【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども   作:ようぐそうとほうとふ

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秘密の部屋
01.子どもは嫌でも親に似る


結局ダンブルドアはサキの産みの親、リヴェンとヴォルデモートの関係について明言しないままだった。

言わない理由については色々考えることができるが、ヴォルデモートの方から協力を強要したであろうことは推察できる。

だいたい、自分の生まれについてわかったところでなんとも思わない。

産みの親といっても顔すら知らないわけだし、古より伝わりし魔術の〜とか、ヴォルデモートの〜と言われても全く実感がわかないのだ。

しかし、気にはなるわけだ。

サキは夏休みの間どこか旅行に行くお金もないので広い屋敷を片っ端から探索し家系図らしきものを見つけ出していた。

サキは作り置きしたスープをすすりぼそぼそに湿気ったパンを無理やり流し込んだ。

後見人とはいえ、スネイプは毎日こんな僻地に来れるほど暇ではないらしく週に1度しかこない。

僻地ゆえに、スネイプが居ないと買い物すらままならない。

面倒臭がりのサキはスネイプに買ってきてもらった食材を片っ端から鍋に入れて煮込んでスープにして日々の糧にしていた。

もはや樹海と言える森の中の屋敷。

屋敷の周りには池やら花畑やら色々あるのだが人の手が長らくはいっていないので下草は伸び放題荒れ放題で牧歌的な光景とは言い難かった。

仕方がないのでサキはその庭園だったと思われるジャングルの伐採もしていた。

そういうわけで、日々充実。

サキは屋敷探検で手に入れた家系図をめくってみた。

恐ろしく長い紙につらつらと名前が書かれている。

下へ下へと辿っていくとリヴェンという名前があった。

しかしそれ以上何も書き足されていない。

「ん…?」

家系図というのは初めて見たがなにか妙な感じがした。

この違和感はなんだろう?ともう一度家系図を上から見ようとしたところでチャイムが鳴った。

今日は週に1度のスネイプデーだった。

「おはようございます」

「…こんばんは」

相変わらず土気色の肌が闇にまぎれていた。もうすっかり夜になっているせいでスネイプの格好は灯りのすくない屋敷の中では殆ど判別できない。

スネイプがサキに頼まれ買ってきた食材を台所に置いて、3週間近く同じ場所に置かれている鍋を見ていった。

「…サキ、まさかとは思うのだがスープしか食べていないのか?」

「え?やだなあ。パンも食べてますよ」

「…週に一度しか来られないのは悪いと思っている」

「責めてませんよ?!食にこだわりがないだけで…」

スネイプはそれでもサキの栄養状態を心配したのだろう。そのまま食材を取り出して自分で料理を始めた。

この人料理できるのか?と一瞬不安がよぎったが、よくよく考えれば独身一人暮らしのスネイプは多少料理ができなきゃ生きていけないだろうし、魔法薬を作れるってことは少なくともレシピがあれば完璧な料理が作れるはずだ。

実際実に手際よく何かを作っている。

サキはそれを隣で眺めて料理が出来上がるのを待った。

スネイプは手際よくマカロニを茹でて野菜を切ってソースを作って…あっという間にドリアを作った。

オーブンに入れて一息つくと、続いてミルクや砂糖を取り出して何かお菓子を作り出した。

お菓子を作るスネイプというギャップにサキは転がって笑いたかったがそんな事したら本当にキレられそうなのでぐっとこらえる。

そしてスネイプはあっという間に5人前のババロアを作り、冷蔵庫に寝かせた。

「夕食にしようか」

さっきまでスープとパンを食べていたサキだが、焼きあがった芳ばしいドリアの匂いに思わず舌鼓を打った。

「…サキ。何か困ったことは?」

「魔法が使えないのが嫌ですね。庭の木がもう凄くて…」

「そうか。我慢しろ」

スネイプは毎週同じことを聞く。正直ここの生活も悪くないのでそんなに悩みは出てこない。

「学校からの手紙だ。次年度の教科書リストが載っている」

「見ていいですか?」

サキの家にはなぜかフクロウが寄り付かない。屋敷から1キロ近く離れた門にマクリール家用ポストが置かれているのだが絶望的に木々が生い茂っているため毎日チェックするのは億劫で、こうして週に1度必ず門をくぐるスネイプに持ってきてもらうのを待つ形になっている。

「うわ、なんでこんなに教科書が?」

手紙にはギルデロイ・ロックハートとかいう著者の本がずらっと並んでいる。とても教科書とは思えないタイトルがたくさんあった。

「新しい先生の指定だ」

スネイプはいつも以上の渋面で答えた。

「お、お金大丈夫ですかこれ…」

「問題ない。これで買いたまえ」

スネイプはサキに教科書代よりちょっと多めに金貨の入った袋を渡した。サキもありがたく貰い受ける。

「そーだ、ドラコにダイアゴン横丁に誘われてるんです。行ってもいいですか?」

「ああ、勿論。迎えが来てくれるのか?」

「はい。だってほら、あの森徒歩で抜けようと思ったら1日前に出ないと間に合わないでしょ」

「…もし金が足りないようなら」

「たかりにいきます」

「元々君のお金だ。好きに言いたまえ。勿論無駄遣いはさせんが」

「はーい」

サキは食べ終わって2人分の食器を洗った。食べ終わるとなんとなく解散で、スネイプは泊まりこそするが特にもう干渉してこない。サキも別にべったり話し込みたいことがあるわけでもないので自室に戻り宿題を片付け始めた。

そういえば、ハリーに送った手紙の返事がこないな。

サキはこのとき知る由もなかったが、ハリーはこのとき大変な目にあっていた。

 

「サキー!」

ドラコが蔦の生い茂った門の向こうから手を振って呼びかけた。

「おはよー」

門の隅にある小さな扉をくぐって出ると、ボコボコの獣道の向こうに馬車が止まっていた。

馬車ってすごいなあと感心しながら中に入ると、見かけより広い空間が広がりそこに優雅にルシウス・マルフォイが腰かけていた。

以前会った時と変わらずきっちりした服装に気取った笑み。

サキは前回マルフォイ邸に行った時ドレスコードでもあるのかと勘違いした。今回は小間使いに見られない程度にちゃんとした服を着てきたがやはりそれでも見劣りする。

「やあ、サキ。いかがお過ごしだったかな」

「こんにちはルシウスさん。何も変わらず庭とかいじってましたよ」

「勉強の方も順調かな?」

「ぼちぼちですね」

「もっと励んだ方がいいと思うねえ。勉強だけに打ち込めるのは今だけさ。ドラコには来年は一位を取れと言ってるんだがね…」

ドラコは口をへの字に曲げた。

「順位なんてどうでもいいじゃないですか。ドラコはよくやってますよ」

その言葉にルシウスはちょっと目を丸くした。順番に頓着のないスリザリン生は稀有かもしれない。

「そうだ、サキ。ノクターン横丁に寄るんだけど君も来る?」

「どこそこ?」

「うーん。ダイアゴン横丁のそばにあるんだけど、ちょっとなんというか…暗いところ?」

「曖昧なことをおっしゃる」

「いや、いや。ドラコ。サキにはまだ早いだろう。私も野暮用があるだけですぐあんな場所は立ち去るさ。君はサキと一緒に競技用の箒を見ていなさい。すぐに戻るから」

「ほんとう?!」

ドラコは嬉しそうに目を輝かせた。箒に熱をあげる男の子の気持ちはイマイチ理解できなかった。

どうやらノクターン横丁というのはちょっと怪しい場所らしい。ついて行かされなくてよかったと内心安堵した。

ノクターン横丁との分かれ道でルシウスと別れ、二人は箒専門店へ行った。

サキにはそれぞれの箒の違いはさっぱりわからず、ドラコが興奮してニンバスの新型がどうこうとかハリーの箒がどうこうだとか早口で解説していたがあまり興味がなかった。

早さだとか性能より材質や形状については多少見分けがつくようになったが流線型の方が空気抵抗が少ないと思いきや箒に最適な速度によっては抵抗も必要だとか言われるとさっぱり何が何だかわからなくなった。

「クィディッチのチームに入るの?ドラコ」

「そのつもりさ。僕はシーカーをやりたい。ちょうどチームに空きも出たし…」

「へえー…」

「サキは箒に乗れたっけ?」

「わからない。でも股間がいたそうだから遠慮する」

「君、柄には乗らないぞ」

箒に関してまるっきり無知なサキだったが、ドラコと店を出る頃にはすっかり聞きかじりの知識が頭にいっぱい詰め込められてしまった。

ルシウスと合流すると、ルシウスは店にディスプレイされた新型の箒を買い与えた。サキにも買ってくれそうになるルシウスを必死に止めた。

箒がいらないなら代わりに洋服でも。という話におちつき、3人は教科書を買いにフローリッシュ・アンド・ブロッツ書店に行くことにした。

書店はやけに混んでいた。

《ギルデロイ・ロックハート サイン会》

とでかでかと幕がかかってた。

「あのバカ高い教科書のやつじゃないか?」

黒山の人だかりの向こうで笑顔を振りまきながらサインをするイケメンが見えてその人だかりに納得した。

「ああ、こりゃ中身もまるっきりバカだね」

サキは著者近影が10ページごとに載っている『グールお化けとのクールな散策』を立ち読んで言った。

「こんな本買うより黒檀が欲しい」

「なんだそれ?」

「木だよ。チェスの駒に使いたいんだよね…」

「木ぃ?」

ドラコは理解できないと言いたげだった。そこで店の奥が突然騒がしくなった。よく見てみるとハリーがロックハートに捕まって写真を撮られていた。

「はん。書店に行くだけで新聞一面記事か。さすが有名人のポッター様だ…」

「ドラコも新聞のりたい?」

「嫌だよ!今のは皮肉だよ!」

するっと逃げるようにハリーがこっちに向かってくるのがわかった。ドラコはチャンスだと言わんばかりに階段の下を通り過ぎようとするハリーに話しかけた。

「やあ、ポッター。有名人のポッター。君の写真はいくらで売れるんだろうね?」

「ほっといてよ。ハリーが望んだわけじゃないわ」

ドラコのいつもの煽り文句に赤毛の女の子が言い返した。どこかで見覚えのある子だ。

「なんだ、マルフォイか」

後ろからロックハートの本の山を抱えたロンが出てきてサキは合点がいった。

この子は確か去年兄たちを見送りに来ていたウィーズリー家の末っ子だ。

「久しぶり。元気だった?」

呑気な声でドラコの上から挨拶するサキのおかげで場が一瞬和んだ。

「ぼちぼちさ。サキは相変わらずだね」

「まあね。ねえ、その本高すぎない?割り勘して使いまわせないかなあ?」

「貧乏くさい事するなよサキ…」

「それ名案だ!」

「授業被ってたらダメじゃないかな…」

子どもがわいわいと五人も集まれば嫌でも目立つ。

早速のっぽの赤毛のおじさんが駆け寄ってきた。

「こらこら、買ったら外に出なきゃ他の人の迷惑だろう?ん…?君は…」

どうやらロンたちの父親らしい。優しそうな目と赤毛が子供達にそっくりだ。

「二人とも、教科書は買ったか?早く出るぞ。……おや」

そこでタイミングぴったりにルシウスがドラコとサキを見つけて寄ってきてしまった。

あ、仲悪そう。

とサキはその二人の視線がかち合ってから流れた緊張で一瞬で悟った。

「おやおや、大所帯でご苦労なことですなあウィーズリー。君の薄給でこんな教科書を買うのはさぞや大変だろうに」

ルシウスはジニーの大鍋に入った教科書を取り、パラパラとめくった。

「マルフォイ、人の家計を透かし見ようなんて育ちを疑うね。それに、子供たちの教科書を買うくらい!」

アーサーの言葉にルシウスは青筋を立ててジニーの教科書を大鍋に放り込んで向き直った。

「育ちを疑う?純血の面汚しの君には言われたくないが」

サキはいつもロンとドラコが喧嘩しそうになるときはそれとなく茶々を入れていたのだが、この父親二人の間には並々ならない対立があるようで全く付け入る隙がない。

「…マルフォイ、君と私じゃ面汚しについての見解は違うようだ」

「ああそうかい。少なくとも」

ルシウスは事の成り行きをハラハラ見守っているグレンジャー夫妻をちらりと見て揶揄するようにいった。

「そんな連中と付き合ってるようじゃ、落ちぶれるとこまで落ちたってことは確かだろうね」

その言葉についにアーサーはきれてルシウスに殴りかかった。周りから悲鳴が上がり、周囲の大人が止めに入るが手がつけられない。

するとぬうっと人ごみから現れたハグリッドが2人を引き剥がした。

お互いちょっと唇が切れていたり頬が赤くなったりしていた。

「全く、何やっとるんだ?」

ルシウスは息を整えて裾を直すと肩を鳴らしてでていってしまった。

「あー、ええっと。じゃあまたホグワーツでねー!」

仕方なくサキとドラコもそれを追いかけた。

ルシウスはそれからずっとぷんぷんだった。馬車でもろくに喋らないままマルフォイ邸に招かれ、ナルシッサに気を使われて洋服をプレゼントされた。

丁重に断ろうとしたのだがナルシッサはどうも娘ができたみたいな気分らしく、サキにいろいろな服を着せてはこれがダメならこれはどうか?と問いかけてきた。

夕食の頃にはルシウスの機嫌も直り、素材の良さを極限に生かした味の薄い料理を食べた。(それでも美味しい)

「ぜひ泊まっていきたまえ」というマルフォイ夫妻のご厚意に甘えてサキは客室に通された。

サキも一応お屋敷には住んでいるのだがマルフォイ邸はインテリアも洗練されていてとても居心地がいい。だだっ広いだけのマクリールの屋敷とは違う。

キョロキョロとその優美な家具を眺めていると、ドレッサーのそばに置かれた鈴に気づいた。

ボタンがあれば押すように、鈴があれば鳴らす。

ちりんちりんと小さな鈴の音がすると、バシッと音を立てて目の前に突然小さなしわくちゃの屋敷しもべ妖精が現れた。

うおっと小さく悲鳴をあげるサキに対して、屋敷しもべは恭しくこうべを垂れた。

「何か御用でございましょうか。このドビーめになんなりとお申し付けください」

「あ、いやいや。ごめんね…君を呼び出すものとは思わなかったんだ」

「そうでございましたか、失礼いたしました」

「ううん、いいよ。君ドビーって名前なの?ドラコの家って屋敷しもべ妖精がいるんだ。いいなあ」

「ドビーめはずうっとこのお屋敷に勤めております。シンガー様。ぼっちゃまのお友達ですか?」

「そうだよ。よろしくね、ドビー」

「ああ、なんてお優しい方なんでしょう!」

ドビーはよろしくというサキの言葉を噛みしめるように大きな瞳を閉じて胸を押さえた。

ホグワーツの屋敷しもべにも言えるのだが彼らは人の親切や善意をあまり受けた事がないらしい。そしてドビーはホグワーツの彼らよりよっぽどひどい扱いを受けていそうだった。

サキからしてみれば人語を喋る以上対等であるのだが、どうも魔法族の純血は差別意識が顕著だし屋敷しもべ妖精なんてほとんど畜生扱いなんだろう。

「何か用事があったら呼ぶね。下がっていいよドビー、ありがとう」

「はい。お優しいシンガー様。おやすみなさいませ」

ドビーは来た時と同じようにバシッと消えた。

便利だなあとドビーの消えた跡を眺めながら思い出す。

屋敷しもべ妖精は違った魔力を持つために魔法使いのかけた魔法を突破できる…。

ああやって奴隷のように扱われるのは、人がその力を恐れるあまりに制約をかけたからなんだろうなとぼんやり思った。

だとすると母親が姿を消し続けていたというのも納得できる。

魔法の力は強大だ。だからこそそれを打ち破る可能性があるものは徹底的に潰さなければいかないし、逆に言えば潰してきたから魔法使いが魔法界を支配できるのだ。

サキはふかふかのベッドに横になりながら思った。

今年も何かありそうだな…と。

 


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