【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども   作:ようぐそうとほうとふ

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04.Goodbye Cruel World

「…う」

 

吐き気がした。

意識は記憶の合間を彷徨い歪んでいく。私は…サキはどんな風に笑っていたんだっけ。

リヴェンの怨念にも似た想いがどんどん自分を蝕んでいく。まるで病気のようにサキを覆い尽くしていく。

 

「…泣いているのか?」

セブルスの声がしてサキの肩はびくんと跳ねた。

声のした方へ振り向くと校長室の入り口にセブルスが立っていた。

「まさか…これはつわりです」

「だ、誰の子供だ?!まさかドラ…」

「わ、違うよ馬鹿だな!冗談に決まってるでしょう!」

「君の冗談は本当に全く笑えない…」

束の間だけどまたいつものセブルスに戻ってくれた。

「…で、慌ててどうしたんです?」

「ああ。ポッターがどうやらホグズミード村に現れたようだ」

「それはいい知らせですね」

サキは大きく深呼吸した。先程見た記憶の余韻がまだ抜けない。

けれども何時までもフラフラしていては目的を果たせない。サキは気合を入れて立ち上がった。

 

「先生…ハリーはあの人の死の呪文を受けても絶命しません。だからこそ彼が死んでいると偽装しなければいけない」

「我輩が引き受けよう」

「ええ、ハリーをあの人のもとへ送り届けるのもあなたの仕事です」

「…承知した」

「ついて行ってくれるようには説得しますけどあなたが何故彼を守ったのかは言いません。ご自身で説明すべきです」

セブルスはしかめっ面をした。サキはなんとか笑顔を作る。

「私は未来を見てきてお見通しなんですからね。あなたが何のために戦ってきたのか知ってます」

 

あなたは、リリー・エバンスのために戦ってきた。わかってるよ。

 

「奇妙な気分だ。本当に…。だが君はこのあとどうする?あの人は…」

「私は投降して髪飾りを渡します。その後は…まあどうなるかわかりませんが、うまく行かなかったらやり直しますよ」

「くれぐれも危険なことはするなよ。君が死んだら全てが終わりだ」

「あなたが生きてればそれでいい」

「いいや。お願いだ。これ以上私に罪を重ねさせないでくれ」

「…たしかに。これ以上は先生がかわいそうですね」

 

サキは杖を抜いた。

サキが一番懸念しているのはニワトコの杖の所有権についてヴォルデモートが誤解し殺しに来ることだった。

サキ・シンガーにとっての元の世界では、恐らくニワトコの杖の所有権はハリーにあった。

というのもマクリールの血筋は杖と相性が悪い。感情らしきもののある杖では従わせることができないので空っぽの器が必要だった。だからこそ、魔法界で暮らしていくためにオリバンダーたちとだけは交流を続けていた。

サキは所有していても忠誠を勝ち取ることはできない。故に前回は信託したハリーに所有権がうつっていたはずだ。

今回は違う。ダンブルドアは杖を抱いたまま落下死したのだ。確かにサキが彼の体を押した。しかし死因はあくまでも墜落。この場合所有権は誰に移るのだろう。ちゃんとオリバンダーに聞いておけばよかった。死人にくちなし、後悔先立たず。

 

サキが嘘をつき続ければニワトコの杖の主の座は恐らく誰にもわからないまま永遠に埋まることはないだろう。

 

あの人はそれを聞いたらどうなるだろうか?

ベラトリックスの殺害もさすがにもう知るところだろうし、もしかしたら今度こそ本当に殺されるかもしれない。それならそれでいい。

ただし私は死ぬ前に…死んだあとでも成し遂げなければならない。セブルスを死の運命から救う…それだけのために繰り返してきたのだから。

 

「サキ?」

「…はい」

「本当にポッターは呪文を受けても死なないのだな」

「あの人の魂が代わりに壊れます。ただし二度目はもうありませんよ」

「ああ。今から全校集会を開く。ポッターは君の予測のとおりならばそこに必ず現れる」

「その間に私は必要の部屋へ。あそこが空にならないと分霊箱を取り出せませんからね…先生は一時撤退し校長室に潜伏する。困ったときは私の血を使ってください」

「わかった。幸運を」

「ええ。あなたにも」

仮に女神が微笑まなくても、私が必ずあなたを救うから。

 

 

 

私は果たしてどこまで私の意思で動いているんだろう?セブルスは大切な家族だと思っていた。死の運命から助けられるというのならば助けたい。失いたくない。

けれどもリヴェンの記憶を見るたびにどんどん何がなんだかわからなくなっていく。

彼女の記憶は元々サキが感じたはずの感情へコーヒーに垂らしたミルクのように斑に混じり合っていく。彼女の何度も繰り返した記憶は襞のように折り重なり、重厚な怨嗟を成していく。数多の先祖の負の記憶が引き寄せ呪文に掛かったように連鎖的に蘇り、サキの心はいつの間にか永遠に明けない記憶の夜の中に閉じ込められた。

 

 

……

 

 

 

マクゴナガルがカロー兄妹を破りセブルス・スネイプを追い詰めた時、周囲にウィーズリー製インスタント煙幕がたかれた。

黒煙が収まる頃にはステンドグラスの前に立っていたはずのスネイプは跡形もなく消え去り、代わりに丸腰で頭にティアラを乗っけたなんとも見当違いな格好をしたサキ・セレン・マクリールが立っていた。

反射的にフリットウィックが武装解除呪文をかけるが、サキは武装をしていなかった。

鷹揚に両手を上げて自分を見渡す群衆を一切無視し、ハリーだけを見つめていた。

 

「サキ…」

 

「やあハリー。プレゼントは受け取ってくれた?」

 

久々に見るサキはまるで時間が凍りついてしまったように今まで通りのサキだった。

不自然なぐらい脳天気に、まるで寝過ごした日に慌てて教室に滑り込んできたみたいに笑っている。ダンブルドア殺しの実行犯、サキ・セレン・マクリール。

 

「実のところ、私は君にもう一つプレゼントがあってね」

 

サキがヒールを鳴らして一歩近づく。マクゴナガルたちはサキから杖先を逸らさなかった。真っ直ぐ彼女に向けたまま、しかし非武装の彼女をどう扱うべきか悩んでいるようだった。

 

「君はきっとわかるよね。私の頭がおしゃれでこうなってるわけじゃないって」

「それはレイブンクローの髪飾りか?」

 

ハリーの問いかけに周囲がざわめいた。サキはまるで心得てるかのようにざわめきが収まりだしたときに返事をする。

「そう、失われた髪飾りだ」

「それが本物だって保証はないぞ!」

ロンが横から割り込んできた。その杖先はしっかりサキに向いている。サキは苦笑いしてそれを片手で取り外しハリーに向かって投げ渡した。

髪飾りは床を転がり、ハリーの足にあたって止まる。

「好きにしてよ。私はトムを殺しに来た。それだけ信じてくれればいい…」

「なんですって?」

マクゴナガルがサキの言葉に反応する。

「私はトムを個人的な理由で殺さなきゃいけないんだ。ダンブルドアと同じようにね」

サキの言葉に一気に動揺が広がった。ハリーはそう言い切るサキを見て背筋が寒くなった。彼女の目は据わってて今まで見たことないくらいに険しい。なのに口元にはべったり笑みが張り付いている。

 

「ハリー。君は私の魔法について知ってるはずだよ。…私は未来を見てきた」

 

「ま…さか………」

 

ハーマイオニーは絶句する。ハリーも息を呑んだ。

 

「私はこれからされるであろうヴォルデモートの要求を君にのんでほしい。これしか勝ち筋はないんだ」

「ヴォルデモートの要求…」

ハリーが続きを促そうとしたとき、大広間に並ぶ生徒の中から悲鳴が続々と上がる。

何が起きたかわからないうちにハリーたちにも理由がわかった。頭蓋の中を揺らす大音量であいつのおぞましい声が聞こえてきた。

 

「ハリー・ポッターを差し出せば城には手を出さない…なんて妄言を信じるバカが今ここにいるかはさておき。やあみなさん、私があのバカ親父の娘です」

 

サキ・マクリールはすっかりハイな様子で袖口から出したピルケースから錠剤を口に放り込み、ショーの一環だと言っても信じてしまいそうなほど大袈裟に群衆へ手を振る。

 

「聞いた通りです。でもあいつはそんなつもりありません。未成年は逃げなさい。幸いにもホグワーツには抜け穴が多々ありますから」

「待て、そいつの言う事を信じるのか?!」

ザガリアスが鋭い声で叫んだ。

「あの人の腹心だぞ!罠かもしれない」

「だったらここで死ねばいい」

サキはどうでもよさそうにバッサリ言い捨てた。

「ハリー、君はきっと…予感していただろう。聡明なハーマイオニーだって。その髪飾りを壊せば確信に変わるだろうね」

「シンガー…一体何を言っているのですか?」

「マクゴナガル先生。杖をおろしてくれますか?ハリーと二人で話さなきゃいけないことがあるんだ」

「…許可しかねます」

マクゴナガルを始め教諭陣は警戒を解いていない。サキはちょっと困ってしまう。前回とは随分勝手が違うようだ。ダンブルドアを殺したせいだろうか。

「マクゴナガル先生、大丈夫です」

ハリーはサキへ一歩歩み寄った。そして彼女の目を真っ直ぐ見つめる。

 

「僕も君と話さなきゃいけない気がしてたんだ」

 

サキはマクゴナガルに組み伏せられた。かなり痛そうに関節が軋む音がしたがサキは痛覚なんて置き去りにしてきたようにハリーを見て笑っていた。

 

 

「私はずいぶん怖がられてるんだね」

 

マクゴナガル、スプラウトに両脇を押さえられながらサキは言った。

「そう、だね…君はよく新聞に載ってたからみんな知ってるんだ」

「ハリーとどっちが有名かな」

「もしかしたら君かも」

「あっはっは。サイン要る?」

「いや。それより君は…どうして未来から?あいつは、僕はどうなるの?」

「まず第一に、未来から来たという言い方は適切ではないね。私は母親の願いのためにここにいるんだ。そして気になる私が見た結末だけどあいつは死に、君は生きている」

「君のお母さんの願いって?」

「セブルスの無事。詳しいことは話すと長くなるから言わないけど…それがとっても難しいみたいなんだ」

「スネイプが死ぬ?一体どうして」

「多分この世界では死なないよ。死なせるものか」

サキの顔は真剣だった。

「安心してよ。私が殺さなきゃいけないのはダンブルドアとヴォルデモートだけだから」

 

サキは冗談めかしてそういう。

セブルス・スネイプと通じているサキはガーゴイルに合言葉を言った。

ハリーはたった一人で階段を登っていく。

ロンは最後まで止めた。しかしハーマイオニーが諌めた。

ハーマイオニーはサキの善に賭けている。ハリーもだ。

サキは突然カップを送ってきたり髪飾りを持って現れたり、意味の分からない行動ばかり。ロンの不安も最もだろう。

しかしハリーはサキを信じたい。脳髄を食べた、それほどの覚悟を背負ったサキを親友が信じてやれなくてどうする。彼女と僕は味方と敵を行き来するが本当はいつだって彼女は僕と同じところにいるんだ。少なくとも、ハリーはそう思う。

 

階段を登りきると、校長室の例のフカフカの椅子の横に黒いマントの人影が立っていた。思わずハリーは杖をその人物に向けた。

 

「スネイプ…」

「ポッター…」

 

スネイプはなんだか噛みしめるように名前を口にする。

 

「我輩は杖を持ってない」

 

スネイプはゆっくりと両手を上に上げた。ハリーは呼吸を落ち着けるために深く息を吸った。

「必要なら調べてもいい。我輩は君に告げなければならない事がある」

セブルス・スネイプはサキがダンブルドアを殺してドラコと逃げて以降ホグワーツの支配権を獲得し、ヴォルデモートによる魔法界統治の片翼を担っていた。魔法省で他の死喰い人たちと足を引っ張り合うサキと比べ、彼は安定してその権力を振るっていた。故に騎士団からはサキ・マクリールよりもセブルス・スネイプをヴォルデモート卿に親しいものとして警戒していた。

 

ハリー個人としては学生生活での恨みとは別の感情を持っていた。

サキを助けようとして失敗した。スネイプの中にはそういう負い目も確かにあるはずだった。

学校内のスネイプの振る舞いはどう見たってヴォルデモート卿の意向に沿っていたし、サキ・マクリールは冷酷に騎士団の首を絞めていった。

 

それでも…スネイプは一人の女の子を守ろうとしていた。ハリーはそれを知っている。

 

その女の子は結果的に守れなかった。

 

「まず…ポッター。髪飾りは破壊したのだな?」

「いえ。まだです」

「あの人はすでに分霊箱の奪取に気付いている。もう時間がない。…ダンブルドアは君に分霊箱について話しただろう。しかし校長はすべてを話し終わっていない」

スネイプとこうして一対一になるのは5年のときの閉心術の授業以来だ。あの時勝手に憂いの篩を覗いてしまってスネイプはひどく取り乱していた。彼の瞳に揺れる激情。今改めて向き合うとその光と似たものが暗い瞳に宿っているのがわかった。

 

「スネイプ、先生。その前に聞かせてください。貴方はサキが今何をしているかわかっているんですか?」

「…わかっている。我輩は……失敗した。だからポッター、君のことは失敗できない」

 

スネイプはこわごわと一歩踏み出した。

 

「僕も旅が進むにつれ薄々感づいていた。僕とあいつの間には説明の付かない絆があることに」

「その通り。その絆について話す時がきた」

 

ダンブルドアの肖像はこんな時でも安らかに寝息を立てている。校長室の高い天井には外より遥かに穏やかな星空が投影されており、今までの戦いが嘘のように静かだ。

 

「君はヴォルデモート卿が意図せず作った分霊箱だ。君の中にはあいつの魂の欠片がある」

「つまり…僕が死なないとあいつも死なない?」

「その通り。しかし、サキの見てきた未来によると君はヴォルデモート卿の死の呪文を受けても死なない。代わりに彼の魂の欠片が死ぬのだ。ポッター、君は絶対に例のあの人自身の手にかかり殺される必要がある」

「っ…」

 

ハリーは心の何処かで覚悟していたにも関わらず動揺した。サキに命を保証されていても一度あいつと相まみえ、そして呪文を受けなければいけない。ゾッとする。

けれども動揺はすぐに静かな覚悟へ変わっていった。

 

「わかりました」

 

サキはきっと躊躇わない。

 

「我輩が君を連れて行く。不測の事態があれば守る」

「スネイプ先生、あなたはずっとダンブルドアの味方だったんですね?」

「…ポッター、手短に言うが我輩は君の母親とは古い馴染みだった。彼女の遺した君を必ず助ける。だから…無茶なことを言っているのはわかっている。ともに来てほしい」

「母さんとスネイプが…?」

確かにジェームズとスネイプは犬猿の仲だったし母リリー・エバンスとも同級生だったはずだ。しかしあの最悪の記憶の中で登場したきりでスネイプと接点があったとは寝耳に水だった。そのうえ息子である自分を守るほどの縁、となると相当深い絆だろう。

今までそんな素振りが一切なかったがゆえにハリーは本当に驚いて言葉を失ってしまった。

 

「猶予はもうないな。ポッター、我輩との今までの関係を思えば癪かもしれん。信じられんかもしれんが…」

「そうですね。僕らはかなり…嫌い合っていた」

「左様」

「魔法薬を捨てられたし、滅茶苦茶な理由で減点されたし、罰則もやたらキツかったし…」

スネイプは気まずそうな顔をした。

「厭味ったらしいし僕にばかりきつく当たるし正直敵になってせいせいした。けど、ずっと…サキは貴方を信じてた」

「…」

「サキは変わった。けど僕は少なくとも、今まであなたを信じていたサキを信じている」

ハリーの言葉を聞いてスネイプは目を丸くしていた。そして次に、初めて見るくらい柔らかく、優しく微笑んだ。

 

「そうだな…我輩も彼女を信じている」

 

 

 

 

 

ドラコはスネイプのかわりに現れたサキを見て絶句した。そしてすぐに彼女に駆け寄ろうとしたが叶わなかった。ヴォルデモートの呼びかけとそれに伴う生徒たちの混乱のせいでスリザリン生は地下牢へ連れて行かれそうになり、ドラコは暴れて逃げ出してきた。

そして脇目も振らずにサキのあとを追いかけると、ハーマイオニー・グレンジャーとロン・ウィーズリーによって捕獲されてしまった。

「マルフォイ。貴方サキがああなってるって知ってたの?」

「知らなかった」

ドラコはロンに組み伏せられたまま苦々しく言った。

「彼女は…確かにちょっと変だった。けど…まさかやり直してるだなんて…」

言葉にしてくうちに瞳に涙が溜まっていく。

何故気づけなかったんだろう。けれども気づけたとして自分に何ができた?

 

「なあ、僕は…何をするべき、なんだ…?」

 

ドラコの問いに答えるものはいなかった。

 

そして、当の本人は校長室と廊下をつなぐ階段で蹲っていた。眠気と頭痛が間断なく襲ってくる。さらに順当に未来を書き換えていってるせいか様々な記憶が濁流のように脳を駆け巡り現在の状況が果たしてどの未来なのかーリヴェンの経験済みの過去なのか自分自身の今なのかわからなくなっていた。

 

サキ・シンガーの振る舞いだけしていればこの脳内の混乱は悟られまい。しかしこうもたち眩んでいては平静を装うのもそろそろ困難だ。

「…ふ、はは」

脳髄を食べてから主観は、つまりサキ・シンガーの意識は飛び飛びで現在と過去の区別がいまいちつかなくなってきている。

すっかり変わってしまった。

「ッ……」

胸に鋭い痛みが走った。

リヴェン・マクリールの終わらない悪夢。

私は彼女じゃないけれど私の心は彼女と同じように痛む。

 

私はどこまで私でいれるのだろうか?

混じり合い溶けていく心が、地獄の中で麻痺していく。

 

ドラコ。あなたの唇の感触をよく思い出せない。

 

私は…母の願いを叶えたい。私ならそれができる。

けれども、叶えてそれで何が報われるんだろう?

 

涙が一筋溢れた。

 

「サキ…」

 

その涙を温かい指が拭った。不意に感じた体温に驚くと、ドラコが目の前にいた。

 

「ドラコ…久しぶり」

 

サキ・マクリールは微笑んだ。紙みたいな顔色は一年前から改善していないし、眉根に刻まれた皺は伸びる気配がないけど精一杯笑っていた。

その笑みをドラコは思いっきり張り倒した。

 

「えぇ?!嘘ォ?!」

「なんで…言ってくれなかったんだ」

「た、タイミングが…」

「そういう話じゃない!」

 

ドラコはそう言って乱暴にサキを抱きしめた。

あたたかい。体温と、篝火の熱が混じり合う。

 

「ああ…そうだ…」

 

前にも似たような光景を目にした。そのときはもうセブルスは死んでいたけど今回はまだ生きている。

そう、生きているのだ。未来は、運命は変わり始めている。

 

 

ハーマイオニーとロンはハリーが生還した場合の全面戦争に備えて騎士団のメンバーと打ち合わせをしている。できうる限りの最大防衛策を施すらしく、城内は避難する人、戦いに備える人が慌ただしく走り回っている。

そのどちらでもないサキはドラコと共に一室に監禁される。

 

やり直すとしたらどこからだろう。ダンブルドアを殺して…その後。やっぱりセブルスを力尽くで拘束して棚か何かにしまっておくべきだったのかもしれない。だめならやり直せるとは言え彼の死骸をまた見るのはあまりに辛い。いくらルーチンになっているとはいえ…。

 

「サキ?」

「………え?」

「ああ…」

 

ドラコは今にも涙がこぼれそうだった。そんな顔をしないでほしい。私が選んだことなのだから、後悔はしていない。確かにここは地獄で、私はもう感じている心のどこまでが私かわからないし、貴方と過ごした日々はもうこの世界に存在しないけれども。

 

「ごめんね」

 

自分が何に謝ってるのかもうわからない。

多分謝ってもどうしようもないことだけど、伝え方がわからなかった。

君だけを愛していたよ。けれどもその言葉は口にする前に嘘になってしまった。

私は醜く歪んでしまった妄執の残滓。

ドラコ、私を許さないで。愛してる。

 

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