アイシールド21 強くてニューゲーム   作:ちあっさ

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5th down それぞれの決断

アメリカに行って、今すぐプロに挑戦する・・・・

 

正直迷う。

 

いずれは行くつもりなのだ。ならば今行かない理由はないのではないか?

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

悩んだ末、僕は答えを出した。

 

 

中学最後の大会を優勝で終えた。

 

大会MVPとか、獲れる賞はみんな獲った気がする。

 

一つの区切りのような感じもするが、

僕にとってはようやくスタートラインの前まで来たという感じだった。

 

瀧くんに渡米を誘われた後、連絡先を瀧兄妹と交換し、

鈴音とは何回か電話やメールでやりとりし、だいぶ前のように話せるようになってきた。

でもやはり、今の鈴音はお淑やかな印象がある。

言いたい事をガンガン言わないし、兄をインラインスケートで踏んだりしない。

大きな声で笑わないし、よく考え事をするのか、ぼうっとしてることが多い。

前のように「やー」と言うことはたまにあるが、言った後慌てて俯いたりする。

お転婆なイメージが消え、友達という感じより、女の子という感じが強いので、

なんだか話していて照れる。

 

 

鈴音にとっては、好きな人の前でみっともない姿は晒せないし、

まだセナと会って話すだけでも緊張してどもるくらいだったので、

なかなか素の自分を晒せていなかった。

ふと気づいたらセナの顔に見惚れていたことも一度や二度ではない。

 

 

大会が終了し、表彰式の後、雑誌やテレビの共同インタビューとやらに出さされた。

色々と聞かれたが、最後に聞かれた「この先の進路」についてははっきりとこう答えた。

 

「僕は、王城に行こうと思っています」

 

小早川セナの王城ホワイトナイツ入りの宣言は、彼の予想を大きく超えてあちこちに

影響を与えることになる。

 

これで王城ホワイトナイツには、

「高校最強のラインバッカー、進清十郎」

「日本最高のランニングバック、小早川セナ」

が揃うことになり、マスコミも大きく取り上げた。

 

 

色々悩んだが、決め手は彼の一言だった。

 

「セナ、俺と一緒に王城でクリスマスボウルを目指さないか?」

 

進君、いや進さんにこう言われて断れる人がいるだろうか?いやいない!

 

この日本には、戦ってみたい人が何人もいる。

 

僕はまずは、日本一の高校生を目指そう。

 

 

瀧くんの誘いを断ることになるのでその旨を電話しようとしたが、通じない。

鈴音に聞くと、彼はなんともうアメリカに行っていた。

「キャンセル待ちの便があったのでつい乗っちゃったよ、アハーハー!」

という、鈴音宛のメールを最後に連絡が取れないらしい。

海外でも使える携帯を持ってるから大丈夫だと思うけど、どうしても連絡が取れなかったら、

アメリカまで探しに行くかもしれない。

と、鈴音は溜息を吐いていた。

 

 

王城に行くことを決めたのを一番喜んでくれたのは、まもり姉ちゃんだった。

 

「セナが後輩か・・・小学校以来だね」

 

見間違いかもしれないが、まもり姉ちゃん、泣いていたような・・・

 

 

特待生のテストというのを受けに、王城へやってきた。

スカウトをしておいて誘いに乗ると試験をするというのはおかしな話だと思ったが、

実質合格していて、いわゆる顔見世みたいなものなのだという。

 

相手をしてくれるのは、今年引退した三年の人達で、

黄金世代といわれる世代らしい。

前から思っていたけど、そういうのは周りから言われるものであって、

自称するものではないと思う。

「俺達黄金世代」なんてよく恥かしげもなく言えるなあと思った。

 

仁王様みたいな人が話しかけてきた。

黄金世代のキャプテンのようで、プロレスラーにしか見えない。

今年黄金世代は神龍寺に惜敗したらしいが、お前がいれば勝てたかもしれんのに~と、

非常に惜しんでくれた。見た目よりいい人みたいだ。

 

進さんもいたので少し話す。

「来たか、セナ、待っていたぞ」

進さんも嬉しそうだ。僕にしかわからない微妙な表情の変化だが。

 

呼び名を進君から進さんに変えた。学校の先輩後輩の関係で君付けは示しがつかない。

 

他の1年2年の部員は後で紹介してくれるということで、グラウンドへ出た。

テストは簡単な試合形式で行われるのだそうで。

僕は攻撃でポジションは当然ランニングバック、守備は全員が黄金世代。

現役の先輩達は見学ということらしい。

 

「負けを恐れずにぶつかってこ~い!!!」

と、黄金世代は僕に上から目線で言ってきた。

まあ、大先輩なんだから上から目線は当然なんだが、

 

我々は黄金世代なのだから、勝って当たり前、中学MVPとやらでも、

所詮は中学レベル、ちょっと揉んでやろう。

 

くらいの感じで正直舐められていた。

 

なので、先輩が蹴ったボールをキャッチした僕は、

そのままキックオフリターンタッチダウンを決めた。

 

プロレスラーの集団みたいな人達だけど、その分スピードがない、

触れられなければどうということはなかった。

 

庄司監督が満足そうに頷いていた。

 

呆然としていた先輩達であったけど、我に返ると豪快に笑い出した。

 

「いや~、まいったまいった、我々黄金世代の完敗だ」

 

そうは言っているが、まともなポジションやフォーメーションを組んだわけでもなく、

僕を走らせるのが目的の雑なものだったので、これがこの人達の実力ではないだろう。

 

・・・でも、完敗したと言いながらも黄金世代は自称するんだ。

 

 

その後、現役の先輩達と挨拶する。

 

「高見伊知郎だ、よろしく小早川君、君には期待しているよ」

「大田原だ、オマエすごいのう、速くて見えんかったわ」

「桜庭春人、一緒にがんばろう」

「進清十郎、共にプレーできる日を待っていたぞ」

 

この辺はよく知っている方たちだ。

 

他にも次々と挨拶していく。

「神前」

「眉村」

「安護田」

「頂」

「岩鼻」

「具志堅」

「石丸」

「井口」

「中脇」

「上村」

「薬丸」

「艶島」

「釣目」

「金剛」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・ん?

 

何か、看過できない人がいたような・・・・・こんごう?

 

 現一年生で、僕の入学からは二年生になる先輩の中で、

進さん桜庭さんくらいしか知らないと思ってたけど、

すごくよく知っている人が一人いた。なんでこの人が王城にいるのだろう。

 

金剛雲水さん。

 

「え・・・・・・・金剛・・って・・・阿含さんの?」

 

僕のつぶやきを聞いた雲水さんは、軽く息を吐くと、

 

「そうだ、金剛阿含は俺の双子の弟だ」

 

と言った。

 

「・・・・あ・・・・そーなんですか」

 

驚きのあまりたいしたリアクションができない。

 

「・・・・・ふ、阿含が神龍寺に行ったのに何故俺がここにいるのか疑問だという顔だな」

 

雲水さんは、何回か同じことを聞かれたことがあったのか、僕の考えをあっさりと見透かした。

 

「あ・・・は、はい・・・・・すいません、何か無礼なことを聞いて」

 

すぐに謝っておいた。

捉えようによっては、雲水さんは阿含さんのオマケみたいに思ってたと誤解されかねないからだ。

僕の場合は泥門時代の記憶から知っていたからなので、そんな失礼なことは考えていないのだが。

 

雲水さんは、気を悪くした風もなく、むしろ親しみをこめた目をして僕に言った。

 

「俺がここにいるのは・・・そうだな、ある意味、小早川セナ、お前のおかげでもあるな」

 

 

切欠はささいなことだったという。

雲水は最初、神龍寺に進学し、弟の踏み台になるつもりだった。

それでこそ、凡人である自分が浮かばれる。

 

それでいいんだ。

 

そう思っていた。

 

そんな時、小早川セナを知る。

 

彼も、阿含や進のような天才だと思った。

その考えは今も変わっていない、彼は自分達凡人が決して到達出来ない高みをゆく選ばれた人間だ。

努力はしているだろう。だが、同じトレーニングをしても自分はあの位置にはいない。

凡人は天才には適わない、諦めるしかない。そう思った。

 

だがしかし、一つだけ、雲水の心に引っ掛かることがあった。

それは何か?セナのプレーを見てわかった。

 

彼は、小早川セナは、アメリカンフットボールを心底楽しんでいる。

羨ましくなるくらい、彼はプレーを楽しんでいた。

そこに、才能のあるなしなど関係なかった。

 

アメフトを楽しむのに才能はいらない。

 

天才に叶わず、追いつけず、苦しんでのたうち回っていた雲水にとって、

その単純な答えは笑いを催した。

 

雲水が阿含の踏み台になることは間違ってはいない。

 

・・・・・・・だがしかし、正しいとも言えない。

 

ならば、正しいこととは何か?

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

雲水は、考えて悩んだ末、こんな答えに辿り着いた。

 

小早川セナの在り方がその答えなのか?

 

つまり

 

自分に嘘をつかない、いや、自分に嘘はつけない。

 

俺は何をしようとしていた?

 

弟を最強選手にしようとしていた。

 

それが俺の野望・・・・・・・・違う!

 

それは諦観した結果だ、嘘をつくな雲水。

 

諦める諦めないでもない、出来る出来ないでもない、勝つ負けるですらない、

 

やりたいかやりたくないかだった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

雲水は、高校の進学先を決める前に、その思いを阿含にぶつけた。

 

「阿含・・・俺は、お前と戦いたい!・・・お前に・・・・勝ちたい!!!」

 

搾り出すように叫ぶ雲水に、阿含は静かに睨んでいたが、

 

「・・・・・・・・そうかよ・・・勝手にしな」

 

とだけしか言わなかった。

 

「ああ、俺は、勝手に生きるよ」

 

そう言う雲水の顔は憑き物が落ちたように晴やかだったという。

 

凡人の兄の決断が天才の弟にどのような心境の変化をもたらしたのかは定かではない。

だが結果的に、それは大きな変化を伴うことになる。

 

 

雲水は進学先に、神龍寺に対抗できる学校ということで、王城を選んだという。

そして、特待生ではなく普通に受験入学を果たす。

 

そして今に至る。

 

さすがパラレルなワールド、こんなこともあるんだ。

この分だと、来年入学する一年生の中に知ってる人がいたりするかもしれない。

楽しみだ。

 

 

余談だが、今回のテストにはまだ入学していない若菜小春もこっそり見に来ていた。

実は彼女もセナのファンだった。

若菜は中学から王城に在籍していたため、セナが王城に行くと言った時には飛び上がって喜んだという。

 




原作の雲水覚醒フラグはワールドカップユースでの葉柱だったが。
私はそこまで待てません。神龍寺の雲水さん辛そうで見てられない。
頭の良い雲水さんは些細な切欠で覚醒したはずだと思ってます。

金剛雲水は、
ピンポンのアクマのように、
アマデウスのサリエリのように、
凡ての凡人の希望の星である。

王城は中学から大学までの一貫だが、高校からの編入もあり。

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