりの生贄に汝になって──」
「──思う存分ルナを揶揄って悪感情を搾り取ってくれよ旦那。なんなら俺も協力するぜ!」
「汝のそういう所は悪魔として好きにならざるを得ない。やはり汝は人間にしておくのが惜しい人間だ」
褒められてんだろうが欠片も褒められてる気がしない。
というかルナを揶揄うのが使命って…………ルナの奴、本当に愛されてんな…………強く生きろよ。
「そういや、旦那にあったら聞こうと思ってたことがあったんだよ」
「ふむ……『悪夢』のことか?」
「ああ、ナイトメア…………あの透明幼女を何でロリーサの奴に預けたんだ?」
リリスと同格ってんなら爵位や階級はともかくかなり厄介な悪魔なのは間違いない。というか、地上でモンスターとして知られる馬の中身が全部あの幼女だってんだから、それだけでやばい存在だろう。
「その辺りの説明はリリスに聞くがよい。元より我輩はあれの願いを聞き届けただけにすぎぬ」
「リリスの願いねぇ…………いまいちあいつの企みだと聞くと信用ならねぇんだよな」
俺らに敵対するつもりがないのは分かってんだが、最初の出会いが出会いだったし。ある意味旦那よりも悪魔らしい悪魔だからな。
「心配せずとも悪魔は自分よりも強いもの従うのが性である。汝が我輩と敵対することがない限りいらぬ心配であろう」
「つっても、最初あった時普通に俺らのこと餌にしようとしたんだぜ?」
旦那の紹介があってそれだってんだから油断はできない。
「それは汝の強さを理解する前の話であろう。契約までしているのだ、少しは信用してやるがよい」
「旦那がそこまで言うなら善処するけどよ……」
苦手意識はなくならねぇんだよなぁ。というか、サキュバスって普通に人間の男の天敵だからな。アクセルの街にいると刹那で忘れるけど。
「汝は相変わらず自己評価が低いというか…………曲がりなりにも公爵級悪魔を倒したのだ。それ以下の悪魔に怯える必要はないのである」
「つっても、死魔は公爵級言っても相性が良かったから勝てただけだしなぁ。ジハードがいなけりゃ絶対勝てなかったし」
レギオンという能力は確かに脅威だったが、ジハードの能力はそれ以上だ。それに死魔自身の本当の望みがあったからこそ滅ぼせたのも大きい。
「…………、『切り札』を使えば話は別であろう?」
「旦那も知っての通り、その『切り札』は死んでも切りたくねぇんだよ。…………俺はちゃんと死にてぇんだから」
「ならばよい。もしも汝が『切り札』を使えば性悪魔王と創造神が仲良く殺しに来るそうだからな」
「…………、なんだって?」
「神魔のトップがそろって汝を全力で殺しに来るそうだから、使うつもりならそれを覚悟して使うがよい」
………………いやいや、え? 流石に冗談だよな?
「残念ながら嘘はもちろん冗談でもない」
「えー…………」
いや、まぁ、確かにエンシェントドラゴンと契約するって神魔とドラゴンのパワーバランス崩すかもしれねぇけど。だとしても神魔のトップが協力するレベルの事か?
「それでも…………汝は必要があれば『切り札』を使うのだろう?」
「…………、ま、必要ならな」
たとえ自分が殺される運命だとしても。あいつらを……大切な家族を守るためなら受け入れるしかない。
「心配せずとも、確実に殺されるというわけでもあるまい。世界を自力で越えられるあのオオトカゲと汝が契約するのだ。世界規模で逃げ続ければいい」
「異世界転移を繰り返す生活かぁ…………って、それもともとエンシェントドラゴンとの契約する時の条件だしあんまり変わんねぇじゃねぇか」
世界を旅するエンシェントドラゴンについていく。それが本契約するための条件だ。……つまり、俺はこの世界に…………あいつらと一緒にいれなくなる。
「それを変わらないと言える汝は相変わらず狂っているな。少しはぼっち娘に更生されたと思ったが……」
「変わんねぇよ。…………すぐに殺されるんじゃねぇのなら、逆にこっちが倒せるくらい強くなればいいだけだ」
伝説に謡われる古龍と契約するんだ。神魔のトップくらい倒せるように強くならなきゃ嘘だろう。
「…………、汝のそれは楽観に過ぎるがな。だが…………なるほど。あれが警戒するのもあながち間違いでもないのか」
「なんだよ、旦那。面白そうな顔して。なんかおかしなこと言ったか?」
にやりと笑う旦那は、アクセルの街で何度も見てきたそれだ。この顔について行って俺はいつも旦那と楽しい日々を過ごしてきた。
紅魔の里に来て、もうそれとはお別れだと思ってたんだが…………そうか、ここでもまだそれは続くのか。
「いや、汝はそれでいい。それでこそ我輩の認める数少ない人間である」
「それでいいと言われてもそれがどれか分からないんだが……」
いつも通りでいいって事かね?
「汝らは本当に我輩を退屈させない。流石は我輩の友と言ったところであるか」
「そーだな…………って、は!? ゆんゆんはともかく俺も旦那のダチなのか!?」
ゆんゆんは旦那と友達契約してるしそりゃ、ダチだろうけど、俺はそんな契約した覚えはないぞ?
「何を驚いているのだ。我輩と汝の関係を友達と言わずして何だというのだ?」
「いや、親分と子分とかそんなんだとばかり……」
だから俺は旦那の事『旦那』と呼んでるわけで。
「はぁ…………。汝は我輩の認める数少ない対等な存在だ。昔のチンピラをしていた頃ならともかくドラゴン使いへと戻った汝は、そう認められるだけの力はあるのだ」
「まぁ、俺はともかく俺の相棒たちは旦那にも負けないけどよ……」
そんな殊勝なことを言う悪魔だっけ?
「てことで、旦那。ちょっと何を考えてるか素直に教えてくれね?」
旦那の言葉に嘘はないんだろう。でも、旦那の性格を考えれば絶対それだけじゃない。
「残念ながら今は秘密である。心配せずとも汝の損になる契約ではない。むしろ見通す悪魔であり地獄の公爵である我輩と友達になれるのだ。お得であろう?」
「ゆんゆん見てたらお得と言われても首を傾げるが…………まぁ、俺には確かに損はねぇか」
ゆんゆんは友達って言葉で利用されまくってた気がするが…………それでも楽しそうではあった。
そもそも俺は旦那の事が大好きだから。多少の損があろうと友達になりたいに決まっている。
「では、契約成立であるな。これより我輩と汝は正式に友達である」
「おう。…………つっても、俺と旦那の何かが変わるって訳でもないよな」
差し出された旦那の大きな手を握りながらそう思う。ただ今までの関係に名前がついただけだろう。
「うむ。今後も汝には我輩の悪だくみに付き合ってもらうつもりだ」
「んで、俺は旦那に儲け話を持ってくればいいんだろ? 分かってるぜ」
それがきっと俺と旦那の関係だから。契約しようがしまいがそこはきっとずっと変わらないんだろう。
「本当に…………汝のそういう所は悪魔として好きならざるを得ない」
「おう。俺も旦那のそういう所大好きだぜ?」
ダチな大悪魔との楽しい日々は、終わらずこれからも続くらしかった。
可愛い新妻を家において仮面の悪魔とイチャイチャするとかダストさんは狂ってますね。