どらごんたらしver.このすば   作:ろくでなしぼっち

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第3話:チートな娘

──ダスト視点──

 

「とうさま、とうさま。帰るまえにショーブしよう?」

「あー、またかよ。この間負けたばっかだろ」

 

 狂ったやつらの教会からの帰り道。手を引っ張る娘からの誘いに俺は何とも言えない気持ちになる。

 

「きょうこそかつ」

「色んな意味で本気で言ってるから困る」

 

 前に模擬試合した時点で気を抜けば俺が負けるくらいの腕をあおいは身に着けていた。それは鈍ってた頃の俺なら槍の腕だけじゃ勝てないだけの技術を身に着けているのを意味する。

 そしてあおいは恐ろしい勢いでいろいろな技術を身に着けていて、その上自分や相手の実力を見誤らない観察眼も持っている。

 つまり、前回から更に伸びたあおいは、単純な槍の腕だけなら今の俺でも確実に勝てるとは言えないレベルにはなっているということだろう。

 アイリスの才能を持った奴をアイリスが受けたもの以上の英才教育してるようなもんとはいえ…………なんだこのチート娘。

 

「つっても、槍なんて持ってきてねぇぞ? あおいも…………ああ、あおいは収納魔法覚えてるから持ってるのか」

「うん」

 

 無詠唱で槍を何もない空間から取り出すあおい。…………これもおかしいんだよなぁ。

 アリスやゆんゆんが使ってるのを見て自分も使いたがり、レインに教えてもらって使えるようになった。…………スキルシステムなしで。レインの教え方が上手いのもあるとはいえもう訳が分からない。

 

「てか、あおいのも普通の槍だし、模擬試合するには危なすぎるな。家に帰ればちゃんと刃を潰した槍があるからいいが……」

「だいじょうぶ、とうさまはコロしても死なないよ?」

「一度死んでるんだよなぁ……誰だそんな適当なこと言ったやつは」

「んー…………いろんな人?」

 

 つまり不特定多数と。俺の周りのイメージは一体全体どうなってんだ。本当に殺しても死なないような奴は幸運だけ異常に高い鬼畜な勇者様や人を揶揄うのが大好きな大悪魔のことを言うんだぞ。

 その辺りと比べたら俺は普通に殺されたら死ぬわ。

 

「ま、いいか。確かに今のあおいに殺されるほどには腕鈍ってるわけじゃねぇし。武器は…………鍛冶屋のおっさんに借りるか」

 

 ちょうど見えてきた里唯一の武器防具専門の鍛冶屋。魔法使いの里になんでそんなもんがあるかは知らないが、あそこなら槍も借りれれるだろう。

 

「……ん? なんだよあおい。ロリーサみたいにほっぺた膨らませて。お前も頬っぺた引っ張られたいのか?」

「むぅ…………かつもん」

「あー……俺が欠片も負ける気してない感じなのが不満なのか」

 

 別にあおいの事を侮ってるわけじゃないんだがな。

 …………ていうか、そんなことを不満に思う5歳児ってマジでなんなんだ。

 

「ま、俺もまだまだ娘に負けてやる訳にはいかないって事だよ」

 

 あおいの槍の腕の才能は間違いなく俺以上だ。魔法の才能だってゆんゆんにだって負けてない。もしかしたら紅魔の里の歴史の中で随一の天才と言われた爆裂娘にだって負けてないかもしれない。

 

 それでも、それだけで負けてやるほど親の背中ってのは安いもんじゃない。

 …………俺だってあの背中を追い越せたなんて思えちゃいないんだからな。

 

 

 

「ちーっす。おっさん槍を貸してくれ」

「なんだ、いきなり…………って、ダストか。なんだ槍を貸すって、お前さんは立派なもんを持ってるだろう」

 

 面倒くさそうに出てきた鍛冶屋のおっさんは、俺とあおいの姿を見つけて訝しそうな顔をする。

 

「今は嫁さんが持ってんだよ。家に帰ればいいだけの話なんだが…………こっちが家に帰る前に模擬試合したいって言ってな」

「はーん、相変わらずダストはろくでなしのくせに娘とドラゴンには激甘なんだな」

「なぁ、そこで俺がろくでなしだって事いう必要あるか? 親バカとドラゴンバカだって言うだけでいいよな? 族長権限でこんな店潰してもいいんだぞ?」

 

 親バカなのは認めるしドラゴンバカなのは褒め言葉として受け取るが、多少の自覚があるとはいえろくでなし扱いは気に入らない。アクセルの頃に比べたらちっとばかしろくでなしなだけだろ。

 

「族長はゆんゆんだしダストにそんな権利ないだろ。仮にそんな権利があったとしてもゆんゆんとリーンちゃんに反対されて出来ないのが落ちだ」

「言ってくれるじゃねぇか。…………言ってくれるじゃねぇか」

 

 …………実際その通りになる想像しかできないから言い返せねぇ。

 

「ま、槍だったっか? その辺の良ければ適当に持っていきな」

「ん? いいのか。言っとくが金はねぇぞ」

 

 俺の財布は相変わらずゆんゆんが握ってるからな。なんならあおいやジハードの方がお金持ってるまである。

 

「そこの嬢ちゃんにはうちで一番高い槍を買ってもらったからな。まぁ折りさえしなきゃ適当に直せる、気にしなくていい」

「買ってもらった……? って、マジでいい槍じゃねぇか」

 

 言われてよく見てみるとあおいが持ってる槍は確かにかなり高品質なものだ。てっきりギルドで貸し出してる槍かと思ってたのにいつの間に……。

 

「なぁ、あおい。その槍どうやって買ったんだ?」

 

 腐っても紅魔の里。この里で最高品質のものとなると当然子どもの小遣いで買えるようなものじゃない。

 …………もしかして、俺が前に冗談で言ったカジノで稼いできたとかじゃねぇよな?

 

「クエストでかせいだ」

「…………通りでルナが会った時に苦い顔してて、その横でミネアが面白そうな顔してるわけだ」

 

 あいつらの様子からするとあおいの奴ここ最近で荒稼ぎしたな。もしかしたら里のギルドから塩漬けクエストがなくなってるかもしれない。

 

「ま、いいや。じゃあ遠慮なく借りていくとするかね」

「どうする? 刃を潰すくらいならすぐに出来るが」

「そこまですると打ち直すのも大変だろ。そのままで構わねぇよ」

 

 今のあおい相手なら刃を潰さずとも大丈夫だろうしな。

 

「てか、やけに協力的だな。そんなに高い槍だったのか」

「それもあるが…………ダストと嬢ちゃんの模擬試合が見れると考えれば槍の一つ貸すくらい安いもんだ」

「はぁ? 俺らの模擬試合が何だってんだ」

「今代最強の槍使いとその父の才すら超えると噂されてる娘の戦い。模擬試合とはいえ紅魔族として見逃せるはずがないじゃないか」

 

 そういや、この里はそういう里だったな。

 

「ま、見世物じゃねぇが、見たけりゃ見せてやるよ。面白いかどうかは保障しないがな」

 

 

 

 

 

 

「準備ができればいつでもいいぞ」

 

 槍を構えて。俺は娘が来るの待つ。俺と同じように槍を構えるあおいには俺の目から見ても隙と言えるものは見えない。

 

(……なんか、アイリスと特訓してた頃を思い出すな)

 

 あの頃のアイリスと俺じゃアイリスの方が強くて立場が逆だが。でも嫉妬するのもバカらしいほど才能に恵まれた奴と相対しているのは一緒だ。

 

「とうさま、かくご!」

 

 一本の矢のように俺に向かってくるあおいの動きは槍使いとしてほとんど完成されていた。槍の腕なら本当に俺は追いつかれたと思ってもいいだろう。

 

「それでも、負けはまずねぇけどな」

「? とうさま?」

 

 槍をはじかれて。一旦距離を取ったあおいは、未だに余裕を見せる俺を訝しがる。それはそうだろう、あおいの目から見て、俺とあおいの間に槍の腕の差はなく、そしてそれは実際に正しいんだから。

 

「『速度増加』、『反応速度増加』」

「──!?」

 

 だから俺は余裕はそのままに、けれどちょっとだけ本気は出す。

 

「こいよ。少しは本気でやってやる」

 

 

 

 

「──とうさまずるい!」

「あん? 使えるのを使って何が悪いってんだ」

 

 ぽかぽかと叩いてくる娘に軽く回復魔法をかけてやりながら。俺は娘の抗議に反論する。

 模擬試合の結果は当然俺の勝ち。それも完勝と言えるレベル。途中からあおいも魔法で身体強化したりもしたがそれだけで竜言語魔法の差を埋められるはずもなく、俺はもちろん無傷で、あおいにも怪我させることなく試合が終わった。

 ちなみになんで回復魔法使ってるかというと、あおいが自分の無茶で負った傷を治すためだ。

 

「でも、なんでもありなら、わたしもマホウつかって──」

「──本当にそれだけで勝てると思うか?」

「…………」

 

 確かにあおいが攻撃魔法を使えば差はある程度埋められるだろう。だがそれはある程度までだ。結果は何も変わらない。

 

「でも、竜言語魔法で強化した俺相手でも、あおいが槍と魔法のコンビネーションを極めればいつかは勝てるようになるだろうな」

「!?」

 

 俺の言葉にぱぁっと顔を輝かせるあおい。

 あおいの魔法と槍の才能を考えればそれは間違いないだろう。ちょっとやそっとの合わせ技で負ける気はないが、この年でこれだけの実力を見せるあおいであればそれを疑うまでもない。

 

「でも、そうなったらそうなったで俺は攻撃系の竜言語魔法開放するし、その次はジハードの固有能力だろ? そんで最終的にはドラゴンも一緒に戦うから…………あおいが俺に勝てるようになるのはまだまだ先の話だな」

「とうさまの人でなし!」

「せめてろくでなしって言え!」

 

 いや、娘にろくでなし扱いとかされるの嫌だけど。それでも人でなし扱いよりはマシというか…………別にそんな酷いことしてる訳じゃないのに人でなし扱いは納得いかない。

 

「うぅ……ほんとに、とうさまにかてる日はくるのかな……」

「心配すんな。あおいなら絶対俺を超える日が来る」

 

 ぽん、あおいの頭に手をやって。そこに出来た小さなこぶに回復魔法をかけてやりながら俺は言葉を続ける。

 

「俺の娘ってだけなら信用できないが…………お前はゆんゆんの、かあさまの娘でもあるからな」

 

 あいつが本気の俺に追いつくなんてことを俺は出会った時欠片も想像していなかった。でもあいつは予想を超えて俺の元まで一気に駆け上がってきた。『双竜の指輪』という反則技があったとはいえ、それだけで追いつけるような差ではなかったってのに。

 

「…………ほんとに?」

「ああ、少なくとも今の俺の本気よりは強くなる。それは保障してやるよ」

 

 簡単に越させるつもりはないが…………あおいが俺より強くなることを一番望んでいるのは俺自身だから。

 あおいが強くなるためだったら俺はなんだってするだろう。今だってあおいを強くするためのとっておきを一つ考え付いてるしな。流石に今はまだ早いからまだまだ先の話だろうが。

 

 

「──馬鹿じゃないの? ドラゴン使いの才能もない人間があんたより…………今代最強のドラゴン使いより強くなんてなれるわけないじゃない」

「……アリス。いきなり現れて親子の触れ合いに水差すんじゃねぇよ」

 

 どっから話を聞いていたのか。旦那のようにいきなり現れたアリスは呆れ顔で俺たちに近づいてくる。

 

「あっそ。それで? 本気で言ってんの?」

「本気だよ。お前だってあおいの才能は分かってんだろ」

 

 こいつだって面白がってあおいを鍛えてる奴の一人だ。

 

「そうね。アイリスに負けないような才能を持ってるのは確かだけど…………それだけよ。ドラゴン使いであるあんたや、神器を持つアイリスに追いつけるとは思えない」

 

 もちろん私にもねとアリスはつまらなそうに言う。人類最強クラスにはなれるだろうがその先に至れるとは思えないと。

 

「あおいはどう思うの? 本当にこの最強のドラゴンバカに勝てると思う?」

「わからないよ……」

 

 たった今俺に圧倒的な差を見せられた後だ。アリスの言葉は幼心には痛いほど響くだろう。だけど──

 

「でも、かちたい…………こえたいよ」

「…………ふーん?」

 

 ──それくらいで俺の娘が……あいつとの娘が折れるはずがねぇんだ。

 

「それに、とうさまは、わたしにはウソをつかないもん!」

「このろくでなしが嘘つかないとかありえないでしょ。あおいが気付いてないだけで多分結構嘘つかれてるわよ」

「おいこらアリス。ちょっといい感じのシーンに水を差すのはやめろ。ほら! あおいもちょっと疑いの目してるじゃねぇか!」

 

 俺の事をまともに尊敬してくれてんの今じゃあおいくらいなんだからな! あおいにまで適当に扱われるようになったら俺は泣くぞ!

 てか、マジであおいやジハード相手に嘘ついた事はないっての。

 

「ま、いいや。本当にそこの最強のろくでなしより強くなりたいってんなら…………今日も稽古つけてあげましょうか」

「どうせ、俺とあおいが試合してんの見て最初からそのつもりだったくせに面倒くせぇ……」

 

 結局の所アリスがやってきた理由はそれだろう。そのついでで俺に嫌味言ったり評判落とそうとするんだから面倒くさい。

 

「うるさいわよ。実質5歳児相手に竜言語魔法まで使ったろくでなし」

「はん。お前だって最初は槍で相手してたのに勝てなくなって鞭使いだしたじゃねぇか。言っとくが今のあおい相手じゃお前だって鞭だけで勝つのは厳しいぞ」

「…………ふ、ふん。まぁ今日からはちょうど魔法と鞭のコンビネーションで鍛えてあげようと思ってたのよね」

 

 こいつも筋金入りの負けず嫌いだなー。案外爆裂娘と気が合うんじゃねぇか。…………むしろ逆か。負けず嫌い同士とか上手く行くわけねぇ。

 

 

「来なさい。遊んであげる」

 

 

 

 

「…………いつの間にか観戦者増えてんな」

 

 鍛冶屋のおっさんだけでなく紅魔の里の住人や冒険者たちが魔法飛び交うあおいとアリスの戦いを楽しそうに観戦している。流れで魔法が行くのを涼しそうな顔で無詠唱の魔法で相殺する当たり流石は最強集団紅魔族って言ったところか。

 

「ダスト様。ここにいらっしゃいましたか」

「ん? リリスか。里の中で会うのは珍しいな」

 

 リリスと会うのは大体空飛ぶ城の中か地獄の旦那の領地でだ。時々族長宅にいつの間にかいたりもするが。

 里の中だと見た目だけは絶世の美女でメイド服を着ているリリスは目立つから、それを嫌って出歩くことはあまりないんだよな。

 

「はい。リーン様とゆんゆん様にダスト様達が帰ってくるのを遅らせるように頼まれまして」

「あん? 遅らせるってなんでだよ。むしろあおいが帰ってこないからって俺に探して来いって言ったくせに」

「どうやら夕食の準備が遅れているようです」

「なんだそりゃ。俺が出てから結構時間経ってるだろ。何してたんだよ」

 

 こっちには遊んでるのは俺だけだからって探しに行かせたくせに、自分だって大して変わらねぇじゃねぇかよ。

 

「いろいろ話していたようですよ」

「話って?」

「例えば、リーン様がダスト様の第二夫人だという勘違いを解く話とかしていたみたいですよ」

「…………まぁ、あおいとアリスの稽古もまだ終わりそうにないしちょうどよかったかもな」

 

 勘違いって…………してたのはフィーあたりか? …………その場にいなくてよかったわ。

 

「で? その様子だとまだ他に話がありそうだな」

「はい、ありますが…………分かりやすいほどに話を変えられますね。私としてはもう少しそのお話をしてもよろしいのですが」

「却下。リリスの言いそうなことは分かるし、それを聞いて俺が不機嫌になるのはお前だってわかってんだろうが」

 

 サキュバスクイーンであるリリスが俺とリーンにどんな関係を望んでるかなんてもんは考えなくても分かる。

 

「そうですね。ですが、それが私の望みであり、望みに素直に生きるのが悪魔という存在です」

「サキュバスでそこまで欲望にそこまで素直に生きられてるのはリリスくらいだろうけどな」

 

 サキュバスは悪魔の中じゃ最弱クラスの存在だ。戦う力はほぼないし、本領で戦えば無敵に近くとも女に対してはその本領も発揮できない。地上で欲望に素直に生きれば女冒険者に簡単に送還されてしまうだろう、

 例外は本当に目の前にいるリリスと…………俺と真名契約してるロリーサくらいか。あいつが特別なサキュバスと言われたら凄い違和感あるが、あいつの夢を見せる力が凄いのは疑う余地ない。

 

「とにかく、さっさと別の要件話せよ。そうこう話してるうちにアリスの稽古も終わりそうだ」

「そうですね。…………そのアリス様の話なのですが」

「ん? あいつがどうしたんだよ」

 

 アリスは今なお空飛ぶ城に住んでいる。あいつの動きにあった場合それに一番に気づくのは、あの城の世話をしているリリスであるのは確かだろう。

 いや、あいつがいつまでも出て行かないからリリスに監視させてる面もあるし、気づいてもらわないと困るんだが。

 

「最近城を出て遠出をすることが増えています。近々大きな動きをする可能性が高いかと」

「…………どこに向かってるかは分かるか?」

 

 アリスの事だ。適当に修行で遠出するようなことがあっても驚きはしない。だが、このタイミングは……。

 

「尾行しましたが、まかれました」

「あいつの性格からして隠す必要がないならまくようなこともしない……か」

 

 つまりこっちに不都合なことを画策してるのは確かって事か。

 

「ただ、バレるならバレてもいいような感じではあるようです。おそらくはダスト様の想像した通りかと」

「マジで面倒だな…………まぁ、あいつがいつまでも敵にならないとは思ってなかったし、むしろそうなった方が正常なんだろうが」

 

 あいつの能力考えたら洒落にならないんだよなぁ……。

 

「とりあえず、遠出してるのは想像通りで間違いないんだろうが…………でも、あいつなら素直にそう言いそうな気もするんだよな」

「はい。ですので単純に敵に回るだけでなく、敵に回る以外でこちらに不都合なことをするのでは、と」

 

 不都合な事ねぇ。でもあいつとは俺の周りに手を出さないって約束してんだよな。性格からしても不意打ちとかは必要じゃなきゃしないだろうし。

 

「…………リリスはあいつが何をするか想像つくか?」

「ついていればこうして相談していません」

「だよな」

 

 あいつのやることはなんか想像しにくいんだよな。性格は分かり切ってるのに行動は全く読めない…………アクシズ教徒みたいな奴だな。これ言ったら多分決着つけるレベルで激怒しそうだけど。

 

「ま、あいつには一応借りがある。俺の大事な奴らに危害を加えるようなことでなければ見逃してやれ」

「……よろしいのですか?」

「ああ、あいつに借りを作りっぱなしなのも気持ち悪いしな」

 

 それで清算できるなら安いもんだ。

 

「でもまぁ、一応ダメもとで聞いてみるか。──おーい、アリスー! お前が何を企んでるか教えろ」

「ちょっ、今忙しいんだから話しかけないでよ! 別にあんたたちが想像してる通りの事と借りパクしようと思ってるだけよ!」

「だってよ。…………いや、借りパクってなんだよ」

 

 あの様子からしてウソをついてるって感じも他に隠し事してる感じもないが…………訳が分からん。

 

「──いえ、でも流石にアリス様とはいえ…………」

「なんだよ、リリス。アリスの言ってること分かったのか?」

「分かったと言いますか…………一つ思い当たる節はありますが、流石のアリス様と言えどそのような非常識な事はしないのではないかと…………」

「ん? まぁ、いいや。とにかく俺からの指示は変わらない。俺の周りに危害を加える内容じゃないなら見逃してやれ」

 

 何を借りパクするかは知らないが、それで天敵のあいつに対する借りが返せるなら安いもんだろう。

 …………でも、あいつに何か貸してたか? ゆんゆんあたりが俺の知らない所でなんか貸してたのかね。

 

「承りました。ではそのように対応いたします」

 

 恭しく礼をして去るリリス。用が終わったから城に帰るんだろう。アリスの飯の面倒みてるのはリリスだし、アリスが帰る前に帰らないといけないからな。

 

「ダスト様」

「お、ジハード。どうした?」

 

 リリスと入れ替わるように走ってきたのはジハードだ。

 

「はい。夕食が出来たので早く帰ってきてくださいと主が」

「帰ってくんなと言ったり早く帰ってこいと言ったり忙しい奴らだな」

「あはは…………お爺ちゃんたちやミネア姉さんも帰ってきたので」

 

 ミネアはともかく義父さんたちを待たせるのも悪いか。ちょうどあおいとアリスの稽古も終わったしさっさと帰るとするか。

 

「そういやジハードはキールたちの面倒見てたんじゃなかったか? 離れて大丈夫か?」

「はい。キールもリールも寝ちゃったので、主だけでも特に問題ないみたいで」

 

 まぁ、夕食出来たならリーンの方も手が空くだろうしな。いざとなったらロリーサに眠らさせればいいし。

 …………そう考えるとあいつの能力子育てに便利だな。一家に一体サキュバスの時代が来るかもしれん。

 

「ハーねえちゃん!」

「痛っ!? あおい!? 抱き着いてくるのはいいけどちゃんと減速して!」

 

 飛びついてきたあおいを受け止めきれず二人して倒れるジハード。まぁ大人顔負けの突撃力を持つあおいの抱き着き攻撃をいきなりされたら耐えられるはずもない。俺だって不意打たれたら自信ないわ。

 

「って……あおい? 怪我してるじゃない。もう、女の子なんだからもっと自分の事大事にしないとダメだよ?」

「それをジハードが言うか」

 

 一番自分を大事にしない戦い方をしてた奴の癖に。

 

「それはそれ、これはこれです。…………ダスト様」

「はいよ。『封印解除』」

 

 あおいの怪我を治してやりたいんだろう。願いを察した俺はジハードの固有能力を解放する。

 

「『ヒール』…………ダスト様。そろそろ私の封印をずっと解除してもいいんじゃないでしょうか? ほら、あおいって怪我が絶えませんし……」

「ダメ…………っていうか、必要な時以外はずっと封印しとくつもりだぞ」

 

 あおいの怪我を治しながらしてきたジハードのお願いを俺は一蹴する。

 

「そんな!? ダスト様がいない時に固有能力が必要になった時はどうするんですか!」

「俺がいない時に固有能力使うほうが危ないっての」

 

 回復魔法だけならともかく吸収能力は暴走したら洒落にならない。俺のいない所で使わせるいかない。

 

「それは……そうですけど。せめて回復魔法だけでも……」

「それは少しは考えたけどな。でもいろいろ考えた結果却下だ」

 

 …………、俺がジハードが死ぬまで一緒に入れるならそれもいいかもしれないがな。

 

「だいじょうぶだよ、ハーねえちゃん。ハーねえちゃんはわたしがまもるから」

「いや、別にそういう話じゃなくて…………ん? そういう話なのかな?」

 

 

 仲のいい姉妹のような二人を見ながら思う。きっとジハードは俺がいなくなった後もこうしてシェイカー家に寄り添って生きていくんだろう。

 それはきっと姉のように母のように相棒のように……遠いいつの日かは恋人のように。

 その中でジハードが自分自身の事を心の底から好きになれる日を俺は願っているのだった。




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