どらごんたらしver.このすば   作:ろくでなしぼっち

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幸せの形

「落ち着いた? ゆんゆん」

「はい……ありがとうございます、リーンさん」

 

 リーンさんから受け取った回復ポーションを飲み干して。消費した体力を回復させた私は一息をつく。

 

「それで、二人は今どこにいますか?」

「今はお義母さんがダストと一緒に産湯につけてるよ」

 

 二度目の出産。二人の子が産声を上げているのを確認したところで私は意識を失ってしまっていた。

 

「ということは、私が意識を失っていた時間はそんなに長くなかったんですね」

「うん。2、3分だったかな?」

 

 ということはまだ産湯の途中かな。

 

「それじゃあ、私はお母さん手伝ってきますね」

「…………、あのね、ゆんゆん。あなたはついさっきまで気絶するような大変な思いをしてたの分かってる?」

「はい、大変でした……」

 

 これが二回目の出産じゃなかったら私は二人を生み終えるまで意識を保ててたか自信がない。…………まぁ、意識を失ってもすぐ痛みで起きてたんだろうけど。

 

「それで? ゆんゆんは何をするって?」

「今ならまだお母さんを手伝──」

「──大人しく寝てなさい!」

「えー……でも私まだ二人の事抱いてあげてないんですよ?」

 

 ダス君が抱いてるのを羨ましく思ったのが意識を失う前の最後の記憶だ。

 

「心配しなくてももうすぐ帰ってくるから、本当大人しくしてて……」

「リーンさんにそこまで言われたらそうしますけど…………なんだかリーンさん私のお母さんみたいですね」

「ただでさえあおいの面倒見るの大変で、これから二人も増えるのに流石におっきな子ども二人見る余裕はないわよ……」

 

 おっきな子ども二人…………私とダス君かな? ダス君は昔と比べたら大人しくなったけど、それはあくまで相対的な話で世間一般で見ればまだまだ子供っぽいというか…………問題児だもんね。

 いや、本当に出会った頃と比べると別人かと思うレベルでまともになってるんだけどね。

 

「けど、本当におとなしくしてないとダメですか? 今はもうそんなにきつくないですよ?」

「はぁ……それはロリーサが魔法で誤魔化してくれてるからでしょ?」

「あ、そういうことなんだ。ありがとね、ロリーサちゃん」

 

 ロリーサちゃんのおかげでつわりとかも結構楽だったもんね。サキュバスは女性の仇敵だと言われてるけど、案外共生できればいい関係を築けるのかもしれない。

 

「あはは…………確かに気分的な所は私の魔法でどうにかなりますけど、体力や気力の消費を考えれば立ち上がるのも億劫だと思うんですけど…………流石は紅魔族の族長さんですね」

「ポーションもらったからね」

「それだけで平気になるわけないでしょーが。はぁ……いい加減ゆんゆんも人間やめてきてるよね」

 

 そんなこと言われてもなぁ…………双竜の指輪のおかげでドラゴンの生命力分けてもらってるだけだから、私自身が人間やめてるって事はないと思うんだけど。

 めぐみんの方がよっぽど人間やめてるよね。

 

「そう言えば、ハーちゃんとあおいはどうしてます?」

「時間が時間だし二人は寝てるわね」

「さっき様子を見てきたらメアと一緒に重なって眠ってました」

「ハーちゃんとあおいはともかくメアちゃんって『悪夢』を司る悪魔だよね? 夜に寝てていいの?」

 

 というか、精神生命体である悪魔は本質的には眠りを必要としないはずなんだけど。

 

「まぁサキュバスもですが夢を司る悪魔は眠るのが好きですから。メアは力はともかく心は子どもそのものですし……」

「本当、リリスさんは何を考えてメアちゃんをロリーサちゃんに面倒見せてるんだろうね」

 

 なんだか最近は二人が本当の親子のようにしか見えないし、ハーちゃんやあおいとも姉妹のような感じになってるけど。

 あのリリスさんが意味のない事をするとは思えないし、今のこの関係にも何か意味があるんだろうか。

 

「それが分かれば苦労しないというか…………本当あの方は何を考えてるんでしょうか」

「本当にね」

「えっと……あたしはリリスさんとあんまり話したことないから分からないんだけど…………そんなに厄介な人なの?」

 

 まぁ、リリスさんって人当たりはいいし長く付き合ってないとその辺はよく分からないかな。

 

「そうですね。リリスさんって凄い美人さんじゃないですか」

「うん、サキュバスクイーンって言われるだけあって、女のあたしから見ても綺麗な人だと思う」

「そんなサキュバスクイーンなリリスさんを相手する時にダストさんがいつも警戒して気疲れしてるといえば分かるでしょうか」

「あー、うん。よく分かった。…………ロリーサもいろいろ大変なんだね」

「凄く今更というか…………一緒に暮らしだして何年目の気づきなんですか」

 

 一緒に暮らしだしてかぁ。…………本当に何年目だろう? ちょくちょく地獄に遊びに行ってるからかその辺りの感覚が凄く微妙だ。

 

「ごめんごめん」

「……でも、それだけリーンさんにも余裕が出てきたって事ですかね?」

「…………、かもね」

 

 きっとリーンさんはあおいが生まれたあの日からずっと大変で複雑な気持ちだったろうから。まだ複雑な気持ちは解けていないのかもしれないけど、少なくとも新しい生活には慣れてきているんだと思う。

 

「ん? なんだよ、もう目が覚めたのか、ゆんゆん」

「あ、ダス君、お母さん」

 

 いろいろと話している間に。赤ちゃんを抱いてダス君たちが部屋に戻ってくる。

 

「どうだ? ちゃんと力入るか? 入らないなら危ないから抱くのはお預けだぞ」

「いつも通りとはいかないけど、それでもダス君よりはうまく抱いてあげられるよ」

 

 ダス君も大分上手くなったけどまだまだおっかなびっくりというか、まだまだ生まれたばかりの赤ちゃんを抱くのは慣れてない。

 …………まぁ、私も十分な経験あるかと言われたら微妙なんだけどね。あおいが小さかった頃は族長に就任したばかりでいろいろ忙しくてリーンさんにお願いしてた時間が長かったから。

 

「えっと…………こっちが男の子……キールだね」

「おう」

 

 ダス君が抱いてた赤ちゃんを受け取り優しく抱いてあげる。

 キール。この子が我が家の長男。この子の子孫がいつの日かバニルさんの願いを叶える。そして──

 

「まさか、あのお話のリッチーが私たちの子どもになるなんてね」

 

 ──バニルさん曰く、貴族の令嬢を攫い国と戦いを繰り広げたリッチーの生まれ変わりだ。

 

「なんかどっかの思惑が働いてる気がするがな。アクアの姉ちゃんに浄化されたリッチーが偶然俺らの子どもになるってどんな確率だって話だよ」

 

 普通に考えれば確かにあり得ない話だよね。アクアさんがリッチーであるキールさんを浄化してから結構な時間も経ってるし。

 

「そう言えば、キールってキールさんの記憶があるのかな?」

「さあな。ま、あってもなくてもどうでもいいだろ」

「ん……まぁ、それもそうだね」

 

 この子に前世の記憶があろうとなかろうと。この子が誰の転生体であろうと。

 今私の腕の中にいる男の子が私たちの子どもだということは変わらないのだから。

 

 そう、この子は間違いなく私とダス君の子ど──

 

「──って、あれ!? この子の目黒いですよ!?」

 

 紅魔族の子どもは里の外の人との間の子でも高確率で黒髪紅眼になる。あおいも実際そうだった。

 だというのにキールは髪こそ黒髪だけど目の色は黒色。ダス君の目の色を引き継いだと考えても鳶色か貴族の証である碧眼になるはずなのに……。

 

「ダス君!? 一体誰との子どもなの!?」

「お前は何を言ってるんだ」

「英雄色を好むとは言うけど、私以外との間に子どもを作るならちゃんと報告を──」

 

 目の色が黒色って事はリーンさんとの子どもじゃないっぽいし……。

 

「おいリーン。こいつバグってるぞ。叩けば治るか?」

「ゆんゆんってたまにいきなり壊れるよね。まぁ今回はそれだけ出産が大変だったって事で。もしくはロリーサの魔法が悪い」

「私の魔法は気分を紛らわせるだけだから頭をおかしくする効果なんてありませんよ!」

「あの……みんな私の娘が頭おかしいみたいに言うのはやめてくれる? まぁ、今のゆんゆんはちょっとアレかもしれないけど……」

 

 何で皆して私の事を可哀想なものを見る目して見てるんだろう……。

 

「あのなぁ…………キールはお前がたった今お腹痛めて生んだ子供だろうが。お前以外の誰との子どもだってんだ」

「え……? ということは浮気したのは私ということですか!?」

 

 そんな、私がダス君を裏切ってしまっていたなんて……。

 

「おいリーン。ハンマー持ってきてくれ」

「気持ちは分かるけど叩いてもさらに壊れるだけだから却下」

 

 あの…………なんでみんなため息ついてるの?

 

「あのなぁ…………お前が浮気したなんて誰も思ってねぇよ。そんな器用な女だったらお前は最初からぼっちなんてやってねぇっての」

「なるほど」

 

 一理ある。

 

「あの……リーンさん。今のどこに納得するポイントあったんですか?」

「さぁ。ぼっちな人にしか分からない感覚があるんじゃない?」

「ぼっちにはぼっちにしか分からない感覚がある…………勉強になります」

 

 リーンさんとロリーサちゃんが地味に酷いんだけど泣いていいのかな?

 

「とにかく。キールが俺とお前の子どもなのは間違いねぇよ」

「じゃあ、この子の目は一体…………転生の影響ですか?」

「その可能性もゼロじゃねぇが…………まぁ単純に遺伝だろ」

「遺伝?」

 

 でも、私の目ともダス君の目とも違う。どちらかというとカズマさんの目の色に近いきがするんだけど。

 

「ああ。…………キールの目の色は俺の母さんとそっくりだ」

 

 

──リーン視点──

 

「ねぇ、リーン。この子の事抱いてくれる?」

「え? でもまずは先にゆんゆんじゃ……」

 

 お義母さんが抱いていた女の子をあたしの方へと差し出してくる。あたしだって二人の子どもを抱いてあげたい気持ちはあるけど、順番としては本当の母親であるゆんゆんが先のはずだ。

 

「いえ、リーンさん。その子は先にリーンさんが抱いてあげてください。私はその後でいいです」

「…………そう? まぁ、ゆんゆんがいいなら私に断る理由はないけど」

 

 ちょっとだけ冷たいような気がしないでもないけれど。でもゆんゆんがそういう人じゃないのはよく分かってるし…………何か考えがあるのかな。お義母さんがあたしにっていうのもちょっと違和感あるし。

 

「ん……かわいい子だね。ゆんゆん似で安心した」

「おいこらリーン。それはどういう意味だ」

「そのままの意味だけど?」

 

 まぁ、ダスト似でも性格さえ似なければかわいい子になるかもだけどね。

 あー……でもダストって目つきは悪いから可愛いというより綺麗系かな。

 

「ったく……本当お前は一言多いよな」

「あんたの傍にいたら誰だって一言多くなるわよ。あんたの周りの女性で一言多くない人なんていないでしょ?」

「…………か、義母さんは一言多くねぇぞ」

「と言ってますけど?」

「えっと…………私は男の人苦手だから……」

「それは義母さんどういう意味だよ!」

 

 どういう意味も何もそう言う意味でしょ。

 

「本当ダストはしょうがないんだから……」

「でも、リーンさんはそんなしょうがないダストさんのことが好きなんですよね?」

「そうね、確かに好きだけど…………ロリーサは後で頬っぺた引っ張ってあげるから覚えときなさい」

「認めたのにそのコンボは予想外ですよ!? 認めるなら顔を赤くするとかそういう反応じゃないんですか!?」

 

 今更そんな反応するわけないでしょ。あたしがダストの事を好きだってのはもうちゃんと伝えてある。それからもう何年も経ってるんだから。…………具体的に何年かはちょっと思い出せないけど。

 

「うぅ……藪蛇でした…………人間さん難しい」

「そりゃ、あたしだって自分の気持ちとかいろいろ分かってるか微妙だし」

 

 本当に、自分の事は分からない事ばかりだ。さっきの反応だって今考えてみればおかしいような気すらしてくるし。

 

「んー…………ダス君? ちょっと顔赤くなってない?」

「気のせいだろ」

「そういうセリフはちゃんと目を見て話そうか」

 

 あっちはあっちでなんかいちゃついてるし。人の事をだしにしないで欲しい。

 

「それで、この子は何て名前なの?」

 

 男の子の方はキールだと聞いていたけど、女の子の方はなんかずっと誤魔化されてたんだよね。

 

「おう、今抱いてる子はお前に名付けてもらおうと決めてたんだよ」

「ということでリーンさん。その子に名前つけてもらえますか?」

「…………はい?」

 

 このろくでなしとぼっち二人はいきなり何を言い出してるんだろう?

 

「俺の娘の名付け親になってくれって言ってんだよ。何を呆けた顔してんだ」

 

 訳の分からない事を言うダストに、その訳の分からない台詞にうんうんと頷いてるゆんゆん。

 

「お義母さん? ゆんゆんはさっきから壊れてたからしょうがないけどダストまで壊れちゃいましたよ?」

「ゆんゆんはともかくダストは多分正気よ?」

「だから壊れてませんって! お母さんもともかくってなんなの!?」

 

 ゆんゆんがなんか騒いでいるけど、さっきから壊れてるからスルー。

 

「えっと…………じゃあまぁダストの方は一応正気で言ってるとして…………本気で言ってるの?」

「本気だよ。お腹の子が双子だって分かってからキールの方は旦那に、もう一人はお前に名付け親になってもらうって決めてた」

「なんであたしに……」

 

 名前は大切だ。特にこの紅魔の里では名乗りのかっこよさが重要な位置を占めてるみたいだし。

 

「その権利がお前にはあるって思ってるからだよ」

「そして、私たちがリーンさんに名付け親になって欲しいってそう思ったからです」

「…………、わけ……分かんない……」

 

 長い付き合いだ。目を見れば二人に嘘もなければどこまでも本気なことは分かる。

 

「そうかよ。でも今更そんな当たり前のことを説明する気はねぇからな」

「本当はリーンさんもちゃんと分かっていますよね?」

 

 …………分からないわけない。だってあたしが今ここにいるのはその役目を受け入れたからなんだから。

 

「本当に、いいの……?」

「いいとか悪いじゃねぇ。して欲しいって言ってんだよ」

「あおいを生む前からずっと考えていたんです。私たちの子ども…………その中の一人は絶対リーンさんに名付けてもらいたいって」

「…………馬鹿。だったらあらかじめ言っときなさいよ」

 

 いきなり言われてもそんな大事なことすぐ決められるはずがない。

 

「だって、あらかじめ言ってたらお前変に悩みそうじゃねぇか」

「変って何よ。大事な事なんだから悩むに決まってるでしょ」

「だからですよ。そんなリーンさんだからこそ私たちは名付け親になってもらいたくて…………今更悩んで欲しくないんです」

「ごめん、ゆんゆん。多分真面目なこと言ってるのは分かるんだけど、何を言いたいのか分からない」

 

 あたしなら大事に名付けると考えてくれてるのは分かる。自分で言うのもなんだけど、名付け親になれるなら本気で考えてあげたいと思ってるのは確かだ。

 でも、悩んで欲しくないってどういう意味なんだろう?

 

「お義母さん、あの二人が何を言いたいか分かります? というか知ってます?」

 

 なんとなく、二人はこれ以上答えてくれないような気がして。あたしは事情を知ってそうなお義母さんに聞いてみる。

 

「んー……知っていないけど想像はつくかな」

「それは?」

「……誰かを本気で好きになったことのある女の子なら、きっと悩まなくてもその答えを持ってるんじゃない?」

「え……? それって……」

 

 つまり……?

 

「ダメ……ダメだよゆんゆん。この子はゆんゆんとダストの子どもなんだよ?」

「はい。そしてリーンさんの子どもでもあります。…………だから、いいんですよ」

 

 分かる。分かってしまう。ここであたしが何を言おうとゆんゆんが曲がらないことを。ダストもゆんゆんもそれがいいだなんて本気で思ってることを。

 客観的に見たら非常識すぎるそれを正解にして欲しいと。

 

 いつからだったか、いつまでだったか。そんなことも覚えていない、けれど長いこと考えていたそれをこの子の名前にして欲しいと二人は言っている。

 

 もしもあたしがダストとの子どもを生んだ時に付けようと、そう想像していたその名前を。

 

「本当に…………二人とも壊れてるよね」

「はん、壊れてねぇよ。俺はただろくでなしなだけだ」

 

 本当にダストはろくでなしだ。きっとこんなことを振った女に迫ってるとダストの事を知らない人に知られたら、10人が10人ろくでなしだと非難するだろう。

 

「はい。私もちょっと友達少ないだけでそれ以外は普通です」

 

 本当にゆんゆんはぼっちなんだから。もっと普通に友達付き合いの経験があればこれがどんなに非常識なことだときっと分かってたはずだ。

 

 …………分かって、でもそれを選んじゃうのがゆんゆんなんだけどね。

 だからこそ、あたしはゆんゆんに勝てなかったんだから。

 

「で? リーンママはその子になんて名付けるんだ?」

「リーンママ言うな。子どもたちに言われるのはいいけどダストに言われるのは馬鹿にされてるみたいでむかつくんだから」

 

 なんとなく思う。これがあの日決めたあたしの生き方、その本当の始まりなんじゃないかって。

 

「まぁまぁ抑えてくださいリーンさん。ダス君もリーンママを怒らせるようなこと言わないでください」

「ねぇ、わざとでしょ? ゆんゆんそれわざとだよね?」

「気のせいですよ? ね、ロリーサちゃん」

「はい、リーンママの気のせいだと思います」

「あんたたち本当いい性格になってわね……」

 

 ダストやゆんゆんと家族になる。そして──

 

「ま、いいや。それよりも今はこの子に名付けてあげないとだしね」

 

 ──幸せになる。

 それがあの日。ダストに想いを告げて振られた日にあたしが確かに決めたことだ。

 

 今が幸せじゃないなんて言わない。でも、それはきっとまだあの日の答えにはなっていない。

 

「この子の名前は──」

 

 だから、本気で探してみよう。あたしの『幸せの形』を──

 

 

 

 

 

 

────

 

「フィーねーちゃん。サンドイッチちょーだい」

「ん? あれ? あおい? 今日は一人? ジハードちゃんは?」

「ハーねえちゃんはキールたちのメンドーをみてる」

 

 里にある冒険者ギルド。それに併設された酒場で働くウェイトレスのフィーベル=フィールの元にやってきたのは小さな少女。この里の族長の娘のあおいだ。フィーベルに取っては姪っ子のような存在でもある。

 

「あー、今日はダスト兄さんやゆんゆん姉さんは外で仕事だっけ。リーンさんやお義母さんがいるとはいえ生まれたばかりの赤ちゃん二人見るのは大変だもんね」

 

 言いながら今日の仕事が上がったら自分も族長宅に寄ろうかとフィーベルは思う。近くに住む親戚として付き合いは結構あるし、おすそ分けでもらう料理などはかなり助かっている。こういう時こそ恩を返す機会だろう。

 

「それで? サンドイッチが欲しいってどうしたの?」

「おべんとう」

「お弁当? どこかお出かけするの?」

「うん。さとをたんけんする」

「探検……里の外にはいかないんだよね?」

 

 いつもはジハードと一緒だからあまり心配はないが、一人となるとまだまだあおいは幼い。里の外に行こうとするなら止めないといけないだろう。

 

「うん。リーンママにもだめだって」

「じゃあ、大丈夫かな。…………でも、サンドイッチ買うお金持ってる?」

「ふ……つりはいらないよ」

「はい、ちょうどだね。…………ねぇ、あおい。その変な決め台詞みたいなの誰から覚えたの?」

「カジュマ」

「あの人かー……」

 

 たまに里に遊びに来る最弱の勇者様を思い浮かべてフィーベルは頭を抱える。昔から変なことを言う人ではあったが、魔王を倒した実績もあってか最近は里の子どもたちへの影響が酷い。

 まぁ、カズマの影響があろうとなかろうと里の子どもたちが世間一般から外れた価値観を持っているのは変わらないのだが。

 

「じゃーね、フィーねーちゃん」

「うん。里の中なら危険はないと思うけど、変な人について行ったりしちゃだめだからね?」

「うん!」

 

 しっかりと頷き、渡したサンドイッチをカバンに入れてあおいは走り出す。

 その背中をフィーベルは手を振り見送った。

 

 

 

 

「あれ? あいてる?」

 

 里を探検中のあおい。その途中で違和感を感じたあおいはその建物の様子を窺う。

 それは無人のはずの教会。ジハードと一緒に歩いていた時はいつもきっちりと締まっていた場所だ。あおいは覚えていないがダストとゆんゆんが結婚式を挙げた場所でもある。

 

「こんにちはー」

 

 様子を窺うのもそこそこに。開いてるならいいだろうとあおいは声をかけて中へと入っていく。里は全員が顔見知りのため、他所の家だろうと割と気軽に入ってもいいという空気は幼いあおいにもしっかり伝わっていた。

 

「あら? 可愛いお客さん。まだ準備中なんだけど、入信ならいつでも歓迎よ」

「? にゅーしん?」

「んー……まだこれくらいの幼女には難しいか。……でも今からしっかりと教え込めば立派なアクシズ教徒に育て上げられるはず。アクア様、私頑張ります!」

 

 はてなを浮かべるあおいとは逆になんだか盛り上がっているのはまるでシスターのような恰好をした女性。

 

「…………おねえさん、へんなひと?」

「一応、お姉さんは変な人じゃないかな。一応アクシズ教の中じゃ結構なお偉いさんなんだから」

「ふーん…………じゃあ、おねえさんはだれなの?」

 

 よくぞ聞いてくれましたと、まるでシスターのような恰好をした金髪碧眼の女性は嬉しそうに答える。

 

「私はアクシズ教団最高司祭のセシリーよ。今日からここに駐在することになったらよろしくね」




幕間終了です。次回から三章に突入します。
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