比企谷八幡は自転車に乗る   作:あるみかん

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随分間があいてしまいました。
出張やらなんやらで禿げ上がるほど多忙でした(言い訳)。
何とか定期的に書いて上げていきたいものです。


比企谷八幡達は依頼を受ける

~用語説明~

 

・クライマー

そのまんま登る人。登坂に全てをかけていくスタイル。自転車をブレさせない上半身の力、キツイ坂でもクランクを回すことができる脚力、強靭な心肺機能が必要。一方で身体が重いとそれだけでハンデとなる為、小柄な選手や細身の選手が多い。

軽い身体を活かして登りをスイスイと軽やかに登る反面、空気抵抗との戦いとなる平地では他の脚質に一段劣る。

しかし、山岳主体のコースでは全体の1割に満たない距離の登坂で後続と挽回不可能な差をつけて勝利することもある。最大斜度20°を超える登りでのハイスピードクライムはまさに圧巻。

なお、ツール・ド・フランスで山岳賞を獲った選手には赤い水玉のジャージが贈られる。マイヨグランペールと呼ばれ、山岳最強の証。草レーサーが赤い水玉を着て山を走っていたら「山で俺に勝てるやつはいるか?勝てると思うならかかってこい」ととられ、勝負を挑まれること必至である。

 

 

 

・オールラウンダー

何でもできる人。登りも下りも平地も、果てはタイムトライアルだってどんとこい!な脚質。

大体はこの脚質がエースを張る。複数ステージがある場合は平均して高い順位を目指し、得意なステージでトップを狙う。つまり総合優勝を狙うのである。なので無茶なゴールスプリントをしたりはしない。

決して器用貧乏ではなく、どの局面でも一級品の実力を発揮する(つまり八幡の上位互換とも…………)。

 

 

 

 

 

 

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――週もあけとある放課後

 

今日も今日とて部活である。材木座はローラーで練習、篠崎は雪ノ下と近場のレースの情報を探している。ん?俺?俺は材木座のフォームチェック。

先日、篠崎が持ってきた自転車に乗ったところこの材木座と言う男、見事に自転車にハマったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで我もライダーよ!」

 

と変身ポーズをとって声高らかに叫ぶ。1号のポーズで。材木座な実力的にはまだまだライダーマンと言ったところなんだが。

 

ところがこの材木座、「初心者にしては」ではあるが意外と速いのだ。

姿勢が良い。直線、コーナリング問わずリーンウィズをキープできている。

どの局面でも正しい姿勢で走ること。これは八幡にとって自転車に乗る上で重要視していることのひとつである。正しい姿勢=自転車にロスなく力を伝えていると八幡は考える。

例として腕を取り上げる。自転車競技において腕はハンドルを握ることはもちろん、高速走行時に暴れ狂う機体を抑える為にかなりの腕力を必要とする。下半身をエンジンとするなら上半身はマウント部と言ったところか。取り付けが弱い(不安定な)エンジンは本来の力を十分に発揮できない。

太目の体型である材木座だが、自身の腕力、体躯により機体を制御する力には秀でていた。

 

もっとも、その巨体により登り坂では虫の息だったのだが。

 

 

 

「フーハッハッハ!」と気勢を(奇声を)あげながらパワフルに進む平地&下り。しかし、下りがあれば当然登りも存在する。

 

「……!……っ!!……っ!!…………」

 

威勢のいい声どころか顔を真っ赤にして虚ろな目で登る材木座。

何とか登りきったところでふらふらと自転車ごと道を外れ脇の草むらに倒れ込む。

篠崎が酸素とドリンクを渡す。陸に打ち上げられたトドかセイウチのように草むらで横たわる材木座。酸素を摂り、若干だが回復したのだろう。問いただしてきた。

 

「何故……貴様らはああも簡単に坂を登るのだ……。息もほとんどきれておらんではないか……」

 

登りで実力差を目の当たりにし打ちひしがれる材木座。平地、下りと快調だっただけに、自分も結構走れるんじゃないかと思ったのだろう。その矢先にこの有様だ。それなりにショックもあるのだろう。だが……

 

「たりめーだ。自転車ナメんなよ。俺は中学の時から乗ってんだ。そんな簡単に走れたら世界中マイヨジョーヌだらけだ」

 

厳しいようだが事実である。厳しいトレーニングを積み、食事にも気を配り、軽い体重をキープしつつも筋力を両立させる。一朝一夕で身に付くものではないのだ。

 

「経験の差も勿論あるんだけどね。やっぱり材木座君は今のままだと重すぎるかな」

 

篠崎が続ける。

 

「例えば僕が50キロ、材木座君が80キロあったとすると、単純に僕より30キロの重りを付けてるようなものだからね。」

 

この間のミーティングで痩せろと言った最大にして、単純な理由はこれだ。

スーパーなんかで売ってる米10キロ袋3つ分である。もっといえば、こ⚪亀200巻全部で大体30キロくらい。俺が産まれたはるか前から連載してたんだよなあ……。

 

「あとね、これは持論なんだけど、太ってる人は肺が膨らまないから、呼吸が荒くなりやすいと思うんだ。確か肺は肋骨と横隔膜の動きで膨らんだり萎んだりするんだけど、内臓脂肪とかで肋骨とかの動きを邪魔して、機能を100%活かせないんじゃないかな」

 

脂肪によって肺の膨らむスペースが狭いと言うことだろうか。そんなこと考えたこともなかった。

 

「比企谷君は登る時に呼吸とかで意識してることはある?」

 

少し考え、

 

「いや、あまり意識したことはないな。とにかく大きく吸い込むようにはしてるが」

 

肺に酸素を取り込み、血液と共に身体に酸素を巡らせる。無酸素状態になると筋肉は疲労しパフォーマンスは低下する。ここ一番のアタック時以外は普通に呼吸をしていたはずだ。

 

「僕が教わったのはね、最初に息を吐ききること。そうすると自然と肺が膨らんでより多くの酸素を取り込めるんだって」

 

元チームメイトのクライマーから教わったのだという。

 

「酸素を取り込みながら強度の高い運動をするわけだから多分すぐに体重は落ちて来るよ。今はとにかく自転車に慣れること。登り以外は結構しっかり走れてたから、身体が出来たらきっともっと速く走れるよ」

 

にっこり笑いながら篠崎が諭す。

 

「正直、俺はお前がこの坂を登り切れるとは思ってなかったからな。最初にしたら上々だろ」

 

実際、ひいひい言いながらも登りきったのだ。素直に大したものだと思う。絶対に本人には言わないけど。

 

 

 

 

 

 

 

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更に翌日

 

 

 

授業が終わり、篠崎と部室に向かう。男組はジャージに着替え(着替え中は雪ノ下には退室してもらう。申し訳ないが。)おのおのすべきことをする。篠崎は参戦できるレースを探し、雪ノ下は本を読んでいる。材木座と俺は準備運動をして、いつものようにローラー練習を始める。

ここまではいつもと同じだった。

 

 

 

 

コンコンと、控えめにドアがノックされた。ノック2回は確かトイレの空き確認だったと思うが。雪ノ下のどうぞと言う声の後、扉が開く。

 

「し、しつれいしまーす…ってなんでヒッキーがいんの!?」

 

入ってきたのは明らかに校則に違反した服装でギャルって感じのお団子頭の女子だった。……つーか

 

「……ヒッキーって俺のことか?」

 

「他にいないし!」

 

こいつ、初対面で引きこもり呼ばわりとは……。イライラが募る。

 

「誰に許可とってそんな風に呼んでんだ」

 

「はあ?ヒッキーはヒッキーじゃん」

 

イライラは更に募る。

 

「で、お前誰だよ」

 

「はぁ?同じクラスじゃん!信じらんない!」

 

同じクラス……?あ、こいついつも教室の後ろでウェイウェイうるさいリア充軍団の1人か。

 

「由比ヶ浜結衣さんよね?」

 

「あ、あたしのこと知ってるんだ」

 

「すげーな。全校生徒覚えてんじゃねーの?」

 

「ええ、大体の人は頭に入っているわね」

 

「マジかよ……」

 

「平塚先生に聞いたんだけどこの部活って生徒のお願いを叶えてくれるんだよね?」

 

「いいえ、叶えるのではなく叶える手伝いをするのよ。飢えた人に魚を与えるのではなく魚の獲り方を教える。それがこの部の理念。叶えるのは貴方次第よ」

 

「な、なんかすごいね」

 

 あ、こいつ理解できてないな。

 

「それでどう言った用件かしら?」

 

「ええっと……その……」

 

こちらをちらちら見ながらゴニョゴニョ言う。イライラはとことん募る。

 

「用がねーなら帰れよ」

 

「うっさい!ヒッキーキモい!!」

 

ーーーブチッ

 

「てめえ「由比ヶ浜さんだっけ?」……篠崎?」

 

「うちの部長を罵倒しに来たのなら帰って貰えますか?僕達練習中なので」

 

にっこり笑いながら篠崎は言う。……あ、目が笑ってない。なんか変なオーラが出てる。材木座が怯えている(どうでもいい)。雪ノ下が問いかける。

 

「もう一度だけ聞くわ。どう言った用件かしら?」

 

「え、と、く、クッキーを作りたくって……作り方を……」

 

由比ヶ浜さん、と篠崎が割り込む。さっきと同じ表情。

 

「スマホでもパソコンでもレシピ調べられるよね。自分で調べたの?お母さんとかに聞けば作り方を教えてくれるんじゃない?」

 

「さっきも言ったけれど、奉仕部は努力を手伝う為の部活よ。由比ヶ浜さん、貴方少しでも自分で努力したのかしら?」

 

「う……」

 

「申し訳ないけど、この依頼は受け付けられません」

 

雪ノ下の言葉に恨めしそうにこちらを見て部室を出ていく由比ヶ浜。意味がわからん。

 

 

 

 

 

 

 

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コンコンコンコンと再びノックの音。4回。確か親しいものを訪ねる時は3回、会社や部屋を訪ねる時は4回のノックだったと思う。

 

どうぞ、と言う雪ノ下。入ってきたのは家庭科の鶴見先生だった。生徒にお願いするのは申し訳ないのだけど、と前置きして

 

「うちの娘に自転車の乗り方を教えて欲しいの」

 

聞けば、最初はお父さん(鶴見先生の旦那さん)と練習していたのだが、何度も転んで嫌になってしまったらしい。お父さんが自転車の練習に誘っても逃げてしまうという。

 

「おてつだいしてくれる奉仕部と、自転車部が一緒に部活してるって松任谷先生から聞いて来たのだけど。難しいかしら……?」

 

「雪ノ下どうする?俺は受けてもいいと思う。さっきのみたいに問題があるわけでもないし、奉仕部の理念から外れることもないだろう」

 

篠崎、材木座も同意見のようだ。

 

「わかりました、お受けします。時間は次の土曜日、お昼過ぎくらいからでいかがでしょうか。比企谷君達も大丈夫?」

 

問題ないと3人揃って返事をする。

 

「ありがとう、娘にも伝えておくわね。場所は学校を使えるようにしておくから、土曜日にここに来てもらっていいかしら」

 

はい、うっす、承知した、はーいとばらばらの返事に困ったような顔でくすりと笑いながら、よろしくお願いします、と鶴見先生は出ていった。

 

初めての依頼。初めて奉仕部としての活動である。

どんな練習メニューにするか話し合おうかね。

 

ところでふと気になった。

 

 

 

……雪ノ下って自転車乗れるの?

 

 

 

 

 

 

 




当小説ではアンチ・ヘイト要素はほとんどございません(重要)

由比ヶ浜アンチにはならないと思います。
ならないはずです。
……ならないといいな。

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