アイシールド21 強くてニューゲーム   作:ちあっさ

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24th down 明日への決意

試合終了後、引き上げる王城ホワイトナイツの面々を乗せたバスは一路王城高校へ向けて走っていた。

 

バスの中、喋っている人間は誰もいなかった。皆うなだれている。

僅かに聞こえてくるのは嗚咽。

席の一番後ろに一人で座り、タオルを頭から被って俯いたまま泣いている選手が一人。

桜庭春人。

誰も声を掛けなかった、かける言葉がなかった。

 

そんな重苦しい空気の中で高見は思う。

 

(…完敗だった…点差だけを見れば1点差の僅差だが、実情は違う、神龍寺と互角だったのはセナと進だけだった、特にセナ、彼がいたから試合になっていたといってもいい、もしセナがいなければ、進がいたとしてもかなりの大差で負けていたことは間違いない。

桜庭は責任を感じて落ち込んでいるが、全員同じ思いだろう…俺も、正直情けない思いで一杯だ…畜生、もっと…もっと強くならなければ……ヒル魔…秋大会には…10倍にして返してやるぞ)

 

高見は落ち込んではいたが、俯いてはいなかった。

 

 

金剛雲水も結果を冷静に受け止め、周りの選手を見回して明日以降のことを考えていた。

 

(この試合で、全体のレベルアップはもちろん、今後やるべきことがはっきりした。

正直言ってこの敗北はチームを飛躍的に強くさせるだろう…となると問題は…やはり桜庭か、このままでは潰れかねない、彼にはケアが必要か……少し背を押してやるか)

 

幼少の頃より阿含と比較され、負け続けてきた彼の人生。

一度は戦うことを諦め、阿含のために尽くそうと折れたこともあったが、結局雲水は再び立ち上がり、戦うことに決めた。この試合の敗北は確かに無念であったが、それで阿含に勝つことを諦めるはずもなく、ただ、勝つまで戦い続けるのみ、と、決意を新たにするのであった。そしてチームメイトにもそうであって欲しいと願っていた。バスの車内で落ち込んでいるチームメイトを見回し、その様子にまだまだ上へ行けるという手応えを感じ取っていた)

 

(…強くなろう……みんなで)

 

 

進清十郎はいつものように腕を組んで目を閉じていた。

 

(俺はまだ甘い、弱い…だから負けたのだ…もっと、強くならなくては)

 

彼も自省していたが、他の選手と違い、彼のそれはいつものことなので落ち込んではいなかった。

 

 

小早川セナは、疲れているのだろう、バスに乗り込んで座った直後から寝てしまっていた。

ケアするために隣に座っているまもりの肩にもたれ掛かったまま気絶したかのように微動だにしない。

まもりも普段ならセナが隣でくっついている状態は嬉しいはずなのだが、今はそれどころではなく、心配そうにセナの顔をじっと見つめている。

セナの脚は試合後にすぐ王城専属医師には見せた。

緊急な治療の必要はないとの診断で、明日病院へ行くことになっている。

セナの強靭で柔軟な筋肉が足の筋を守ったらしい。

奇跡のように質のいいセナの脚の筋肉に医者は驚愕し感動すらしていた。

 

 

一方、神龍寺のバスの中。

王城と同じで静かだが、勝った為に車内の雰囲気はいい。

 

金剛阿含は眠っていた、爆睡だった、セナと同じように。

最後尾のソファーを一列独占し、横に寝転がって寝ていた。

 

「いつもは付き合っている女の人の車でどこかへ行っちゃうのに、今日は帰るんだね阿含君」

 

栗田はおにぎりを口一杯に頬張ったまま話す。

 

「まあ、それだけ疲れたってことだな」

 

ノートPCに何やら打ち込みながら答えるヒル魔。

 

「次の相手はどこになったのかな?」

 

「岬ウルブズだ、今日に較べれば問題ねえ、ま、油断はしねえがな」

 

「その次は?」

 

「まだ決まってねえよ糞デブ…まあ多分、太陽スフィンクスだろうな」

 

「で、その次がいよいよ帝黒かあ、前は完敗だったし、今度も厳しい戦いになるね」

 

「そうだな、パワーアップの手は打っているが…もう少し相手のデータが欲しいな、出来れば大和猛を生で見ておきたい…だがそうするには…そうだ、そうしようケケケ」

 

口に出しながら考え込んでいたヒル魔だが、何か思いついたのか、楽しそうに笑い出した。

 

 

少しすると栗田も寝てしまい、バスの中はヒル魔以外は全員寝てしまったようで、車内で聞こえるのはヒル魔が打っているノートパソコンのキー音だけとなっていた。

 

ヒル魔は今日の試合を思い返す。

 

(…収穫の多い一戦だった…まず阿含、アイツはこれで勝つ喜びとプレーをする楽しさを実感できただろう。もうアイツにとってアメフトは暇潰しではなくなった。

…ウチの他の面子も最近は勝ち慣れてきつつあったのでいい発奮材料になったはずだ。総合力でこっちが優っていたとはいえ、阿含がいなければセナに誰も対応できず、結果は逆になっていたろう、そう確信出来るほど小早川セナはプレーヤーとしての完成度が高い。

収穫が多かったのはウチだけじゃなくて王城もだろうがな…それにしても、小早川セナ)

 

ヒル魔はデータ入力を止め、大きく伸びをすると窓の外の景色を見た。

 

「セナのプレーは前半と後半ではプレー内容がまるで違っていた…手を抜いていたという感じではなかった…あれは、なんというか、ようやく目覚めたって感じだったな…つまり、本人も無自覚だったがアイツは本気ではなかったってことか…しかも、まだ成長する」

 

ヒル魔はそう口にしながら、いつもの動作でポケットからガムを取り出して口にした。

 

「ククク…やっぱオモシレエや、アメフトは」

 

 

王城のバスが学校に到着した。

この日は軽いミーティングのみで解散することになっていた。

明日は休日で練習禁止日となっている。

 

王城は部活の休みはあるが、大抵の部員は用事でもない限り自主練に出てくるので休みになっていない。

だがハードトレーニング後の超回復等を考えると、休息を取ったほうが良い場合があるので、庄司監督の意向で休みの他に練習禁止日というのが作られていた。

 

ミーティングは本当に簡単に終わり、解散となった。

反省は重要だが疲れている脳と身体では自虐的な発想にしかならないと庄司監督は判断したためだ。

 

 

セナは起こさずに家に送り、部屋に運んで寝かせた。

疲れきっていたのかその間も全く目を覚まさなかったセナ。

部屋に一人残ったまもりは上着や靴下を脱がせたり荷物を整理したりと世話をする。

一通り終わらせると、ベッドに眠るセナの隣に跪き、布団を掛けてあげる。

 

「ふう」

 

一息ついたまもりは、ベッドに肘をついてセナの寝顔を見つめる。

試合の激闘が嘘のような穏やかな顔でセナは眠っている。

 

「…こうして見ると昔から知っている幼馴染のセナなんだけどな…」

 

指でセナの頬をツンツンと突くが、相当深く眠っているようで、セナは全く起きる気配がない。

 

「…試合になるとあんなにカッコ良くなるんだから…セナも男の子なんだな………もう…惚れ直しちゃったじゃない」

 

部屋に二人きりだがまもりは周りをキョロキョロと見回すと立ち上がり、セナに覆い被さるように顔を寄せていった。

 

「がんばったね、セナ」

 

チュっ

 

まもりはセナの頬にキスすると、立ち上がって部屋を出て行く。

 

ドアを閉める前に顔を覗かせて、もう一度セナの顔を見て言う。

 

「おやすみなさい」

 

 

桜庭は部屋のベッドに腰掛けたまま項垂れたままだった。

バスの中も、ミーティング中も、帰宅してからもずっと一言も喋っていなかった。

反省、後悔、自己嫌悪、それらが交じり合って結局は頭の中が真っ白になって何も考えられなくなっていた。

 

「…俺は……」

 

その後は言葉が続かない。そもそも何を言いたいのか自身でもわからない。

茫然自失していた桜庭に、下の階にいる母親から呼ぶ声がした、来客らしい。

 

「客…?こんな時間に…ジャリプロのマネージャーかな……そういえば明日は事務所のファン感謝イベントだっけ…」

 

桜庭は自分が声に出して独り言を言っていることさえ気付いていなかった。

そして、その来客が部屋に入ってきたことすら気付いていなかった。

 

「落ち込んでいるというより、迷っているな」

 

いきなり声を掛けられ、驚いて弾かれたように顔を上げ、入ってきた人物を見る。

 

「お…お前は…!」

 

 

 

翌々日

 

「おはよう、高見」

 

登校中の高見を校門の前で後ろから声をかけたのは雲水だった。

 

「やあ、おはよう雲水、こんな風に会うのは久しぶりだな」

 

「まあ、今日は朝練がないからな」

 

二人は話しながら歩いて行く。

校門をくぐったあたりで、後ろからガラガラと騒がしい車輪の音が聞こえてきた。

 

「リアカー?かなりの速さでこっちへ来るな」

 

そう言っている間にそのリアカーは視界に入る。

 

「引いているのは…瀧じゃないか、リアカーをローラーブレードを履いて引いているのか、どおりで速いわけだ」

 

「ど~んが~どんがらがった、セ~ナ様のおっ通りだ~い」

 

鈴音は元気に歌いながらノンストップで校門をくぐり、そこで二人に気付いて急ブレーキをかけて止まった。

 

「あ、おはよ~ございま~す」

 

「やあ、おはよう瀧…って後ろに乗っているのは小早川じゃないか」

 

「お、おはようございます、高見さん、雲水さん」

 

リアカーの荷台に座布団を敷いて正座して座っていたセナはペコリと挨拶した。

 

「で、何しているんだ、これ?」

 

「いえね、昨日王城の医者には1週間は走るのを禁止されていたのですが、禁止されるまでもなく筋肉痛で歩くのも辛い状態だったのを鈴音が迎えに来てくれまして、強引にリアカーに乗せられてこの状態です」

 

「流石の小早川も筋肉痛になったか」

 

「はい、かなり無茶な動きを繰り返しましたので」

 

「足の具合はどうだ?」

 

高見が尋ねる。

 

「はい、僕は今日の放課後は念のためにもう一度病院へ行くことになっていますが大丈夫です」

 

そんな風に話していると、周りに他の生徒が集まってきた。

王城高校といえばアメフトで有名で、その部員のキャプテンやエースといえば学校で知らぬ者はいない程の有名人。つい昨日試合があったばかりで応援に行った生徒も大勢いれば、当事者に話を聞きたくて寄って来るのは当然といえた。

 

「おはよう高見、昨日は惜しかったな」

 

「あ、金剛君、試合見たよ~、かっこよかったじゃない」

 

「セナ君も昨日目茶苦茶すごかったよねぇ、一緒に見てた私の友達なんて泣いちゃってたのよ」

 

友人やクラスメイトやファンが集まってきて声を掛けてくる。

大騒ぎになって揉みくちゃにしたりしない所が品の良いとされる王城の生徒らしいと言えるだろう。

 

「登校中の他の生徒の迷惑になるから授業が始まるまで部室に行ってよう」

 

如才なく周りに受け答えしながら高見はセナと雲水に言った。

 

「そうですね」

 

 

 

秋の関東大会決勝、相手は神龍寺ナーガ。

 

セナが叫ぶ。

 

「これが、俺の新技、『舞空術』だ!!!」

 

身体を鍛え続けたセナは、ついに気のコントロールを見につけ、空を飛ぶことが出来るようになった。

 

「お~っと、アイシールド21選手、ついに空を飛んだ~、上空を飛ばれては相手の選手は届かない~!」

 

そのままタッチダウンかと思われた時、知将ヒル魔がニヤリと笑った。

 

「フッ、アイシールド21、お前が空を飛ぶことは…予想済みだぜ!、やれい阿含!」

 

「おっしゃあ!任せろ…か~め~は~め~~~~」

 

「お~っと、これは阿含選手の必殺技「かめはめ波」だぁ~~!」

 

「波ぁ~~~~!!!」

 

 

 

「で、撃墜された所で目が覚めたんです」

 

「ニャハハハハ、その夢オモシレ~」

 

昨日見た夢の内容を語ったセナに猫山君が笑い転げている。

 

「…小早川、お前、なんちゅう夢を…しかも負けてるし」

 

「そうなんですよ、次の秋大会で負ける夢なんて縁起でもない夢でしたよ」

 

「いや、その前に空を飛ぶって…」

 

「夢ですから、夢」

 

「まあ、そう言っても、試合の影響を受けた夢だな、小早川があれだけランで止められたのは初めてだろうしな」

 

そんなことを話している間にも部室に続々と集まってくる部員達。

 

「はは…示し合わせたワケでもないのに皆来るねえ」

 

猫山が苦笑いしながら言った。

 

「居ても立ってもいられないのさ、僕もそうだからね」

 

高見がそれに答え、一拍置いてから尋ねた。

 

「………桜庭は?」

 

「桜庭は昨日はジャリプロのイベントだそうで、今日はまだ来ていませんね」

 

高見の問いに同じクラスの石丸が答える。

 

「…………そうか」

 

高見はそれだけを言って目を伏せて考え込んでしまった。

 

「せっかく来たんだ、練習はしないまでもミーティングをするか」

 

雲水が雰囲気をかえるように言い、ミーティングが始まった。

 

 

ミーティングも終わり、始業ベルが鳴るまでもう少しという頃、ドアが勢い良く開いた。

 

「遅くなりました」

 

入ってきたのは桜庭だった。

 

「遅くなりましたって、今日は別に無理してこなくても…っっっ!!!」

 

挨拶した桜庭にツッコもうとした猫山が言い終わる前に絶句した。

 

「来たか桜庭、今日は朝練がないから部室に来る必要はなかっ………TA」

 

猫山の次に桜庭に声を掛けた高見も同様に絶句する。

そこにいた部員全員が二人同様に言葉を失っていた。

何故なら、桜庭春人の見た目が大きく変わっていたからだった。

桜庭の髪型はいつもの流行のお洒落な髪型ではなく、坊主頭だった。

 

「…さ、桜庭」

 

高見がなんとか声を絞り出して問う。

 

「はい」

 

「お前、その頭は?」

 

「見ての通り剃ってきました、一昨日の試合は俺のせいで負けたようなものですからね、坊主にしたぐらいで責任が取れるとは思っていませんが、ケジメってやつです」

 

頭を撫でながら迷わずに朗々と話す。

シャリシャリと小気味の良い音がする。

 

「そ、そうか…しかし、そんな頭でモデルの仕事はどうするつもりなんだ?」

 

桜庭の頭を見た時点である程度の予想がつきながらも高見は問うた。

 

「廃業届け、出してきました、ファンには昨日イベント会場で土下座してきました」

 

という、高見の予想以上の答えが返って来た。

しばらくはアメフトに専念するという決意だけでなく、行動済であることに驚いた。

 

(…桜庭の奴、完全に逃げ道を絶っている、自分の信じた道を進む為に他人に疎まれることを恐れていない、今までとは覚悟の量が違う…あの状態からよくここまで…)

 

高見は首を振って途中で考えるのをやめた。

それよりも今の桜庭に声をかけたかった、ずっと言いたかったことがあるのだ。

 

「…そうか」

 

高見は立ち上がり、桜庭に寄って行って肩をバンバンと叩いた。

 

「桜庭…とうとう来たな、俺はこの日をずっと待っていた…三年間ずっとだ」

 

 

 

おまけ

 

桜庭の坊主頭に驚いていたのは部員全員ではなく。

 

「桜庭は何か変わったのか?」

 

進だけは気付いておらず、さっきはただ黙っていただけだった。




ど~んが~どんがらがった…:国松さまのお通りだいって歌をYOUTUBEで聴いた、どんなアニメか知らぬ。

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