【完結】ハリー・ポッターと供犠の子ども 作:ようぐそうとほうとふ
ハリーはあの冷たいダーズリー一家から別れられて、清々した気持ちだった。しかし同時にこれから一人で全く知らない世界に飛び込む事になるのを実感し、思わず不安げに周りをキョロキョロ見回した。
キングスクロス駅は人でごった返している。11歳の少年の背丈ではなかなか前が見えず、不安感は増す一方だった。
「ねえ」
出し抜けに声をかけられ、思わずギョッとして声のした方向を振り返った。
「ねぇ、君さ」
自分より5センチほど高い背丈で、黒いだぼだぼのセーターを着た少年が重たそうなトランク一つを足元に置き、立っていた。
「な、なんですか?」
「でかい荷物に、でかいカート。素敵だね。ひょっとして君、道に迷ってない?」
「…別に」
不安感を見透かされたような気がして、思わずハリーはつっけんどんにしてしまう。すると相手は面食らったようにへらっと笑って足元のトランクを軽く蹴飛ばした。
「いやね、私もなんだ…。おまけにカートを忘れてこのままじゃ電車に遅れちゃう」
「…もしかして…ホグワーツの?」
ホグワーツという言葉にホッとしたように少年の表情が和らぐ。
「そうそう!君もだよね?白いフクロウ持って電車乗るやつなんているわけないもん」
同じ学校の生徒を見つけた安心感から思わずハリーも安堵し、相手への不審感が一気にとけていった。ヘドウィグのカゴを撫でながらカートがあとどれだけの重さに耐えられるか想像した。
よし、なんとかあと一つくらいは乗せられそうだ…
「彼女はヘドウィグ…。よかった、魔法使いに会えて。カートには余裕があるし、案内してもらってもいいですか?」
「んぇ?」
ハリーの言葉に少年は目を丸くする。
「え?」
思わぬリアクションにハリーも思わず間の抜けた声を出す。
数秒の間を置いてハリーと少年がほぼ同時に互いに言葉を投げかけた。
「場所、知らないの…?」
「君も新入生なの…?」
ハリーはほんのちょっとの落胆を味わいながら、ほんの少し頭を抱えて考えた。
一人で迷うより、マシ。
少年が気まずそうに頬の横に垂らした髪の束をくるくると回す。
結べるか結べないかギリギリの長さの髪がキリキリと巻かれ、やがて弾けるように元どおりに解れていく。
どうやら少年も同じ結論に達したらしい。ぽんっと両手を打ち鳴らしてハリーに提案した。
「とりあえず…9番線に一緒に行かない?」
「うん、3/4番線も行ったらすぐわかるかもしれない」
仲間ができたー。同じ新入生の、しかもどうやら魔法界のことをよく知らないらしい仲間が。
「私はサキ、サキ・シンガー。君は?」
「僕はハリー・ポッター、ハリーでいいよ」
「よろしくハリー」
「よろしく、サキ。とりあえずそのトランク乗せなよ」
その言葉で信頼感を得たらしいサキ(変わった名前だ)は笑顔でそれに応じ、重たそうに荷物の一番上へ持ち上げて紐でくくった。
「ありがと。9番線に着いたら私が押すよ」
二人は言葉少なに足早に人混みを抜けていった。色々話したいこともあるが乗車時刻ギリギリだ。しかも9番線は混んでいるし、見渡せど見渡せど9 3/4番線なんて案内は見当たらない。
「どうしよう!人に聞こうか?」
「うん…あ、いや。ちょっと待って!」
ハリーの焦った声をサキが止め、ホームにある柱のうちの一つを指差す。
「今、人があの中に入っていった!カートを持った子供が!」
「柱の中に?」
「うん、だからまず聞くならあの人たちさ!きっと魔法使いだから」
ウキウキした顔でサキは燃えるような赤毛の婦人の方へ小走りで向かった。
「あの!」
ハリーが声をかけるとかっぷくのいい婦人は振り返り、人懐っこそうな笑みを浮かべた。
「あらやだ!生徒かしら?もう発車時刻ギリギリよ」
「あの…僕たち、3/4…わからなくて!」
急いで来たせいで息が上がってしまった。サキも同じようにカートに引きずられるようにして追いついた。
「新入生ね?ロンもそうなのよ。」
赤毛の婦人は横に立っていた男の子を指し示す。同じように赤毛だ。
「簡単よ!柱に向かって行けばいいの。ロン、お手本見せてあげなさい」
「うん……OK」
ロンはちょっぴり不安げにカートに力を込め、頑丈そうな柱へ突っ込んでいった。
普通なら荷物がぶちまけられるところだが、ロンは吸い込まれるように柱の中へ消えて行く。
「わあ!」
思わず歓声をあげる二人を微笑ましそうに眺め、婦人は優しく二人の背中に手をやった。
「次はあなたたちの番よ」
サキが待ちきれないと言わんばかりにハリーの腕をひっつかみ引き寄せる。二人でカートを持ってまっすぐ柱に向かって押した。
ぐんぐんと柱が視界に広がって、カートは吸い込まれるように前へ前へと進んだ。
壁にぶつかる瞬間目をつぶったが、衝撃がない。
スピードを落としながら転がるカートの感触。そっと目を開けると人がごった返すホームの上だった。立派な蒸気機関車が停まっている。
「つ…ついたぁー!着いたよ!よかったあ!」
サキが両手を挙げて喜ぶ。カートが曲がって壁に激突した。
ついでに全ての荷物を降ろし、汽車に二人して乗り込んだ。
重い荷物をなんとか押し込み、誰も座ってないコンパートメントの荷台へ四苦八苦しながら詰め込んだ。
「はあーっ…君がいてよかったよ」
「私もだよ。たどり着けないかと思ったもん…」
二人は一息ついて窓の外を眺める。さっきの赤毛の一家がわいわいと荷物を積みながらなにか話していた。客席の窓から子供たちが身を乗り出して家族との束の間の別れを惜しんでいる。
「サキは、一人で来たの?」
「ん?そーだよ。私、家族いないから」
「えっ?!ご、ごめん」
思いもしない回答に反射的に謝ってしまう。サキが何か言う前に言葉を続けた。
「実は僕もそうなんだ」
「…そうなの?」
サキは驚いた表情でハリーを見つめてる。
「うん。親戚の家に預けられてる」
「そうだったんだ…じゃあこれからはお互いホグワーツが家だね」
ハリーはこれからはホグワーツが家、という言葉に感動しながら、これからの生活への期待をじんわり感じた。
「そうだね。あそこにはもう、絶対帰りたくないし」
「そんなにやな人たちなんだ?」
「うん!酷いんだ…。この間なんてさ」
ハリーはホグワーツ入学案内の手紙から逃げるため引越した先にハグリッドが来た話をした。サキは楽しそうに話を聞いて、ダドリーのお尻に豚のしっぽが生えたあたりで爆笑した。
サキが涙を拭いていると、遠慮深げなノックがした。
さっきの赤毛の男の子、ロンがいた。
「ここ、空いてるかな。…他がいっぱいなんだ」
「いっ…いっ…ひひっ…いいよっ…ふぐぅ…ッ」
サキはまだ笑いが収まらないらしくお腹を抱えながら引きつり笑いで答えた。そんなサキを不気味なものを見るように避け、ロンはハリーの隣に座った。
ロンがチラッとハリーの顔を見た。額のキズに視線が走った気がしたが、すぐに目をそらされてしまった。
「えっと…ありがとう。僕はロン。ロン・ウィーズリー」
「私、サキ・シンガー。」
「僕、ハリー。ハリー・ポッター」
「やっぱり君があのハリー・ポッター?」
「あの、って?」
驚き興奮した様子のロンと、なぜロンがそうなっているのかわからないサキが同時にハリーに質問する。
ハリーはちょっと困りながら、どう説明しようか迷った。
「ええっと…僕、有名らしいんだ」
「君知らないの?!彼が例のあの人を倒したんだ!生き残った男の子、聞いたことない?」
「例のあの人…?」
サキはちょっと考えるように顎に手を当てる。
「あ、あれか!読んだよ、本で。ヴォルデモートだっけ?」
「わ!!!」
ヴォルデモートの名前を出した瞬間、ロンが悲鳴をあげた。どうやら子供でもヴォルデモートの名前を恐れるらしい。烈火のごとく怒り出した。
「ダメじゃないか!その名前は口にしちゃいけないんだ!!」
「え…あ、そうだったね…ごめん」
サキは引き気味に口をつぐむ。そしてハリーを改めて見つめた。ハリーは気まずくなって思わず目をそらした。
「その人そんなに怖かったの?」
「僕はまだ赤ちゃんだったから…全然、覚えてないんだ」
「そうなんだ。…うわー」
「へー…」
自分の知名度はダイアゴン横丁で思い知らされていたつもりだったがホグワーツでもこの調子なんだろうか。
そこで突然コンパートメントの扉が叩かれた。移動販売だ。見たこともないお菓子が山のように積まれていた。
「…私はいいや」
「僕も。これあるからさ」
ロンは恥ずかしそうに包まれたサンドイッチを持ち上げた。
ハリーとしては折角もう友達ができたのにお菓子すらなくただ汽車に乗るのはごめんだった。
しかもそこにあるのは魔法のお菓子!
「全部ちょうだい!」
サキの隣の空いてるスペースにお菓子が山のように積み重なった。置ききれないので急遽トランクを一つおろしテーブル代わりにお菓子を並べた。
「食べようよ、みんなで」
「いいの?」
ロンが目を輝かせた。サキはどうしていいのかわからないという表情でその山を眺めていた。
「ハリー…君に今度なんかプレゼントしなきゃね」
「サキ、気にしないでよ。とにかく食べよう」
蛙チョコレート、百味ビーンズ、臓物キャンディ…今まで見たことないお菓子のラインナップにハリーとサキは大興奮だった。わいわいはしゃいで「これはなに?どういうの?なんで?」と聞いてくるハリーとサキにロンが一個一個そのお菓子の説明をしてやった。
百味ビーンズロシアンルーレットをしてるうちに窓の外の景色は美しい緑の平原から、色彩にかけた暗緑色の丘へ変わっていった。
三人が百味ビーンズに飽き飽きしてサキがやっと捕まえた蛙チョコレートの上半身にかぶりつき、ロンが最後に残ったゲロ味をなんとか魔法でイチゴ味にしようと杖を取り出した時、コンパートメントがノックされた。
すぐに丸顔の男の子と、気の強そうな栗色の髪の毛の女の子が入ってきた。女の子はもう制服を着てローブを羽織っていた。
「ネビルのヒキガエルが逃げちゃったの。…見かけなかった?」
ぎょっとした顔で自分の食べた蛙チョコレートが本物かどうか確かめるサキをみてハリーはちょこっと笑ってしまった。
「ごめん、見てないよ」
「そっか…」
ネビルと呼ばれた男の子は消沈した様子で俯いてしまった。
「魔法をかけるつもりだったの?見せてちょうだいよ」
女の子の方は蛙の安否にはあまり興味がないらしく、杖を持ったロンに話しかけた。
「…あー。うん、いいよ」
全然乗り気ではないロンが答えた。百味ビーンズに向かって杖を振る。
「はなげし、ひなげし。ピンクのローズ。この百味ビーンズをいちごにかえろ!」
冗談みたいな呪文を唱えるが、何も起こらない。
「クッソー。ジョージとフレッドのやつ!また適当な呪文教えたのかな」
「見た目は変わってないけどもしかしたら味変わってるかもよ?」
サキが百味ビーンズをロンに差し出す。信じられないなあという顔をしてロンがそれを口に放り込んだ途端、ウエーッと唸って吐き出した。
「正真正銘、ゲロ味!」
それを見て笑うサキとロンを女の子はふんと鼻で笑って自信たっぷりにいった。
「最高の魔法学校に入学するんだから、それなりに予習したほうがいいわ。私、教科書全部暗記したわ。それで足りるかしら…
私、ハーマイオニー・グレンジャー。あなた方は?」
「僕はロン・ウィーズリー」
「サキ・シンガー」
「ハリー・ポッター」
ハーマイオニー・グレンジャーもやはりハリーの名前を聞いて驚いた。
「本当なの?あなたの本、読んだわ」
「そんなのがあるの?」
「あるわよ。近代魔法史とか、20世紀の魔法大事件とか、細々とした論文でもあるみたい」
「すごい、ハーマイオニーって博識だね」
サキの言葉にちょっと頬を赤らめて、ハーマイオニーは咳払いした。
「とりあえず…私たちヒキガエルを探さないと。あなたたち、着替えたほうがいいわよ。もうすぐ着くはずだから」
ハーマイオニーはそう言い残すと、ネビルを連れてさっさと何処かへ行ってしまった。
「高飛車な子!僕、あいつと違う寮がいいな」
「僕はロンとサキと一緒のところがいい」
「私もー」
サキはそう笑いながら着替えを取り出そうと立ち上がった。たまたまカーブしたらしく汽車が大きく揺れた。
よたよたしながらカバンから制服を引っ張り出す。
いざ着替えようとするとまたコンパートメントがノックされ、返事する間も無く開かれた。
「のわーっ?!」
全く予想外の声がした。
しかもその主はたった今入ってきた少年、マダム・マルキンの店でハグリッドの悪口を言っていたやつだった。
何に驚いてるんだ?とその視線の先を追うと、サキがセーターを脱ぎ、ワイシャツのボタンをしめようとしてるところだった。
その隙間に見える下着に悲鳴をあげてたらしい。
…下着?
「サキ、君女の子だったの?!」
「へ?そうだけど…?」
ロンは目を覆って壁の方を向いていた。そういえば着替えようと荷物を降ろした時からロンは見えないように見せないように隅でごそごそと着替えてたっけ。
「と、と、兎に角はやくきろ!みっともない!」
入ってきた男の子は青白い顔を赤くして目を背けた。
「え、なにその反応…いやまあ元から急いでたけど」
納得いかないと言いたげにサキはきちんと制服姿になっていた。いつの間にか下も半ズボンからスカートになっている。
「サキ……もうちょっとさ…」
「えー、めんどくさいじゃないか。別に私は見られてもなにも」
男の子だと思い込んで接してた分困惑が大きい。まあ確かに見分けがつきにくいとはいえ女の子らしく目も大きくてまつげも長いし、女の子と思ってみれば女の子だった。
「ったく。がさつな女だな!」
照れてた乱入者はなんとか体裁を保とうと偉そうに言った。
少年の後ろにはえらくガタイのいい少年2人。真ん中の生意気な奴がボスだ。
「僕の名前はドラコ・マルフォイ。ダイアゴン横丁で会ったよな」
「うん…そうだったかな」
「友達は、選ぶべきだよ。ポッター君。僕でよければそれを教えてあげるよ」
サキとロンを交互に見た後、マルフォイは手を差し出してきた。
「友達くらい自分で決めるよ。どうもお世話様」
ハリーのとげとげしい言葉にドラコが怒ったのを肌で感じた。二人の間に緊張が走る。
サキは珍しいものを見るようにぼけーっとその様子を眺めていた。
「そうそう、そこの赤毛はウィーズリーの子だろ。代々血を裏切るものを輩出する純血の恥だとかいう、落ちこぼれの…」
その言葉にロンが爆発しそうになった。しかしまさにロンがキレるその瞬間に、サキが突如立ち上がった。
「ちょっと、君さあ!」
不意をつかれた形になり、ドラコは言葉を飲み込んでサキをみた。
「着替え中に入ってきたのに謝らないのはどうかと思う!」
「いま?!」
どうやらサキはずっとモヤモヤしてたらしい。いやそれにしても今言うことではないが。
「しかもガサツって!違うからね。孤児院だとこれが普通だったの…!なのにさあーガサツって!」
「わ、わる…悪かったよ…」
よくわからないキレ方をしているサキにどうすればいいかわからず、マルフォイは思わず謝った。
それで怒りは収まったらしく、ため息をついてサキは着席した。
すっかり喧嘩の空気は散ってしまった。
「チッ…行くぞクラッブ、ゴイル。こいつらといるとバカがうつりそうだからな」
「バカって…」
巻き添えを食らった気分だったが、特に何事も起きず三人が去ってくれてホッとした。
サキはまだ不服げだ。
「サキ、追っ払ってくれてありがとう」
「いいけど…ハリー。私のこと男だと思ってた?」
「ご、ごめん」
サキはにがーい顔をして残りのお菓子を摘んだ。
話をしながらお菓子を片付けていると、車内に声が響いた。
「あと5分でホグワーツに到着します」
三人揃って車窓に顔を貼り付けた。
景色は森、森、森だった。