「いつもありがとうね」
いつも画材を買っている店から出た。
いつもと言ったが、向こうは私を覚えていない。
さて、今日はどこに行こうかな?
周りの自然の〈声〉を聞きながら、気の向くままに歩みを進めた。
___________________________
今日はここか。
辿り着いたのは、どこかよく分からない森の小川。
そこにあった腰掛けるのに丁度よさそうな岩を見つけ、いつも持っているスケッチブックを取り出した。
そして、絵を描き始める。
「さてと、この幻想を私の内に留めておこう。ここが寂れてしまう前に」
絵を描く前の口癖になっていた。
ここを誰もが忘れてしまっては寂しい。だから、私は絵という形に留めておきたいのだ。
自分も忘れない為に。
あの頃の過ちを二度と犯さない為に。
_______________________________
元々、この森が薄暗かったからか、自然の風景はあまり変わらなかった。
それに気付いてから、ペンの進みが止まった。
こういう時は、能力に頼る他ない。
周りの自然の音を、〈声〉を、〈記憶〉を聞き、この風景の原形を元に、ペンを走らせる。
私が描く絵は動く自然。
時には、何日も、何週間もかけてその絵を描きあげる。
「………」
無言で時間を忘れて、描いていた。
絵は少しずつ完成に近づいていた。
私の中の幻想を創りあげるには、全ての自然の〈声〉を聞く必要がある。
そして、出来あがった。
創作時間は約2時間。意外と速く終わった。
これに題をつけるとするなら、
『暗闇に浮かぶ一筋の光』
だろうか。
駄作。
そう思うと、スケッチブックからそのページを切り離し、ビリビリに千切った。
何度でも描こう。この幻想を。
私が忘れないように。
____________________
飽きた。
私はこの風景に飽きてしまった。
約3日。3日間この風景を飲まず食わずで描いていた。
私が風景に飽きることはほとんどない。
しかし、この風景は見ても動かない。
私は腰かけていた岩から離れて、その場所を立ち去った。
さて、久しぶりに家に帰ろうかな。
私は朧気な記憶を頼りに、家への道を歩いて行った。
____________________
「ただいま」
その私の声に帰ってくる声はない。
とりあえず、机の上にある灯りを点ける。
私は親は死に、親戚はいない。兄弟や姉妹というものもいない。
私はいろんな幻想をこれまでに描いてきた。
しかし、私は今まで描いたことのない幻想がある。
それは、人との絆。
私は誰にも覚えられていない。
そんな者が、絆を描ける訳がない。
誰かと友だちになりたい。
人でも妖怪でも、妖精だって構わない。
誰かと繋がりを持ちたい。
「誰か、僕を……」
誰か僕を見つけてくれませんか?
誰か僕を助けてくれませんか?
机の上に、トッ…トッ……トッ
と不規則なリズムを奏でながら、斑点を作っていく。
そのとき、ふと灯りが消えた。
誰か僕を…。
私をこの幻想の中から、見つけて、助けてよ。
これまで、ご閲覧ありがとうございました。
次回は全く以って未定です。
次も見て行って下さいね。