アイシールド21 強くてニューゲーム   作:ちあっさ

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トーナメントの組み合わせは原作ほぼ関係なし


9th down 白い騎士達

 小高い丘の上に庄司監督が腕を組んで立っていた。

隣にはストップウォッチを持ったマネージャーの若菜小春がいる。

そこはマラソンのゴール地点だった。

トレーニングの一環で行われているそれは、途中にはアップダウンの激しい坂や、

長い階段などがあり、普通のマラソンよりもきつい内容になっていた。

 

トップが帰って来た。

 

走ってきたのは、監督の予想通り、進清十郎だった。

 

(・・・ふむ、やはり進か)

 

当然の結果だが、同時に監督として悩みのタネでもあった。

進が強すぎるのだ。

 

去年、一年生にしてすぐに彼に勝てるどころか対抗できるものさえいなくなり、

進のトレーニングは個人で行うそれと同じものとなっていた。

監督にとって練習とは、部員同士で競わせるからこそお互いを高められる、

いわゆるミックスアップが大切だと常々考えていた。

 

だからこそ、進の現状が残念でならなかった。

誰も進に勝てないと早々に諦めている。

いや、何人か諦めていないのがいるが、進の相手にはならない。

進がストイックな求道者でなければどうなっていたかと思う。

 

「相手のやる気まで奪っちまったら、何が楽しいんだよ」

と言って練習をサボっていたかもしれない。

 

だが、そんな心配は、今年から杞憂となった。

彼が来たからだ。

 

小早川セナ。

 

進のすぐ後ろにぴったりついて走ってきている。

去年までは、進の後ろには視界範囲にすら誰もいなかった。

 

進をさらに高めてくれるライバルの存在に、庄司は内心安堵を覚えていた。

 

 

(・・・・・進さんやっぱりすっご・・い、ついていくのが精一杯だよ・・・

・・・短距離ならともかく、スタミナではまだまだ進さんがずっと上か・・・)

 

セナが思う通り、フラフラでなんとか走っているセナに対し、

進はまだまだフォームも崩れておらず、呼吸もリズムを乱していなかった。

 

(だがしかし! このまま終わってなるもんか!

・・・流石にきついけど、もっときつい練習をいろいろやってきたんだ!)

 

進の真後ろにつけていたセナは、根性でラストスパートをかけた。

 

二人の差が縮まる。

 

(・・・む)

 

セナが横に並んだ時に進が気づいた、そして。

 

「うおおおおおお!!!」

進が雄叫びをあげてスパートをかけた。

 

そして、セナを数十メートル引き離してゴールした。

 

 

ゴール後、大の字になって荒い息をつくセナ。

 

「セナ、クールダウンをしたほうがいい、少し歩くぞ」

大きく息をつきながら進が言った。

 

「は・・・・ふぁい」

セナは何とか立ち上がって進とゆっくり歩いていく。

 

「進さん・・・・・完敗です、結局、一度も前を走れなかった」

 

「ふふ・・・先達として負けてばかりいられないからな」

 

 

歩いていく進とセナを見て、庄司監督は思った。

 

(・・・・進は、楽しそうだな)

 

 

春大会が目の前に迫ってきた。

 

初戦の相手は・・・・・え~と、恋ケ浜キューピッドか・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・ぜんっぜん思い出せない。

 

二回戦くらいで泥門だったと思うのだけど、泥門アメフト部ないので、

トーナメントの組み合わせを覚えていても意味ないだろうけど。

 

「よし、恋ケ浜戦のスタメンを発表するぞ、呼ばれたら前に出て来い!」

庄司監督が大きな声で言う。

 

「まず攻撃、オフェンスライン、大田原、岩鼻、安護田、鈴木、鏡堂、

タイトエンド、金剛、

ワイドレシーバー、桜庭、神前、

ランニングバック、小早川、石丸、

クォーターバック、高見・・・・・・以上だ、続いてディフェンス・・・・・・」

 

監督による、スタメン発表が続けられていたが、僕は聞こえていなかった。

 

「高校の公式戦初試合だね、一緒に頑張ろう小早川君」

そう言って今僕と握手している同じポジションの人が石丸さんだったからだ。

 

『あの』石丸さんだ、泥門時代の陸上部の助っ人の!

 

「・・・・・・・・・・・・・い」

 

「どうしたんだい、小早川君?」

 

いたんですか?

という失礼極まりないセリフをかろうじて飲み込むことが出来た。

 

汗をダラダラ流して固まる僕に石丸さんは怪訝に思っているようだが、それどころではない。

 

いや、本当にいたっけ?

 

過去の記憶を呼び起こしてみる・・・・・

 

・・・・・・最初に王城に行った、特待生の試験の後、今の2年生と挨拶した時・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・いたよ、普通に挨拶してた。

その後に挨拶した金剛雲水さんがいたという衝撃で、完全に石丸さんの記憶が抜けている。

 

「・・・・・いえ、何でもありません、よろしくお願いします、石丸さん」

 

(・・・・とりあえず、心の中で全力で謝っておこう・・・・・・・・

・・・気づかなくってすいませんでした~!!!)

 

石丸と握手しながらセナは、心の中で土下座していた。

 

 

(・・・・しかし、泥門時代はともかく、今の王城でスタメンが取れるほど石丸さんってすごかったっけ?

控えになった猫山君の方が40ヤード走のタイムもいいし、何より彼には、

「キャットラン」と呼ばれる気配や足音を消して走る走法がある・・・なのにどうして?)

 

僕がそう思ったのが顔に出たのか、他の部員達も同じようなことを考えてしまったのか、

それを察した高見さんが説明した。

 

「ああ、確かに猫山のほうがタイムはいいよ、だけどね、経験による判断力、パワー、スタミナ、

・・・総合で評価すると、石丸が上なんだよ・・・・・・え、キャットラン?・・・・・

ふふふ、確かに猫山のキャットランはたいした技だけどね、でもね・・・・・・・

・・・・石丸はそんなこと日常的にやってるからねえ」

 

「ああ、石丸は地味だけど何をやらせてもいつの間にか出来てるんだよな」

桜庭さんが同意する。

 

「ああ・・・石丸は、気配を消す術に長けている」

進さんも高評価だ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

石丸さんは周りの高評価にも微妙に諦めたような笑顔だ。

 

わかる、わかるよ僕には。

おそらく石丸さんは、

「普通に走ってただけなんだけどな~」

と思っているのだろう。

 

 

もう一つ、疑問というか、理由が知りたいことが一つ。

QBが高見さんで、雲水さんではないのは何故か?

 

QBの実力がどちらが上なのか、僕にはわからない、監督が高見さんを選んだのだから、

恐らくそうなのだろうけど、努力家の雲水さんの実力も相当なように見える。

 

これの理由はかなり後になってからわかったことだが、実力は伯仲していたのだそうだ。

そして監督は、高見さんの高さに期待し、その高さを生かせる選手の成長を期待していたのだそうだ。

 

そして理由にもう一つ、雲水さんのオールマイティーさにもよるそうだ。

努力家の雲水さんは、阿含さんに勝つためにあらゆる努力をし、なんと全ポジションをこなせるという。

投げれる、捕れる、走れる、ラインも出来るとあれば、今度は一つのポジションに固定するのが

もったいなくなってきたらしい。

僕はキャッチは出来ない、ラインもできない。

進さんだって、キャッチは出来ない、投げられない、彼は守備だけど。

それを考えたら、プレー毎に役割を変えられる雲水さんは相手にとって脅威となる。

というのが理由らしい。

 

「・・・以上のメンバーで春大会に挑む、初戦の相手の恋ケ浜は恐れる相手ではない、

だからといって手を抜くことは許さん、初戦を甘く見るな、全力を尽くせ、いいな!」

 

監督からの激が飛ぶ。

 

それを聞いて僕も、いい感じに緊張してきた。

 

やる気が出てきた。

 

早く試合がしたい。

 

 

「・・・・・・・・・・・セナ」

まもりはそんなセナを見て、自分の中でここ最近思っていたセナへの答えが出たような気がした。

 

 

次の日。

春大会一回戦前日、今日は完全休養ということで練習は休み。

セナを早く帰宅させ、まもりはマネージャーとしての仕事を片付け、

鈴音を誘って帰路についていた。

二人で他愛ない会話をしながら、まもりは昨日見つけた答えを話し出した。

 

「・・・・・・ねえ、鈴音ちゃん」

 

「ん、なぁに、まも姉え?」

 

まもりは、ゆっくりと、穏やかに話し掛けた。

 

「鈴音ちゃんは・・・・セナのこと・・・・・好き?」

 

「ヒョッ!!!」

 

ひよこが鳴いたような声を上げた鈴音は、隣を歩くまもりを驚いて見る。

 

そこには、穏やかに微笑んで自分を見ているまもりがいた。

それを見た鈴音は、顔を真っ赤にさせて俯きながらも、

 

「・・・・・・・・・・うん」

 

と、誤魔化さず正直に答えた。

まもりの顔を見て、そうするべきだと思ったのだ。

 

「そっか・・・・私もね、セナのこと、好きよ」

 

まもりは自分でも驚くくらい、好きという言葉が言えた。

 

「・・・・まも姉え」

 

実は鈴音は、まもりの気持ちに薄々気づいていた。

彼女のセナに対する気持ちが、自分と同じ「恋」だということに。

 

「ふふ・・・同じ人を好きになっちゃったのね」

 

「・・・・・まも姉えが相手なら、私・・・・・・」

 

鈴音は、セナの気持ちはわからない、でも、相手がまもりならば、お似合いに違いない。

相思相愛になった二人に、自分の気持ちを押し付けることなんて出来ない。

鈴音にとって二人とも大事な人なのだから。

 

「私はね、セナに、私がセナのこと好きだって言わないことにしたの、今はね」

 

「・・・え」

 

「鈴音ちゃんが言うかどうかは、鈴音ちゃんの自由よ、

でもね、私はね、こう思ったの・・・・・・・・

 

女として男の子の成長を妨げるような愛し方はしないでおこうって・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

昨日や今日のセナ、試合に向けて楽しそうだった、とても集中していたわ、

今のセナに、恋愛は妨げにしかならないような気がするの、

人によっては、強くもなるというけど、セナは、そんなに器用じゃないと思う、

私は・・・・・セナの・・・・あの人の支えになってあげたいの・・・

・・・だから、今は言わない・・・・言うのは・・・・もっと成長してから・・・

・・私も、セナも・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

衝撃だった。

 

まもりが、自分より遥か先にいることに。

 

セナのことは確かに好きだ。

試合を見て憧れ、

偶然知り合うことが出来て、彼の人となりを知ることで更に想いを深め、

会う度に惹かれていき、自分の憧れが恋であるとはっきりと自覚し、

現在一緒にいられる幸せに満足していた。

だからこそ、この仲が進展することによってこの関係が壊れることが怖かった。

だから今の幸せに浸っていた。

なのに、彼女はそうではなかった。

 

意中の相手に告白しないのは同じでも、中身がまるで違った。

まも姉えはセナのことを考えてのこと。

なのに私は、今の関係が壊れること、つまり自分のことしか考えていなかった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・駄目だ・・・・私は全然駄目だ。

 

まも姉えとセナはお似合いだと文句なしに認めてしまえる。

 

でも、私は駄目だ、このままでは・・・・もっと成長しないと。

 

もし、私がセナに告白して、恋人同士になれたとしても、

たぶん、私も、セナも、駄目になると思う。

セナはアメフト選手として成長せず、私は彼に依存して堕落しかねない。

考えて怖くなった。

 

 

「・・・まも姉え・・・私も・・・・頑張る」

鈴音は何とかそれだけを言えた。

 

「うん・・・・・頑張ろう・・・・一緒に」

ニッコリ笑ってまもりは言った。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・ふふふ」

「・・・ふふ」

 

二人はしばし見つめあった後、どちらともなく笑い出した。

 

「しかしセナもさ~、こ~んな美少女二人に惚れられるなんて、果報者よね」

鈴音がさばさばした表情で元気に言う。

 

「ふふ、そうね、でもセナはそのとこに全然気づいてないと思うわ」

 

「あ、やっぱり」

 

「そう、ホントにセナってそういったことに鈍いのよ、昔から」

 

「ふ~ん、しかし、さっきのまも姉え・・・・・・・・・・・・・・かっこよかったなあ」

 

「え?」

 

「まも姉え・・・・・・惚れちゃいそう」

 

「ちょ・・・ちょっと鈴音ちゃん」

 

はしゃぐように話しながら歩いていく二人は以前より仲が良さそうに見えた。

 

 

(・・・でも、セナが好きになるとしたら、絶対まも姉えよね、

美人だし、スタイルいいし、胸おっきいし、頭いいし、性格よくて優しいし・・・・

・・・・私なんて全然勝ち目ないよ・・・)

 

ため息をつく鈴音。

 

(・・・でも、セナが好きになるとしたら、絶対鈴音ちゃんよね、

可愛いし、細くてスタイルいいし、並ぶとセナとお似合いだし、性格いいし、

・・・・私なんて姉としか見られていないから全然勝ち目ないわ・・・)

 

ため息をつくまもり。

 

 

後日、二人は、

 

『小早川セナを愛でる会』を結成した。

 

彼の成長を見守り、応援し、愛でようというだけの秘密の会。

 

現在会員数二名。

しかし後に、この会は会員数数千人に登る一大ファンクラブとなる。

 

 

 

おまけ1 ~ある日の金剛家~

 

固定ポジションの決まらない雲水。

食事中にふと気づいた。

 

「・・・あれ、俺もしかして器用貧乏?」

 

それを聞いて、テーブルの対面で一緒に夕食を食べていた阿含は呆れて呟いた。

 

「あ゛~~、いまさら何いってやがるよ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

おまけ2 ~石丸が王城にいる理由~

 

「石丸さんがアメフトを始めた切っ掛けって何ですか?」

 

「君だよ、小早川君、実はね」

 

「僕ですか」

 

「うん、中学の頃はね、俺は陸上をやってて、高校も通学で近い泥門にして、

陸上を続けようかと思ってたんだけど・・・・

君が中一の時のアメフトの試合を偶々見てね、僕もやってみたくなったんだ、

で、アメフトの出来る王城を受験して、受かればアメフト、落ちれば泥門で陸上って決めて、

・・・・それで今の俺がいるのさ」

 

「そうだったんですか、陸上をやめることには悩まなかったのですか?」

 

「ん~、少し悩んだかな、でも、走ることをやめるわけじゃないしね、今の方が走ってるよ、楽しくね」




猫山のキャットランは公式データブックに書いていた。

「男なら女の成長を妨げる愛し方はするな」

「エースをねらえ」の宗方コーチの名言。の逆バージョン。

そういえば、三話の進の言葉も「エースをねらえ」が元ネタだった。


阿含は雲水を別に嫌ってはいない。原作同様に。

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