比企谷八幡は自転車に乗る   作:あるみかん

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すいません、随分ご無沙汰になってしまいました。

2週間で8日も出張(全て日帰り)という禿げ上がりそうなスケジュールでした。ていうか禿げました(言い訳)。

年度末は辛いよ……。


彼女たちは自転車に乗れない

~用語解説~

 

 

・リーンウィズ

自転車に乗るときのコーナリング姿勢のひとつ。

コーナリング時には自転車が傾くのだが、その自転車の傾き(リーン)に身体の傾きを揃える姿勢。前後から見て自転車とライダーが同じ傾きの角度である一番基本的な姿勢。

自転車より身体の傾きが大きい場合をリーンイン、身体を立てている場合リーンアウトと呼ぶ。

 

 

・マイヨジョーヌ

黄色いジャージ。ツール・ド・フランスにおいて個人総合成績1位の選手に与えられる。誰が1位なのか一目でわかるようにと1919年から導入された。

曰く、スポンサーの新聞が黄色いから。

曰く、派手で目立つ色にしろと言うオーダーを受けた仕立て屋が黄色い布しかなかったからなどと黄色い理由は諸説ある。

いつか日本人選手もこのジャージを争ってほしいと切に思う。

 

 

 

 

 

 

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――土曜日、快晴

 

校庭の一角に奉仕部兼自転車部の4名、自転車部顧問、そして依頼人である鶴見先生とその娘、さらに生徒会長の計8人が集まる。

 

……?

なんか予想してなかった人がいるんですが。

 

「比企谷君、貴方なにボケーっとしているのかしら?みんな集まったのだからはじめましょう」

 

「なあ、なんで生徒会長いるのん?」

 

話題の主をちらりと見る。前髪の隙間から覗くおでこがキュートな彼女は隣にいる少女にがんばろー、おー、なんて話しかけている。なにあれ、めっちゃ癒される。

 

「鶴見先生がグラウンドの使用許可を取り付けたときに話がいったようね。使用許可は生徒会の許可もいるから」

 

成る程、監視役として参加しているのだろう。そう思い、生徒会長の方へ向かう。

 

「休日にわざわざ立ち会ってもらってすんません。アレでしたら日陰の方で雪ノ下と座ってていただいても……」

 

彼女を見ると何ともバツの悪そうな顔。

 

「あの……ね、私も自転車の乗り方を教えて欲しいの……」

 

お、おう。なんかすいません。

聞けば今までバスや電車での移動が専ら、登下校も歩きやバスで自転車自体乗ったことがないと言う。大学に進学し一人暮らしをするとしたら自転車があったほうが便利だし、経済的にも助かる。

しかし、いまさら自転車が乗れないということを誰かに相談することもできず、そもそも自転車自体持っていない為、練習も出来なかった。

そこに鶴見先生からの自転車の練習をするからグラウンドを貸してほしいという届け出。こんなチャンスはそうそうない!

 

斯くして生徒会長城廻めぐりが土曜日の昼下がり、自転車練習に加わったのである。

 

 

 

 

 

 

 

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鶴見留美は憂鬱だった。

 

自転車に乗りたくない訳ではない。しかし小学生の現在、自転車がなくても特に問題はなかった。登下校は徒歩だし、友達と遊ぶ時も徒歩かバス、電車の公共交通機関を利用している。中学に上がってもそれは変わらないだろう。

現状、彼女は自転車に乗る必要性を感じていなかった。

 

「留美も来年は中学生だから自転車くらい乗れないとな」

 

お父さんのそんな言葉を聞き、乗ったこともない自転車に乗せられる。初めての自転車だ。

後ろを支える父に押されふらふらと自転車ごと前に進む。

数メートルも行かないうちにこっそり父が手を離す。

転ぶ。

起き上がり、もう一度、と押される。

ふらふらと進む。

手を離される。

転ぶ。

 

気づけば手足は砂ぼこりにまみれ膝や腕は擦り傷が出来ている。

 

父親の無責任な頑張れという言葉。

 

手足の傷み。

 

何より

 

自分よりも小さな子がすいすいと自転車に乗っている姿を見たことが

 

彼女を自転車から遠ざけようとしていた。

 

 

 

ここしばらくの週末は、土日は雨が降らないかなあと考えることが多くなった。月曜日に雨が降ろうものなら昨日降ればいいのに、と毒づくようになってしまった。

晴れていればまた自転車に乗せられる。

なんでこんなに痛くて辛くて惨めな思いをしなくてはいけないのだろう。

 

「友達と遊びに行くから」

 

予定がなくても嘘をついて自転車から逃げるようもになった。自分が一層惨めになっていくように思えた。

 

 

 

ある日のこと。お母さんに

 

「留美、もう自転車乗りたくない?」

 

と聞かれる。乗りたくない訳ではない。しかし、痛いのも、何より惨めな感じで嫌だと伝えた。

 

次の日、土曜日にお母さんの勤めている高校に行こう。そこで自転車の練習をしよう。と言われた。正直乗り気はしない。きっと露骨に嫌そうな顔をしていたのだろう私を見たお母さんは、

 

「今回が最後、留美が嫌ならお父さんにも言って無理に乗らせないから」

 

その言葉にしぶしぶ頷いた。

 

 

 

そして当日。ろくに乗れない自転車を引いて総武高校のグラウンドに入ると派手なウェアの男の人が数人、ジャージ姿の女の人が2人、既に待っていたのだった。

 

 

 

 

 

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皆で簡単に自己紹介をしている間、松任谷先生が自転車を並べる。鶴見先生の娘さんは自前の自転車、城廻先輩は篠崎の、ついでに俺の自転車(ママチャリ)も並べてある。

 

「えー、では自転車の練習を始めます。と言っても特別がんばったりはしません。気楽にやりましょう」

 

女性陣の睨み付ける視線が刺さる。ファイヤーさんもびっくり。

ハチマン の ぼうぎょ が さがった

ハチマン の ぼうぎょ が さがった

ハチマン の ぼうぎょ が さがった

ハチマン の ぼうぎょ が さがった

……俺の防御力下がり過ぎじゃね?

 

「どういうつもり?説明しなさい、手抜きヶ谷君」

 

「別に俺達みたいに大会に出たりスピードを競ったりするわけじゃないからな。自転車は楽しい物で、便利な物、気楽な物だってほうがいいだろ」

 

松任谷先生もなにも言わないあたり、そんなに間違ったことは言ってないのだろう。怪訝な表情の城廻先輩と留美に

 

「緊張しないでください。そもそも初めてで一発で乗れる人なんてほとんどいませんから」

 

俺も金網に突っ込んだり植え込みに突っ込んだりしましたよ、と苦笑いで伝える。2人の表情が強張る。それでも

 

「篠崎も材木座も松任谷先生もみんな手伝ってくれますから、心配しなくていいっすよ。楽にいきましょう」

 

 

 

 

最初は2人に自転車に跨がって後ろを支えながら押す。足はペダルの上。漕がないでペダルに乗せるだけ。

ちなみに城廻先輩の後ろは篠崎が、留美の後ろは俺が支えている。

 

「絶対倒れませんから力抜いてくださいね」

 

という篠崎。

 

「う、うん、絶対離さないでねっ!」

 

と力む城廻先輩。

 

「よし、こっちもやるぞ。ほれお前の母ちゃんの所へ行くぞ」

 

「お前って言わないで」

 

「わかったよルミルミ」

 

「キモい。ルミルミってゆーな」

 

酷い。小粋なジョークで和ませようとしてるというのに。

 

ちなみに数十メートル先に鶴見先生と雪ノ下が待っている。材木座と松任谷先生は練習の様子を撮影している。

まずは自転車に乗っている感覚を体験してもらう。何回か往復していると2人とも妙な緊張は抜けてきたようだ。

 

次にブレーキ。押してる途中で手を離す。その際、必ず声をかける。隣でも篠崎の、離しますよー3、2、1、はいっという声が聞こえる。手を離したらゆっくりブレーキを握って貰う。このとき身体が傾くまで足をつくのを我慢してもらう。ゆっくり減速し、傾いた方の足をついて支える。

ブレーキを強く握れば自転車は急停止する。急停止すると車体は安定を無くしふらつく。ふらつくと視界が揺れ、パニックになり身体を緊張させる。結果転倒する。

また、ブレーキでなく足で止まろうとすると非常に危ない。後輪に靴が巻き込まれたり、足首を捻挫することもあり得る。

安全に止まること。自転車に乗る上で非常に重要なことのひとつである。彼女たちは見事に止まって見せたのだった。

 

 

 

「少し休憩にしましょう」

 

雪ノ下の声で皆が集まる。おのおの飲み物を確保し日陰へ向かう。

 

「八幡」

 

マッ缶を取り日陰へ向かうその時声をかけられる。

 

「どうしたルミルミ」

 

「だからルミルミってゆーな。……八幡は毎日自転車乗ってるんだよね?どうして自転車に乗るようになったの?」

 

腰をおろしひと息つく。

 

「んなこと聞いてどうすんだ?」

 

「別に。ちょっと気になっただけ」

 

言葉通り、きっと本当にちょっと気になっただけなのだろう。

自転車競技はマイナーなスポーツだ。テレビ中継されることもなければ大きく報道されることもない。公道を走るので危険も多く、車にも迷惑をかける。金もかかる。

 

ふと見ると城廻先輩や雪ノ下、鶴見先生もこちらを見ている。

 

しょうがないか……。

 

「別に面白くもなければドラマチックでもねーぞ」

 

そう告げて思い出す。ロードレースを初めて見た日のことを。

 

 

 

 

 




中途半端なところで申し訳ありません。
次回、なるべく早く投稿します。



……できるといいな(小声)

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