最初の語り手は誰なのか。三人称と一人称視点がブレブレですが、一応わかってはいるのでこれはこれで楽しんでいただけると幸いです。
「運命」を、「宿命」を。君は信じるだろうか。
「運命」を知って、決められた「運命」に追いついてしまって。もしそれが望まぬ結末だったならば...どうだろう。
既に過ぎ去った時間は取り戻せない。変えられないと知ってなお足掻くのか、変えられないと悟って諦めるのか、それとも...これからを変えるのか。
いつか必ず来る望まぬ「運命」に対して、どれを取ろうと、どんなことをしようと君の自由だ。
私はもう定めを終えた身だ。だがやはり諦められなかったことの一つや二つはあるもの。それでも過ぎ去ってしまったものは取り戻せない。
しかし、その「運命」に挑み、抗い、闘い、そして自ら答えを導き、得た者もいる。
では、始まりをこう綴ろう。
唐突にやってきた「運命」は、少年に生きる道を示す。
その日は至って普通の日だった。
何事もなく起床、特に調子が悪いわけでもなく、とりわけいいわけでもない。朝食を摂り、制服を着て、冬期の冷たい外気を吸い込んで思わず咳が出る。そしていつも通りの時間に登校する。
後になって振り返ってみれば恐らく気味が悪いほど普通すぎると、吐きそうになるぐらいだ。
心地よい微睡みの中授業を受け、何事もなく放課時間を迎える。
「早く帰ろう。」
そう呟いたのも束の間、放送がかかる。
『1年F組赤坂大輔君、職員室...のところまで来てください。繰り返しま...』
めんどくさいな...。そう思いながらも仕方なく足を職員室へと向ける。
廊下を歩いていると、規則的なリズムを刻みながら歩く見慣れぬ色白の外国人とすれ違った。この学校はALTと呼ばれる外国人の先生が何人かいるが、担当は基本ひとりなので知らない人がいても不思議はないだろう。
と、そんなことを考えていたらもう目的地だった。
軽くノックをして、入る。
「失礼します」
するとメガネをかけた白髪の五十代後半ぐらいの教師が近づいてきて大輔に声をかけた。
「悪いな赤坂。済まないが進路室にある資料を教材室まで運んでくれないか。」
「...わかりました。」
仕方なく了承する。担任教師のご命令とあれば断るわけにはいかないのだ。それ以前に大輔は進路係という名の雑用なので何も言えない立場なのだが。
とりあえず進路室の位置と教材室の位置を、頭に簡易的な立体地図を思い浮かべて把握する。
進路室は職員室を出て左手側に行ったところにある階段の横だったはずだ。その階段を登って、右手の最奥。最も人が近づかないであろう教材室が待っている。距離的にはそこまで遠いわけはではない。なら、問題は無さそうだ。
「速攻で終わらせて、速攻で帰る。」
やるべきことはそれだけ。
進路室までの道のりでそんなことを考えていた。「教師の頼みごと」、その日唯一の異常が、平凡すぎる日常を逆転させるとも知らずに。
現在午後6時30分。
赤坂大輔はようやく最後、ダンボールあと一つという所まで到達した。
あの山を見た時は絶望したものだ。何せ教材の山、山、山。見渡せば言われた通りの資料が山積み。入室2秒で危うく帰宅準備に入ってしまうところだった。
流石にここまで理不尽とは思っていなかったが、引き受けた以上今回は仕方なくやってやろうじゃないか。
そんなこんなで約2時間こんなことをやっていた。
「これで最後、と」
ダンボールを教材室まで運び込み、あの地獄山がそっくりそのままこっちに移ってきた状況に安堵する。
ようやく終わった...。
引き返そうと後ろを向いたその時。
バチィッッッッ!
何かを踏む感覚があった。いや、その比ではない。電源の入った電球を割って周りに放電したような音。ガラスと電流の音。実際には電球を割って放電したことがないので分からないが。
「やべ、何踏んだんだ?」
それこそ学校の教材だった時は...と嫌な予感しかしないが。
「あれ、何も無い」
???
気のせいということにして歩みを進める。
と、つーっと左手の甲を血が伝って、指先から滴っていた。
「おいおい、いつ切ったんだよ...」
ポケットからハンカチを取り出して左手を押さえる。
だが。
「あれ、止まってる」
なにか様子がおかしい、そう思った時にはもう遅かった。
背に向けた教材室が、文字通り後ろを向かなくても目に見えるほど異常事態に見舞われていた。
振り返ってみれば、電気はチカチカと点滅、地面には赤く光る幾何学模様、ほとばしる赤色の電流。
「あ、ああ...」
あまりの恐怖で体が動かない。もはや声も出ず、ただただ立ち尽すしかなかった。
唐突にフラッシュ。目を瞑り、手で隠すが、あまりの眩しさに目の前が真っ暗になる。よろけて尻もちをつく。
数秒経過し目が慣れた時、目前の光景に目が奪われた。...それはまさに世界一美しい一輪の薔薇だった。
赤と白の豪華なドレスに、碧色の目、綺麗なブロンドの長い髪は後ろ側で結われていて極めて高貴なのだと思わせる一方、アホ毛がぴょんと立っているところが彼女を可愛らしく魅せる。
薔薇は言う。
「セイバー召喚に応じ参上した。」
薔薇は問う。
「そなたが余のマスターだな?」
「マスターってなんだよ、というよりお前は誰だ」と口が動くがしかし、声が出ない。今回は恐怖で声が出ないのではない。大輔は初めて見た薔薇の、そのあまりの美しさに声も出なかったのである。
「なんだ、口をパクパクしおって。はっきり言わぬか、全く情けない男よの。」
綺麗な薔薇にはトゲがあるというが、確かにそうなのかもしれない。
と、身動きのできない大輔の金縛りを解いたのは近づいてくる足音だった。まずい、非常にまずい。この状況、先生になんと説明すればいいのか。こいつは確実に不法侵入者として警察行きだ。それは目撃者である俺がめんどくさい。マスター、と言っているあたり俺と関係がないわけじゃないのだろう。尚更めんどくさい。
大輔はさっきまでの弱気な態度が嘘のように、勢いよく立ち上がり薔薇を教材室の奥に押し込む。
「わわっ!な、なんじゃそなたは何を考えーーッ!」
と、途中で大輔が手で口を塞いだのでもごもごと何か言っているが今はそんなことを気にしている場合ではない。サッと電気を消し、扉を締め、息を潜める。
コツコツコツコツと気味が悪くなるほど規則正しいリズムで近づいてくる。
すると、急に目前の少女が暴れだした。
「何をするーーッッ!」
手で塞ぐ。揉み合いになって無理やり押さえつける。ドンッと派手に音がしたが気にせず、息を潜めて、耳元で囁くように言う。
「先生が来てるんだ。お前の存在がバレたら面倒なことになるから、少し大人しくしててくれないか。」
コツコツコツコツと規則正しい足音がドアの前まで来る。
二人の間に妙な緊張が走る。
そして何事もなく通り過ぎていく。
と、思いきやドアの前で足音が止んだ。まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい。
ドアノブがガチャっと捻られーー
「アレックス先生、こんなところで何をしていらっしゃるのですか?」
「いや、何でもありません。そちらこそ何を?」
「いやぁ、赤坂君...生徒に仕事を頼んでしまって、今気づいたんですけどあれやらなくて良かったみたいなんですよ。まだやっているのならやめさせなければと思いましてね。」
ドアをキッと睨む。何が少々だよ、この無能で使えないクソ担任め。
「見たところもう終わらせて帰ってしまったのでしょう。施錠しますのでちょっといいですか。」
捻られたドアノブが元に戻る音が聞こえるとすぐにガチャリ、と鍵がかかる音が耳に入る。
よし!ナイス、前言撤回します。
段々と二つの足音が遠ざかる。
緊張が解け、はあっ、と二人同時にため息をつくと窓から青白い月明かりが差し込み大輔と薔薇を照らす。
と、よくよくみれば大輔が少女を押し倒して、上に覆いかぶさるような態勢になっており、気づかなかったが、顔がかなり近かった。頬が熱くなるのを感じ、バッと飛び起きて手をバタバタ振る。
「そんなつもりは無かったんだ!やましい気持ちはない!」
と情けない弁解を始めた。
少女は優雅に立ち上がり、膝元を払って大輔を見た。
「まあ、よい。今回はその無礼許してやろう。しかし今後こんなことがあれば...」
「あ、あれば...?」
セイバーと名乗る薔薇は、目が笑っているが、口もとが次第に引き攣り...
「こ、コロス!」
そう一言放った。
学校の正門とは真反対に位置する、暗がりの裏路地。そこで少年と少女が悪党のように気配を絶って会議をしていた。
一人は黒髪の青年、容姿においてその寝癖とアホ毛以外は特に特徴がないのが特徴。
少女の方は金髪で、頭の後ろで丁寧に結われている美少女。青年とは正反対でその立ち振る舞いは一切の隙もみせない、加えてその美貌は見るもの全てを惹き付ける。その赤い華美なドレスも相まって目立つ目立つで、結果話し合えるのはここということになった。
「で、お前は何者?全ッ然状況が分からないんだけど」
「なんじゃ、そなたもしや聖杯戦争を知らんのか?」
...なんだって?聖杯?戦争?物騒ったらありゃしない。聞き覚えの無い四文字熟語だ。そういえば四文字熟語って単語自体は、四文字で構成されてないよな、五文字、惜しい!
「ってそんなこと考えてる場合じゃねぇ。その...聖杯戦争?ってのはなんなんだ?」
「全く、余は幸運には自信があったのだがな。まさか魔術師でもないのか?」
少女はため息をついて毒づいた。
「魔術師...?アニメの世界かなんかか?」
なんてことだ、と少女は頭を抱える。
「説明してくれ、今の状況を。今の俺には知る権利があるだろう?」
そうして赤い少女は説明を始めた。
聖杯戦争。
それは万能の願望器「聖杯」を巡る、七人のマスターとその従者「サーヴァント」による戦争のことを言うらしい。
人智を超え、輪廻から外れた存在である英霊。
七人のマスターはそれをサーヴァントとして従え、最後の一人になるまで聖杯を巡り、争う。
しかし英霊を召喚すること自体が奇跡の体現なのでそれぞれに「クラス」を割り当て器を作っておくのだそうだ。それぞれ
セイバー、剣士の英霊
アーチャー、弓兵の英霊
ランサー、槍兵の英霊
ライダー、騎手の英霊
キャスター、魔術師の英霊
アサシン、暗殺者の英霊
バーサーカー、狂戦士の英霊
と七種類。1度の聖杯戦争において同じクラスの英霊が召喚されることは無い。
英霊はそれぞれがシンボルとなる「宝具」を有している。その全てが必殺の切り札となるが、真名を解放しなければならず、その伝承から弱点が露呈する可能性がある。
「ふぅん、なるほどな...。」
顎に手を当て少し考える仕草をした後、目の前の少女、セイバーにこう告げた。
「お前、人間を超えた存在なんだろ?なら学校からいくつかバレずに盗んできて欲しいものがあるんだが。」
この言葉を聞いたセイバーは呆れた様子だ。
「余は決してアサシンのサーヴァントではない。そんな地味な仕事は向かぬ。」
「しかしだな...」
大輔は顎に手を当ててから言う。
「お前、その格好でうろつかれるとバレるんだけど。」
少女は何も言えなくなった...。
生徒指導室。
ここには制服が10着ほど備えられていて、いつかくる「もしも」に対応できるようしてある。
マスターの話だと
「まず、二階の端っこの階段のもうちょっと奥に行ったところにある生徒指導室から制服を拝借して着替えてくれ。そうすることである程度ごまかしは効くし、街を歩いても不自然じゃない。出来ればもう2着ぐらいこのカバンに入れて持ってきてくれ。あとはそのちょうど上辺りにある化学実習室からマグネシウムリボンと銅粉をとってきてくれ。マグネシウムリボンは長いめのものを5本程度、銅粉は100gぐらい欲しいな。頼んだぞ。」という事だった。
魔力で編んだ武装から、制服に着替え、靴も拝借。この学校に馴染む衣装になったあと、階段を十段飛ばしの要領で音も立てず登る。速すぎるのと、辺りが暗いのとで英霊でなければ、彼女を目視で捉えることはほぼ不可能だろう。
化学実習室から、マグネシウムリボンと書かれた箱から5本、銅というラベルの付いた円柱型の小型ケースを1本取って窓から裏路地へ飛ぶ。
一応タイツを履いてはいるのだが、なびくスカートが重力に逆らうかのごとく楽園を隠す。
「とう!」
と、ドヤ顔で着地し、カバンを渡した。
「ああ、俺はこれだけでいいや」
そう言ってマスターはマグネシウムリボンと銅粉のみを自分のメインバッグにいれて「行くぞ」と促してきた。
本当にこんなマスターでよいのだろうか。
そんな疑念が彼女の頭をついてまわる。
まだ...その時は彼のことを考える余裕なんて無かったのだから。
大輔の家、玄関前より。
「全く、どうやって説明すればいいんだ...?」
そう、先、先のことを。つまり聖杯戦争について聞いた時少しピンときすぎたあまり、そっちにばかり気を取られていたが、それよりも最もな問題が目の前に...ガチャ
「ってセイバー!なんでお前が先に入って...ってああぁぁぁぁあッ!待って待ってく...」
「余が参ったぞ。」
時既に遅し、とはよく言ったものだ。本当に遅い。遅かった...。
ーーそれから2時間後。
食卓。それは家族団らんの憩いの場である。そうなんだ、そうだったはずなのだが...
「はーはっは、そなたもなかなかに話が合う奴ではないか。気に入ったぞ。」
「おうよ、お前さんとならいいー酒が飲めるぜ!」
「はい、セイバーちゃん。まだまだあるからたっくさん食べてちょうだいね。」
「おお!素晴らしい!余はネロ、ネロ・クラウディウスだ!お主らには特別にネロと呼ぶことを許可しよう!」
完全に我が家に溶け込んでいた。
「なんでだよ!」
ドンッ!と机を叩いて立ち上がる。
「なんだ、どうした「大輔」よ」
「セイバー、お前だよ!なんでこんなに違和感なく溶け込んでるんだよ!しかも俺ちゃっかり名前で呼ばれてるし!」
「うるさいぞ、大輔。食事中ぐらい静かにしなさい。」
父親からの軽い注意が入る。機嫌がいいのか笑顔は崩さないままだ。
「いや、いつも静かに食べてるだろ!この状況がおかしいから...」
「変なこと言わないの、大輔が連れてきたんでしょ?ネロちゃん」
ごもっともでございます、お母さま。
この展開は予想できなかったが、受けいられたのでよしとする。
その後の事だが、セイバーは外国から留学しに来たが、宿泊施設に泊まろうと思っていたところ、荷物を一式を盗まれてしまって困っていたところを助けた。という設定で家族に説明し、父さんが酔っていたのと、セイバーの人柄で、家に居候することを許してもらった。我ながら酷い、ブレブレのシナリオだ。留学しに来たのにホテル泊まるってどういうことだよ。
「ネロちゃんは奥の客間を使ってね。」
とだけ母さんに聞いて、大輔とセイバーは二階の大輔の部屋に向かった。そこまで広い家では無いので少し大きい声を出すと筒抜けなのだが。
「ここが大輔の寝室か。ザ・庶民の部屋、だな。」
大輔の部屋は六畳間に一般的な学習机、そしてベッドが置いてあり縦長の本棚が二個並んでいて、クローゼットがあるというシンプルな部屋だ。だが聞いたイメージとは違い、シンプルなのに物が多いのでごちゃごちゃしていて、若干散らかっている。
「なんかお前キャラブレ始めてないか?」
そんなツッコミをスルーして、セイバーは眠そうにあくびをする。
「なあ、そういえばネロ・クラウディウス?ってあれ、セイバーの真名なのか?」
「ああ、そうだが。何か問題でもあったか?」
「そっか...」
ネロ・クラウディウス。誰だ...?
「余はもう寝る。とりあえず話し合いは明日だな。まだ聖杯戦争についてまだ何もわからぬだろう。少し時間をかけてもよいからゆっくり対応するとしようぞ。」
そう言ってセイバーは大人しく奥の部屋へと消えていった。
大輔も椅子に腰掛け学習机に向かう。
そして電灯を付けて、メインバッグから今日盗ってきたものを出し、なにやら作業を始めたのだった。
いかがでしたか?
一応原作の意志は出来るだけ尊重していく所存ですので、設定など知っていると楽しめるかも知れません。
「ここはこうなんじゃない?」とか、「ここはこうだろ!」とか「こいつもうちょっとこうだよね」などなど、評価、ダメだし、アドバイス、感想どしどしください。
直せるところは直していきたいので。