【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども 作:ようぐそうとほうとふ
真っ白な紙の上に垂らしたインクの染みみたいだ。
と、ハリーはその異常な光景をどこか冷静に捉えていた。しかしその真っ黒な影が人の形を成し、足元に転がる死骸に唇をつけた瞬間に傷跡に鋭い痛みが走った。
あまりの痛みに悲鳴をあげて傷跡を抑える。まるで熱を持って暴れ出したみたいだ。
サキはランプを取り落とし激痛に体を捩るハリーを見て我に返り、ハリーの前に一歩出てとっさに杖を構えた。
しかしファングのリードを離してしまい、ファングはけたたましい鳴き声を上げて逃げてしまう。
「クソ!」
両者の間に広がる緊張。その後ユニコーンの血を啜る生々しい音だけがハリーの耳に響いた。
ずる、ずる、と僅かに粘性のある銀色の血を、真っ赤に裂けた口が啜り上げ、その境界は錆の色へ。
グロテスクな光景と音に遅れて、むわっと獣のような生臭いような腐敗臭のような形容しがたい臭いが漂ってくる。
視覚、痛覚、聴覚、嗅覚。そしてせり上がった胃液で感じる味覚。
痛烈な五感に意識が裂かれるような気がした。
随分長い間に思えたが、一瞬のことだったらしい。
ぐらぐらと揺れる視界の中で、その黒い影がぬうっと此方をむくのがわかった。それとほとんど同時に、サキが杖を振り上げ空中に赤い花火を打った。
樹々の間を縫って花火の明かりが真っ暗なマントを照らす。より濃くなった影に中でそれがぬら、と動いた。
杖腕を上にあげたせいで、サキの反応は一歩遅れをとった。
ずるりと伸びた腕がその腕をそのまま掴む。
ハリーの真上でサキがその黒い影の中身を見て口を大きく開けた。
絶叫が発される刹那、草陰から乱入者が現れた。
蹄の音がサキの悲鳴を打ち消し、黒い影を蹴ろうと振り上がる。
黒い影はマントを翻し、獣のような叫びをあげて走り去った。
それが遠ざかるにつれ額に走る痛みも薄らいでいき、ハリーはようやくまともに息ができた。
不気味な衣擦れの音がいやに頭に残った。
サキは地面に座り込み、突然現れたケンタウルスに何も言えないまま呆然と黒い影の消えていった木陰を見ていた。
「無事ですか?」
上から優しげな低い声が聞こえてきた。
「あ、ありがとうございます。」
ハリーは差し出された手に掴まって立ち上がった。さっきのロナンとは違うケンタウルスだ。若くて、金茶色の毛並みがキラキラ明るく光ってる。サキもぼうっとしながらもなんとか手を掴み立ち上がる。
「大丈夫?サキ」
「…うん、なんとか…でもお尻打った…」
「何を見たの?」
サキはハリーの問いかけに答えなかった。ただ青い顔をしてぶるぶると首を横に振った。
「君は、ポッター家の子だね?そっちの女の子は……」
ケンタウルスはサキをじっと見てから一呼吸置いた。
「何者だ?」
「サキ・シンガー」
どこか嫌悪を感じる口調で、ケンタウルスは射竦めるようにサキを見た。当の本人は気にせず、というかまだショックから立ち直ってない様子で答える。
「そうか…シンガー。そしてポッター。私の名はフィレンツェだ。森は危険だからハグリッドのところまで送り届けよう。」
フィレンツェは優しい瞳に戻ってサキとハリーを見た。二人の様子を見ると自分の背中に乗るように手を差し伸べた。
サキがまだ力なさげなので、ハリーは後ろから支えるようにケンタウルスのたてがみにつかまった。
ハリーは馬に乗ったことはないけど、背中の感触は筋肉質でごつごつしていて、きっと馬のそれだ。
「さっきのはなんだったの…?」
ハリーが恐る恐る尋ねるが、フィレンツェは黙々と木々の隙間を縫って進む。
突然、森の奥深くから蹄の音が聞こえた。ハリーがその方向に視線をやったのとほとんど同時に、ロナンともう1人のケンタウルスが茂みから現れた。
「フィレンツェ!」
真っ黒な毛並みのケンタウルスが咎めるようにフィレンツェに詰め寄った。汗と獣の匂いがムッと近づく。
「何をしているのです?人間を乗せるなんて…君はロバになったつもりか」
「ベイン、この子はポッター家の子ですよ。もう一人は…読めない子です」
「…なに?」
ベインもまたフィレンツェのようにサキとハリーをジロリと射すくめた。視線が二人の全身をくまなく探ると、フィレンツェに視線を戻し強い口調のまま責め立てた。
「だとして、我々ケンタウルスの誓いを忘れたのか?」
「ベイン、あのユニコーンを見なかったのですか?あの邪悪なものが何か君が読み取れていたなら若い命を救おうと動くのも不思議ではないはずですが」
ロナンは黙ってそれを見ていたがフィレンツェの言葉にベインが激昂しかけた時、やっと制するように二人の間に割って入った。
「フィレンツェ、君の言いたいことはわかりました。早く子どもたちをハグリッドの元へ連れて行きなさい。君がそれ以上ケンタウルスの誇りを失わないうちに」
ロナンがそう言い終わると、フィレンツェはさっと向きを変えて木立の中へ進んだ。フィレンツェはあまりおしゃべりではないようだったが、ようやく見覚えのあるひときわ傾いだ大木が見えてきたころ口を開いた。
「ハリー・ポッターにサキ・シンガー。ユニコーンの血が狙われる理由がわかりますか?」
「延命、ですよね」
呆然としていたはずのサキが呟くように言った。
「その通りです。ですがその代償にその血を啜ったものの生は呪われ、不完全な命を生きることになります。」
「呪われちゃうの…?」
「そう、永遠にです。…それでもなお命にしがみつく必要があるものが今この森にいるのです」
ハリーはちょっと考えた。呪われても生にしがみつくもの。
命を永らえさせる血。
「賢者の石を…それが狙ってる?」
フィレンツェは黙って頷く。
呪われてまで生きようとする、死にかけた何か。それは…
「今見たのは…ヴォ………」
「ハリー!サキ!無事か!」
来た方向からファングの鳴き声とハグリッドの呼びかけが聞こえた。
「ああ!なんちゅうこった」
ケンタウルスの背に乗せられた2人を見てハグリッドがほとんど転びながら駆け寄ってきた。ハーマイオニーとドラコも慌てて追いかけてくる。
「ぼくらは大丈夫だよ」
「ハグリッド、この奥でユニコーンが死んでる。まっすぐ行ったところです。すぐわかるでしょう」
ハリーとサキはするするとフィレンツェの背中から滑り降り、ユニコーンを確認しに行くハグリッドを見送った。
「さて。ここまで来れば安全でしょう。二人とも、幸運を祈りますよ。惑星にも見通せないものはごく稀にありますから。」
暗い木立の中に消えていくフィレンツェを見送って、四人はやっと一息ついた。
「サキ、大丈夫か?様子が変だぞ」
ドラコの言葉にサキはうーんと唸り、自分の見たものをなんとか説明しようとしていた。
「ねえ、何があったの?何か見たの?」
ハーマイオニーの質問にハリーが代わりに答えた。ドラコもいるが今見たものをなるべく記憶が鮮明なうちに全て伝えておきたかった。
それがヴォルデモートであるという確信は口には出さなかったが、ユニコーンとその血を啜る者の末路を話した。
「そんな!腕を掴まれたって?!なんともないのか?」
ドラコがちょっとしたパニックになったみたいにサキの右手を掴んだ。
「あー、大丈夫。大丈夫。…私が見たのは真っ赤に裂けた口の中。すっごい生臭くって体の底が腐ってるみたいだったよ……」
サキはげっそりした顔で答える。
「ありゃ確かに呪われてるね。…顔はわかんなかった。ごめんよハリー」
「そんな、僕こそあのときうずくまっちゃって」
「ポッター、お前サキに守られたのか。」
ドラコが嘲りと怒りの混じった声で詰った。事実なのでハリーは何も言えない。
「違うよ。ケンタウルスが私たちを助けたんだ。あのままだと2人とも死んでた」
サキはきっぱりといった。そして黒い影に掴まれた右腕をぎゅっと押さえた。
「あの影は…」
ハリーが言いかけた時、ハーマイオニーが止めるように口を挟んだ。
「今日は、もう休んだほうがいいわ。気付いてないかもしれないけどサキ、足が震えてる」
タイミングよくハグリッドが帰ってきて、なあなあになって四人はそれぞれの寮へ帰された。
サキは医務室行きを頑なに拒否し、ドラコに支えられながら階段を降りていった。
「本当にそいつに何もされなかったのか?」
暗い地下の廊下の灯りにドラコのプラチナブロンドが照らされている。いい毛並みだ。ケンタウルスも毛並みの良し悪しがあったなとサキはぼんやり思った。
「何もされなかったよ。ただ…怖かった」
「怖い?」
「うん。思うにあれは…死にかけだね。怖かったよとにかく」
珍しく弱気なサキに心配そうにドラコは寄り添った。いつも生き生きしてるくせに、今は階段を転げ落ちて死にそうだ。
力なくおやすみを告げてベッドに向かうころにはドラコもどっと疲れて何を考えるでもなくそのまま倒れこんだ。
その後ドラコが尋ねてもハリーが尋ねても、サキはあの夜見たものについて何も答えなかった。
しかも試験がもう目前に迫り、全員賢者の石や禁じられた森について考える余裕を失い勉強に集中した。
試験期間中はハーマイオニーはもはや錯乱の域に達し、朝食時に誰彼構わず問題を出すように強要していた。
ロンとハリーと目が合うと困った顔をさせられた。
しかしドラコも似たようなもので、自分の思い出せない年号があるとサキに正解を教えるように強要してきた。サキにとっては問題を出されるより答えを求められる方が困りものだった。
魔法史の試験が終わり、サキは晴れ晴れとした気分でずっとほったらかしにしていたチェスの駒製作を再開しようと木をもらいにハグリッドの小屋に向かった。
あの夜以来、サキの脳裏にはあの真っ赤な口内がこびりついていたが火事の記憶とごちゃごちゃになって時折夢に出てきた。
しかし悪夢には慣れっこだった。
ハグリッドの小屋へ続く坂道を下ってると、ハリーが真剣な顔で小屋からずんずん歩いてくるのが見えた。
ロンとハーマイオニーはそれを慌てて追いかけていた。
「なに?どうしたの」
「ああ、ちょっと。…サキ、ちょうどよかった」
ハリーが立ち止まって話すのすら時間が惜しいと言いたげに足を止めず歩きながら手短にいった。
「石を盗もうとしてるやつが、フラッフィーの破り方を突き止めた」
「へ?」
サキは事情が飲み込めないらしい。
ハリーは一から説明するのも面倒くさかった。このままだと賢者の石が盗まれてしまう!すぐダンブルドアに知らせなくてはいけないというのに。
「さっきハグリッドから聞いたの。ドラゴンの卵をくれた人にフラッフィーの破り方を話してしまったって。でもドラゴンの卵を飲み屋に持ってくる人なんてまずいないでしょう?だから」
「ハグリッドがみすみす罠にかかったってことか」
「そういうこと」
「おかしいと思ったんだよ。ドラゴンの卵だぜ」
ロンが付け加えるようにボヤく。道理で急いでいるわけだとサキは合点がいった。
賢者の石を盗もうとしているのが本当にヴォルデモートならばあの廊下にはもう近づきたくないし近づくべきではない。
手下がクィレルでも、スネイプでも。
サキは悩んだが結局ハリーたちについて行き、職員室のマクゴナガルを訪ねた。しかしダンブルドアは現在不在で少なくとも明日の朝までは帰らないと言う。
「そんな!どうしても急いでお伝えしないといけないことがあるんです。どうにかなりませんか?」
「それならば私が聞きますよ、ポッター。」
マクゴナガルは確かにとても強いがその分厳格だ。仕方なく賢者の石の名前を出したが結局「石は守られている」と追い返されてしまった。
「ダンブルドアが今夜いないって事は…スネイプは今夜石を盗みに来るかもしれない」
「待って、スネイプとは限らないってば」
サキの言葉に焦りで意固地になったハリーが怒って言い返した。
「どうしてそんなにあいつの肩を持つんだ?!一番怪しいのはあいつじゃないか!」
「ハリーは今意地になってるよ!よく考えてごらんよ。ヴォルデモートが石を狙ってる黒幕ならこの前クィレルを脅したのはスネイプじゃなくてヴォルデモートかもしれない!犯人を決めつけて動いちゃダメだ」
「その名前を言わないで!」
ヴォルデモートという言葉にロンがいちいち反応する。それにすらうんざりだという視線をやってハリーは怒鳴った。
「じゃあどうしろって言うんだ?」
「犯人が誰だって関係ないでしょ。問題は石がとられるか、とられないかだ」
「ヴォルデモートが黒幕なら防衛策なんて簡単に突破されちゃうよ」
「わかってるよ。けどいくら警告しても多分無駄だ。誰も信じちゃくれない。」
サキはポケットからくしゃくしゃのシールを取り出した。
「これ、盗み見防止用の封筒にはるシールなんだ。宛先人以外が開けると中の手紙が燃える、簡単な魔法だけど」
サキはそれを半分に割いてハリーに手渡した。
「欠陥品でね…誰が開けても燃えちゃうし、これが燃えると貼ってない残りも燃えちゃうんだ。」
「これを立ち入り禁止の廊下に貼るの?」
「実はもう貼ってある」
ハーマイオニーがハリーからそれを受け取り、しげしげと眺めた。サキは肯定する。
「ゾンコの商品?初めて見たけど」
「あー、私が作った」
サキはゾンコが何かわからなかったが、ロンはビックリしたようだった。
「わかった、じゃあこれが燃えたら僕は躊躇いなくあの廊下に行くからね」
ハリーは渋々ながら了解した。しかし他に安全な手はない。変に探りを入れてスネイプ(もしくはクィレル)に先手を打たれたらどうしようもない。
誰が盗人だろうと、明日ダンブルドアが帰ってくるまでに誰もあの廊下に入らなければいい話なのだ。
サキは一応は納得したらしいハリーを見てほっと微笑んだ。
そして四人は別れた。
しかしハリーは全てに納得がいっているわけではなかった。サキの姿が廊下を曲がって見えなくなってすぐ職員室の前に戻った。
「ハリー、シールを貼ったなら安心じゃないか。寮に戻ろうよ」
ロンがちょっと飽きた様子だ。
「サキはああ言ってたけどもしシールのことを見破られたら?僕、安心できないよ」
ハーマイオニーとロンは顔を見合わせる。試験が終わった解放感に早く浸りたいロンはもう帰りたそうだったがハーマイオニーはハリーの言うことも一理あると思ったらしい。
「じゃあ…ここであと少しだけ見張りましょうか。」
「ああ、じゃあ君は適当な先生を待つ振りをすればいいよ。試験の結果が知りたくてたまらないって顔してれば不審じゃないし」
ロンの嫌味にハーマイオニーはムッとしたが、確かに一番自然な言い訳だとハリーは思った。
「僕らはもう一回廊下を見てくる。マントをかぶってね。また夜談話室で」
ハリーたちもそれぞれ別れ、長い夜の帳が下りる。
…
サキは、森で見たユニコーンの死骸と黒い影が頭にこびりついて離れなかった。
なんと悍ましい光景だったか。
そして何より、あの匂い。
生き物が死にゆく臭い。
それはあの影がサキの腕を掴みこちらに真っ黒な陰を落とす顔を向けた時に一番強く臭った。
視界に広がる暗闇と、真っ赤な裂目みたいな口と、輪郭に沿ってこぼれ落ちる銀色の血。
そして強烈な死臭。
ハリーは額の痛みのせいかあまり印象に残らなかったようだがその臭いはしばらく鼻に残るほど強かった。
そして、どこかで嗅ぎ覚えがあった。
サキは試験中こそ忘れていたが、あの臭いをどこで嗅いだか思い出そうとしていた。
鼻がいかれていたせいでここ最近になってやっと臭いを辿ろうと鼻をひくつかせることが出来るようになった。
ハリーが散々疑っているスネイプについては真っ先に教室で確かめたが、他の薬物の匂いと混ざって判別できなかった。そのため強く無罪を主張できなかったのが悔やまれる。
多分、ハリーはまだスネイプを疑ったままだ。
スネイプがすでにフラッフィーの突破手段を知っていると言えばハリーも強硬手段に出る可能性があり、サキはそれを言えなかった。危険を加味して重ね重ねあの廊下に近づかないように警告し対策したが、それが裏目に出ないか不安でたまらなかった。
人は禁止されればされるほどやりたくなるというし。
誰だっていいけど頼むから今夜盗みに入らないでくれよ。と祈るような気持ちでいると不意に森で嗅いだ死臭が鼻孔をくすぐった。
「やあ、マクリール」
「え?」
サキが後ろを振り向いてすぐ、背中に電気が流れたような衝撃が走りその臭いが肺いっぱいに広がった。
「燃えた…!」
ハリーはクリスタルの皿の上に置いたシールが突然激しく燃え上がるのを見てベッドから飛び上がった。
ロンも大慌てで上着を羽織り、談話室へ降りていく。
ハーマイオニーは既に下に降りていて、なぜかネビルと対峙していた。
「やっぱり!ハリーたちまた夜中に出歩こうとしてたんだね?」
「ネビル、これは大事なことなの」
「ダメだよ。もう寮から減点させないぞ。…ぼく、戦うよ」
似合わないファイティングポーズをとるネビルに、ハーマイオニーが容赦なく杖を振って呪文をかけた。ネビルは硬直し、そのまま床に倒れた。
「日に日に君に逆らおうって気が無くなってくるよ」
「どうも」
ハーマイオニーはロンにおざなりにお礼を言うとちょっと得意げに杖をしまった。三人は透明マントをかぶって大急ぎで禁じられた廊下へ向かった。
真っ暗な廊下に、こそこそ隠れ回るように動く影を見つけた。
サキかと思ったが違う。曲がり角から漏れる明かりにプラチナブロンドの髪が照らされてる。
マルフォイだ…でも、なぜ?
サキを密告しに来たという雰囲気ではなく、恐る恐るといった具合に周りを慎重に見回し、禁じられた廊下のドアへ手を伸ばしている。
さっきシールが燃えたのはマルフォイのせいではないようだが、一体なぜ1人でここに居るのだろう。
ロンとハーマイオニーをみると二人とも同じく不審そうな顔だった。
しかしマルフォイをどかさない事にはあの中に入れないし、ほっといたらフラッフィーの餌になってしまう。
ハリーは仕方なくマントから出て咳払いをした。マルフォイが振り向きハリーに気づく。
「ポッター!…サキはどこだ?」
「え?君は追いかけてきたんじゃないの?」
「サキは夕方から姿が見えない」
マルフォイは苛立たしげに言う。
「サキが最後に会った時にここに近づくなって言ってたからもしかしたらここじゃないかと思ったんだ。お前たちがらみの悪だくみじゃないのか?」
「いいや…僕たちもわからない。」
「まさか何かあったのか?」
「いいや、でも…」
ハリーはそっと耳をすませた。鍵のかかったドアの向こうから微かにハープの音色が聞こえる。
「フラッフィーは眠らされた。たった今誰かが賢者の石を盗みに入ったんだ」