セナとの出会いが影響し、自分から入部している。
中学時代は試合でセナと対戦することは偶々なかった。
熱は一晩で下がったけど、なかなかショックから立ち直れなかった。
ヒル魔さんの存在というのは僕にとって大きかったことがいないとわかって初めてわかった。
僕にアメリカンフットボールを教えてくれた人。
……騙されたのか脅されたのかよくわからないうちにアメフトをやらされていたが。
戦うと言うことを行動で教えてくれた人。
……ハッタリ込みだが。
アメリカ横断デスマーチで膝を腫らしていたが、弱音どころか痛がるそぶりも見せずに
ケケケと笑いながら皆を引っ張っていた人。
……後で治療したまもり姉ちゃんから教えてもらった。
そんな人がこの世界にはいない……
自分でも驚くくらい、気が抜けてしまっていた。
世界が色褪せたようにすら見えてしまい、毎日続けているトレーニングすらやっていない。
魂が抜けたような状態の僕に、まもり姉ちゃんや両親は心配してくれたが、元気が出なかった。
まもり姉ちゃんは毎日のように家に来てくれている。
でも何があったのか話しようがない。
申し訳ない気持ちで一杯になり、心配かけないように、トレーニングだけは再開した。
・
そんなある日。
家にまた高校のスカウトがやってきた。
以前もきた学校だけど、今回来たのはスカウトの人ではなく、高校の監督らしい。
その監督は一人の今年高校一年になる生徒を連れてきていた。
その生徒を見た瞬間、僕の全身に電気が走ったような衝撃を受けた。
そうだ……この人はいたんだ、いることが確定している世界なんだ。
やってきたのは、王城ホワイトナイツの庄司監督。
一緒にやってきたのは、進君だった。
・
「………………」
「………………」
僕と進君は、近くの公園でランニングをしていた。
提案したのは進君だったが、やってきた監督は最初から僕と進君を話させるつもりだったようで、
僕らはすぐに家を出て走っていた。
いつも走っている周回を終え、軽く歩きながらクールダウンをする。
「…………セナ、心肺機能が少し落ちているな、トレーニングを休んだのか?」
進君が全く表情を変えずに聞いてきた。
相変わらずすごい人だと思う。
顔がわからなくても筋肉のつき方で人の見分けがつくし、
今のも呼吸の荒さからそう判断したのだろう。
ちょくちょく一緒にトレーニングしていたとはいえ、よくわかるなと感心する。
「…………うん、ちょっと……落ち込むことがあってね、休んでいたんだ、
でももうトレーニングは再開しているよ」
これ以上多くの人に心配をかけたくなかったので多少無理して元気にそう言う。
「………………」
進君は責めるようでもなく、ただ無言で僕を見る。
この人に誤魔化しはききそうにない。
いっそこと、思い切って僕は話してみることにした。
「……えっとね、聞いてくれるかな?」
「ああ」
「僕がね、アメフトをはじめる切っ掛けをくれた人がね、いなくなっちゃってさ……
……それで……自分でもわからないくらいショックで、自分でもわかってはいるんだけど、
気が抜けちゃって……どうしようもなくて……何か欠けてしまったみたいで……」
僕は特に考えずに、胸の中に溜まっている何かを吐き出すように話した。
支離滅裂なことを言っていることはわかっていたけど、何故か進君にならわかる気がした。
「………………」
じっと聞いていた進君は、しばらく黙った後、僕の目を見て話し出した。
「セナ、お前はアメリカンフットボールを辞めたいのか?」
ド直球で聞いてきた。
「そ、そんなわけないよ、やめるなんて……ありえないよ」
僕は間髪入れず返事した。迷うこともない質問、それは、それだけはない。
それを聞いた進君はほっとしたようだった。
続けて話し出す。
「では、誰かは聞かないが、その人物にアメリカンフットボールを教えてもらったことに、
アメリカンフットボールに出会えたことに、お前はどう思っている?」
「ど、どうって?」
「考えるな、感じたことをそのまま言えばいい」
「………………」
「………………」
進君はじっと僕が答えるのを待っている。
僕は目を閉じて素直にその想いを口に出してみた。
「…………うん、僕は、出会えたことに、幸せと感謝を感じるよ」
ヒル魔さんに出会えたことや、アメリカンフットボールに出会えたことを思うと、
自然とそう言葉が出た。
「ならば、今のお前は間違ってはいない。
出会えたことが幸せで、いなくなったことがそれほどに悲しいのならな」
「……!」
進君は、元気を出せと励ますのではなく、落ち込んでいる僕に、それは正しいことだと言ってくれた。
「しかしな、セナ」
進君はゆっくりと話し出す。
「お前がそのまま立ち止まっていれば、その想いはいずれただの軽い思い出になってしまうだろう」
「…………え」
「お前が幸せだと思っていることも、幸せ「だった」思い出になっていくだろう」
………………それは、いやだ。
「その出会いが全て、無かったことになってしまう、お前はそれでもいいのか?」
「…………いやだよ、そんなの……絶対に嫌だ!」
僕は叫ぶように言っていた。
「ならば、進め、小早川セナ、それが……その人物との絆を繋ぐ唯一の方法だ」
「絆を……繋ぐ……方法?」
「そうだ、お前が受け取ったものは、今もお前の胸の中にあるのだろう?」
「…………ある……あるよ」
僕は無意識のうちに服の胸の辺りを握り締めていた。
そうだ、覚えている、ヒル魔さんから教えてもらったこと全て、
こんな時、ヒル魔さんならどう言うか、何をするか、わかる・・・わかるよ。
ヒル魔さんだけじゃない。
アメフトをやっていて関わった全ての人達の想いも、全て覚えている。
ああ…………いた……ここにいた。
この世界にはいなくても、僕は覚えている。
僕の中にいたんだ。
よくある言葉だけど、本当にあることだから、よく使われる言葉なんだ、これは。
『大切な想いは、心の中で生き続ける』
僕の中に、アメフトに対する情熱の灯がまた灯った瞬間だった。
気がついたら、僕は涙を流していた。
そんな僕を見て、進君はこう言った。
「ありがとう、セナ、出会ったことを無駄にしないでいてくれて」
「え、礼を言うのは僕のほうじゃないか、どうして進君が?」
涙を拭って言う僕に、進君は続けた。
「それはな、お前にとって出会いの幸せをくれたのがその人であるならば、
俺にとっての出会いの幸せをくれたのが、他ならぬセナ、お前だからだ」
「え」
驚きの発言だった。
「何をすればいいのか探していた俺に、アメリカンフットボールを教えてくれたのはお前だ」
そんな僕が落ち込んでいるのをみていられなかったという。
そんなことを真正面から目を見てはっきりと言われるのはとても照れくさかった。
でも、嬉しかった。
「ありがとう、進君、おかげで助かったよ、僕はもう大丈夫」
にっこり笑ってはっきりとそう言えた。
照れくさくて言えなかったが、進君と友達になれて本当によかった。
かっこいいよ、進君、僕が女性なら絶対惚れてるよ。
「そうか、ならば来た甲斐があったな」
と、そう言った進君は、何か思い出したようにいい重ねた。
「そうだ、セナ、今日、庄司監督と来たからわかるように、俺は王城に進学した」
そういえば、そうだった。
王城は中学から大学まで一貫だし、僕の記憶から、進さんが王城に行くのは確定事項だったので
庄司監督といることに疑問に思わなかった。
「俺は王城でアメリカンフットボールの日本一になる!」
力強く断言し、そして、進君は僕を改めて見て、こう言った。
「セナ、俺と一緒に王城でクリスマスボウルを目指さないか?」
ヒル魔妖一とグレンラガンのカミナは似ているような気がするのは私だけか?
いつも自信満々の様子で周りを引っ張っていくとことか。
そう考えると、引っ張られる方がすごい力を持ってるという点でもセナとシモンも似ているか。
別にヒル魔死亡フラグではない。
セナはどこに行くのか?次の話でもう一つの選択肢が表示されます。
文章を一人称三人称といろいろ書いてみやう。