どらごんたらしver.このすば   作:ろくでなしぼっち

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新生活3

「うーん……結局、この子のことはリリスさんに話を聞かないとよく分かりませんね」

 

 暇そうにしてたダス君を追い出してから残った3人での相談。その一番焦点はいきなり現れた悪魔の幼女……メアちゃんのことだ。

 きちんとした肉体もなくハーちゃんよりも小さなこの子を、今後どう面倒を見ればいいのか。新米母親の私たちじゃあおいやハーちゃんの面倒を見るだけでも結構大変だし、お母さんが手伝ってくれると考えても、族長の仕事と併せて考えればやっぱり大変だ。

 それに大人しそうに見えて手のかからないように見えてもその実は悪魔。それも人々に悪夢を見せて回る存在だと言うんだから、はいそうですかと面倒を見ていいのかも微妙なところだ。

 ……興味深そうにメアちゃんへ手を伸ばすハーちゃんにびくっとしてロリーサちゃんの後ろに隠れてるこの子がそんな危ない存在だとはどうしても思えないけど。

 

「じゃあ、行きますか、城へ」

「そうしよっか。問題はどうやって行くかだけど……」

 

 ついこの間まで住んでいた(未だに私物は向こうにあるから今も住んでいると言えなくもないんだけど)空飛ぶお城。非常識を絵に描いたようなその建築物はこの家の真上を姿も隠さず浮遊している。ちなみに日が当たらないと主婦からは不評の声があるけれど、そんな不評の声を上げてる主婦も含めて里の人たちは空飛ぶお城のロマンに熱を上げている。里の新たな観光名所として普通に受け入れられつつあたり、里の非常識さと外からの里への評価がうかがえる。

 それで問題と言えば、今私たちにはその城へと行く方法がないことだ。普段はミネアさんやハーちゃんに竜化してもらって飛んでいくんだけど、ダス君がいないと竜化はできないし、そっちの方法じゃ無理だ。

 

「ロリーサちゃん、一人でリリスさんの所に聞きに行ける?」

 

 でも、サキュバスであるロリーサちゃんなら別に問題はない。自分で飛べるし。初めて城に行った時もロリーサちゃんだけは自力できたし。

 それにもともとこれはロリーサちゃんが持ってきた問題だ。友達として手伝えることはもちろん手伝うけど、主体はロリーサちゃんの方で動くべきだと思う。

 

「嫌です」

「…………」

ひふぁひひふぁひ(いたいいたい)

「わがままを言うのはこの口かなー?」

「だって、仕方ないじゃないですか! リリス様は怖いんです! 本当に怖いんですよ!」

 

 私の手から逃れて叫ぶロリーサちゃんは本当に必死だ。言葉通りリリスさんのことが怖いんだろう。

 普通(?)のサキュバスなロリーサちゃんにとってサキュバスクイーンなリリスさんが雲の上な存在なのは間違いないし、怖がる気持ちも分からないではないんだけど。というか、立場とか抜きにしても最初の出会いの件で私もリリスさんの事怖いし。あの時ダス君がちゃんと守ってくれなかったら酷いことになってたんじゃないかとも思う。

 

「でも……怖いだけじゃないよね?」

 

 でも、ロリーサちゃんにとってリリスさんが怖いだけの存在だと私は思わない。

 

「それは……確かに尊敬はしてますけど……」

「だよね」

 

 リリスさんについて回っているロリーサちゃん。その様子は確かに怖がっていたけれど、嫌がっているようにも見えなかった。

 

「という訳で、ロリーサちゃん一人で行けるよね?」

「行けません」

「………………」

「む、無理なものは無理ですからね! いくら頬っぺたを引っ張られようと屈しませんよ!」

 

 ほっぺたを守りながらも悲痛な叫びをするロリーサちゃん。なんだか私がいじめてるみたいだからやめてほしい。ちょっとわがままの反省をしてもらって、もちもちの頬っぺたを味合わせてもらいたいだけなのに。

 

「はぁ……ゆんゆん? とりあえず、ロリーサが何をそんなに嫌がってるのか聞いてみたら?」

「リーンさん。……確かに、そうですね」

「それで? ロリーサは何をそんなに嫌がってるの? あたしもいつものロリーサならそんなに嫌がらないと思うんだけど」

 

 そうだよね。ここまで嫌がるんだから何か特別な理由があるはずだ。

 

「いえ、リリス様が怖いので一人で行くのが嫌なだけですよ? 心細いので誰かついてきてほしいなーって。……って、なんですか!? なんで二人して怖い顔して近いづいて──」

 

 

「はぁ……二人ともダストの影響受けて性格悪くなってない?」

「え!? ロリーサちゃんはともかく私もですか!?」

「ともかくってなんですか! 私は前と変わってな……あれ? でも悪魔としては性格悪くなってるのって褒め言葉なのかな?」

 

 首をかしげてるロリーサちゃんは放っておくにしても、私がダス君に影響されて性格悪くなってるなんてこと……まぁ、普通にありそうだけど。前にダス君にも同じようなこと言われたし、あの人の影響を受けてるのは間違いないと思う。

 でも、その影響は悪いだけのものとは思えないんだよね。

 

「…………、まぁ、ロリーサはともかく、ゆんゆんは今がちょうどいいくらいか。前は遠慮し過ぎなくらいだったし」

「あのー……お二人の私に対する扱いが雑になってる気がするのは気のせいでしょうか……?」

「サキュバスに対する女性冒険者の対応と比べたら優しいと思うけど?」

「夫の精気を狙うサキュバスに対する妻の対応と考えたら優しすぎると思うけど?」

「すみません、謝りますから二人して手をにぎにぎして近づくのはやめてください」

 

 本当、友達じゃなければとっくの昔にライト・オブ・セイバーなんだからね。

 ……まぁ、友達じゃなくてもダス君が大事にしてる存在だから本当にそんなことはできないんだろうけど。

 

 

 

 

 

「けど、本当にお二人はダストさんのことが好き?ですよね。いまいち人間の……特に女性の方のそういう気持ちって理解できないんですけど」

「流石に好きじゃなきゃあんなろくでなしさんと結婚はしな…………くもないのかな?」

 

 現在生きてる男の人の中じゃカズマさんに次いで功績を積んでるし、歴史上で見ても10の指には間違いなく入る。ろくでなしであることを差し引いてもダス君と結婚したいって人は結構いそうだ。

 功績を抜きにしてもその槍使いとしての才能は世界有数でドラゴン使いとしての才能は史上最高クラスだから、その血を取り入れたいって貴族や王族は多いらしいし…………あれ? もしかして私って結構な人から羨ましがられる立場なのかな? そういう所は全然意識してなかったというかむしろ気後れする原因で結婚の邪魔なくらいだったんだけど。

 

「…………ま、あの馬鹿の本当の良さを分かってあげられる奴は少ないだろうしね。あたしたちくらいは好きでいてあげないと…………って、何よ二人とも。信じられないものを見るような顔して」

「いえ、リーンさんの言うことは全く持って同意なんですが……」

「ツンデレなリーンさんがそんなに素直なことを言うなんて…………実はバニル様が化けてますか?」

 

 確かに。バレバレだったとはいえリーンさんならダスくんへの好意をこんなに簡単に認めるなんてことなかったし、いつの間にかバニルさんと入れ替わってたと考えた方がしっくりくる。

 

「おっけー、分かった。喧嘩売ってるのね。ロリーサは頬っぺた死ぬほど引っ張って、ゆんゆんは笑い死ぬくらいくすぐってあげるから並んでこっち来なさい」

 

 閑話休題。

 

 

 

「──ということで、一人で行くのが嫌なロリーサちゃんには頑張って私たちを持ち上げて飛んで行ってもらおうか」

 

 変化の魔法で羽を生やして『トルネード』に乗って飛ぶ方法も考えたけど、前に空飛ぶことに憧れてやった時は失敗したし、当然ながらすごく痛かった。バニルさん曰く人間は羽を生やしたくらいじゃ飛ぶようにできてないみたいだし、魔力を使って飛べるロリーサちゃんに頑張ってもらうしかない。

 

「いえ…………『たち』って何ですか? 一人でもきついのにゆんゆんさんとリーンさんを持ち上げて飛ぶとか無理ですよ?」

「大丈夫大丈夫ロリーサちゃんはやればできる子だから」

 

 多分。

 

「リリス様みたいな無茶ぶりとダストさんみたいな適当な励ましはやめてください! 無理なものは無理ですから!」

「むぅ…………ちょっと限界超えたら行けそうじゃない?」

「限界は超えられないから限界なんですよ…………。ダストさんみたいにちょくちょく世界の限界すら超えてる方がおかしいんです」

 

 あれは私もおかしいと思うけど。でも自分の限界くらいは超えてなんぼだと思う。

 

「…………ダストさんもあれですけど、ゆんゆんさんもゆんゆんさんで結構価値観おかしいですよね?」

「うん。よく分からないけどそのジト目はなんだか傷つくからやめて欲しいかな……」

 

 というかダス君は置いとくにしても悪魔のロリーサちゃんにおかしいって言われるほどとは思えないんだけどなぁ……。

 

「はぁ…………とりあえず、あたしは留守番してるからゆんゆんがロリーサと一緒に行けばいいんじゃない?」

「そうするしかないですかね」

 

 私もリリスさんは苦手だし本当はみんなで行きたかったけど。

 

「それじゃあ、行こうか」

「…………はい、行くのはいいんですが……」

 

 そう言いながらも動こうとしないロリーサちゃん。一体どうしたんだろう?

 

「はぁぁぁぁ…………ゆんゆん? とりあえず、その手に抱いてる娘をこっちに渡そうか」

「? なんでですか?」

「いや、なんでも何も…………まさかあおいも一緒に連れて行く気?」

「はい。もちろんあおいやハーちゃんも一緒ですよ?」

「…………ロリーサ?」

「もちろん無理ですよ?」

「だよね。ということで、ゆんゆん。あおいとジハードちゃんとメアちゃんはあたしが面倒みるから大人しく渡しなさい」

「酷い! やっと再会できた母娘を引き離そうとするなんてリーンさんは鬼ですか!?」

「高々三日ぶりの再会で何を言ってるというか…………どっちかというと鬼はゆんゆんの方じゃないかなぁ……」

 

 結局。私は泣く泣くあおいとハーちゃんと別れ、ロリーサちゃんと一緒に空飛ぶ城へと向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

「『ライトニングブレア』」

 

 城の空中庭園。息絶え絶えのロリーサちゃんと一緒に降り立った所で、私は魔法が発動する前の魔力の高ぶりを感じる。

 それが魔法へと変化する一瞬のタイミングに間に合わせて私は一つの魔法を完成させた。

 

「『マジックキャンセラ』」

 

 それは魔法を消し去る魔法。対魔法使いの切り札だ。

 

「ふーん…………最上位の属性魔法も消せるようになったんだ。前に手合わせしたときよりちゃんと強くなってるみたいね」

「…………アリスさん。いきなりなんですか?」

 

 アリスさんが発動させようとした魔法は最上位に位置する雷属性の魔法。爆発魔法と同格とされる魔法だ。まともに喰らえばロリーサちゃんはもちろん私だって無事では済まない。無事で済むのはどこかのチンピラさんや某貴族のお嬢様くらいだ。

 

「別に。ただの挨拶よ。当てる気はなかったわ」

「本当ですか……?」

 

 確かに殺意や敵意は感じなかったけど。だとしてもいきなり最上位魔法発動させるとか……。

 

「本当よ。……でも、そこまでその魔法を使いこなしてるなら、魔法使いにとっては悪夢みたいな存在ね、あなた」

「一応、爆裂魔法以外の魔法なら発動前に消せるようになったと思ってますよ」

 

 万能に見える『マジックキャンセラ』だけど、その実発動後には魔法を消せないという弱点がある。『リフレクト』や『ディスペル・マジック』が発動前提の効果に対して、『マジックキャンセラ』はそもそも発動させないという効果だ。だからこそ、『マジックキャンセラ』は相手よりも早く発動させないといけないし、相手が魔法を発動させるタイミングを掴まないといけない。

 実戦で成功させるにために結構な苦労をしたけど、それに見合う私の『切り札』と言えるものにはなったと思う。

 

「ま、魔法使いじゃない私は別に怖くないけど。……でも、ロリーサと一緒なら私も苦戦しそうね。どうする? 面白そうだし二対一で手合わせしない?」

 

 私が魔法を消し去り、ロリーサちゃんが夢でアリスさんに幻覚を見せれば確かにいい勝負は出来そうだ。問題はロリーサちゃんがアリスさんの闘気に当てられて使い物にならなそうなことだけど。

 ……地獄で結構な修羅場をくぐったはずだけど、相変わらずロリーサちゃんはアリスさんのことが怖いらしい。まぁ、私も平気かと言われたら違うけど。

 地獄から帰ってからこっちアリスさんは一つか二つ格が上がってる感じがする。ドラゴンの力を借りても今の私じゃ一人では勝負にならなそうだ。これで本職は魔物使いだっていうんだから本当に出鱈目すぎる。

 

「すみません、今日はリリスさんに会いに来たので、手合わせはまた今度でお願いします」

「そ。まぁいいわ。リリスなら城の掃除をしてたから、適当に探せば見つかるわよ」

「ありがとうございます」

 

 私たちに興味を失ったのか。私のお礼の言葉も最後まで待たずにアリスさんはグリフォンに乗って空を飛んでいく。相変わらず所作のすべてが絵になる人だ。

 

「ふぇ~……びっくりしました。ゆんゆんさんはよく普通にアリス様と話ができますね」

「私も別に普通には話せてないというか…………苦手なのは苦手なんだけどね」

 

 今は敵対してないだけでいずれ人類最大の敵になるのが確定してるような人だ。アリスさんの部屋を覗く施設を観光施設としてた紅魔の里は個人的に恨みを持たれてるのもあるし。

 

「でも、苦手だからって逃げてたらいつまでもあの人には追い付けないから」

 

 地獄での出来事を経てあの人はまた強くなった。条件を整えれば間違いなく世界最強……条件が揃ってなくてもあの人に確実に勝てると言えるような人間は最高級のマナタイトをたくさん持った私の親友くらいかもしれない。

 

「…………追いつくつもりなんですか?」

「うん。当然でしょ? 私はベルゼルグの切り札である紅魔族の長で…………最年少ドラゴンナイトの妻なんだから」

 

 夫に守られるだけの妻になるなんてつもりは全くない。『双竜の指輪』のおかげで絶望的な差でもなくなっている。

 なら、研鑽し続けてればきっといつか追いつけるはずだ。

 

「やっぱり凄いですね、ゆんゆんさんは……」

「そうかな? 私が凄いならロリーサちゃんも凄いと思うけど……」

 

 ロリーサちゃんの夢を見せる力は本当に凄いと思う。

 

「リリス様の完全下位互換でしかありませんけどね……」

「それは…………そうかもしれないけど…………」

 

 サキュバスクイーンなあの夢魔さんが普通のサキュバスであるロリーサちゃんより凄いのはある意味当然だ。年若い方だと言うロリーサちゃんがそれに近しい力があるのは本当に凄いと思うんだけどなぁ。

 

「あなたはまだ、そんなことを言っているのですか。あなたは自分が思っている以上に特別だと何度も教えたはずですが……」

「リリスさん」

「り、リリス様!?」

 

 相も変わらずメイド服に身を包んだサキュバスの女王はため息交じりに私たちの元へ歩いてくる。

 

「い、いつから聞いていらっしゃったんですか!?」

「アリス様がグリフォンで飛び去ったあたりからですが? 気づいていなかったの? ゆんゆん様は気づいていらっしゃったようなのに……」

「え……?」

「えと……まぁ、リリスさんがいるなぁとは思ってたかな?」

 

 『マジックキャンセラ』を実戦レベルにするために魔力の流れを感じれるようになる必須だった。受肉してるとはいえその本質が精神生命体である悪魔は意識しなくてもその気配を感じ取りやすい部類だ。

 

「地獄での経験で少しは成長したかと思いましたが…………いつも言っているでしょう? ダスト様の使い魔として恥ずかしくないよう精進しなさいと」

「そんなこと言われても、普通のサキュバスの私にそんなこと出来るわけ……」

「言い訳はいいです。少しでも魔力の扱いに慣れるように城を百周飛んできなさい」

「…………え?」

「え?じゃありません。飛んできなさい」

 

 この空飛ぶお城。王城ほどではないけれど城と言うだけあって当然それなり以上の大きさはある。城の周りを一周するとなると結構な距離があるわけで、それを百周となると言うまでもなくアレだ。

 ただでさえ私を連れて飛んできて息も絶え絶えだったのを考えれば、相当きついだろう。

 

「…………嫌と言ったらどうなりますか?」

「上位の悪魔である私の命令が聞けないと? まぁ、言ってもいいですが、その場合は折檻──」

「──飛んできます!」

 

 リリスさんの言葉を最後まで聞かず嫌がってたのが嘘のような速さで飛んでいくロリーサちゃん。

 よっぽどリリスさんの折檻が怖いらしい。

 

「はぁ…………本当に申し訳ありません、ゆんゆん様。お見苦しい所を見せました」

「いえ、別に見苦しいとかそういうのは全然思わないんですが…………リリスさんってロリーサちゃんにだけ当たりが強いですよね?」

 

 基本的にはどんな相手にも畏まって対応してるのがリリスさんだ。サキュバスクイーンだからサキュバス相手だけなら強く接してるのかなと思ったけど、地獄での様子を見る限り普通のサキュバス相手でも畏まってはなくとも丁寧に接していた。例外は折檻する時とロリーサちゃんに接するときだけだ。

 

「あの子には強くなってもらわないと困りますから」

「? 困るって……どうしてですか?」

 

 もともとサキュバスは戦う力を持たない種族だ。例外はその長であるリリスさんとドラゴン使いと真名契約をしてるロリーサちゃんくらいで、それにしても直接的に戦う力はない。

 そんなわけだからむしろロリーサちゃんは普通のサキュバスとして考えれば破格の力を持ってるくらいだと思うんだけど……。

 

「あの子には私の後を継いでもらう予定ですので」

「はぁ、なるほど。確かにリリスさんの後を継ぐなら強くないと…………って、はい!?」

 

 継ぐって…………ロリーサちゃんがサキュバスクイーンになるということ!?

 

「今すぐではありませんが…………あの子の力が私を越えたらすぐにでも譲る予定です」

「えーと…………もしかしてロリーサちゃんってサキュバスの王女様とかだったんですか?」

 

 だとしたら結構失礼な扱いをしてたような気がする。頬っぺたつまんだり頬っぺた引っ張ったり頬っぺたムニムニしたり……そんなこと沢山してた気が……。

 

「いえ? あの子の生まれは普通ですよ。そもそもサキュバスは全て私の娘ですから、王女というのであれば私以外のサキュバスすべてが当てはまります」

「じゃあ、どうしてロリーサちゃんが?」

 

 サキュバスが全員リリスさんの娘というのは割と驚きの事実なんだけど、だとすればどうしてロリーサちゃんが後を継ぐという話になるんだろう?

 

「もちろんダスト様…………稀代のドラゴン使いとあの子が真名契約を結んだからですよ」

「えっと…………そんなに特別な事なんですか?」

 

 確かに真名契約をしてからのロリーサちゃんの成長は著しいけど。でも、それはダストさんと契約してるからで、ダストさんが死んだら元に戻るだけじゃないのかな。

 

「ドラゴン使いと真名契約するということはドラゴン使いが共有するドラゴンの魔力や生命力を与えられるということです」

「はい」

 

 だからこそ、ロリーサちゃんは普通のサキュバスよりも強く相手に夢を見せられる。

 

「ドラゴンの生命力…………つまりは高純度の精力を常に誰よりもあの子は与えられているのですよ」

「そうなんですか? その割にはロリーサちゃん、ダストさんから精力貰えない時はお腹減らしてますけど」

「それは食事をしていないですからね。気づいていないだけで今のあの子は点滴のように精力を与え続けられてますから、食事をせずとも餓死しない状況なのですよ」

 

 点滴? それが何かはよく分からないけど食事をしなければお腹は減るけど、真名契約で精力自体はきちんともらえてるってことかな。

 

「それで、高純度の精力を貰い続けてるロリーサちゃんは強くなるって事ですか?」

「はい。遠くない未来にあの子は私の力を超えるでしょう」

「はぁ、リリスさんをですか…………それは凄いですね」

 

 ダストさんをして戦いたくない言わしめるのがリリスさんだ。私も単純なステータスではリリスさんに負けてないと思うんだけど、実際に戦って勝てるようなイメージは沸かない。単純な強さとはまた別の次元の凄さを持つのがリリスさんだ。ある意味じゃおちょくるモードのバニルさんの無敵っぷりに通じるものがある。

 

 

 

「とにかく、リリスさんがロリーサちゃんに厳しいのは、早く強くなってもらいたいからなんですからね」

「はい。サキュバスという種族を背負う以上、中途半端な強さではいけませんから」

 

 そういう理由なら仕方ないのかな。ちょっとロリーサちゃんが可哀そうだと思うけど、これは必要な厳しさかもしれない。私も族長として紅魔を背負っているだけに、その責任の重さは分かってるつもりだ。

 

「ん…………もしかして、メアちゃんをロリーサちゃんに預けたのもその一環何ですか?」

 

 ロリーサちゃんが立派なサキュバスクイーンになるために必要だったりするんだろうか?

 

「そうですね。それも一つの理由です。同じ夢を司る悪魔として、悪夢であるあの子と交友を結ぶのは必ず利になるでしょう」

「それも…………ということは、他にも理由があるんですか?」

「あります。ありますが…………それを私の立場で言うことは叶いません」

 

 叶わないって…………バニルさんの命令だからとか?

 

「ただ言えるのは…………できれば、あの子の友達になってあげてください。あの子は悪夢という種族を全て背負っていますが…………その見た目通り幼い子供なのです」

「と、友達!? 友達になっていいんですか!」

 

 あんな可愛い子と友達になっていいって本当に?

 

「…………、いえ、その反応は流石に予想外と言いますか…………私とも友達になりますか?」

「なります!」

 

 今までリリスさんのこと怖い人だと思ってたけど、こんなに簡単に友達になってくれるとかすごくいい人かもしれない。

 

「…………ゆんゆん様は、何て言うかあれですね…………悪魔に騙される典型的なタイプですね」

「友達に騙されるなら本望ですよ?」

 

 本当に私が酷いことになりそうになればきっとダス君が助けてくれるし。それに悪魔と友達になるという意味は誰よりも分かってるつもりだ。

 

「えっと…………ゆんゆん様何というか…………重いですね」

「重いって何がですか?」

 

 特に何か変なこと言った覚えはないんだけど。

 

「いえ……はい。そんな感じであの子とも友達になっていただけたらありがたいです。それがあの子にとってもゆんゆん様達にとっても最善へと続くでしょうから」

「よく分かりませんけど友達が増えるなら喜んで」

 

 でも、どうやってメアちゃんと友達になろう?

 

「リリスさん、どんな感じでメアちゃんと友達になればいいと思います?」

「普通に友達になればいいと思いますが……」

「普通にやって友達が出来るわけないじゃないですか」

 

 普通で友達ができるなら私の人生こんなに苦労してない。

 

「いえ、あの…………はい。とりあえず先にダスト様に友達になってもらって、そこから紹介してもらうとかはどうでしょう?」

「それです! 完璧な作戦ですね!」

 

 流石はリリスさん。ここまで自然に友達になる方法を考え付くとか、伊達にサキュバスの女王様をやってない。

 

「普通とは……完璧とは一体……?」

 

 何故か微妙そうな顔をしているリリスさんを少し不思議に思いながらも、私はそれ以上に友達が増えることにわくわくしてるのだった。


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