アイシールド21 強くてニューゲーム   作:ちあっさ

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11th down 蛭魔妖一(後編)

セナの凄まじい走りに観客から大歓声が上がる。

 

「す、すご~い、早送りみたい・・・」

 

リポーターのお姉さんさえ素直に驚いていた。

 

(・・・やべえ、この小早川セナといい、進清十郎といい、すごすぎる、

この二人に比べたら、桜庭はフツウだ、全然目立ってねえ・・・かといってどうしようもないし)

 

プロデューサーはテレビ映り的に驚いていた。

 

 

「すごい、すごいよ小早川君、ねえ見た、阿含君?・・・・あれ? いない」

 

栗田が興奮して言う。

 

阿含はリポーターのお姉さんをナンパしてメルアドを交換していた。

 

「阿含君~、ねえ見てたの? 小早川君すっごいよ」

栗田がわざわざ言いに行く。

 

「あ”~~~うっせえな、足がちょっと速い「だけ」のチビじゃね~か」

 

全てにおいて才能がない奴はいるだけで邪魔だと考えている阿含にとって、

足が速いだけで筋力のないセナは見るに値しない相手だと思い、ろくに見ていなかった。

 

それを聞いていたヒル魔は思わず舌打ちしていた、

小早川セナの実力は、とてもじゃないが、足が速い「だけ」ではなかったからだ。

 

(糞ドレッドの奴、進ばかり見ていて糞チビはちゃんと見てなかったな、

言っても聞くわきゃねえし・・・・対戦の時はなんとかして最初から出させるしかねえか・・・)

 

「バケモノだな、小早川セナ」

 

武蔵がぼそりを呟いた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

(・・・あのスピードにあの曲がり、人間の動きじゃねえ・・・

・・・しかもあの反応の速さは、阿含の神速のインパルスに匹敵している・・・

阿含と小早川セナの能力を、反応速度、スピード、パワー、判断力で見てみると・・・・

反応速度・・・互角。

スピート・・・小早川セナの圧勝。

パワー・・・・阿含の圧勝。

判断力・・・・アメフトの経験値の分だけ少し糞チビが上か・・・・

七人抜きの際にいくつ技を出した?

手の使い方が抜群に上手い、ついこの間まで中坊だったガキのプレーじゃねえ、

目の前の状況の認識からベストの行動の選択、実行の間にタイムラグがほとんどない、

反応するだけなら阿含と同じ、いや、ほんのゼロコンマ何秒は阿含が上かもしれねえ、

だが経験による判断力・・・これはいくら阿含が天才でもどうしようもねえ、

阿含の才能なら一度見た技は使えるだろうが、逆に言えば見るまでは出来ねえってことだ。

・・・つまり、現時点において、総合で俺から見たらあいつは阿含を少しだが上回りやがる・・・

とんでもねえ奴だ・・・・・・・・・)

 

チームメイトから祝福を受けるセナを見ながら、

ヒル魔は自分が冷や汗を流していることに気づいていなかった。

だが同時に・・・・

 

(・・・・・ヒル魔の奴・・・・笑っていやがる)

 

武蔵から見たヒル魔は、とても楽しそうに見えた。

 

 

その後の試合展開は圧倒的だった。

僕は攻撃のみだが、石丸さんや猫山君と交代で何度か出場し、

出る度にタッチダウンをとった。

 

桜庭さんは何度もパスをキャッチして、その度にファンの悲鳴のような歓声を浴びていたが、

本人は悩みでもあるのか、終始憂い顔のままだった。

 

一度、ゴールライン前だったので、以前から打ち合わせて練習していたラインの上を飛ぶダイブ、

泥門時代でいう、「デビルバットダイブ」を慣行した。

これは練習で何回も見せているうちに、いつのまにか名前がついていた。

 

「ホワイトアロー」

 

そう呼ばれるようになっていた。

 

結局、150点差以上の大差で試合終了となった。

 

 

「ヒル魔、今年の王城をどう思う?」

 

もみくちゃに祝福されるセナを見ながら、武蔵が尋ねてきた。

 

「・・・・・黄金世代が抜けた分、ラインは明らかに落ちてるな、まともなのは大田原だけだ。

クォータバックの高見はなかなか優秀な奴だが、ラインが壊滅状態な以上、

ろくに仕事はできねえだろう、受け手のレシーバーも、エース桜庭クンは、一休の敵じゃねえ、

総合じゃあウチが圧倒している、今年の王城で怖いのは、進と小早川だけだ・・・

まあ、この二人を抑えるのが至難なんだがな・・・・・・・・・

アメフトは一人で勝てるほど甘くはねえ、だが、一人いれば流れを変えられる、

試合を作ることができる・・・・それが二人もいる今年の王城は・・・・・・・・

・・・・・・去年より強え」

 

 

「・・・・黄金世代は抜けたが、天才二人がいる王城か・・・・簡単にはいきそうにねえな」

 

やれやれとため息を吐く武蔵。

 

ヒル魔は少し考えてから、

 

「・・・・・・・・・会ってみるか、小早川セナに」

 

と言った。

 

「珍しく直球だな、ヒル魔」

 

「ケケケ、裏は裏で調べるさ、でもアイツは、どう分類していいか決めかねているタイプでな、

なら、直接この目で見て、この耳で聞くのが一番いいに決まってる、行くぞ」

 

観客席から腰を上げながらヒル魔は言った。

 

「ほう、試合後に健闘を称えに行くとは見上げた心掛けだね、俺も行こうじゃないか」

 

と爽やかな笑顔で言ったのは、金剛阿含だった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

胡散臭いものでも見たような怪訝な顔をするヒル魔と武蔵。

そんな阿含の謎の言動の意味をぶっちゃけたのは栗田だった。

 

「わかった、阿含君は王城のマネージャーの姉崎さんて人をナンパしに行くんだね」

 

「・・・・・あ゛~~~!!うるせえんだよ、カスデブがぁ~~!!!」

 

図星を指されて一瞬で化けの皮が剥がれた阿含は栗田をガシガシ蹴って八つ当たりする。

 

「あいててて・・・・ごめんよぅ、阿含くん~」

 

 

試合後、ファンによる桜庭の出待ちで通路は埋め尽くされていた。

なので王城の選手は更衣室のある建物の裏口から出てバスに乗ることにした。

 

すると裏口を出た所に、ヒル魔達が待っていた。

 

「いよぅ、王城ホワイトナイツの諸君、初戦突破おめでとう、

黄金世代が抜けて弱体化したんじゃねえかと心配したぜ、ケケケ」

 

ヒル魔が楽しそうに話しかけてくる。

 

「ありがとう、ヒル魔、おかげさまで「何とか」勝てたよ」

 

高見がメガネをクイクイさせながらヒル魔に返事した。

 

「あ、ヒル魔さん」

 

セナはつい、泥門時代と同じように素で呼んでしまった。

 

セナの呼び方は、まるで昨日ぶりだねとでも言うような気軽な呼び方で、

とても初対面の相手とは思えなかった。

 

ヒル魔の眉がぴくりと上がる。

 

「小早川君、ヒル魔を知ってるんだ~」

 

栗田はセナが自分の仲間を知っていたことが嬉しかったのだろう、目をキラキラさせて言う。

 

ヒル魔は、ゆっくりと歩いてセナの目の前まで来た。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

お互い無言で見つめあう。

 

この光景を見て、後ろにいた武蔵はやはり違和感を感じていた。

 

(・・・やはり、小早川セナの目に恐れや怯えは全くない・・・度胸のある奴だ・・・・・・

だが、何故あいつの目は嬉しそうなんだ?・・・どっちかというと懐いているかのようにさえ見える・・・ヒル魔はそんなキャラじゃねえだろ・・・小早川が分類できねえ奴とはそういうことか)

 

 

目の前に、あのヒル魔さんがいる、僕を見ている。

すぐ後ろには、栗田さんと武蔵さんもいる。

あと阿含さんが何故かキョロキョロしてるが、あ、雲水さんが話し掛けた。

 

この後、ヒル魔さんはどうするのだろう?

挨拶に来ただけ?

健闘を称えに来た?

絶対に違う、彼はそんな人じゃない。

 

敵にはとことん悪になれ。

 

アメフトはビビらせたら勝ちだ。

 

常にそう言っていた人なんだ。

ならば、ここはどうする?

 

・・・・威嚇か・・・挑発か・・・どちらかだと思う。

 

すると、ヒル魔さんはニヤリと笑い、

 

「ケケケ、こんなチビがレギュラーだなんて、王城も落ちたもんだなぁ」

 

と言った。

 

・・・・・・・・・・・挑発だった。

 

わざと相手を怒らせるような発言をして煽り、そのリアクションから相手の性格を分析する。

相手のエースを小馬鹿にすることで、相手を見下している、つまり、油断していると誤解させる。

 

打てる手はどんな手も打つ。

勝ち目が1%でも残っているならば諦めない。

勝つ確率が99%でも、1%負けるのなら油断しない。

そんな人だ。

 

ああ、目の前にいるのは、間違いなく、ヒル魔さんだ。

 

僕は嬉しくなって、つい、微笑んでしまった。

 

 

ザワッ!

 

神龍寺の面々も、王城の面々も、セナのこのリアクションに驚いた。

普通、あんなことを言われたら怒るものだ。

事実、高見は言い返そうとしていたし、

栗田は、ヒル魔の発言に相手を怒らせたかとハラハラしていた。

 

だが、セナはそんな挑発に意も介さずニッコリと微笑んで見せたのだ。

心底楽しそうに、嬉しそうに。

周りがぎょっとして停止してしまうのも無理はない。

 

しかし、ヒル魔だけは驚かず、じっとセナの目を見ていた。

 

小早川セナの目は、ヒル魔を知っているではなく、会ったことのある目だ。

ならば、せっかく本人が目の前にいるのだ、聞いてみればいい。

 

(コイツ・・・コイツは、楽しんでいやがる、俺との会話を・・・駆け引きを・・・

プレー以外でもアメフトに関わることは全て楽しい、そんな笑みだ・・・そんな目だ・・・・

さっきの俺の挑発も意味を理解してるな・・・・・・・・・・・面白ぇ)

 

だが、聞いたことはこれだった。

 

「・・・・・どこかで・・・会ったか?」

 

 

本当のことを言っても信じてもらえないのはわかっている。

でも、この人にも嘘はつきたくない。

 

「いえ、初対面です・・・・でも、あなたのことは前から知っていました」

 

と、部分的ではあるが、正直に言った。

 

(・・・・嘘はついてねえようだ・・・・が、全部話したってわけでもねえな)

 

「・・・・・・・そうか」

 

それだけ言って背を向けるヒル魔。

 

 

「気に入ったようだな、ヒル魔」

 

武蔵が聞く。

 

「まぁな、とりあえず合格ってとこだ・・・・・・・ケケケ、

強えぞ、アイツは、小早川セナは、身体能力だけじゃねえ、メンタルもなかなかだ、

全てのトリックプレーを駆使してブチ潰さなきゃならねえ相手だ、

テメエらも気合入れろよ、去年の黄金世代みたいに「簡単」にはいかねえぞ」

 

楽しそうに話しながらヒル魔達は去って行った。

 

 

「小早川は、ずいぶんヒル魔を買ってるんだな」

 

高見がセナに話しかけた。

 

「はい、ある意味僕は、彼が神龍寺で一番の難敵だと思っています」

 

セナははっきりと答えた。

 

「それほどの男か、蛭魔妖一は?」

 

セナの隣に来た進の問いにも、迷わず肯定するセナ。

 

「・・・そうか・・・・筋力は並のようだが、注意すべきはそんなことではないということか、

セナがそう言うのだから、そうなのだろう」

 

進は右手を出し、拳を握った。

 

ゴキキ、と骨が鳴る。

 

「面白い」

 

と、進はヒル魔達が去って行った方を鋭い眼光で睨みながら言った。

それを見ている王城の面子からは、もう恋ケ浜に大勝した緩みは全くなかった。

 

「勝つぞ、セナ」

 

「はい、進さん」

 

 

こうして、春の東京大会は始まった。




ヒル魔、阿含の仲が悪くない場合の呼び名がわからないので普通に名前にした。
普段から「狡いカス」とかないだろうし。

泥門の時も栗田はアメフトに全く興味を示さなかったハァハァ三兄弟を最初から信じていた。
部員=仲間という意識がそうさせているのなら、阿含がアメフト部員である以上、態度が変わるとは思えない。

次話は閑話というかコラムとセットでアップするので1WEEKでの更新は無理かも。
タイトル予告
「12th down 金剛兄弟」
コラム「雲水の呪(しゅ)」

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