御神体にて宮水二葉の力により、タイムスリップに成功した瀧達。所が驚くべきことに、飛ばされたのはその日の朝や1、2日前ではなく、3年前の3月30日だった。山村留学と言う名目で、瀧、司、真太、ミキは無事糸守に到着し、そこで自分達の手伝いを買って出た謎の19人の内の1人、光輝とも合流したのだった。
~瀧side~
プルルルルッ!プルルルルッ!
いつも通り、俺はけたたましいスマホのアラームとバイブレーションに起こされ、スマホを止めた。俺は一瞬、いつものベッドじゃないことに気付き、少し違和感を覚えたが、すぐに事を思い出した。あぁそうだった、俺は糸守に来たんだったな……!それも『中身だけは俺の宮水三葉』としてではなく『身も心も立花瀧自身』としてな……!それを思い出すと、俺は部屋のカーテンを全開した。するとそこには、見渡す限りの緑が続く山々と、糸守の象徴とも言える糸守湖が太陽の光を浴びて反射している雄大な大自然が広がっていた。
そんな風景にずっと浸っているわけにもいかず、俺は朝食のミニサラダとエッグハムサンドをさっさと平らげると、真新しい糸守高校の制服に袖を通した。調度そのタイミングで、インターホンが鳴り響き、早速鞄を持って部屋を出た。
司「おはよう、瀧。行こうぜ。」
瀧「あぁ。」
俺は軽く答えた。部屋の鍵を掛け終えると、3人で高校へ向けて、歩きだした。因みに、ミキ先輩は教育実習生という事で、既に学校に行っていた。
司「本当に綺麗だよな。糸守って。」
瀧「そうだろ?建物も風情があるし、こう言う所も中々良いと思わねぇか?」
まぁ、風景と合わせるのを意識して建てたかどうかは分からねぇが。それでも、まるで自分の故郷を褒められた様な気分になり、何故か嬉しくなった。そう思いながら家から持ってきたアルミ缶のサイダーを飲んだ。
真太「にしたっていよいよだな、瀧。やっとガールフレンドに会えるな?」
ブフーーッ!!
俺は盛大に吹き出した。コイツ、話を振るタイミングが良すぎだ!まさかわざとなのか!?
司「そう言えばそうだな。愛しのガールフレンドと初めて対面するんだよな。」
瀧「ちげーよっ!!んなんじゃねぇ!」
俺は怒鳴り付けるが、2人はニヤニヤした表情を一向に崩さない。
真太「本当かぁ~?お前、何かそわそわしてる風に見えるけどなぁ~?」
瀧「だからんなんじゃねぇ!しつこいぞテメェら!」
ぐっ………、こいつら、完全に楽しんでやがる……!!不幸中の幸い、ミキ先輩は一足先に学校に行っていたから幾分まだマシだが……。もし3人揃ってたらと思うと最悪だったろうな……。あぁ、考えたくもねぇ…。そう思っていた時だった。
ドドドドドドドドッ……!
何かが物凄い地響きが近付いてきていることに気付き、後ろに振り向いた。
??「どぅぅおおおぅぅぅ!!」
すると、誰かが大声をあげながらこっちに向かって突っ込んできていた。この時、次第に人の形が見えてきて、あっと言う間に俺達を抜き去っていった。
??「一生懸命!!全身全霊!!あと159周!!全力でやり遂げちゃるぜよ!!」
彼はそう絶叫しながらまだまだ突っ走っていった。そして俺達はハッとした。そいつも光輝達と一緒に来た面子の1人だったからだ。しっかし何だな、それにしても………、
「「「変な奴………。」」」
あっ、ハモった……。コイツらも同じ事を思ってたんだな……。
……………………………。
何かもう疲れたわ……。俺、帰って良いかな……。
そんな事を思いながら、3人で学校に向かって歩いていった。
~瀧sideout~
~三葉side~
私はいつもみたいに髪を結び、鞄を持って妹と家を出た。小学校が近くなったから、その妹とはついさっき別れ、今は1人で登校している。するといつものようにそのしばらく後、自転車のベルが鳴り響いた。振り向くと、相変わらず不機嫌そうな顔をしたテッシーと、それを全くもって気にすることなく穏やかな笑みを浮かべてこちらに手を振るサヤちんが視界に入った。
早耶香「おはよ、三葉~。」
三葉「おはよー、サヤちん。テッシー。」
私とサヤちんはいつものように挨拶をした。
克彦「お前はよ降りろ!」
早耶香「ちょっと位良いにん。ケチッ!」
克彦「重いんや!」
早耶香「あーっ!それ女の子に言う台詞なん!?」
あ~あ、また痴話喧嘩が始まっちゃった。私もいるのにね。
三葉「2人共、本当に仲良いね。」
「「良くないっ!!」」
見事にハモってる所が凄く息ピッタリな証拠やな。クスッ♪
克彦「それはそれとして、今回もまたよろしくな。」
やりきれない空気に痺れを切らしたのかどうか分からないけど、テッシーが話題を変えた。恐らくクラスのことやろう。
三葉「うん、よろしく。」
早耶香「まぁ、どうせいつも通りやよね。」
一応、私の学年は3組まであるし、他学年もクラスは複数ある。ただ、東京とか大阪とかとは違って糸守には私達のような若い人が多くないため、基本的に学校のクラス替えをすることはまずない。つまり、サヤちんとテッシーは勿論、いつも何かにつけて私達に嫌がらせを言ってくる派手系イケてるヒエラルキーの3人とも同じクラスって言うことや。はぁ……、またあの日々が始まるんか……。憂鬱や……。そう思っている時やった。
プッ!プッ!
後ろから突然クラクションを鳴らされた。けど、地元の人ならこの辺は狭い道が多いのを知ってる筈やと思うけどな……。そんな事を思いながら、後ろに振り向いた。そこには相当薄めた緑に近いグレーのちょっと洒落たSUVが停まっていた。それを見て、テッシーが目を輝かせていた。
克彦「おぉっ!スバルのフォレスターやないか!!この辺じゃあ珍しいな!うぉーー、かっけーーっ!!」
テッシーはオカルトマニアである他に機械オタクで、その副産物なのか、やたら車にも詳しいんよね……(ここだけの話、私とサヤちんは陰でテッシーを『くるマニア』ってたまに呼ぶ事もある)。いくら一時期瀧くんと入れ替わっとったと言っても、男子の思うことは、女子にはやっぱり分からんよ……。サヤちんとお互いに向かい合って私は、両手を小さく広げて首を傾げた。すると直後、今度はサヤちんが目を見開いた。
早耶香「ねぇ、あれ札幌ナンバーやよ!?この辺に北海道の人っていたっけ?」
ウソ…!本当なん…!?実際に私もナンバーを見たら、確かに白いプレートに緑色の文字で『札幌』って書いてた。本当に北海道や……!!こんなど田舎に移住者なんかおったや…!世の中、本当に何やあるか分からんな……。
??「あの~……。」
運転席の窓が開き、運転手が窓から顔を出した。その時、私はハッとした。だってその人、司君達を案内してきた人達の1人やったもん。彼は困ったように眉をハの字に下げていた。
??「この辺に、鮎がなまら獲れる川があるって聞いたんだべが、どこだんべ?」
えっ……?何言ってるんこの人……??『~だべ』とか、『~だんべ』とかはそれとなく分かるけど……、な、何なん『なまら』って……??サヤちんもテッシーも困り顔や。かく言う私もそうやけど……。今私達、何を聞かれたん??
??「あ~、『なまら』ってのは、北海道の方言で『とても』とかって意味だど~。」
彼は慌てて訂正してくれた。あっ、方言……!そりゃ分からんワケや。私達は思わず成程と思った。つまり、『鮎がよく獲れる川はどこか?』って事やね!
克彦「その川なら、ちょうど向こうの方にあるで。ほら、あっこに比較的低めの山が見えるやろ?あそこのすぐ手前や。」
??「おぉ、そうかそうか!ありがとーっ!!」
彼は私達にお礼を言うと、そのまま私達の横を通り過ぎていった。それを見送ると、私達も再び学校へ向けて歩きだした。
~三葉sideout~
「やっぱ今回も同じクラスやな。」
「ちょっと聞いてや。学校来る途中、同じ年位の見覚えのない女子に急に胸揉まれたんやけど……。何や素で恐かった……。」
「そう言や、何か白目剥いて周りをキョロキョロ見て、『見えん……。』って言っとる奴がおったで……。あれ何やったんやろ……?」
始業式を終え、SHR(ショートホームルーム)を控えた糸守高校の2年3組の教室では、雑談が飛び交っていた。一方、三葉はずっと思い詰めた表情で、頬杖を付いて窓辺をじっと見据えていた。
三葉『瀧くん……。どうしたんやろ……?早く会いたいよ……。』
彼女が上の空の原因は、やはり瀧に中々会えないことだった。やはり御神体のことが夢だったのかとさえも思いだしている。それを余所に、教室の戸ががらがらと言う音をたてながら、教師の雪野百香里が教室に入ってきた。
百香里「今年度は、私が担任をさせていただきます。皆さん、今年度もよろしくお願いしますね。」
担任の彼女が穏やかな笑みを浮かべて軽い挨拶をした。当然、メンバーは変わっていない。しかし、このクラスにいる全員は既に、ある違和感を抱いていた。それを代弁するように、ある男子生徒がしつもーんと言い手を上げた。
「後ろの4席が空いてるんやけど、これって何すかー?」
これには内心、全生徒がうんうんと思った。全員、最初は転校生と期待したが、まさかこんなど田舎にそんな物好きが来るはずもないだろうと言う結論に達した。その後誰かが配置ミスじゃないかと言っていたが、これだけ多くの席をうっかり設置しすぎてしまうものだろうか?そう考えると、発言者を含めた皆はその答えが否であるとすぐ察した。要は、誰も分からないのだ。それを知ってか知らずか、雪野は発言した。
百香里「これですか?実はですね、ここに転校生が来るんですよ。」
「「「えぇぇぇーーーっ!?」」」
予想だにしなかった彼女の返答に、思わず驚きの声が響いた。しかし、何かと閉鎖的なこの街で転校生は珍しく、絶叫するのも無理はないだろう。
百香里「ですけど、やって来たのは転校生だけじゃありませんよ。実はこのクラスの副担任も新たに赴任された方ですし、長期の教育実習生もいらしてるんですよ。まずはそのお2人の紹介からしましょうか。どうぞ~。」
その直後、ドアが開いた。落語家を思わせる赤い着物を着た、がたいの良い中年の男が先に姿を表した。
三葉『あっ……!御神体におったあの人や……!』
彼の姿を見た途端、彼女はそう確信した。そしてそんな彼の後に続き、もう1人の姿が現れた。今度は20代程の女性で、三葉がその人の姿を見て、息を呑んだ。
地夫「えぇ~皆さん、おはようございやす。兵庫県西宮市から来やした、黒田地夫(くろだくにお)と申しやす。このクラスの副担任と、現代文の担当を任されやした。たんのするかもしれへんけど、ここで1つ西宮について話しとこか。あっしの故郷西宮にゃあ、高校球児の憧れの地であり阪神タイガースの本拠地でもある野球の聖地(メッカ)、阪神甲子園球場と、新春恒例の福男選びの舞台である西宮神社がありやす。おっと、少々喋りすぎやしたね。ほな、どうぞよろしく。」
ミキ「奥寺ミキです。東京都の上野大学教育学部の学生で、教育実習生としてここに来ました。よろしくお願いします。」
2人が自己紹介を終えると、教室がざわざわしだした。
「甲子園って、大阪じゃねぇんや!驚いた~。」
「あのお姉さん、綺麗やね~!流石都会の人は違うわ!!」
あらゆる所から声が出ていた。百香里は静かに笑っていた。そして、静かにして下さいと言い、教室を静かにさせた。
百香里「ふふふっ、それではお待たせしました。転校生達に入ってきてもらいましょうか。どうぞ!」
彼女がそう言うと、ドアが開き、4人が入ってきた。それを見て、三葉が目を見開く。まず最初の3人の内の2人は容姿が非常によく似ているが兄弟と思われる人物で、もう1人は目を閉ざして前に白杖をかんかんと突きながら入ってきた人物だった。
三葉『あの人達や……!やっぱりもう来てたんやね……!!』
そう思いながら見ていると、最後の1人も入ってきた。その姿を見て、三葉は更に胸が高鳴った。ハリネズミの様にツンツンした髪型と、男にしては少し華奢ながらもがっしりしたその体型は、紛れもなく自分が何度も入れ替わっていて、ただひたすら会いたいと思っていた彼だった。そうして4人が前に並ぶと、それぞれ自己紹介を始めた。
光輝「わしゃあ中岡光輝(なかおかこうき)じゃ!出身は広島県広島市!まぁ、よろしゅうのー!」
雷華「んで、アタイはその双子の姉、中岡雷華(なかおからいか)じゃあ!ま、ぼちぼちよろしゅう。」
慶影「拙者、西部慶影(にしべよしかげ)と申す。出生国は伊賀の国……、三重県伊賀市でござる……。まだまん馴染めてはおらぬが、どうぞよろしく………!」
瀧「俺は立花瀧と言います。山村留学で東京の新宿から来ました。2年間、お世話になります。」
4人が自己紹介を終えると、百香里に席を案内された席に着いた。
「何や今年はやけに色んな所から来たなー………!」
「おい聞いたか!!あの目が見えん人の喋り方…!流石忍者の町やな……!」
「あの東京から来た子、結構イケメンやね……!」
再びクラスが騒然とした。もっとも、観光客すらも珍しいこの町では、無理もない話であろう。
百香里「それでは、彼らも交えて今年度も頑張りましょう。」
事情はどうあれ、学校はたった今始まったばかりである。外から降り注ぐ春の日光に照らされながら、三葉は何かが起こる予感がした。
いかがでしたか?
最新話の投稿がどうにか年内までに間に合って良かったです……。このお話で年内の投稿は終了ですが、来年もまた頑張ろうと思いますので、来年もまたどうぞよろしくお願いします!
では、ここで本編に登場した方言を紹介します。
・なまら:非常に、とても(北海道)
・たんのする:退屈する(兵庫)
・ほな:それでは(兵庫)
・まだまん:まだ(三重)
こんな感じでしょうか。
次回は、遂に瀧と三葉、更には両サイドの友人達とオリキャラ達が接触します。
それでは皆さん、今年は本当にお世話になりました。良いお年をお迎え下さいね(  ̄▽ ̄)来年にまたお会いしましょう!!