看板娘のモンスター   作:ばたけ

5 / 8
この眠れぬ男に睡眠を!

戻ったそこに、木石来はいなかった。

暗くなった街並みに、女の子一人にしたのが裏目に出たかっ!

慌てる。

散々、散々大慌てする。

辺りを見回す。

視界がぶれる。

人はおらず、暗闇が

人工光が圧倒的に少ないここで、いなくなった人間を探すのは至難の業だ。

何処だ、何処だ、何処だ。

 

いったん落ち着け。

まだ希望がついえたわけじゃない。

まだ死んだわけじゃない。

耳をすませ。騒ぎを探せ。

さわやかな家族の団欒。

楽し気な宴会の騒ぎ。

甲高い断末魔の絶叫。

戦闘音!?

風を切る音が聞こえた。何だ、何処からかはもうわかった。

急げ、急げ、急げ!

足の筋肉を縮め、爆発するように発進する。

目標はそう遠くない。

ダン、ダン、ダンと。

爆進する。一歩、一歩、ロケットのように。ばねのように。

進め。進め。まだ間に合う。

流れる景色。

後方へものすごいへ飛んでいくものは、平穏と光と、それから幻想だ。

 

「あ、キノさん!」

「ギルドの!」

ちっ、ギルドの嬢に見つかってしまった。

一飯の恩があるため、無視もできない。

急いでいるのにっ!

「こんな時刻に何を?そんなに急いで」

「ああ、ゴミ出しですか。頑張って、それじゃあ」

ダン、と一歩走り出そうとしたが、それを邪魔するものがあった。

コートの袖を、がっちりと掴まれていたのだ。

「なんで、そんなに急いでるんですか?」

「何でって、そんなのいいから、もうっ!」

はなせよ!と言いかけた口が、嬢の目を見て止まった。

泣きそうな顔だった。今にも目から涙がこぼれ落ちそうな顔だ。

眼のふちには長いまつ毛にのった涙のダムが出来上がっていて、今にも決壊しそうだ。

「あなた、死にに行くつもりですか」

思考が、止まった。

 

「何で、そんなこと言うんですか?」

「あなたの目です。ギルドのカウンターやってるからわかるんです。大抵死ぬ前の冒険者は――」

そんな目をしているんです、と。

そんなつもりはない。死ぬなんて、そんなことは考えてもいなかった。

でも――

すこし、焦りすぎていたかもな。

「落ち着きました。ありがとうございます」

「それは結構」

 

「それじゃあ、いってきます」

「ええ、いってらっしゃい」

 

僕は、ダン、と一歩踏み出した。

 

「木石来!」

「奇野くん!」

そこでは、木石来が蝙蝠の大群に襲われていた。

木石来は持ち前のメスで数匹の蝙蝠を撃退していた。

だが、全然足りない。

もっと、もっと。

力を。

「————っ!」

 

 

決められた(ジョブ)があった。

過去から決定していて、子供の頃から決まっていた仕事だ。

それ以外の道はなく、分岐はセメントでふさがれていた。

人間性など邪魔なだけで、人として、間違っていることこそが正しい仕事。

『病毒遣い』

生まれたころから全身に病と毒を仕込まれ、対象を呪うことのみに特化した化物(ゲテモノ)

それこそが『呪い名』だ。

それが『奇野』だ。

異世界に転生すると聞いたので、このスキルともやっとおさらばできる、そう思っていたのに。

まだ、憑いてくるとはね。

これは呪いだ。

呪いのスキルだ。

ないほうがいいと思っていたけれど。

こんな風に誰かを守れるんだったら、在ってもよかったかもな。

憑いてきてくれて、ありがとう。

 

「だらぁ!」

指先から毒を生成する。汗みたいなもんだ。意識的に出すのはかなり疲れるが、それも致し方ない。

プシュウと情けない音を立て、暗い刃を構成する。

辺りに液化した毒の成分が広がる。

本来なら気化した毒で一掃したいが、今回はそういうわけにもいかない。

木石来を守り、こいつらを殺す。

今回は、神経毒を多めに含んだ腐食毒だ。

全身を使って、刃を振るっていく。

回る、回る。

一振。

次々と蝙蝠が地に落ちていく。

二振。

当たっていなかった蝙蝠に、的確に当てていく。

三振。

それでも落ちない蝙蝠を、神経毒多めにして払いのける。

きさまらに攻撃のターンはない!

 

「大丈夫?木石来」

「……」

あっけにとられた顔をしていた。

間抜けな面だ。

「なんで!」

「……え?」

「なんで、言ったところで待ってなかったんだ!」

「……っ」

「すっごく、すっごく心配したんだぞ!なんで町の外の森なんかにきてこんな事になってるんだよ!」

「……ごめんなさい」

「おう、俺もごめん」

「……え?」

木石来は、泣きそうな顔から一変、呆けたような顔をしていた。

いつもの顔だ。

「え、何で……」

「あんなところに女の子一人おいていくなんて、、人として論外だった。ごめんな」

「……うん。いいよ」

「ありがと。じゃあ、行くか」

「どこに?」

「馬小屋だ」

「何で?」

「格安で泊まれるんだとさ」

「へー馬糞大変そうだ」

「安いから、仕方ないね」

「仕方ないね」

 

寝る前の体温は高めだ。

いつも病にうなされたようにして眠る僕は、そう長生きできないだろうと察している。

木石来もまだ寝ていないようだ。

「……ねえ」

「なんだ」

「……あんたは、聞かないの?」

「……何を」

「わたしが、あんなところにいた、理由」

「……聞く必要が?」

「別にないけど……でも」

「でも?」

「わたしが、言いたいの……」

「……じゃあ聞いてやるよ」

「うん。じゃあね……」

「おう」

 

異世界転生って、噓みたいで、夢みたいだと思わない?

木石来は、そんなことを言った。

「怖いんだよ。何してても、死後の世界の一時的な夢なんじゃないかって」

何かしてないと、消えてしまいそうで……。

そういう木石来の声は消えそうなくらい細かった。

だから待てなかった。じっとしていられなかった。

ああそうか、と僕は理解した。

あんなに元気だったのも、無駄に騒がしかったのも。

彼女はまだ、二度目の生を実感できてないのだ。

 

ぎゅっと、彼女の手を握った。

「ちょっ、なにすん」

「あったかいか?」

「……冷たかったら、死んでるじゃない」

「だから、生きてるんだ」

「うん」

「お前の掌も、とってもあったかい。だからお前は生きてるよ」

「……うん!」

「じゃあ、寝るか」

「うん、おやすみー」

 

「ちょ、抱き着くな!」

「いいじゃん。ほかほか~」

「おい、ちょ、ドコ触って」

「ほかほか~」

「……もういいや」

こうして、異世界の夜は更けていく———。




戯言はあんまり出てこないのでお構いなく。

これからも亀更新で生きますので、まったりと気長にお楽しみいただけたら幸いです。
戦闘シーン難しい……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。