【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども   作:ようぐそうとほうとふ

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14.仲直りの試練

「賢者の石だって?」

マルフォイが眉を吊り上げて聞き返す。三頭犬の守っているものについては初耳だったようだ。

マルフォイをどうしよう?

ネビルみたいに動けないようにするしかないかと思ったが、ハーマイオニーは杖をあげなかった。

なんにせよグズグズしている暇はない。

「僕はいく。賢者の石を盗られるのを見過ごせない。」

マントを脱いだハーマイオニーとロンも頷く。

「僕もいく」

「私もよ」

マルフォイは突然出てきた2人に当惑しつつも、ハリーの固い意志を宿した瞳をじっと見つめた。

ハリーはマルフォイに透明マントを押し付けた。

「君は戻れよ。このマントをかぶれば見つからずにサキを探せる」

「バカ言え!あのサキがこんな大変なことをほったらかしてふらふら散歩するわけない。サキはこの先にいるはずだ!僕も行くからな」

「君が行く?!この先何があるかわからないんだぞ。もしサキがこの先にいても僕たちが助けるさ!」

「バカにするなよポッター。サキの友達はお前達だけじゃないぞ」

ドラコは一歩も退くつもりはないらしい。透明マントを押し返すと、焦げ目のついた扉に手をかけた。怒り出しそうなハリーをハーマイオニーが制する。

「ごちゃごちゃ言ってる時間がもったいないわ。行きましょう」

 

扉は聞き見ながら開いた。

スヤスヤ寝ているフラッフィーの横に置かれた竪琴はネジの切れかけたオルゴールのように途切れ途切れに音を奏でてる。

音の感覚が長くなるほど3つの頭の寝息が小さくなっていた。

ハーマイオニーが慌ててハグリッドからもらった横笛を吹いた。

ハリー、ロン、ドラコはフラッフィーの巨大な前足をなんとか退かして仕掛け扉を引っ張った。

ぱかっと開いた扉の向こうには地下に続く縦穴が開いていた。

深さは見当もつかない。誰かが様子を見なければいけないようだ。

ハリーが飛び込もうとすると、ドラコがそれを止めた。

「まず灯りを落としてみよう」

部屋の壁にかかっていた松明を取り、その穴へ投げ入れた。

松明の灯りはどんどん小さくなり、暫くして止まった。底はあるが、かなり深いようだ。だが松明が飛び散って消えてないのを見ると地面はそこまで硬くないようだ。

「…で、誰がいく?」

ロンの言葉にハリーは黙って飛び降りた。それにドラコ、ロン、ハーマイオニーが続いた。

地面は読み通り柔らかかった。しかし妙にごつごつしている…つるだ。

湿り気のあるつると根がみっちり張っていた。

「はー、ついてるよ。この植物いったいなんなんだろう?」

ロンの言葉にハーマイオニーが悲鳴で答えた。

見ると緑色のつるが触手のようにハーマイオニーの足に絡みついていた。ハリーの足にもドラコの腕にもみるみるうちにつるが絡みついてくる。

「なんなんだこれ!」

ドラコがつるから逃れようとジタバタもがき、ハリーとロンはなんとかお互いのつるを引きはがそうと暴れるが、暴れれば暴れるほどますます素早く大量のつるが襲ってくる。

松明の明かりもじわじわとできたそのつると根の隙間に落っこちてしまい周りが暗くなる。

「動かないで!これ、悪魔の罠だわ」

「名前がわかったからなんだよ!」

「黙って!ええっと…悪魔の罠。悪魔の罠はたしか…湿気と暗闇を好む…」

「火だ!」

ハーマイオニーのつぶやきを聞いてハリーが叫んだ。

「こいつら、松明を避けた!火をつけるんだ!」

ハリーとドラコは両腕を拘束され、つるが喉まで潰しそうな勢いで這い上がってきている。

「そうだわ!でも松明は落っこちちゃったわ!」

ハーマイオニーはあわあわと周囲を見回した。ハリーは呆れて怒鳴った。

「君はそれでも魔女か!」

「あっそうだった!」

ハーマイオニーは杖を取り出し、下に落ちた松明に向かって呪文を唱えた。下からリンドウ色の炎が燃え上がりつると根を炙った。

植物は身をよじり、炎に照らされた部分から萎れていった。

四人はしおしおになったつるを振りほどき、額の汗を拭い奥へと続く道へ行く。

「落ちた衝撃でどうにかなったのかと思ったよ…」

「マグル生まれはこれだから…」

ブツブツ言うロンとドラコにハーマイオニーが肩をすくめた。

「私がいなきゃ全員死んでたでしょ」

「うん、まあその通りだけど」

ドラコは遺憾ありげだったが強くは言わず、そのまま先頭を進んでいった。

暫く行くと羽音が聞こえた。ぶぶぶという蠅のような羽音だった。そして大きく開けた天井の高いドーム状の場所に着いた。中央にはなぜか箒が4本浮いていた。出口は箒を挟んで向かい側にあり、罠がないかと警戒しながら駆け寄った。

「鳥…じゃない。なんだあれ」

「あれは…鍵じゃないか?」

ハリーのつぶやきにドラコが目を凝らして答えた。

確かによく見ると大量の羽を生やした鍵が天井いっぱいに飛んでいた。虫を思わせる羽音が耳障りだ。

「だめ、呪文がかからないわ」

「まさかあの飛んでる鍵から本物を探さなきゃいけないのか?」

ロンが何千羽もいそうな鍵の群れを見てうへえと呻いた。

「そういうことみたいね…」

「鍵穴からして…古い大きな鍵だ。相当錆び付いてると思う」

四人は目を凝らして鍵の群れを見た。ハリーはその中をふらふらと飛んでいる古くて大きな錆び付いた鍵を見つけた。どうやら羽が折れているらしい。

「あれだ、今落ちそうになってるやつ。羽が折れてる」

「どう捕まえる?」

「…箒に乗るしかなさそうね」

ハーマイオニーは渋い顔をした。箒での飛行は苦手だった。

「わかった。君は扉の前にいて」

ハリー、ロン、ドラコは中央に置かれた箒に跨った。流石にドラコは箒がうまい。ロンも浮き上がりは慣れたもので、三人はあっという間に鍵の群れの中に飛んで行った。

しかし鍵たちは想像以上にすばしっこくて時折攻撃してくる。このままじゃいつまでたっても目的の鍵が捕まえられない。

「鍵を追いたてよう。扉の鍵は飛ぶのが遅いはずだから群れからちょっとはぐれるはずだ。」

ハリーの提案にロンとドラコは素直に従った。牧羊犬のように鍵を上へ上へと追い詰める。

天井に到達しそうになったとき、羽の折れた鍵はふらふらと危なっかしく最後尾で羽ばたいていた。

そして群れの先頭が天井にぶつかり鍵たちの動きが乱れた瞬間、ハリーは一直線に羽の折れた鍵を捕まえた。

「やった!」

ハリーはその鍵を掴んですぐ反転した。

鍵たちが攻撃的な音を立てて追いかけてくるのがわかった。ドラコとロンも大慌てで地面に向かった。追いかけられてるのはハリーだけだ。

「ポッター、貸せ!」

手を伸ばしたドラコに鍵を投げ渡すと、ハリーは出口と反対方向に飛んだ。鍵の群れは地面にぶつかりがちゃがちゃと音を立てる。

その隙にドラコがハーマイオニーに鍵を渡し、ハーマイオニーは大慌てで扉を開けた。ロンがそこに箒で飛び込み、ハリーもそれに続いた。

ほとんど突っ込むように扉に飛び込むとハーマイオニーはばたんと扉を閉じた。鍵が突き刺さる音が聞こえ、四人はほっと一息つく。

しかし安心したのもつかの間。自分たちのいる場所がすでに次の罠だということにロンがいち早く気づいた。

黒と白の格子が地面いっぱいに広がり、すぐ目の前には真っ黒な石像が整然と並んでいる。

「チェス盤だ…!」

ロンが呟くと部屋に置かれた照明が一気についた。煌々と燃え上がる松明の光に照らされて、巨大な魔法使いのチェス盤が浮かび上がる。

「早く通り抜けよう」

ハリーが駒の間を縫って向かい側に行こうとすると、白い駒が行く手を遮った。

「勝って進まなきゃいけないんだよ」

「そんな…時間がないのに!」

しかし強行突破は不可能だ。この罠はおそらくマクゴナガルの仕掛けたものだろう。子どもに、しかも一年生に突破できる魔法ではないのは確かだ。

「ハリー、君はビショップの位置へ。ハーマイオニーはルーク。マルフォイはなんか適当にポーンにでもなっといてくれ。僕はナイトだ。」

「ふざけるな。お前が指揮をとるのか?」

ドラコが抗議するが、ロンは毅然といった。

「悪かったよ。それじゃあナイトかルークを頼むよ」

「ウィーズリー、お前で大丈夫なのか?」

「文句があるならキングにでもなれよ。死ぬまで安心だ」

「ロンはチェスの名手よ!私だって勝てないんだから」

ハーマイオニーの言葉にドラコはどうだかね、と言いたげに眉をひくつかせた。しかしドラコもロンがチェスにおいては誰よりも勝ることを知っていた。

サキは数ヶ月間ロンを負かすためにチェスをさし続けていたがまだ勝てないらしい。サキのチェスに付き合っていたドラコはごくたまにサキに負けていたためロンの実力はおぼろげながら掴んでいた。

ロンにふざけているつもりがないことを確認したドラコは黙ってハリーと対のビショップの位置へついた。

「よし…じゃあ始めよう…」

ロンはポーンを動かした。

本物の魔法使いのチェスが始まった。

チェスは滞りなく進行した。はじめに取られたのはナイトだった。駒はクイーンに打ち砕かれ粉々になって盤外に放りなげられた。

あやうく破片に当たりそうになったハリーを見てドラコもハーマイオニーもロンの集中を切らさないよう口を噤んだ。

チェスの駒は何の感情も持たない。粉々に砕け散り積み上がっていく駒を見て三人はいつ自分が取られるか戦々恐々とした。

途中ドラコがハリーが取られそうになるのに気づき怒鳴ったがそれ以外は滞りなく、取られた数と同じ数だけ白駒を取ることに成功した。

しかしもうポーンはほとんど残っておらず、ナイトとルークも一つずつ失った。

「…だめだ」

ロンが絶望したようにつぶやいた。

「このままやれば、犠牲なしには終われない。」

「…誰なの?」

ハリーの言葉にロンは目を伏せた。言うか言わまいか悩んでいるようだった。白のクイーンがぬうっとドラコの方を向いた。

「僕だろ?」

ドラコが自嘲気味に呟いた。ロンが頷く。

「君が犠牲になれば、その後僕がクイーンを取れる。クイーンがなくなればハーマイオニーかハリーがキングを取れる。…チェックメイトなんだ。」

「そんな…」

今までの駒の扱いを見れば大怪我をするのはわかる。ドラコがサレンダーを言い渡してもおかしくない。

そんなハリーの心配とは裏腹に、ドラコは決心したようにクイーンへ向き直る。

「ウィーズリー、お前が今まで僕らが取られないようにしてたせいで追い詰められたんだ。それくらい少しさせればわかる。」

「でも…」

「もう手はないだろ?」

ためらうロンにそれ以上は何も言わず、ドラコは斜め前へ動いた。

「ま、マルフォイ!ダメだ!」

ハリーの制止を聞かず、ドラコはクイーンの真ん前に移動した。

あっと言う間にクイーンは石の剣でドラコの横っ面を振り抜いた。

ドラコは真横に吹っ飛び、力なく盤の上にうつぶせになった。

ハーマイオニーが悲鳴をあげて駆け寄りそうになるが、ロンが大声で制した。

「動くな!まだゲームは終わってない」

ロンはクイーンの位置へナイトを移動させる。黒い馬は唸りを上げ、重たい蹄でクイーンの兜を打ち砕いた。

悪あがきのようにポーンがロンを取れる位置に移動する。しかしハリーのビショップがそれを許さなかった。

「チェックメイト」

キングの王冠が砕け、盤の上に転がった。

ようやく緊張が解けた三人は大急ぎで倒れているドラコの元へ駆け寄った。気絶しているようだった。

「生きてる…」

ロンが安心したように呟く。

「僕、マルフォイが降参すると思った」

ハリーのバツの悪そうな言葉にロンもコクリと頷いた。

「マルフォイはどうしたって嫌な奴だわ。…でもサキの友達だもの。」

ドラコの犠牲なしにはこのチェスは勝てなかった。だからこそチェスの駒たちがどいて開いた扉になんとしても進まなければいけない。

「どうしよう、進まないと」

ハリーの焦った声にロンがドラコを担ぎながら答えた。

「僕、助けを呼びにいく。君たちは先に行ってくれ」

異論はなかった。

「気をつけてね、ロン…。もしマルフォイが起きなかったら、悪魔の罠の下のスペースに明かりを置いて箒で飛んでいくといいわ。」

「すぐマクゴナガルを呼んでくれ。頼んだよロン」

「君たちこそ、必ず石を守ってくれ。サキがもし捕まってたら…頼むよ」

三人は決心したように頷きあった。

ハーマイオニーとハリーが整列した駒の間を抜けると人気のなくなったチェス盤の上の明かりが消え、静寂が訪れた。

 

そして、みぞの鏡の前にクィレルと失血で顔が真っ青になったサキが立った。

「さあ、マクリール。お前がこの罠を破るのだ」

地獄の底から響くような、低いしゃがれ声が響く。

サキはクィレルをにらみながら、血の混じった唾を乾いた床に吐き捨てた。


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