【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども 作:ようぐそうとほうとふ
ホグワーツ急行をいくら探してもハリーとロンは見つからなかった。
ハーマイオニーも首をかしげるしかなく、心配で今にも汽車から飛び出しそうになるのを必死に宥めた。
「ポッターがいない?どうせ乗り遅れたんだろ」
事件、事故といった推測が飛び交う中でドラコの一言が一番的を射ていたのをサキはパーティーの翌日に知った。
「車で暴れ柳に突っ込むなんて!レジェンドだよ」
グリフィンドールの朝食の席に紛れ込むスリザリン生は上級生にとっては慣れた光景だったが新入生には異様に見える。腹を抱えて笑うサキをジニーが伏し目がちにちらちら見ていた。
「ほんとに焦ったんだよ?カートが柱にぶつかるなんてさ…」
「ああ、暴れ柳にもぶつかって車はどっかに行っちゃうし」
「車はどこに行ったの?」
「わからない。禁じられた森でたくましく生きてるんじゃないかな」
武勇伝を語るようなロンとハリーにハーマイオニーはご立腹だった。
するとフクロウたちが一斉に広間に入ってきて生徒たちに荷物や手紙を落としていった。忘れ物を届けるフクロウもいるらしく、何羽かは重たそうな荷物を持ってふらふらゆっくり滑空している。
するとがしゃーんと目の前の皿を蹴散らして、老いたフクロウが落下してきた。
「ああ…もうエロール爺さんったら」
ロンがミルクでベシャベシャのエロールの足に引っかかった手紙を見つけて息を飲むのがわかった。
「うわぁ。吠えメールだ」
ネビルがおびえた様子で呟いた。
「そんな…嘘だろ」
「開けちゃったほうがいいよ。ほっとくともっとひどいことになる…」
いつになく真剣な顔をしたネビルに促されるように、ロンは真っ赤な便箋を震える指でつまみ上げた。
「なに?吠えメールって」
ハリーが尋ねるがロンはそれどころじゃないらしい。そーっと封筒を開けると、大広間に響き渡る怒声が封筒からした。
サキは反射的に耳を塞いだがハリーは間に合わず、鼓膜がどうにかなりそうになる。
便箋から響くウィーズリー夫人の怒鳴り声に全ての音が塗りつぶされ、その爆心地であるロンは注目の的だった。みるみる小さくなってテーブルの下に引っ込んで行く。
ガンガン響く怒声がようやっと終わると、赤い封筒はぶわっと燃え上がって灰になった。
数秒間はあまりの衝撃で誰もロンを馬鹿にすることはなかったが、誰かが思い出したように笑うとまた広間にざわめきが戻ってきた。
ハーマイオニーもさすがに同情した瞳でロンを見ていた。
事情を知っているサキもロンの肩をバンバンと叩き無言で激励してからスリザリンのテーブルに帰った。
ドラコはさも愉快そうだった。
しばらくして新しい時間割通りに授業に出ようとすると、休み時間が丸々移動に潰されることがわかったりしてサキは忙しかった。
手製の地図で最短ルートを導き出したはいいが、クラッブとゴイル(特に横幅のでかいゴイル)が通れないため結局のろのろと移動する羽目になった。
「ん?」
午後の魔法史に備えて読書する本を見繕ってから中庭に出ると、ハリーがカメラを持った一年生に絡まれてるのが見えた。
「サイン入り写真?君、ロックハートみたいなことしてるのかい?」
持ち前の地獄耳で内容を聞き取ったらしいドラコは早速足早に近づいていって喧嘩を売りに行く。
やれやれとサキが付いて行くとドラコが高らかに言った。
「サキ、君も欲しいなら並べよ!ほらみんな、ポッターがサイン入り写真を配るそうだ」
「え?タダでくれるの?やったー!」
「僕、そんなことしてないぞ!サキ、頼むから並ばないでくれよ!」
ハリーが怒り心頭で言った。おそらくロックハートみたいという言葉が琴線に触れたんだろう。ロックハートは赴任して1週間も経ってないくせに早くも生徒に嫌われ始めている。
「君、やきもちやいてるんだ」
小さい一年生がドラコの後ろにいる大きな岩みたいなクラッブ達に負けじと言い返した。
「妬いてる?僕が?悪いが僕は額に傷なんて欲しくないね。それだけで特別な人間になれるとは思わない」
「マルフォイ!」
ロンが怒って折れた杖を持ち上げた。
「いいやドラコの言う通りだよ」
いつもなら止めに入るサキの思わぬ同調にロンがあんぐり口を開けてハリーは目を丸くした。ドラコですらあれ?と一瞬眉が動いた。
「額の傷なんてただの傷跡だよ。人は外見なんかより中身が一番大事ってこと…それは写真にはなかなか映らない。そういうことだよそこの君」
サキはびっくりしているコリンのカメラをひょいっと取り上げて突然コリンをバシャバシャ撮りだした。
そして置いてけぼりになってる当事者と野次馬を気にすることなくコリンの肩をポンと叩いてカメラを返した。
「君、勝手に写真を撮っちゃダメだよ。こんな風に嫌な気持ちになるでしょ」
「あ……はい。ごめんなさい」
サキはにこっと微笑むとこれにて一件落着と言いたげに去っていった。
残されたドラコは有耶無耶にされた空気の中でどうしようか考えてるようだった。
「おや、なんの騒ぎです?サイン入りの写真と聞いて飛んできたのですが」
遅れてロックハートが割り込んできた。げっと思ったのもつかの間、ロックハートは目ざとくハリーを見つけて人ごみからするっと這い寄ってきて肩を掴んだ。
「さ、ツーショットだ!クリービー君撮りたまえ。私が許可してるんだから遠慮せずね!」
コリンは慌ててカメラを構えてシャッターを切った。ドラコは困りきったハリーを見てニヤニヤ笑いながら人垣にスッと消えていった。
「…なんでいっつも邪魔するんだよ?」
授業が終わり、談話室でおとなしく本を読んでるサキにドラコが突っかかった。
「邪魔?」
「とぼけるな。僕がポッターに話しかけるといっつも変なこと言ってごまかして!」
「ドラコは喧嘩がしたいの?」
「喧嘩がしたいわけじゃないさ」
ドラコがケンカを売る場面というのは概ね騒ぎが起きてハリーが困るときや、反撃できない時だ。サキも薄々それをわかっていた。
「暴力沙汰になる前に止めてるんだよ」
「余計なお世話だ。ポッターの肩ばっかり持って」
「そんな事ないよ!少なくともあの場で一番悪いのはドラコじゃなくて写真を勝手に撮った一年生だからあの子を叱っただけ」
「どうだか!」
ドラコの話を聞かない態度にサキは膨れっ面になる。
「賢者の石の時はハリーたちのこと褒めてたくせに。していい喧嘩と悪い喧嘩くらい区別しなよね!」
「なんだよしていい喧嘩って!というか僕はあいつらのことなんか褒めてないぞ!」
サキとドラコの口論はそう珍しいものでもないのでスリザリン生の大半はスルーしている。
「もう怒った!絶対君のことなんか擁護してあげない!」
「望むところだね!僕がいなきゃスリザリンでぼっちのくせに!」
「うっ!」
ドラコの言葉にサキが図星をつかれて唸った。時計が10時を指した頃、ようやく二人はベッドに戻った。
しかしその後、ドラコはサキの擁護がないおかげで辛酸を舐めることになる。
ドラコがクィディッチのチーム練習に初参加する日、サキのいない中でドラコはハーマイオニーに「穢れた血」と吐き捨てた。
「ナメクジ喰らえ!」
ロンの折れた杖は呪文を双方向に噴射し、ロンとドラコは一日中ナメクジを吐き出す羽目になったのだ。
双方向に呪文がかかったおかげか、吐き出すナメクジは小さめだったがヌメヌメした粘液が口からダラーっと垂れるのは生理的に辛い光景だ。
見舞いに来たパンジーやドラコを密かに支持している女子生徒はその姿を見て医務室から足早に去っていった。
「だから言ったじゃん」
夕方にやっと見舞いに来たサキは冷たく言い放った。
「しかも穢れた血だなんて。因果応報だね」
ドラコはうえっとナメクジを吐き出して喘ぐように言った。
「なんだよ」
サキは横の椅子に座って、バケツいっぱいに堆積したナメクジを見てうひゃーと悲鳴をあげる。
「ロンのも見たけどね、君と色の違うナメクジだったよ…。何で反映されるんだろう?性格…?食べたもの?ねえ、なんかお菓子とか食べた?」
「君、一体何しに来たんだよ」
「仲直りだよ」
サキはひょいっとナプキンを渡した。ドラコはありがたくそれを受け取り口の周りを拭う。
「その、さすがにかわいそうだなって…」
「別に君は関係ないだろ」
「あるよ、両方の友人として緩衝材にならなきゃ。それにドラコも本当は…」
「僕が、うぇエッ……!なんだよ?」
「うえー。なんか特大のナメクジが出たあ……」
「いちいち言うなよ!続きはなんだよ」
ドラコの問いをはぐらかすようにサキは笑う。嘔吐感に笑ってられないドラコはかといって怒る気力もなく、仕方なく追求せずにナメクジを吐き出し続けた。
「でももう人に穢れた血なんて言っちゃダメだよ。私だって言われたけどあんまりいい気分じゃないし」
「…ああ、僕が悪かったよ。もう言わないさ……本人の前ではね」
サキはちょっと困り顔になったが、その言葉でドラコを許す気になれたらしい。その日の夕食に出てきたと思しきパンを置いて医務室を出て行った。
「食べられないって…」