俺は『簡易機動型 丁』   作:飯妃旅立

3 / 9
原作開始~


機能美じゃないんだよ。

 

 俺達小型アブダクターに休みは無い。 先日そうは言ったが、だからといって休みを作れない、なんてことも無い。

 

 パノプティコンってのはかなり巨大な施設だ。 その中には、ゲームで行くことが出来た咎人が収容されているロウストリートだったり、その外れ区画のモザイク広場だったりがあって、咎人監視用アクセサリと周辺監視用アクセサリ、あとパノプティコン職員(赤服)が目を光らせて異変・異常がないか監視している。

 だが、それは巨大なパノプティコンの1割、もしくは1割にも満たない程度の広さしか持たない。 それよりも狭い所は市民(シヴィリアン)の部屋くらいか。

 パノプティコンの5割程度は、資源や資材、俺達小型含めたアブダクターの収容に使われている。

 残り4割は建設機械がせっせせっせと動いている区画だろうな。 第6層のフラタニティがいる区画から、その様子がうかがえるだろう。

 

 さて、そんなパノプティコンの5割である俺達の保存施設だが、何も人力で管理されてるってわけじゃあない。 IDや位置情報の確認こそ市民(シヴィリアン)やパノプティコン職員が行うのだが、小型アブダクターの1つがしっかりとそこに在るかどうか、なんてのは機械任せだ。

 いくら貢献度が高いとはいえ、上層部にとっちゃ俺もその辺の小型アブダクターの一つ。

 定期的に行われるスキャン時にさえ戻っていれば、フラっと出かける事だって出来るのだ。 定期的なスキャンすらも、巨大な施設であるせいか一日1回くらいしか来ないしな。

 

 とまぁこういう理由(ワケ)で、現在俺は保管庫から抜け出して散歩を行っている。 歩いてないけど。 散策か?

 

 俺の意思疎通ってのは、言ってしまえばハッキング・クラッキングの類いだ。 俺も同じ機械だからなのか相手側にも意思があるように感じてしまうのだが、恐らく市民(シヴィリアン)達から見れば俺が他アブダクターをクラックして操っているように見えるのだろう。

 そんな事が出来るので、俺は区画ごとの転送装置との意思疎通も可能となっている。

 明確に目的設定されているアクセサリなんかと違って、こういう転送装置やら扉の開閉装置なんかは特に抵抗する事も無いからありがたい。

 ま、ゲームでも主人公が廃棄されたセルガーデンでわっちゃわちゃしてても見つからなかったしな。 

 

 現在俺がいるのは廃棄されたセルガーデンの中でも特に何もない区画。 非実在ゴミ資源すらない場所だ。

 

 そんな場所で何をしているか。

 

 これはゲーム時代からの趣味なんだが……Will’O磁性流体ってあるだろ? アブダクターから取得できる奴じゃなくて、セルガーデンの柱とかになっている奴。

 

 

 それを眺める事である。

 

 

 あぁ、言いたいことは分かる。

 だが、どうにも魅せられるんだ……。 この流れる美しい光に。

 Will’Oってのは俺達小型や大型、天獄ひっくるめて全アブダクターの動力だ。 これがなきゃ俺達は活動できないし、簡易輸送や大型達はこれを溜めている場所を壊されると大ダメージを喰らう。 人間で言えば心臓部分だな。 つか、資源である咎人も多分にWill’Oの恩恵で生きているのだと思うが。

 

 つまり、この光は命の光でもあるわけで。

 

 命の光に憑依したおれが魅せられるのも、仕方のない事であるというわけだ!(集中線)

 

 っと、そろそろスキャンの時間だな。

 転送装置に意思を送る。 転送開始。

 

 気付いた時には保管庫の中、っと。 

 一拍遅れてブゥンという音と共に青白い光のラインが身体を通り過ぎて行った。 アレがスキャンな。

 

 さて。

 

 今日在ったボランティアの記録でも漁りますかね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん?」

 

 大型アブダクターに攫われ、それを咎人に助けられ姫抱きにされて運ばれる、という濃い経験をした市民(シヴィリアン)、ユリアン・サダート#eは端末の使用中、ある違和感を覚えた。 一瞬。 ほんの一瞬だけ、自らの扱う記録端末へのアクセスがあったように見えたのだ。

 しかし、どのような方法で履歴を浚おうともアクセス解析を試みようとも、その痕跡は見つからない。 消された、というよりは端末自らが記録する必要の無い物として処理したかのようだとユリアンは感じた。 それは技術者としての勘か、それとも……。

 

 原始的な手段であるが、一度端末を全ての回線から切断する。 持ち前の技術で完全に外界から端末を遮断した後、必要な情報だけを抜き取って初期化(フォーマット)した。

 

「他のPTからアクセス、とは考え難いし……何より僕の端末なんか見て、何になる……? まさか、あの人達の事が……? こうしちゃいられない!」

 

 ユリアンは立ち上がる。

 恩人である咎人に、たとえ杞憂であっても危機感を持たせるために。

 気付いている者がいるかもしれない、というだけで……あの咎人にとっては、その行動の阻害になるだろうから。

 

「それすらをも跳ね除けそうな気もするけどね……」

 

 咎人という存在は知っていた。

 自ら達市民(シヴィリアン)が技術を、咎人達が資源を調達し、このパノプティコンを維持・発展させているのだから。

 だが、今日までの自分はその咎人達の事をただのデータとしてしか見ていなかった。 偶に耳にするロストする、という言葉や、懲役100万年という途方もない数字。 どれも現実味の湧かない言葉だった。

 

 だが……

 

「共犯者……いや、協氾者か……。 ふふ」

 

 メガラニカPTの汎用弐脚のWill’O漕から引き上げられた時の、あの力強い腕。

 同時に感じた生きている体温。

 

 妻が居なければ惚れている所だった。

 恐らく市民(シヴィリアン)の中でも異端の考えだろう。 他の市民(シヴィリアン)の大多数は、それこそ咎人はイコールで資源としか見ていない。

 だが、彼女(・・)らは生きている。

 

「なら、僕だって生きている。 思想は自由……だよね」

 

 妻を危険に晒すことは出来ない。

 だけど、出来る限りの範囲で手助けしよう。

 

 ユリアン・サダート#eは端末片手にモザイク広場・ザッカーへと向かうのだった。

 




ちなみにWill'O磁性流体を見るのが趣味なのは私です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。