どらごんたらしver.このすば   作:ろくでなしぼっち

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第3章:里と教団と隣国と
第1話:最高責任者


「あん? まだあおいが帰ってきてないって?」

「そ。もう夕飯の時間だし約束の時間は過ぎてるんだけど……」

 

 仕事を終えて帰ってきたダストに、あたしは里を探検するといって出かけている娘の事を相談する。

 

「心配しなくてもあおいなら腹減ればそのうち帰ってくるだろ」

「何を根拠にそんな無責任なことを言ってるのよ」

「いや、リーンと約束してんならあおいが里の外に出るわけないだろ? んで里の中にあいつを害する奴がいるわけねぇし」

「でも、最近は里に来る冒険者も増えてるし……」

 

 冒険者ギルドが出来た影響だろう。里の高品質な武具や魔道具を求めてくる冒険者の数は増えている。里付近に生息してるモンスターは強かったり厄介だったりで王都で活躍するような冒険者が中心ではあるけれど、それでも以前と比べれば紅魔族以外の人を目にすることが増えた。

 

「ベテランの冒険者の中にガキとはいえ紅魔族に手を出す馬鹿はいねぇよ」

「いや、まぁそうだけど…………。それに紅魔族の中にもぶっころりーさんみたいな人もいるし……」

「あの変態ニートは一応嫁さん限定の変態だから……」

 

 そうかなぁ……こめっこちゃんの手のひらで踊らされてるの見ると案外ロリコンの気もあるんじゃないかと思うんだけど。

 

「はぁ…………で? 結局俺に探して来いってか」

「うん。お願いしていい?」

「別に行くのは構わねぇが、俺だけか?」

「うん。暇してるのダストだけだからね」

 

 帰ってきたゆんゆん含め今は小さな二人をお風呂に入れてあげたりで大変だ。それ以外もまだ仕事から帰ってきてなかったりで手が空いてるのはダストだけだったりする。

 

「一応俺は今日一日仕事してきて疲れてるわけだが?」

「それはゆんゆんも一緒でしょ?」

 

 二人してなんだかへとへとな様子で帰ってきたら結構大変な仕事だったのは分かっているんだけど。同じ仕事してきたゆんゆんがちゃんと頑張ってるんだし甘やかす理由にはならない。

 

「ま、大丈夫だとは思うが、この調子だとあおいが帰ってくるまでは飯はお預けか。さっさと見つけてくるかね」

「最初そう言えばいいのに…………素直じゃないんだから」

 

 言葉とは裏腹にあおいを探しにいくことに対する嫌な感情は見られない。むしろさっさと探しに行きたいと言った風だ。

 と言っても心配で焦ってるという感じでもないから、あおいの無事は本気で信じてるんだろう。

 まぁ、あたしも心配だったらダストに頼まず自分で探しに行くし。…………何て言うか、この辺りがあの子の非常識さを表してるなぁ。変人揃いの紅魔の里でもあおいはこめっこちゃん以来の大物だと評判だし。

 ああは言ったけど里の中は紅魔族が目を光らしてくれてるから何だかんだで安全だというのも大きい。

 

「素直じゃないとかお前に言われたおしまいだな」

「うっさい馬鹿。さっさと行きなさいよ」

「へいへい」

 

 分かってるとばかりににやにやと笑ってダストは外へと歩き出す。

 

「あ、ダスト。行く前に…………今日は何が食べたい?」

「んー…………蛙のから揚げがいいな」

「また? ジャイアントトードの肉って里じゃ割と貴重な食材なんだけど……」

 

 アクセルと違い里の近くにジャイアントトードは生息していない。需要もあまりないし安定した供給がないから里で買おうとしたらアクセルに比べ値段が2~3倍も違う。

 

「でも、用意してんだろ?」

「あんたが好きだから一応凍らせて予備はあるけど」

「じゃ、そういうことで」

 

 ひらひらを手を振っていなくなるダスト。

 ダストって蛙肉好きなんだよね。本当に貴族だったか疑いたくなるというか…………長いアクセルでの生活で食の嗜好結構変わってるっぽい。

 お金には余裕あるんだしもっと高級な食品使った料理とかも出来るんだけど。

 

「仕方ない……貧乏舌のろくでなしの為に夕食作ってあげますか」

 

 エプロンをかける。ゆんゆんが仕事の日は、夕食を作るのはママであるあたしの仕事だ。

 

「急いで作らないとね。余裕が出来たならロリーサにも手伝ってもらおうかな」

 

 ミネアさんが帰ってくる時間も近いし…………それにあいつが行ったんならあおいが帰ってくるのもきっともうすぐだから。

 

 

 

 

──ダスト視点──

 

「さーてと、どうやって探すかね」

 

 確実なのは旦那に占ってもらう方法だが、こんなことに旦那の手を煩わせることもないだろう。どうしても見つからない時のための最後の手段だ。

 

(旦那には過保護すぎるって俺やゆんゆんは言われてるくらいだからな……)

 

 既にあおいの槍の腕は俺でも気を抜いたら一本取られるくらいにまで上がっている。紅魔族なだけあって知力も既に大人顔負けで…………里の中で心配する必要は確かにない。

 

(それでも俺はあおいの父親だからな。帰ってこない娘を迎えに行くくらいいいよな? 旦那)

 

 心配というわけではない。だけど、旦那に過保護と言われようとあおいの事を迎えに行ってあげたくはある。

 

「だから汝らは過保護だというのだ」

「って、旦那!? いきなり話しかけるのは心臓に悪いからやめてくれ!」

 

 いつの間にやら後ろにいるのは見慣れた仮面の大悪魔。バニルの旦那だ。

 突然現れただけでなく、通常運転で俺の考えてることを勝手に読んでいるあたり本当にバニルの旦那はバニルの旦那だなぁ……。

 

「少しばかり気を緩めすぎではないか? 汝であれば我輩が近づいてきたことにも気づけたであろうに」

「里の中でまでそんな気を張り詰めたくはねぇなぁ……。てか、旦那が本気で隠形したら竜言語魔法ありでも見つけられるかは微妙だっての」

 

 旦那が何かに変身している姿ならその魔力を感じて見破ることはできるとは思っている。

 だが、旦那がその魔力すべてを隠れることに費やしたのならそれを見破れるかは自信がない。

 

「ふむ? まぁ、その辺りはぼっち娘の方が適性があるか。強さと探知能力はまた別であるからな」

「あいつは本当その辺り優秀だからなぁ。人の機微には薄い癖に人の気配には敏感だし」

 

 友達を求め続けたぼっちの習性なのかもしれない。…………こんなこと考えてるのバレたら多分カスライ案件だけど。

 

「それで、汝はドラゴンバカ娘を探しているのか」

「あおいが俺に負けず劣らずドラゴンバカなのは確かだがその呼び方だとなんだかただのバカ娘っぽく受け取れるからやめてくれ」

 

 行動はおかしいが一応あれで頭はいいんだ。

 

「はぁ…………汝は本当に出会った時からは想像できぬほどの親馬鹿になったな。ドラゴンに対する溺愛ぶりを見ていれば想像できぬほどではないが」

 

 旦那に出会った頃の俺ねぇ。もう何年前かも思い出せないが、ドラゴンいなくて腐ってた頃の俺と比べれば、確かに今の俺は変わってるんだろう。

 

「それで? 旦那は仕事帰りか?」

「うむ。ギルドも酒場以外は閉まる時間だ。相談屋も店じまいである」

「相談屋の景気は良いのか?」

「悪くない。元より紅魔の里には王都からの大口の依頼もあったことであるしな。里の実質的な占い屋が我輩だけになった今、日々の相談がそこそこでも十分な収益がある」

 

 そういや、靴屋のニートのストーカー相手である靴屋の嫁さんは凄腕の占い師だとベルゼルグで評判だったらしいな。俺も一回占ってもらったがあの美しさは記憶に残っている。

 

「そけっとさんも災難だよなぁ。まさか自分が占いをするために力を借りていた悪魔本人が里に来るとか」

「あれは喜んでおったがな。サインを渡したら家宝にすると言っておった」

 

 …………まぁ、あんな美人だろうと紅魔族だしな。自分の生活よりもカッコいいもの優先は当然か。

 

「でも、順調なのはいいことだな。そんな調子ならダンジョン作れる日も遠くないんじゃないか?」

「…………順調なのは相談屋だけであるがな」

「あ、はい」

 

 ウィズ魔道具店は平常運転らしい。この調子なら良くてトントン…………マイナスっぽいなぁ。

 アクセルと違いこの里なら高品質で高価な品物もある程度売れるだろうに。何をどうしたら赤字になるのか。いやまぁ高品質なゴミをそんだけ仕入れてるんだろうけど。

 

「そういやウィズさんは相変わらず見たいだがゼーレシルトの兄貴は元気にしてるのか?」

 

 旦那の元で匿われてる悪魔ゼーレシルト。めちゃくちゃ可哀想なイメージしかない悪魔だが、あれで一応高位の悪魔だったりする。旦那やウィズさんと一緒に里に引っ越してきてたはずだが、旦那やウィズさんと違い最近は会った覚えがなかった。

 

「ん? 聞いておらぬのか。ぼっち娘の父親に雇われて仕事に出ておるぞ」

「なんも聞いてねーなー。…………あのおっさん適当だし秘密主義がカッコいいと思ってるしで大事なこと言わないこと多いんだよな」

 

 そんで美味しい所で種明かしするのが大好きという。

 

「で、ゼーレシルトの兄貴は何の仕事をしているんだ?」

「潜入任務と言っておったが」

「…………あの着ぐるみが?」

「着ぐるみ悪魔がであるな」

 

 なにそれすっごいシュール。というか無理だろそれ。

 

「あの着ぐるみの姿も知らなければ意外と街中に溶け込むものだ」

「中身出たら阿鼻叫喚だろうけどな」

 

 子どもたちには人気だったみたいだし、風船配りでもさせれば確かにそんなに不自然じゃないのか?

 

「けど、潜入任務ねぇ。義父さん最近帰ってくるの遅いしなんか裏でやってんのか」

 

 その裏でやってることを俺はともかく族長であるゆんゆんも知らないっぽいのは本当どうにかしないといけないのかもしれない。

 

「と言っても、汝も既に想像はついてるのではないか?」

「……ま、そりゃな」

 

 この時期に潜入任務と言われてピンとこないわけはない。

 

「ゼーレシルトの兄貴にはくれぐれも気を付けてと伝えてくれ」

「無事帰ってこれたらそうするとしよう」

 

 軽いなぁ……。まぁアクアのねぇちゃんに遭遇でもしなきゃオーバーキルされるとは思えないし地獄に帰るだけだと考えれば別に問題ないのか。

 

「ところで、過保護なお客様よ。一つ我輩に相談をして行かぬか? 友達価格で1,000エリスで占ってやろう」

「はいはい最終手段最終手段」

 

 結局。煩わせるつもりのなかった友達の力を借りて俺は娘の居場所をあっさりと知るのだった。

 

 

 

 

「ここねぇ。すくなくともここは俺が知ってる限り無人のはずなんだが」

 

 来たのは里にある空っぽの教会だ。俺とゆんゆんの結婚式以来全く使われていないはずの場所だ。

 

「ま、旦那の見通す力が外れるはずもないし…………確かにいるな」

 

 二人…………いや、三人か? 一人はあおいだとしてあおい以外に二人いるって事か。

 

(なんか嫌な予感がするんだよなぁ……)

 

 教会という場所。そして旦那が言っていた『鬱陶しくて見づらい』と言っていたこと。あの旦那の嫌そうな顔を思い出せば、この先にどんな奴らがいるかは嫌でも想像がつく。

 

「はぁ…………しゃーない、行くか」

 

 死ぬほど嫌でもここで帰るという選択肢はない。…………いや、本当帰りたいんだがな。

 

「あおい、いるかー?」

「とうさま!」

 

 教会の扉を開けて。声を上げる俺に気づいてあおいがトトとかけてくる。

 

「お、ちゃんと元気にしてるみたいだな」

「うん!」

 

 ぶつかる様に抱き着いてきた娘を俺は受け止めて抱き上げる。ぶつかった時ちょっと痛かったのは意地でも表には出さない。

 

「というわけでさっさと帰るぞ。リーンママが飯を作って待ってるからな」

「うん、あおいもお腹すいた」

 

 あおいを抱き上げて、俺はそのまま教会を後に──

 

「──ダスト君? え? もしかしてその子ダスト君の娘!?」

 

 ──出来るわけないですか、そうですか。

 

「わーっわーっ! 可愛い子だと思ってたけどダスト君の娘だったのね! 紅魔族って事はゆんゆんさんとの子ども!? 二人とも私というものがありながら浮気はどうかと思うけど、あおいちゃんみたいな可愛い子を生んでくれたなら祝福するしかないわね! アクア様! この素晴らしい子供に祝福を!」

「いきなりうるせぇ! あおいがドン引きしてるじゃねぇか! それにアクアのねえちゃんにはとっくの昔に祝福してもらってるっての!」

 

 久しぶりだってのにいきなりこの暴走プリーストの全力っぷりはきつい。

 

「あ…………ごほん。失礼しました。あおいちゃんもごめんね?」

「とうさま、この人へんな人だね」

 

 あおいに変な人扱いされるとかやっぱこのプリーストは人として終わってんな。

 …………いや、あおいは割と自分のこと棚に上げるタイプだから一概にそうは言えないが。一体全体誰に似たのか。

 

「てか、この里に来たってのに俺とゆんゆんのこと知らなかったのか?」

「だって、私ずっとアルカンレティアで修行してたもの。最後にダスト君に会った日から昨日までずっと」

 

 最後っていえば…………魔王が討伐されて俺らがアクセルの街を旅だったあの日か。マジで何年前の話だよ。

 

「そんなに修業しないといけないって何やらかしたんだよ。…………いや、アクシズ教徒はどいつもこいつも常に何かやらかしてるけど」

 

 そんなアクシズ教徒の一員であるセシリーが何年もの間修行させられるとか。

 

「ねぇ、なんでお姉さんが何か悪いことした前提になってるの? 私ダスト君に比べたら清廉潔白で生きてるわよ?」

「それはない」

 

 絶対ない。

 

「嘘つき! ダスト君なんて問題起こして牢屋に放り込まれるのが日常じゃない!」

「一緒に牢屋に放り込まれてたお前にだけは言われたくないというか…………一体全体いつの話だよ」

 

 まぁこいつと出会った頃はそうであるのを否定しないが…………ジハードが生まれてからはその頻度は減ってたと思うんだがな。

 ゆんゆんと付き合い始めてからはマジで留置所に世話になった覚えはない。

 

「え? もしかして、ダスト君今はもうまともな人になっちゃったの? そんな! ダスト君がまともな人になっちゃったらそれはもうダスト君じゃないじゃない!」

「どういう意味だこら」

 

 気持ちは分からないでもないがこいつにだけは言われたくない。

 

「だいじょーぶだよ。とうさまは『ろくでなし』だってみんないってるよ?」

「おいこら娘。たとえ事実でも余計なこと言ってんじゃねぇよ」

 

 怒る俺にきゃーと強く抱き着いてくるあおい。くそ……可愛くてこれ以上怒れないじゃねぇか。

 

「よかった…………ちゃんとろくでなしではあるのね」

「お前もお前で何を安心してやがんだよ…………」

「だって、私は真面目なダスト君よりろくでなしな…………自分に素直に生きてるダスト君の方が好きだもの」

「…………、そうかよ」

 

 ま、そういう意味なら俺もそう思うかもな。

 

「とうさま? うわきはめーっだよ?」

「こいつ浮気だけは世界が滅んでもないから安心しろよ。というか誰だあおいに浮気なんて言葉おしえた奴は」

「ぶっころりーがとうさまは『ふたまたうわきやろう』だって言ってたよ?」

 

 よし、あいつは今度ぶっ飛ばそう。…………いや、傍から見りゃそうなんだろうが、リーンには全く手を出してないんだから納得いかねぇ。

 

「二股? そういえばさっき『リーンママ』って………………なになに!? なんか面白そうなこと隠してるでしょ! 誰にも言わないからお姉さんにちょっと相談して!?」

「だからうるせぇ! 別になんも隠してねぇよ!」

 

 俺とゆんゆんとリーンの関係なんて里の連中みんな知ってるっての。…………こいつには一生隠しておきたくあったが。

 

「そうなの? でもその様子だと何かあるのは確か見たいね。もしかして私みたいにハーレムルートなの?」

「お前のハーレムメンバーなんて見たことないが?」

「え? めぐみんさんにゆんゆんさん、ダスト君にミタラシさん、あおいちゃんにジハードちゃん……みんな私のハーレムメンバーよ?」

「お前今すぐ里から出て行けよ」

 

 危険人物すぎる……。爆裂娘あたりを追ってさっさとアクセルに帰らねぇかな。

 

「そんなわけにはいかないわよ。今日から私はここの責任者なんだから」

「はぁ…………まさかとは思ったがアクシズ教団のアクセル支部長からこの里の支部長になったのか」

 

 じゃなきゃ、こんな所にはいないよな。

 

「え? お姉さんは紅魔の里の支部長じゃないわよ?」

「は? ああ、支部長は別にいんのか」

 

 そういやもう一人奥に気配があるな。

 

「それも違うけど? そもそもここは支部じゃないもの」

「なんだそりゃ。ただの駐在所だとでもいうつもりか」

 

 だとしても普通それを支部っていうだろ。

 

「いえ? ここはアクシズ教団第二本部よ?」

「何言ってんだこいつ」

 

 頭のおかしいことをいう奴だとは思ってたが…………なんでこんな里にアクシズ教団の第二本部が出来るんだよ。

 

「ねぇ、ダスト君。本気で軽蔑の目を向けてくるのはやめてくれない? 流石のお姉さんもちょっとは傷つくのよ?」

「それで? その第二本部とやらの本部長になったとでもお前は言うのか?」

「それも違うけど? 第二本部長はゼスタ様だもの」

「ほーゼスタかぁ……あの凄腕プリーストなら確かに本部長になってもおかしく…………いや待て、あのおっさんは確か最高司祭だろ。なんで本部長なんかに格落ちしてんだよ」

 

 問題行動多いとは聞いてたがまさか降格されたのか?

 

「うん、だって今のアクシズ教団最高司祭は私だもの」

「何言ってんだこいつ?」

「だからその目! 本気で傷つくからやめて! 頑張って修行して最高司祭になったのにどうしてそんな蔑んだ目で見られないといけないの!?」

 

 アクシズ教団の最高責任者とかそれだけで蔑まれる対象な気もするが。

 というか修行って最高司祭になるための修業かよ。妄想でそこまでするとかすごいな。

 

「おいセシリー。お前が妄想するのは勝手だがな、流石にアクシズ教団の最高責任者を名乗るのはまずいだろ」

「妄想じゃないわよ!? ダスト君には私が次期最高司祭になるって話したはずなのになんで信じてくれないの?」

「あん? そんな話聞いた覚えないぞ」

「言った! 絶対言ったから!」

 

 仮に本当に言ってたとしても何年前の話だよ。覚えてるわけないだろ。

 

「まぁいいや。アクシズ教団の自称最高責任者さんよ。何でこんな所に第二本部なんて作ったんだ?」

「それはもちろんゆんゆんさんやダスト君に会うためよ?」

「嘘つけ。俺とゆんゆんが結婚してることすら知らなかったくせに」

 

 ゆんゆんはともかく俺がいるなんて分かるはずない。

 

「(…………ここでなら会えると思ったのは別に嘘じゃないけどね)」

「あん?」

「本当の理由はよく分からないのよね。私も昨日修業が終わっていきなりここに来ることになったんだもの」

「はぁ? 自称最高責任者のお前が知らないで誰が知ってんだよ」

「うん、ダスト君自称じゃないからね? いや、まぁ……なんか蚊帳の外で私も最高責任者の実感ないけど」

 

 自称じゃないとしてもお飾りの最高責任者なのは間違いなさそうだな。

 

「それで知ってる人? それはもちろんゼスタ様なら知ってると思うわよ? 私を連れてきたのはゼスタ様だし」

「ああ、そういや第二本部長はゼスタとか言って………………って、マジであのゼスタがここに来てんのかよ!?」

「え? 今更その驚きなの? さっきから何度か話に出てたと思うんだけど。というかお姉さんが最高司祭になったことより驚いてる気がするのは気のせいかしら……」

 

 お前の最高司祭はまだ信じてないからな。

 人類という枠組みの中では間違いなく世界最強のアークプリーストであるゼスタが来たことの方が驚いて当然だろう。

 

「とうさま、ゼスタって?」

「人類最強のアークプリーストにして人類最高の変態プリーストだな」

「…………へんな人?」

「話を聞く限りこの目の前の姉ちゃんより変な人だな」

「へんな人だね」

 

 一応俺やミネアの命の恩人だしあまり悪くは言いたくないが…………こいつの話を聞く限りやばい奴なのは間違いない。その実力が本物だってのはよく分かってんだがな。

 

「ねぇ、あおいちゃんのその納得の仕方おかしくないかしら? 私はゼスタ様はもちろんダスト君よりも普通よね?」

「黙れよ変な人」

「普通に酷くないかしら!?」

 

 アクシズ教徒の存在よりは酷くないと思うぞ。…………この里の住人も大概ではあるが流石にアクシズ教徒よりはまともなはずだ。

 

「やれやれセシリーさん。最高司祭ともあろう方がそう騒がしくするものではありませんよ」

「ゼスタ様! 酷いんですよダスト君もあおいちゃんも、私を変人扱いしてくるんです!」

「いえ、セシリーさんが変人なのは間違いないと思いますよ?」

「ゼスタ様に言われた!?」

 

 奥にある部屋から出てきたのは壮年から初老の間に見える雰囲気のあるプリースト。…………会った時から老けちゃいるが忘れるはずがない、ゼスタだ。

 

「お久しぶりですラインさん…………いえ、今はダストさんと名乗っているのでしたね」

「おう、久しぶりだなゼスタ……様?」

「様付けはりませんよ。気軽にゼスタきゅんと呼んでください」

「じゃあ気軽にゼスタと呼ばせてもらうわ」

 

 まぁアクシズ教徒だしいいだろ。一応この里じゃ俺もそれなりのお偉いさんだし。

 

「ふむ…………セシリーさんもですが何故私をゼスタきゅんと呼んでくれないのでしょう?」

 

 多分この世界にゼスタの事をそんな風に呼ぶ奴はいねぇよ。

 

「…………ゼスタきゅん?」

「おい馬鹿あおいお前何を言って…………って、ゼスタ! 何を感極まってにじり寄ってきてんだ! あおいに手を出したら戦争だぞ!」

「何を失礼な! 私は紳士……yesロリータnoタッチの精神でちょっと至近距離で臭いをかがせてもらうだけです!」

「洒落にならないくらい気持ち悪いこと言うのはやめろ!」

「ならせめて唾を! 唾をかけてもらえないでしょうか!?」

「せめての意味が分からねぇよ! なお酷い…………いやどっちも酷すぎて程度が分からねぇ!」

 

 マジでこいつ俺の命の恩人なの? あの時の助けに来てくれた強キャラの安心感はどこだよ。

 

「ゼスタ様! いい加減にしてください!」

 

 お? 流石のセシリーもこの異常な行動には止めに入るのか?

 

「可愛い幼女の唾を自分一人で独占しようなんて! せめてじゃんけんで決めましょう!」

「もうお前らマジで里から出て行けよ!」

 

 もうやだアクシズ教徒。なんで俺こんな奴らの相手してんだ?

 

 

 

 

「ふぅ……取り乱しました。あおいさんの唾の件はまた後日落ち着いたところで話し合うことにしましょう」

「いや話さねぇよ。そんな機会は一生ねぇよ」

「別に地面に吐いた唾でもいいのですよ?」

「別にの意味が分からねぇしあおいはそんな品のない育て方もしてねぇよ」

 

 ゆんゆんにしろリーンにしろそういう所はしっかり教育している。

 …………なのに何であおいは色々おかしな子に育ってんだろうなぁ。

 

「おっと、こうして話していてはせっかくできた料理が覚めてしまいますね。セシリーさんそろそろご飯にしましょう」

「ご飯ですか?…………ゼスタ様って料理できたんですか?」

「ははは、料理が出来れば炊き出しで合法的に可愛い幼女と触れ合えるのですよ?」

「なるほど。流石はゼスタ様年季が違いますね」

 

 何の年季だよ。変態の年季ならゴミ箱に捨ててこい。

 

「それで、ダストさん、あおいさん一緒に夕食はどうでしょうか? 一応明日の朝の分まで作ったので二人もご一緒できるだけは作っているのですが」

「え? もしかして今日の夕食と明日の朝食一緒の予定なんですか? 同じものとか普通に嫌なんだけど…………ねぇダスト君。私を助けると思って夕食食べていかない?」

 

 なんかセシリーが自分で作ってないくせに我がまま言ってるが…………考えるまでもないわな。

 

「悪いな。家で料理作って待ってる奴がいるからよ」

「うん! あおいもリーンママのりょうりがいい!」

 

 今日はきっと俺の好物を作って待っててくれる。こいつらにはいろいろ聞きたいことがあるが…………それはまた今度でいいだろう。

 あまり後回しにする余裕はないかもしれないがな。

 

「そうですか。ではまた別の機会に」

「ま、美味しそうな匂い漂わせてるからな。機会があったら食べさせてもらうぜ」

 

 あおいは絶対連れてこないが。

 

「ええ。…………ただ、ダストさん。私たちがここに来た理由だけは先に説明した方がよろしいでしょうか?」

「…………、別にいいぜ。想像はついてる」

 

 アクシズ教団その最高責任者たちがこの里に来る理由なんてそう多くない。

 

 そう、きっとそれはこの里に冒険者ギルドが出来た理由と一緒だ。

 

 

「…………もうすぐ、あの国との不可侵条約が切れるからな」




セシリーお姉ちゃんだけでも強いのにゼスタ様で加わるとパワーがありすぎる……。
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