【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども   作:ようぐそうとほうとふ

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03.Les Crimes de l'amour

セブルスは私がいじめっ子を懲らしめて以来私のそばにいつもひっついていた。

彼は私に強い魔法使いの幻想を持っていたようだけれど、たった11歳の彼に孤高と孤独の違いがわかるわけはない。私は孤独で、彼の思うような孤高の気高き魔法使いなんかじゃなかった。

だけど、彼だけが私の断続する時間に根気よく付き合ってくれた。いつしか、どんな人生から目覚めても彼を道標に私の時間に帰ってくることができるようになった。

 

「先輩は力の行使の仕方を心得ているんですね。だからいつも凛々しくて、皆から尊敬されている」

「避けられてるだけだわ」

「そんな事ありませんよ。僕みたいに気安く話しかけてるのが珍しいんだ」

 

私は、セブルス。あなたの思っているような人間じゃない。

 

「さっきリリーとどんな話をしていたんですか」

「恋バナ」

「え…先輩が?」

「そう。貴方が好きだって話をしていた」

「せ、先輩が、僕をですか?」

 

セブルスは私に渡す卒業式の花束を持ってギョッとしていた。全く予想外だったらしい。

生徒たちは式が終わってから各々思い出を語らい、後輩と抱き合ったり友達とキスしたりしてお祭り騒ぎだった。

 

「多分そうだと思う。わからないから聞いてみたら、それは好きって事だと教えてくれたわ」

「先輩が僕を…」

セブルスはこれがたちの悪いイタズラだと思ったらしく周りをキョロキョロ見回した。

「私は貴方がずっとリリーが好きなのを知ってる。その一途さに恋をしたのかもしれないわね」

「なんでそんなに他人事でいられるんですか?」

セブルスはだんだん顔を赤くしていった。私は彼の感情の移り変わりを見ていると不思議と笑いたくなっていく。彼の不器用さ、一途さ、真摯さ、純粋さ。全てが好きだった。何もかもが目まぐるしく変わっていく子ども時代、たった11歳の頃から彼を見てきた。けれど彼はたった一つの願いを抱いて不器用に、それでも真っ直ぐと成長しようとしていた。

花や木が太陽に向かって葉を広げるように、凛と。

私にはもうできない。

 

「恋をしたことがないからどうすればいいかわからなくて。言えてよかった」

「僕、突然過ぎて…その…」

「私はもう卒業する。あなたに会えなくなるのが辛いわ」

「僕も、僕もですよ。リヴェン…あの、すごく嬉しい。先輩は高嶺の花だと思っていたから」

 

私は花ですらない。咲くことはない。

 

「僕はまだ、先輩に返事ができません。僕が卒業したら、返事をします」

「そう。気長に待つわ」

 

その頃までに、私は私でいられるだろうか。

 

セブルスはいたずらっぽく笑って、涙を拭きながら私に花束を渡した。

 

「僕のこと、忘れないでくださいね」

「……忘れないわ」

 

忘れたくない。

 

 

 

 

 

「っ…」

サキは身悶えするほどに軋む胸を押さえ、自分がほんのちょっとの移動時間に寝ていたことに気づいた。

ナイトバスは急ブレーキをかけてホグズミード村の入り口で止まった。

「マクリールさんよ、着きましたぜ」

車掌は厄介な客を捕まえて後悔したように嫌々お辞儀をして出口を指した。サキはおざなりに礼を言いふらふらと門をくぐった。みゃあみゃあと警報が鳴り響き、死喰い人が慌ててすっ飛んでくる。しかしいかにも不機嫌そうな顔のサキを見てすぐに退散していった。

もう日もとっぷり暮れて家々から漏れる光だけがサキの行く手を照らしている。

 

サキはガンガンと痛む頭を手で包み込み、ホッグズ・ヘッドへ向かった。

 

ホグズミード村の店は軒並み開店休業だ。ハリー・ポッター探知網は強化され、戒厳令が出ているのかと勘違いするくらいに誰も表へ姿を見せなくなった。

ホッグズ・ヘッドはもともとボロボロでみすぼらしい店だったが今はテーブルや椅子すら片付けられ、扉をしばらく開けてないせいでノブにホコリが積もっている。

サキは魔法で扉を破った。

ドアについた鐘がけたたましく鳴る。

ばん、と音を立てて奥のドアが開いた。杖を後ろ手に忍ばせた老人…アバーフォースが警戒した様子でサキをまじまじと見つめた。

 

「こんばんは」

 

「お前……」

アバーフォースは絶句した。サキの顔はさんざん新聞で見ただろう。顔にみるみる疑念が浮かび、警戒心が彼の杖先へ登っていくのがわかる。

「アバーフォース。記憶にあるより随分老けたようだけれど、元気そうですね」

「…マクリール…オフィーリアの記憶か?」

「ええ。ところで、もう少し温かいところへ行きたいのですが」

話は中で、と心で付け足すとアバーフォースはしばし悩み、結局渋々中へ招き入れた。

彼はいつもダンブルドアの影に隠れているが普通の人より遥かに察しがいい優秀な人だ。

「その魔法は潰えたと思っていた」

「今から数ヶ月後に私の手に渡りましてね」

「は…変な会話だな。つまりお前さんは未来を知ってて運命を変えようとしていると?」

「ええ。往くべき未来へ辿り着くためにここに来ました」

サキは金のカップを小汚い長机にだした。

「ここから先の筋書きは、ハリーたちがホグワーツに来なければ始まりません。貴方に役を用意しました。協力してください」

「気の早いお嬢さんだ。俺はまだイエスとはいっとらん」

アバーフォースは乱暴にさっきまで磨いていたジョッキを置いた。

「まず、俺はあんたがみたという未来の話を信じないだろう。そして、俺はすでに戦いを降りた。今更表に出るのはゴメンだ」

「やはりあなたは用心深い。だからこそあなたにしか頼めない。…まずそのカップ、それはハリー・ポッターが…」

「おいおい、待て待て。人の話を聞け」

「聞いてます。そのカップは彼がグリンゴッツから盗みたかったものです。そしてこれは彼の持つ剣で破壊しなければならない」

話をどんどん進めてくサキにアバーフォースは怒りとも呆れとも取れない顔をする。

「私が持ってちゃだめなんです。これをドビーに渡し速やかに彼に届けさせてください。あなたは鏡を持っているから彼がどこにいるか断片的に知っているはず」

私が現時点では知り得ない情報。ドビーとアバーフォースの関係と鏡の存在…どちらもすべてが終わったあとに裁判で明らかになったことだった。

「……どうやら未来から来たのは本当らしいな。ふん…だがやはり答えはノーだ」

「ならカップはここへ置いていきます。私が持つよりはここにあったほうがいい」

「馬鹿言うな!どんな品物かわからんものを置いていくな」

「あなたは私にとってハリーと学校をつなぐアリアドネの糸です。ハリーは必ず学校へ着かなければならない。それしか勝ち筋はない。いや、もしかしたらあるかもしれない…私はまだ十分に試していないから」

「……サキ・マクリール、お前は二年前と随分変わったな」

「二年前?」

サキはちょっと思い出す時間を取った。そうだ、5年生のときにハーマイオニーがDA設立のために大勢の生徒をここに呼んだんだ。

「ああ。そういえば大勢でお邪魔しましたね」

「…そうか、そんなところまで同じになってしまうのか」

「誤解しないでください。あなたのことはよく知ってますが私はオフィーリアではない」

「わかってる。わかってるが…皮肉なものだな。運命とは」

サキは返事をしなかった。

「頼みますよ。もしあなたが死んだら私、やり直すのもやぶさかではありません」

「嘘をつけ」

 

そう。私は嘘つき。

 

「アブ。食べ物を与えたってこのままじゃ子どもたちは皆アズカバン行きだわ。あそこはとても寒い」

「…まさかお前の未来でも俺はあいつらに食事を?」

「ええ、ご馳走様でした」

「俺も甘いな」

「もう少し甘くなってくれませんか?」

「いいや、無理だ。だいたいハリー・ポッターだって来たくてもここには来まい」

「いいえ。来ます。絶対に」

サキは立ち上がった。

ハッフルパフのカップを置いたままドアをくぐった。アバーフォースは追うことも声をかけることもしなかった。

 

「万が一すべてが取り返しがつかなくなったらまた来ます。そうなったらそれはセブルスに渡してください」

「そうならんことを祈る」

「私もです」

 

 

 

……

 

頭痛はどんどん酷くなっていく。過去の改ざんによる負荷なのか不眠からくるものなのか区別できない。ただ無限に湧き上がってくる不快感と浮遊感が全身を支配する。泥濘の中を永遠彷徨っているようだ。

「…あれ?」

サキは自分がいつのまにかホグワーツの門を抜けているのに気づいた。おかしいなと思って自分の手を見ると、ベラトリックスの返り血がついていた。

ギョッとして思わずその血痕を拭うと、手に汚れなんてなく、校長室の前にいた。

「え…あ……」

「どうかしたのか?」

今度は目の前にセブルスがいた。

サキは今自分の身に起きていることを整理できず、思わずセブルスの腕を掴んだ。多分現実だと思う。わからない。

傷跡は過去が確かに存在したという証だ。けれども私の左手にはもう傷跡なんてない。初めからなかったことになった。

セブルスの顔は、記憶よりずっと老けてるような気もする。土気色の肌はあんまり変わらないし、服装も髪質も全然昔と変わらない。昔ってどのくらい昔だっけ?7年前、とかそれくらい?

一番最近見たのはリヴェンの記憶のセブルスだからわからない。

 

「先生…ダンブルドアを殺したのは私ですよね?」

「一体どうした」

「答えて」

「君だ」

「ああ…よかった…」

「サキ、まさか…」

 

セブルスの顔が一気に青褪めた。

だから敏い人は嫌なんだ。私は馬鹿だから誤魔化し方をいつも間違える。いつかは悟られると思っていたが案外早かった。

 

「君は…脳髄を食べたのか?」

 

「……ええまあ」

セブルスのこんなに狼狽した顔は初めて見たかもしれない。ちなみにリリーを失ったときは狼狽と言うより錯乱、もしくは恐慌だった。

「なぜ…なぜ…そんな…」

「仕方なかったんです」

「我輩は任務に失敗したのか」

「いえ、成功しました。あの人は完全に死んでハリーは生きていました」

「じゃあ何故!」

「あなたが死にました。…先生、私はあなたを死なせない為に今ここにいるんです」

 

セブルスは絶句し、椅子に座り込んだ。

俯き、取り返し用のない事実に対して何かしら心の整理をしているんだろう。何を考えてるのかわからないけれどもその悲しみにより深く刻まれた皺がサキの心にも傷を作る。その傷はひどく愛おしい。その痛ましい甘さがどこからくるのかわからない。

 

「なぜ私なんかのために…君は、君が何をしたのかわかっているのか?」

「体感していますよ。はっきり言って生きることは死ぬより辛い」

 

セブルスの顔がまた歪んだ。

そう、その顔。

リヴェンが本当に見たかったのはその顔だ。

 

「母の遺志が私を導きました。先生、あなたが死の運命から逃れられない限り私はきっと時を繰り返します。母と同じように」

「リヴェンと同じ…?」

「そうですよ。先生。母はー貴方のためだけにすべてを投げ打ち、私を産みました。私はあなたを救うための生贄。供犠の子ども」

 

母を灼いた恋情の炎は地獄の火のように消えることがなかった。彼女の黒くて生暖かい渦の中のような執念はサキのすべてを飲み込んで喰らい尽くしていく。心は、もう脳髄を食べる前みたいにいろんな事を感じることができない。

欲望と不快感と絶望が、鈍麻してく心と入れ替わっていく。

「だから貴方には生きてもらわなきゃ困るんです。やり直すのは…すごく疲れますからね」

「ああ…そんな…」

 

セブルスは神に祈るように手を組み顔を伏せた。彼の涙が流れるのを見て、私は何故か救われたような気持ちになる。

この気持ちは誰のものだろう。

意識が睡魔に襲われて、サキはしゃがみ込んだ。

 

「まだ仕事は終わってない…先生、大至急爆薬がいるんです。それも山ほど」

 

秘密の部屋に眠る骸に用がある。

ハリーたちが来る前にレイブンクローの髪飾りと破壊手段を確保しなければいけない。

 

「先生?」

 

セブルスの返事がなかったので心配になって促すと、セブルスはまるで小さな男の子のように儚げに言った。いつもより小さく見える落ち込んだ肩に手をおくとそれに促されるようにセブルスはポツリとつぶやいた。

 

「…リヴェンはなぜ、私を…それだけは教えてくれ」

「話すと長いのですべてが終わってからでいいですか?」

「だめだ。簡潔にでもいいから教えてくれ」

「簡潔に…うーん…」

 

サキは悩んだ。ダンブルドアの肖像画が悲しげな目で見てるのに気づいて閃いた。

 

「愛故に」

 

 

 

 

セブルスはサキの告げた自身の死の運命よりも、彼女が脳髄を食べたという事実に打ちひしがれた。

自分の死は昔から覚悟していた。

リリーが死に、リヴェンまで死んでしまってからセブルスの生きる理由は彼女たちの忘れ形見を守ることだけだった。

なのにサキはリヴェンと同じとこしえの時間を生きることになってしまった。リヴェンが死んだ理由が"愛"であると聞いたとき、セブルスは叫び出したくなるような衝動に駆られ口をつぐむ他なかった。

リヴェンの気持ちに何一つ気づかないまま彼女を逝かせてしまった。彼女の想いに報いることなくそればかりか最後に残ったサキまでも同じ地獄に突き落としたのだ。

 

「私を忘れないで」

 

その言葉にどれだけの意味が込められていたのか今ようやくわかった。

自分がどれだけ残酷な事をしてきたか、懺悔と狂いそうなほどの後悔が心を砕いていく。

 

あの血の魔法についてセブルスはすべてを知っているわけではない。彼女たちは眠るたびに何十年という他人の人生を体感する。だとしたら彼女がダンブルドアを殺して10ヶ月の間に彼女は一体何年セブルスと違う時間を体感したんだろうか。

もうサキはセブルスの知っているサキではない。

むしろその精神はリヴェンに近いのかもしれない。最近の彼女の立ち居振る舞いはリヴェンに似ている。ちょっとした杖の扱い、文字の書き方…経験や体験がつくる無意識下の体の動き。それが瓜二つだ。

 

「先生が死んだらやり直しなんですからね。絶対絶対死なないでくださいよ!」

 

サキ・シンガーの口調で、サキ・マクリールは言う。

無理して作った笑い。

彼女は分岐をやり直す。失敗した未来から戻り、改竄し、改ざんした結果現れた新たな未来からまたやり直す。そうやって毒を蓄積していく。

サキをこれ以上苦しみの中にいさせない為にも、セブルスは決して死んではならない。

 

………

 

サキは秘密の部屋への侵入を阻む石の壁を発破でなんとか崩し、魔法で壊せるくらいまでは削ることに成功した。久々にくる秘密の部屋はなんだか記憶とだいぶ違うしやけに空気が冷たかった。

秘密の部屋の中央に転がる躯はもう骨だけしか残っていない。抜けかけた牙をもぎ取ってさっさと撤収した。

残念なことにあの偉大な蛇の王は跡形もなく朽ち果てており軟骨まで削がれたバラバラの骨が散らばっているだけだった。頭蓋骨だけがゴロンと転がる地下の聖堂。秘密の部屋という名前にある意味一番ふさわしい主かもしれない。

 

サキはトイレの手洗い場に穿たれた底なしの闇から這い上がるとメチルフェニデートを噛み砕いた。

マートルすら嘆くのをやめるほどに冷たく暗い学校はますますサキの気分を憂鬱にさせる。

 

ぶつぶつと頭の奥から囁きが聞こえてくる。そう思ったら自分の下顎ががくがく震えていることに気づいた。私が喋っていたらしい。行ったこともない異国の言葉だ。

 

「落ち着け落ち着け落ち着け…まだ発病するには早い…」

 

サキは自分にそう言い聞かす。ただ不安はそう簡単には振り払えない。人間は自分がいつだって死なないと楽観的でいられることができる一方で「終わり」を予感した途端自分は今すぐに死ぬと確信してしまう。呆れるほどの痛がりだ。

大丈夫。息を吸って確かめる。…私は生きている。

肉体なんていくら傷んでもいい。

大切なのは、意識や魂とか言う形のないもの。

 

「そう。…決して乱れぬ意志と呼吸」

 

サキは足を一歩踏み出して階段を駆け上がる。踊りと見間違えるほど軽やかな足取りで。

 

「さて…問題は必要の部屋だな」

 

現在必要の部屋はDAが占拠している。学校の不当な支配に対する反乱はカロー兄妹を苛つかせ、他の大人しく日和見な生徒たちへの圧力を強めている。

 

彼らを全員追い出さない限りレイブンクローの髪飾りがある部屋へはいけない。姿を現すキャビネット棚で入ることはできても部屋を出ることはできない。

そのために彼らが思わず出てきてしまうような理由が必要だった。

サキはそれをずっと待っていた。

 

少し目をつぶると、すぐ眠りに落ちてしまう。

校長室に置いた小さなソファーに座るといつの間にかサキは星空の下にいた。

だだっ広い草原に寝っ転がっていて草が頬をひっかく。短く切った髪がおでこをくすぐる。

 

「どんな気分?」

頭の上の方から声がかかった。

「サイコーさ!」

起き上がって声のした方を向いて笑った。

「眠るたびに何十年分も記憶を見るんだろ?それって、辛くない?」

「辛い?そんなことはないさ。いいかい、僕はね…」

私は立ち上がり、声をかけた若々しいボサボサ髪の男に説教するように言った。

「僕は偉大なる魔法を継いだんだ。普通の人が知り得ない遥か過去を体験し、時間の中に埋もれた秘密を暴くことができる。こんなに素晴らしいことはないよ」

私の自信満々な言葉に男は面食らって苦笑いする。彼はボサボサ髪をぐしゃぐしゃとかいてから質問を続けた。

「そうかな…僕らと体感時間が違っちゃうだろ。それって辛そうだけど」

「人によるだろうね。それに僕らはそういう風になっても大丈夫なように教育されてきたんだ。ずっと、代々ね」

「そんなの、まるで洗脳じゃないか」

「どこに違いがあるんだい」

私は快活に笑う。

「確かに辛いかもしれない。けれども僕の好奇心や探究心はそれ以上の悦びに震えているよ」

私は星星を指差した。深い深い藍色の空。私の髪の色と同じ。どこまでも染み込んでいく深い闇に瞬く星星はいくら箒で飛んでも届かない場所にある。けれどもその光は数千年以上前の記憶と同じようにちゃんとそこに在る。

「大地と空と"私"さえあれば僕らはどこでだって、いつだって生きていける。僕らの肉体はあっという間に朽ちていくけどね、記憶は永遠に存在し続ける。この星星が瞬いている間はきっと」

「僕は…君が変わってしまうのかと思うと何だかとってもたまらなくなるよ」

「おやゴドリック。君の自信過剰っぷりはどうしたんだい」

「何事においても不敵だと思ってた?僕だって色々怖いのさ。この前知り合った、サラザール。あいつのことも少し怖いし…」

「勇猛果敢の肩書が泣いてるぜ。今の君は子猫みたいだ」

「初恋のお姉さんが結婚する日くらいがっくり来るさ!ダナエ。本当に嫁に行くの?」

「馬鹿だな。婿が来るのさ。僕んちは母系だからね」

ゴドリックと呼ばれた男は立ち上がり、手を差し出した。星しか明かりがないせいか彼の表情ははっきり見えない。

「君は僕の目標だった。でもこれから僕はきっときみの記憶の中でも霞まないような偉大な魔法使いになる。君に絶対に忘れられないような魔法使いに」

「…ああ、それはすごく…すごく素敵だ。ゴドリック、僕に君を忘れさせないでね」

 

 

私は、今まで彼以外の多くの恋人や友人、愛すべき人々を得てきたけれども、セブルス。私のこの気持ちはきっとそのどれとも違う。

 

私はリリーが許せなかった。

だから絶対に彼女を助けない。何度も何度も救えるはずだったけど、私は絶対に彼女を助けない。

 

あなたを愛していた。あなたも私を愛していたはずなのに、今ではもう私の記憶の中にしかない。

その輝かしい未来はいつもあなたの死で終わる。私はそんなこと耐えられない。

私は何人もの死をただ見てきた。時に死を早め、自分で手を下した。けれども本当の意味で私が殺したのはリリーだけ。

私だったら彼女のことは容易に助けられる。けれども私はあなたのすべてを持っていったあの娘を許せなかった。

 

あなたのためだけに私は生きてきた。今私の胸を満たすこれは愛とは呼べない感情だ。もっと醜く腐った気持ちの悪いなにか。でも私はあなたを愛していると言い続けよう。形骸化した愛という言葉でしか私の想いの強さは表し難い。

 

こんなにもあなたのことを想っていても、私は二度とあなたに愛されることはないのだ。すべての歯車は狂ったまま私の脳はじきに機能を停止する。

 

あなたに愛された記憶だけが私を突き動かすたったひとつの理由だった。在りし日のあなたの思い出が、私の身を焦がし破滅させる。

生きていて、何千年もの記憶に晒されても、尽きることのないあなたへの妄執。これほど苦しいものならば、あなたに恋なんてしなければよかった。この世界のあなたも同じ炎に灼かれているのでしょうね。

忘れないで、セブルス。あなたの抱いた痛みは私の痛みと同じのはず。私はあなたを愛してる。ずっと。ずっと。永遠に、追憶の中でも私はあなたを恋い焦がれる。

 

あなたの手なんて振り払えばよかった。

あなたを救おうと思わなければよかった。

あなたに会わなければよかった。

生まれてこなければよかった。

 

私を、忘れないで。

 

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