[02]
一方通行が戦っていた男、杉谷は、最強の超能力者との戦闘中だというのに、口をあんぐり開けて目を見開いていた。
「あン?オマエ、よそ見なンてイイ度胸じゃァねェかァ。ンなに驚くもンが俺の後ろにあンのかァ?」
そんな態度を見て、一方通行は戦闘を一時中断して杉谷が向いている方に振り返る。
そこにいたのは。
「『ドラ…ゴン』…?」
杉谷の口から言葉が漏れた。
立っていたのは、金髪の一見女性に見える、人間だった。
は?と、一方通行の口から言葉が漏れる。
それに対してか、エイワスは言う。
「やあ、一方通行。私が、君たち『グループ』が探している、『ドラゴン』、というdahj在agfryだ」
あんぐりと口を開けるしかなかった。
そして、一方通行は気付いていないが、ゴッ!と、彼の後ろで杉谷が倒れる音がした。
そして、次のアクションが思い浮かばなかった。
学園都市の最高機密である『ドラゴン』の正体を探り、その情報を以てして上層部の人間と対等な取引を行う。それが一方通行含む『グループ』の基本方針だった。しかし彼らは同時にこう考えていた。自分たちは『情報』で取引をする、と。
まさか『ドラゴン』現物そのものがこうも簡単に現れるとは思ってもみなかったのだ。
「…まさかこの程度の『意味』すらも表現出来ないのか。不便になったな、この世界も。…いや、私の製造過程が悪かったのか…?」
「…おい、何勝手に一人で話し進めてンだァ?」
しかし、そんな事を言っていては何も始まらない。
一方通行は、取り敢えず気になる質問を適当にしてみることにした。
「オマエは一体何なンだ?どォして『ドラゴン』なンてコードで匿われてやがる?」
「そこから話をしなくてはならないのか…めんどくせ」
案外頭が悪いヤツだな、なんて付け加えそうな調子で、金髪を指で弄びながらエイワスは言う。
「私というdafuut在rgakuは、ただのydtjyピvfughだよ…少し回り道をしようか。このままではjcrfy崩yigiwcしかねないからな」
ここにきて一方通行は、漸くエイワスの言葉がブレた事に気付いた。
ある単語を言おうとした瞬間だけ、エイワスの声がブレるのだ。例えば、ステレオのヘッドホンを左右逆さまにつけているような、不自然な音の広がりを感じる。
「ヒュース=カザキリ、という言葉を知っているか?」
「………?」
確か、潮岸もそんな名前について言及していたが、一方通行に心当たりはない。しかし、一方通行のそんな顔を見て、エイワスはため息を吐いた。
「一から一〇まで説明するのは流石に面倒臭いな…私の言葉を覚えておいて後日勝手に検索したまえ。ともかくあれは、人工的な『天使』などと呼ばれる存在だ。しかし、性質は合っていても、本質は違う。あれは私、エイワスを形成する製造ラインのようなものだ」
大半は理解できなかったが、『天使』という単語だけが引っ掛かった。
木原数多が打ち止めにウイルスを注入し、出現させた光の翼。あれすらも本命ではなく、このエイワスのために用意された計画の一部だった、という事か。
それにエイワスは自分のことを何かしらのコピーと言っている。
ということはだ。
このエイワスまでもを一部とした計画があると考えた方がいいのだろう。
そして、『オリジン』という単語。
アレイスターが為そうとしている計画。
その一つは、察するに———。
「全く、アレイスターも回りくどい方法を好んでいるようだが、まあ、確かに私はクローン技術云々でどうにかなるものではないからな」
「おい、待て。確か三下の言葉が正しいなら、あの『天使』ってヤツァ、AIM拡散力場の集合体だったハズだァ。それに沿って作られたってこたァ、オマエ、まさか」
一方通行はアレイスターの計画について考えていた一方で、学園都市最高の頭脳を働かせて『天使』という単語について脳内検索をかけていた。
その結果出てきたものは、上条当麻の言葉。一方通行よりも深い部分に生き、それ相応の情報を持つ人間からのものだ。使わない手はないだろう。
そして。
エイワスはその質問にあっさりと答えた。
「ああ、そうだ。私はAIM拡散力場の集合体だ」
と。
ああ、そうなんだな、と妙に納得してしまった。
いや、寧ろ自分はただの人間です、と言われていたほうが違和感を感じていただろう。
と、エイワスが呟いた。
「どうするかね」
「はァ?」
突然の事過ぎて、一方通行の理解が追い付かない。
だからと言って、何言ってンだ、オマエ、と言えるような相手でもない。
だから、相手が説明してくれるのを待ってみることにした。
そんな一方通行の考えに気付いたのか、エイワスは続ける。
「興味本位で現れたはいいが、さてこれからどうしたものかね。最初は君で遊ぼうと思っていたのだが、あんな低レベルの話をした後だし、興が削がれた。どうするかね?私からの情報を基にして彼の———いや、アレイスターの野望でも打ち砕いて見せるかね?」
「………本気で言ってンのか?」
その言葉に、一方通行は警戒心を強くする。
当たり前だ。
アレイスターの計画を頓挫させるということは、エイワスの存在そのものを無に帰すことと同意義なのに、それを勧めてくる来るのだから。
「ああ。しかし、だからどうしたのかね?」
「なに………?」
「彼の———そして私の一応の目的は、言ってしまって構わないだろう、『オリジン』の復活だ。そのために私はghfy顕dvygh…いや、出現してきたのだし。けれども、私たちがどうこうして復活を早めずとも、彼はいずれ復活する。ただまあ、アレイスターはその瞬間を見れないだろうがね」
さて、と付け加える。
エイワスは長い金髪から手を離し、そのまま両手を広げて、
「どうするかね。ここで一度私を殺して、アレイスターに一泡吹かせるのも一興だぞ?まあもっとも、君の全能力で私を殺害できればの話だがね」
読めない。
全く以て読めない。
自分が言うには興味本位で現れたと思えば、自分について詳しく語りだす。かと思えば、アレイスターの最終目標を暴露する。
まるで人をからかっているような、そんな態度だった。
だが、かといって迂闊には動けない。というか、感覚としては、普段の攻撃的な思考を回すための重要な歯車が取り除かれた、そんな感覚。
単純に戦うことに意味はない。そう、本能が伝えていた。
動かない一方通行に、エイワスは両手を広げたまま更に言う。
「おや。それでいいのかね?彼が『オリジン』の復活のために立てた計画。それは様々な犠牲を伴うものだ。その犠牲の中には色んな人間がいる。そう———」
何か、とんでもない事を言おうとしている。
聞いてはいけない様なことを。
とても、嫌な予感がする。
しかし、エイワスは続ける。
まるで、矮小で浅ましい人間の精神を追い詰める事こそがこの退屈な世界で唯一楽しめる娯楽であるかのように。
「———そう、
その単語だけで十分だった。
最優先事項によって全ての不安材料が取り除かれ、一方通行の行動は決定された。
次話は、絵を入れます。
下手でも怒らないでください。